Q:オーストラリアにおいていろいろ仕事があると思いますが、実際日本人が就く職業はどれくらい給料がでるのでしょうか。具体的な職業における具体的な金額を求人情報や実例を含めておしえてくだされば幸いです。
オーストラリアの就職関係は、
「シドニーで仕事を探す方法」にまとめて書いていますので、本格的にはそちらをご参照ください。ここでは概略のみを。
日本人の職種の概要
海外就職には、大きく三つのハードル=ビザ×語学力×就職機会(ニーズとチャンス)があると思います。就労可能のビザを取る難しさ、その土地の言語を身につける難しさ、そして求人ニーズがあるか、そのチャンスをどう掴むかという就労機会の問題です。それぞれに強敵です。
オーストラリアにおける日本人の就職といっても、業種や職種によって千差万別なのですが、それはこの3つのハードルのどこが高くてどこが低いかという問題に分解できると思います。
例えば、IT系や、シェフ、美容師、看護士、整備士など手に職系の人たちならば、英語が微妙な部分は専門技術でカバーするという方法が取りやすいです(そうはいっても、それなりにハイレベルの英語力は必要とされますが)。逆に、英語力があり、且つビザ面でも強かったら(既に永住権を持っているとか)、普通のキャリアとスキルの問題や、市場の需給バランスの問題に還元されていくでしょう。
特殊専門技術もなく、また英語力もビザもそれほど万全ではない場合、ではどうするかといえば、日本語や日本のビジネス慣行に習熟している等の
「日本リテラシー」で勝負していく場合が多いです。ここでは日本語が喋れること、日本を知っていること自体が「専門技術」になりますので、日本人は絶対有利ですし、その有利性が強い職場であるほど、英語やビザの弱点をフォローしてくれることになります。
このように、同じ日本人といっても、その人の特技やビザ状況、英語力によって状況はいろいろと変わってくるわけです。
日本語が武器になる職種といえば(手に職系を除いて)、日本人と関係のある業種になります。これまで日本人が多く就職していた業界は、観光業界(免税店、ツアーオペレーター、ツアーコンサルタント、航空会社、ツアーガイド、ホテル、日本食レストラン等)、日系企業の支店での現地採用、日本語教師、日本人経営の語学学校や留学センターのスタッフなどでしょう。
ただし、これらについてはいずれも悲しいことにかなり凋落傾向にあると思います。
このあたりの概要については、
シドニーで仕事を探す方法/第二章「日本リテラシー」の市場価値をごらん下さい。
大きく伸びたオーストラリアの給与水準
給与水準ですが、もちろんポジションによって開きがありますが、オーストラリアの賃金水準はほぼ一貫して上がり続けており、過去の2013年の更新時点で日本よりも遙かに高くなっていました。
例えば、当時のMyCareeaという就職サイト(現在は閉鎖)のデータによれば、2012-3年の平均年収の推移は86K〜98K(K=1000の意味で年収98Kは9万8000ドル)であり、日本円に換算するとドル100円換算で平均年収860-980万円、ドル80円換算でこの8掛けです。この項を最初に書いた1997年時点では
「フルタイムの平社員レベルでだいたい年収2万5千ドルくらいから3万ドルくらいで、マネージャークラスで3万5千ドルから4万5千ドルくらい。年収5万ドルといったら、こっちではかなりの高給取りというイメージです」などと書いていたのですから、いかに伸びているかです。逆に言えばいかに日本が伸びていないかでもあるのだけど。
したがって、その日本人が、これら現地のオージーと対等に張り合ってローカルの仕事をゲットできているならば、給与水準も上と同様になっているでしょう。
停滞してる最近の状況〜2018年段階
ちなみに2018年01月現在で書きますと、ここ数年、オーストラリアの賃金の伸びは鈍化してます。リーマンショックを免れた唯一の先進国だったオーストラリアも、世界全体を覆う先進国の伸び悩み(成長限界)の波を受けている感じです。
そうはいっても、就職サイトである
Indeedの年収データーを見ると(いろいろあるので見て回るといいです)、以下のような感じです。
この表は、Indeedという人材会社の過去のデーターから、この会社では平均してこのくらいサラリーが出ているというものを会社別に示したものです。トータルでいえば、鈍化したといえども、年収9万ドル以上(850万円くらい)は出ていることがわかります。
しかし、上は、英語にもビザにも問題がないオーストラリア人(or永住者)の場合であって、「外国人労働者」である我々=英語&ビザ&就職チャンス(ニーズ)などのどこかに難がある場合は、このとおりには進まず、どこかで労働条件や給与水準も劣化せざるをえません。
とりあえず職歴(らしきもの)を付けるために行うインターンなどの場合は、働く経験は出来るのですけど、給与はゼロです。しかし、ここでオージー並の給与を求めてしまうと、そもそも「就職できない」ということになってしまう。だからそこは需給バランスであり、個々人の努力次第と言わざるを得ないです。
カジュアルなバイトでも、日本レストランだと総じて給与は低めで時給10ドルというところも普通にある反面(2017年頃から平均で15ドルくらい出るようになってます)、ローカルのカジュアル仕事ならば時給20ドル以上が普通です。というかカジュアル職の最低時給が(一概には言えないが)約22ドルですので、それ以下ってことは少ないでしょう(もっとも税金引かれるから手取りは少ないですけど)。少なくとも広告段階でそんなこと書いたらマズイです。
僕が日頃お世話している留学生&ワーホリさんも、最初は不慣れだから日本人という絶対的な強みを活かしてジャパレス仕事の時給十数ドル前後くらいからスタートしますが、これが順調に伸びて、特にラウンドなど「ローカル仕事しかない」環境で数ヶ月揉まれてきたら慣れてきますから、時給25ドルでも、週末などに割増賃金(=「ペナルティ」という、罰則の意味ではない)が付かないから「やってられませんよ」とか不満を言う人もいます。
このあたりは残酷なくらい実力主義ですし、需給バランスがモロに出てきます。
以上を整理すると、
(1)
一律に「オーストラリアの日本人の給与は幾らか」と考えてもあまり意味はない
(2)
ローカル並にマトモにやれるならば日本の二倍くらいもらっていても不思議ではない
(3)しかし、
その「マトモにやる」というのがかなり難しいから、総じて安めに甘んじてる傾向がある
ということですね。
日本人だって、こちらにくれば「外国人労働者」になるわけで、あらゆる点でネィティブよりも不利になるのは、それは日本の外国人労働者の皆さんと同じです。
経済的整合性と給与水準が全てではないこと
ところで1997年初稿時のこのコラムは、「いかにオーストラリアの給料が安いか」というテーマで書いてました。
それも「愕然とするほど少ない、というか超貧乏になりそうな気がしませんか?」などと書いていたのです。
実際、僕にしても、話を聞いて「げ、そんなに安いの?」と思って働くのが馬鹿馬鹿しくなったくらいですもんね(^_^)。
それが、ああ、それが、2000年頃を境にして話はまったく逆転し、今はその差は開く一方です。
でも、これって経済的に言えば、なるほどと帳尻は合っているのだと思います。
日本が経済的に強力で、誰もが普通に金持ちだった時代には、皆さん余裕でオーストラリアに来てジャカジャカお金を使っていたからこそ、観光客といえば日本人であり、だからこそ日本語が出来ると観光業界で就職しやすかったという因果関係になるのです。また、オーストラリアも日本人顧客をターゲットにするからこそ日本語学習がブームになり、日本語教師の職もあったわけです。企業も強く、金余りと言われていたくらいですから、見栄を張るかのように海外支店を増設し駐在員さんを送り込んだからこそ、現地の駐在さんを顧客とした日系ビジネスも成り立ったわけです。
つまり
日本が強かったからこそ、オーストラリアにおいても日本人の就職先は結構あった。しかし、
日本が強い分相対的にオーストラリアは弱いから、オーストラリアで給料を貰っても、「え、これだけ?」みたいに少なかったということですね。
この点本当に良くできているのですよ。仕事を得やすいときは給与も安い、仕事が得にくいときは給与は高い。
もっと身も蓋もない言い方をすれば、お金というのはお金持ちにまとわりついてなんぼって側面があります。貧乏人とつきあっててもいいことがないという。ほんとミもフタもないな(^_^)。その昔は、日本人がお金持ちだったから、日本人にまとわりついていたらお金が稼げたわけです。だから日系職種(日本語系やら観光系やら)が賑わっていた。だからいかに日本人に近づくかがポイントだった。しかし、相対的に日本人がビンボーになってしまったら、日本人に関わっていたらこっちまでビンボーになるということで、いかに日本人から離れるかが決め手になったりするわけです。
例えば、日本料理店でも、日本人の舌に合う本格的な日本料理を、手間暇ひかけて誠実に作っていても、やれ「生魚は気持ち悪い」だの、味付け濃すぎて素材の味もへったくれもないようなテリヤキ・チキンをうれしそうに食べるオージーの舌に合わせた方が儲かるわけです。特に数から言えば完全にマジョリティになっている中国人客に合わせるのが大事です。でもって、見てても彼らは滅茶苦茶よく食べるし(なんか僕らの倍くらい食べてそう)、それに金回りもいいです。「これ少ないけど」でチップでポンと300ドル渡したり(実話)。いまどきそれだけ大盤振る舞い出来る日本人客は少ないでしょう。
このあたりは本当に「今昔物語」の世界で、奢れる日本人は久しからずです。でも歴史はめぐるから、いずれ奢れる中国人はってことになるでしょうけどね。良し悪しではなく、それが世の中の流れというものだということです。
こういった経済原理は、なるほど理屈が通ってますけど、しかし理屈が通ればそれでええんか?という気分もありますよね。給与水準が高ければ良くて、低ければダメだと一律に決まったものではないです。他にもファクターは沢山あります。
例えば給与水準が高くても物価水準がもっと高かったら、相対的に生活はむしろ苦しくなります。オーストラリアの給与はかなり上昇しましたが同時に物価も高騰しています。単純に住みやすいかどうかでいえば、むしろ「昔は良かった」的な感慨を抱くのですね。有料道路の通行料金の新設&値上がりなんか「冗談だろ?」というくらい上がってます。まさに英語でいう「スカイロケット」って感じ。
97年初稿時に福島が執筆した部分には以下の下りがあります。
私(福島)の場合、日本からこちらに移住してきて、日本でもらっていた給料のざっと半額になりました。それでも生活の質はあがりました。別に贅沢三昧できるようになったという意味ではなく、広くて快適な部屋に住み、おいしい食事がお腹いっぱい食べられて、仕事上のストレスや残業がほとんどなくなったということです。実際、食材は安いので、食費に関しては日本の数分の1で済むでしょう。シドニーの家賃は安くはありませんが、日本で支払っていたのと同じだけ出せば、広ーい家に住めます。仕事は日本社会のようなうっとーしさはないし、残業もほとんどないので(ある会社もありますから一概には言えませんが)、かなり規則正しい健康的な生活が出来るわけです。
結果的に、ストレスがたまらないので、カラオケやら飲み代に消えていた交際費・夜遊び代がほぼゼロになりました。ファッションも流行というものがないので、自分の気に入った服を好きに来ていればいいので、洋服も滅多に買わなくなりました。週末のレジャー費用もかからないし(ガソリン代だけで近所の気持ちのいい公園に行ける)、病気になっても国民保険で85%カバーされています。質素に生活しようと思えば、年収3万ドルでもそれなりに貯金もできます。
というわけで、この国では収入が少なくても十分豊かに暮らしていけるわけです。
このように
生活のしやすさ、楽しさは、必ずも給与水準によって決まるものではないです。
それに、普通に考えたら分かるのですが、
その国で稼いで、その国で使うのであれば、どこの国であれ、大雑把には似たような感じになっていくのではないでしょうか?言うならば物価水準=給与水準ですからね。
これは、その国の社会システムが合理的&妥当であればあるほどそうでしょう。逆にめちゃくちゃ理不尽な社会の場合=一部の貴族+大多数の奴隷階級だけみたいな=、割を食ってる階層は「じっと手を見る」ことになります。オーストラリアは、世界的にみれば、かなり「まとも」な社会ですから、物価水準=賃金水準の原理はおおむね貫かれていると思います。
一方、日本で稼いでこちらで使うとか、あるいはその逆とかであるなら、物価や賃金「水準」というものが大きな意味をもってきます。二つ以上の異なる「水準」を股にかけるわけですから、そこれはもう貿易商人並の緻密な観察眼が必要です。
しかし、同じ場所で稼いで&同じ場所で遣うのであれば、総じて「似たり寄ったり」に落ち着いてくると思います。長期的に暮らすようになればなるほど、そうだと思います。
そうなってくると、
長期滞在(永住)などをお考えの場合、給与や物価水準ではなく、問題は「暮らしやすさ」であり、さらに言えば暮らしやすさの「方向性」「性格」だと思います。
つまり、同じ
「暮らしやすい」といっても、
全てが便利に整っているというコンビニ的な利便性をもって「暮らしやすい」と感じる人もいれば、
自然や人情が豊富であることをもって「暮らしやすい」と感じる人もいるでしょう。
近所にコンビニがないと文句を言う人、近所に自然がないとイヤな人、そのあたりは個々人の趣味の問題です。
この種の経済話の面白いのは、突き詰めて考えていくうちに経済の枠からはみ出て、結局は単なる「好き嫌い」の話になっていったり、人生哲学の問題になっていったりします。
そして、それは当然のことだと思います。なぜなら人間というのは金勘定をするために生まれてきたわけではないのですから。お金を稼いで、遣って、そんでどうなりたいの?どうなったらOKだと思うの?でしょう。その合否ラインを決める採点官は他ならぬあなたですから、あなたが自分のライフスタイル、自分の幸福、自分の生き方をどう規定するかで、答も180度変わってくるでしょう。
削ぎ落とされた日本人メリットの本質
話を再び日本人就職に戻しますと、日本が経済的に豊かだったという点に起因する職は減り続けているし、今後も増えない可能性が高いです。
しかし絶望するのはまだ早いのですな。
一つは、日本が経済的に豊かというよりも、日本の観光資源を世界の人たちが気づいてきたので、そこが新たなビジネスチャンスになっているという点です。例えばニセコなんか、もうオーストラリアの植民地みたいな感じになって久しいですが、その関連で仕事はあるだろう。日本現地にもあるだろうが、オーストラリア人を日本に送り込むアウトバウンドとしてオーストラリア国内にも新たなニーズが出来るかもしれない。また、単なる観光業界の話ではなく、そこを拠点としてオーストラリア人がなんらかのビジネスをやるような場合(例えば長期滞在のオーストラリア人客を対象にしたエステを開くとか、スキーで捻挫する人のためのオーストラリア専用のフィジオが行くとか、日本現地の不動産投資を考えているオーストラリア人とか)もあると。
もう一つは、これが本質的な点ですが、日本リテラシーの有効性が薄くなったとしても、なおも日本人には「仕事を真面目にやる」「きちんとしてる」という伝家の宝刀的な部分があります。
これは永住権戦略でも述べましたが、仕事をゲットするまでは大変なんだけど、いったんゲットしてしまえば、世界平均の労働者水準からすれば日本人の真面目さは気に入られる可能性が高く、そこは今なお大きな武器になってると思いますよ。もちろん、職種によりけり、エンプロイヤー(雇用主)によりけりですけど。
さらに関連:オーストラリア移住に関するもの
オーストラリア移住について INDEX
第一の関門:VISA
ビザの原理原則/技術独立移住永住権/頻繁に変わるビザ規定/専門業者さん/その他の永住権/永住権以外の労働できるビザ
第二の関門:生計
ビザ用のスキルと生計用のスキル/「日本人」というスキル/世界のオキテ/オーストラリア仕事探しサイト内リンク
戦略と戦術(その1)
フォーマット設定/欲望のディレクトリ〜永住権だけが全てではない、手段と目的を明瞭に意識すべし
戦略と戦術(その2) よくある基本パターンと組み合わせ
永住権優先でいくか、ステップアップ方式でいくか/「はじめの一歩」をどうするか/利益衡量/ストレート永住権の場合の具体的戦略/ステップアップ方式の場合の具体的戦略〜意外と使えるワーホリビザ/ダメだった場合〜あなたにとっての「成功」とは何か?/先のことは分からない/
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