1.就職/採用/労働のシステムが日本とは全然違うこと
こちらの採用(就職)は完全に職歴重視です。日本で当たり前に最大の就職機会である「新卒採用」というものはありません。ですのでオーストラリアの大学を頑張って卒業しても、日本のように新卒採用が待ってくれているわけではないです。
そもそも「企業」の概念自体が違う。
日本の場合、企業は「人間集団」であると思ってます。そのなかでもゲゼルシャフト(軍隊のような機能集団)よりも、よりゲマインシャフト(コミュニティのような共同体)であるとする傾向が強いです。「家族も同然」「仲間」って感じですね。これは分かると思います。
ところが西欧圏の場合、企業というのは人間集団というよりも「機械」くらいに思っているフシがあります。金儲けマシンです。基本的に職場での人間関係は薄いし(飲み会もせいぜい年に一回のクリスマスパーティくらい)、人の出入りもかなり激しいです。3年経ったら、上から下まで全員総取っ替えになっていたりします。
これが就職にどう影響するかというと、日本の家族的企業の場合は、就職というのは「新しい仲間を迎え入れる」ことであり、「新入生募集」という部活の勧誘のようなフォーマットになる。だからこそ、人柄重視(職歴無視)の新卒採用という、世界的にみれば"不思議な"ことをやっている。つまりは、ある程度実務処理をこなせる程度の知的能力があり(だからこそ偏差値の高い大学は有利)、且つ素直に「当社の色に染まってくれる」未経験者の方がやりやすいです。いくら有能でも、癖が強すぎて、職場に波風を立てすぎる人材は嫌われる。
それはそれで日本企業の良さであり強さだと思います。また、そのことの当否感想を述べるのは本稿の目的ではないです。
ここでは「違う」ということを押えてください。
メカニズム的企業観をもつこちらの就職/採用とはなにか?
それはもう端的に、
「部品の交換」くらいに思っていていいと思います。
部品の交換だから、ボルトでも1ミリ違っただけでもうダメなのと同様、その要求水準は精密です。
仮に「IT系で仕事をしていました」といっても、ITの業種/職種は無数にあるのであり、そのうちのどの分野を、どの程度の規模で、具体的にはどういう内容の職務を、どの程度の期間行い、そして会社への貢献度はどの程度であるかを事細かに求めます。ちょっと違うだけで、"Unfortunately...."(「残念ながら」という悪い知らせのときに必ず冒頭に出てくる常套句)という、「いつもの不幸の手紙」がやってきたりします。すごい細かい。
そうなると、論理必然的に完全に職歴重視になっていくわけです。キャリアがなかったら就職できない。
なぜなら、職歴=キャリアというのは、あなたがどういう部品かを示す証拠になるからであり、職歴がなければどういう部品かもわからないし、そもそも部品であるかどうかも分からない。そして、それが一方的な申告ではない証拠に、前の職場からの「リファレンス・レター(彼はこういう人物でこういう仕事をしたという、他人が書いた部分的な履歴書)」を求められたりもします。
とりあえず良さげな素材をスカウトしてきて、あとは会社の中で徹底的に教えて一人前にしていくという日本的な採用ではない。それは例えば、ボルトを買う代りに、金属のカタマリを買ってきて、自分でボルトを作るようなものです。そんな悠長なことをこちらの企業はしない。日本でも段々しなくなってると聞きますが。
ゆえに学歴だけ重ねてもそれだけでは意味がないです。
学歴に意味があるのではなく、そこで学んだ専門知識/資格(スキル)に意味があり、且つその意味を十全たるものにするためには、それを活用した職歴がやっぱり必要なんです。
そうなると悪夢のニワトリ=タマゴになります。
仕事をしないと職歴は得られない。しかし職歴がなければ仕事を得られないという。
西欧においては、最初の一件目が死ぬほど難しいです。永住権取ったあとでも、なっかなか見つからない。求職1年以上、1000連敗って話も聞いたこともあります。しかし、一件でも取ってしまえば、それがキャリアになりますから、そこから雪だるまのようにゴロゴロ転がしていくウチに、スタンプカードにスタンプが貯まるようにどんどんやりやすくなる。
これを労働者の側からいえば、とある具体的な就職というものは、いかにスタンプカードにスタンプを押すかです。いかに自分の履歴書に麗々しくキャリアと書けるものを増やすかです。したがって、入っては見たものの、思ってたのと違った仕事になった場合、履歴書は充実しませんから、びっくりするくらいあっさり辞めたりします。
インターンとは
日本でも最近話題のインターンというのは、このニワトリ=タマゴを打破するためにあります。とりあえず目指す業界に、なんでもいいから食らいつきます。最初は見学でもいいし、バイトでもいい。とにかくその現場に立って、知り合いを増やし、少しでも実戦経験を積み、経験分野を増やす。やればやるほど履歴書に書ける。
しかし、基本的に経験が極めて少なく能力的にはゼロに近いので、そこで適正な賃金を要求したら誰も雇ってくれないので「無給でもいいです。経験させてください」と持ちかけるものです。これがインターンです。スタンプ(履歴書にかける職歴)と給料がバーター(交換)になっているものだと考えると分かりやすいかと思います。
その意味で、日本の就活におけるインターンとは多少(かなり)意味合いが異なります。日本の場合は、人材のミスマッチを事前に防ぐという「お試し入社」的なニュアンスが強いです。「会社訪問×試用期間の先取り」みたいな感じですけど、こちらの場合は、インターンをしたこと自体をキャリアという武器に置き換えていく作業です。
「押しかけ丁稚奉公」みたいなものです。押しかけてなんぼ。したがって、インターンをやる前に、ターゲットとなる業界や戦略を練っておく必要があり、それもしないで闇雲にやっても「とりあえず経験した」以上の意味はないでしょう。
★インターンについてより突っこんだ話は
「オーストラリアにおけるボランティアとインターン概論(日本語教師アシスタント)」をどうぞ
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