4.考え方のフォーマット
さて2で海外における日本人/日本の市場価値を、3でオーストラリアの状況を見ました。
しかし、これらはあくまでも一般論でしかありません。
一般論は一般論として大事だとは思いますが、一般論を美しく完結させることがここでの最終目的ではありません。卒論書いているわけではないのですから。
あなたがオーストラリアで良い就職が出来るかどうか?
こそが唯一絶対の目的でした。
さて、その実戦的な前提で考えてみた場合、幾つか注意すべき点があると思います。
(1)一般論を過大に考えない〜自分一人の職が見つかれば良い
個人一人がどこかに就職する場合、別に大きな業界論とか情勢論とは関係なく決まってしまうことだって幾らでもあります。というかそっちの方がずっと多いでしょう。
話を日本に置き換えてみたら分かりやすいと思うのですが、日本にも「斜陽産業」といわれる業界があります。しかし、斜陽と言われつつも毎年それなりに求人はあるし、リアルタイムに何十万人も働いているわけです。それは経済評論的・一般論的に言えば斜陽かもしれないけど、一般論的にダメだからといって、全てが瞬時に消滅するわけもないのです。当たり前です。
さきに「日本語教師で稼ぐ可能性は非常に低い」と書きましたが、つい先日も、ワーホリで来ている人が「日本語教えます」という貼り紙をしたらしっかり電話がかかってきて稼げたそうです。1時間40ドルで。もちろんこれで「生計」というのは難しいでしょうが、別にゼロではないのですよ。統計的なマクロでいえば限りなくゼロに近かろうが、自分がそれで成り立てばそれでOKであるのです。
つまり、トレンドが全てではないです。
○○業界はもう絶望といっても、一つくらい席は空いているかもしれない。そういう認識が広まったら誰も応募しないから逆に競争率が低くなるということもありうる。
ここで、そんなお先真っ暗な業界に入っても意味がないと思われるかもしれませんが、意味はあります。一つは、そうなるとは限らないことです。今を時めくアップル社だって、いっときはWindowsに押されて「もうダメ」「マニアック過ぎるから天下は取れない」とか言われてたんですからね。
それに潰れたら潰れたでいいんですよ。なぜかといえば、それまでにそこに所属すれば、冒頭で述べた貴重な「職歴」をゲットすることが出来るのです。こちらの良いところは、一発で最高を狙う必要がないことです。とりあえず職歴ゲットで何でもいいから始めて、そこからさらに上がっていくということが出来るし、それは正道だということです。だから、入った途端に半年で潰れたとしても、その半年分の職歴キャリアはつきます(給料も出るし)。その半年間、虚しく空振り続きの求職活動を続けているよりはマシだと思いませんか?
それに「良い職場/就職」というのは、業種・職種とは関係なく、人間関係や場の雰囲気が良いことが最大のポイントだったりもするでしょう?
ということで、一般論はあくまで一般論くらいに距離を置いておかれるのがよろしいかと思います。
(2)一般論(トレンド)は大きく、柔軟に見ておく
一般的なトレンドを考える場合にも、「○○業界はもうダメ」とか金科玉条に思いこみすぎない方が良いと思います。もっと大きく、もっと柔軟に。
なぜなら2,3で書いた概況も、おそらくは語られるそばから古くなっていくでしょう。だから固定的に思う必要はないし、思ってもいけないと思います。
「将来的な成長分野」というのは、裏を返せば「今は殆ど見えていない分野」でもあります。誰もやろうとしない、誰も気づかないからこそ穴場であり、成長余力があるとも言える。それを巧みに見つけて自分で起業するという方策もあるでしょう。また、あなたがやろうと思った時点で、既に誰かがどこかでガンガンやっているでしょうから、仲間に入れて貰うという手もあります。
ということで、アンテナ張りめぐらせて、他人から聞いて「そうか」と鵜呑みにするだけではなく、自分で「○○ってのはどうだ?」と考え、自分でどんどん調べていくと良いと思います。色々な角度でもモノを考えていく癖をつけておくと、思わぬ所にチャンスが転がっているのを見つけることは出来るかもしれません。「Aしかない」と思いこんでたら、もうA以外の話には見向きもしないでしょうが、BやCが意外と有望筋に化けることもあるわけです。
その際にも、大きな戦略眼というか「だから世の中こうなってるのね」という地形が見えていると有利だと思います。一般論の効用というのは、実はココにあるのだと思います。一般論で言われている結論部分ではなく、その結論を導き出すロジックやモノの見え方でしょう。
(3)何か特定の事がしたいのか?それとも生計を立てたいのか?
(A)オーストラリアで○○という仕事をしてみたいという明確な目標を持っているのか、それとも特に「これでなければ!」というこだわりや目的意識はなく、(B)まずまず順当に就職できて、収入や生計が安定すればよいのか。
この二点については、意識的にハッキリと峻別しておかれるといいと思います。
なぜなら(A)の場合=例えば日本のプロ野球の選手がアメリカの大リーグに挑戦するような場合ですが、海外や日本人の就職状況などという一般論なんかどうでもいいです。必要なのはその業界の攻略法であり、それに尽きます。過去にこの分野にいった日本人が一人もいなくても、「だったら俺が一番乗りだ」だと思えばいいだけですし。
しかし(B)の場合は、ある意味、仕事なんか何でも良いわけです。職種や業種に過度にこだわることなく、広く浅く360度視界で探していくことになります。全然経験がなく、また興味もないような仕事であっても、チャンスがあったら取りあえず掴んでおく。とにかく何でもいいから最初の一歩の現地での職歴をゲットしたいですからね。それにやってみたら意外と面白かったということもあるかもしれないし、予想通りしょーもなかったらすぐに辞めてもいいだろうし、あるいは勤めながら職探しを続けていればいいです。何でも良いことは、本当に何でも良いのです。そのあたりスパッと割り切った方がいいと思います。
ただし、(A)と(B)両方持ってる場合もあります。本当は○○という分野で思いっきり自分の力を試したい、だけど当面先立つものが必要なので、それに強くこだわってる余裕もないという場合です。これはありうるでしょう。その場合は、AならA的な攻略(つまり業界攻略法をずっと研究し、アタックし続ける)をやりながら、BについてはやはりB的にパキンと割り切ってとりあえず何でもやってみるという。同時並行で走らせるわけです。
問題なのは、「日本で○○(例えば経理、例えば広告など)の仕事をやってきたので、オーストラリアでもその仕事をしたい」という場合です。こちらの社会でキャリア重視で、出来れば収入も多い方がいいから、これまでのキャリアを活かして(例えば)経理方面の仕事を探したいという。それ自体はよくある話ですし、「何が悪いの?」と思われるかもしれませんが、問題は、それってA的な意味で言っているのか、B的な意味で言ってるのか、本人もよく分かってなかったりする点です。
大リーグ挑戦のように「経理が出来ないならオーストラリアに来る意味がない!」というくらい経理が好きで打ち込んでいるなら話はAで簡単です。でも、過去の職歴を活かした方が仕事が見つけやすいだろうし、また給料も良いだろうという一般的な可能性の高さだけが理由ならば、その本質はBでしょう。つまり経理でなくても何でも良い。そこでは有利かどうかが問題なのですから、別に経理でなくても、現実に良い職が見つかるのであればそれに越したことはない。でもそこまで詰めて考えず、単純に経理しかやったことないから、それ以外の可能性はないと思いこんでしまうのは、明らかに損だと思います。
第2章でも書きましたが、僕らにはこれまでの職歴に基づく特殊技能(例えば経理)以上に、「日本人」というもの凄い特殊技能があるのであり、どちらを重視して買い求めるかは、それはもうお客さん(雇用主)の自由です。また、ニセコや白馬にオージーが大挙して詰めかけている現状では、「スキーが上手」「北海道出身」という日本の就職市場ではおよそポイントになりそうもないことが意外とポイントになるかもしれない。そういえば外国人観光客に人気なのは東京、京都の定番の他に、飛騨高山(白川郷とか)、そして意外にも安芸の宮島らしいです。水中に鳥居が建ってるのが嬉しいらしいです。だからわからんのですよ、何が受けるのか。勝手に自分で「○○はダメだ」なんて思いこまない方がいいです。
(4)「売り方」「参加の仕方」を考える
第二章で書いたように、僕ら日本人は一個の労働力として考えた場合、世界基準からしてそうそう劣らぬ品質を誇ります。しかし、総じて「売り方」がヘタだという気がします。ヘタというよりも、真剣に分析、研究されていないと言った方が良いでしょうか。
売り方とは何か?
要は「商品」(自分と自分の能力)を、市場に持って行って、店先に並べて、客と交渉して話を決める一連の活動です。
具体的に言えば、まず市場に持って行かねばならない。オーストラリアならオーストラリアの労働市場に出品しなければならないのですが、ここで大事な問題は
ビザです。ビザがなければオーストラリアに適法に存在できない、適法に労働できないわけですから、そもそも商品たりえないし、市場に出品もできない。ゆえにビザをどうするか問題が巨大な壁として立ちはだかるわけです。
第二に、それだけの性能があったとしてもそれをユーザーに伝えねばならないし、ユーザーが使いやすくあらねばならない。ここで言語の問題がドーンと出てきます。オーストラリアの場合は英語ですが、英語が出来ないと話にならないということです。喩えていえば、ここに非常に優秀な製品があるとします。携帯電話でもデジカメでもなんでもいいです。でも、その表示もマニュアルもアラビア語でしか書かれてなかったら、アラビア語圏以外では売れないでしょう。オーストラリアの場合は、ユーザー(雇用者)は大体において英語話者でしょうから、彼らにとって使いやすくなければならない。それはオーストラリア文化への精通とか色々あるでしょうが、まずもって語学でしょう。言葉が通じなければ商品価値は激減します。
海外(オーストラリア)での仕事論というのは、実は、ビザ+英語+就活の成功という三位一体方式になっており、さらにその実質をみれば、ビザと英語の困難度だけで全体の80%くらいを占めるといってもいいと思います。だから、就職話だけを幾らやっても虚しい部分もあるし、ビザと語学力がどうなのかによって就職のレベルも難易度もガラリと変わるといってもいいです。
以下、ビザと英語力について述べます。
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