シドニー生活雑記帳/STORAGE




オージーの仕事観を探る






    よく言われることだが、日本人は働きすぎで、オージーは怠け者だという。いやあ、確かにその通り、オージーは日本人みたいに必死こいて残業しないし、休暇もきっちり取る。私の経験から言っても、オージーの”仕事に対する気合の入れ方”は日本人に比べればかなり軟弱だと思う。
    だけど、単純に「オージー=レイジー」と言い切れないような、仕事観、ひいては人生観にまでつながる深いものがあるような気がするのである。
    今日は、このあたりを考察してみようと思う。


    オーストラリアの職場において特筆すべきことを挙げながら、彼らの仕事観とその背景にあるものを探ってみよう。

1)時間にルーズである。

    おおっぴらな遅刻はあまりないが(そういう時は電話でエクスキューズを伝える)、10分程度の遅刻は日常茶飯である。取引き先も約束の時間ピッタリに現れることはあまりないし、訪問される側もそれを期待していない。これは車社会だからという説もあり、「車は道路事情によって所要時間が変わるものだから、15分程度の遅刻は仕方がないもの」という社会的コンセンサスがあるのだ、という話を聞いたことがある。しかし、問題は車に限らない。道路事情に左右されないハズの電車でさえ、「所要時間未定」なのだ。

    以前8ヵ月ほど電車通勤をしていたが、電車のいい加減さにはほとほと呆れかえっていた。5分程度の遅れは当たり前。厄介なのは時々早めに到着して、そのまま早めに出発してしまうこと。ほんで次の電車が遅れたりするもんだから、2重に遅れる。朝はほとんど毎日、セントラル駅の直前で電車が停まる。最初は信号停止かと思っていたが、そうではない。通常、セントラル駅で運転手が交代するのだが、交代する予定の運転手が遅刻すれば、その分遅れ、後から定時にやってきた電車まで遅れ続けることになる。また運転手が突然休暇をとれば、その電車丸ごと運行されないという噂もある。だとすれば、ピンチヒッターという体制は殆ど浸透してないことになろうし(あるのかもしれないが瞬時に対応できていないことは確か。実用的には役に立っていないことになる)、そもそも定刻通りに電車を運行させることが、さほど重要なこととは思っていないんじゃないかとすら思われる。
    一度、セントラル駅で「この電車は20分間ここに停車します」とのアナウンスが入ったことがあった。急ぐなら他の電車に乗り換えることもできるし、バスに乗り換えることもできる。でも人々はのんびり新聞なんか読んだりしてくつろいでいるのだった。乗客も「車通勤の人だってよく遅刻するんだし、別にいいじゃん。それより勤務時間が減ってラッキー」くらいに思っているのだろうか。客のその寛容さがまた遅延を招いているのではなかろうか。

    一方、この現状に怒りをぶちまけている投書も新聞で読んだことがあるので、全員がOKとは思っていないのだろう(そりゃそうだろうな)。では何故改善されないかというと、その投書の人がいみじくも結論づけてたように、「環境を考えてマイカー通勤は控えていたが、そろそろ真剣に車の購入を検討しなくてはならなくなるだろう」ということで、耐え切れない人は車でいくのだろう。その結果、電車の採算性はさらに悪化し、人件費も設備投資もままならず、道路渋滞だけが広がっていくという悪循環なのかもしれない。

2)終業時刻は厳守する。

    そんなわけで、皆さん時間にはかなりルーズである。じゃあ、終業時刻もルーズなのかといえば、そんなことはなくて、5時なら5時カッキリに帰っていく。どんなに忙しくても、明日から出張でも、例外なく5時には会社を出るのである。彼らが「See you all, tomorrow!」と言った瞬間、時計を見れば、毎日間違いなく5時5秒過ぎから15秒過ぎの間・・・。
    どうやらこれは私が勤めた会社がたまたまそうだっただけではないらしい。その証拠にシティ内のビルのエレベーターは5時過ぎには大層混み合うが、5時10分過ぎにはかなり空いているという。

    プライベートライフ重視型の生活スタイルだからだ、とよく言われる。しかし、ただ単純にオージーが怠惰だから仕事嫌いで早く遊びたくて仕方ないというだけでもないだろう。また、残業手当のつかない会社も結構あることも要因の一つだとは思う。が、それでもサービス残業は1分たりともしないという毅然とした姿勢にはもっと深い理由があるに違いない。その他の理由を考えてみよう。

    1つには女性の社会進出。性別による差別は違法なので(「女性社員募集」という広告も違法)、女性も男性と同等に働いているし、昇進もする。小さな子供を持つお母さんも子供をベビーシッターや保育園に預けながら仕事している。忙しいお母さんたちが男性と遜色なく働こうとしたら、5時以降の付き合いや残業度合いが仕事の業績に影響してしまう体制では無理がある。まあ、ニワトリとタマゴの関係ではあるが、ここに仕事とプライベートをきっちり分けようとする社会的背景があるような気がする。

    もう1つ、思い当たるのは終身雇用制ではないこと。つまり、いつ首を切られてもおかしくない、言ってみれば不安定な身である。だから、会社の仕事に力を入れるよりも、自らの能力を高める努力をしておかねばならない。5時に退社したオージー社員はどこへ行くかというと、友達と外食するばかりじゃなくて、資格取得を狙って夜のコースに通ってみたり、健康維持のためにプールやヨガ教室に通っていたりするのだ。アフターファイブは自分を磨くための時間にあてているというわけだ。

    それにしても、5時5秒過ぎに退社するのって至難の業じゃないですか?? オージー的習慣にすっかり馴染んだある日本人に伺った話では、「5時カッキリ退社術のコツは、午後4時すぎたら仕事に熱中しないこと」だそうです。

3)納期が自己都合で延長される。

    ところで、「でも実際残業ゼロって言っても納期のある仕事だってあるだろうに、やっていけるの?」と不思議に思われる向きもあるだろう。That's a good point!! 彼らにとっては「納期」の意味がちょっと違うのだ。日本で「納期」といえば、基本的には「何がなんでも終わらせなきゃいけない期限」であり、納期に間に合いそうもないと判断すれば早いうちから残業するなり、他人にふるなりして計画的に片づけるもの。

    しかし、彼らのとっての「納期」とは「一応の目安。相手側の要請」にすぎず、自分の仕事時間内に一生懸命やって終わらなければ、なんら罪悪感なく自動的に「納期は延びた」と判断されるらしい。事前に依頼しておいた納期後に電話で催促すると「ああ、先週は忙しくてね〜、今週末までには何とかなると思うんだけど・・それでいい?」なんて具合。「いいわきゃねーだろ、先週までに必要だったもんが、なんで今週末まで待てるんだよ」と怒っている人を私にはいまだかつて見たことがない。「私だってそんなふうにせっつかれたくないもん」という社会的コンセンサスが浸透しているのでしょう。

4)隣の人の仕事内容を誰も知らない。

    さらに困ったことにオージーの仕事スタイルはチームワーク型よりも独立型である場合が多い。直接の担当者が不在だと、他の人は誰一人として「知らぬ存ぜぬ」で対応してくる。面倒臭いってものあるかもしれないが、どうも本当に何も知らない様子。「私の仕事はここまで」とキッチリ線を引いている、いわゆるセクショナリズムが強いようだ。

    しかも、パートタイマーという雇用スタイルが一般化しており、日本の「パートさん」のようにお手伝い的存在なのではなく、パートでも一人前の独立した仕事を任されているため、その相手を捕まえなければ話が進まない。結果、週2回しか出社しない人を捕まえるために、3日もウェイティング状態ということになる。オーストラリア内ならそれでもよかろうが、日本が相手となると、かなり厳しいものがある。

    そういえば、先日の新聞に「こんなことでは業績は伸びない。他の人の仕事もきちんとフォローできる体制を整えなくては、企業は生き残れないぞ」という記事があった。「何を今更、当たり前じゃん」と言いたくもなる。今後少しは改善してくれると嬉しいのだが。

5)週末が大好き。

    金曜日の帰り道の道路は、実に活気にあふれていて思わず可笑しくなってしまう。スピードが違う。マンガだったら各車から、「やった、おわった!」「うっほっほ、週末だ!」とキャプションがついていそうなくらい、皆さん元気にびゅんびゅん飛ばしている。ホントーに週末が好きなんだな、と妙にうなづいてしまう。(オーストラリアでは一旦自宅に帰ってからシャワー浴びて着替えて、また街に繰り出して金曜の夜を楽しむのが常道。)

    考えてみれば極めて健全なことだとは思うが、オージーは週末が大好きである。ジョークで「オージーの唯一の悩みは、今度の週末何をしてすごすか?ということである」なんて話があるが、確かに常に週末のプランを練っているらしいことは伺える。月曜日の朝には必ず「週末、どうだった?」という社交辞令が交わされるが、単なる社交辞令というより、自慢大会的要素もたぶんにあるように感じられることもままある。週末になると気合入れて遊ぶというスタイルが馴染めない私は、こう聞かれる度に「ずっと寝てた」とかホントのことを答えては、周囲をシラけさせていた。最近ではちょっと楽しそうに「ショッピング!!(実は、ただ単に食料品買出しに行っただけなんだけど)」なんて答えていたりする。けっこう、気をつかう。

    ところで、オーストラリアにはホリデー休暇以外に病欠(Sick Leave/有給)というのがある。ニューサウスウェールズ州では年間一定期間認められている。なんでも名詞を短縮して愛称化してしまうオージーだが、このシックリーブまで「シッキー」という愛称で親しんでしまっている。いつぞやの新聞に「オーストラリア人に愛されて○○年」なんてタイトルで特集されていたが、シッキーは統計によると何故か月曜日と金曜日に多いそうである。この記事にはこんなコメントがあった。
    「ダメだよー、病気の時にシッキーとっちゃあ。せっかくのシッキーが台無しじゃないかー」

6)長期休暇もキッチリ取る。

    オーストラリアは連邦制をとっており、労働条件も各州ごとに定められているが、ここ、ニューサウスウェールズ州では、前述のシックリーブとは別に年間4週間のホリデー取得が労働法に盛り込まれている。もし4週間の休暇を取得できなかった場合には、会社がその分の給料を支払わねばならないので、会社としては金払うよりも休んでもらいたいわけで、だからマネージャーだろうが平社員だろうが関係なくキッチリ休暇をとる。
    4週間まとめて取得しなくてもよくて、たとえば1週間ずつバラバラに4回とってもいいのだが、一般にオージーは長期休暇に滞在型の旅を楽しむ傾向があるようで、どうせとるならまとめてドバッととっちゃうというケースが多いようである。

    さて、その休暇の間の仕事はどうなっちゃうのか?というと、社内で調整する。一応引き継ぎなどすることはするし、引き継ぎしきれない場合はスタッフ派遣会社に依頼したりしてテンポラリースタッフ(一時的な穴埋め要員)を雇うこともある。が、実はスタッフ一人くらい抜けていても、仕事なんてわりと問題なく回っていくもの。彼らもそれを知っているから、広い意味での仕事に対する責任感に欠けてしまうのだろう。仕事への情熱とプライベートライフへの情熱を両立させることは、日本とは逆の意味で難しいようだ。

7)仕事の能率はものすごくいい。

    今までオージーの欠点(言い換えれば長所でもあるのだが、経済発展という観点からはマイナスだろう)ばかりを並べ立ててきたが、彼らの仕事の能率のよさだけはすごいと思う。もちろん個人差もあるから何ともいえないが、私が知っている有能なオージーは仕事がメチャ早い。確かに5時カッキリに帰るが、就業中の集中度は高く、むだ話も少ない。日本よりも能力主義・結果主義が通っている社会だからだろう、いかに少ない労働時間でいかに高い業績を上げるかに賭けているかのような働きぶりである。
    もっともこれは、オージー独特というわけではなく、いわゆるアメリカ式資本主義社会の影響を受けてのことかもしれないが。

8)バンバン転職する。


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