have+過去分詞の現在完了形というのがありますが、なんでそんなややこしいモノがあるんだ、迷惑なこっちゃと思う人もいるでしょう。僕も、現在完了なんか文法書に出てくるだけで、本当に現場でそんなに使っているのかな?とか疑問に思ったりもしました。しかし使ってるんですね、これが。しかも、どうかしたら過去形や現在形よりも多用されてたりします。なんでそんなヤヤコシイものが、そんなに好んで使われるのでしょうか。
Have you ever been to Japan?
という中学英語の例文が、こちらに来たときの僕の英語世界における完了形の全てでありました。これでは実質上「完了形=他人に旅行経験を聞く場合に使う言い方」でしかないです。旅行経験なんかそんなに滅多やたらと聞きませんので、完了形=滅多に使わない言い方みたいな感じで奥の倉庫に納められたりもします。
しかし、当然ながらこれは完了形の本質を誤解しています。こちらに来てたどたどしく英語で喋ってるうちに、自分で喋ってても「なんかやたらと完了形で喋るケースが多いな」ということになり、自然と完了形が身近なものになってきました。その頃はもう完了形=旅行経験ではなくなってます。
では完了形の本質は何か?というと、僕もエラそうなことは言えないのですが、今現在の理解ではこうです。
抽象的にいえば、「過去の出来事が現在の情況・会話に影響を与える(その前提となる)場合」に完了形は使われるのだと思いますが、こんな抽象的なこと言っても分からないので具体例を挙げます。
例えば、今ここで僕とアナタがビールを飲みながら雑談してたとしてます。酔いが深まるにつれ話はディープになり、過去の恋愛体験なんぞが話題になりました。そこで、
「ねえ、今までフラレたことってある?」
「そりゃあるよ〜」
「何回くらいあるの?」
「ん〜いろいろあるけど、大きいのは一回だけかな」
「どんな感じやったん?」
「んとね、実は
もう婚約みたいな感じで親も公認でさ、婚前旅行というか、バリにいったのよ」
「ふんふん」
「で、
そんでさスキューバやったのよね、そんとき。あ、スキューバやったことある?」
「あ、俺やったことないんだよ。シュノーケルならあるけど。」
「あれって初めてやるときって結構恐いんだよね、そんでね」
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上記の会話例で、
赤が現在完了、
緑が過去形、色が変ってないのは現在形を意味します。よ〜く見ていくとお分かりでしょうが、「フラれたことある?」「スキューバやったことある?」という赤字の現在完了というのは、相手に過去の体験を聞いてますよね。ここで「完了形=過去の経験を表す」という教科書的説明が出てくるでしょうが、僕が注目したいのはそんな表面的なことではなく、「どうして過去の体験を聞くのか?」という会話の目的です。
会話というのは、一応会話の組み立てというものを大雑把ながら考えながら喋ります。「あなたは経験済/未経験?」と聞くというのは、もし経験済だったらこういう会話の流れにしよう、もし未経験だったらこういう会話にしようと、漠然ながらも考えていると思います。「フラれたときのエピソードや気持を面白おかしく語り合うのもいいかもしんないな」と思っても、相手にフラれた経験がなかったらあんまり突っ込んだ話になりにくい。でも、相手も経験済みだったら色々ディープな話ができておもしろいかもしれないとか。じゃちょっと聞いてみるべ、という段取になっていくのでしょう。
「スキューバやったことある」と聞くのも同じ構造です。「やったことある人だったら説明不要だと思うけど」とつながるか、「やったことないなら一応説明しておくと、あれはね〜」とつながるか。
何かの体験をしたという過去の事実が、ただの過去の事実に留まらず、「そういう経験をした人(その経験によって考え方が変わったとか人格に影響を及ぼしている)」という文脈で捉えられるときは、完了形が使われるのだと思います。例えば臨死体験をした人としない人とでは死生観に違いが出てくるでしょう。「やったことない人には解らないよ」とかよく言いますが、過去の体験が現在の自分を作っているわけです。これを抽象的に言えば、「過去の事実(経験)が現在の情況(その人の個性)に影響を与えている場合」という言い方になるのだと思います。
じゃあ「婚前旅行でバリに行った」とか「そこでスキューバをやった」というのが何で単なる過去形なのかと言えば、それはもう過去の一時点での「おはなし」に過ぎず、今の会話の流れでは、現在時点に影響を及ぼさないからだと思います。これも会話のテーマによって相対的なものに過ぎず、「婚前旅行」「バリ旅行」がテーマになっているならば、完了形で喋ってもおかしくないでしょう。でも、上記の会話例の場合は、あくまで「フラレ体験」がメインテーマであり、バリ云々はその一例でしかないわけです。
もう一つ突っ込めば、現在完了というのはあくまでも「現在形」です。「フラれ体験を持っているという現在のアナタ」がメインフォーカスにあるわけです。単なる現在だけでなく、「過去あってこその現在」という過去と現在のカラミみたいなニュアンスを出したいときに使う。だから純粋に過去のお話で閉じてしまってる場合は過去形になります。
慣用句で "I've been there."というのがあります。直訳すれば「私はそこに行ったことがある」ですが、意味は「それはもう経験済だ」「そんなの言われなくてももう知ってるよ」ということです。「首都圏の最終電車ってのが、これがまた混んでるわ酔っ払いばっかだわでヒドイんだよ」「知ってる知ってる、そうなんだよね」とか、「空港出るときに出国ゲートというのがあって、出国カードというのに記載してだね」「いや、そのへんのことは知ってますから」なんてときに使うのでしょう。これなんか、完了形=経験を有する現在の自分(→だから説明してくれなくていいよ)というパターンの典型だと思います。
ここの関係で、細かい文法知識ですが、「完了形の場合は過去の時期をあまり特定しない」という法則が出てきたりします。つまり「未だかつて/ever、never」とか「既に/already」とか「前に/before」とかいう漠然とした過去を示す用語とともに使われ、「先週/last week」「今朝/this morning」等の特定した過去を示す言葉は余り出てこない、そのときは過去形にする、と。I've been to Japan.とは言っても、I've been to japan last month.とは言わない。なぜか?情報のテーマが狂ってくるからです。前者は「日本に行った経験のあるワタシ」という 私の(現在の)属性がテーマなんですが、後者は「先月日本に行った」という過去の事実がテーマ。経験の有無がテーマになってるときは、別にその経験の時期を正確に特定する必要はない。これは日本語だって、「私、昔、自転車泥棒したことある」と言うときだって、大雑把に「昔」って言ってますもんね。
ただ、これも一般論であって、完了形で過去の時期を特定する場合もあってもいいとは思います。一つの文章に二つのテーマを盛り込むわけで、それで混乱を招かなければ別にOKだとは思います。I've already done it.というところで、I've already done it last week.とわざわざ「先週」を付けるのは、その時期が問題というよりも、「もうやっちゃったよ」に「とっくの昔に!」という強調をしたくて敢えて言うってのは日常会話ではアリなんじゃないかなと思います。でもこれ大学入試だったらバッテン食らうかもしれないな(そこらへんの○×式発想が受験英語の弊害の最たるものだと思いますが)。
言ってる意味、わかりますか?別に僕も正確に理解できてないですし、文法の本みてても英国内の学者の間でも、正確な区別をめぐって論争してるくらいですので、もともとキッチリ分類できるものでもないらしいです。アバウトな考え方がわかればいいんじゃないかと思います。
この種の使い方というのは、実は、会話のネタふりなどで、日常の雑談では非常によく出てくるパターンだったりします。「ねえねえ、〜〜ってしたことある?」と聞くような場合は大体完了形ですよね。だから、知らずしらずに結構使ってしまうのです。ネタふり現在完了ですね。
また役所や病院の窓口などの会話でも、「これまで駐車違反で罰金を払ったことはありますか」「当店でお買い物をされたことありますか」「血液検査は過去に受けたことはありますか」と聞かれますが、これも全部完了形です。フローチャートのように、YES(血液検査を受けたことがある)ならこっち(じゃ今回はしなくてもいい)、NO(受けたことがない)ならあっち(じゃ今回はやりましょう)という具合になるのは完了形。
あ、人によっては、一番多く聞かれるのは就職の面接かもしれませんね。「君、いままでレストランで働いたことある?」とかね。
「過去の出来事が現在に影響を与えている場合」は、別に人に経験を尋ねる場合だけではありません。
「これまで動いていた時計が、あるとき壊れてしまって、今も壊れてる」ということを伝えたいとした場合、「この時計はかつて動いていた」「でもある時壊れた」「今も壊れている」という三文で言うのはカッタるいのでまとめて一つにして言ってしまうのが現在完了で、それだけ含みを持った、情報量の多い表現だと思います。
ここで純粋な過去形との違いは、過去形だけだったら「時計が壊れたことがある」と言ってるだけで今も壊れているかどうかは判らないけど、完了形だったら「過去にAという事態が生じた→だから今もAだと」いうことで、「過去+だから現在も」という現在が意味されます。現在の状況を「だから」で当然に導いてこれる「だから現在完了」ですね。
幾つか例文を挙げますと、「山田さんリストラされちゃったんだって(だから現在はその会社には居ない)」「あ、請求書だったら俺もう送っといたよ(送付済だからもう送らなくていい)」「このあたりの森林は殆ど伐採されてしまった(だから今はもう残っていない)」等などです。
大体なんとなく感覚的に判るでしょ。
思うのですけど、実際の日常会話では、かなりの部分が完了形になっていくんじゃないかな。なぜなら、会話というのは話をしている現在を基準に進むのが普通で、多くの話題は現在との関連で語られると思うのですね。「あの店もう倒産しちゃったらしいよ(だから今いっても無いよ)」とか「俺ついに車買い替えたんだよ(だから今新車だよ)」とかね。
逆に純粋な過去形というのは、裁判の証人尋問で「そのとき証人は犯人の顔を見ましたか」「犯人は帽子をかぶっていましたか」みたいな場合、あるいは物語で「おばあさんは川に洗濯にいきました」などの場合に典型的に出てくるのでしょう。過去のお話として完結してるような場合。
これはあまり文法書に書いてないけど、「現在完了ではじまって、その話題で会話が進展すると、過去形に移行する」という大まかなパターンがあるようにも思います。話題のネタ振りに完了形、盛り上がりそうだったら過去形、みたいな感じ。例えば、「ついに新車買っちゃったもんね(完了)」「うそ?幾らした(過去)」「たったの20万だった(過去)」「へえ、誰から買ったの?(過去)」という具合に、あとは大体過去のお話がテーマになるから過去形で推移するのかなという気がします。
過去形ってのは早い話が「昔話」ですから、初対面で会った人にいきなり昔話なんかしないだろうし、昔話をするときというのは、それなりに落ち着いて「語り」モードに入ったときなんじゃないかなって気がします。
しかし、何度もいうように、これは過去、これは現在完了という区分けは細かく見ていくと「むむむ」となるくらい難しいと思います。文法の本でも、「ニュース記事は完了形で書かれることが多い(でもアメリカ英語では過去形が多い)」 とか「現在時制の文章に書き直せるものは完了形」とか「聞き手が既に現在の状況を知ってる場合は過去形」とか、「justはイギリス英語では完了形ととに、アメリカ英語では過去形とともに用いられる」とか色々書いてあるんですけど、必ずしもそうとも言えないような気もします。あんまり厳密に考えすぎてもハズすのかな?という気がします。
少なくともここでは文法解説をするのが目的ではなく、その用法・話法が「何の為に」「どういう具合に」に使われるのかということを、あれこれ考えてみるのも面白いよということです。無味乾燥な文法法則も、そういう視点で考えていって、自分なりに使える形にカスタマイズしていくといいんじゃないかというお話でした。
最後に日常会話で良く出てくるというか、当たり前過ぎて「英語表現集」にも登場してこない完了形の表現をいくつか。
I've done it. 「もうやったよ」「やっといたよ」ということで、ポピュラーすぎて特に意識はしないけど、もう年がら年中使ってるでしょう。「あいヴだにっ」と発音しますから「愛撫谷」みたいに覚えたらいいかも(^^*)。似たようなので
I've finished (it).なんてのもあります。こっちの方が「もう終わらせてしまった」「一件終了!」という終了感・解放感がちょっと強いかな。「あんた宿題やったの?」「もうやっちゃったよーだ!」みたいな感じ。レストランで食べおわったお皿を下げるときに、「もうお済みですか」「もう結構です(食べおわりました)」なんてときもfinishedを使ったりするようです。
Not yet. 直接的には完了形ではないけどオトモダチの表現。「まだだよ」という意味で、これもあらゆる場面で使います。「借りてきたビデオ見た?」「まだ」、「移民局から通知来た?」「まーだ」、「宿題終わりそう?」「まーだまだ」なんてね。なっと・いぇっとですが実際には「なっちぇ」と言ってますね。
She's gone. It's gone. 日本語の「いく」に色んな意味があるのと同じく、goneもこれだけで一章割けるくらい色んな意味があるみたいです。ただ注意すべきは、goの過去分詞という意味で、日本語の「行く」と同じ感じで「もう学校に行ってしまった」にgoneを使うとちょっとヘンかも。goneというのは結構強い意味で「イッっちゃって、もう二度と帰ってこない/取り返しがつかない」くらいのニュアンスが含まれてますので、学校に出掛けて二度と帰らないみたいな妙な感じになりかねないです。その場合は、He is at shcool now.とか、「たった今学校に出掛けた」だったらleftあたりを使うと思います。
何の留保もなくHe's gone.というと、死んでしまったか遠い世界に旅立っていってしまったかのような感じ。不動産探しをされた方は、不動産屋から「それはもう出ちゃいました(売約済)」という意味で、
It's gone.と聞かされた経験があると思います。食べ物が腐ってしまったときも、It's gone.と言います。「イッてしまって、ここには居ない」という不存在状態を言う表現だから、I've gone.とかYou've gone.とはまず言わない。「私はイッてしまった」って、ここに居るやないけという。まあ強いて言えば、死んでしまって夢枕に立って会話してるような場合でしょうか、「僕はもう死んでいます」という。
have got これもこれだけで一章割けるくらい沢山の意味があるみたいです。大体、getってカメレオンみたいに文脈によって意味が千変万化しますから。ただ、have got で「スデにゲットした」というだけの意味に考えてると狭すぎるということだけは言っておきます。have gotでただの「have」の意味をもちます(口語体とか)。Do you have〜と聞く場合に、オーストラリアでは多くの人が Have you got〜?と聞きます。お店で「歯ブラシありますか?」もhave you got。これ僕も最初は「もう入手しましたか?」の意味かな、変な聞き方するな?と思ってたクチです。I've got haedache(頭痛がするんだ)、I've got flu(風邪ひいた)なんて言います。
もうひとつ、have got to で、have to(ねばならない)の意味になります。これも非常によく出てくるのですが、知らんと何だかわからないい。「あぃぶがったごう/I've got to go」で「もう行かなきゃ」という意味になります。会話を打ち切るときなんかに使いますね。「そろそろ失礼しなければ」とか。
これらの場合が本当に完了形なのかどうかは、多分に怪しい。疑問や否定ではDoを使ったりするし。これもアメリカ英語とイギリス英語で違うとか、反復するものには使わないとか色んな法則があるそうですが、僕が思うに基本的には気分なんだろうなと。何となくノリがあって言ってて言いやすいとか、そこらへんのいい加減なところから出発してるんじゃないでしょうか(まあ言語は何でもそうなんだろうけど)。映画見てても「がった」「がった」としょっちゅう言ってますよね。
99年05月15日初出:田村
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