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今週の1枚(04.12.27)




ESSAY 188/英語の学習方法(その5)−スピーキング(3)


-スピーキングを支える基礎力(ex ボキャブラリ、文法、オーラルコミュニケーション能力)

ずっと昔にChipping Nortonのクリスマスの飾りつけを紹介しましたが、あるエリア、あるストリートになると異様に近隣住民一同の気合が入りまくってギンギンのイルミネーションを施しているところがあります。日本でも最近流行っているようですが、シドニーでも年々エスカレートしているようです。

新聞でも「ここが見所のストリート」ということで紹介していたりします。SMH紙によると、AshburyのSecond St, FairlightのEdwin St, MenaiのPopperwell Drive, North RydeのChauvel Stが挙げられていました。また、Daily Telegraph紙によると、ほかにも LugarnoのOld Forest St, North Narrabeen(Narroy Rd), Bonnet Bay(Washington Dr), Revesby(Faraday Rd), Hurstville (Hodge St), Regents Parks(Lewis St), Elanora Heights(Wongala Ave), Yagoona(Daley Rd)などです。おそらくクリスマスが終わっても当分やってると思いますので(こちらは一般に日本と違って1月に入ってもしばらくクリスマスのデコレーションは残してある)。

しかし、「どこ、それ?」という耳慣れないサバーブが多いです。かなり離れた郊外の新興住宅地に多いような気がしますね。その中でもNorth Rydeは比較的近場で、ウチからも車で10分くらいなので見物にいってきました。写真はすべてNorth Rydeのものです。


夜になると見物客がやってきてゾロゾロと歩いています。写真上中央の家は、ゴージャスなデコレーションで、上にあげた両紙にも写真が載ってました。写真右は、イルミネーションというよりも、出窓に人形などを並べて見せるという凝ったものでした。それぞれに趣向が違っていて、面白いですよ。


 英語の学習方法の第五回です。
 引き続きスピーキング、いきます。

 スピーキングが出来ない、「文法や読み書きは十分やってきたのだけど、どうも会話が、、」とお嘆きの貴兄に、まず申し上げておきたいのが、「本当にそうか?」ということです。本当に文法OKなの?書いたり読んだりするのは大丈夫なの?と。そりゃ、別に「完璧だ」と言ってるわけではないのは分かってますし、相対的な話であるのも分かってます。しかし、喋れないその原因を、もう少し真剣に究明してみませんか、ってことです。

 会話が苦手という人の多くの場合は、会話つまりスピーキング能力に問題があるというよりは、それ以前の問題、そもそも「英語を知らない」「知っていても使い方が分からない」という点にあるような気がします。これは「なんて言っていいのか分からない」という現象になって現れます。





 具体的に言いましょう。以下の日本文を英語で喋ってください。別に正確な逐語的翻訳でなくていいです。意味が通じたらそれでいいです。

 ホームステイやシェアをしていて、家の人に、「すみません、この部屋のコンセントってどこにありますか?」「一つしか見つからないのですが、二股ソケットとかテーブルタップのようなものはありませんか」「持ってきたノートパソコンを使うんですけど、電源容量は大丈夫ですかね?ブレーカーがとんだりはしないですよね?」

 はい、英語で言ってください。制限時間3秒。3秒以内に話し始めてください。
 なんで3秒なのかというと、会話というのはキャッチボールであり、それがどんな言語で行われるにしても自分のところで3秒以上停めてしまったら、場の空気が変わってしまい、殆どの場合盛り下がると言われているからです。また会話というのは鮮度が大事で、その瞬間に言うから意味がある、1秒遅れただけで意味が変わるとか、次の話題に移ってしまうことがよくありますので、言おうと思ってから実際に喋りだすまでの時間は短ければ短いほど良いです。この場合はこちらから話し掛けるので、相手から問われたり、3人以上で喋っている座談に入っていくわけではないので、やや条件はゆるいでしょう。しかし、「すみません」と呼び止めてから10秒も20秒も沈黙してたら相手も気持悪いでしょうから、とりあえず目標としては3秒。3秒以内に話をはじめてください。あの、3秒以内に話終わらなくてもいいですよ。そんなの無理だと思うから、話を始めるのが3秒ね。「あー」でも「えーと」でもなんでもいいから、「とにかくなんか言え」ってやつですね。面接なんかでもよく言われると思いますけど。

 さて、言えましたか?言えた人はいいです。言えなかった人、考えてみてほしいのですが、これって異常に特殊な例文でしょうか?「第四格納庫の緊急ハッチを開いて気圧調整機の出力を最大にしろ」みたいにさ、そんなことないですよね、いかにもありがちなスチュエーションでしょ?他にも、「コーラ買ってきたんですけど、台所の冷蔵庫に置かせてもらっていいですか?下から二段目の棚が比較的空いてるのですけど、そこに入れておいていいですか?」「ちょっと近所をぶらついてきますけど、今日は晩御飯は何時からですか?それまでには戻るようにしますけど、万一戻らなかったら待ってないで先に食べていてください」「すいません、なんか洗濯機の調子が悪いんですけど、すすぎで止まってしまって脱水に行かないんです、設定かなんかで間違っていたのかなあ」などなど。

 こんなの無限にありますよね。あんまり会話文例集に載ってなさそうな例文を考えてみたのですけど、文例集に載ってないからといって使う機会が無いか?というとそんなことないでしょ。普通にこっちで暮らしてたらいくらでも起こりがちな状況でしょう?逆に言えば、千変万化する日常生活のすべてをあらかじめ会話文例集で網羅しようなんてのが無理なんです。だから文例集丸覚えしていても絶対に限界はありますし、そういう方法論だけではダメだということでもあります。



 ところで、これらを3秒以内に話始められなかった方にお聞きします。何で喋れなかったのですか?その原因はなんですか?ここを考えて欲しいのですが、例えば最初の文例、コンセントがどこにあるとか、二股ソケット、テーブルタップなどについては、そもそもこれらの単語を知らないというのが原因ではないですか?ちなみに、英語でコンセント(consent)というと、「同意、承諾」の意味です。医療におけるインフォームド・コンセントのコンセントであり、「電源」という意味はありません。だから "where is a consent?”と聞いても、「同意はどこにありますか?」と言ってるのと同じで、「はあ?」「なんか契約の話をしたいんですか?」という反応になってしまったりするでしょう。「壁に備え付けられている電源パネル」といいたかったら、power point、あるいはpower outletと言わないと通じません。「二股ソケット」「テーブルタップ」になるともっと難しいですよね。ドンピシャかどうかはわかりませんが、double adaptorとか、power tableとか言うんじゃないかと思います。つまり、こういう非常にありきたりの生活用語のボキャブラリの絶対量がそもそも少ないというのが原因ではないでしょうか。

 なお、こういった生活単語を知るためには、こちらに生活している人は、スーパーのチラシとか広告がボキャブラリの宝庫になります。あるいは実際に店にはいって一つづつ現物と名前を一致させていくのが効率いいです。現物を目の前にすると記憶効率は格段に良くなりますしね。では日本にいるあなたはどうしたらいいかというと、幾らでも方法はあります。インターネットやってるんだったら、海外のスーパーマーケットや電気屋のサイトにアクセスしてカタログを見ればいいんですよ。例えば二股ソケットだったら、DickSmithというオーストラリアの電気専門店チェーンのサイトにいってみたら分かると思います。二股ソケットはここテーブルタップはここにあります(CGIが作動せずにトップページにいってしまう場合は、左側のProduct Categoryから右下Electronicsの欄のHome Power & ElectricalsのElectrical Leads, Plugs etcに進んでいくとたどり着けます)。

 ちなみに、あなたのお持ちの辞書をひいていただきたいのですが、おそらく多くの辞書には載ってないんじゃないですか?こんな基本的な生活単語が、実は辞書には案外と載ってなかったりします。逆に、日本語の広辞苑なんかでも載ってなかったりします。「ラインマーカー」とか「蛍光ペン」とかいうのは、「味の素」みたいに半ば商品名だったりするケースが多く、なにが固有名詞でなにが一般名詞なのか分かりませんし、一般名詞が確立していない、していてもあまり使われていない場合も多いです。こういう単語というのは、日常ひじょうにありふれているくせに、いざ辞書で調べだしたら分からなかったりするものです。

 あと、この種の生活用語というのは、地域地域によってかなり言い方が違ったりします。日本でも鹿児島県の人は黒板消しのことを「ラーフル」というらしいですし、僕らの世代(今もそうかしらんけど)では大学受験の「試験に出る英単語」という本を関東では「でる単」といい関西では「シケ単」というとか、マクドナルドも関東ではマックで関西ではマクドだったりとか、意外とありふれている生活単語こそローカル色が豊かだったり、呼び名が統一されてなかったりします。英語圏でもそれは同じで、例えばオーストラリア人だったら誰でも知ってるマンチェスターという単語があります。”manchester”ですが、意味するところは、シーツとかキルトカバーとかタオルなどの生活用品のことを言います。ベッド&風呂周辺のグッズですね。なんでマンチェスターというのか僕は知りませんが(辞書によると綿製品という意味らしい)、以前、イギリスの、それもマンチェスター出身の人に聞いてみたのですが、「僕もそれが不思議だった。なんでオーストラリアではマンチェスターなんて変な言い方をするんだ?」と言ってました。

 なお、テーブルタップなんかドンピシャで言える必要はないです。でも、「こういうもの」という説明は出来なければならない。だから、前々回書いたように”言い換え”が大事なんですね。「一つしかないパワーポイントをいくつもに分岐させるツールで、できればこうコードがあって延ばせるといいんですけど」とかね。

 というわけで、「喋れない原因その1」は、そもそもボキャブラリが足りない。しかしですね、ボキャブラリが足りないってのは、スピーキングの問題ですか?

 会話能力、スピーキング能力「だけ」に問題があるんだったら、少なくとも「書ける」はずです。書けといわれたらいくらでも書けるんだけど、喋りになると苦手で、、というような場合でしょ。で、上記の各例文ですけど、書けますか?その場でスラスラと書けるんだったら確かにスピーキングの問題でしょう。しかし、書けないんだったらライティングも問題ですよ。ね、ライティングはOKというわけでもないでしょ。つまり、スピーキングもヘチマもなく、そもそも「英語を知らない」のが問題なんでしょ。それって会話力の問題じゃないですよ。





 真に会話力に問題があるというのは、おおよそ次のような場合だと思います。以下のいずれの場合も言うべき英語の内容は頭に浮かぶし、その場でサラサラと書くことも可能なのだが、@発音が悪いので通じない、A異様に文語的格式的表現になってしまって口語独特のカジュアルさに欠ける、B対人(外人)恐怖症やあがり症など対面コミュニケーションが取るのが苦手などの場合です。これらに当てはまる場合でしたら、スピーキングに難アリと言ってもいいでしょう。@はスピーキング以前の基礎体力である発音であり、Bは英語力というよりは人間力の問題でしょうから、より正確に言えばAですよね。これは日本人でよく英語を勉強してる人にありがちだと思います。後で書きますが、これこそがスピーキング独自の問題であり、それはそれなりに練習方法があります。しかし、それ以外の場合は、スピーキングができないのではなく、基礎力が無い。「文法や読み書きはOK」なんて言ってる場合じゃないでしょう。





 次に文法力ですが、これも結構誤解が多いですよね。「文法はやってきたから(相対的に)大丈夫」という日本人は多いし、実際そうである人もいますが、大半は文法力も無いですよね。ありていにいえば、「文法の授業を受けたという記憶がある」というだけで、授業の内容は忘れていたり、内容を覚えていてもそれを実戦でどう使えばいいのかを知らない。可算名詞と不可算名詞なんて基礎中の基礎ですが(でも非常に難しい)、ちゃんと認識してるかどうか怪しいでしょ、というか「何、それ?」って人もいるでしょ。集合名詞とか状態名詞とか覚えてますか?

 「現在・過去分詞の形容詞的用法(あるいは分詞形容詞)」なんて、ものすごく英語の現場ではバンバン使いますけど、なんのことだかわかりますか?これが分からんと英語的表現が分からんでしょう。例えば英語のことわざで、”watched pot never boils”というのがあります。大意は「待つ身はつらい」ということですが、直訳すれば「見つめられている鍋(のなかの水)は沸騰しない」ということで、皆さんも経験あると思いますが、ラーメンを作ろうとして鍋に水を入れて沸騰するのを「まだかなー」とイライラ待ってるときって、なっかなか沸かないでしょ。そのくせちょっと他の用で場を外すといきなり沸いたり、カレーが焦げたりする。だから、待ってるときはなかなか物事が進行しないもんだよ、待ってるのってのはツライよねってことです。でも「待ってるとなかなか沸かない」というのを、「見られている鍋」なんていう言い方を思いつきますか?このあたり英語独特の表現と発想だと思うのですが、この場合、watched という過去分詞が鍋(pot)を形容しているわけですね。

 ちなみに、これを日本人が英文にしようとしたら=典型的な日本語英文だと、おそらく、When I am boiling water, it doesn't boil. とか書くんじゃないですかね。これだと意味不明というか、「今沸かしているんだけど沸かない」とだけしか言ってないですよね。

 もう少し英語が上手くなってくると、Whenever you boil water, it doesn't seem to boil. くらいになって、whenever という単語を思いついたり、これは自分独自の経験ではなくおよそ人一般について言ってるのだから、主語は"I "ではなく、「およそ人」という意味での”You”だろうとか、本当に沸かないのではなく「沸くように見えない」のだから it seem to 構文を使おうとか進歩するでしょう。

 でも、これだとまだ「イライラしながら待ってる」という意味が入ってこないですよね。だから、Whenever you're waiting for the pot boiled という言い方に進歩するんじゃないでしょうか。water がpotになったのは、単に湯(水)を沸かすだけだったら、風呂桶の水か、ドラム缶の水かわからんので、「キッチンで待っている」というニュアンスを入れ、且つ鍋というだけで十分だろうということになります。でもって、ここで、pot boiled という過去分詞の形容詞的用法が入ってくるわけで、ここまで使えるとかなり英語っぽくなってきます。

 なお、この表現は、オーストラリアの第二の国歌ともいうべきワルチング・マチルダの最初の方の歌詞にも出てきますよね。”Once a jolly swagman camped by a Billabong, Under the shade of a Coolabah tree. And he sang as he watched and waited till his billy boiled Who'll come a-waltzing Matilda with me?" なお、billy はbilly tea で開拓民時代のオーストラリアのティーです。ね、過去分詞の形容詞的用法、出てくるでしょ。でも、pot boiled までは思いつけても、watched pot という表現まで思いつくのは難しい。ここをクリアできるかどうかが英語のセンスってやつなのでしょう。そして、語学で(なんでもそうだと思うけど)一番大事なのはこのセンスなのでしょう。しかし、センスを磨こうにもなにも、こういう用法自体知らなかったら学習するにも効率悪いですよね。でも、この文法を理解し、英語センスを習得していくと、クドクド書かなくても、Watched pot never boils. と、たった4語で済み、しかもウィットに富んだ言い方になります。言語能力の上達というのは、そういうことなのでしょうね。

 (注) "wait for the pot boild"ですけど、より正確に言えば、過去分詞の形容詞的用法というよりは、分詞の叙述用法のうちの「知覚or使役動詞とともに用いられる目的補語としての過去分詞」、あるいは「SVO+過去分詞」に分類した方がいいんじゃないかって気もします。しかしこのあたりの複雑な分類は、なんか文法のための文法というか、僕なんかはどーでもいいように思ってしまいます。分詞というのはかなり融通無碍にいろんな場合に使えるアクティブな用法の一つだと思うのですが、それだけに系統発生的に理路整然と使われているというよりは、同時多発的にいろんな言い方が発生し、それが「言い習わし」みたいに定着している部分があって、統合的な説明や理解をするのが困難な領域のように思います。まあ、分詞に限らず文法なんか(言語なんか)そんなもんですけど。だから、そんなに細かく正確に分類にとらわれずに「こういう感じに使われる場合もある」というのをザックリと知っておく、何度もその実例に出くわして皮膚感覚的に馴染ませていけばいいんじゃないんですかね。

 ですので、ここでも、分詞といえば、現在分詞(-ing)は「Be動詞+現在分詞=現在進行形」、過去分詞( -ed)は「Have + 過去分詞=完了形」「Be動詞+過去分詞=受動態」くらいの認識しかない人には、「それだけじゃないんだぜ」「妙なところにピッとひっつく場合もあるぜよ」ってことが何となく理解できたらそれでいいと思います。あとは、実戦でのリーディングなどで「あ、出てきた出てきた」ってちょっと意識的になっていくと、そのリズム感というか感覚が徐々に身体に染み込んでいくでしょうし、それでいいと思います。実際、このくらい細かい文法法則になると、系統的理解で実戦に当てはめようと思っても限界はあります。それよりは、典型的ないくつかの例文を頭に叩き込んでそこから応用的感覚的に広げていった方がより実践的には使えるんじゃないかって気がします。僕だって、今、これを書くために泥縄式に文法書を広げてるだけです。

 「知覚動詞とともに使われる現在分詞」なんていちいち文法解説的に理解してはいませんけど、初期のビートルズの曲で"I saw her standing there"という曲があるのですが、この曲名一つ覚えておけばいいんじゃないか?と。これを原点にして、「こういう具合に使うなら、こうも言える筈だよな」と広げる感じで使ってたりします。





 文法についてもう一つ。これはこちらに来られて僕がサポートするときに、最初によく例に出す問題ですが、例えば、ホームステイを探してもらうときとか、シェア探しをしているときとか、「いつから入居したいですか?今週末?それとも月曜日?」とか聞かれると思います。When would you like to move in? this weekend? or Monday?とかね。そのときに、「早ければ早い方がいいんですけど、、」って言いたいと思います。この「早ければ早いほど良い」というのを英語でどう表現するでしょう?はい、また3秒以内(^_^)。

 これは結構皆さん出来ないですよ。というか殆ど出来た人がいないくらいです。出来る人でも、as soon asとかいう言い方になってしまいます。それでも別に意味は通じますけど、もっと簡単にそのものズバリで表現できる構文があります。これは早ければ中学、遅くとも高校の初期の段階で習ってるはずです。大学入試にも出てくるでしょう。覚えてますか?

 正解は、The sooner, the better. これもたった4語で済みますね。簡単でしょ。思い出した人もいるでしょうが、英語の教科書や参考書で、「比較級を使った重要構文」なんてところに出てくるでしょう。「the 比較級、the 比較級構文」というやつですね。「〜すればするほど」という意味です。じゃあ応用問題。「安ければ安いほどいいんですけど」"The cheaper, the better"、 「大きければ大きいほどいいんですけど」"The bigger, the better"とかですね。これは、実際の日常生活でもよく使いますから、覚えておくと便利な構文ですし、会話にも非常に役に立ちます。でも、これってスピーキングの問題というよりは、文法とか構文の問題ですよね。

 ところで第二回に「ヒマなときに本質を考えよう」で述べたように、この構文の本質はなにかと考えてみると、これって僕が思うに数学で出てくる「関数」だと思うのですよ。「○○すればするほど○○だ」ということで、「現象A」の変動に伴って「現象B」が生じるという相関関係を表していると。X軸とY軸があって、Xが変動すればYも一定の法則性で変動する、Y=f(X)という関数じゃないかと。「早ければ早いほど(事象A)」「自分にとっては都合が良くなる(事象B)」です。

 さらに応用ね。同じ原理で、「卒業してから時間がたてばたつほど、当時のことをよく思い出せなくなっていく」「オーストラリアに長く住めば住むほど、外国という気がしなくなってくる」「英語の勉強をやればやるほど、自信がなくなってくる」「(最初は好きで結婚した彼も)長く一緒に暮らせば暮らすほど、彼のアラが見えてきた」とかね。The more I study English, the less I've got confidence. The longer I lived with him, the more I found his faluts (shortcomings).など、いろいろ使えます。

 実際こういうことを言いたい局面というのは多いと思うのですよ。なにかの変化を言いたい、その変化の法則性まで言及したいというのはね。食べ物でも「最初はマズイと思ったけど、食べていくうちに段々美味さがわかってきた」とか、バイトで「最初はツライだろうけど、やってりゃそのうち楽になるよ」、「最初はこれこそ私の天職だ!とか盛り上がってたんだけど、実際に職場にいって仕事をやっていくうちに、だんだんまた迷ってきて、、、」など、いくらでも応用局面はありますし、覚えていくと重宝する構文です。

 この延長線上に、新聞の社説や評論、学術論文などがありまして、「日豪間の貿易高が増加すればするほど、オーストラリアに留学する日本人も増えてきた」「日本人の所得水準があがればあがるほど、環境問題に対する人々の理解も深まってくる」「アメリカがインフレ対策として公定歩合を引き締めれば、日本の株価が下がるという傾向を看取することができる」とかね。硬い表現である「軌を一にする」「パラレルである」「歩調をあわせるように」などを使う局面などに、この構文は使えるでしょうし、実際に評論記事やアナリシスを読んでると良く出てきます。

 というわけで、「The 比較級、The 比較級構文」という高校時代の文法知識が、実際にこちらに来てシェア探しをするような実戦英会話の局面でも必要とされるわけです。そんでもって、これってスピーキングの問題じゃないでしょう。基礎となる英語力が、例えばボキャブラリにおいても、例えば文法力においても足りないから、あらゆる場面で障害が出てくるということです。知らない、知ってても使いこなせないから、喋れないし、書けないし、読んでもわからないし、聞き取りもできないと。そういうことでしょ。

 したがって、結局いつも同じところ=第一回で述べたところ=に戻るのですが、要するに4スキルズをやるにしても何にしても、そのベースになる基礎体力・基礎知識が十分になかったら意味がないし、こういった基礎体力を養うにはどうしたらいいかといえば、それは結局「量」であり、クソ勉強であるよ、と。






 さて、いつもように「勉強せえ」だけで終わってしまったら詰まらんので、もう少しスピーキングのことについて書きます。
 スピーキングの「実力・能力」というよりは、「ちょっとコツ」みたいなものですが、少し書き出してみます。

 「キーワード」に意識的になること。ある文章を伝える場合、この単語がなければ意味が通じないという重要単語と、そうではなく単に手続きみたいに言う言葉があります。実際に喋る場合、この重要単語だけはしっかり伝えなければならないので、発音やアクセント、タイミングなどで、この重要単語を際立たせて、相手に聞き取りやすく喋ってやると通じやすいです。例えば「いつ海に行きますか?」と聞かれたときに、I would like to go to the beach tomorrow/「明日行きたいです」と答えるときに、一番大事なのは、明日/tomorow ですよね。"I would like to go to the beach"なんてのは、ある意味、言ってもいいし、言わなくてもいい部分です。だから喋るときも、「あいどらいくごとざびち とまろう」と強弱の変化をつけたほうがいいです。しかし、つい平板に言ってしまったり、さらに陥りがちなパターンとしてはこの正反対に、「あいうっどらいくとぅごうとぅざ--」と最初ばっかり威勢が良くて、肝心なところになると息切れしたりして、声が小さく聞き取れなくなったりします。特に、日本人は I would like toがなんだか知らんけど好きなようで、何を喋らせても「あいうっどらいくとぅ」ばっかりで、しかもそこしか聞き取れないからなんだかよく分からんってこともあります。

 こういったメリハリの付け方は、上に述べたように音声の強弱や速度のメリハリのほかに、手続きフレーズと重要フレーズの間にひと呼吸を置いたり、タイミングを見計らったりという、時間的なメリハリもあります。また、重要フレーズになったら、顔をあげてじっと相手を見るとか、身振り手振りのジェスチャーをくっつけるとかいう、動作的なメリハリもあります。

 どうでもいい部分は大胆に省略してしまうってテもあります。「英語は必ず主語がつく」といわれてますが、これも現場では主語なし言葉がガンガン喋られてます。言わなくても分かるんだったら省略しちゃえってことですね。これは、上記の「A異様に文語的格式的表現なので口語的なカジュアル表現にならない」にも関連しますが、大胆に切って捨てることもストリート英語においては必要な場面もあります。例えば、「なにかお飲み物はいかかがですか?」でも、丁寧に言えば Would you like to have some drinks? a cup of tea or coffee?と聞きますが、くだけた間柄になるにつれ"want some drinks?"っていう場合も多いし、もっと端的に"drink?""beer?"って語尾上がりに単語一ついうだけで通じさせちゃったりします。


 このあたり専門的に喋りをやっている人、それは例えば役者さんであるとか、漫才や落語などあるいは司会業などステージで話芸を披露する職業の人もそうでしょうし、普通の会社やビジネスでも、営業やってた人は上手だと思います。下向いてボソボソ聞き取れない声で営業やってたらしょうがないですからね。また、社会に出てある程度エラくなってくると、人前で喋らされる機会が多くなります。講演まではいかないにしても、結婚式のスピーチなんかもやらされる機会が増えるでしょう。

 余談ですけど、大体結婚式のスピーチって、20代くらいの同年代の友達連中は、内容的にはぶっちゃけ話が多くて面白いのですが話し方自体はヘタクソで、これが30代、40代の上司になってくるとさすがに慣れているというか上手になりますね。しかし、これがまた60代以上のもっとエラい人になると面白くなくなるケースが多い。あれ、なんででしょうね?おそらく緊張感がなくなるからじゃないですかね。一番エライから何を言ってもわりと許される部分があるから、エンターティメントに徹するというストイックさが薄くなって、単に自分の言いたいことを延々述べる、それが聞いてる人間にとって面白いかどうかなんかあんまり考えなくなるんじゃないかって気もしますね。他山の石として自分も気をつけなきゃなって思います。何を喋っても許されるというか自由度が高くなると、人間というのはつい気が緩んで、聞き手に奉仕するという精神が緩むという。

 さて、このようにメリハリをつけるためにも、今から自分が喋ろうと思う内容のなかで、いったい何がキーワードになるのか?これは常に常に考えておくようにするといいです。習慣にするといいですよ。でもって、この種の訓練は日本語で出来ます。明日からでも、今からでも、あなたが誰かと話をするときにすぐに始められます。なんとなく漫然と喋るのではなく、意識的になる。そして、この練習は、英語の練習でもあると同時に、日本語の練習でもあります。話し方が上手であって悪いことはないでしょう?





 次に、なんの話をしているのか分かりやすくする必要があります。リスニングの章でもやるつもりですが、リスニングというのは基本的に推測力です。「多分こんなこと喋るんだろうなー」という推測が当れば聞き取れるし、まるで違う推測をしてると聞き取れない。サッカーのPK合戦みたいなもん、とかよく例に出しますが、キーパーがヤマはって「右だ!」で飛んで当れば取れるし、外れたらまるで取れない。これは日本語でも同じで、まったく突拍子もない単語を意表をつかれてぼっと言われたら、「え?なに?」って聞き取れないです。海に行ってきたとかいう話をしてる最中に、いきなり「ニンジャヤシキ」とか言われたら、「え?椰子の木?」と思うでしょう。「忍者屋敷」のことだってすぐにはピンとこないと思いますよ。

 逆に聞き取ってもらおうと思うのだったら、相手の推測しているだろう範囲にボールの投げこんであげたらいいわけです。でも、これから初めて会話をするとか、どうしても全く違う方面の話をしなければならないというときもあるでしょう。そのときは、相手の推測力をこっちに向けるように、徐々に話を誘導していくようにします。そして、人間の推測、発想というのは、連想系ですから、連想の近しいものを並べていけばいいです。

 例えば、「トイレの水がうまく流れなくて困ってるんだ」という話をする場合、それは単純に雑談でいうときもあるし、家を借りてて不動産屋さんに修理を依頼するような場合もあるでしょうけど、いきなりトイレの水洗、これはフラッシュ/flsuhといいますけど、日本語発音で「フラッシュ」って言ったら、flushなんだか、flash(光)なんだか、frushなんだかわからんということになりかねないです。特に下唇噛んでのf音というのは僕らは苦手ですから、slash, slushに間違えられたり、trashになったりします。こういう場合に「誘導」が必要で、「実は今、家を借りてるんだけど、ちょっと問題があって、問題というのはトイレのことで、トイレの水がね、つまりフラッシュなんだけど」という具合に、徐々に展開していってあげたら相手もわかりやすいのですね。

 ですので、何をどの順番に並べていくと分かりやすいか、例えば大きな概念から小さな概念へ、一般的なものから特殊なものへ、日常的なものから非日常的なものへという具合に工夫されるといいと思います。

 話の順番といえば、複雑に入り組んだ内容をどの順番で説明するといいかという点もあります。あと概要や整理、まとめをすること、比較連想でビシッと分かりやすい比喩を言うとかもあります。まず話のテーマをビシッと掲げ、要点を整理する。話が入り組んできたなーと思ったら中間整理をし、最後にまた総合整理をする。「要するにこういうこと」という話の骨子を明確にし、これは幹の部分、これは枝葉の部分、これは余談、というようにメリハリをきかせるとわかりやすいでしょう。





 いずれにせよ、これらは「英語の勉強」というよりは、日本語も含めて、口頭における言語表現の問題であり、同時に対面コミュニケーション技術の問題でもあります。普段から、「あいつの話はわかりにくい」「なにが言いたいのかいつもよう分からん」とか言われているのであれば、きちんと話す癖をつけ、練習されるといいと思います。プレゼンなんか最たるものでしょうし、上司に決裁を仰ぐときなんかもそうでしょう。多忙な上司に相談するにしても、その時間的余裕は15秒とか30秒くらいしかない、だからその短い間にいかに要領よく、簡潔に、正確に、内容を伝達するかです。

 同時に営業トークや、カウンセリング、座談などのように、無駄なことを沢山喋って場をリラックスさせていくという技法もあります。「いやー、しかし、なんですねー、今年はなかなか寒くならないですよねー」とかね。

 また、相手の立場、性格、志向性などに応じて、会話の論理性と情緒性のミックスレシピーを変えるなどの技法もあるでしょう。弁護士として仕事しているときは、同じ案件のことを喋るにしても、裁判官相手に喋るときは論理性重視でテキパキ喋り、依頼者を相手に喋るときは情緒性重視にしたりします。「社長!男でしょうが?」みたいな言い方ですね(^_^)。

 なお、余談ですが、これら「いかに分かりやすく伝達するか」の技法を全部逆にやるとどうなるかというと、話はわかりにくくなります。敢えてそれをやるような場合もあります。つまりは都合が悪いので話を誤魔化すような場合ね。相手の舌鋒の矛先をいなして、うやむやにしてしまうとか。政治家なんか得意そうですよね。「いやあ、きみい、ぶわっはははははは!」って豪快に笑って、「ところでね」と一気に話を変えちゃうとか。あんまり誉められた技法ではないですけど、実際の交渉術とか、ビジネスなどでは必要とされる場面も多いと思いますよ。


 いいスか、僕らは英語がヘタクソなんです(ヘタクソじゃない人、ごめんなさい)。ヘタはヘタなりに努力しないとならない。英語そのものを勉強するのは勿論なんですが、完成を待っていたらいつになるやら分からない。だから見切り発車で現地を日々生きていかねばならない。片翼のエンジンが壊れた飛行機を操縦していているようなもんです。場合によっては尾翼が折れたりしている。しかし、片肺飛行でヘロヘロになりつつも、それでも飛びつづけなければならない。海外で暮らすってのはそーゆーことだと思うのですよ。毎日がエマージェンシーというか(^_^)。

 で、英語がヘタだったら、英語以外の部分でも最大限努力して通じさせようとしなきゃいけない。伝達するため、コミュニケートするために利用できるものはとことん利用し、改善できるものは改善すると。そしてその改善努力は、日本におられる今この瞬間から出来ます。職場でも、友達と一杯やるときにでも、「もうちょい、分かりやすく喋れないかな」「もっと整理して、もっと楽しく、もっとユーモラスに、もっと奥が深く」と、「もっともっと」と自分に課するといいです。その成果は、英語になって現れるでしょうし、それよりも先に日本語会話の日常生活でも現れてくるでしょう。


 というわけで続きます。
 あ、そうそう、よいお年を!(^_^)




文責:田村

英語の勉強方法 INDEX

(その1)−前提段階  ”量の砂漠”を越える「確信力」
(その2)−波長同調
(その3)−教授法・学校・教師/スピーキングの練習=搾り出し
(その4)−スピーキング(2) コミュニケーションと封印解除
(その5)−スピーキング(3) スピーキングを支える基礎力
(その6)−スピーキング(4) とにかくいっぺん現場で困ってみなはれ〜二つの果実
(その7)−スピーキング(5) ソリッドなサバイバル英語とグルーピング
(その8)−リーディング(その1) 新聞
(その9)−リーディング(その2) 新聞(2)
(その10)−リーディング(その3) 小説
(その11)−リーディング(その4) 精読と濫読
(その12)−リスニング(その1) リスニングが難しい理由/原音に忠実に
(その13)−リスニング(その2) パターン化しやすい口語表現/口癖のようなボカした慣用表現、長文リスニングのフレームワーク
(その14)−リスニング(その3) リエゾンとスピード
(その15)−リスニング(その4) 聴こえない音を聴くための精読的リスニングほか
(その16)−ライティング 文才と英作文能力の違い/定型性とサンプリング


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