ワーホリとは
ワーホリという制度
ワーキングホリデー制度というのは世界の先進国を中心に流行ってるビザの一種で、若い人たちに世界を見聞してもらおう、資産も乏しいだろうから現地で働くこともできるようにしてあげようという趣旨で、基本ホリデーなんだけど、ワークもできるよという「いいとこどり」の制度です。いい制度だと思います。
「ワーキング・ホリデー」では長ったらしいので、日本語ではよく「ワーホリ」と省略して言われます。コンビニエンス・ストアというのを「コンビニ」と省略するようなものです。「誰でもそう言う」ってレベルで現地では「ワーホリ」と言われます。。
いわゆる「ワーホリさん」とは、
Working Holiday Visaというオーストラリアのビザの一種類
(Subclass 417)を取得した人のことです。
※ちなみに正確に英語で言えば、Woking Holiday Makers あるいは Working Holiday Visa holders です。こちらに来て、”I'm working holiday."などと自己紹介するとfunnyなので注意しましょう。「私は大学生です」というところを「私は大学です」って言ってるようなもの。自己紹介するなら、"I'm a working holiday maker."です。
オーストラリアのワーホリビザは、オーストラリアが締結しているワーホリ条約締結国の国籍を持っていて、所定年限(18歳〜30歳=申請時点)であれば誰でもとれます。
オーストラリアの締結国はどんどん増えて、日本、イギリス、カナダ、オランダ、アイルランド、ドイツ、マルタ、韓国、スウェーデン、ノルウェー、デンマーク、フィンランド、香港、ベルギー、キプロス、デンマーク、エストニア、イタリア、台湾、そして中国(本土)も追加されました。さらに、ワーホリによく似た「Work and Holiday」というビザもあり、こちらは20カ国と条約締結しています。
ワーホリビザの貴族性
ところで「ビザ」とはなにか?
オーストラリアに入国するにはオーストラリア政府の許可が必要です。この入国許可、あるいは許可を証明した文書のことを
ビザ(入国許可証)と言います。オーストラリアのビザは細かく数えれば数百種類あると言われていますが、ワーホリはその中の一つです。日本人に関係するビザは、観光ビザ、学生ビザ、永住権、労働ビザ、退職者ビザなど多々ありますが、
ワーホリビザくらい使い勝手の良いビザはなく、その便利さと自由度は永住権に次ぐものだと言っていいでしょう。なぜなら、「働いてもいいし、何もしなくてもいい」ビザはワーホリと永住権くらいしかないからです(あとは投資家退職者ビザくらいか)。
観光ビザは働けませんからお金が無くなったらサヨナラです。
学生ビザは出席率も80%以上をキープしないとならないので、3ヶ月も4ヶ月もラウンドに出るということが出来ません。
労働ビザは、そもそも取るのが大変なうえに、クビになったらそれまでです。
その点ワーホリの場合は、同じ雇用先に6ヶ月まで、学校も4ヶ月までという制約がありつつも、働くことも、学校に行くことも、旅行にいくことも、ボランティアすることも、逆に何もしないことも出来ます。一生に1回(+1回)、1年(+1年)、30歳までという制限はありますが、申請すればほぼ誰でも貰えるという意味でもお値打ちなビザだと思います。もう
貴族ビザと言ってもいいです。これはワーホリ年限を超えて高い学費を払い、生活を縛られて(出席率とか)いる立場になったら痛感されるとでしょう。どんだけ安くて、どんだけ自由か。
遊び半分=ワーホリという認識の間違い
「真面目な人→学生ビザ、遊び半分な人→ワーホリビザ」という浅い認識があったりしますが、この場で改めてください。
永住権の戦略論のページにも触れましたが、ワーホリビザというのは長期的な戦略においてこそ威力を発揮します。なにしろ自由に働けるわけですから、先に学生ビザで英語を固めて、それから現地就職(スポンサーを探さないと労働ビザは出ないので難しい)の活動のためにワーホリ期間を当てるというやり方もあります。あるいは、自由にアボリジニの研究をしたいとか、アート活動について見聞を深めたいとか、個人のテーマを追求することが出来るのも、時間と自由度がふんだんにあるワーホリならではです。学生ビザではここまで自由ではないし、また労働ビザだと一日終わったら疲れ切ってバタンキューです。
またシドニー現地で活躍している日本人の多くは、実はワーホリあがりだったりします。ワーホリは、企業駐在のように大組織にお膳立てしてもらうわけでもないし、また学生ビザのように学校に行くのがメインというマニュアルがあるわけでもなく、異国にポツンと身一つで立っているという圧倒的に心細いところから始まります。そこから地べたを這いずり回るようにして現地の人々に触れ、現地の生活ノウハウを身につけのしあがっていくのがワーホリであり、本当の「現地理解力」ではワーホリさんがずば抜けて高いです。
日本で労働ビザや永住権取ってからこっちに来られるひとは、現地生活で煮詰まる可能性が高いです。どうやってオーストラリア生活を楽しんだらいいのか分からない。現地の知識も(BBQの楽しさとか)知らない、現地の人の行動論理や生活哲学も知らなければ、それは無理ないです。でもワーホリさんの場合は、労働ビザ、永住ビザと成り上がっていく過程で、それらを頭ではなく皮膚感覚で身につけてきますから、ネィティブが子供から育っていく過程によく似てます。それだけに現地の馴染み方や、楽しみ方もよく知ってます。
さらに、学生ビザのように「これさえやっておけばOK」という基準が何もなく、全部自分で考えて自分でカリキュラムや行動方針を立てないといけないので、個人のレベルでめちゃくちゃ鍛えられます。自立心は養われるし、ちょっとやそっとではへこたれないメンタルも身につきます(それだけに挫折率も高く、日本村から一歩も出られないで終わりってパターンもすごく多いです→だから一括パックやってるんですけど)。日本のベンチャー企業などでは、ワーホリあがりしか雇わないってところもあると直に聞いたことありますし、僕に対する「いい人いませんか」の問い合わせでも「ワーホリさんに限る」と言われたこともあります。まあ数からいえば非常に少数だとは思いますが、わかってる人はわかってるわけですよね。
ですのでビザによって個人の真剣度がわかるとかいう俗説は、ここで捨てた方がいいかと思います。それに一般論や他人がどう思うか?なんて考えても意味ないです。要は自分がどうするか?どうしたいか?どうすればいいか?ですから、そこにビザという制度があるなら、こんなものはただの「道具」「環境」に過ぎませんから、やるべきことは、その条件や使い勝手を徹底的に理解し、利用方法を自分で考えることだと思います。
オーストラリアのワーホリをめぐる変化
以下の資料は古くなったのでタックしておきます。毎年統計の傾向を追ってたのですが、2013年までで大体の傾向がわかったところでやめてます。
要旨を簡単にまとめておくと、
@、ワーホリ制度は世界に浸透しつつあり、利用者の数が増えてきたこと
A、日英など従来の常連国に加え、韓独仏の第二グループ、さらに台湾や他の西欧諸国など第三グループの進出など、ますますグローバルになる傾向があること
B、EU危機によるヨーロピアンワーホリの増加の定着
C、2012年まで一貫して減り続けていたのは、実は日本(11707→7746)だけだったこと
D、しかし長期低落だった日本が反転して増加していること
E、中国系の爆発的な増加
などです。
以下、タックしておきますので興味のある方はお読みください
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2002-03年のオーストラリア政府が発行した全ワーホリビザ総数は8万8758、内訳はUnited Kingdom 3万9711、Ireland 1万1128、Japan 9711、Germany 7558、Canada 6230、Netherlands 5858 です。「ワーホリ」と聞くとなんか日本人ばっかりのような印象をもたれるかもしれませんが、日本人ワーホリは、この時点で全ワーホリ数の10.9%に過ぎません。ちなみに同じ時期に3万人のオーストラリア人がワーホリとして海外に出て行ってます。
翌年03-04年の統計によると、総数9万3760人中、一位は相変わらずイギリス 35061人、二位アイルランド12260人、三位に日本9943人、次にドイツ(9700人)、韓国(9,522人) 、カナダ(6517人)、オランダ(3036人)です。日本人ワーホリ数もコンスタントに増えてますが、全体はもっと増えてますので、日本人率は10.6%まで下がりました。
この時点では、まだ日本は不動の三位をキープし続けていました。しかし、、、
ここ10年の傾向〜韓国→ヨーロピアン→中華系ワーホリの波状的激増、そして日本の反転増加
2013年〜2013年6月までの集計によると、
なお、オーストラリアの予算年度(ファイナンシャル・イヤー)は7月〜6月なので、「2012−2013年」というのは「2012年7月1日から2013年6月30日まで」という意味です。
2003年以降の主要国の変動を以下に表にしてみました↓
ここ数年の傾向を言えば、まずワーホリ総数の増加です。2004-05年に10万人だったワーホリ総数は、9年後(2012-13年)には約25万人、
約250%増というすごいことになってます。
しかし総数以上に特筆すべきは、各国の変化です。
首位は不動のイギリスが保持していますが、2位以降がガラリと変わりました。
韓国、ドイツ、フランス、そして台湾、香港、イタリアの伸びが著しいです。特に2002年にはトップ5にも入っていなかった韓国の伸び率は驚異的で、第5位に食い込んだ2003-04年(9522人)を基準にしても、06年までの2年間で250%増、2008年では400%増です。一方、ドイツとフランスも、ここ数年で2−3倍に増えています。
しかし、それ以上に凄いのは台湾で、2004年には資料にすら無く、2005年ようやく739人だったのが、今や日本の3倍以上の3.5万人、増加率はなんと4800%(48倍)で、不動の二位だった韓国すら追い抜いてます。これを追うように香港もめざましく、たった6年で10倍。またイタリアも最初はボチボチだったのですが、直近2-3年の伸びが凄まじい。対前年比の増加率は、イタリア66.4%、台湾59.7%、香港52.5%とこの3か国が2012-13の台風の目になっています。
なお、ほかにもワーホリ制度の広がりとともに、エストニア、ベルギー、キプロスもめざましく増加しています。あと、ワーホリではなく"work and holiday"ビザというのがあり、2007年からアメリカ合衆国も条約締結しているのですが、去年の統計では6800人も来ています。
一方、10年前からの老舗国をみると、年度による上下動はありつつも、アイルランドは約2倍に増え、イギリスやカナダも少しづつですが増えています。
肝心な日本はどうなっているかというと、二回目ワーホリ実施時期に一瞬増えるのですが、その後2011年まで一貫して減り続けていました。この時点で一度も増えてない国は日本だけです。
二回目ワーホリですが、開始直後の2005−06年度では2679人に過ぎませんでしたが(11万4000人中)、以後7790人(12万7000人中)、1万1816人(14万232人中)、2万1727(18万7696人中)と年を追うごとに増え、2011年には2万5000人ということでやや減少してます(もっともこれは、前年のリーマンショック減少が1年のタイムラグを置いて生じているだけだと思われる)が、2012年には一気に3万0501人と前年度比35%増え、最新統計の2013年度になると3万8862人で前年度比27.4%です。
以上を大きくまとめると、まず長期的なトレンドでいえば、
@、ワーホリ制度は世界に浸透しつつあり、利用者の数が増えていること。
A、日英など従来の常連国に加え、韓独仏の第二グループ、さらに台湾や他の西欧諸国など第三グループの進出など、ますますグローバルになる傾向があること
B、一昨年までの5年間一貫して減り続けているのは、実は日本(11707→7746)だけだったこと
日本人の視点から見れば、オーストラリアのワーホリ全体で日本人の絶対数も相対比率も年々低下しているということです。ワーホリ総数20万人のなかで日本人1万弱ということは、日本人比率は5%以下。2004年までの10%水準からしたら半減以下で、そのくらい日本人ワーホリ環境は激変してます。いまどき「どこを見ても日本人のワーホリだらけ」等と言ってる人がいたら、それは「よほど特殊な環境」での話でしょう。
以上に加えて、直近2年の短期的&最新トレンドでは、新しく3つの特徴が見受けられます。
C、EU危機によるヨーロピアンワーホリの増加
学生ビザのところでも書きましたが、ヨーロッパの経済危機で若年失業率が軒並みあがり、多くのヨーロピアンがオーストラリアに来ています。また、その傾向も、これまでのような観光系ではなく、最初からシリアスに労働ビザや永住権を狙ったりしていると言われます。
直近2年での増加率を見ても、イタリアが2倍以上の伸びを示し、フランス、ドイツも堅調に伸び、なぜかアイルランドが直近に減っているものの、それまで微増減を繰り返していたイギリスは去年1年で5000人ほど増えています。
上は二回目ワーホリだけを取り出した国別推移表ですが、直近2年間の傾向を見て欧州各国はいずれも増えていて、「欧州ワーホリも長く滞在している」と言えます。伝統的に世界一周を当たり前のようにやっている彼らにとって、オーストラリアのワーホリというのは、世界一周の一環として訪れるようなもので、長々と2年も滞在する必要もないです。しかし、これだけ長くいるということは、(これは推測ですが)目的が資金稼ぎと職探しに変わっているのではないか(永住ビザのスポンサーを探すなど)。周遊目的だけだったらとっとと違う国に行った方が面白いですからね。つまり従来の遊興型→就活型に変わってきているのではないか?ということです。
D、長期低落だった日本が反転して増加していること
2011年まで「世界で唯一のひきこもり」だった日本も、2012年、2013年と反転して増えてきています。2年間で22%増加というのは、微増とか「統計のゆらぎ」ではない明確なトレンドだと思われます。おそらくは311地震の反動もあるのでしょうが。
一方学生ビザの項目で紹介したように、学生ビザ(ELICOS)の伸び率は2%という微増です。これは最新統計でもあまり変わっていません。
なぜ学生ビザがボチボチで、ワーホリビザだけがドカンと増えたのか?種々の要因はあるでしょうが、身近に接している僕の感覚でいえば、まずはワーホリの方がやりやすいからだと思います。一つは予算面です。日本の若年者の可処分所得は年々減ってきていて、留学はお金がかかりすぎる。大学に3年いけば生活費コミで1000万円前後のプロジェクトになってしまって、おいそれと出来ない。だから増えにくいし、留学するとしても予算の制約でフィリピン留学などに流れているのでは?と。一方、ワーホリは、その気になったらほとんど無予算で来れますし、賃金はこちらの方が高いから「出稼ぎ」すら出来る。日本で希望が見えないまま頑張ってるくらいだったら、こっちの方がマシではないか?という点もあるでしょう。その意味では、ヨーロピアンワーホリとまったく同じであり、先進国の若者の共通的特徴とも言えるでしょう。
もっとも話はそんなに簡単ではないです。ワーホリというのは自由に動き回れるので、これを上手に活用すれば、学校のお勉強よりもはるかに実戦力が付きますし、それが現場英語力のみならず人間力増強になり、結局は就活にも役に立ちます。このあたりを周到&クレバーに計算している人もいるでしょう。あるいは世界就職や永住権のワンステップとして考えている人もいるでしょう。実際、僕のところに来る人でも、英語の勉強「だけ」を考えている人は殆どいません。10年前よりも「海外で働く」ことが現実味を帯びてきています。それはもう「働きたい!」というよりも、好むと好まざるとにかかわらず「働かざるをえない(かも)」という感じ。
一方でますます管理閉塞傾向が強い日本でのリフレッシュ願望は、これもまた高くなっていると思われます。もともと息苦しさや閉塞感は過去20年間誰もが感じてたことなんでしょうけど(僕だって20年前に来たわけだし)、それがなんで一昨年くらいから目立って顕在化してきたのか?といえば、やっぱり地震や原発に象徴されるこれまでの日本型レール的人生設計に疑問を持つ人が増えたからかもしれません。
いずれにせよ一昔前の、「海外や冒険が好きだから」というワーホリから、よりシリアスでよりディープな動機が増えてきているような気がします。
E、中国系の爆発的な増加
中国系といっても、広大な本土は抜きにしての「台湾+香港」という非常に限られたエリアでの話です(本土にはまだワーホリ制度はない)。しかし、それですら、直近2年でかなりの存在感を示しています。2013年度統計では、台湾は韓国を数で勝って二位になってますし、台湾と香港を合わせれば4万7000人にも達し、一位のイギリスを超えてます。
台湾+香港の増加率は、直近2年だけで2.5倍、250%増です。上のほうでも250%という数字がでてきますが、これは過去9年間のワーホリ数全体の伸びでした。全体が9年かかって250%増になるのに、この二つはわずか2年で同じだけ飛躍的に伸びているという。
これで中国本土のワーホリが解禁になったらどうなるんだ?って思いますが、それをいうならインドワーホリもブラジルワーホリまだないわけで、ゆくゆくは中印南米全部解禁になって、いわゆる一般学生ビザのようなグローバルそのまんまになるかもしれません。よりリアルになっていいですけどね。
このような傾向を踏まえて、では、具体的に何がどう変わるのか、どう対処していけばいいか、そのあたりを次に述べます。
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