ELICOS(英語学校)・学生ビザとワーホリ、日韓の変化
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2010年以降、世界経済危機の直接のインパクトよりも、もっと大きなトレンドがあることが浮き彫りにされてきました。
移民局の資料をもとに、ここ数年間の推移をみてみましょう。
まず学生ビザ(英語学校=ELICOS=学生ビザのサブクラス570)の発給数です。
総数は、30,115(2007)→30,545(2008)→36,721(2009)→35,261(2010)→29,062(2011)→27,798(2012)→29,607人(2013)で、2010年からリーマン・ショックの影響で凹みますが、また回復基調にあります。また2010年に学生→永住権取得というルートが大きく変更されたことも影響を与えているのかもしれません(詳しくは
オーストラリア移住について参照)。
語学学校へ学生を供給するもう一つのビザとしてワーホリビザがあります。この趨勢は(詳しくは
ワーホリ実戦講座 1参照)、総数でいえば、136,422 → 154,148 → 187,696 → 175,739→185,480人→214,644人→249,231人となっており、4年前に一瞬凹むのを除けば、こちらの方はほぼ一貫して増加傾向にあります。特に直近2年の増加率はすごいです。
なお、オーストラリアの予算年度(ファイナンシャル・イヤー)は7月〜6月なので、「2011−2012年」というのは「2011年7月1日から2012年6月30日まで」という意味です。
日本の場合
2011年までの日本人の語学学校の学生ビザ総数は、
3709→2652→2699→2576→2412
と経済危機になる前からガクンと減り、以後はジリ貧傾向であることが分かります。下記の過去9年(2004〜2012)統計でみれば、なんと
57.8%減です。
ワーホリについていえば、11,707 → 10,599 → 9,324 → 8,079 → 7,746(2011)と、これも一貫して逓減していました。両ビザ合算数でいえば
日本人の数は5年前からガタ減りであったと言って良いでしょう。
しかし、
一昨年の2012年からは反転して増加傾向になってます。
学生ビザは2421(2011)→2579(2013)と2年で6%増加していますし、ワーホリビザは7,746人→9,162人と
2年で22%増加しています。
韓国の場合
ところで、2004年あたりから急激に増加して、当時の語学学校では「どこにいっても韓国人だらけ」と言われた韓国勢の動向はどうかというと、これがまた特殊な動きをしています。韓国人の学生ビザの発行数は8639(2007) → 6785 → 4969 → 3947 → 2707人→2159人→1120人(2013)、ワーホリビザについては、28560(2007) → 32635 → 39505 → 34870 → 30527 → 32591人→35220(2013)となっています。ここがちょっと面白いのですね。学生ビザについては一貫して長期低落傾向が続いているけど、ワーホリビザについては小刻みな上下動はあるけど学生ビザほど減っておらず、直近2年で盛り返しています。
なぜそうなるのか?よく分からんのですが、いっときの留学ブームの沈静化、為替の関係、韓国の現地での学生ビザ取得が難しくなったというビザ規制の変化(2012年に復活したが)など複数の要因が絡んでいるのでしょう。メカニズムはともかく、現象面でいえば、学生ビザからワーホリビザへのシフトが起きているということです。語学学校における韓国人比率は実際にはかなり沈静化していると思われますし、これは実際の僕の見聞にも合致します。「いっときほど”だらけ”ではない」と。
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ELICOS(英語学校)・学生ビザの国別交付数
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下の表は、2004年から2012年までの過去9年間における学生ビザで語学学校(570ELICOSビザ)を取得した人の国別数の増減変化です。
表が異様にゴチャゴチャしているのは、2011年以降から統計形式が変わって国外/国内と分けられ(且つ合算数がない)、従来との比較がしにくく、仕方ないので分かる範囲で僕が電卓叩いて合算数を出し、注釈や増減率とともに、これまでの表に書き込んでおきました。オリジナルの統計は
2011年度分と
2012年度分にあります。
しかし、2013年からは、さすがにもうやってられないので(書ききれない!)、統計どおりオーストラリア国内申請(ONSHORE)と国外申請(OFFSHORE)を別々に掲示します。
なお、下の表のクリックをしますと、世界50カ国の順位が全部載ってる大きな表にリンクしています。
さあ、これらの統計数値でなにがわかるか?
就職試験か、IELTSのライティングの試験みたいですけど、見てみましょう。
一見ゴチャゴチャしてて分かりにくいのですが、じーっと見ていると幾つか興味深いことが分かります。
ブラジル・コロンビアの南米勢
この両国の数と上昇率は凄まじく、上位1、2位を占めています
10年前は両国合わせてわずか1663人だったのが、今では1万0092人ですから6倍の伸びを示しています。10年前は「語学学校=日韓学生」だったのですのが、ここ数年は「語学学校=南米の学校」になっているという。
ただし、そのブラジルも息切れしてます。よくよく見るとブラジルのピークは2009年で、以後少しづつ落ちていってます。それに比べてコロンビアの伸びは凄まじい。10年前はわずか129人だったのが、今では4889人。増加率3800%!「なんじゃ、そりゃあ」って叫びたくなるくらいの伸び率です。絶対数は少ないですけど、チリも着実に伸びてます。50人だったのが、591人ですもんね。1200%増。ブラジルだって、トータルで2−3倍伸びているのだけど、勢いで負けている。昔は圧倒的に引き離していたコロンビアに、追いつき、そして追い越されている。
これは何を意味しているのか?推測するに、南米経済ではまずブラジルが突出して伸び、世界のBRICsの一角を占めるのですが、第一段階の急成長から第二段階のプラトーに入った。一方コロンビアやチリはまだ第一段階にいるってことでしょうか。
韓国の動向とタイムラグ
韓国のサムソンやLGが世界で華々しく成功する数年前、そのさらにちょっと前に韓国人の学生ビザやワーホリは爆発的に増えてます。つまり世界で売れるようになるために、ものすごいグローバル人材求人が起きて海外留学やワーホリが増えたのでしょう。「売れる」というのは最後の結果ですので、その準備段階で留学ブームになるのでしょう。では、今現在も売れているのに、なぜ学生数が減っていくのか?これも推測ですが、ある程度の安定段階までいってまうと、そんなに激しい求人はなくなり、一握りの優秀な幹部候補生だけが求められ、むしろ二極分化していくのかもしれません。これは「世界経済的に成功すると本国内の所得格差が広がる法則」に呼応しているのかもしれません。
EU危機の影響
これはハッキリ出てきてます。ヨーロッパで職にあぶれた若者達が、かなりシリアスに職を求めてオーストラリアに留学・ワーホリに来ている傾向は、アネクドータル・エビデンス(町の噂)では良く聞きますが、統計数値にも明瞭に出ています。2013年度だけで順位をつければ、OFFSHOREでスペインが7位(特に一昨年からの伸びが凄い)、チェコ8位、イタリア9位、スイス10位、フランス13位、ポーランド14位、ロシア16位、ONSHOEでは6位イタリア、7位スペイン、10位ギリシア、11位チェコ、12位ポーランド。一方欧州でも安定しているドイツの学生数はあんまり変わらないわけで、「はっきりしてるな」と思わされます。
世界情勢のビビットな反映
増加率が1000%(10倍)を超える国々すらあります。サウジアラビア(15倍)をはじめ、2倍以上を伸びを示している国だけでも、チェコ(7.6倍)、スペイン(5.6倍)があります。
しかし減っている国もありますし、激増→激減している国もあります。例えばリビアは最初14人だったのが900人を超えるという超激増だったのに、昨年は31人に超激減しています。言うまでなく政治情勢の変化でしょう。またトルコもいっときは850人ほどいたのが、今は見る影もなくなっています。
一方では減少している国もありますが、その代わりにワーホリ数が激増していたりもします。台湾ワーホリは739人→3万5761人と飛躍的に伸びていますし、タイも2005年からワーホリ(正確にはWork and Holiday)が始まっています(
参考)。このあたりワーホリ制度の広がりと学生ビザ数とは連動するので両方見ないと分らないです。
注目すべきは中国で、数年前から減少傾向にあります。ブラジルと同じく上昇期から成熟期に入りつつあるのでしょうか。ただし、ワーホリの部屋でも書いたように、ワーホリ制度のある台湾と香港ワーホリは直近2年で激増しています。
このように、世界の片田舎であるオーストラリアの語学学校にも、世界の潮流はしっかり反映されています。
「それがどうした?」というと、常識程度に知ってないとこっちに来た時に人付き合いに困りまっせというこというです。たとえばイタリア人相手に話をしてて、背景事情も全く知らなかったら話が噛み合いにくい。「へー、ヨーロッパって景気悪いの?」「なんで地元で就職しないの?」みたいな感じでは、それなりの付き合いになるでしょう。なんせどっか遠くの人の話ではなく、クラスメートの話なんだから。
ところで日本は
さきほど述べたように、長期トレンドでワーホリも学生ビザも両方減ってる国は世界でも日本だけで、本当にすごーく「珍しい国」でした。それが内向き志向だなんだ言われてたわけですが、それがここに来て何周回も遅れてようやくエンジンがかりつつあるかな?という感じです。もっとも、311地震の反動という点も否めず、それが喉元過ぎてきて、アベノミクスで微妙に景気よさげな気分もあるという昨今、それが来年にどう数字に反映されるのか、興味深いです。
★★★★★★
語学学校など全留学の底辺層に過ぎないこと
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さて、学生ビザというのは高校や大学、ビジネス学校もあります。語学学校(ELICOS)=サブクラス570は、全体のほんの一部に過ぎません。下のグラフ/表は、オーストラリアに滞在している留学生のビザクラス別構成です。これは発行数とは異なります。一般に語学学校の滞在期間は短いのに対して、大学などでは数年単位だから、リアルタイムに町にどれだけいるかをみるのは、発行数ではなく保持者数の方がわかりやすい。
↑上のグラフで、ドーンと多いのはサブクラス573番の大学です。その上の572は職業学校、つまりビジネス専門学校です。この二つがとにかく多い。3番目に多いのが大学院の574で、英語学校であるELICOS(570)はその次に来ます(グラフ一番下の赤の部分)。英語学校の留学生よりも大学・大学院・職業系学校の留学生数の方が圧倒的に多いのです。
この状況はしっかり頭に叩き込んでおいてください。
特にローカルでのアルバイト探しにおいては。
オーストラリアの留学生の中で、英語学校の学生の英語力は最下層と言っても良く(英語学校のかなり上級クラスを出ないと進学できないのだから)、それが膨大な数の先輩達を押しのけてローカルジョブをゲットするわけですから、しんどい話です。実際にはこれに、イギリス人やアイリッシュ、アメリカ人、カナダ人、NZ人という英語を学ぶ必要のない超強力な連中が控えていますし、さらにその上には地元のオージーの若者が数十倍のボリュームでいます。彼らが全部ライバルです。ここで、語学学校などという最底辺で頑張るわけですから、比喩的にいえば「幼稚園児が就活する」ようなものです。
だから難しいし、だからジャパレス止まりになって不思議ではない。しかし、英語学校でもレベル3(プリインター)くらいでもローカル仕事をゲットする人は幾らでもいますから、そこから先は「人間力」です。いずれにせよ、早く井の中の蛙から出てきて大海を知ろう、いや井の中に入る前に大海を知っておこうということです。「海外で働く」ってのは、一番楽チンなカジュアルバイトですらこのレベルであるということです。
↑上の表は、英語学校に限らず全学生ビザにおける国別数です。
中国とインドの二極支配が鮮明になっています。なぜ語学学校では少なかった両国が、全体になるとこんなに突出しているかといえば、彼らは国を出る時点でも既に英語はペラペラだったりするからでしょう。両国合わせて約3分の1を占めます。
一方語学学校では無敵の多数を誇っていたブラジル・コロンビアも、ここでは雑魚レベルになってしまいます。大学や職業学校に行くレベルの中国・インド系、そして新興の東南アジア系の勢いとボリュームに比べたらものの数ではない。
この「大海」になると、日本は全学生ビザ保持者のうち
約1.7%しか占めません。
そしてその多数は、語学学校、それも初中級クラスという底辺校のさらに底辺レベルにいるということです。いやあ、昔は下のクラスは仲良く日韓人が分けあっていたんですけど、ここ数年韓国人の英語力が伸びてきて、いまでは日本人の指定席みたいな状況になってます。いや、でも落ち込む必要は毛頭なく、地べたから這い上がってこそなんぼですよ。がんばろう、日本です。
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以上、総じて言えば、
@.学生ビザ、ワーホリビザともども長期トレンドとしてはおおむね増加傾向にある
A.韓国勢は一時期よりも沈静化している
B.語学学校においては南米系が多く、留学生全体で言えば中国・インド、東南アジアが圧倒的に多い。
C.しかしこれまで殆ど来ていなかった国々から留学生が、中印南米以上の猛烈な伸び率で増えており、経済成長が成熟化するに伴って学生数の伸びは鈍化する
D、EU危機に照応してか、ヨーロピアンの学生・ワーホリが急増している
E、日本だけは、世界の動向をまるっぽ無視で一貫して減っていたが、ここに来て(お尻に火が付いたのか)反転上昇傾向にある
ということでしょうか。
なんのことはない、グローバル経済が語学学校に「影響を与える」なんてレベルではなく、その動向がストレートに反映されており、更に言えばグローバル経済の明日を占うくらいの感じです。
では、語学学校選びにおいて、これらの変化をどう解釈すべきか
これを、オーストラリアの語学学校に行こうと考えている人の視点でどう解釈すべきかというと、まず第一に、
ここ数年でガラリと状況は変わっており、今後も変わり続けるということです。
典型的には「日本人の少ない学校」というやつですで、トータルで日本人学生の占める比率は減ってきて、それはそれで結構なことなのですが、しかし統計では分からない落とし穴もあります。
それは例えば、上にも書きましたが、
日本人が初中級に集まってしまうという点です。全体として少ないけど、自分の周囲にはやたら多いという感じになる。
また、
日本人が少なくなるとむしろ日本人同士固まる傾向があることです。
あまりのアウェイ感に圧倒され、「草の根わけても!」って感じで他の日本人を捜し出し、「少数民族が寄り添い合って」みたいに粘着性がむしろ強化されるという。嘘みたいな話だけど、あなたもこっちに来たらその気持が分かるでしょう。だいたいシドニーにいる日本人留学生・ワーホリ数は激減している筈なのに、日本人を対象にしたシェアや広告の質量は別に減ってもいませんしね。
日本人学生のトータル数は減ってきても、今度は
日本人がよく行く学校に集中する傾向もあります。ヨーロピアンや南米系が多い学校が良いかというと、それも一概には言えないからです。ひとつには事務がいい加減すぎて日本人のエージェントがうんざりするということもあります。さらに、アジア人需要(スピーキングが苦手とか、カルチャーショックで生活問題に対応するとか)に適応してなかったり、平気で遅刻したりカンニングしたりというファンキーすぎるノリについていけなかったりとか。
もう一点、2012年後半から反転して
日本人学生の質や内容が変わってきてます。一つは企業内研修で、30代から50代の中堅社員を海外進出のために語学研修に出すとか、大学生の就活スペックとしての短期留学とか、そういう新しい傾向で増えている部分があります。また、放射能や日本の先行きを懸念して海外移住を考える人も、ここ1−2年確実に増えれきています。
このあたりは本当に人によるのだけど、言えることは、
「日本人が少なければ良い」などという時代遅れのモノサシは捨ててください。日本人について問うならば、「日本人の数」ではなく今まで以上に「日本人の質」を問うてください。学校内外の圧倒的なアウェイ感に打ちのめされて日本人同士つるむ学生が多い学校と、アウェイ感を楽しんでいる学生が多い学校です。しかしこんなことを統計的に見いだすのはまず不可能ですし、見学においてもかなりの洞察力が必要です。
だから、日本人云々に囚われず、もっと本質的な「生産的な居心地」の良し悪しで決めた方がいいと思います。例えば、「他の国の連中が固まってるかどうか」というのも一つのポイントになるでしょうし、抽象的に言えば「全体に溶け合ってる感じ」がするかどうか。そのあたりの空気感や雰囲気を感じ、自分にとって居心地の良さそうな学校を選ぶといいと思います。疎外感に苛まれず、情緒不安定にもならず、かといってダレてしまうわけでもない、「あなただけのレシピー」がある筈です。