「ビザ取り学校」というコトバがあります。
オーストラリアに滞在する便宜のために学生ビザを取るための学校です。
「なに、それ?」という人のために説明しておくと、オーストラリアに滞在するためにはビザが必要ですが、取得可能なビザの種類は限られています。一般的に日本人に馴染みがあるのは、観光ビザ、学生ビザ、ビジネスビザ(労働ビザ)、永住権、さらに投資家退職者ビザなどです。観光ビザは取るのが簡単ですが、働くことは禁じられています。ビジネスビザや永住権は、
オーストラリア移住の方法論で述べたように、かなり狭き門です。投資家退職者ビザは資金や年齢など制約があります。
オーストラリアに留学やワーホリで来て、居心地がいいのでもっと滞在したいと思ったとします。しかし、ワーホリは最大2年ですし、30歳(申請時)という年齢制限もあってもう使えない。かといって永住権までの道のりは遠いし、スポンサーも巨額な資金もない。さてどうするか?となった場合、取りあえず手っ取り早いのが学生ビザです。
ただし学生ビザも楽ではありません。まず学校の費用がかかります。また80%の出席率をキープしなければいけないし、バイトも週20時間(ターム中は。正確には「2週で48時間」であり、2023年7月1日より2週で48時間に拡大))という制約もあります。しかし、それでも他のビザに比べれば遙かにハードルは低い。そして、学校によっては、学費も安く、また授業数や宿題もそれほど厳しくなく、自由になる時間が多いものもあります。多くはビジネス学校と呼ばれる職業系の専門学校です。一般の語学学校は授業数が多いし、学費が高い。大学は自由度は高いけど学費も非常に高く、また勉強がとんでもなくハードです。
ということで、学費も出席時間も「お手頃」な一群のビジネス学校があり、これが滞在延長を望む人々に利用されています。これを現地の日本人の間では「ビザ取り学校」と通称しています。学校側も(明確に認めるわけはないけど)、ビザ取り学校であることをセールスポイントにしているフシもあります。もちろん、移民局もかなり厳しく監視の目を光らせていますし、抜き打ち検査や、強制捜査と問答無用の強制送還などをやっていますので、まるっきりのフリーパスという夢のようなビザ取り学校は現実には存在しません。が、「まあまあ使える」という一群はあります。このあたりはオーストラリアにある程度長く滞在している日本人(に限らないけど)だったら、誰でも知ってる/聞いたことはあるでしょう。
APLaCでは、もっぱら初めてオーストラリアに来た人達を対象にしているので、この種のビザ取り系の仕事は殆どないです。が、将来的に利用される人もいますし、また、そういう現実がある以上、これはこれでキチンと知っておいた方が良い面もあるので、一項設けて書いておきます。
ご利用は計画的に
ビザ取り学校は、モラトリアム学校でもあります。
永住権取得やビジネスチャンス、あるいは本気での進学など確たる意思や展望があるならともかく、そうでないなら初期の留学期限やワーホリ年限が終ったらズルズルとオーストラリアに居ないで、潔く日本に帰るか、あるいはさらに他国に向っていくのが本来の姿でしょう。ビザ取り学校というのは、そこを決めきれないで、モラトリアム状態を続けたいがための学校ということも出来ます。
オーストラリアは居心地いいです。僕だってたった半年の留学で永住を決意しています。当時は永住権が楽だったからスパンと取れましたけど、取れなかったら僕だって、「ちょ、ちょっとタンマ、もうちょっと考えさせて!」って感じでオーストラリアに居残ったと思います。だから、「もうちょっと居たい」という気持ちは僕にも非常によく分かります。
理解も同情もするのですが、しかし、だからといってモラトリアムが素晴らしいことになるわけでもないです。不良債権処理を見ててもわかるように、先延ばしにして良いことなど現実はあんまりないし、先になればなるほど加速度的に状況はしんどくなります。まあ、実際にビザ取り学校を考えておられる方は十分にそのあたりもお考えになっているとは思います。くどくど書くのもイヤらしいのですが、それでも、甘く考えている人がいるかもしれないので老婆心ながら申し添えておきます。。
もし永住権まで考えているなら
オーストラリア移住論でも書きましたが、もしあなたが永住権をお考えなら、ビザ取り学校に行く前に、今この瞬間からでも永住権を取るために何をなすべきかを超シリアスに考え、ビザの業者さんというプロの助力を仰いでください。もっとも成功確率の高い設計図を作り、且つ事情が変わった場合の変更プランのABCくらい作っておいてください。特に2010年のMODL廃止、2012年のスキルセレクトの施行と、永住権ルートも全く違ってきていますので、リアルタイムの精密な青写真を作ってください。なぜかというと、時間とお金が勿体ないだけではなく、場合によっては致命傷になりかねないからです。
例えば、「永住権のために学校に行く」というというルートは、かつてほどの輝きはありません。多少ポイント加算されますし、18か月のワーホリ類似の暫定就労ビザをくれますが、基本的にはそれだけです。多くの場合、移民局が出している職業リストを睨みつつ、実際の就職、スポンサーの獲得、さらにはスキルセレクトで声がかかる可能性を考えるなど、二重三重に網を掛けてコース選定をするべきでしょう。テキトーに値段で決めるなど論外(お金の無駄になり。たらダメです。総合的に考えて最も成功確率の高い学校とコースを選ぶべきです。そこから外れたコースをビザ取り学校で取っていても無駄です。この無駄はお金に限らず時間に響きます。永住権には年齢制限があり、申請時32歳までというのが最高点ですので、「とりあえず半年」なんてグズグズしているうちに取れるものも取れなくなってしまいます。今29歳だから大丈夫とかいってても、永住権を取るためのコースが2年あったりするので、その半年のロスが命取りになることは十分にありえます。
もう一点。ヘタにビザ取り学校に通ってたというビザ経歴があると、そのあたりは移民局もお見通しだから、「こいつはそーゆー奴(ビザ取り学校に通うような奴)」という妙な先入観を与えるリスクもあります。それが直ちに致命傷にはならないのですが、判断が微妙なところとか、案件山積みで審査に時間が掛かるようなときに後回しにされるとか、プラスに働くことはないでしょう。なんせ移民局の仕事ぶりは「微妙」というか何というか、永住権申請をしたけど3年間ほったらかしにされたという話も聞きますし。
もし何も考えてないなら
もうちょっと考えようね、悪いこと言わんし。
永住権や国際的に活躍するんだという希望(&覚悟)がそれほど強固ではなく、いずれは日本に帰国するんだろうなあ、、くらいの気持ちだったら、早く帰った方がいいかも。なぜなら「オーストラリアに居たい」というのは「日本に帰りたくない」というのと多くの場合表裏一体であり、帰りたくないと思う分だけ、日本に帰ったときの適応可能性が減ってきてます。つまり居続ければ居続けるほど帰りたくなくなるという麻薬的側面もあるわけです。これはモラトリアム一般に共通する陥穽(落とし穴)ですけど。とりあえず半年で、半年が過ぎたら「もう半年」とかやってるとキリがなくなります。
一方時間が経過するにつれて状況は悪くなります。最終的にやっぱり居続けたい、永住権が欲しいと思ったとします。しかし永住権には絶対的な年齢制限があります。1秒でも早くやり始めた方が成功確率が高いし、後になればなるほど絶望的になっていきます。次に日本に帰国した場合の身の振り方ですが、とりあえず就職という面でいえば、日本における暗黙の年齢制限である35歳を越えてしまうと厳しくなります。ですのでズルズル引き延ばしても「利息」が嵩んできてデッドエンドに突き当たります。学生ビザの延長+延長にしても、今度で6回目とか、7回目になると、移民局から拒否される事もありますし、No Further Stay(これが最後の一回で次はないよ)スタンプを押されてしまったりします。
だから麻薬的なのですね。気持ちいいけど、後になればなるほど止めるのが難しくなり、ついには人生滅ぼしかねないという。そうなると一発逆転を狙ったりします。オージーや永住権を持っている人と結婚して永住権をゲットするという方法です。婚活と就活とビザ活をゴッチャにしたようなアクティビティですが、この種の出会い系パーティーとか結構あるらしい(聞いた話)けど、成功確率はどうなんでしょうねえ。いい人と出会えて幸せになれたらいいけど、魚心あれば水心というか、キツネとタヌキの化かし合いというか、そういう人達を「食い逃げ」する輩もいるやに聞きます。上手いこと言って付き合って、でも結婚になるとウダウダ言ってやらないという。ほっとけば時間切れで相手は強制退去ですから、後腐れないですもんね。なんだかなあって気もしますね。
あと、「ビザをお金で買う」というのも出来れば止めた方がいいです。二回目ワーホリをお金で買ってバレて強制退去なる(結構聞きますよ)くらいだったら可愛いけど、偽装結婚で永住権という「ビジネス」があったりもします。でもなあ、これ日本人には向いてないと思います。「失うもの(未来)」が多すぎるからです。厳しい移民局の追求を、綿密な打ち合わせで乗りきって永住権が取れても、いつバレるか分からないでしょう?時々新聞などで、数十年前にビザの違法が発覚して退去させられている記事があります。45年前の不正が発覚してイギリスに送り返されたとか、子供はこちらに生まれたから市民権は持つけど両親だけ泣き別れで送り返されたとか。「血も涙もないんか」という気もしますが、「いや、それでいいんだ」とオーストラリア世論は肯定的です。どこの国でもイリーガル移民には非常に厳しいんです。時効がない(今この瞬間にも違法状態は継続している)から死ぬまで心が安まらない。こちらで幾ら成功しようとも、いくら子供や孫と幸せに暮らそうとも、ある日突然泣き別れってのはキツイですよ。年をとれば取るほどキツくなります。本人が固く秘密を守っていても、業者がパクられたら芋づるです。また、実際にあった事例ですけど、そのことをネタに脅迫された人もいます。それに、仮にナニゴトもなかったとしても、絶対誰にも言えない秘密を一生持つのは精神的にも辛いです。これも年取ってからキツくなるよ。でも、もしあなたがそうだったら、絶対誰にも言わない方がいいよ。どこから漏れるか分からんし、墓まで持って行け、と。
でもって、もしバレたら元の木阿弥というだけではなく、そういうレッテルが貼られ、テロ対策が国際的に進んでいる昨今、どこの国に行っても入国でトラブルになる可能性も無いとは言えない。オーストラリア入国の際の学生ビザ、ワーホリビザの申請書にも、「過去、外国で強制退去手続きを受けたことがあるか」という質問があり、イエスと書いたらヤバそうだし、かといって嘘を書いてバレたらもっとヤバそうだし。日本に帰国後頑張って就職して、これまでの経験や語学力を活かして国際的なビジネスをやろうという場合、行く先々で入国に不安を抱えるというのは、かなり辛いです。それが理由でクビになるかもしれないし。
こういった事柄が「失うもの」なのです。将来において積み上げた幸せが崩壊するリスク、です。なんだかんだ言って日本人にはまだ豊かな未来があります。可能性としてはあります。これが難民のように、本国にいても餓死するだけ、虐殺されるだけ、、というなら、どんな手を使ってでもオーストラリアに居ようとするでしょう。つまり失うものがない、というのはそのレベルでの話です。それからすれば、個々の日本人の未来なんか光輝いてますよ。頑張ればそこそこの所までいくだろうし、頑張る機会もまたある程度は保障されていますから。だから、この種のビザのチーティング(不正)は、日本から難民船がどんどん出てくるようになってきて初めて考えてもいいオプションだと思います、僕は。
では、どういう場合がアリなのか
やっぱり、「ちょっと、タンマ」系でしょうね。
上記のデメリットを百も承知、二百も合点していながら、それでも尚かつ居続けたい場合です。その具体的内容は、個々の人々のパーソナルライフに関わることですので、さまざまでしょう。何が良くて、何が悪いと言うこともないです。そんなの自分の人生だからお好きになさったらよろし。
でも、まあ、とりあえず考えられるとしたら、オーストラリアにも慣れたところでもう少しステップアップして、「海外で働く」ということをある程度形にしてみたいとか、自分で納得するところまでやってみたいとか。あるいは、こちらに恋人が出来て、直ちに結婚というのは距離があるんだけど、もう少し育んでみたい、大事なことのような気がするから「はい、タイムアップ!」みたいな終わり方をしたら一生悔いが残りそうとか。あるいはもっとポジティブに、新卒者永住ではなく、こちらで雇用主を捜してビジネスビザにアップグレードし、さらには雇用者指名永住権に至りたいという場合。はたまた、ここにいたって「もっと勉強したい」という意欲が湧き、かといっていきなり大学というのはハードルが高いし、何をやりたいかも今ひとつハッキリしない。だからもっとゆっくり考えたい。
いずれにせよ、何かのために時間が欲しいって感じでしょう。別に確固たる形になってなくても、日本でのこれまでの疲れが十分取れていない、癒しやリハビリが足りないと感じる人もいるでしょうし、もう少しすれば自分が何か変われそうなきがするって人もいるでしょう。別に誰かに説明する義理もありませんから、そこらへんはご自身でゆっくりお考え下さい。
さんざん書いたようにビザ延長はモラトリアム麻薬の恐さもあるのですが、それさえ知っておれば別にそれでいいです。尾崎豊の歌詞に「少しくらいの時を無駄にしてもいいさ」という一節がありますが、本当、そうですからね。でも、それって結局は無駄ではなく、大事な時間だったりするのですね。
さて、能書きが長くなりました。以下、実際のビジネス学校のメカニズムというか、どういうカリキュラムでどのくらい安いのかという実際的なところを見ていきます。
→2.ビザ取り学校の実際
関連記事(2020年06月):IT系ビジネス学校の話(その1〜その3)
30歳過ぎてからオーストラリアのビジネス学校でIT系に行くというのは意味あんのか?という超リアルな視点から、永住権と帰国就職を両方にらみつつ、実際に学校見学をし、かつ現役バリバリのIT業の先輩からのアドバイスを。