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今週の一枚(2018/08/13)



Essay 888:シドニー仕事事情〜ワークとライフのお手玉ジャグリング

 〜フリーランス×シェアリング経済×マックジョブの現場にて
 

 写真は、先週に引き続きマンリー。言わずとしれたNorth Head。ここはいつ来てもいいですねー。景色というよりも圧倒的な開放感がいいです。
 ビルのシルエットは、左からシティ、真ん中がノースシドニー、右端がチャッツウッドです。

 仕事の話をします。
 先週のエッセイでチラと書きましたが、先々週から新しいバイトを始めてます。先週の記事で「最近の(オーストラリア)の若者は、仕事をいくつも掛け持ちして」という下りがありましたけど、僕も(若者ではないけど)似たような感じになってます。

フードデリバリーのバイト

概要

 かねてから書いているように、日系のクリーニングの仕事をステップストーンにして(履歴書に書くものがないし)、次にColesのトロリー回収業務をネパールやインドの大学院生とかと(他に地元オージーとか多数)やって、最近から第三のデリバリーのバイトも始めました。

 社名を出していいのかどうかわからんのと、言っても多分知らないでしょう(僕も知らんかった)からあげませんが、内容的には、自分の車で荷物を配達するものです。自前の車でやるという意味ではUBERに似てるんだけど、積むのが人ではなく商品、それも食品であり、完全 B to Bのホールセール(卸)です。僕がやってるのは、殆どがカフェ関係。つまり、どっかで夜中に作ったマフィンとかベーグルとかグルテンフリーのサワードウとかを取りに行って、どっかのカフェに届ける。

 Indeedとかの仕事探しサイトで見つけたのですが、完全カジュアルの請負コントラ(クト) or フリーランス的な仕事(だから雇用関係のあれこれは一切ないし、ガソリン代も自前)で、時給が30ドル。ガソリン代とか考えたら実際には25ドルを切るくらいだし、さらに車の減価償却(走った分だけヘタれる)を考えたらそんなに割は良くないです。

 ただし気楽ではあるのです。
 仕事を受けるか受けないかは前日に電話かかってきた時点で自由意思で決められるし、受けると配送リストが送られてきて、あとは一人で実行するだけ。本部と頻繁に電話したりするけど、ほんと自分一人がドライブしてるだけです。同僚いないし、上司もいない。ときどきカーステをガンガンにかけて一緒に歌ったり(笑)。

 UBERはやる気にならないけど、これはトライする気になったのは、がっちりまとめて仕事が入るからです。朝の5時から11時までだったら、その間みっちりあるから6時間で180ドル入る。ガス代差し引いたら150くらいかなって思うけど、早起きしてランチ前にあがって150だったら、まあいいかと。これが1件単位であったりなかったりだったら効率悪い。UBERでも自宅の近くから空港まで一件入ったところで、そのあと空港からまたお客を積めたらいいけど、そうそううまくはいかないだろうから、結局帰りは無駄に帰ってこなければならない。ガソリンも時間も空費する。そういうのがポツン、ポツンと入られても困るわけですよね。でもこれは、一回受けたら、間断なくべったとあるから時間のムダが少ない。

 あとはですね、いろいろ大変な部分もあるんですけど、基本、楽です。前のクリーニングの仕事でいえば、機材積んで指定された住所にいって、機材をおろして掃除をするわけなんだけど、これは指定された住所のところまでいって機材を下ろした時点で終わって、掃除をしないで帰ってくるだけでお金がもらえる。

 大変なのはシドニーのあっちゃこっちゃ行くし、1日で200キロくらい走るので、運転疲れはありますよ。まだ5回しかやってないけど、最初は、げ!と思いましたねー。在住の方ならご存知だろうけど、Church Pt(北のハズレのパームビーチの方)から、Pedle Hill(Blacktownのちょっと手前)までとか。ペンデルヒルって、マルタからの移民が多いエリアで、渡豪して最初の頃、全サバーブ制覇じゃとか言ってた頃に行きましたね。懐かしい。てか、20年前の記憶だから全然違ってて、あれ、こんなところだっけ?という。直近では、クロヌラまで二往復というのがありました。まあ、よく走る。


Church PtとPendle Hillのあった日のルートで、これでも半分ちょいくらい。前日にGoogleMapで予習したもの。


 それだけに色んな所に行けて面白いなというドライブ快感はあります。こんなことでも無いと行きませんからねー。チャーチポイントなんか完全リゾート村ですから、景色は綺麗だし。それに夜明け前にぶっ飛ばすのは気持ちいいです(いつか免停になるだろうなーって予感もあり、そうなったら辞めようかと)。


これはチャーチポイントの帰路、トイレ休憩のために入った公園で


これは夜明け前のMosmanの先っぽの公園カフェで開店するまで待ってたときに撮ったもの。星がヤバいくらいに綺麗だったですよ。

社会科見学

 一番おもしろいのは社会科見学みたいな部分です。1回に十数箇所、多いときで24箇所くらい載せたり下ろしたりするんですけど、ピックアップするときはマフィンとか作ってる食品工場にいくわけです。夜明け前のガラ〜ンとした工場のなかにトレイがおいてあったり。あるいは「え、ここで?」という普通の民家も多いです。個人パティシエの人達が、自宅で作ってるんですよね。こんなんでビジネスになるんだーって。美味しかったら客もつくわけで、大体女性の方が多いんだけど、まだ20代くらいの若いオージー(DJやってそうな雰囲気の)のカッコいいお兄さん二人でせっせとケーキ作ってるところもありました。これがまた、普通のオンボロシェアハウスみたいなところで、ピックアップするときに散々迷いました。本当にココかよ?って。でも、なるほどねー、そういうやりかたも成立するんだって目が開かれた。

 ああ、迷うと言えばこれが一番大変で、めっちゃ広い工場敷地とかあるんですよ。ろくすっぽ表示もないしね、どこにいけばいいのか途方に暮れるという。カフェもまたすごいわかりにくいところにあったりして、彷徨ったりします。そのあたりの臨機応変の対処能力というのは要ると思いますね。ただ、何度かやってると重複してくるので、どんどん楽になってきますね。

 あとは、行くたびに誰かに会うわけで、それがいいですよね。一人でやる仕事なんだけど、1日で十数人以上の人と話ができるのは楽しいです。基本こっちはいい人が多いし、話してイヤな思いをすることは少ないし。先日も夜明け前にグルテンフリー専門の店にいって、「もうちょっとで出来るから待ってて」と言われて、そこのオーナーの女性の方とおしゃべりしてました。私も前はGlebeに住んでたのよ〜、11年も住んだわ、それからこっちに越してきて〜、日本からなの?親戚で一人日本人と結婚して日本に住んでいる人がいるわよ、旦那もねスノーボードで去年日本に行って、私は残って仕事よ仕事、とか。喋りながらテキパキとキッシュやタルトを作ってるんだけど、はー、こうやって作るんだーって、見てたらめちゃ美味しそうで。それにオーナーで店構えて、昼間にとりにいくと6−7人の従業員雇って忙しげにやってるけど、こんな朝の5時前から一人で起きてやってるんだ、大したもんだとか。

 あるいは、中小企業みたいな工場では、実直で善良そうなおじさんとその息子みたいなのが一緒にやってたりして、「働くおじさん」のリアル版みたり。あとですね、最近流行り系のオーガニックとかグルテンフリー系の製造にせよ、カフェにせよ、韓国系や中国系はあったけど、なかなか日系はいない。もっともっと参入していいんじゃないのかなと思った。

 そのような社会見学みたいな部分が面白く、それが面白いからやっているみたいな感じです。ひとあたりコツを掴むまでは固めてやって、あとはボチボチにしようかなと。

素人でも(だからこそ)出来るIT業態

 この会社、カフェ業界では結構知られているようで、活用されているようです。最初トレーニングということで、タウンホールにある指定されたビルに行きました。社長らしい人が出てきてあれこれ説明するんですけど、まだ20代かな、30代いってるかなって若い男性でした。ビジネス的に興味があるのは、このシステムなんです。今だから成立するんだろうなって。

 こういう運送系というのは古い体質の会社が多く、日本でもタクシー会社や運送会社での事件とか見てると結構労働環境が悲惨で、過労死とかもあるし。でもこの業態は、運送系の素人、つまり「運ちゃん」系ではない普通の人がメインになるし、普通の人でも出来るように設計されている。最初のトレーニングのときに集まったのが8-10人くらいいたけど、地元オージー系が多かったかな。そういう場にいるというのが、また新鮮でした。いかにも車が好きそうな中東系のお兄ちゃんもいたし、身体に軽い障害があるらしく、自分のペースで在宅勤務(これも一種の在宅みたいなものですからね)の収入源を探しているらしいオージーの女性の方とか。

 で、なるほどねと思ったのは、まずひとつはコンピューターの活用が半端ないこと。道順とか振り分けという業務は、AI(までいかなくても普通のソフトでも出来そう)で一瞬にして決められるはずです。日本のどっかの農協かなんかで配送ソフトのデモやってる記事を見たことあるけど、「1秒でできちゃうからプレゼン映えしないんですよ」とソフト会社の人が言ってたのが印象的で。つまり、経営者も素人であっても配送計画が立てられる。これまでは熟練労働といってもいいくらいそこが難しかったんだけど(4時間くらいかかってたそうな)、今は1秒でクリア。

 次に、優秀な配送ソフトとスマホのアプリがあります。これがまた、重いわ(フリーズしがち)、電池食いまくるわなんだけど、ずらっと配送リストが並んで、どっかをクリックするとGoogle Mapなどに連動して行き方を教えてくれる。着いたら、写真とってサインもらってというのもソフトの機能に付いている。ちゃんとサインを貰わないと次にいけないように組んであるから忘れようがない。また、GPSとの関係で、あと15分くらいになると、自動的に配送先に連絡がいくようですね。でもってUBERのように配達員が感じ悪かったとか良かったとかいうコメントも出来るみたい。

 HQの方では、刻々と送られてくる写真やら現在位置やらで連絡がなされる。HQは全員女性みたいで、女性以外と喋ったことない。あ、けっこう電話するし、手加減なしのネィティブ英語メインなので、英語できないとそこは辛いです。また、サポート体制も結構しっかりしてて、朝の6時に「まだ出来てないとか言ってるんだけど、どうします?」みたいな電話をしても通じる。また、留守だった場合も連絡すると、HQから直に受取人に電話してくれて、意向を聞いて教えてくれる。

 思うに、これって社長から現場まで全員が運輸業界の素人なんじゃないか。食品流通のソフトを作る経験はあっても、運輸業そのものの経験は少ない。それでも出来てしまう。いや、だからこそ、業界ズレしてないからこそ新鮮な発想で出来る。

フリーランス×シェアリング経済×マックジョブ

 先週書いたけど、今の世界の時代の流れのなかに、フリーランス化の流れがある。僕のように、多少収入が不安定になろうが、自分の時間やライフスタイルを優先させたいからカジュアル形態を好む人が世界的にも増えてきている。どっか企業に勤めて忠誠心で一体化するのではなく、ライフとワークの距離関係をつねにコントロールしていきたい人達。その一形態としてのシェアリング経済。一方企業にしても、自社で全ての配送車を購入・リースする経費、維持費、そして固定的な雇用人材の確保と福利厚生などから免れるメリットはでかいです。だからこそクライアントにとって、かなり競争力のある価格設定も出来るんだろうし、魅力的な配送システムを提供できるのでしょう。

 ドライバーにしても全員スマホを使いこなせるのが前提だし、そういうシステムを理解できる人がくる。またクライアントも、そういうシステムであることが理解でき、また見てるとグルテンフリーとかオーガニック系が多く、多少高くても質がいいものをという系統が多い。カフェでもお洒落で流行ってる店が多い。オーダーもスマホアプリからやるのがメインのようだしね。つまり上から現場まで、そしてクライアントまで、ある程度は先進的な層がやっているんだろうなーと。旧態依然とした発想だったら、わからないと思います。

 ところで今更ながらネットで検索してみたら、結構メディアにも取り上げられていて、食品卸売におけるアマゾンを目指すという。Menu-log(オーストラリアの大手オンライン出前システム)の共同創始者の一人が、あと二人と組んで、2億円ばかり調達してきて立ち上げたものらしいです。よくよく内容をみると、デリバリー会社なのではなく、アマゾンや楽天のようにオンライン市場になっている。ただし内容が食品の卸になっていて、買う側としてもロットが大きい(カートン単位とか)。売る側も気楽に参加できるんだけど食品業者としてのライセンスみたいなものはいる。

 これの良さは、ガレージカンパニーやホームクッキングのような人達の売る場所を提供する点にあるのだと思います。その意味では、ホテルや旅館のように業者ではなく、普通の民家を提供をするシステムであるAirbnbに近い部分がある。だから買う側としても、ユニークな商品や経験が欲しく、そこに新興の小さなホームクッカーが参入する余地がある。起業のアドバイスとか経営コンサルみたいなこともやるみたいです。デリバリーはその一環でしかない。多分収入は、出店料とか売上マージンとかで取っていて、配送料もセラーが負担するのだと思うけど、契約内容によっていろいろなパターンがあるのかもしれない。

 もとがソフトエンジニアだから、かなり工夫がされている。売買においてもバイヤーとセラーが直にオンラインチャットできるような場を設けてみたり、セラーにおいて注文の受付締切を個別にセットできたり、配達はいつになるかも設定できたり、UBER的に配達の車が今どこにいるのかがGPS表示されてみたり。自分でシステム組めるだけあって、そこは強いですね。ただ配送ソフトは世界的に有名なソフトを使ってるみたいですけど。

 Airbnbにせよ、UBERにせよ、もともとやってるのはソフト屋さんです。既にIT業というのは、頼まれてソフトシステムを組み上げるような川下でなく、自分らで画期的なソフトを作り上げて、それを使って実際に自分らでビジネスをしてしまうってところに来てるし、そこまでいかないと本当の旨味は無いのかもしれません。つまりシステムを組み上げる部分にポイントがあるのではなく、システムを組めるからこそ、「こういうことが出来る」という発想のわくが広がり、ゆえに他人が気が付かないニッチなビジネスチャンスを見つけられるって感じでしょうか。

 でもって、これがこれからの世界のビジネスの一つのパターンになっていくのだろうと。IT化というのは、それまで熟練の専門業者がやってきたことを、因数分解のように個別のタスクに分離していき、誰でも出来るレベルにまで落としていくことではないか。いわば「マックジョブ製造過程」といいますか、複雑な専門熟練労働工程を分解して並べ替えることで、誰でも出来るようにする=マックジョブ化させていく。と同時に、これまではあまりにも複雑で出来なかったことを出来るようにして新しいビジネスモデルをつくっていく。

 こういうのは多分、日本人よりも欧米人の方が得意だと思います。ずっと前に「性賢説と性愚説」という7回シリーズで書きましたが、「全ての人は名人になれる」「人というのは本来賢いのだ」という大前提で仕事や社会のシステムを組んでいく日本型と、「完全な人はいない」「全ての人はどこかしら愚かで不器用である」という大前提で社会の設計をしていく欧米型。数十年スパンの厳しい修行の末に神業レベルの居合抜刀術を極めようとする日本と、女子供でも引き金をひけば人が殺せる銃火器を発達させた欧米との発想の差です。もともと欧米流というのはマックジョブ志向なのでしょう。誰がやってもそこそこ出来るように組んでいくことこそ科学技術や上級管理者の腕の見せどころであり、「下の頑張り」に期待しない。誰でも90%くらいは成功できるように最初から組んでおき、あとの10%は別系統の強力なフォロー修正体制を構築する。

 その差が、末端労働者においてすら、仕事に対して深い精神性や人生性を追い求める方向になるか、しょせん仕事だろ?とそこまで魂の熱量をこめない方向(魂は家族や趣味の領域にとっておく)になるかの差につながるのでしょう。また、常々述べているように、日本の末端労働者のレベルは世界でも突き抜けて高いが、上級になればなるほどレベルが下がる傾向に符号する。有名な話ですが、中国の高級官僚かなんかに「日本と交渉するときは上に行くほど馬鹿が来る」なんて言われてしまう(でも、そうだよな)。性賢説における上級者の本来の役割は、「どんな馬鹿でも名人にする」ことであり、そのために人生レベルにつきあって辛抱強く教え続けることなのだけど、今の日本社会でそれをやっている業界・組織がどれだけあるのか?です。伝統工芸・芸能とかそのくらいじゃないか。

 話が逸れましたが、世の中、シェアリング経済に並んでマックジョブの時代になるだろうなって前々から書いてますけど、それは単に人材使い捨てとかブラック化とかITによるリストラとか、そういったネガな文脈だけではなく、世界的にそういうニーズ==個の人生の可能性を広げたいから、仕事は自由度の高いカジュアル形態を好む=になってきているんだと思います。

 繰り返しになりますが、一つの会社、一つの職業に滅私奉公的に燃焼させるのも悪くはないが、個々人の人生の幅というのはそれに負けず劣らず広いものだし、自分の人生の可能性を自由に探求してみたいって人も増えている。また、それが可能になるくらいの技術的な環境も整ってきている。今やってるバイトだって、「全員がスマホを使いこなせる」という前提あってこそのビジネスモデルですからね。

 さて、そういった流れにおいて、僕らの課題は、誰でもできるようなマックジョブだけであっても、どう生計が成り立たせるかであり、そこにどういうライフスタイルを組み込んでいくかではないかと思わます。

 そのあたりが、実際に自分が現場にでて動いてみると体感的に分かる気がして、それが一番大きな点です。

シドニー仕事探しゲーム

 なんかやってるうちにゲーム感覚になってきてます。最初はドメインやサーバー変えたらGoogle順位が激落ちして、あかんわー、さっぱワヤだわ〜、このままいったらドボンだわ、なんかせなあかんわ〜くらいのところが出発点でした。

 だけど、23年社長だけ、こっちで雇われた経験ゼロって破滅的な履歴書では話にならない。なんでもいいからとりあえず「着火点」がいるわと思って、知り合いに頼んで日系のクリーニングの仕事しました。これはこれで学ぶべきものは多々ありました。良くしていただいたし、感謝です。ここではクリーング技術の奥深さを学ぶと同時に、在住日本人ワーカー、ワーホリさんとか、永住権もってる方のサイドワークとか、そういう感じのありかたも見せていただいた。なるほどこんな感じなのかと。

 んでも、クリーニングって職歴キャリアに書けるようになったせいか、単なる偶然かわかりませんが、それまで連敗中だったColesにも採用された。で、Colesで見聞できたのは、こちらの大企業の風土やシステムですね。給与体系とか全体のシステムとか。ここで会ったのは、地元オージーもいるけど、もっぱら留学している大学(院)生の皆さんで、ネパール人が多かったですね。ネパール人、ナイスガイが多いですねー。インド人もいるんだけど、真面目なネパール人から言わせると、あいつら要領かまして真面目に働かないとか文句言ってましたね(笑)。面白いもんだなって。

 で、今のデリバリーは、車持ってないとダメだということで、留学生よりも完全ローカルオージーにシフトしてきます。Colesのときは、皆の英語が訛ってて聞き取りにくかったけど、こっちはネィティブ過ぎて聞き取りにくいという。いい勉強になってますわ。

 こうやってステップストーンにステップストーンを飛んでいくわけですが、そういう過程そのものがゲーム的に面白いです。

 あんまり在住日本人でコレやってる人少ないみたいなので、いくつかのコツを書いておきますね。

すぐには決まらない

 ローカルの仕事の採用までは優に数ヶ月かかります。マックジョブであってすら、です。募集期間が2〜4週間くらい、それから選考があって、電話がかかってくるのが1−2ヶ月後ですよ。基本全部電話ね。だから電話英語がダメだったら、もっと授業料払って英語やれって話です。土俵に上がれないので。

 Colesは3月くらいから始めてますが、応募したのは年明けとかそのくらいです。電話インタでOKになったら、今度は実際に現場にいって現場のスーパーバイザーと面接してあれこれと。とりあえず「インダクション」を受けろと。inductionなんて英単語、初めて聞いたわって思ってたら、まあオリエンテーションですね。マッコーリーパークのビジネスビルの中にありまして、そこで受けました。

こんなビルがある

 2−30人くらいきてたかな。もっぱらインドとかそのあたりの学生さんが多かったんだけど、びっくりしたのは頭の良さ。結構細かいことをあれこれとプレゼンして教えてくれるんだけど、こっちはボケっと聞き流してて。あとになって「この場合はどうなりますか」とか仕上げテストみたいなので皆に聞いていくんだけど、もう全員即答で。すごいなあれだけの情報量一発覚えられるんか、君たちはって。でもこのインダクションにもちゃんと給料が出る。なかなかおもしろい経験でした。あ、会社のインダクションのなかに、労組タイムがあって、労組の人がやってきて、あれこれ説明して加入しましょうとかやってた。そのあとSMSが来て現場仕事になって、あれこれ最初に教えてもらって、あとは実地でGOです。

 今のデリバリーも、Colesが決まる前にくらいに応募して、忘れた頃に電話かかってきて、2−3インタビューして、じゃあ研修があるから出てね、メールで案内するからと。それが4月だったんだけど、予定が変わって1日ズレて、その予定がこっちには合わなかったので一ヶ月順延して5月に研修(てか1時間くらい話聞いただけだけど)。その頃になると、例の日本帰省とドバイ・スイスが迫ってきたので、「悪いけど今始めても1ヶ月ブランクあるから待ってくれない?」と連絡したら、いいよーって(そのあたりはフレキシブル)。戻ってきてからも本業が続いたり、あれこれ遅滞した事務があったりで、再開レディですよと連絡したのが先月の終わりくらいで、じゃあトライアルやりましょって話になったのが先々週です。

 なにをくでくで書いてるかというと、そのくらいのタイムスパンで動くということです。だから真剣に金に困ってから動き出したら間に合わないってことだけは覚えておくといいです。最低でも2−3ヶ月手前の段階で動き出す必要があります。

 感じとしては庭の花壇を作ってるような。種まいたり球根埋めても翌日に生えてくるってもんではないよ。早い段階で気にしておいて、いいなと思ったら、とりあえずツバつけのように応募しておく。

仕事の内容や企業文化

 日系のクリーニングは日系らしくアットホームな感じでした。まあ違和感がないというか、日本人なら大体わかるという。

 Colesは、システマティックになってるのが面白かったです。なんせ履歴書送ったりするのも、アカウント作って、スキャンしたPDFをアップロードして、他にIDとかも送る。と同時に、一種のテストみたいなのがあるのですよ。ビデオがあって、具体的なスチュエーションが流され、このときカスタマーに○○と言われたら、あなたはどう答えますか?(1)〜(3)のうちから選べと。これが結構悩ましい問題が多くて、うーん、何が正解なんだろ?って感じで、テキトーに答えたり。申請といっても、単に履歴書送ればいいって世界じゃないですよ。結構手間暇かかります。

 入ったら入ったで、トロリーならトロリーでこれだけは知っておけみたいなオンラインのビデオレッスンを受講したり、受講するもの数科目くらいあります。わりとお金をかけてビデオ作ってて、なるほど社員10万人ともなると、こういうシステマティックなことがいるのねーと思った。

 ただし、現場のマネジメントになると中間管理職、スーパーバイザー大変過ぎるなってのは感じましたね。シフト入れるのに結構苦労しているみたいですし、トラブル処理なんかもいろいろと。直によく呼び出してくれたスーパーバイザーは、もともと建築会社でマネージャーやってたオージーで、それなりの力量はあるみたいですね。でもなんか大変そうだったなー。

 僕ら現場の下っ端は気楽なもんで、顔見知りがシフトで会うと、ヘーイ!って大声で呼びかけてくれたり駄弁ったりして。違う会社、ALDIのトロリーやってるお兄さん(イランとトルコの混血だそうな)がまた陽気で、会うといつでも30メートル向こうから大声で「オハヨゴザマス!」で言ってくれたり。

 またしばらく見てると穴も見えてくるものです。ご存知のようにプラスチックバッグ(ビニール袋)全廃ってやってるんだけど、Colesのセルフレジにはグリーンバッグが全然置いてない。品切れになってるし、妙に高い保冷バッグ(デザインいまいち)ばっか。でもウールワースはどっさり置いてあって、そのあたりのマネジメントの上手下手はあるなーと。また朝令暮改みたいな意味ないシステムやったりとか、Colesはここ数年だいぶウールワースに負けてるらしいんだけど、なんか分かるわーと思った。今度はウールワース行こうかしら(笑)。

 デリバリーの方は、また全然違う企業カルチャーで、規模が小さいし、新しいから、大企業病みたいなのは無いです。フレキシブルだし、臨機応変にちゃっちゃとこなしてる感じはしますね。Colesのように金かけて教育ビデオを作って見させてとかは無く、要はアプリの使い方に習熟すればいいだけで、多少の注意点をマニュアルにしてある(イラスト満載で8ページくらいの)。あとは、きめこまかな現場連絡によるサポート体制を充実させて、とにかく現場であれ?と思ったら電話しろと、本部が全部解決するからって体制です。日本のダメ企業(上司)によくある「なんとかしたまえ」ってのは無い。

 これは多分、予想されるあらゆる局面、そして実際に生じた想定外の局面などを全部データーとして分析し、最適解を構築し集合知として一元管理しってシステム屋さんの発想がベースにあるんじゃないなーって思われます。全然違うから、面白いです。


探す場所

 カフェとかでいいんだったら、レジュメ(履歴書)もって現地突撃するのが一番効率的です。カフェの仕事もよく出てくるけど、シドニーのカフェの全体数と従業員の回転数を考えたら、あれっぽっちの数で収まるわけがないですよ。全体の1−2%くらいしか求人広告には出てこないんじゃない?圧倒的大多数は現場突撃による採用だと思いますね。

 Colesとか大きめのところは、自社のなかに専門の採用部門をもってるし、自分のサイトでも常に募集をしてます。例えばColesだったら、このページにでてます。これはNSW州のメトロ地区(シドニー)のものです。もうドドドと出てくるよ。

 あとはSEEKとかINDEEDとかがメインなところですかね。地道に見てるとぽこぽこありますよ。

 それと、日本語情報で仕事探すのは、それが好きでなければ、出来れば控えたほうがいいかもしれないですね。日本語っていうよりも「英語以外」です。こと労働環境や条件でいうなら、本流のローカルが一番いいですから。なのに、日本語なり中国語なりタイ語の情報で調べるということは、基本、英語が苦手だからって弱味がある場合が多い。そして、職場に限らず多くの人間関係というのは、ベーシックな力関係というのがあるのであり、そこが弱いとどうしても軽視される。「英語できないからウチで働くしかないだろう」みたいな構造がベースにあると、やっぱよろしくない。

 菊川さんがAPLaCの地域掲示板ご自身のサイトで書かれているように、アジア系雇用者は同民族に対して搾取する傾向があると言われます。僕が昔来たとき、チャイナタウンで時給2ドルとかいうクソJOBがあるとか聞いたこともある(まあ、都市伝説というか尾鰭がついてるのだろうが)。

 ただ文化的な背景もそうだけど、もっと大きいのは力関係だと思います。例えば日本国内で日本人同士もブラックが多いんだけど、全部がそういうわけではない。足元見られるようなところでは付け込まれるし、逆に雇われる側が強かったら殿様のようにふんぞり返ってるもんです。天下りの元官僚サンなんて、力(古巣の省庁に顔が利く)があるから、車の送り迎え付きで、重役出勤で、新聞読んだり碁を打ったりしてるだけで年収数千万だし、わずか数年で退職金も5000万とかもらって渡り鳥ライフやってるわけでしょう。

 エスニック系でもなんでも個々の雇用主は結構温情あふれる人がいたりもするんだけど、全体のカルチャーとか何となくの雰囲気がそうなってるから、限界はあるよなーって気もしますね。個々人の善意や好意ではどうにもなんないという。また、だからこそ他では雇ってもらえない人(英語的にも、能力的にも)でも雇われるというメリットもある。それがいやならとっととローカル攻略すればいいです。ただし、エスニックは同民族優遇という超アドバンテージがあるので、そうでないエリアにいくなら、難易度は格段に上がります。ライバル多すぎですしね。

 でも、こんなの所詮は仕事、つまりはゲームなので、そういうルールっぽかったり、そういう地形や環境だったら所与の前提として賢く動いた方がいいですよ。そこで世直しをしたいならそういうNPOの活動をすればいいわけで、単に自分が動くだけだったら、もっとも効率が良いルート攻略はなにか?を自分で考えて、自分で実験して、自分で見つけるしか無いと思います。それが大昔からのハンティング(狩猟生活)のオキテだろう。

 ともあれ英語がネックになるのは雇用主サイドも知ってるから、そこでわざわざ時間かけてまで採用手間を取ろうとは思わない。だから門前払いになるケースが多いので、それを突破するには、どんな小さな仕事でもいいから、完全ローカルの仕事を一つカマしておくと、英語は大丈夫そうだなって思ってもらえる(かもしれない)。全員がそう思う保障はないけど、そう思う人は増えるでしょうね。少しでも勝率があがるなら、やってみるべきかと。


組み合わせとワーク・ライフバランス

 仕事にはフル、パート、カジュアルの三種類あって、いわゆる正社員的に福利厚生がばっちりつくのはフルかパートです。こっちではパートであっても日本の正社員並みの待遇あります。フルとパートの違いは、要するに週何時間働くか、の差です。固定的に何曜日の何時って決まってるのはフルもパートも同じ。カジュアルは、その点がフリーで、毎週変動する自分の予定に合わせられるのが強み。そのかわり、こっちがやりたくても仕事が入らないことも多々あるし、入らないときは全然入らない。

 シフトなんかでもお気に入りというか、直近で指名したひとをまた指名する傾向があるみたいですね。僕の場合は、Colesで指名してくれたスーパーバイザーが転勤で他の地域に回されて(結構あるみたい)になってから、ぱたっと指名がこなくなりました。

 多分、全然お座敷がかからないときは、こっちから「今暇だから働けるよ」って連絡して、催促すればいいんだと思うのですよね。ただ、Colesも大体わかったし、今はデリバリーのほうが新しく面白いからそっちにいってるって感じです。

 今後、どっちもキープしようとしたら、どういう感じでなにをどうすればいいのか、そのあたりはさっぱり分からんので、研究課題です。まあ、そんなに頑張ってやらなくてもいいわけなんだけど(本業あるし)。それにこちらは職を転々としてても別に不利にもならず、どうかしたら有利になるかもしれないので、そんなキープ君に腐心するくらいなら、とっととまた新しい領域に攻めていくのも手です。どうしたもんかなーって。

 それにカジュアルって、別に終了時期が特にないのですよね。数ヶ月ご無沙汰でも籍は残るだろうし(1年以上になると抹消されるかもしれんが)。履歴書に書く分には、始点だけ決まってれば、間に実働やってなくても自動的に「キャリア○年」になっちゃうんですよねー。またColesみたいな大きなところは福利厚生(スーパー)とかつくし、それがメリットでもあるので、一つくらいは入れておいてもいいかとか。

 本業も含めて複数の仕事の出し入れをどうするかが結構難しいし、ポイントなのかなって気がします。まあ、でもね、起業(自営)してる人だったら、そのあたりはお手の物だと思います。自営というのは、収入ないときは、本当に数ヶ月ゼロが続いたりするんですよ。入ってくるけどトータルで赤字だから、ゼロ以下が続くとか。今日繁盛してても、あるときを境にパタッと止まることもありますしね。もうパチンコといっしょです。そのあたりの呼吸とか、大きなタイム感とかは、やっぱ自分でやって慣れるしか無いかなって思います。ずっと給与所得(サラリーマン)ばっかやってた人は、数ヶ月ゼロ収入になったらパニックになるかもしれないけど、その「潮の満ち引き」「呼吸感」みたいなのは慣れるべきかと。

 でも、お手玉ジャグリングをするにしても、タマは沢山揃えておいたほうがいいと思います。僕も、本業一本だけだったら煮詰まってただろうし、クリーニングを増やしてずいぶん自由度は増えたけど、あれだけやってたらまた煮詰まっただろう。Colesでドンと広がったけど、それも続けていけば煮詰まるし、今のデリバリーやって救われているという部分はあります。

仕事は面白いからやる

 なんかこうして考えてみると、「災い転じて福となす」「ピンチはチャンス」といいますが、本業にSEO危機がきてくれたおかげで、いろいろと新しい局面が開けてきてよかったです。

 でも最初は小銭稼ぎとか補填くらいの意味でやってたんですけど、だんだん意味が変わってきて、趣味みたいになってます。趣味は仕事をすることです、みたいな。

 もともとトロリー集めで一回2−3万歩歩くのも、趣味でWalkingやるのも変わりませんからねー。これ歩いてるだけだったら無駄じゃん、どうせなら歩いてお金入ってきたほうが一石二鳥じゃんみたいな。確かにあれで足腰がさらに丈夫になったというのはあります。前からGlebeからBurwoodまで歩いたりしてたんですけど、前は、たどり着いたら、「つ、着いた〜!」って感じなんですけど、先日ひさしぶりにやってみたら、あら着いちゃったって感じで、さてどうしようかなーって余裕。まあ、10キロ足らず、歩数にして1.6万とかそのくらいですから、どってことないです。

 Colesもデリバリーも、ランダムに地元の人に会えたり、話が出来たりするのが面白いです。別にmeetupとかに出かけなくても、仕事してればいいじゃんって(笑)。こっちの方が狙ってないだけに、ランダムすぎるくらいランダムで、いろんな見聞が広がりますから。

 こうなると、仕事に対する意識も変わります。面白いからやるという。本業は、前から書いてるように、あんまり仕事だという気がしません。少なくともお金儲けのためだけにやってるつもりはないし、自分で納得できないことはやらない。お金のために何かを曲げるというのはしたくないし、それをしたら、もう本業じゃないだろって思うし。

 でも、副業であり、単純に金稼ぎのハズだったものでさえ面白くなってしまうというこの不思議さ。

人生百年時代の後半戦


 これって、たぶんこの歳でやってるからそう思えるんだと思います。
 最近思うのですが、50歳くらいを区切りに前半・後半とわけて、前半のロジックと後半のそれとはかなり違うんじゃないかと。

 前半部分(50歳まで)で、「仕事に関するあらゆる付帯事項」を洗い落としてきてるから、単純に面白がってられるんじゃないかと。

 「あらゆる付帯事項」って何よ?といえば、仕事と自己とをひっつけるモロモロ全てです。こういう仕事をしてるから俺は一人前だとか、こんな仕事ではカッコ悪いとか、この仕事をしてると他人に自慢できるとか、これで俺の人生は勝ち組だとか、負け組だとか、成功したとか失敗したとか、そのへんの感情全てです。そんなのは50歳までに、やるだけやってきて、それで洗い落としてきたらいい。僕の意見では、それが50歳になるまでにやるべき必須過程だとも思うわけです。

人生下級生(50歳まで)の必須科目

 えーと、どうしようかな、人生百年時代の攻略法として考えてることあるんだけど、書き出すとまた一本分くらい長くなります。本論はまたの機会にしよう。ここでは結論だけ言っておくと、前半部分にやるべき履修科目があると思うわけです。

 それは何かと言うと、今まで考えられていた人生のイベント各教科(進学、就職、昇進・転職、結婚、出産・育児、その他)などは前半の基礎課程に入る。まあ全部履修しなくてもいいけど、大学みたいに言えば、一科目4単位だったら、最低でも2教科8単位くらいは履修してこいと。やったからといって凄く巨大な学びがあるってもんでもないんだけど、むしろ「なんだこんなもんか」と思うだけなんだけど、だからこそやっておけと。でないと、やってないことがコンプレックスや負い目になって、「逃した魚は大きい」的に(本当は小魚なのに)、後の人生、大きな虚しさと欠損感を抱くというハンデを背負いかねない。それを未然に防ぐためにはやっておけってことです。

 そして必須科目として、離婚、長期失業、鬱などメンヘラ、長期入院、起業と破産、近親者との死別(老齢以外)、リセットレベルの海外移住、自分あるいは近親者の服役(刑務所)あたりのうち一教科4単位くらいはやっておいたほうが良いと。良いというか、「必修科目」でしょう。

 なんで必須なのかというと、こういう破綻的な出来事は、人生のリアリティ=無常観を知るためには格好のイベントだからです。これを体験すると「油が抜ける」というか、いい感じにちょっと達観しますから。逆にこれをやっておかないと、塗り絵みたいな決められたことをやればいいんだという盲目的な人生観になりがちで、そんな硬直的な発想では、上級生(50歳から死ぬまで)の応用課題はこなせないと思うよ。

上級生の課題

 50歳以降は、出たとこ勝負というか、手なりで勝負というか、ありあわせでちゃっちゃと作るというか、これといって決まったパターンがないので、どんなことやっても面白がれるくらいでないとダメだと思うですよね。それに、「手なり」とかいっても、「ふーん、そう来ますか、じゃあこうしよ」って引き出しが豊富でないと立ちいかないです。

 なぜ50歳以降をそういう設定にするかというと、一つは経済的な裏付けが心許ないこと(年金とか悠々自適とかありえないレベルになってること)です。金があっても無くても、主観的なライフクオリティは一定水準をキープできるようにする。金が無ければ無いなりに面白おかしく愉快に生きていける方法を次から次に考えられるくらいの発想力と行動力がいるし、世界に対する審美眼もいるでしょう。

 もう一つは、これがもっと切実な問題なのだが、人生百年になってきたら「間が持たない」という点です。大抵のことはやっちゃってますしね。ありきたりな悠々自適に温泉めぐり、展覧会めぐり〜とかやってても、飽きると思うのよね。そんなカタログに載ってるような楽しみ方をやっても、本当に楽しいか?というと微妙ではないかと。もともと好きだったらいいんだけど、年取ってからとってつけたようにやり始めても面白くないよね。

 どんなことでも面白がれるというのは、自分だけの独自の視点や、オリジナルな楽しみ方を開発したからこそそう思えるのであって、お仕着せの既製服みたいなのでは、多分飽き足らない。50までの前半は、お仕着せの既製服をこそ着たがるお年頃だから、世間並みにやってみたらいいかと思うわけです。それをさんざんやってみて「ああ、なるほどこんなもんか」と思って、油が抜けて、煩悩やら迷妄やらから抜け出すといいです。そこで抜け出さないと、誰かの笛に踊らされるだけの人生になってしまってちょっと悲しい。あなただって、60になっても、80になっても、朝から晩までワイドショー見てなんだかんだ言ってるだけの人生とかイヤじゃないですか?

 でも、抜け出したら、今度はお手本のない世界、完全オリジナルの世界に突入するわけで、そこでモノをいうのは自分のワザや引き出しの豊富さでしょう。

 極論すれば、金がなくなってホームレスになっても、「おお、これから野趣あふれるワイルドなライフスタイルをエンジョイするぞ!」と超ポジティティブに思える、そして強がりではなく本当に自然体に楽しめてしまう人間になること。そういう人になることが、前半部分での課題ではないかと。そのための技術や知識、経験、スキルを蓄積しておくといいんじゃないかってことです。

 そして、後半になると、普通のマックジョブであっても、それなりに発見とか面白さとかあっていいですよ。悠々自適の老後というのは、もしかしたらそういうことを言うのではないのかな。お金を稼がなくても楽に暮らせるって意味ではなく、お金を稼ぐようなことでも楽しみにしてしまえる融通無碍な技術と精神ってことです。なかなか難易度が高いので、これでしばらくは「間が持つ」のではないかと。

 書いてて思ったけど、僕の発想って「老強説」ですよね。年をとるほど強くなるという発想。自分の経験では、実際そうなるし。でも世間ってなぜか「老弱説」ですよね。年をとるほど弱くなるという大前提があり、だから蓄えがいるとか、保守的になるとか、もう学べないとか、そういう話になるという。僕も昔はそう思ってたけど、自分が50過ぎてから思うのは、全然そうならないじゃん!って。

 自然現象として老齢弱体化するのは、おそらく老衰で死ぬ直近数年くらいのことだろ?それまではあんまり変わらん。それに人間のスキルはゴリラみたいに筋肉スキルの占める割合なんか数%以下であり、ホモ・サピエンスの強みはいつにかかって知性でしょうが(ゴリラだって本当は頭がいいし、ゴリラ個体の生存確率は筋肉よりもむしろ頭脳にかかってると思うぞ)。ボケない限りは知性は年とともに増強する。そうでなきゃ、教授や博士や社長や理事長や会長や最高顧問や師匠や宗匠が老齢であるわけないじゃん!こいつらが全員、ボクサーのように30歳になったら引退するっていうならわかるけどさ。また、そう思って精進してればそれほどボケないで済むでしょ。


文責:田村


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