第6章:交通機関
1996年10月29日初出、2010年03月15日更新
6.1. 徒歩
シドニーの交通機関は、バス、タクシー、電車、フェリー、レンタカー(ないし自家用車)などですが、フェリーがちょっと馴染みが薄い程度で、それ以外は、日本とそう大きく外見やシステムが違うということはありません。『タクシーかと思ったら全然違った』ということはないでしょう。そうはいっても、全く同じシステムというわけではありませんし、見知らぬ異国でいきなり交通機関を利用するのもなかなかに勇気のいるものですし、さらにより効率的に利用しようと思うならそれ相応の基礎知識は必要だと思われます。
まず最も基礎的な「徒歩」について述べます。
●信号について
歩行者用信号というのが車両用信号とは別に設置されており、赤は止まれ、青(緑)は進めというルールは日本と同じですが、細かなところで違っている点がありますので以下紹介します。
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最初にこちらの信号を渡っていて驚くのが、
青の時間が非常に短いということです。青に変わって2〜3歩進んだだけで、もう点滅を始めるものもあります(ちなみに日本と違って赤が点滅します)。「こんなに短時間に渡り切れるわけないじゃないか」と思うのですが、ただ点滅している時間は青時間よりもずっと長いので、点滅を始めたからといってそれほど焦る必要はありません。その代わり、赤点滅が終って赤のみになったら、ダッシュ!です。
しばらく暮していたらこのシステムの意味が分かりました。歩行者用信号が青のときというのは、同方向の左折車両に対しては「左折禁止の赤矢印信号」が出ている場合が多いです。つまり歩行者からしたら、死角となる右後方から左折してくる車を止めている間だけ、歩行者用信号が青になっています。
そして、道を半分ほど渡ったあたりで赤点滅に変わるのですが、これは左折禁止の赤矢印が解除されるのとタイミングが同じです。なぜそうするかというと、道を半分渡ればもう死角になってる左折車両と衝突する恐れが少なくなるからです。逆に、横断歩道の向う側からこちらに渡ってくる歩行者と左折車両が衝突する恐れが出てくるのですが、この場合は対面する関係になるので死角になりません。
ゆえに、「道を半分渡ったあたりでもう赤点滅になる」という現象が起きるわけです。
言葉にすると非常に分かりにくいと思いますが、まあ、そんなに分からなくてもいいです。「左折車両との関係」とだけ頭に入れておけば、あとは現場でなんどか渡っているうち、「ああ、そういうことか!」と分かると思います。
さらに歩行者用信号が完全に赤に変わってから交差車両信号が青になるまでの時間(この間自分と同方向の車両信号は青)がまた結構長いです。日本の感覚でいえば、「この信号壊れてるんじゃないか」「一体いつ渡れと言うのだ」というくらい歩行者は待たされる場合が多く(特に都心部)、歩行者保護思想が徹底しているのかもしれませんが、ここまでくると却って逆効果(信号を無視する人が増える)なのではないかと思われるのですが。実際、信号無視してとっとと横断しちゃう人も多いです。よく、「欧米人は信号に盲従せず自己責任で渡る」などと言われますが、もしかしたら信号システムにも原因の一端があるのかなという気もします。
もっとも、赤信号を渡るかどうかは、結局はその人次第で、赤信号でもさっさと渡る人もいますし、皆が渡っていても律義に待ってる人もいます。一人が渡りだしたら全員一斉に渡ると現象もあまり見かけません。気のせいかも知れませんが、僕の場合、こちらの生活テンポになれてくるにつれて、以前ほど赤信号にイライラしなくなって、呑気に待つようになった気がします。
ただし、十分に慣れるまでは、車両の流れや車両信号を見て、予測/見切り横断をするのは極力やめた方がいいです。なぜかというと、車両信号のサイクルが日本と違って複雑(先に青矢印の右折信号が出たり、また「赤矢印」というのもある)なうえに、各交差点毎にサイクルが違いますので、日本の感覚で安易に予測すると、早合点して間違える危険があるからです。信号サイクルは長年自分で運転してる人ほど無意識に染み込んでますから、特に意識的になった方が良いでしょう(僕も、一遍これで轢かれそうになったことがあります)。
歩行者用信号は、日本のように人のシルエットが描いてある信号もありますが、「DON'T WALK」「WALK」という文字が書いてあるものもあります(これも赤青の色分けで分かるでしょう)。
また押しボタン式(電柱などに無骨な円形の金属板がついている)になっていて、誰も押さないと車両用信号が変わっても歩行者用信号が変わらないのでいつまでも待つ羽目になることもあります。
横断歩道は日本と同じように横白線が入ってゼブラになっているところもありますが、多くは縦に白線が引かれているだけです。
車両の制限速度は町中で60キロ(50キロにしようという話もありますが)、郊外は100キロとなっています。道路が混雑気味の都心部から外れて郊外に出ると、遠くに見えている車も案外すぐにやってきます。日本と同じ距離/安全感覚でいると危険な場合もありますので注意。
横断歩道のある場所では、信号の有無を問わず、歩行者がいる限り、車両は必ず停止しなくてはなりません。したがって急ブレーキをかけてでも停まってくれます。これは歩行者としてはありがたいのですが、ご自身が車を運転するときは、是非気をつけてください。あとでナンバーを控えて通報されたりしますから。
●知らない場所への行き方(住所表示の読み方)
次に目的地の探し方ですが、これは「住所表示二大法則」を理解すれば、日本よりずっと簡単に出来ます。なにが二大原則かというと、
@法則その1:全ての通りに名前が付いている、A法則その2:番地は土地にではなく建物に付けられている、ということです。若干敷衍して説明します。
@法則その1:すべての道には名前がある法則
ほぼ例外はなく、路地裏から田舎の農道、人里離れた草原の小道まで名前がついています。
しかし思い付く名前にも限りがあるのでしょう、同じ名前の通りが幾つもあります。例えば前述の「シドニーの御堂筋」George Street(ジョージストリート)にしても、同じ名前の通りがシドニー全体でざっと70本あります。そこでまず同じ「ジョージ」でも、ストリート(St/Street)、アベニュー(Av/avenue)、ロード(Rd/road)、レイン(La/lane)などの細かな区別がありますし、GeorgeとGeorgesのようにスペル一つの違いで全く異なりますので、住所確認は正確にしておいて下さい。
したがって一般に通りの名前だけでは何処のことだか分からず、住所には必ずその後に「地区」の名前がきますので、それと合せて「○○地区の○○通り」となって場所が確定する仕組みになっています。
A法則その2:「地番」ではなく「建物番号」である法則
住所=地番(土地番号)というのが当たり前になってる日本人には新鮮なシステムなのですが、住所の番号は基本的に建物の番号になります。
通りの端から1、2、3と建物毎に順番に番号をふってあり、多くの場合建物自体に番号がプレートなどで打ってありますのですぐわかります。
番号は通りを挟んで交互に打たれてますので、片側の通りは常に偶数、他方は奇数という関係になります。
なお、市内などでは昔の家を取り壊して大きなビルを建てる場合があり、その場合にはそのビルだけで数個分の番号を占めます(表示される番号は一つだが隣との番号が飛ぶ)。例えば、34-38と表記し、thirty four to thirty eightと発音します。
フラット(マンション)の住所は、 12/124 berry St, と表記されますが、最初の番号が部屋番号(ユニットナンバーあるいはルームナンバー)、次の番号が建物番号(ビルディングナンバーあるいはストリートナンバー)であり、これは発音するときは、"unit 12, number 124, Berry St"といったりします。「Berry通りにある124番目の建物の中の12号室」という意味です。
余談:建物基本主義
オーストラリアでは土地よりも建物を重視し、不動産の売物件広告でも敷地面積はあまり表示されませんし(一等地のオフィスか、平方キロ単位の農地売買に登場する程度)、「坪○円」という計算の仕方もあまり見かけません。その代わり「ベッドルーム二つ」などの表示がなされます。つまり、不動産=建物という感覚で、土地というのは建物を乗せる土台に過ぎず、土地が独自に問題になることは少ないです。
建物に価値がある関係上、家を買って日曜大工で改装をすればする程、転売時の値段が上がる仕組になっています(だから売買も盛んですし、日曜大工もセミプロ並の人が多い)。また永続性の高い煉瓦造りですので築百年以上の物件がゴロゴロしてますし、新築が必ずしも高いというわけでもありません。建物が建ってるよりも更地価格の方が高い日本とはかなり感じが違うのですが、興味深いポイントでもあります。
これら二大法則を適用することによって、住所さえわかれば現場に行ってもほぼ確実に「この家」と確定ができます。ですので、第二章でも述べましたが、地図を買われるのであれば出来るだけ通りの名前が細かく書かかれているものが重宝します。(地図についてはワーホリ実戦講座地図の章を参照ください)。
※シドニー全域にわたって細大漏らさず全ての通りの名前が書かれているしっかりしたものは「Street Directory」と呼ばれる区分地図帳です。かなり分厚く巻末に通りの名前の索引があって便利なのですが、数週間の逗留でそこまで必要かどうかは行動予定にもよるでしょう。サイズも各種あり、20ドル〜50ドル程度ですが最新版でなくても良いというのならば、古本屋(至るところにあります)で買うともっと安く手に入れることができます。
なお、郵便の宛名などの住所表示ですが、日本は「東京都新宿区......」と大きい地区から順に範囲を狭めて最後に名前にいきますが、こちらは逆で、最初に名前→建物番号→通りの名前→地区の名前の順番になります。例えば、「Taro Yamada, 22 Roberts St. Camperdown、NSW 2050」と住所の意味は、「NSW(ニューサウスウエルス)州のキャンパーダウン地区にあるロバーツ通りの22軒目の家に住んでるタロー・ヤマダさん」という意味です。「2050」というのは郵便番号(ポストコード)です。
道に迷う理由
見知らぬ異国という条件を割り引いても、シドニーを歩いていると、よく道に迷います。車で見当つけて走っているつもりでも、気がついたら飛んでもないところに行ってしまったりもします。特に方向音痴ではないのにこうも道に迷うのは、やはりそれなりの原因がある筈で、参考になればと思い、少し考えてみました。
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地図で見ると近く感じても、実際に歩くとかなり距離がある場合も多いです。推測するに、これは区画が日本よりも大き目に作ってあるので、「通り三本(三区画)向こう」と言ってもその一区画が広いのではないか、当地での道と道との間に日本ならばさらに道が2〜3本くらい入っているのではないかと思われます。したがって、そもそも相対的に道の少ない当地の地図を日本の感覚で見ていると、「なんだ、すぐそこじゃないか」と思うのですが、いざ現場を歩くと、行けども行けども次の通りに辿りつかない、直感で適当に歩いていると結果的に小回りをしてしまい道に迷うということになります。
また、意外とシドニーは坂道が多いところです。小一時間も歩いていると結構疲れます。この疲労感もあって、「もうこの辺りだろう」と希望的推測で小回りをしてまた道に迷ったりもします。こまめに通りの名前を確認しておくと良いでしょう。
地図で見ると、特に都心部などは碁盤の目のように道が整然としているかのよう見えるのですが、実はそうでもないです。また、大きく湾曲していたり、微妙に斜めに走っていたりするので始末が悪いです。現場を歩いている限りは真っ直ぐ進んでいるように錯覚するからです。
住み慣れてこないと、どこもかしこも風景が似たりよったり(特に郊外住宅地)ですので、これも方向音痴になる原因の一つでしょう。どうしてこんなに似て見えるのかというと、@そもそも風景に慣れてないとどこを見ても「外国の風景」という具合にしか認識されないこと、Aなまじ煉瓦造りで耐久性があるものだから、その昔開拓時代にまとめて作った(造りも外観も同じ)住宅が多いこと、B目印になるようなマンションなどの高層ビルが少ないこと、C美観のための広告看板規制が厳しく、また自動販売機も少ないため、日本のように記憶のネタになりうるランドマークが極端に乏しいこと(特に住宅地)、などが考えられます。
もう一つだけ付け加えると、南半球ですので太陽が北にでていること。
以上の問題を回避するには、一にも二にも「こまめに通りの名前をチェックする」という方法に尽きると思われます。
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