第4章:宿泊
96年10月21日初稿、2010年04月15日更新

第4章:宿泊
4.1. 宿泊施設外での居住/賃借、オーナーチェンジ、ステイ、シェア、居候など



 日本人が旅行者としてオーストラリアを訪れる場合の宿泊といえば、圧倒的大多数が「パックツアーに組み込まれているホテルにそのまま泊まる」のではないでしょうか。それは確かに一番簡単で安心な方法ですし、費用的にも意外と安くおさまったりします。

しかし、それをするなら最初からこんなマニュアルを読む必要もないわけですし、数日泊のパックツアーで生活体験というのは日程的にも環境的にも厳しいと思われます。

 そこで、従来のパックツアーから一歩も二歩も踏み出して、「生活」領域に近づくために「それ以外の方法」を模索していきます。


まず最初に、発想の転換ではありませんが、「宿泊施設に泊らない!」という方向を考えてみましょう。


4.1.1. 家やアパートの賃貸借


 もし本当にオーストラリア人と同じように「生活」しようとすれば、家を借りるか、買うかすることになりますが、本書で予定しているケース(数週間から数ヶ月の生活体験)では、それはあまり現実的ではないでしょう。

 まず購入ですが、たかだか数ヶ月の滞在でいきなり家を買ってしまう人はマレでしょうし、買うにしても資金面での問題(オーストラリアの不動産は日本よりもずっと高い)、土地カンもなくいきなり買っていいのか、そもそも外国人不動産取得には制限があること、、などの問題があります。永住権や投資家退職者ビザを取られた長期滞在の場合は、生活”体験”ではなく生活そのものですから、購入は大きな選択肢になるでしょうが、それ以外のケースでは選択肢になりにくいでしょう。

 次に賃貸借に関しては、以下の実務的な問題が出てきます。

@.最低契約期間(半年など)の条件が定められている場合が多い
A.観光ビザでは不可とする場合も多い
B.電話や電気などの設定/解約手続などの事務上の煩わしさ
C.家具や食器類その他の生活用品の調達
D.帰国するときCをどう処分するのか?
E.昨今のシドニーでは供給不足気味で家探しそのものが大変

これらの点も別に「不可能」と言ってるわけではありません。@ADは「こまめに探す」「交渉する」ということでクリアされるかもしれません。CDはレンタル家具もありますし、コミュニティ誌の「売ります/買います」コーナー、東京マート(ノースにある日本食品雑貨専門店)の掲示板などを活用するという方法もあります。Bは、事務手続のいい加減さやシステムの違い(家具が届くのを一日中待機して待ちぼうけを食らう→よくある話)などで結構悩まされますが、別に不可能という話ではありません。

 さらに、こういった一つひとつの段取りのなかで「生活」することの新しい発見と喜びがあります。たとえば不動産屋の仲介手数料がわずか$15程度であったり、民族国籍を理由に契約を拒絶してはいけないなど、日本ではあまり馴染みのない局面に触れられます。また、具体的な家賃相場、部屋の広さと天井の高さ、築百年以上の煉瓦造りの家が何の問題もなく日常で使われていること、さらに中古家具が大量豊富に出回っていることなどなど。これらは、単に旅行者として通過していては決して見ることのできない「異文化生活の真実」でありますし、壁にぶち当たって途方に暮れるからこそ、なしとげた達成感もあるわけで、それこそが海外生活の本当の醍醐味でもあるとも言えます。しかし、そうは言っても、、、、

 限られた滞在期間でこれらの実務上の作業をクリアできるか?というのがシビアな問題になると思われます。入居と退去とで事実上「引越しを2回やる」のと同じですので、入国後/出国前の各10日間は事務作業に忙殺されることでしょう。もちろんこれらの作業は基本的には全部英語で行う必要があります。

 判断の難しいところですが、私見によれば、3ヵ月ないし半年以上の滞在を計画してる人、将来的さらに長期の滞在を考えている人は、これらの難関にトライする価値はあるとは思います。しかし、1〜2か月程度の滞在ならば、炊事設備付きの宿泊施設などを転々としてた方が色々な地域や情景が見られて面白いし、費用も安く済むように思います。


 なお、賃貸借を本気をお考えの方は→賃貸不動産の探し方をご覧下さい。

 参考までに2010年時点でのシドニーの賃借相場を書いておきます。

 結論的にいえば、日本よりもはるかに高いです。
 この原稿を最初に書いた頃は日本の経済力がオーストラリアも遙かに上回ってましたが、現在ではその立場は逆転し、オーストラリアの国民一人あたりのGDPは日本よりもずっと高く、したがって給料も、物価も、なによりも不動産が高いです。場所にもよりますが、築30年の2LDKのマンションが6000万くらいすると言えば大体お分かりになると思います。億を超える物件はザラです。

 したがって賃料もそれに相応して高いです。地域によって差がありますが、2ベッドルームで週400ドル前後程度でしょうか。安いのを探せば300ドル台でもあるでしょうが、上質なものになると平気で600ドルとか800ドルとかします。

 しかし、保証金は家具なしの場合4週間、家具付の場合は6週間分と法律で上限が定められていること、さらに不動産屋への仲介手数料が限りなく無料に近い(契約書作成費用が1000円ちょっと取られるだけ)、「外国人お断り」なんてこともないこと、などなどシステム的には日本よりもはるかに借りやすいです。詳しいことは「賃貸不動産の探し方」を参照してください。

 物件の広さを平米ないし「2LDK」とは表示せず、「ベッドルーム幾つ」で言います。「LDK」は通常は当然あるものとして考えられてますので、2ベッドルームで「2LDK」くらいに考えていたらいいでしょう。

 家賃(RENT レント)は週単位で表示されるので、単純に4倍にしても28日でしかなく、月家賃に換算すると計算が面倒臭いです。支払いは2週単位(フォートナイトという)が伝統的ですが、カレンダー月単位で払う場合も増えてきました。週家賃を月家賃に計算するのは、例えば週400ドルの場合、400ドル÷7(日)×365(日)÷12ですので、1783ドル10セントです。レートが豪ドル80円だとしても、約14万円ですから、いいお値段です。

 しかし、ホテルに1か月泊ったらこの数倍かかるわけですから、長期滞在の場合、やはり賃貸は有力な選択肢になるでしょう。
 もっとも、多くの賃貸物件は家具なしですから、これに家具を買い揃えて備え付ける手間と費用を考えたら、1−2ヶ月程度の滞在だったら、あとで述べるサービスド・アパーメント(アメリカ風にいえばコンドミニアム)の方がリーズナブルである場合もあるでしょう。

 
オーナーチェンジ
 もう一点、煩わしい契約事項や、英語の問題、さらに家具や食器などの什器備品の問題を一気にクリアする方法として、オーナーチェンジと呼ばれている方法があります。これは、不動産屋から正式に賃借した人が、家具や権利をそっくりそのまま譲り渡すことです。いわゆる「居抜き」ってやつです。法律上は賃借権の譲渡と、賃貸借契約における契約地上の地位の移転、さらに付随する家具等の売買契約がセットになっていることになります。

 オーストラリア住人間ではあまり聞いたことがないですが、在住日本人の間ではよく見受けられる方法です。家を借りて住み始めたものの、転勤や何らかの事情で日本に帰国せざるを得なくなった。終期がわかっていたら賃貸契約のそれに合わせてやり、什器備品は「帰国セール」やガレージセールで処理しますが、いきなりだと契約期間もまだ残ってるし、売却をやってる余裕もない、、などの事情が背景にあるのでしょう。まあ、そこらへんは人それぞれだと思いますけど。

 これは現地の日本人同士のコミュニティ掲示板、例えばJAMSなどが大きいですけど、Googleなどで「シドニー、オーナーチェンジ」で検索すればそこそこ出てきます。

 あとは日本人同士ですので、日本語で話を聞き、見せてもらい、個々の条件を詰めていけばよいでしょう。

 ただし、本気で法律的なことをアドバイスするとしたら、賃貸借契約書に載っている名義人と住んでいる人間が違うのですから、後々それが絶対に問題にならないとは言い切れません。契約終了時のボンド(保証金)の返還には契約名義人のサインが必要ですが、その頃になってサインが手に入らず困るとか、前の住人が壊した部分の補修代を請求されるとか、はたまたま勝手に賃借人を変えたというだけで契約解除されるかもしれません。こういうのは気にしだしたらキリがないのですが、普通に暮してる分にはそう問題はないでしょう。実際、あんまり深いこと考えずにオーナーチェンジが代々続いているケースもあったりします。キチンとやりたかったら、不動産屋に行って許可をもらい、契約名義人の変更(ないし追加)をしてもらうなどするといいでしょう。

4.1.2. ホームステイ/シェア

 留学生や若い人(に限りませんが)の場合、シェア、ホームステイという方法があります。シェアというのは、数人で一軒の家やマンション(フラットといいます)を借りることで、こちらでは至極当たり前のことです(男女が混在している場合も珍しくないですし、その方が互いに気を使って清潔で良いとも言われてます)。

 「シェアメイト募集」という広告が新聞に載ってますし、学校の廊下の壁、コインランドリーやスーパーの掲示板、町の電柱、至るところに貼ってあります。日本人用コミュニティ誌や日本人の行き付けの所(留学案内所や日本食品店など)にも在住日本人同士の広告があります。これはと思うところに電話で連絡をとり見に行く日を決めて、他の共同賃借人達と話してみて気に入ったら入居するという段取になります(相手にも断る権利はありますが)。この方法でいけば大体一週間1万円前後で、とりあえず住むスペースは確保できます。

 ホームステイは、ご存知のとおり、オーストラリア人の家庭に「間借り」して暮らすことです。

 どちらも主として学生や若者が多く利用していますが、別にそれに限るものでもありません。要は個別交渉で決まりますので、観光ビザでも問題ないでしょう。現地ではポピュラーな方法ですので、現地の常識として、また一つの選択肢として知っておかれると良いでしょう。

 なお両者の違いやシェア探しなどについては、

 シェア探し入門
 ホームステイの注意事項

 などをご覧下さい。

 居心地のいいシェアを見つけたら、それは生活"体験”ではなく、地元の人と一緒に日常生活と営むので非常に面白いです。また、費用的にもかなり安く済むでしょう。ホテルで一泊100ドルだったらかなり低廉な部類ですが、それでも週にしたら700ドルです。シェアで週700ドルも出したら、相当な豪邸に住めます。その半額週350ドルでも、かなりの所に住めます。


4.1.3. 居候


 その他、もっとも簡単な方法は、『現地在住の知人の家に転がり込む』という方法があります。ある程度の期間一緒に暮らしても大丈夫という貴重な友人に恵まれている方はこの方法が一番お手軽です(もっともそういう方はわざわざ本書を読まないかもしれませんが)。


 反面、一泊二泊はともかく、長期にわたるにつれ、人間関係が煮詰まるなどトラブルの話もよく聞きます。早い話が、あなたの家に知人が1ヶ月居候することになった場合を考えてみたら、なんとなく大変そうなのは予想がつくでしょう。来る人は「休日」モードであったとしても、在住してる人は日常生活をしてるわけですので、そうそう世話も焼いてはいられないでしょう。逆に、よかれと思っての世話が鬱陶しがられるなど難しいようです。

 「海外で暮らしているといきなり親戚知人が増える」というのは、日本人に限らないようで、知り合いの韓国人留学生は、ここを先途と殆ど切れ目なしにシドニー観光にやってくる親類縁者のガイドに振り回されて本業をやってる暇がないとボヤいていました。「ブルーマウンテン今度で4回目だよ!」とうんざりしていた日本人留学生もおりました。オーストラリア人が書いた「招かれざるゲストを追い出す方法」等という新聞の特集記事も読んだ記憶がありますので、事情は万国共通のようです。まぁ、そうかといって、誰一人訪ねてくれなかったら、それはそれで寂しいでしょうが。


 個人的にはその類のトラブルに巻き込まれたことはないのですが、海外にいても日本人は日本人、付き合いその他は日本国内となんら差はないと思います。


 次項以下、「生活体験」のためのより現実的な選択肢として、それ以外の方法、つまり「ホテルその他の宿泊施設を利用する」方法を考えてみたいと思います。



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