第5章:食事
5.4.自炊編(1)買出しに出よう
25th.Oct.96
「宿泊施設に泊まって毎日外食してるだけ」では、『生活体験』というにはまだちょっと距離があるかもしれません。そこで、もっとも生活感あふれる「自炊/調理」に目を向けてみましょう。オーストラリア/シドニーは、調理のし甲斐のある所です。なぜなら、調理のためにはまず自分で買い出しにいかないとなりませんが、出掛けて行くと、肉、野菜、魚などの新鮮な食材が安価で大量に並べられ、見たこともないような世界中の食材が売られているのを発見するでしょう。
僕も当初は暇があったら近所のスーパーに出掛けてました。未だに「ほお、こんなものがあるのか」という新たな発見をしますし、むしろ試したことのない物の方が多いです。普通の観光地よりも、この「買い出し」が既に興味尽きない冒険になることと思います。日本とは勝手の違った食材/調味料/調理器具を使って、日本では味わえないような料理にチャレンジしてください。また、いつも食べてる料理を外国で再現することも、一筋縄ではいきません。知恵と創造力のゲームです。
一番簡単に物が揃うのがスーパーマーケットでしょう。スーパーマーケットはどこの町にもありますので、見つけるのはそう難しくないとは思います。郊外にいくと、超巨大店舗施設(大きなスーパーが3店舗に小売店数十店、さらに役所の窓口や銀行まであるという一つの町のような施設もあります)。市中心部にはタウンホールにWoolworth(ウールワース)というチェーン店がりますし、チャイナタウンにいけば日本から空輸された食材などアジア系のものが豊富に置いてあるスーパー(「超級市場」)が何軒かあります。
オーストラリアのスーパーのメジャーなところは、前述のウールワースの他、フランクリン、フレミントン、コールズ、生鮮食料品以外の雑貨服飾などのターゲット、Kマートなどです。このようなメジャー系以外でも、町のよろず屋さんのような小規模のスーパーも多々あります。
店内の品揃えを細々説明していてはきりがありませんが、よくあるパターンとしては、入るとまず買物用カート(こちらではトロリー(Trolley)と言う)の置場があり(少量の場合は小さなカゴやビニール袋が用意されている)、生鮮食料品のコーナー(野菜から肉類、肉加工品(ハムなど)、魚、パン/パスタ類)があり、そこから缶詰・調味料・菓子類、さらに日用雑貨(石鹸、歯ブラシ)に続き、壁面冷蔵ケースには乳製品やチルド製品があるという配置になってる場合が多いです。
高くて長くて(日本人の感覚からすると)無骨な陳列棚には、本場インドのカレーのルーの缶詰、タイのインスタント食品、太さや形によって数十種類に分類されているパスタ、見たこともないような調味料やら缶詰やら、ちょっとした世界食品博覧会のようです。そのなかにキッコーマンの醤油を見つけて何故かちょっと嬉しかったりもします。陳列棚にはボコボコに凹んだ缶詰や、破れたパッケージの商品が平然と売られ、皆平然と買っていきます。しかしこれを「平然と」と感じるのは、僕が日本人だからなのかもしれません。
話題の内外価格差を知るにも格好の機会でしょう。オーストラリアは世界的に見ればそれほど物価の安い国ではないのですが(他国の留学生はみな「高い!」と憤慨していた)、それでも日本との差はまだ歴然とあります。オーストラリア米も当然に並んでて、500グラムパックから25キロパックまでありますが(普通のスーパーで売ってるのは2〜5キロパック程度まで)、圧倒的大多数がロンググレイン種(長粒米、いわゆるタイ米)で、日本米(ショートグレイン種、ジャポニカ米)は僅かですので(1ブランドしか見たことがない)買うときに間違えないように。もっとも日本料理を食べるとき以外は長粒種の方が合ってるとは思いますが、これは好み。大パックを買えば1キロ数十円程度ですが、そんなに食べきれないでしょうから、小パックでキロ100円前後というところでしょうか。
スーパーのレジ(キャッシャー(Cashier)という)の方式は基本的に日本と同じです。違うのはレジの台がベルトコンベヤー方式になってる場合が多く、そこに自分でカゴやトロリーから商品を取り出してどんどんベルトに乗せて、空になったカートはレジの周辺に戻しておきます。平日の通勤帰りの人々の買物量は知れてますが、休日の郊外の店舗にいくと皆さん纏め買いをしているので、カート山盛り状態(カートがまた大きい)でレジに並んでおり、一人10分近くかかったりします。そのため、よく「少数品目買物客専用レジ」が設けられたりしています。「9品目(アイテム/items)以下」「12品目以下」等掲示がなされています。
スーパーの他には、勿論小売店があります。八百屋さん、肉屋さん(ブッチャー)、パン屋さん、デリカテッセン(チーズやベーコンなど加工食品を売ってる、いわば「西洋乾物屋」みたいなもの。通称デリー)などです。
一般に日本と違うのは、日本は大体「100グラム単位」で値段の表示がされているのですが、こちらでは「1キロ単位」で値段表示がされています。だからといって、別に最低1キロから買う義理はありません。例えば野菜の場合、ピーマンやトマトを自分の欲しい分だけ取って(近くにビニール袋がありますので利用できます)レジに持っていけば、レジと合体した秤の上に乗せて計量しながら売ってくれます。ピーマン、ナス、キュウリなどは『なんだこれは?!』と驚くほど大きいですが味はまぁ同じです。ちなみにマッシュルームが「1キロ5ドル30セント」と言われても、「マッシュルーム1キロ」がどの程度の量なのかよく分からないので戸惑われるでしょうが、これはもう慣れるしかないでしょう(大体付近に秤が置いてあります)。
肉屋さんの場合、ショーケースにある肉から「○○を○○グラム」と指示するのは日本と同じです。品揃えがやや日本と変わっているのは、まず「薄切り肉」というのが存在しないこと。ミンチ(ミンスという)はありますが、あとは一番細かくてシチュー用の角切肉かビーフストロガノフ用の短冊型(それでも結構分厚い)のものしかなく、殆どがステーキ用です(また部位の種類が多いのですが)。そこで各人の工夫になるわけですが、例えばステーキ肉を半分チルド状に凍らせて自分で薄く切ってすき焼き用にするなど。ここでも値段はキロ単位表示ですが、グラムで注文できますし、またステーキなどの場合は重さというより枚数単位で注文したほうが分かりやすいでしょう。
魚に関しては、魚屋さんも町にはありますが(それほど多くはないが)、フィッシュマーケット/Fish marketを外すわけにはいかないでしょう。文字どおり「魚市場」でして、魚屋さんが何軒も並んでいる巨きな施設で、施設の中には、シーフードレストラン、寿司屋、八百屋、酒屋などもあります。場所は、都心の西南部の湾沿で、Pyrmont(ピラモント)という所にありますが、どんな地図にも「Fish market」と示されていると思いますし、タクシーでも「フィッシュマーケット」で通じます。観光地で有名なダーリング・ハーバーの裏手(西側)を約10分ばかり歩くと着きます(より正確にいえば、モノレールのハーバーサイド駅=ピアモント橋という歩行者とモノレール専用の湾を横断する観光用の橋を渡ったところ付近=からPyrmont Bridge Roadという通りを数百メートル進んで=坂を登って降りて、高速道路の立体交差の付近)。
ロブスターやマッドクラブなど著名なものだけでなく、マグロ、アジ、サバ、イカ、ウニ、カキ、サーモン(イクラも)、タイ、カツオ、ヒラメ、ブリ・・・・大体の魚はあります。オーストラリアというとつい南国のイメージがあり、魚は熱帯魚のようなものしかいないかと思われがちですが、シドニーの緯度(北と南の差はあっても)は日本とさほど変わりません。
さて、ここでもキロ単位表示が多いのですが、「何尾」「何切」(フライ用の切身など−カットレット(Cutlet)=カツレツの語源でしょう)単位でも買えますし、その方が適切な場合もあるでしょう。刺し身もSASHIMIと表示されて売ってます(マグロとサーモン、時折ハマチも。ウニは日本と同じく小さな木箱に入っています)。大きな切り身や、魚の半身がゴロンと転がっていて指示したグラム数だけ切ってくれますが、トロも赤身も値段は同じなので、トロが欲しかったら特に指差して「この部分!」と主張するように(既に短冊形に切ってあるところもあります)。グラム数切り取ったあと、店員さんが「スライス?」と聞いてきますが、これは切身を一口大に切ることで、頼めばその場で切ってくれます。ただ、切り方が、ちょっと日本とは異なり、チーズでも切るようにスパスパ切り、日本の刺身よりもやや小さく薄めですので、それが釈然としない人は後で自分で切りましょう。ちなみに醤油もワサビも生姜も売ってます。
タイなど大きめの魚を買ったとき、ワタ抜きと鱗取りをやっておくかどうか聞かれることもあります。このことを「スケイル・アンド・(デ)ガット?(Scale and (de)gut)」あるいは単に「クリーン(Clean)」と言うようです(あまり辞書には載ってませんが)。ロブスターを買ったときは、「半分に切りますか?」(カット・イン・ハーフ)と聞かれます。食べやすいように縦半分にカットするかどうかですね。
いずれも新鮮なので、刺身としてなじみのある魚は大抵自分で丸ごと一匹買ってきてさばけば食べれるようです(なお個人的には、イカ、アジ、カツオ、車エビ、タイは試して大丈夫でしたが、ヒラメや伊勢エビの活け造りなどは自分の技術が伴わず今後の課題になってます)。一般に魚調理のためには、一般に売られているこちらの包丁は不向きで(あまり切れない)、安物ではなくそれなりのものを買うか日本から出刃と柳刃包丁を用意してくると良いかもしれません(僕も持ってきました。来てくれたらお貸ししますが。なおフィッシュマーケットに調理器具を売ってる出店もあります)。包丁を機内手荷物に入れてハイジャックと間違われないように。
日本食については、お金さえ出せば(大体1.5倍〜3倍/結局運賃がかかるのでしょう)、そして質さえ問わねば(「砂糖は四国の和算盆に限る」など贅沢は言わなければ)、だいたい入手できます。特に探さなくても醤油は普通に売ってますし、豆腐を売ってるスーパーもあります。日本人相手の日本食専門店も沢山あります。詳しくは現地のコミュニティ誌を見れば分かります。最も有名と思われるのは、ノースブリッジにある東京マート(Shop 27,Northbridge Plaza, 83 Sailers Bay Road,North Bridge 2063)でしょうか。またチャイナタウンのスーパーでも、アジア食材の一環として手に入ります(僕の知る範囲では、バーリントン・スーパーマーケット/Burlington Supermarket/百霊敦超級市場が一番品数が豊富で安いように思います/Thomas & Quay street)。
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