第3章:シドニーの基礎知識
1996年10月29日初出、2010年03月24日更新
3.4. オーストラリア、シドニーの治安
※留学生、ワーホリさん向けに書いた、
シドニー語学学校研究/現地生活Q&A/治安とリスク対策についてに、かなり詳細に突っ込んで治安とリスク管理を書いておきました。
より正確に把握したい方は、実践的なアドバイスを求める方はこちらの方がオススメです。以下に詳細な目次とダイレクトリンクを張っておきます。
概況と生活実感
最も興味がある問題ですが、最も答えにくい問題でもあります。一般にオーストラリア、シドニーの治安は「良い」とか「悪くない」と言われます。少なくとも世界の平均からすればかなり良い社会だと思われます。
しかし、日本と比べてどうかと言われると考え込んでしまいます。日本も治安がいいとは言われてますが、全国各地に暴力団はひしめきあい、毎日のように殺人や強盗事件が発生しています。こちらには日本の暴力団に匹敵するような犯罪組織はないし、暴走族や若年層による路上での集団暴行事件やバラバラ殺人などあまり聞いたことがありません。それだけ見てたらむしろ日本よりも治安が良いのかもしれません。
そうは言っても、単純に犯罪統計でみれば、オーストラリアの犯罪発生率は日本よりも高いし、都会の宿命でしょうがシドニーはオーストラリア全体よりもさらに悪いです。NSW州の犯罪発生率は全体平均で日本の5〜6倍、殺人・窃盗は3〜4倍、強盗になるとなんと50倍という数値も聞きます。
ただし、個人的には、この数値はもう少し吟味する必要もあると思っています。
詳しい考察は、上記の
リスク管理「統計について」をお読みいただきたいのですが、例えば日本はネパールよりも224倍治安が悪いことになったり、国際統計の単純比較はあんまり意味ないです。同じく、
シドニー各エリアの犯罪発生比率比較でも触れていますが、「強盗」の定義が日豪とで違うので一概に言えないようにも思います。
また旧聞に賊しますが、1996年4月にはタスマニアで死者35人の史上最悪の乱射事件が発生しましたが、実はそれまでのタスマニア州の殺人発生率は日本よりも低かったという数字もあります(これによってオーストラリアの銃規制は益々厳しくなった)。はたまた夫婦喧嘩で夫が妻に手を上げた場合、それがいちいち警察沙汰になれば「暴行傷害」発生率は増大します(家庭内暴力の社会的関心は一般に日本より高い)。したがって数字だけで把握するの自ずと限界があり、これは今後の課題としたいのですが、ここでは、まず統計数値の面から言えば「決して安心すべからず!」という一般原則を確認するに留め、さらに立ち入って考えてみたいと思います。
個人的な生活実感でいいますと、まず普通に暮らしている分には正直言ってそれほど恐いと思うことはありません。歩いていていきなり銃で撃たれるということはまずないでしょうし、夜中に女性が一人歩きするのも避けた方がいいでしょうが、そんなに珍しいことでもないです。これはこちらが油断してるからかもしれませんが、少なくとも「油断してしまうような雰囲気」ではあります。
しかし、それでも親しいオーストラリア人達は口を揃えて「気をつけろ」と忠告してくれます。夜の電車では安全のためガラガラの車両は閉じて入れないようにしたり、係官のいる車両(blue light)に乗るように指示したりしています(青いライトが点灯してます)。駐車してある殆どの車両には、警報装置や、昔ながらの特別なハンドルロック(長い棒でハンドルを固定する)をつけています。普通の民家でもフラットなどではオートロック式ですし(よくうっかりして閉め出されるで注意)、長期の旅行に行く時は近所の人に郵便物を取っておいて貰うようにしたり、敢えて洗濯物を干しっぱなしにしておいたり、夜中に電気をつけておいたり、番犬を飼ってる家も多いです。
では何をそんなに警戒しているかと聞くと、泥棒、空き巣、ひったくりの類の盗犯のようです。これは実際日本よりも頻発しているように感じますし、直接は目撃しませんでしたが取られた直後の状況は遭遇したことがあります。「主としてどんな連中が犯行をおかしているのか?」という「犯人像」ですが、一概に言えないでしょうが、失業との関連があるでしょう。先進国共通の悩みとして、景気が良いいとか言いながらも失業率は高く、特に若年失業率は平均の2〜3倍に達します(日本もそうなりつつありますが)。福祉の厚いオーストラリアでは失業保険がほぼ一生支給されますので、失業といっても直ちに生活に困りはしませんが、それでも失業してる若年層などのうち、タチの良くないのが小遣銭欲しさにこの類の窃盗をするとも言われています。つまり「冷酷な凶悪犯」「強大な犯罪組織」による犯罪というよりも、盗犯、とくに小遣銭狙いのコソドロの類が多いと言えるでしょう。
2010年現在では、オーストラリアは日本よりもずっとリッチな国になってしまいましたし(個人所得も給料も、そして物価も高い)、失業率も日本よりも低いくらいです。それと呼応して犯罪率も減っていますが、それでも英語でいう「クィックマネー」を得ようとするコソドロ系は尚も多いです。
犯罪類型
個別的な犯罪類型でいうと、まず殺人については、屋内の犯行や顔見知りの犯行が多く、路上での通り魔的な犯行は少ないそうです(数年に1回の割合で無差別乱射事件が発生してるようですが、こんなものは確率的に言えば「事故」でしょう)。強盗は、24時間営業のガソリンスタンドでのものが比較的多いそうですが、日本のコンビニ強盗のようなものでしょう。銀行強盗−篭城パターンはあまり聞いたことがないです。ただし路上強盗もありますので注意(形態で言えば、後述の「ひったくり」がもっと粗暴になるようなものでしょう)。
住居侵入窃盗ですが、これは多いです。特に空巣が多いのは、共働きで留守が多く、侵入しやすい住環境(家が広いのも良し悪し)も一つの原因でしょう。プロのような住居侵入窃盗の話もよく聞きます(事前調査を完璧にやって、留守の間にあたかも引越屋のように装って一切合切持ち去るなど)。よく聞く盗品は、自動車の他に、携帯電話や家電製品(日本ほど家電が安くなく、また中古市場が発達しているのが皮肉に作用するのでしょう)などでしょうか。
「ひったくり」ですが、これも多く、生活体験者にとって最も注意すべき類型の一つでしょう。2〜3人のグループで、1人がバッグをひったくって、付近で待機している仲間の車に乗って逃走するパターンが多いと聞きます。
自動車関係ですが、まず車そのものの盗難の他に車上盗に注意すべきでしょう。車の外から見える位置に貴重品や珍しい物を置いておかないことです(ダッシュボードに5ドル札を置いておいたが為にフロントガラスを割られて取られたという話も聞きます)。買物途中で車から離れるときは、座席下やトランクに荷物を入れておくのは、基本でしょう。
エリア(地域)
次に地域的な問題ですが、これも上リンクで述べたように、圧倒的にシティの犯罪率が高いです。もうシティ(&シティ周辺)に比べたら、「後は全部同じ」というくらいの格差があります。
日本人を対象にした犯罪ですが、「日本人は金持ち」とか「日本人は狙われやすい」とか言いますが、今はもう日本人がそんなに金持ちではないのは皆さん知ってます。だから、特に日本人だからという意識は持たなくても良いと思いますが、一点注意するとしたら、英語のコミュニケーションが苦手なこと、及びNOと言えないことから、詐欺系の犯罪被害に遭う確率が高いかもしれません。
「NOと言えない」というのは、NOの意味を表わす表現のバリエーションが少なすぎるということもあるのでしょう。カドが立たないで、ニコニコ笑ってやんわり断るような英語表現(日本語表現も)のストックに乏しい。"Maybe some other time"とか言っとけばいいのに、言い方を知らないから、ズルズルと話に引き込まれるという。これも上のリンクの
寸借詐欺の項目を見てください。断り英語の例文を書いておきました。
しかしながら、シティが危ないから避けろといっても、短期滞在や観光の場合、圧倒的にシティのホテルに泊り、シティを歩き回る機会が多いでしょう。本当なら、シティを外してサバーブのモーテルやウィークリーマンションを借りられた方が、安いし、面白いと思うのですが、まあ、そうもいかないでしょう。
でも、まあ、一般的に言えば、昼間普通に歩いている限りでは、ひったくりやスリに気をつける程度で、必要以上に神経質になることはないです。日本でやってるように、フードコートの空いてる席にカバンを置いて「席を取っておく」ようなことはお止め下さい。この兼ね合いが難しいところですが、言い方としては「オーストラリアは安全な国と言われているが、あまり安心し過ぎないようにくれぐれも注意しましょう」という毒にも薬にもならないような言い方になってしまうのですね。「命さえ無事だったら幸運」などというほどひどくないですし、「犯罪に遭うのは飛行機が墜落するようなもの」というほど安全でもないです。
まとめ
以上をまとめて、具体的な「対策」をもう一度整理しましょう。
時間を掛けて「現地住人」になっていくワーホリさんや学生さんに比べ、滞在日数が少ない観光客や短期滞在者の場合、現地に慣れる時間が少ないです。また、どうしても利便性から一番危ないシティにたむろする確率が高いです。
そこで、 まず第一に押さえておくべきは、
日本にいる時よりも自分が犯罪に対して「弱い」立場にいることを自覚すること。つまり犯罪リスクが日本と全く同じだとしても、日本以上に気をつけろということです。
その理由の一つは異国においては全てに「不案内」であること。日本でしたら、いわゆるチンピラ然とした人物が前から歩いて来たら因縁をつけられないように注意するとか、「なんとなくいかがわしそうな雰囲気の店」というものが分かりますが、こちらでは世界中の民族がいますので外見で区別することはほぼ不可能ですし、店でも他人の態度でも「怪しい」と判別することも難しいでしょう。
第二の理由は、やはり言葉です。警察に被害届を出そうにも、言葉がネックになりますし(通訳サービスもありますが)、付近の人に助けを求めようにもとりあえず英語は必要です。ちなみに「ひったくり(行為)」はスナッチ(snatch)といい、強盗はロバリー(rubbery)と言いますが、咄嗟に言えるかどうかは疑問。なお当地の警察の番号は「000」です(消防も救急も同じ)。シドニーには都心(CBD)に日本総領事館があります(Japan Consulate General, level 34, State Bank Centre, 52, Martin Place,Sydney 2000, NSW/Tel:(02)9231-3455).。
第三に、実際に被害に遭ってしまったときの事後処理や被害回復を見知らぬ異国でやることの大変さです。ざっと思い付くだけでも、警察への被害届、日本領事館への連絡、海外保険の申請手続、パスポートを取られた場合の再申請、クレジットカードなどの支払停止の通報などが浮かびます。特にクレジットカードの場合、当地では電話でカードの番号を告げればそれで買物が出来るなど、便利な反面危険でもあります。これらの手続の鬱陶しさと心理的な衝撃、さらにその後の滞在計画は目茶苦茶になること(予約していたホテルやフライトのキャンセルなども含めるとこの損害の方が大きいでしょう)を考えると、やはり「犯罪に弱い」立場にいるのだと考えた方がいいでしょう。したがって、治安云々以前に、あるいは仮に治安が日本以上に良かったとしても、犯罪が絶無ということはありえない以上、注意を怠るべきではないということになるでしょう。そして、何よりも恐いのは「二次災害」です。財布を前の店に置き忘れた!と焦って走り出し、車道に飛び出して車にひかれる、、ような二次災害。
さらに個別的な対策としては、
Aひったくりや空巣、置き引きなどの盗犯が多いので気をつけること。この「気を付ける」やり方は、単にきょろきょろしててもダメで、それなりのコツがあります。詳しくは、
路上窃盗対策以下をお読み下さい。
しかし生活体験の場合で、最も有効で最も根本的な対策は、
Bそもそも取られて困るようなものは極力持ってこないことでしょう。持ってなければ取られることもないし、取られても知れてます。また必要な物も、分散して持っておくと良いでしょう。これは犯罪対策だけでなく、忘れ物/落とし物対策としても重要でしょう。
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