入江が多いということは、「水(海)がふんだんにある風景」に恵まれるということで、家の前がすぐに海といういわゆるウォーターフロント立地も多く(やはり人気があるので値段は高いですが)、海洋レジャーが盛んで、至るところにヨットの帆が林立しています。
そのせいでしょうか、シドニーには、Bay(湾)、Cove(入江)、Beach(浜辺)、Point(岬がついた地名も多いです。波止場からは通勤の足、「海のバス」としてフェリーボートが頻繁に発着しています。飛行機でシドニー上空を通過すると、「緑の芝生と赤い屋根、青い海と白いヨット」が複雑に入り組んでいる美しい光景が見られるでしょう。これがシドニーです。
他の海外に暮らした経験もないので比較はできませんが、オーストラリア、シドニーは日本人が生活体験をするには、なじみやすく、且つ面白い所だと思います。こういう表現が適切なのかどうか分かりませんが、「ビギナー向け」ではないでしょうか。
「なじみやすい」というのは、
さらに馴染みやすい点を列挙すると、
オーストラリアは民族混合社会であり、(数え方は色々あるようですが)国民の出身国籍180、民族数や言語数で勘定すれば200〜300に達するとも言われています。
特にシドニーはこうした傾向が一番進んでおり、市街地ではアジア人の比率もかなり高いです。およそ世界中の人々が揃っていると思われるこの「人種のるつぼ」「毎日がオリンピック会場」的な環境は、日本人にとっては刺激的ですし、手っ取り早く「世界」を感じることが出来るでしょう(注:統計によると、96年段階のオーストラア全体の人口に占める海外(=オーストラリア外)出身者の割合は27%ですが、シドニーでは37%が海外出身者であり、27%が非英語圏出身となっているそうです)。
とはいっても比率でいえば圧倒的にイギリス・アイルランド系が多いので、強力な対抗勢力もなく国を割っていがみあうということもありません。もちろん葛藤も問題もありますが、他国に比べれば驚くほど異文化に対して寛容な社会になっていると思われます。白豪主義を捨てたオーストラリアのマルチカルチャリズム政策は「世界の人々は本当に仲良く一緒に暮らしていけるのか」という「人類最大の実験」とも言われますが、学ぶべきこと考えさせられることは多々ありますし、刺激も尽きないでしょう。
ここ2ヶ月ほど、またぞろ昔の人種差別的発言をする議員が出現したりして、国中上へ下への大騒ぎして議論してます。どこの国にも、こういうことを言う政治家や人々はいるものですが、よくこうも連日ニュースのトップになるものだとも思います。それだけに人種や文化に関しては非常に敏感であるとも言えます。
「オーストラリアらしい」というのは、果てしなく広がる牧草地帯、鉱山地帯や大砂漠地帯のことで、そういう意味では、シドニーは交通渋滞も大気汚染もあり、物価も高く、人々がアクセク働いていて、人情味も薄い都会であってあまりオーストラリア人には人気がないようです。しかし、田舎にいてもあんまり仕事がないので、皆さん嫌とか言いながらもシドニーに押しかけてくるので、人口交通住宅など都市問題の議論が尽きない。日本における東京や大阪のようなもので、これはもうオーストラリアがどうのというより、万国共通の都市化現象(アーバナイゼーション)でしょう。出てくる話題も「歴史的建造物の保存か開発か」「車利用をやめて公共交通機関を利用しましょう」「最近では都会のマンション生活が流行っている」「シドニーのオシャレなスポット」などなど、どこかで聞いたような話が多いです。
しかし、これも相対比較の問題で、人口密度が100倍の日本人の目から見ると、至るところに緑の芝生の公園があるシドニーは「大都会」というより「入江にめぐまれた美しい地方都市」という印象を受けます。またいわゆる摩天楼が立ち並んでいるのは市内中心部のごく一角に過ぎず、一歩都心から離れればなだらかな丘陵住宅地帯が広がっていますし、入江や湾岸に沿ってヨットやクルーザーの帆柱が林立しています。車で1時間も走れば「オーストラリアらしい」風景に戻ります。
シドニーの人口は約400万人ですが、この数は北海道(570万)や福岡県(490万)よりもずっと少なく、静岡県(370万)よりもちょっと多いかなという程度の規模です。異様なまでに青い空と強い陽射に照らされていると、最初は「都市問題」「大気汚染」とか言われてもなかなかピンときませんでした。「車社会の交通渋滞」という点でも、車庫証明も要らず、皆さん家の前の路上に勝手に駐車してます。こちらの感覚に慣れてきて、自分でも車に乗るようになってから、「この渋滞をなんとかしてくれ」「確かにスモッグは出てるな」と思うようになりましたが。
日本人観光客に人気のケアンズ、ブリスベン、ゴールドコーストなどのQLD(クィーンズランド州)の東海岸地帯は海洋リゾート地域であり、メルボルン、アデレード、パースなどの南・西沿岸地帯の都市は、しっとりと落ち着いた美しい都市であると聞きます。中央大砂漠地帯のアリススプリングス、熱帯雨林のジャングルが生い茂るダーウィンなどの北部地帯、また気候や規模で北海道によく似ているタスマニアは美しい森と湖と山に恵まれています。このように一口にオーストラリアと言っても各地それぞれに特色があります。都会を離れ、大自然に囲まれている地方の小さな町や内陸地帯も良いのですが、まずそこまでたどり着くのが大変ですし、生活のパターンもどうしても限られてきます。結局、一ヶ所に海と山と砂漠と都会の全てが揃っているような都合のいい場所はないということです。
ただしオーストラリアの地形の特徴からして、「各州都は全て海岸沿いにあり、海岸から一定距離進むと森林地帯があり、さらに内陸に入ると砂漠地帯になる」という構造はほぼ似たようなものです(タスマニアには砂漠はないですが)。したがって広大な国土を転々としなくても、どこにいても一通りのものには触れられます。シドニーにおいても、西方(内陸)に車で数時間走ればアウトバックと呼ばれる砂漠地帯にだどり着きますし、海岸線沿いではイルカや鯨も見られます。周辺には森林地帯が広がっていますし、南進すればスキー場もあります。無いのは珊瑚礁とワニくらいかもしれません。これは前述したオーストラリア各地域の多様性と矛盾しているようですが、日本列島が何個も入るような何千キロ単位の大砂漠に触れたいならやはり中央部に行く必要がありますし、濃密なジャングルを体験したいならば北部方面など、それぞれに「本場」があるのと同時に、本場以外では全く触れられないのかというと決してそんなことはないということです。