空腹絶倒
食生活向上(したいと思っている、平凡な)委員の記 (その2)
カツオのタタキの巻
96年12月2日
97年8月3日追補
最初にカツオ1尾まるごと買うときは勇気がいった。
なんせ完全な姿でのカツオ一尾というのはあまり見た記憶がないから、「これ、カツオだよな」と、もう最初の時点からこころもとないのである。もちろん現地のフィッシュマーケットの値札が「カツオだよ〜ん」と書いてくれている筈もなく、「Bonito」と書いてるだけである(「ぼにー
とぅ」と発音するらしい)。
それでも「Bonito=カツオ」という微かな記憶があったのは、「英語で日本を紹介する本」なんぞを出国のドタバタ時に買ってて断片的に読んだときのものだろう。「カツオ」が説明できないと、カツオブシが説明できず、ひいては日本料理の味のド基礎が説明できないので、必須単語として登場していたのだろう。
ともあれ、目の前にゴロンと転がっているのはカツオらしい。姿形にも見覚えがある。まごうことなき、腹の部分のストライブ。カツオ現物を見たこともない自分に、なんでそんな画像イメージが頭にインプットされていたのか不思議であるが、おそらくは、「カツオ風味の本だし」あたりのパッケージにカツオのイラストがあったからだろう。
ともあれ、カツオ1尾買ってみる。いきなり1尾まるまるとは大胆なとお思いでしょうが、それしか売ってないのだ。切り身とか刺身は売ってなく、ミニマム1尾なんだから仕方ないのだ。ただ、1尾といっても、日本のよりは小ぶりのようで、1尾1キロ前後である。
さて家に帰ってこれをさばく。いつもそうだが、フィッシュマーケットで見るときは「小さいなあ」と思うのだが、家で見るとのけぞるばかりに大きかったりする。「げ、大きい....」。ここでひるんでいる場合ではない。出国前、大阪は日本橋の道具屋筋で買い求めた出刃包丁で、シュピ、ズク、ンンンンン.....スパッと包丁さばきに鮮やかに三枚におろしてみた。なお、これは頭の中のスクリーンに先行上映された予告編というか希望画像であり、客観的には、「ズルッ、うわっ!」とかいいながら苦戦していたことはいうまでもない。ほんでもズングリしてるから、おろし易くはあります。平べったい癖に骨太なタイなどの場合、身の部分まで深々とこそげ落としてしまったりして苦労が絶えないのだが。
3枚におろし、縦に割り、さらにお好みでもう一回縦に割ると手ごろな大きさになってくれる。そこから「え〜と」と言いながら、料理本を見ながら手順を進めていく。海外に来るなら日本の料理本は必需品です。それもできるだけ基礎から書いてある方が重宝します。「三杯酢の作り方」とかそういうのがキッチリ載ってるようなもの。
切り身に塩を振り掛けしばらく置く。「しばらく」ってどのくらいなのかよく分からないが、20〜30分というところでしょうか。ほんでもなんで塩を振るのかよく分からない。身がしまる?生臭さが取れる?あんまりそんな気もしないのだけど。いつぞやすっかり塩手順を忘れて省略しちゃったときがあったが、完成品にそれほどの差はなかったような。見る人が見たらあるのだろうが。
さて、金串でカツオの切り身を刺して、火であぶる。金串/スキューワーであるが、日本用のものを探すのに苦労した(結局東京マートで買ったのかな)。大抵あるのは、シシケバブ用のようなぶっ太い奴である。太すぎて刺したはいいが、カツオの身の組織に楔を打ち込むような格好になり、焼けるにしたがって身がぼろぼろと崩壊する恐怖に襲われることもある。竹串でやってみたこともあるが、出来るよりも先に竹の部分が燃え尽きてポキッと折れてしまい、カツオ君がボタッと下に落ちて「わー!」と叫ぶ始末となった。まあ、よう考えたら炙ることさえ出来たら、フォークだろうが、マジックハンドだろうが、耐熱手袋(NASA御用達みたいなやつ)で掴んで炙ってもいいのだろうけど。
なお、火であぶることが出来るのは、うちのレンジが珍しくガスだからである。大抵のシドニーの台所は電気だから、そこが苦しい。カセットコンロでやるか、炭火でやるバーベキューの台でやるしかないだろう。しかし、どうでもいいが、どうしてこっちではあんなにカセットコンロが高いのか。あんまり買う気もなかったから真面目にチェックしてないが、先日の新聞の折り込み広告では67ドルとか書いてあった。6000円?購買力平価でいえば1万円だぞ。カセットコンロなんか、前に住んでた大阪は都島区のミキというディスカウントいけば980円で売ってるぞ。今度日本に帰ったら買ってこよう。ついでにタコ焼プレートも(重そう)。なお、そのかわり、こちらでは野外料理用の炭が安いから、炭でやった方が早いかもしれんけど。
※注:これを書いた後、若干カセットコンロも値下がりしてきて、バーリントンなどでは45ドルくらいで売ってます。それでもまだ高いけど、一台あると鍋物などに重宝します。
ところで、最初のトライは惨敗だったような気がする。
あまり覚えていないのだが、要は「どれだけあぶればいいか」の感覚が掴めず、炙りすぎてしまい、香ばしく焼きあがってしまったのだ。これに塩をかけて食べると、むちゃくちゃ美味だったりして、「うう、美味しい!でも、こんな筈じゃ..、でもおいしい」ということで終わっていたような気がする。何度かトライしたが、なんか知ってるあのタタキの感じにならず、妙にボソボソとしていて諦めた記憶がある。
月日を隔てて二度目の挑戦のときには成功した。やっとのことでカンがわかったのである。「カン」というほどのことでもないが、焼き目をつけたら、即座に(串を抜いて)氷水で冷やすという手間を入れてから巧くいくようになった。こんなのは基礎であり、当然本にも書いてあったが、「氷水?また大袈裟な。面倒くせえや」とか思ってやらなかったのだ。でも、これをやらないと火からおろしても、どうも余熱が内部に伝わっていくらしく、生焼きというか生節状態になってしまうようだ。しかし、なんちゅう基礎的なことを書いているのだ、俺は。
火で炙ってるとき、カツオの脂分がでてきて線香花火みたいにパチパチいって、これがなかなかに楽しかたりする。楽しいもんだからつい炙りすぎて、生焼きカツオになってしまったりするので注意。
適当に切って盛ればいいのだが、盛大に薬味をまぶすと気分が出ます。葱と生姜とニンニク。それとタレは醤油にオレンジ(レモンでもいいが、なぜかオレンジが合うような気がする)しぼればそこそこできます。あとは温かい御飯でかきこむだけ。
カツオの値段ですが、最近高いのですね。こないだの日曜なんかキロ10ドルもした。だいたいフィッシュマーケットは、週末行くと高いけど(平均して2割位高い)。キロ6ドル台以下、だから100グラム50円くらいですか、そのくらいだったら買いますけど。こないだどこぞの店で日本から空輸してきた冷凍もんのカツオのタタキが売ってたけど、切り身一本で40ドルもした。桁一つ間違ってんじゃないか、記憶違いかなあ?と未だに信じられんのですが。
※注:その後の観察によれば、やっぱり時期や大漁不漁によっていろいろ値段も異なるようです。キロ3〜4ドル代というときもあれば、その2倍以上するときもあります。
同じ店内なのに、二ヶ所にわたってカツオが売られていることがあります。こういう場合は大抵値段が高い方が新鮮でしょう。「サシミにするならこっちの方がいいよ」と店員さんが教えてくれたりもします。
1尾買えば二人で死ぬほど食べられます。半分は塩焼きにしてもいいし、そのまま煮物にしてもいいし、たんにスライスして刺身にしてもいいです。でもタタキが一番盛り上がりますね。うん。
※注:その後、だんだんタタキは飽きてきて&面倒臭くなってきて、もっと簡単な刺身や、塩焼き、照焼きなどの焼き物にシフトしつつある今日このごろです。
ところで、鯵のタタキは実際に叩くからわかるけど、どうしてカツオの場合も「タタキ」というのだろう。これが昔から謎なのだ。
★カツオの「タタキ」ではなく、刺し身ですが、写真と簡単な解説を追加しました。興味のある方はここをクリック。
★空腹絶倒のトップに戻る
★→食生活向上委員会のトップに戻る
→APLaCのトップ(総合目次)に戻る