海外ボランティア体験記
シドニーに1年数ヶ月ほど滞在した後、イギリスに渡ってボランティア活動に参加された藤田裕子さん(仮名)より、イギリスでのボランティア活動レポートを送っていただきました。海外ボランティア活動参加希望者にとっては、貴重な資料となりうるのではないかと思い、ご本人の許可を得た上でここに紹介させていただきます。
●ボランティア活動の探し方
まずロンドンでもどこか他の町でも、必ずイギリスには「ボランティアビュロー」というのがあります。私はロンドンも含めて4つの町へいきましたが、ロンドンはやはり一番情報も多く可能性が高かったわけです。小さな町では、主に子供たちのサマーキャンプの手伝いとか、チャリティショップでの店番とかはあるのですが、しかしそれすらも、ビザは学生ビザとか、リファレンスが必要とかいうことで面倒になってやめました。
ロンドンには多分大小含めて10以上のボランティア事務所があります。
- 電話帳でcharitable organization か volunteerの欄を調べて、住所を書き出す。
- 自分の住んでいるところに近いオフィスを訪れて尋ねた。(各自コミュニティの催しなどもあるので、交通費節約のため近所のボランティアの方がいいと思った)
- 自分がボランティアをできる期間を告げる。
- それにあわせて向こうが資料をくれる。
しかし、1ヶ月というのは、短期の部類に入り、むこうは長期の資料の方が多い。私の場合、ボランティアの心得のような資料といっしょに、10いくつのボランティアの資料をもらう。
- あとは、直接コンタクトをとってくれということで、家で、仕事の内容、期間を見て自分のできるものを選び、手紙か電話で連絡をとる。
特に、このような身障者のホームや施設でのボランティアに関しては、夏は学生が多くきてくれるけれど、10月から3月がとてもボランティアを集めるのに苦労しているようす。
私の場合も、手紙を書いたら次の日に電話がかかりました。2個所に連絡したらすぐに両方から連絡が入り、両方の日時を調整し、両方ともやることに。
身障者介護ボランティアの方は、イギリスの住人のリファレンス(保証人のようなもの)を1名要求される。(学校などに通っていれば、学校のリファレンスでもよいみたい)。それ以外は、英語さえ許容範囲であれば(※)、条件はなし。しかし、あまりにもボランティアがいなくて、リファレンスはまったく要らないといわれたところもあります(例:アンネフランク)。
※APLaC注:参考のために付記しておきますが、許容範囲の英語力とは相当高いレベルと思った方がよいでしょう。藤田さんの場合、TOEICで900点以上をマークするほどの英語力の持ち主で、シドニーで1年以上マネージャーとして働いた経験もあります。その藤田さんですら、かなり苦労したそうですから、「日常生活程度の英会話レベル」ではちょっと難しいかもしれません。
という感じです。多分この施設はすべての「ボランティアビュロー」に募集をかけているでしょうから、そういうところを通じれば、必要な情報に行き着くことと思います。
他の国から来た人たちに聞くと、それぞれの国に「ボランティアビュロー」があり、そこに資料があったようです。日本にもそういうところがあるかもしれません(でもヨーロッパのボランティアはヨーロッパ内しか募集をかけてないかもしれない)。
●参加費用
もちろんボランティアなので、基本的に参加費用は無料、給料は無給。泊まり込みのもの以外は、交通費の支給がある場合もあります。泊り込みのものは宿泊先、食事は無料で支給されます。けど、ロンドンは物価が高いのでけっこうキツイです。
●仕事内容
私は2つのボランティアに参加しました。1つはアンネフランク展示会の手伝い、もう1つは、介護ボランティアです。
介護ボランティアの方は、チャリティ財団のような FOUNDATION によって経営されているらしく、自分でお金を払って夏のホリディに来られないような身体の不自由な人たちを、滞在させてあげているようです。
お客一人に対して一人のスタッフがつくようになっています。(どんなに混んでいる時でも二人に一人がつきます。)サービスはすごくよいと思います。
ここで、身体の不自由な人たちの日常生活のお世話をするのがボランティアの仕事です。
食事(重度の人には口に運んであげる)トイレ(おしりを拭いてあげる、かかえてあげる)
散歩(毎日必ず何キロか車椅子を押して散歩です)ダンス、ディスコ、パブ(すべて車椅子
つき)ダンスフロアで車椅子を回して踊りました。朝の体拭き、着替えはもちろん、ベッドメーキングもです。とにかくいろんなシフトで夜中まで働き詰めで、とにかく残っている時間は体を休めないと続かないほどの重労働です。
●参加しての感想
アンネフランク展示会では、何人ものホロコーストの生き残りのユダヤ人の人と会って、話ができました。みんな、どうしようもなく強くて明るくてやさしいんですよ。
それより、今私がやっている介護ボランティアですが、1週間で体がもう動きません。これを1生の仕事としてやっている人には、心から頭が下がります。今背中と首にサロンパスが何枚も貼ってあります。それでも明日の朝2時間のお勤めを終えたらロンドンに帰れると思うだけで、うれしくてしかたありません。
しかし何よりきついのが、英語がわからないことです。身障者の人のことばは、ただでさえ聞き取りにくいのに、生活用語がわかりません。何度いってもらってもわからなくて、食べ物の種類を食事の時には必ず聞くのですが、どうしようもありませんでした。
その人が本人にきくと「スクランブルエッグ」だし、
私の発音した食べ物は、テーブルについている人全員「???」って顔するし、
「She will be fileだそうです。」・・・「???」(正解は "She will be while." )
とにかく悲惨なくらいわかりません。車椅子を押して後ろからかれらの話しを聞くのも至難の業でした。風で声が前に飛んでいってしまうんです。
食事の食べ方も、トイレのしかたも、せっけんの使い方も、違うんですね。
私は日本人でしたよ。徹底的に。
とにかくとんちんかんの連続で、精神的にも参りましたよ。これを3ヶ月やれといわれたら
いくら外国に食事と寝床付きで暮らせても、お断りします。
それでも老人の方が、若い子供たちよりましです。みんな、とにかく礼儀正しくてやさしくて、辛抱強くて、すべての行為に対して Thank you ,dear を言ってくれるんです。Pleaseを付けづに物を頼まれたこともありませんでした。
1日中、ありがとうとプリーズを言い続けて生きるのもさぞかしつらいだろうなと思います。自分で座ってさえいられない、手も足もしばりつけられている重度の障害者の感情の豊かさにもびっくりしたし、すべてが通じるんです。トイレもよだれもきたないとさえ思わずにつきあえたことには、自分でも驚きました。
とにかく自分の足で歩いて好きなことのできる現状に感謝せずにはいられませんでした。チェコ、オランダから来ているボランティアの子達との話しも楽しかったです。
ただひとつ気になったのは、このような所で働いている正職員です。お客さんに対しては天使のようにやさしいのに、我々ボランティア、特に英語の弱い私たちには、口さえきいてくれないし、指示も早口で1回しか言ってくれないし、何をどうしろと教えてくれることもありません。無視!です。無視。 とにかく我々は、ひたすら見よう見真似でやるしかありませんでした。
でもこの仕事のきつさを考えると、我々にかまっている暇などないのはわかりますが、食事のテーブルでも声をかけてくれる人は、ほんのわずかだったのには、驚きました。
中には「外国のボランティアなんて英語を勉強したくてきてるだけなんだし、役にもたたないから呼ばなきゃいいのに」と、どうせ理解できないだろうという早口で、隣で言われた時には「ちょっと待て!」と言いたくなりました。
長くなりましたが私のボランティア報告でした。20代前半の子にまじっての肉体労働だったので、弱音が多いですが、彼らの中には1ヶ月以上いる子もいます。来年も戻るといっている子も何人もいました。私は無理ですが。
この施設でホリディを過ごした人々が帰っていく時、老人ホームの車が迎えに来て、それに車椅子ごと乗せられていくおばあちゃんやおじいちゃんの寂しそうな顔をみると、本当に泣きそうになりました。なんかわかんないけど、かわいそうでした。
おばあちゃんたちは、我々の英語力のなさには、まったく動じないのですが、さすがに子供たちは、「もう、なんべん言っても、WHAT? って聞き返されるといいかげん頭にくるのよね」といっている子もいて、なかなかたいへんでした。
他のところで、同様のボランティアをしてきた人によると、他はもっとひどくて何でも大変なことは、ボランティアにまわってくるとか、寝る時までお客と同室で休み24時間の体制だとかいうところまであったそうです。その人は、「ここの職員は、あの時にくらべれば天使だし、来年もまた来たい。」と言っていました。
●APLaCコメント
藤田さん、本当にご苦労様でした。後から聞いた話では、「ボランティアの最中は悪夢ばかり見た」ということでしたが、肉体的&精神的に相当辛かったのではないかと思います。でも、後から振り返ってみたら「貴重な経験」になるのではないでしょうか?
藤田さんの経験からも分かるように、ボランティア活動において求められる英語力は相当高いようです。もちろん、仕事内容にもよりますが、介護ボランティアは一緒に働くボランティアさんやスタッフ、そしてお世話する方々とのコミュニケーションが付いてまわります。海外ボランティアを揶揄するスタッフの話もありましたが、確かに彼らにとっては英語力の不十分なボランティアがいても足手纏いになるだけ、というのが正直なところでしょう(それを口にするのはちょっと品がないけど、それが本音なんだろうな)。ただでも忙しいのに、ボランティアの世話までする暇はないというのも、当然といえば当然。やはり、こういったボランティアは英語力をしっかりつけてから、参加すべきなのでしょう。
一方では、さほど英語力がなくとも何とか迷惑にならずに役に立てる仕事もあります(MEALS ON WHEELS等)。目的と実力との兼ね合いで適した仕事を選択したいものです。
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