GST導入で価格はこう変る
The ups and downs of the GST
Sydney Morning Herald 29/March/2000, Ross Gittins の解説記事より
注 : GST(Goods and Service Tax)= 2000年7月1日から施行される新消費税。オーストラリアで初めての消費税だがいきなり10%課税されることになる。しかし、現行の Wholesale Sales Tax体系に取って代る形で施行されることにより、かならずしも一律に値段が上がるばかりではない。この記事はこの点について書いてある。
なお Wholesale Sales Taxであるが、物品品目ごとにかなりの高率(高級車など物によっては50%近い)が課せられ、価格に織り込まれている。オーストラリアで自動車や電化製品、文房具等が異様に高いのは一つはこの税制のせいでもある。
wholesale sales taxの訳語であるが、物品毎に異なる税率が、内税として課せられてる意味で「物品税」としてもいいし、売上時点で課せられるので「売上税」としても良いのであろうが、ここでは、オーストラリア政府刊行パンフレットの日本語版の訳語に従い、「卸売上税」としておく。わかりにくいのだけど、確かに直訳でもあり、正確でもある。
GST施行まであと100日を切った(3月29日時点)。この新税制が施行される日、人々は大きな驚きに包まれるあろう。なかでも一番の驚きは、「必ずしも悪い事ばかりでもない」ということだ。
市場調査の結果によると、広範な物品にわたって、あまりにも多くの人々がGSTの効果について間違った理解をしていることが判明している。その誤解のひどさは”ショッキング”といってもいいくらいだ。
Ideaworksという、シドニーのマーケットコンサルタントがまとめたリポートによると、新税負担を回避するため、導入前
に買い占めようとした多くの人々は、すぐに「しまった!早とちりをした」と悔しがるであろうとしている。
また、世間の人々は、新税施行後の価格の変化は、スーパーマーケットの棚を一覧すればすぐに分かるだろうと考えている。しかし、そんなことでは分からないのだ。スーパーマーケットの棚を見ても、一体なにがどう変わったのかよく判らないだろう。そして、それがまた新たな誤解を生むのだ。
多くの人々はすでに知っているところであるが−と、私は信じているのだが−、GSTは、これまでのWholesale Sales Taxに置換えられる形で導入される。上に述べた人々の誤解は、(やむを得ないことなのだが)、この現在施行されているWholesale Sales Taxが、一体どの物品にどのくらいの率で課税されているのかが、あまりにも漠然として分かり難いところに起因している。
ACNielsenは、さる11月下旬に、900名以上の消費者を対象に調査を行なった。それから現在までの間に人々も多少は賢くなってはいるであろうが、それでも驚くべき調査結果が出ている。
手始めにスーパーマーケットの店内の商品を見てみよう。
前述の調査によると、70%以上の人が、包装された食品については値上がりすると考えている。しかし、これは誤りである。
また、過半数の人が、生鮮食料品についても値上がりするとしている。これはもっと間違っている。
殆ど全ての食品については、現在の卸売上税の除外品目とされており、且つデモクラッツ(野党民主党)との協議によって、GSTにおいても例外品目のまま据え置かれている。よってGST後においても値段は変わらないのである。
しかし、食品にも多少の例外はある。例えば、ビスケットとか、スナック、菓子類、ソフトドリンク、アイスクリームなどについては、現行では12%の卸売上税の対象になっているので、GST施行後10%の税率になると、僅かながら価格が変わることになるだろう。
食品で値段が上がる唯一のカテゴリーは、完全に調理準備済のもの、冷凍ディナーのようにready-to--eat-meals、ケーキ類、パスタ、ピザ、ドーナッツ、ミートパイなどである。これらは現行では課税されていないが、GSTの課税対象にはなるのである。したがって、このカテゴリーに関しては値段は上がることになる。
スーパーマーケットの外の食品であるが、大体90%の人が、レストランやテイクアウェイの値段が10%上がるということを正しく理解している。それでも10%の人がまだよく判ってないわけだが。
では、家庭内に目を移そう。半数近くの人が、家具類について値段は上がると思っており、正しい認識をもっているのはわずか15%に過ぎない。家具についての正解は、「値段は殆ど変わらない」。
家具や、カーペット、上掛け物、ベッド用品などについて(陶器類や食事用金物類については言うに及ばず)、現行では12%の卸売上税の対象になっている。これがGSTの10%になるのだから、値段はむしろわずかに下がることになる。
家電製品については、人々の混乱がもっともひどい分野である。35%の人が価格が上がると考えている反面、45%の人は下がると考えているのだ。
これは、しかし、判らないでもない。これは、何をもって「家電製品(appliances)」とするかにかかっているからである。
いわゆるwhitegoods(日本語でも白物と言う)、つまり、冷蔵庫や冷凍庫、レンジや洗濯機、その他エアコンやヒーター、トースター、ミシン、照明器具については現行の12%の卸売上税の対象になっている。だからGSTになると若干値段下がる勘定になる。
しかし、芝刈機、電気剃刀、パソコン、さらにスポーツ用品、オモチャ、旅行用品などについての現行の税率は22%なのであるから、GST施行後、値段はグッと下がることになる。
さらに、旧来卸売上税で32%もの高率を課せられいた重要な電気用品の分野がある。それは、ラジオ、テレビ、ビデオ、ステレオ、カセットテープレコーダー、カメラなどである。(ここでちょっとアナタを混乱させるならば、なぜか化粧品もこのカテゴリーに分類されているのである)。
ところで、これらの品目の税率は、去年の7月に22%にカットされたのである。そして、来るGSTにおいても価格の警察官になる予定のACCC(AustralIan Competition and Consumer Commission、公正取引委員会のようなもので結構シビアにチェックしている)のモニターによると、これらの製品の小売価格は実際にも(理屈どおり10%には及ばないものの)7%以上は値下がりしているのである。GST施行後になれば、さらに小売価格が下落することが予想される。
これらのグッドニュースに対して、服飾品について値段が上がると正しく予期してる人は60%に過ぎない。まだ40%の人は誤解してるのである。
服飾品や靴類については、現行の卸売上税の対象外とされているが、GSTでは対象品目にされている。したがって、値段はあがるのである。
新築(改築)物件については、さすがに人々はよく知ってる。80%の人が値段が上がると理解している。
しかし、これもちょっとトリッキーなのである。すなわち、実際よりも理屈が先行しすぎている観があるのである。何を言っているのかというと、あまりに多くの人々が、GST前の駆け込み需要によって家を建てたり改築しようとしてるものだから、目下のところ建築業界は景気が過熱気味なのだ。
建築会社、土建業者、建築資材は、どれも売手市場になってきており、したがって値段もかなり急上昇してきている。GST施行後、建築業界がヒマになったとするならば(大いにありうることだが)、これらの建築費は実際には下がるということも予想できるのである。したがって、バスに乗り遅れた人の方が、結果的に得をするということも、ありえない話ではないのである。
大雑把にいえば、この逆もまた真になりうるのである。つまり新車価格である。
新車や自動車部品は、現在のところ22%の卸売上税の対象になっている。だから、理屈の上ではGST施行後は、7%ほど値段が下がることになる(注:なんで12%落ちると言わないのか?というと、多分、前述の家電が10%下がっても実際には7%の下落になっている調査結果を踏まえて、控えめな数字を言っているのでは?と思われる)。
しかしこの見込も、現実問題においては絵に描いた餅に終わる公算もあるのである。つまり、あまりに多くの人々がGST施行前に買い控えをしているために、現在カーディラーでは、何とか売上げをあげようと大出血サービスで売り出しているのである。だから、GST以降になっても、あまり思ったほど価格が下がらないということもありうるのである。
ではガソリンはどうだろうか。この領域もひどい混乱が見られる。3分の2以上の人が、ガソリン代も上がると考えている。しかし、そうはならないのである。
ハワード首相は、ガソリン価格上昇によって国民に迷惑をかけないということを、これまでさんざん議会で約束してしまっている。そのため、GST上昇分を相殺するに足るだけ、現在のガソリン税をカットして調整しようとしてる。それだけでは、地方のガソリン価格の上昇を食い止めるに不十分かもしれないが、さらにそれを防ぐために他の手だてを模索して首相自ら奔走しているところである。
以上を概観して一般的に言える事は、人々は、Goodsについての値段の上昇を過大評価しているとことである。そして、もう一方のServiceについては、過小評価しているとも言える。
航空運賃や、水道光熱費の上昇を予期している人は3分の2にも満たない。電話料金の上昇を予期してる人は過半数をわずかに超える程度でしかない。実に20%近くの人が逆に下がることを期待してるのである。
これらサービス業領域、つまりヘアサロンの料金から、入場料から、手間賃や労賃から、プロフェッショナルへの謝礼金などは、人々にとって最悪の(予期せぬ値段の上昇について)驚きに見舞われるエリアになることだろう。
しかし、そうだからといって、全体的にいえば、生活コストの上昇は、10%を遥かに下回ることになるであろう。エコノミスト達は、施行直後の消費者物価指数の上昇は3〜4%に留まるだろうと予想している。
これらの正しい理解によって、あの恐ろしいGSTを迎える多くの人々が、より心安らかになってくれるだろうか?なるべきであるのだ。しかし、あまりそうはならないような気もする。
2000年05月18 日:訳文責 田村
★スクラップブックのトップに戻る
APLaCのトップに戻る