せっかくロシアをやってるので、「そういえば」ということで北方領土をやります。
日本人だったら誰でも聞いたことはある北方領土。だけど、何がどうしてどうなってるのか意外とよく分らない。少なくとも僕はよく知らないです。ここで「ロシア(ソ連)は極悪、絶対返還!」と叫ぶのは簡単ですし、とても分りやすい。それはそれぞれの政治的信条やら、政治的”感情”で叫べばいいことなんですが、ただ客観的に「なんであんなことになってるの?」というベーシックな部分は、プレーンで、透明な知識として押さえておきたいです。プレーンで透明な知識というのは、例えば、ギリシアとキプロスの領土問題はどうなってるのというように、一切の感情抜きにして純粋にナレッジの問題としてってことです。
まず、例によって地図です。北方領土って何処?ということと、その周辺、千島列島がどうとか、樺太がどうとか、地理関係が分らなかったら話も何もないですから。
まず地図レベルでわかるのは、国後・択捉と歯舞・色丹が明らかにたたずまいが違うということです。国後・択捉はさらに北東に連なっていく千島列島の線上に同じような感じで浮かんでますが、歯舞・色丹はそれとは一歩離れて、根室の先っぽにちょこんといます。この地形上の差異が、あとで述べるような意味をもってきます。
さて、北方領土(問題)を日本の側から簡単に要約すれば、「本来は日本の領土なのに第二次大戦終了時のドサクサでソ連が占領してしまい、未だに返してくれない」ということでしょう。ロシア(ソ連)側からすれば、ロシアがここを領有するのは国際法上合法であり、日本にとやかく言われる筋合いではないということになろうかと思います。
その対立が未解決のまま現在に至っているわけですが、この種の領土問題というのは次元の異なる幾つかの層があるように思います。一つは、純粋に国際法上どうなっているかという法律論です。古くは江戸時代まで遡る日露関係における数々の合意や条約などによってどう定められているか、どう解釈すべきかです。もう一つは、そういった形式的な理屈はともかく、双方においてその領土が欲しいと思わせる数々の実質的な理由です。戦略的に重要な地域であるとか、資源があるとか、よりシンプルに国民感情であるとか。第三に、これからどう解決すべきかという解決論です。これは例えば「足して二で割る」ように、さしたる論拠もないのだけど現実問題このあたりで手を打ちましょうかというレベルの議論です。
もう一度いうと、@法律論(理屈)、A実質論(利益や感情)、B解決論です。
しかし、書いてて思ったのですが、これって領土問題だけではなく、あらゆる人間同士の争いに当てはまりますね。弁護士時代経験した種々の法的紛争もそうでした。まずAの欲や感情があるわけです。そしてそれを正当化するために@の理屈を総動員する。純粋に理屈だけで紛争が起きるという、いわば”神学論争”みたいなものは現実問題滅多にないです。宗教界での教義論争だって一皮剥けば派閥争い、権力闘争だったりするわけですから、人間そこまでピュアに理屈に命かけたりしません。大体なんらかの実質的で、ドロドロした理由があります。だけど自らの正当性を訴えるときは、@の理屈レベルでの正当性を主張しますよね。逆に言えば他人のトラブルに口を出す場合、一方当事者の理屈だけに耳を傾けていたら本質が見えなくなる、、というのはオトナの皆さんは、もうよくご存知でしょう。「ふむふむ、あんたの理屈はわかった。ほんで、あんたの本音は何なの?」と。理路整然と美辞麗句を並べているんだけど、本質的にはただの"嫉妬”だったり、拗ねてるだけだったり(^_^)。
@の理屈は、「理屈と膏薬(サロンパスのような湿布薬)はどこにでも貼り付く」と昔から言うように、どちらにもそれぞれ言い分があり、正義があり、理屈があります。またAの実利と感情もどちらにもあります。したがって@とAレベルだけでチャンチャンバラバラ喧嘩してても千年戦争になるだけで解決しません。そこでBの解決が求められます。延々喧嘩してても不毛だから、どっかでケリをつけましょうということで、極端な話「ジャンケンで決める」というのもアリです。ここでは「終わらせる」というのが最終目的だから双方それで良ければ何でもいいんです。でもって、Bレベルになると、@の理屈なんか殆ど話題にもなりません。解決というのは飛躍していいんですよね。根拠ゼロでも何でも、それで当事者が「これで終わらそう」という合意さえあればそれでいい。
余談ついでに書きますと、実際の裁判沙汰にせよ、紛争にせよ、最後の最後は妙な終わり方をするケースもあります。双方陣営の主戦論者がそれぞれ他界してしまったから、犬猿の仲の犬も猿もいなくなって、残された者が馬鹿馬鹿しくなって自然消滅とか。訴訟でも原告被告の双方が倒産して夜逃げしちゃったから、後に残された裁判所が「これ、どうすんの?」と途方に暮れているとか。遺産分割で骨肉の争いをしてたのが、バブルが弾けて遺産土地が暴落して負債の方が多くなってしまったら、あれだけ欲の皮をつっぱらかしてた当事者達が蜘蛛の子を散らすように逃げたり。もうちょいマトモな解決でも、「名を捨てて実を取る」とかその逆とか。離婚なんかでも”慰謝料”という名目では(自分の非を認めたみたいで)絶対に払いたくないけど、”解決金”という名目だったら払っても良いとか。
北方領土問題も、この@〜Bレベルの議論がゴチャ混ぜになってるキライがあるように思います。でもって、一番見えにくいのがAです。Aを言ってくれたら分りやすいんだけど、あんまり誰も言わない。