エッセイ345/APLAC

今週の１枚（08.01.21)

　　ESSAY ３４５　：　キリスト教について（18）　フランス絶対王政／カトリーヌからルイ14世まで

　写真は、Potts PointのCafeの屋外のテーブルから街路樹の緑を見上げて。オーストラリアではよく店先の路上にテーブルを並べてあります。アウトドア好きなオージーは、舗道で人がゾロゾロ通過しようが、車道で車が排気ガスを撒き散らそうが、楽しそうに外のテーブルで談笑しています。「よくやるなあ」と思ってましたが、やっぱりオーストラリアって外が気持いいんですよね。こんな風景見ながらコーヒー待ってたら、そりゃ気持いいですよ。
　ちなみにこのカフェはわりと有名な”Yellow”というところです。お値段高めですが、かなり本格的な高級レストランがカジュアルにやってるという感じで、お試しあれ。テイクアウェイコーナーもあり、特にティラミスは小さなカップで10ドルもするけど、出す価値アリ。チーズケーキも美味。ケーキ一個1000円なんて高いようだけど、ケーキを作った人は分かるでしょうが、あれくらい材料をメチャクチャ使う料理はないです。しかも微妙なところで失敗したら全部パー。また、市販の卵でも安いものと最高級のものとで３－４倍値段が違うことから考えれば、最高の材料をふんだんに使えば1000円だって儲からないでしょう。ちょっとしたレストランのデザートだって1000円以上するのだから。

　ここのところ16-17世紀のヨーロッパ絶対王政について書いてます。先週はオランダとイギリスを書きました。今週はフランスです。

　えーと、フランスは前回どこまで書いたかというと、、、百年戦争やジャンヌダルクのあたりまでですね。結構お久しぶりです。このあたりが世界史のうっとーしー所で、当たり前ですが全てのことが同時進行しているわけです。でも、一度に書けるのは一つの視点からみた１～２国か、何かのトピックだけ。だから、同じ時代の話を、「その頃フランスでは」とか何度もなぞらないとならないという。このシリーズだって、第13回の宗教改革あたりから今回の18回まで、ずっと16-17世紀を行ったり来たりしていますし、このあとロシアとかもやらなきゃいけないから、さらに続きます。なんとなく中学高校で日本史と世界史が同じ時間数だったので、同じようなボリュームで考えがちですが、世界史のボリュームは日本史の数十倍あるんですよね。最低限の輪郭を理解するにしても、登場人物は死ぬほど多いわ、各国の動きや関係を同時多元中継で見てないとならないわで、かーなり大変です。それだけのボリュームを短時間に圧縮して習ってたら、社会科が「暗記物」と言われるのも無理ないところかもしれません。

　しかし、歴史というのは、思いっきりミクロに近づいて見ればみるほど面白いのですね。超弩級キャラの人間達が命がけで切った張ったやってるんだから、面白くないわけがないです。歴史キライ、苦手という人がいたら、一気に全てを理解しようとするのではなく、ただ一人の人物だけを出来るだけ細かく追っていくと面白く感じると思いますよ。ＮＨＫの大河ドラマでも一人の一生を１年かけて追ってるわけですからね。

　さて、フランスの復習ですが、ジャンヌダルクが活躍した百年戦争は1339年から1453年まで続きます。そのあとスペインが統一して大航海時代が始まり、コロンブスがアメリカを発見したのが1492年。スペイン、ポルトガルが航海に乗り出していったのが1500年代前半。その頃、ドイツではルターが出てきて宗教改革をし（1517年）、イギリスではヘンリー8世の離婚騒ぎで英国国教会が出来ます（1534年）。

　ルターの宗教改革の1517年の頃、イギリスではヘンリー8世が、スペイン＆ドイツではハプスブルグ家のカルロス１世（カール5世）が仕切っていますが、フランスではフランソワ１世という王様がいました。ヘンリー、カルロス、フランソワというのが大体同時期のライバル三羽カラスです。フランソワ１世もかなりツッパリ君の喧嘩好きで、カルロス１世と神聖ローマ帝国皇帝の位を争って負けるや、今度はイタリアをめぐってカルロスと戦い（イタリア戦争）、捕虜にされちゃいます。しかし解放されるや、全然懲りずにまた牙を剥き、ドイツのプロテスタントを支援するとか、オスマントルコと密かに結ぶとか、カルロス（カール5世）に対抗するためあの手この手を使います。かなりしぶとい。

　ただ、このフランソワ１世、喧嘩や陰謀だけやってたわけではなく、ルネサンスをフランスに導き、フランス文化の基礎を作った王様として、フランス人には結構人気があるそうです。ダヴィンチなどルネサンスの芸術家を招き、ルネサンス風の宮殿を建てたり、研究施設なども作ってますから、文化的な人でもあったのでしょう。

　1547年にフランソワ１世が没すると、後を継いだのがアンリ２世です（在位1547-59）。が、この人の場合、奥方の方が有名です。その名も、カトリーヌ＝デ＝メディシス。イタリア・ルネサンスの一大スポンサー、超富豪メディチ家の出身。大商家の箱入り娘がフランス王家に輿入れしてきたわけですが、旦那の死後、王位に付いた息子達を操り、３０年にわたり摂政として、まるで極道の妻達のようにビシッとフランスを仕切っちゃいます。

　カトリーヌが嫁入りしてきた当時は「商人の娘が」と王族貴族に馬鹿にされるところもあったらしいのですが、フランスに同化し、徐々に力をつけていきます。アンリ２世が生存中は、夫の年上の愛人ディアーヌ・ド・ポワチエ(この人がまた美人で聡明で有能だったりする）に対する嫉妬に身を焼いたりしていたのですが、アンリ２世が40歳で事故死した後は、政治家として実権を担うようになります。すなわち、長男のフランソワ２世があえなく在位１年で没したあと（ちなみにこの人の奥さんが、前回のイギリス編に出てくるエリザベスのライバル、メアリ・スチュワートだったりする）、次男のシャルル９世が王位を継ぐとカトリーヌは摂政として国政をみるようになります。

　さて、ここでフランスにも他国と同じ社会情勢が生まれています。言わずとしれた新興勢力プロテスタントと旧来のカトリックとの対立です。アンリ２世は、最初プロテスタントを弾圧していたのですが、あまり効果はなかったといわれます。この時代の新興プロテスタントは、国によって色々な呼ばれ方をしますが、フランスではユグノーと言われています。カトリックVSプロテスタントを巡って、このあとフランスでも血で血を洗うような内乱になります。

　摂政として政治の実権を握ったカトリーヌは、ユグノーに対する弾圧をゆるめ、両派の融和を図ります。大体どこの国でもそうですが、政治的に明敏な王は両派のバランスや融和を目指します。イギリスのエリザベスしかり、ドイツのカール５世しかり。逆に、どちらかに肩入れして他方を徹底的に弾圧しようとすると、バランスを崩して自滅します。イギリスのブラッディメアリーしかり、スペインのフェリペ２世しかりです。その意味で、両派のバランスを考慮したカトリーヌは、優れた政治センスをもっていたと言えます。が、エリザベスのような大物政治家になるには、まだちょっと足りなかった。

　カトリーヌがバランスを取ろうとしても、旧来のカトリック勢力はおいそれとは従わず、結局フランスは内乱状態になります（ユグノー戦争）。これが又延々と1562年から98年というから30年以上続きます。カトリーヌもこの内乱を収めるために、王族のマググリートと、ユグノーの中心にいるナヴァル王アンリとを結婚させます。ところで、この時期「アンリ」という名前がやたら沢山出てきます。事故死したカトリーヌの旦那もアンリ２世ですし、今出てきたナヴァル王もアンリ（後にアンリ４世になる）。

　しかし、1572年8月、このマルグリートとナヴァル王アンリとの結婚式に際に、カトリック勢力は祝典に集まった全国のユグノー達を攻撃し、殺害します。その数3000人に及ぶといわれるサン＝バルテルミの大虐殺です。これを図ったのは、カトリック派のギーズ公アンリ（３人目のアンリ）なのか、カトリーヌなのか、両者の共謀なのか諸説あるようです。ふと思うのですが、もともと内乱を止めさせ、新旧教のバランスを取るためにわざわざ政略結婚まで図ったのに、ここでユグノーを虐殺したらモトの木阿弥です。意味ないじゃんって。実際、これによって内乱はより一層激ってます。カトリーヌからすれば、自分で仕掛けた融和結婚なのに、それを自分からブチ壊すようなことを何故するのか？と。

　これもまた複雑な背景があるようで、カトリーヌとしてはコリニー提督という人物を排除したかったようです。このコリニー提督はプロテスタント（ユグノー）であり、同時に有能な闘将でもあり、当時の王様シャルル９世（カトリーヌの次男）からは父親のように慕われていたようです。コリニー提督は、これも前回につながりますが、スペインのフェリペ二世にイジメられていた当時のネーデルランド独立戦争に同じプロテスタントとしてシンパシーを感じたのでしょう、援助するようシャルル９世を説きます。王様になった時点ではまだ１０歳で母親のカトリーヌの言いなりだったらシャルル９世も、そろそろハタチ。男の子としては母親のチョッカイが鬱陶しい頃です。勝手に僕が推測するに、「母上、私はもうコドモではない！フランスの王なのだ。いちいち指図するのはやめていただきたい」とか何とか言ったのではないかな。「しかし、お前はあの大国スペインと事を構えるつもりでしょう。お前はそれがどういうことか分かっているのかい？」「あのケナゲにも自由と独立を求めるネーデルランドの民を助けねばなりません」「それが青臭い正義感だと言うのよ。どうせコリニーあたりに焚きつけられたのでしょう。あやつはユグノーだから同じプロテスタントのネーデルランドを助けようとするのは当たり前ではないか」「コリニー提督は立派な人物です！」とかなんとか確執があり、このままではコリニーに唆されてスペインと喧嘩をするわ、国内のバランスも壊れるわでカトリーヌも苦慮したでしょう。そこへ、カトリック守旧派の大物ギース公アンリが、「母后様、いつまでコリニーをのさばらせておくおつもりですか？あやつはフランスを滅ぼしますぞ。是非この機会に、、、」とかなんとか密談があったかどうかはわかりませんが、史実としては８月２２日、コリニー暗殺未遂事件が発生します。

　このときコリニー提督を暗殺できたらそれで話は終わったのかも知れませんが、なまじやり損なっていたので話はさらに険悪にあります。集まっていたユグノー派の貴族達も怒り心頭に発し、国王シャルル９世に「一体どういうことか」と詰めより、開戦前夜の物騒な空気になっていたことでしょう。ここまできたら先制攻撃あるのみとなり、ギースの兵隊がユグノー派の貴族の宿泊所を襲撃し、3000とも4000とも言われるユグノーを殺してしまったわけです。これがサン＝バルテルミの虐殺。英語でいうと"St. Bartholomew's Day Massacre"。虐殺の行われた結婚式の祝典の花婿だったナヴァル公アンリは、強制的にカトリックに改宗させられ、宮中に監禁されてしまいます。しかし、この人も自分の結婚式が虐殺の修羅場になっただけではなく、拉致監禁・改宗までさせられてしまうわけですから、たまったものではないでしょう。

　ともあれこのカトリック→プロテスタント襲撃事件によって、国内のユグノー戦争は益々激化します。プロテスタントによるカトリックへの襲撃・報復、さらに再報復で泥沼化します。このフランスの内輪喧嘩に、スペインがカトリック派を、イギリスがプロテスタント派を応援することで、話はどんどん大きくなります。事の成り行きにビビってしまったと言われるシャルル９世は、しょせんはお坊ちゃん王だったのでしょうか、この精神的ショックがもとで２年後に死んでしまいます。

　シャルル９世のあとは弟のアンリ３世が継ぎます（またアンリ！これで４人目）。このアンリ３世と、黒幕と言われるギース公アンリ、さらに監禁から脱走してプロテスタントに戻ったナヴァル公アンリ、全員アンリという名前を持つ３人３勢力の三つどもえの争いになります。「三アンリの戦い」というそうです。

　３アンリの戦いは、アンリ３世がギース公を暗殺したけど、自分も暗殺されてしまうことで、ナヴァル公アンリが生き残り、漁夫の利的に王位をゲットします。これがアンリ４世です。ちなみに、ここでこれまでの王位の血統（ヴァロア朝）が断絶し、ブルボン王朝になります（1589年）。

　極妻的なカトリーヌの威勢も、アンリ３世の頃までが限界で、摂政を止め、隠居し、1589年に没します。その数ヶ月後にはアンリ３世も没します。

　辣腕母后、摂政として、あるいは悪女として有名なカトリーヌですが、ルネサンス発祥のイタリアの先進文化を嫁入りとともにフランスにもたらしたという功績が歴史的には一番大きいかも知れません。連れてきたイタリア料理人達が、フランス人シェフ達に進んだ調理技術を伝え、今日のフランス料理の基礎になったり、フォークやアイスクリームをフランスに伝えたのもカトリーヌであると言われます。

　ということでアンリ４世になるのですが、彼はプロテスタント（ユグノー）だったわけですが、これに対してまだ力の強いカトリック側が承服しなかったため、政治的にアンリ４世はカトリックに改宗します。しかし、ユグノーの（条件付き不平等ではあるが）信仰の自由を認めたナントの勅令を発して、30年以上続いたユグノー戦争はここで一応の決着をみます。しかし、この人を見てると、プロテスタント→カトリックに強制改宗→プロテスタントに復帰→カトリックに政治的に改宗（でも心情はプロテスタント）という非常に変転する人生を送っていますな。

　結局プロテスタントの権利を認め、カトリックの争いを緩和する方針をとれば国内は成功し、そうしないで弾圧すると国が乱れるという非常に分かりやすいパターンを辿っていることがわかります。はるか後世の我々から見ると、「プロテスタントを認めればいいじゃん」とミエミエにわかったりするのですが、当時の情勢からすると色々あってそれが難しいんでしょうねー。

　アンリ４世は苦労人だったせいか（なんせ自分の結婚式が虐殺大会になるのだし）、治安の回復、農業復興、財政再建、国内インフラの大整備という国民生活向上を真面目に考えた政策を繰り出し、対外的には平和主義で通し、東インド会社（各国が作っているのですね）、北米ケベックの建設など、精力的に生産的な国政をします。さらに、ビジョンとしてはヨーロッパの紛争を解決するために国際裁判所と国際軍を構想していたようです。今の国連みたいな発想を、近代人権思想も何もなかった時点で描いていたという意味では天才的ですらあります。少なくとも、しっかりとした政治をした名君だったのではないでしょうか。この人、フランス人の人気も高く、大アンリとも、良アンリとも呼ばれているようです。ただ、このアンリ４世、英雄色を好むではないですが、生涯に愛人が50人という破格な人生を送ってたりします。この名君も、最後には精神異常者に刺殺されてしまいます（1610年）。

　アンリ４世、その昔のナヴァル公アンリの血塗られた結婚式はどうなったのか？ですが、式がそうなってしまったからか、もともと政略結婚だったからか、夫婦仲は冷えていたそうです。結局、マルグレットとの結婚は無効であったということになり、マリー・ド・メディシスという女性と再婚します。つまり、カトリーヌの娘であるマルグレットとは離婚（婚姻無効）になったけど、カトリーヌの実家であるメディチ家からまた別の嫁さんをもらったということになります。

　

　さて、ここから馴染み深いルイ13世、14世の時代になっていきます。
　アンリ4世が暗殺されたため、息子のルイ13世がわずか９歳で王位につきます（1610）。そして、カトリーヌと同じく、メディチ家の女が摂政になります。母后のマリー・ド・メディシスです。もっとも、このマリーは、カトリーヌほどの政治の才能はなかったようです。せっかく亡夫が心を砕いて宗教バランスを保ったり、国民生活向上政策をやっていたのに、それらをイチイチひっくり返すような政策をしはじめます。亡夫時代の宰相も首にし、イタリアから連れてきた人物を据えます。

　これには年若いルイ13世も、また有力貴族も「ええ加減にせんかい」モードになり、ルイ13世は切れ者と評判だったリシュリューを補佐官として引き込み、母マリーを捕まえて幽閉してしまいます。脱走したマリーは息子（ルイ13世の弟）と一緒に反乱軍を決起しますが、あっさり失敗。後に許され、復帰しますが、リシュリューの失脚を画策するもあっさり見抜かれ、結局国外追放されてしまいます。いいとこなしで終わってしまいます。同じメディチ家出身でも、カトリーヌとはモノが違う感じですね。

　このリシュリューという人が、噂に違わぬ有能な宰相で、ルイ13世の下で死ぬまで国政を切り盛りします。この人もかなりの人物だったようで、基本コンセプトは「王権の伸張」と「強いフランス」であり、このテーマにプラスになるなら何でもやるという清濁合わせ呑むマキャベリズムの政治家です。王権のために中央集権の官僚・行政機構を整備するとともに、邪魔になりそうな三部会を停止し、王令審査権を持ち反国王の貴族達の拠点であった高等法院に縛りをかけます。目障りな奴を処刑するという乱暴で頭の悪い粗暴な手段ではなく、法制度やシステムに精通していないとこういう政策はできないでしょう。

　また、ともすれば勃興してくるプロテスタントを抑え込み、プロテスタントの牙城ラ・ロシェルを攻撃します。しかし、宗教心によってそうしたわけではなく、あくまで国内勢力バランスとその上にたつ絶対王政の確立という政治目的のためでした。その証拠に、彼は、国際バランスを取るため＝スペインとオーストリアのハプスブルグ家に対抗するため、30年戦争ではカトリックではなくプロテスタントのスウェーデンと結んでカトリック系勢力と敵対する戦略をとっています。

　冷酷なマキャベリストとして悪役として描かれることも多いのですが（「三銃士」の敵キャラにもなっている）、無私の政治家、それもとびきり優秀な政治家であることは誰も否定できないようです。これだけのことをすれば当然敵も多く、年がら年中陰謀や暗殺のマトにされていたらしいのですが、クレバーなリシュリューはそれらを全て見破ってクリア。天寿を全うします。まあ、これだけの名番頭がいたら王様も楽なものだったでしょう。リシュリューが死んだ翌年にルイ13世も没します(1643）。

　ルイ13世＆リシュリューコンビが亡くなったあと、息子のルイ14世が５歳で王位を継ぎます。ここで歴史の不思議な現象、先代のそっくりコピー状況になります。すなわち、ルイ13世のときと同じく、①幼少にして王が位に就き、②母后が摂政をし、③名宰相が登場する、というまんま同じパターンの繰り返しになります。

　ルイ14世の場合も、母后が摂政になり、リシュリューの推薦と母后によりマザランという人物が宰相の位に就きます。世界一周をした「マゼラン」とは違います。「マザラン」です。マザラン宰相の政策は、基本的には師匠リシュリューの踏襲であり、国内不満分子の鎮圧と国際紛争への参加とフランス利権のゲット。前者は、フロンドの乱（1648-53）と呼ばれるもので、貴族勢力の王権への反乱です。いっときはマザランはルイ14世を抱えてパリを脱出せざるを得なくなりましたが、貴族内部の足並みの乱れに乗じたマザランが鎮圧します。これで貴族勢力は王に逆らえなくなり、以後歴史上貴族がブイブイ言わす機会はなくなります（その後は市民革命やナポレオンが出てくるから益々出る幕がなくなる）。また、リシュリューのあとを継ぎ30年戦争（あとでやります）に参加し続け、外交上の駆け引き上手でアルザス地方やヴェルダン地方をゲットします。あと重商主義を促進した点も功績でしょう。

　リシュリューとマザランはともに名宰相と言われますが、リシュリューがルイ13世時代の殆どを仕切った（王の死の前年に死去）のに比べ、マザランはルイ14世がまだ若い時期（23歳）のときに没します。これはリシュリューがルイ13世の16歳年上なのに対し、マザランはルイ14世の36歳も年上という世代の差によるのでしょう。そのためマザランはルイ14世時代の前半部分しか担当せず、あとはルイ14世の「親政（王自ら執政する）」時代になります。

　リシュリューはフランスの田舎小貴族の出身、マザランはイタリアの庶民出身です。出世のパターンはほぼ似ていて、カトリック教会の超高級官僚である枢機卿になり、フランスの政界で重用されるということで、教会ルートの出世であるという点です。形式的には聖職者が総理大臣として政治をしているわけで政教分離もヘチマもないようですが、教会的なドロドロした雰囲気はこの二人にはないです。僧侶が政治をしているというよりも、有能で野心もある下層階級の若者が立身手背するルートとして教会があったという感じですね。この絶対王政の時代というのは、なにしろ王様が絶対的に偉いのですから血筋や家柄が最優先されるわけですが、同時に実務的な裏舞台においては、ある種の徹底的な実力主義でやっていたのでしょうし、またそうでなければ廻らなかったのでしょう。徹底的な階級社会でありながら、全然階級社会じゃないというあたりが、ヨーロッパ社会の複雑な構造なのかもしれません。

　また、どちらも幼少の王のオカン（母后）に気に入られて登用されるあたりも似てますが、マザランがその母后と相談役でもあり且つ愛人関係にあったと言われていたのに対し、リシュリューは時として引き立ててくれた母后と敵対したり、母后を追放したりしてますので、「寵臣」的な要素は少なく、より骨太で大物政治家っぽい感じがしますな。

　さて、20代で親政政治を開始したルイ14世ですが、「太陽王」と呼ばれ、「朕は国家なり」とのたまうなどフランスきっての大王ぶりを発揮し、栄耀栄華を満喫します。しかし、後世の我々からクールに見ると、しょせん「バカ殿」だったんじゃないかって気もしますね。

　ルイ14世のやったことで最大の功績は、20年以上かけて壮麗なベルサイユ宮殿を造ったことでしょう。ここを拠点に貴族淑女が集まり、豪華な舞踏会や演劇が行われ、フランス文化の一つのピークと原型を作り上げます。ベルサイユは欧州政治の中心にもなり、フランス語は国際言語になったりします。現在のフランス人がタカビー根性を捨てきれないのも、全てはここに原点があるような気がします。ちなみにマンガの古典「ベルサイユのばら」は、このあとのルイ15世からフランス革命時代ですから、もうちょっと時代が下ります。

　さて、フランスの充実ぶりを支えたのは重商主義です。ここにもう一人有能な官僚が登場します。コルベールという人で、もとはフランス北部の商人の息子です。20歳の頃からジミな政府関係の仕事をしていたのですが、有能だったのでしょう、重用されるようになり、ついにはフランスの財政を一手にみるようになります。彼は、東インド会社を再興するだけではなく、西インド会社・レバント会社・セネガル会社など作り、いまのカナダのケベック州に大規模な植民団を派遣してます。また、保護関税をかけて輸入を制限し、国内産業の保護育成を図ってます。典型的な重商主義者で、コルベール主義といえば重商主義の代名詞にもなってます。これだけ読むと素晴らしい経済通の大臣のようですが、よく調べてみると、彼がやったのは国際貿易の振興と徹底した大企業優遇政策です。逆に農民や小自営業者は徹底的に搾取され、貧乏人ほど税率が高いという嘘みたいなことをやってます。要するに庶民は搾り取れるだけ搾り取り、それで全体の産業を発展させよう、国際的に儲けようということで、なんか日本みたいですね。経済の発展は庶民を豊かにするためではないってことです。そのため庶民階層の恨みが骨髄に至り、後のフランス革命の火種を残します。

　さてルイ14世ですが、この王様は色々なヘマをしていますが、最大のミスはナントの勅令を廃止したことです。彼はカトリックであったためプロテスタント（ユグノー）を敵視し、弾圧します。その挙句、ユグノーの権利を認めたナントの勅令を廃止してしまいます。名君アンリ４世が行った努力を無駄にするわけですね。これはプロテスタントとカトリックの対立を再燃させるだけではなく、これまで何度も述べているようにプロテスタントというのは教義上勤勉だし、近代資本主義の基礎を作る人材達なわけで、この「新しいフランスを担うはずだった」技術者や商人達が国外に出て行ってしまいます。その数20万人とも30万人とも言われていますが、これによってフランスの産業や経済は深刻な打撃を受けます。

　一方で重商主義とかいってながら、片方でこういうことをしているあたりが僕にバカ殿呼ばわりされる所以です。しかし、このパターン、何度も出てきますな。カトリックVSプロテスタントは何処の国でも最大の不安要因であり、名君が出てくるとこの対立を緩和しバランスを取り、治安を回復し国力を充実させる。するとつけ上がった二代目、三代目が自分の趣味信条によって、バランス感覚を無視してプロテスタントを弾圧し、全てを崩壊させるという。スペインのカルロス１世→フェリペ２世パターンです。

　ルイ14世は戦争も活発にやりました。1667年にはフランドル戦争、1672年にはオランダ侵略戦争、ドイツではアウグスブルグ同盟戦争（1689）、そして1701年のスペイン継承戦争です。かなりイケイケに頑張り、それなりにヨーロッパにおけるフランスの覇権や権威を示すことは出来ました。

　しかし、どの戦争も最終的には労多くして実り少なし、骨折り損のくたびれもうけ的な結果に終わっています。特にスペイン継承戦争の分枝である北米植民地でのイギリスとの戦争（アン女王戦争）では、結果的に北米の植民地争いでイギリスに大きく後れを取ります。このとき頑張っていたら、あるいは戦争をやらなかったら、アメリカは英語圏の国ではなく、フランス語圏の国になっていたかもしれず、現在の世界情勢もかなり変わっていたと思われます。

　ルイ14世は生まれついてのボンボンだっただけに、贅沢三昧をして栄耀栄華を満喫するのは上手でした。ベルサイユ宮殿の建設、ボワローなどの芸術家の保護と文化振興、アンヴァリッド傷病兵病院の建設など、まんざら馬鹿ばっかりやってたわけではなく、それなりの功績もあります。

　が、女性関係も派手で、ルイーズ・ド・ラヴァリエールをはじめ、モンテスパン侯爵夫人（フランソワーズ・アテナイス）やら、マントノン侯爵夫人やら、、、。しかもつまみ食いレベルではなく、正妃のマリー・テレーズとの間には６人の子供を設けつつ、ルイーズとの間には４人、フランソワーズとの間にはなんと７人も子供を作っています。奥さんのマリーや、第一寵姫のルイーズは、大人しくて控えめで「いい人系」であり仲も悪くなかったのですが、問題はフランソワーズでした。この人、銀座の成り上がりママ系というか、ゴージャスなんだけど性格がキツいというか、上昇志向、虚栄心、嫉妬心が強い女性で、かーなり嫌われてます。夫の留守中、自らルイ14世に取り入り愛妾にしてもらい、発覚後も夫に対して開き直り、ルイ14世が賠償金を払って離婚。可憐で素朴なだけのルイーズにルイ14世が飽きてからは、第一寵姫の座を独占し、ルイーズを召使い同様にコキ使い、イジメ抜きます。また正妻マリーもシカトして、自分こそが王妃であるように外国使節にも振舞い、公然と王妃の悪口を言ったりしています。自分が一番でないと気が済まないこの成金オバサンは、金に糸目を付けずに散財しまくり、宮廷費を圧迫していきます。が、女の武器でのし上がった者は女の武器で滅びるわけで、年を取り容色が衰えるとルイ14世の寵愛も薄らいできます。若く美しいマリー・アンジェリクが出てきます。焦ったフランソワーズはあの手この手を使います。宮中の若い女官をクビにして、醜い老婦ばかりに変えたりしますし、黒ミサ（全裸になって胎児の血を浴びる）などやりますが、効果なし。完全に王の寵愛を失ったフランソワーズは、最後には寂しく宮殿を出て修道院に去ります。

　このフランソワーズはかなり嫌われているみたいで、例えば、イジメに耐えかねたルイーズが修道院に行くと言い張っていたときも、これでルイーズに去られたらいかにも自分が意地悪して追い出したような印象を与える（って事実だけど）から、散々引き留め、いよいよ出発となった晩餐会でも白々しくルイーズが素晴らしいと称賛しまくっていたそうです。しかし、こんな晩餐会の振舞いだの、自分がイイコになりたい下心だのがアケスケに記録され、数百年たった今でも歴史に伝わってるということは、これはそーとー嫌われていたんでしょうね。じゃなかったらこんな些細な事柄が史実として残らないでしょう。

　なお、フランソワーズの黒ミサですが、後に黒ミサ事件として大スキャンダル事件になります。当時のフランスでは、ヴォアザンという自称魔女が黒魔術や毒殺、堕胎を請け負っていました。最初は一端が明るみに出ただけですが、事態を重く見たルイ14世は徹底的に捜査することを命じます。すると出るわ出るわ、パリの上流階級の紳士淑女達が数百人検挙されます。黒魔術といいながらも実態は毒殺のための毒の販売や堕胎屋であり、そんな店がパリに多数ありました。パリ警視総監すら奥さんに毒殺されていたことが分かりました。上流階級の裏のドロドロ面が吹き出したわけです。これだけでワイドショー30年分のネタになりそうな事態です。そして、ついにフランソワーズまで顧客であることが判明した時点で、よくある話ですが「高度な政治的な判断（=実態はルイ14世がウンザリした）」で捜査は中止され、ごく一部を処刑しただけで、あとは闇から闇へ葬られました。って、人の口には戸は立てられないから、こうして書かれているわけで、葬られてないって。

　このように一見華やかで優雅なフランス絶対王政の最盛期のルイ14世治世ですが、「果物は腐り始める直前が一番美味しい」というように、かなり内部では腐敗が進行していたように思われます。

　ルイ14世はエピソードも多いです。バレエにハマり、自らも舞台にのぼります（太陽神を演じたので太陽王と言われる）。そして、男も脚線美を維持するためにヒールの高い靴を履くように奨励し、その後キツいバレエシューズで足が小さくなったのが貴族の証明みたいになるという妙な風習も生まれます。

　また、これは可哀想な医療過誤だと思うのですが、宮廷の侍医ダガンが「全ての病気のモトは歯である」というトンデモ珍説を持っていたため、可哀想にルイ14世は全ての歯を引っこ抜かれてしまいます。しかも当時は麻酔ナシ。消毒も抜いたあとの歯茎に真っ赤に焼けた鉄を押し当てるという悲惨さ。当然入れ歯もろくすっぽなかったでしょうから、固い物が噛めず、ルイ14世が贅沢三昧をしたといっても限界あったでしょう。よく噛めないからか（フランソワーズがゲットした怪しげな惚れ薬を密かに飲まされていたからという説もあり）、常に胃腸の調子が悪く、年柄年中トイレに籠もり、衣服にも糞便の匂いが染みこみ、そのあまりの悪臭に王の前に列席していた貴族家臣も香水を含ませたハンカチを鼻にあてて閣議をやっていたとか。何やってんだかって気もしますね。

　以上のフランスの絶対王政を見ていくと、極妻系カトリーヌ、名君アンリ４世、ルイ13世＆リシュリューのコンビ、さらにマザラン達が営々と築き上げ、育て上げたフランス大帝国の最盛期にたまたま生まれ合わせたのがルイ14世であり、ただそれだけの話でしょう。別にルイ14世が偉いわけではないように思います。それなりに偉かったのでしょうけど、先代、先々代達からみたら政治的にも人間的にも二流でしょう。

　馬鹿殿ぶりの第一は、あれだけプロテスタントVSカトリックで血を流し、やっとの思いでバランス回復をはかったナントの勅令をあっさり撤回してしまうことです。歴史が全然見えてないね。これで政治的にはバランスを欠きますし、暴力から経済の時代へという大きな流れも全然見えてない。新時代の資本主義を育てるには、勤勉で優秀な技術をもっているプロテスタント連中を頼りにするしかないのに、ナント勅令を廃止したことで、この国の宝のような人材は大量に国外に流出してしまいます。これが、その後数百年、つまり現在にいたるまで、フランスという国が経済的にはしょせんアメリカ・イギリスの敵ではない遠因であるようにも思います。国家数百年の計を誤ったといえます。また、重商主義の代名詞と言われるコルベールも、結局は派手な国際舞台や大企業優遇をするだけで、民間資本や技術の育成に関してはほとんど見る目がなかったと思いますので、僕はあまり評価してません。

　対照的なのがイギリスです。イギリスは自国産業育成のためフランドル地方の毛織職人をわざわざ招き、排他的なギルドにかえ、生産販売を行う許諾実施権（Letters Patent）を与えてます。また、エリザベス女王も、優秀な技術者を呼び寄せるためこの権限を強化し、彼らの先進技術を保護するために、現在の特許権と同じようなシステムを作ります（1561）。また、1624年には、発明者に一定期間の市場の独占権を与え、権利侵害の賠償請求を認める法律を作ってます。このように、先端技術や知的所有権の保護という発想で、イギリスの国内産業は伸びていくわけですし、こういう先見の明があるかどうかが大政治家かどうか、優秀な経済家かどうかの違いだと思います。産業革命がイギリスから起こったのは偶然ではないです。それなりの準備と努力があったからこそ＝新しい発明をすればそれだけ儲かるというシステムを構築していたからこそ、人々は頑張り、遂に産業革命に至ったのでしょう。そういう視点で見れば、ルイ14世にこの種の先見の明は殆ど見受けられません。

　そしてまた見栄張りのためだけの喧嘩のような相次ぐ戦争。戦争をするわりには、殆ど収穫なし。それどころか北米植民地争いでイギリスに大きく遅れを取り、将来のアメリカでの利権を失う（なんだかんだで結局残ったのは現在のカナダのケベック州くらい）。くだらない戦争だったとすら言えるでしょう。しかし、戦争というのはかなり国を疲弊させます。そのため、重税に次ぐ重税で国民の恨みを買いまくります。

　ルイ14世は５歳で王位に付いたので、その在位はなんと72年に達します。やり過ぎ。そのため、あれだけ沢山子供を作りまくっておきながら、次のルイ15世はなんと曾孫です。子でも孫でもないヒ孫ですよ。隠居せーよ。

　ルイ14世が死んだのは1715年、その後ルイ15世の代でフランスの財政はほぼ死に体になり、次のルイ16世はわりとマトモな王様で必死にフランスの改革を図りますが、先代と先々代のツケが廻りまくり、1789年フランス革命勃発、1793年にルイ16世はギロチンによって刑死します。可哀想に、ご先祖さんによって殺されたようなものです。フランスの最盛期で栄耀栄華を享受したのはルイ14世であり、フランス革命の遠因を作ったのもルイ14世であり、フランスの絶対王政をダメにしたのもルイ14世だと思います。

　なんか「奢れる者は久しからず」の平家物語を地でいくような話ですが、しかし各国各時代の歴史を見れば見るほど、シンプルな原理が出てきます。つまり名君のとき、政治が良ければ国は繁栄し、暗君、政治が悪ければ国は滅びるというクソ当たり前の原則です。

　さて、来週はドイツはその後どうなったかを見ましょう。30年戦争という、世界史初の世界大戦、いわば第ゼロ次世界大戦なんてのもおきます。

文責：田村

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