エッセイ336/APLAC キリスト教について（その１２）　～大航海時代

今週の１枚（07.11.26)

　　ESSAY ３３８　：　キリスト教について（その１２）　～大航海時代

　写真は、ノースのWoolstonecraft、Brennan Park、のどかな土曜日の朝。紫色の桜のような木がジャガランダ。桜のように最初に花が咲き、そのあとに葉が茂ってきます。この写真では既に多少”葉桜”状態になりつつあります。

　延々続いているキリスト教シリーズです。ここ数回は西洋史シリーズですけど。
　今週、そして来週やる予定である宗教改革は大体15世紀末から16世紀の出来事ですが、このあたりに西洋史、ひいては人類史は一つの転換点を迎えると思います。そしてその変化は現在に通じるもので、「なんで今の世界はこうなっているの？」という世界の原型が出来はじめる時期でもあります。その大きなポイントが大航海時代です。

　大航海時代というと、コロンブスが新大陸を発見して、マゼランが世界一周して、、という、大海原を帆船が進んでいくイメージです。それで間違っていないのですが、今回調べていて、その歴史的意味というのはかなり巨大なのだということを再認識しました。一言でいえば、人々が地球単位で物事を考え、行動するようになるグローバライゼーションの始まりです。

　大体ですね、ベトナム戦争でなんでフランスとかアメリカが一枚噛んでいたのか素朴に不思議に思いませんか。南町の安田さんの遺産争議に、北町の大野さんが乗り込んで暴れているというようなもので、「なんでお前が出てくるのよ？」という。これが近代から現代に続く世界情勢の基本図式です。前々回やったようにイギリスとフランスが喧嘩するとか、ロシアが北欧諸国を支配するとか、中国がチベットを占拠するとかいうのはまだ分かります。西欧の軍勢が中東に向けて十字軍を派遣したのもまだ分かります。なぜならそれは近隣紛争だからです。隣り合わせに住んでいる木下さんと田中さんが仲が悪いというのと同じです。アレキサンダー大王やジンギスカンが領土を広げましたというのも、ドドドと自分の領地が広がるだけだから話は分かる。しかし、ベトナムにフランスが噛んでいるとか、インドの公用語が英語になってるとか、ブラジルでなぜかポルトガル語を喋ってるなどの事例は、とある国が、近隣でもなんでもない、遠く遠くポツンと離れた国にメチャクチャ強力な影響力を持っているという図式であり、近隣関係では説明できません。

　大航海時代以前の人類史は、いかに複雑に見えようとも陣地取りゲームであり、武力・暴力でもって無理やり陣地を広げていく過程でありました。大航海時代以後も陣地取りゲームであるという点においては基本的に同じですけど、陣地が地続きではなくなります。飛び領地みたいに点在してくるし、その点在度合いが地球規模で生じてきます。「誰よりも早く、遠くまで行った奴の勝ち」みたいなゲームなのですが、これが後の植民地支配、西欧列強の帝国主義に続き、第一次、二次大戦を招き、戦後は米ソの冷戦構造のもと、植民地の独立に際して生じた内戦を米ソが代理戦争としてサポートし、結果的にその国をグチャグチャにするという構図に続きます。こういった大きな流れはいつから始まったのかと遡っていくと、大航海時代にまで行き着きます。ゲルマン民族同士が抗争したり、近隣のイスラム諸国と喧嘩するというのとは次元が異なる歴史がここから始まるわけです。人類史の転換点というのはそういう意味です。

　さて、大航海時代がなぜ始まったのか？です。海は昔からそこにあったわけですし、その気になれば大昔からどんどん行けたわけですが、なぜこの時期になって突如として気が狂ったように皆で航海に乗り出したのか？です。

　これも幾つかの理由がありますが、一般に語られている理由を箇条書きにすると、

　①、先陣を切って突っ走ったのはスペインとポルトガルですが、この二カ国が当時レコンキスタの延長で、イケイケ状態にあった。
　②、東方貿易が非常に儲かること。特に香辛料（胡椒、肉桂＝シナモン・丁字＝クローブなど）。
　③、従来の地中海経由の東方貿易以外のルートを開発する動機と必要性。地中海ルートはイスラム商人・ベネチア商人がタッグを組んで独占してたので、それ以外の産地直送ルートを見つければ莫大に儲かること。また、東ローマ帝国（ビザンツ）が滅びオスマントルコ帝国が出来て商業ルートが阻害されたので新ルート開発の必要があった。
　④、ルネサンスの三大発明（改良）である羅針盤や、地球球体説、造船航海などの科学技術の進歩。
　⑤、東に進もうとしても、オスマントルコ帝国、イスラム圏、モンゴル帝国と超強力な国々が仕切っていたので行けず、西に行くしかなかった。

　などの理由があるとされます。

　①について若干補充説明をします。スペイン、ポルトガルのイベリア半島ですが、これは711年以降、ウマイア朝がゲルマン民族の西ゴート王国を滅ぼしてからイスラム帝国になってます。以後、後ウマイア朝、ムラービト朝、ワッヒド朝というイスラム支配が続きます。スペインというのは、僕は行ったことなのですが、面白い国らしく、古い遺産建築物にはイスラム時代のものと、キリスト教時代のものが混在して残っています。有名なアルハンブラ宮殿はイスラム建築です。イスラム帝国にやられっぱなしだったヨーロピアンも徐々に力を付けてきて、北部の方から国土を奪回し、イスラム勢力を南に追い詰め、最終的には追い出してしまいます。この過程を国土回復運動＝レコンキスタということは、大学入試でやりましたよね。「スペイン版尊皇攘夷」みたいなものですが、718年から1492年まで延々700年やり続けています。

　これだけ長い時間諦めずに頑張ったのはエラい反面、時間掛かりすぎって気もします。それはキリスト教勢力側も一枚岩ではなく、アラゴン王国、カステーリャ王国、グラナダ、ナバーラに分裂していたからです。が、カスティーリャ女王になったイサベル一世とアラゴン王子のフェルナンドが結婚したことで、両国が合体、強力なエスパニア（スペイン）王国が出現し、国土を統一、イスラム勢力を追い出してレコンキスタを完成させます。わりと早い時期からスペインから独立していたポルトガル王国も同じくイスラム勢力を駆逐します。このように共通する敵に対して挙国一致、民族一致的に盛り上がっていったので、スペイン、ポルトガルはヨーロッパ諸国のなかでもいち早く中央集権の強国になっていきます。またナショナリズムも盛り上がるし、何よりも右肩上がりでイケイケムードというのが大きかったのでしょう。「よーし、次は大海原だ」「おおー」みたいなノリだったんじゃないかなあって推測します。

　あ、それから、ヨーロッパを襲ったペストの大流行がありますが、スペイン、ポルトガルではこのペスト禍の影響が軽微だったという点も一つの理由になるでしょう。また、かつて進んだイスラム文明の影響下にあったので、羅針盤や航海技術などイスラム世界の先進技術を他の西欧のエリアよりも早く取り入れられたという点もあるかもしれません。

　②の香辛料についてですが、肉食の西欧人にとって、これらの香辛料は食肉の調理のみならず、殺菌・保存のために非常に重宝します。また、水が豊富でないエリアでは体臭消しとして香りが珍重されたともいいます。さらに漢方薬のように薬剤として、あるいは匂いそれ自体に悪魔を追い払うというオカルティックな効能もあると信じられたりしたようです。日本の平安時代も、貴族といえども風呂に滅多に入らないから（しかもトイレは自室内のオマルでやる）盛んにお香を焚いて誤魔化していたらしいですし、香辛料とオカルト効果はドラキュラとニンニクの関係を思い起こせば何となく分かるような気がしますね。

　しかしながら、これらの香辛料は熱帯性気候でないと自生せず、多くは東南アジアで植生していたそうです。ヨーロッパには全然存在しない。だから輸入しなければならず、当然のことながら非常に高価になります。しかし、そんなに高価なもので食肉の保存をしてたら経費がかかって仕方がなく、そんなことをするくらいなら家畜を生かしておいて、その都度屠殺して新鮮な肉を食べればいいじゃないか？って気もしますね。でも、庶民には手が届かない高価なものでも、貴族や商人など香辛料を購入できるだけの裕福な階層はいます。日本のお香だって貴族階級の遊びだったし。それに前に述べたように西欧は11-13世紀に農業生産力が高まり、この種の余裕は十分出てきているでしょう。あとは、一種バブリーな香辛料ブームになってたのかもしれません。スパイスをゲットすると皆が「すごい！」と言うから、なんだかよく分からないまま価値あるモノになり、皆が争って欲しがるから市場価格が上がるという。まあ、よくわかりませんが、ともかくも香辛料・スパイスを持ってくるとヨーロッパでは一財産稼げるくらいの大儲けになったという事情があったようです。

　これらの理由の他にもう一つ大事な理由があります。それは「地理上の発見」と言われるもので、地中海→中東→インドというシルクロードルート以外にも、アフリカ大陸をぐるっと迂回していけばインドに行けるという「インド航路の発見」です。生まれたときから世界地図が当たり前にあった僕らは何となく見過ごしてしまいますが、当時のヨーロッパの連中からしたらアフリカの下の方がどうなってるかなんて知る術もないです。漠然と、ひたすら大地が延々と続いているくらいのイメージしかなかったといいます。

　ところがポルトガルのエンリケ航海王子という人がアフリカ西岸（大西洋側）の探検を奨励し、海に沿ってどんどん南下していきます。この「エンリケ航海王子」という名前もスゴイですが、彼自身は船酔いするのであまり船に乗らなかったそうです。もっぱら奨励するだけ。彼のあとを継いだジョアン二世の時代に、ディアスという人がついにアフリカ南端岬までたどり着きます。これでインドに行けるかも知れないという希望を込めて「喜望峰」と名付けられています。

　インド航路を完成させるのは、有名なバスコ・ダ・ガマです。ポルトガル王の命を受け1497年7月にリスボンを出航し、喜望峰を回ってアフリカ東岸を北上、インド洋を横断しインド航路を開拓します。そこで香辛料を買い付け、帰港したのは1499年9月という2年以上の大航海でした。インド航路が実証されれば、あとは破竹の勢いでポルトガルは、1510年インドのゴアを占領、香辛料の産地であるインドネシアのモルッカ諸島まで支配下に置きます。しかしイケイケぶりはそこに留まらず、1557年にはマカオを拠点にして中国貿易を開始し、その過程で難破した船が日本の種子島に漂着し（1543年）、日本に鉄砲を伝え、貿易を始めます。このようにして、ポルトガルの首都リスボンは東方貿易の一大中心地になります。ここで地中海貿易の要として君臨してきたイタリア、ベネチアの没落が始まり、前回のイタリア・ルネサンスも斜陽化していきます。

　さて、ポルトガルがインド航路を発見してガンガンやってるとき、スペインはちょっと出遅れますが、その分「西回りインド航路」に関心を示します。その頃、トスカネリの地球球体説というのがあり、これによれば、アフリカを経由するよりも太平洋を西進していった方が近道だという考え方がありました。なんせ当時はアメリカ大陸なんか存在しないことになってましたから。

　で、有名なコロンブスの登場ですね。彼は「俺にその冒険をやらせてくれ」とポルトガル王を説得しますがダメで、今度はスペイン女王イサベルをしつこく説得し、最終的に説き伏せます。1492年8月に出航し、見事アメリカ大陸を発見し、93年3月に帰港し一躍ヒーローになります。発見した地の総督に任命されたコロンブスはその後も３回南米や中米に行きますが、中傷によって地位を失い晩年は結構哀しかったといいます。

　ちなみにこのコロンブスですが、ちょっと調べただけで小説の一本くらいすぐに書けそうな、映画化すればいいのにってくらい面白い人です。スペイン、ポルトガルの国家事業ともいうべき大航海なんだけど、コロンブス自身はイタリア人だったりします（もっとも彼の前半生はよく分かっていないようですが）。名前も、イタリア語で発音すると「コロンボ」です。「刑事コロンボ」と同じです。英語ではコランバスです。別に貴族や王族の出身でもない、普通の町人、普通の船乗りだったわけで、そんな平民の彼がどうしてポルトガル王やスペイン王に会って説得できたのか不思議な気もします。それなりの人脈、その人脈を作るだけの人間的魅力とアクがあったのでしょう。数年がかりの粘り強いスポンサー獲得努力を展開します。このあたりの失意と希望の繰り返しは映画などの前半の山場に使えそうですな。

　そして、映画のクライマックスは、最初の航海で中々たどり着けず、乗組員の荒くれ男達が反乱を起こして「あと３日見つからなかったら帰る」と約束させられながら、最後の最後に新大陸を発見するという、あまりにもドラマチックな展開でしょう。彼が発見したのは今のアメリカ合衆国の北アメリカではなく中米です。その後３回行ってますが、キューバとかカリブ海沿岸などもっぱら中南米エリアを対象にし、北アメリカには行ってません。英雄になった後のコロンブスですが、「俺を副王待遇の総督にせよ、収益の10％を徴税権を寄越せ」などかなり強欲な要求を王にしてます。当初からの契約内容であるとはいえ、このあたりの臆面のない上昇志向が彼のアクの強さであり、また官僚的政治的な利口さの足りないところでもあります。成功するまではそれは原動力としてプラスに作用しますが、成功してからはそのアクの強さが足を引っ張るという。コロンブスは望みどおり発見したエリアの総督になりますが、行政官としては無能で、植民地の反乱を招き、えらいこっちゃでアタフタ事態を収拾している失態を本国からきた査察官にバッチリ見られ、ダメ査察判定され、全ての権限を剥奪されます。それでもメゲないコロンブスは、第４回目の航海に出ますが、これがボロ小船ばかりで、最後は難破して救助されます。その２年後に不遇のまま死去。なかなかアクの強い人生で、詳しく調べると面白そうです。

　ちなみに、コロンブスは死ぬまでインドだと思ってたらしく、彼の誤解が未だに「インディアン」や「西インド諸島」という名称となって残っています。しかし、アメリカ大陸本体は「コロンブス大陸」とは呼ばれていません。「アメリカ」の語源は、「これはインドではなく新大陸じゃい」と過ちを正したアメリゴ・ヴェスプッチという人の名前から来ているそうです。コロンブスの名前は、コロンビア州くらいにしか残ってないようで、ここでもコロンブス君は報われてないです。

　インド航路を発見したポルトガルもスペインが新大陸を発見すると、カブラルを派遣します。彼はブラジルに漂着し、ポルトガル領を宣言したあとインドまで行きます。ここで、新大陸を巡ってスペインとポルトガルで縄張り争いが起きますが、教皇が「こっからこっちはスペイン」と地図にタテに線を引いて（教皇子午線）決めます。結局ブラジルの東端だったのが西端に変更され確定します。これによって中南米のうちブラジルはポルトガル領ですが、あとはスペイン支配下になり、これが現在いたる言語地図になります。ブラジルだけポルトガル語を公用語とし、あとはスペイン語です。しかし、世界地図にぴーっと線を書いて領土を決めるというのも豪気な話ではありますが、そのエリアだってちゃんと先住者はいるわけで、よその人の家をまだ占領もしてないうちから勝手に決めるってのもスゴイ話ではありますし、決める教皇も教皇だって気もしますが、当時はそんな感じだったのでしょう。

　さて、1519年にはマゼラン（マガリャンイス）が世界一周を達成します。彼はポルトガル人なんだけどスペイン政府がスポンサーになってます。南米大陸の南端、マゼラン海峡を越えて太平洋に出たとき、それまでの荒れた海から静かな海に出られたということでパシフィックと名付けています。Pacific（太平洋）の本来の語意は「平和な」という意味です。マゼラン本人はフィリピンのセブ島で没しますが、残った乗組員が航海を続け、帰港し、地球が球形であることを実証します(1522年）。ちなみにフィリピンがなんで「フィリピン」と称するかというと、スペイン皇太子フェリペの名前から取ったそうです。

　あ、マルコ・ポーロって人もいますよね。「東方見聞録」を書いて、「黄金の国ジパング」を言い出した人。いかにも大航海時代の人物のような気がしますが、実は時代的にはもっと前の人です。1300年代初頭くらいの人だから、コロンブスが新大陸発見する200年くらい前の話です。それに、この人は”航海”してません。地続きでイランから中央アジアに入り、中国にいって帰ってきたわけで、別に世界一周の航海をしてきたわけではないです。僕も漠然と勘違いしてたのですが、マゼランやバスコ・ダ・ガマあたりとゴッチャになるんですよね。もっと言えば、本当にマルコポーロなんて人物が実在したかどうかも結構怪しいそうです。「東方見聞録」というのはルスティケロという人が書いたもので、マルコポーロの口述、インタビュー本みたいなものらしいです。ただ、ルスティケロ自身、ジャーナリストというよりは小説家であり、今まで東方や中国を訪れた数々の商人の話を、マルコポーロという架空の人物に名を借りて書いたのではないかとも言われています。

　本当にそういう人物がいたのか、言ってる内容はヨタではないのか？とツッコミ所満載なのですが、写本がヨーロッパを出回り、その内容の奇想天外さに人々は「嘘つけ！」と非難する反面、「まてよ、もしかすると、、」と東方への興味をかき立てられたと言います。とくにアジアに富に関する部分（黄金のジパングにせよ）は、皆の射幸心を煽ったと言われます。「東方に行けば、金銀財宝ざっくざく！」と書かれたら、「嘘こけ！」と否定したくなりますが、内心「でも、本当だったらすげーな」と思っちゃったりしたのでしょう。この影響力というのは実は強力だったらしいです。それまでは遠くに行っても野蛮人がいたり、人外魔境みたいな悲惨なところ、この世の終わりの所、わざわざ行くほどのこともないって感じだったのでしょうが、そのイメージを一新させ、「遠くに行けば、もしかしてイイコトあるのかも」と考え方が変るわけです。この考えの転換＝外界への興味が、ルネサンスに影響を与え、ひいては大航海時代を招いたとされます。コロンブスも愛読者で、かーなり熱心に読んでいたそうです。

　「東方見聞録」というのは、日本人が勝手につけた日本語のタイトルであり、本当のタイトルは「世界の記述"La Description du Monde"）、あるいは「百万」"Il Milione"という写本名だそうです。堂々全４巻らしいのですが、元となる原本はかなり早い時期になくなってしまい、断片的な写本が流通していたそうです。

　ところで、「黄金の国ジパング」が具体的にどう書かれていたかというと、「ジパングは、カタイ（中国大陸）の東の海上1500マイルに浮かぶ独立した島国で、莫大な金を産出し、宮殿や民家は黄金でできているなど、財宝に溢れている。人々は偶像崇拝者で外見がよく、礼儀正しいが、人肉を食べる習慣がある」だそうです。マルコポーロは日本まで行ってません。まあ架空の人物だから行くわけないんだけど、本書で語られるのは「中国で聞いた日本の噂」です。黄金の宮殿民家というのは、おそらくは当時独自に中国と貿易をしていた奥州藤原氏の中尊寺金色堂ではないかと言われていたりします。あと、遣唐使時代の留学生の持参金や、日宋貿易において、日本側は金を使って支払ったりしていたそうで、そんなこんなで「日本は金の国」というイメージが中国にあったとも言われています。しかし、「人肉を食う」というのは、どこから出てきたのだろうか。まあ、飢饉とかになると食べていたという話はあるからなあ。でもそんなの日本に限らず十字軍だって食べてる、、、よう分からんです。

　
　さて、アメリカ大陸に到達したスペイン・ポルトガルは、開拓といえば聞こえはいいけど、要するに侵略と強奪に明け暮れます。中南米に昔からあった文化や民族、すなわちメキシコあたりで栄えた（マヤ文明を継承した）アステカ文明、南米アンデス山脈付近のインカ文明（帝国）を、あっという間にボコボコに滅ぼします。アステカ帝国は、スペインのコルテスによって滅ぼされ(1521年）、インカ帝国もスペイン人のピサロによって滅ぼされます（1533年）。いわゆる「コンキスタドラス」（征服者）です。彼らはインディオ達を虐殺しまくったわけですが、彼ら自身もハッピーになったわけではなく、コルテスは総督になったもののコロンブスと同様罷免されて失意のうちに死にますし、ピサロも同僚との争いで暗殺されてしまいます。彼らが「発見」したメキシコ、あるいは南米からは銀が産出され、スペインは鉱山を植民地運営の中心に持っていきます。大量のインディオが強制労働させられた結果人口が激減します。そこで、今度はアフリカ西海岸の黒人奴隷を新大陸に連行して鉱山で働かせます。

　このあたりの歴史は、征服や開拓という美名にかくれた集団強盗・強姦・殺人であり、まさにやりたい放題。西欧人のもっとも醜悪な部分とも言えます。いわゆるヨーロッパ中心主義というか、別にヨーロピアンに限らず人類なんか似たり寄ったりでありながらも、近世以降、ヨーロピアンが最も大規模且つ効率的、持続的にやっているので特に目に付きます。大航海時代は「冒険と探検の時代」でもありますが、そんなロマンチックでストイックだったのは最初の頃だけで、あとは「征服と強奪の時代」です。そしてこの「征服と強奪時代」は、以後形を変えながらも連綿と続き、現在に連なっています。大体、何でオーストラリアで「英語」を喋っているのか、考えてみれば変な話です。

　ところで、コロンブスにせよ、ピサロやコルテスなどのコンキスタドール（征服者）にせよ、何となく人間性に共通したものを感じます。ギラギラした上昇志向というか、エネルギッシュな下品さというか。その野卑なエネルギーが彼らの”偉業”を成功させたのでしょうが、それがその後に続く処世を誤らせ、不遇な最後を送らせるという。大航海時代というとカッコいいですが、当時の感覚では「行ったら最後、ほぼ死ぬ」くらいリスキーな冒険だったといいます。航海技術が進歩したといっても当時のことですから嵐に遭えば難破もするでしょうし、何よりも航海中のビタミン不足による壊血病。バスコ・ダ・ガマは170人で出航し、帰ってきたときは60名に減ってたそうですし、マゼランも出港時には265人ですが、無事に帰国できたのはわずか18人だといいます。こんなハイリスク・ハイリターンの事業を好きこのんで企画し、各国の王に売り込みに行くのは、かなり山っ気の強い人でしょう。「一発当てたろ」という。また、スペイン、ポルトガル両国も、正規軍ではなくそういった連中を使っているということは、あまりにもリスキーなので正規軍にはやらせにくかったのかも。一介の船乗りに過ぎないコロンブスが、なぜ国王レベルと交渉出来たのか、また法外とも言える要求を国王に突きつけて交渉する図太さも、そのあたりに背景事情があるのかもしれませんね。

　コンキスタドール達は、「遅れてきた冒険野郎」というか、新大陸はもう発見されちゃったわけですから、あとは内部の探検です。「探検家」といえば聞こえは良いけど、これもまた「一発当てたろ」系の開発要員というか、傭兵部隊というか、そういう感じだったんじゃないかと思います。大体、開拓とか探検とかいうと、正規軍の他にエネルギッシュで胡散臭い連中がついてくるもんです。アメリカの西部劇でもゴールドラッシュで荒くれ男達が群がり、アウトローが出現しますし、日本の満州国建設だって、大陸浪人とか満州浪人という胡散臭い連中がかなり居たといいますし、馬賊や匪賊になったとも言われます。ピサロなどのコンキスタドールも、現地のインディオ達を見境なしに虐殺するわ、女とみれば強姦するわ、妾を囲いまくってハーレムみたいにするわ、現地人を鉱山に放り込み死ぬまでコキ使ったりしています。最初の頃は、国王が資金を出して収奪収益の一部をスポンサーである国王に差し出すという形式だったそうですが、段々資金はコンキスタドール自身が捻出し、国王は形式的に許可を出すだけになります。同業者間の競争が激化し、現地文明の奪い合いになり、取る物がなくなると今度は鉱山経営に走る。すると今度は国王側がコンキスタドール達の独立を恐れ、押さえつけようとし、反乱騒ぎが起きたそうです。

　だから、まあ、大航海時代なんていうと、勇気とロマンの冒険物語みたいだけど、そんな美しい瞬間も確かにあったとは思いますが、総じて言えば欲の皮をつっぱらかした連中がギラギラやっていたというのが実情なんだろうなって気がしますね。また、これによって「暴力による収奪・搾取のグローバリゼーション」が始まり、さらに現地での鉱山や農耕作業に従事させるためにアフリカの黒人をアメリカに強制連行して働かせるという黒人奴隷制度が始まってるわけですから、殆どもう世界史の諸悪の根源みたいな側面もあります。

　ところで、ここでスペイン人やヨーロピアンの名誉のために、バルトロメ・デ・ラス・カサスの名を付け加えておきます。この人はカトリックの司祭ですが、当時からスペイン支配の不当性を訴え続けてきました。彼は、生前から激しい批判を受けつつ、死後も母国スペインから裏切り者呼ばわりされたり、中南米独立の際には偉大なる先駆者として称えられたりしています。いずれにせよ、当時からヨーロッパ中心主義を批判した先見性、命がけで行動した勇気は誰も否定できないところだと思います。

　話は余談に飛びますが、彼のような「勇気ある批判者」の存在は、結局はその祖国や集団の名誉を守ります。国民一丸となって熱狂しているときに、「いや、それはおかしい」と言うのは勇気がいるし、裏切り者として激しく非難されるでしょう。しかし、後の世になってみれば、評価なんか容易に180度変るわけです。そうなったときに「いや、当時もそーゆー人もいたんだ」ということが後で大きな救いになったりします。というわけで、集団内部で全員一致で盛り上がってるときに、水を差すように憎々しげなことを言う人がいますが、それはそれで貴重な存在だと思います。単に感情的に許せないとして「非国民」「人非人」呼ばわりして抹殺しようというのは、その集団の成熟度がまだまだコドモであることを意味します。

　例えば、誰が考えても死刑にするしかないくらいヒドイ奴であろうとも、それを弁護する人は絶対必要。むしろ極悪非道としか思えなければ思えないほど、誰が考えても死刑にするしかないような事件であればあるほど、弁護人は必要。それを「悪党の味方」であるかように非難するのは阿呆の所業でしょう。数ある冤罪事件だって裁判当時は死刑当然と皆が思ってたわけで、それが後になったら「間違いでした」になってるわけです。同じようにどんな会議でも反対者は必要。反対者を感情的に許せないとか、そこで感情を持ちだしてギャーギャー言ってる社会は未熟なコドモレベルでしょう。個々人の人生でも周囲にイエスマンしか許せない人の人生は必ずどっかで失敗するでしょう。だって批判を封殺するというということは、物事を慎重に見るという機会を失ってるということでもあり、構造的にミスを見過ごすように出来ているんだもん。言わば「ブレーキが壊れている車が事故に遭う確率」みたいなもので、長いスパンで見ればほぼ100％地獄行きですよ。ユダヤ人の智恵だったか、「会議で全員一致で賛成の時は必ず否決する」というオキテがあるそうです。全員一致で賛成というときは、反対意見が出ていない、つまり全員何かを見落としている恐れがあるからです。一人でも反対する人がいたら、その反対者の意見を通じて皆が多角的なものの見方や検証が出来るけど、全員一致だったらそれもできない。ゆえにリスキーに過ぎるので全員一致のときは逆に否決にするという。大人のオキテだと思いますね。以上余談でした。

　さて、この大航海時代～大侵略時代を通じて、西欧と中南米という数千年も接触がなかったエリアが触れあい、多くのモノが相互流入していきます。

　西欧から中南米に伝わったものは、小麦、さとうきび、コーヒー、家畜（馬、牛、羊）、武器（鉄器、車輪）、そしてスペイン語とポルトガル語がもたらされます。あ、そうそう、忘れちゃいけない、キリスト教も伝わります。これがメインのテーマでした (^_^)。しかし、もっともド迷惑なものは、征服者達と病原体でしょう。特に天然痘やペスト、さらに麻疹（はしか）、インフルエンザも。中南米の高度な文明王国がなぜこうもあっさり滅亡したのかというと、免疫のなかったこれらの人々に疫病が猛烈に流行って人口がガタ減りしたからという理由もあるそうです。意図せずBC兵器になっていたという。

　逆にアメリカ大陸からヨーロッパにもたらされたものも沢山あります。農作物では、とうもろこし、じゃがいも、トマト、さつまいも、かぼちゃ、唐辛子、カカオなどです。ド迷惑な贈り物は、同じく病原体、梅毒です。それに加えて、プラス評価するかマイナス評価するかは人それぞれというモノがタバコです (^_^)。

　かなり意外なのですが、西欧料理の基本ともいうべきジャガイモが実はアメリカ原産（アンデス産）であり、それまでヨーロピアンはジャガイモを知らなかったってことです。また、イタリア料理の基本の一つであるトマトも同様でアンデス高原産です。ローマ帝国の皆さんも、ルネサンスの皆さんもトマトソースを知らなかったわけです。イタリアでパスタ用のソースとして使われるのは、18世紀の初めの頃のナポリが発祥らしいです。たちまちトマトソースブームになったそうですが、意外と最近の話なのですね。同じように意外なのが、熱帯アメリカ原産のチョコレートのカカオ、メキシコ原産の唐辛子。現代の人類の食生活の多くの基礎食品は実は中南米に端を発していたりするのですね。また、トマト＝イタリア料理、ポテト＝イギリス、ドイツ料理、唐辛子＝韓国料理という確固たる図式が出来てますが、実は大昔からそうだったわけではなく、大航海時代から始まるグローバライゼーションの結果として生じているってところが面白いです。

　あと、逆にコーヒーが中南米原産ではなかったというのも意外ですね。ブラジルとかコロンビアなどはコーヒーのメッカのようなイメージがありますから。コーヒーは、実は、アラビア半島、エチオピアのアビシニア高原が原産らしいです。南米に持ち込まれたのは実は18世紀、プランテーションによる栽培が始まった頃だそうです。

　このような個々の物品だけではなく、この欧・米交流によって大きくシステムが変ります。何度も書きますが、地中海～中東経由の東方貿易の衰退です。世界のビジネスセンターはベネチアからリスボンへ。「商業革命」とも呼ぶそうです。

　「価格革命」なんてのもあるそうです。中南米から大量の貴金属、特に銀が発見され、ヨーロッパに持ち込まれたため、銀の価格が下落し、相対的に物価が２－３倍に上がったそうです。これが「価格革命」。同時に、欧州の銀産地（ドイツ）を独占していたフッガー家が没落、またドイツ銀に依存していたイタリア諸都市にも打撃を受けます。要するに、ベネチアなどの栄華を誇り、ルネッサンスの舞台になったイタリアの諸都市は、航路や商業ルートを奪われるわ、金融的に銀が暴落して大打撃を受けるわという、泣きっ面に蜂状態だったのですね。

　さて、以上が大航海時代のお話ですが、大航海時代によってもう一つ大きく変る事柄があります。それは宣教師達の伝導によって、キリスト教が世界中に広まっていったことです。キリスト教が単に中東～欧州のローカル宗教ではなく、地球規模の世界宗教になっていくその最初の一歩がこの大航海時代から始まるわけです。

　しかし、大航海時代になったのでローマ教会がホイホイ人材を派遣しましたってシンプルな歴史ではなく、その前にキリスト教の歴史における最大の転換点がやってきます。ルターによる宗教改革であり、（東ローマ帝国＝ビザンチン帝国なきあと）キリスト教のなかで圧倒的に優勢を誇っていたローマ・カトリックに唯一真正面から対抗できる、そして現在に至るまでがっぷり四つに対抗しているもう一つの大勢力＝プロテスタントの登場です。そのあたりを次回にやります。

　世界史というのは多種目同時進行のオリンピック中継みたいなもので、どうしても時間的に先後しますが、ここ数回あたりの出来事を歴史年表で整理するとこんな感じになります。

　1431　英仏百年戦争でジャンヌ・ダルク処刑される
　1453　百年戦争終結
　1453（全く同じ年）　コンスタンティノープル陥落・ビザンツ帝国（東ローマ帝国）滅亡
　（1467-77　その頃日本では応仁の乱をやっている→戦国時代へ）
　1479　スペイン王国成立
　1492　コロンブス新大陸発見
　1506　ダビンチ、モナリザ製作
　1517　ルターの宗教改革始まる
　1519　マゼラン世界一周
　1521　コルテス　メキシコ征服
　1534　インカ帝国滅亡
　1543　ポルトガル人、種子島に漂着～鉄砲伝来

文責：田村

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