エッセイ391/APLAC キリスト教＋西欧史（55）　中南米（その３）　ボリビア、パラグアイ、ウルグアイ、ベネズエラ、コロンビア、エクアドル

今週の１枚（08.12.22)

　　ESSAY ３９１　：　キリスト教＋西欧史（55）　中南米（その３）　ボリビア、パラグアイ、ウルグアイ、ベネズエラ、コロンビア、エクアドル

　写真は、ランチタイムのCityの道端のフルーツショップ。見てると結構皆さん買っていくのですね。都心だから値が高いかというと、意外とそこそこ安いし。

　中南米編の第三回目です。
　中南米は一回で終わらせるつもりだったのですが、「人に歴史あり」じゃないですけど、やり始めたら面白いんですよね。ともすれば僕らは中南米諸国は似たり寄ったりに見えたりもしますが、それって「日中韓はどれも同じ」といってると同じくらい乱暴な話で、調べていくと同じエリアにあるわりには全然違ってたりします。

ボリビア・パラグアイ・ウルグアイ

　この三国はブラジルとアルゼンチンという二大国の国境線上に並んで位置しています。オリオンの三つ星というか、バルト三国みたいというか。地図を見ただけで、「こんなに近いのになんで国が分かれているのか」「これだけ強大国に挟まれているのになぜ併合されずにきているのか」と疑問が出てきますし、いかにも一筋縄ではいきそうもない立地です。

ボリビア

　内陸にあるので気付きにくいのですが、ボリビアは意外にデカい国です。面積110万平方キロというのは実に日本の３倍もありますし、隣のペルーとほぼ同じ広さを持ちます。国土の３分の１はアンデスの高山エリアで、なんと6000メートル級の山がゴロゴロあります。主要都市の半分近くが高度2-4000メートルというから日本アルプス並の高原の国。といっても高原地帯は国土の３分の１程度であとの3分の２はアマゾンの熱帯地域になります。

　インカ帝国領土だったのでスペイン人ピサロに征服され、ポトシ銀山発見後はガンガン酷使され、19世紀初頭に南米数カ国の独立の英雄シモン・ボリーバル（ボリビアという国名はこの人名から来ている）の援助で独立。独立当時は海まで領土をもっていたものの、1879年のチリとの「太平洋戦争」に負けて内陸国になり、さらに20世紀前半の対ブラジル敗戦、対パラグアイ敗戦（チャコ戦争）で、国土はどんどん小さくなります（小さくなっても日本の３倍）。

　また、豊かな鉱物資源をもっていることから利権を求める外国勢と国内勢力が結託して内乱やクーデターをくり返し、80年代には年率8000％という途方もないハイパーインフレに襲われるなど政治・経済は南米的に不安定です。せっかく天然資源に恵まれているのに、内乱ばかりでそれを生かし切れず、南米の最貧国になっているので「黄金の玉座に座る乞食」と言われたりすることもあります。

　前回のペルーでやりましたが、山間部の先住民族と都市部の白人、混血層という棲み分けがありますが、国そのものが山間部にあるボリビアでは先住民族の影響力が強く、国民の構成はメスティーソ（混血）約30%、先住民族ケチュア族約30%、アイマラ族が約25%、ヨーロッパ系が約15%です。アマゾン流域のゴム栽培景気の際に移住した日系移民も現在1万人以上います。国の西側（山間部）は、インカ帝国以来の文化をペルーとシェアしていますし、一時期アルト・ペルーと呼ばれたこともあるくらいペルーとは文化的に近いですし、歴史的にペルーと組んでチリと戦争をしたこともあります。チョリータと呼ばれる伝統衣装を身につけた女性の存在もペルーと共通します。

　ボリビアはある意味ではとても”南米的な”国です。
　古代インカ文化が色濃く残っている点もそうですし、典型的なスペイン人の征服・収奪に晒された点もそうです。また、独立後の少数支配層とこれに反発する革命勢力、それに軍部が三つ巴になって争い、冷戦時にはアメリカの差し金で軍事独裁政権が出来る点も南米的です。ちなみに、キューバ革命の英雄、チェ・ゲバラがゲリラ戦で最後を遂げたのもボリビアです。80-90年代に民政に移行するのだけど、経済危機に苦しんでハイパーインフレを被るのも南米的です。

　ところで「黄金の玉座」である天然資源ですが、17世紀以来の金銀、錫、そしてつい最近になって発見された膨大な天然ガス資源開発をめぐって外国資本と地元の反政府勢力との対立・紛争が起きています。ボリビアガス紛争と呼ばれるこの騒動は、第一次(2003年）、第二次（2005年）と21世紀になってから非常にホットになっています。

　何をそんなにモメているの？といえば、90年代に発見された（本格的には2000年に発見）天然ガスの開発輸出でビジネスをしようとイギリスやスペインの企業体がやってきます。経済的にドン底な歴代ボリビア政府としては外国資本によって開発してもらい、ボリビア経済を上向きにしたい。しかし、この開発計画では地元ボリビアの取り分が少なく、「これじゃ植民地時代の搾取と変わらないじゃないか」という地元民の強い反発があるわけです。

　これに加えて政府のコカ栽培禁止に対する地元の強い不満があります。山間部のインディオは伝統的にコカ栽培をしているのですが、コカの葉は彼らの伝統的なハーブティーであり、高山病への薬効効果もあります。しかし、コカを原料にして化学生成をするとコカインという強力な麻薬も出来てしまう。ここでコロンビアなどの麻薬マフィアとの繋がりがあり、政府の一部がつながって、、、という腐敗の連鎖もあります。ボリビア政府は、アメリカ主導の麻薬戦争の一環としてコカ栽培撲滅を図りますが、インディオ達の伝統的な生計手段や文化の否定でもあり、強い反発を招くわけです。日本において日本茶の栽培を全面禁止するようなものだと考えたらわかるでしょう。

　一方、2000年にはコチャバンバ水紛争というのが起きています。これは世界銀行の肝煎りでボリビアの水道公社を民営化し、ロンドン国際水供給会社が破格の安値で落札したのですが、この会社がダム建設のためということで水道料金を大幅に値上げします。月間20ドルというから日本的にはどってことない額ですが、平均月収が100ドル以下というボリビアにおいては途方もない額です。月給25万の日本人世帯の感覚で言えば水道料金が月額5万円になるようなものです。当然大規模な抗議行動が起き、暴動になり、結局この民営化の話は白紙に戻ります。

　このように外資の導入（＝外国企業の誘致や融資を受ける際の条件）によって経済テコ入れを図ろうとすると、結局は国民生活の負担を増してしまうことになるというジレンマがあります。それが植民地時代から続く「外国人がやってきたってロクなことがない」「あいつらは収奪するだけ」という歴史的なメンタリティ＝そしてそれは結構正しい＝と心情的にリンクして、天然ガスについても完全国有化を求める地元反政府勢力のデモ＆ストライキ→暴動→政府軍の鎮圧→反発により暴動さらに拡大→殆ど内乱→政権倒壊、大統領亡命という騒ぎになっていくわけです。

　もう一つ歴史的視点でいえば、80年代のレーガン、サッチャー政権以降、クリントン、(日本では小泉政権）と連綿とつらなってきた新自由(市場）主義政策、グローバル経済がありますが、この流れと発展途上国との間におきた典型的な衝突とも言えます。この新自由経済も今回の世界経済危機で終焉を迎え、世界史の新たな曲がり角に立っていますよね。いわゆる経済的合理性や市場開放政策は、先進国の旧弊打破には有用ではあるのですが、同時に国際的な超巨大企業を産みだし、得をするのは一部のCEOとエリート社員だけという方向に進み、さらに金余りで金融工学を駆使した火遊びが大火災を招いているわけです。ボリビアの水資源紛争でも、経済援助を行う世界銀行は、民営化を進めるように圧力をかけたりしていて、一体誰の味方なの？という疑問もあったりするわけです。

　こういった世界の流れに対していち早く、そして激しくNO！を言ってきたのは発展途上国であり、ボリビアでは2005年の大統領選挙でエボ・モラレスという先住民族の大統領が生まれます。モラレス大統領はコカ農家の子供で、学歴は中卒、反政府勢力の中核だった人ですが、反政府というよりは「反米」であり、「反グロバーライゼーション」です。その意味で、あとで述べるベネズエラのチャベス政権と同じスタンスに立ちますし、「ブッシュこそがテロリストだ」という過激な＝しかし一面正しい＝発言も行ってます。彼は、2007年に公約どおり天然ガスの国有化を宣言しています。モラレス大統領は、どこに出て行くにもトレードマークになってるアルパカのセーターを着用し、ネクタイは絶対しないというのでも有名です。日本人と同じモンゴロイド系のインディオの子孫なので、ぱっと見た目は日本の地方の中学校の、ちょっと頑固な熱血教師風です。実際、頑固で熱血なんですけど。

　しかし、世が世なればこれだけアメリカに中指を立てる大統領が出てきたら、CIAなどの策謀で直ちにクーデターや暗殺が起きても不思議ではないのですが、そこが時代の変わり目。ブッシュ政権でイヤというほど強調されたアメリカの覇権主義は世界で嫌われてますし、アメリカ人自身も今では嫌っています（ブッシュの支持率は歴代史上最低だった辞職前のニクソン以下）。

　というわけで、ボリビアという国は、インカ帝国→スペインのコンキスタドラス（征服者）の昔から、新自由主義経済の終焉にまで、どこを切り取っても南米的な国だなあと思うわけです。ちなみに、山間部の土着的反政府ゲリラVS資源開発にやって来た西欧企業の現地でのトラブルは、ラッセル・クロウ主演の「Proof of Life」という映画の背景でもみられますよね。あれもアメリカの企業の現地派遣の技術者がコロンビアで誘拐される話ですから。

パラグアイ

　パラグアイは、スペイン人と地元インディオ・グアラニー族との混血が圧倒的大多数（90％以上）を占め、先住民族の存在感が非常に強い国です。白人ばかりのアルゼンチンとは好対照。また、ペルーのように先住民族が沢山いながらも社会的には下層に追いやられているわけでもありません。なぜこんなに先住民族の影響力が強いかというと、スペイン人が征服していった過程で、農耕を行い文化程度も高かったグアラニー族がスペイン人と同盟を結んだからです。また、布教活動をしていたイエズス会が、グアラニー族に武装独立を教えたという経緯もあります。

　他の中南米諸国とは異なり、征服→被支配の上下関係にはならず、ほぼ対等な同盟になるのですが、そうなったのにはそれなりに政治的な理由もあります。グアラニー族は当時彼らと敵対していた他のインディオ部族に対抗するためにスペインと組もうという思惑がありました。またスペインとしても、隣がポルトガル領（ブラジル）でもあり、ポルトガルとの国境防衛のためにグアラニー族の協力が必要だったという経緯もあるようです。

　19世紀初頭の独立ラッシュで、パラグアイは先陣をきって独立します(1811)が、この独立は二重構造になってます。当時は今のように独立国が分かれてませんからアルゼンチン、ペルー、ウルグアイなどひっくるめたアバウトな「そのあたりの地方（ラ・プラタ副王領とその周辺）」がスペインから独立を宣言しますが(1810）、独立後にどういう領土＆集団で国を作るかということで内部で主導権争いがあります。後にアルゼンチンという国になるブエノスアイレスがリードしようとするのですが、パラグアイはそれを認めずさっさと自分達だけで独立を宣言してしまいます。独立後、フランシア博士という人が執政官になり、恐怖政治を敷きつつも、グアラニーとの混血を奨励したり、国家の基本インフラを整備したりしたので、国が小さいといこともあり、パラグアイは比較的まとまりが良く安定します。19世紀後半には貿易で利益を上げ、リッチな国になります。

　しかし、1864年に悲惨な三国同盟戦争に負けてしまい、パラグアイの運命は暗転します。ブラジルVSアルゼンチンという20世紀の米ソ対決構造のような強国の狭間にあるウルグアイは、両国の干渉を受け国内も二つに割れてました。似たような立場のパラグアイはウルグアイに同情し、ウルグアイの一派から請われるままブラジルに喧嘩を仕掛けるのですが、逆にブラジル＋アルゼンチン＋ウルグアイの三国同盟と戦うハメになります。何でこんな奇妙なことになったかというと、パラグアイが内通していたアルゼンチン、ウルグアイの勢力がそれぞれの国での主導権争いに敗れたからです。まあ、細かい事情はどうでもいいのですが、要はまんま三国志の権謀術数の世界というか、国際政治の難しさはいつの時代も同じだということですね。

　この戦争にボロ負けしたパラグアイは国土の4分の１を奪われ、52万人の国民が21万人しか残らず、成人男子にいたっては70％～90％も戦死したと言われます。当然経済的にもメチャクチャになり、国家壊滅に近いくらいのダメージを負います。そんな中1932年には隣のボリビアとチャコ戦争になり、勝ったもののさらに疲弊します。軍人政治が続きますが、第二次大戦後の1947年にはパラグアイ内戦が勃発、54年クーデターでブラジルの後押しを受けたストロエスネル政権が35年以上も独裁します。が、89年腹心のロドリゲス将軍に追放され、ようやく独裁体制が終わり、民政政治に移行します。が、その後も軍部をからめてのクーデター未遂、亡命などの内紛が続き、ようやく2008年4月選挙で、日本の自民党のように戦後から一党支配していたコロラド党支配が終わったというところです。

　このように三国同盟戦争以降、政治的には混迷が続いていたパラグアイですが、グアラニー文化は健在で、スペイン語とともにグアラニー語が公用語になってます。国民の8割はバイリンガルだと言われますし、グアラニー文化や血を受け継いでいることを誇りに思っているようです。また、パラグアイには日系移民7000人が現在も暮らしていますが、他の中南米諸国の日系移民と同じく、勤勉で農業の発展に寄与しています。ちなみに2000年にはJリーグのヴェルディ川崎の武田修宏選手がパラグアイに行ってますよね。

　パラグアイは、戦後の長期軍事独裁時期（＝冷戦時期）には共産主義を敵視する反共の砦であり、古くはナチスの残党を受け入れたり、世界反共同盟の国際大会が開かれたり、中国ではなく台湾と国交を結んでいる南米唯一の国でもあります。冷戦時代は反共を謳っていればアメリカから支援があったのですが、冷戦終結後はそうもいかず、逆に人権や民主主義がキーポイントになってきてます。しかし、パラグアイの政治腐敗度は世界でもかなりのもので、コロラド党内部抗争が激しく、99年の副大統領暗殺事件では手榴弾を投げつける荒っぽさでした。また、違法コピーや海賊版などのアンダーグランド経済も活発という指摘もあるようです。

　もっとも、そういった政治内部のゴタゴタと実際の生活感覚は全然違うようで、パラグアイは日本人にも結構人気がある旅行地です。ネットで検索してもパラグアイに関する個人HPが多くありました。普通に旅行したり生活する分には治安もかなり良いそうですし、何よりものんびりしていて癒される国のようですね。このあたりが難しいところで、政治経済面だけでその国を捉えていると、やたら暗黒イメージに塗りつぶされたりしがちですが、実際の生活感覚は全然違うという。それは例えば、日本の神戸はオシャレで風光明媚で美味しいケーキ屋さんも多いいい街ですが、外国人の一面的理解からすれば「日本最大のマフィア組織（山口組）のHQ（本部）のある恐い街」になってしまうかもしれないってことです。

　パラグアイは、先住民族の血と文化が誇りとともに伝えられ、融合している幸福な国であり、また面積的にもこじんまりしていてまとまりが良く、かつて18世紀前半に栄えていたことから、国際政治のゴタゴタに巻き込まれさえしなければ良い国なんだろうなって思います。この「いい国」というのは、経済的にリッチになるとか、アレがあるとかコレが便利とかいう良さではなく、別に無理して発展しなくても地のまんまで「良い」って感じなのでしょう。まあ、そんなこと言えば、日本だって本当はそうなんだと思いますけど。

ウルグアイ

　ウルグアイの正式国名には「東方＝オリエンタル」がつきます（ウルグアイ東方共和国＝Republica Oriental del Uruguay）。”ウルグアイ川の東岸の国”という意味です。ウルグアイは、チリに続いて南米二番目に政治や生活が安定していて、自由度は南米最高だといいます。

　ウルグアイは大国ブラジルとアルゼンチンに挟まれていることから分かるように独立、建国の草創期には両国の干渉を強く受けます。最初アルゼンチン側に組み込まれたのですが、ブエノスアイレスの中央集権に嫌気がさして独立を宣言、しかしその後ブラジルに攻められてブラジルの一部にさせられます。その後ブラジルとの独立戦争を起こし、アルゼンチンの支援のもと善戦し、イギリスの仲介でどちらにも属さぬ独立国になります(1830年）。

　しかし独立後も両国のチョッカイは止まず、ウルグアイではコロラド党とブロンコ党が両国の代理戦争のように角突き合わせますし、このときの紛争がもとで隣のパラグアイがブラジルと戦争を起こし、三国同盟戦争という悲惨な末路をたどったのは上記の通りです。20世紀に入り、バッジェ大統領は南米で唯一福祉国家を目指し、ウルグアイは安定した民主国家になります。しかし、経済体制まで変革出来なかったことから工業化に乗り遅れ、旧地主支配層が温存されたことから、1950年以降の経済停滞によって国民の不満が鬱積、南米最強といわれたゲリラ部隊ツパマロスが暗躍します。ツパマロスも最初は民衆の味方、義賊的人気があったのですが、70年代以降だんだん野放図にテロを繰り返して内戦状態を引き起こし、大衆人気は下降、ついには壊滅します。このツパマロス鎮圧のために軍部が発言権を増し、行きすぎた警察国家になります。しかし、85年には民政移行し、80-90年代の経済難を乗り切り、2005年からは左派政権が出来ています。

　植民地からの独立、周辺諸国との紛争、反政府ゲリラ、軍事国家、経済危機など、ウルグアイも南米諸国のジェットコスースターのフルコースの洗礼を浴びています。しかし、もともと国が小さくまとまりがよく、且つ20世紀初頭の民主改革が大きな財産になって、どの危機も他国に比べたらかなり軽微なものに済んでいます。インフレ率も1990年には129％を記録していますが、それとて他国の8000、5000、3000という途方もない数字に比べたら”かすり傷’みたいなものでしょう。

　ウルグアイはアルゼンチンに似ていて白人国家です。先住民のインディオのなかで最大勢力だったチャルーア族がなまじ勇猛果敢だったもので、スペイン人と徹底抗戦し全滅させられてしまったからです。他のインディオ達も逃げています。独立時の人口がわずか７万人だったウルグアイは、その後ヨーロッパから多くの移民を受け入れています。しかし、チャルーア族虐殺はウルグアイ人のトラウマになっているようで、半数ほどの国民は「実は先住民の血を引いている」と混血であることを誇りにする気風があるらしいです。あと、初期の産業が人手のいる鉱山やプランテーションではなく、人手のかからない牧畜業だったため奴隷を酷使する機会も少なく、似た者同士の西欧移民がメイン集団ということで国のまとまりも良いのだと思われます。

　ウルグアイと日本の交流はあまり多くなく、日系移民もいますが、直接渡ったのではなくアルゼンチンやブラジルからウルグアイに移ってきたという経緯をたどる人がメインのようです。現在約500名の日系人が頑張っているようで、2003年には浩宮が公式訪問したようです。

ベネズエラ、コロンビア、エクアドル

　南米大陸の北端に位置し、中米エリアやカリブ海と接するこれらの諸国は、アメリカ合衆国と距離が近いこともあり、今までみてきた他の南米諸国とは又違ったツイストがかかってきます。

　大雑把な法則で言えば、「アメリカ合衆国に近ければ近いほど国が乱れている」というルールがあるような気がします。遠く離れたチリ、アルゼンチン、ウルグアイなんか比較的安定していて平和なんですけど、以下に述べるコロンビアなんか大変なことになってます。

ベネズエラ

　ベネズエラは、南米独立最大のヒーロー、シモン・ボリーバル（Simon Bolivar）を生んでいます。屈指の名門の男子として生まれたボリーバルは、十代の頃にスペインに遊学、マリアという娘と恋をして結婚、ベネズエラに戻るも翌年にマリアはあえなく黄熱病で死んでしまいます。弱冠20歳で愛妻を失ったボリーバルは、よほどショックだったのか生涯再婚していません。傷心のまま再びヨーロッパに渡ったボリーバル青年は、フランスのナポレンに仕えたり、後日イギリスに渡ったりして見分を広め、また当時の先端思想だったルソーなどの啓蒙思想に惹かれます。「南米独立の英雄」というと、何となく日に灼けた逞しい現地人風の人物像を想像しますが、彼はそのまま西欧でも通用するだけのキャリアと教養を身につけたヨーロピアンです。

　南米独立の機運が盛り上がっていた当時、ボリーバルは南米独立＆統一の大志を抱き、ベネズエラの独立運動に参加します。以後、スペイン軍相手に勝ったり負けたりジャマイカに亡命したり、再起して勝ったけどまた負けてハイチに亡命して、また再起して、、、という苦闘が延々20年近く展開され、1821年にベネズエラからスペイン軍を追い出し、エクアドル、パナマ、コロンビアを合わせた大コロンビアとして独立させ、初代大統領になります。以後、エクアドルからペルー、アルトペルーを解放します。アルトペルーはボリーバルの栄誉を称え、国名をボリビアにしたのは既に述べました。

　しかし、統合した大コロンビアも、ベネズエラやエクアドルが次々に脱退していき、ボリーバルの南米統合の夢はもろくも破れます。夢破れたボリーバルは、失意のままヨーロッパで隠遁生活を送ろうとしますが、1830年にカリブ海の港町で47歳で病没します。理想家肌で情熱家だったボリーバルは、莫大な資産も全て独立のために注ぎ込み、殆ど無一文になっていたのでボリーバル家は没落します。彼の部下達は、ボリーバルを裏切って私財を溜め込んで、今にいたるまでその子孫が各地で支配階層になっています。理想と戦いと失意に彩られたボリーバルの生涯は、彼にとっても苦いものであったようで、「南米には独裁か無政府状態しかないのか」と嘆き、「世界史最大の馬鹿三人は、イエスキリストとドンキホーテと、そして私だ」と自嘲したといいます。

　彼個人の報われない生涯とは別に、彼の偉業は現在も広く称えられ、ボリビアという国名になっていたり、多くの街角には銅像がたち、都市名や空港名、数え切れないほどの地名やストリート名になっています。そもそもベネズエラの通貨の単位が「ボリーバル」で、紙幣の肖像画にもなってるどころか、1999年にはベネズエラの国名自体も「ベネズエラ・ボリーバル共和国」になっています。彼の生涯＝その熱血ぶりと晩年の哀しい失意は、200年近くたったいまでも、南米人の熱い血をさらに熱くしているようです。

　ボリーバルの死後のベネズエラは、お定まりの独裁、内乱、クーデターの”南米三点セット”が飽きもせずに繰り返されますが、1914年に大油田が発見されてからベネズエラは貧困国からリッチな産油国になります。しかし相変わらず政局はよろしくなく、1908年からは30年近く「アンデスの暴君」と呼ばれたゴメスが独裁政権を敷きます。第二次大戦終了の年である1945年に革命が起きて軍政は崩壊しますが、またクーデター。1959年になってようやく民主的に政権が生まれますが、80年代には貧富格差拡大や累積債務問題が大きくなり、89年には首都カラカスで暴動が起きます。1999年、以前クーデター未遂をおこしたウーゴ・チャベスが大統領になり、チャベスは反米姿勢を明確に貫きながらも現在も政権を維持しています。

　チャベス政権は、軍部出身ながらも貧困層重視政策をとり（南米は軍が庶民の味方になるパターンがわりあいと多い）、反発する富裕層がアメリカCIAの援助を受けてクーデターを起こすも、民衆の圧倒的なチャベス人気で３日で失敗。敵の多いチャベス政権を多数の庶民層が支えるという構図が続いています。

　ベネズエラは石油が大量に出るという一点において、他の南米諸国と大きく経済構造を異にしています。ベネズエラの原油は世界７位の規模を持ち、国の外貨はほとんど石油など天然資源によってまかなわれています。その意味で、経済構造は南米というよりはむしろ中東に近い。石油など天然資源以外は、他にみるべき産業はなく、今後の課題になってます。つまりお金は入るけど経済は発展していないというのは、産油国でいかに国庫が潤ったとしても、石油産業というのはそれほど人員を要するものではなく、就業人口の０．５％に過ぎないと言われています。つまり普通の人の失業対策にはあまりならない。

　ベネズエラの国民は、約３分２が西欧人と地元インディオとの混血、あと２割がヨーロピアン、黒人が10％、インディオ２％で混血の多い国と言えます。日系人は比較的少なく600名程度。混血というのは進めば進むほど美しくなるので、ベネズエラ美人は世界の美人コンテストのチャンピオンの常連だったりもします（過去12回優勝、ミスユニバース4回、ミスワールド5回、ミスインターナショナル3回）。

　産油国でお金持ちなだけに、首都カラカスはアメリカのどっかの都市のような近代的な街ですが、一歩都会から出たらカリブ海の楽園風のクリスタルな海岸線やアンデス高地など手つかずで濃密な自然が広がっているそうです。

　ここまでだったらベネズエラというのは、伝説的な英雄を持ち、リッチな産油国で自然豊かなエキゾチックな混血の国ということで、なかなか魅力的ではあるのですが、実際の生活感覚ではむしろ逆にスサんでいる部分もあるようです。あとで述べるコロンビアと共通しているのですが、まず治安が悪い。2000年頃から2003年をピークに殺人発生率は増え続け、一旦減少したものの2006年以降また増加しており、殺人発生率はコロンビア、エルサルバドルについて中南米第三位。ビジネス化した営利誘拐、公務員の腐敗、さらには社会一般における倫理や人間としての情愛の欠如などの指摘もありました。一言でいえば「すさんでいる」と。もちろん南米特有の気がよくて優しい人達も沢山いるのですが、お金の有無でハッキリ人を差別したり、平気で嘘をいったり、労働者の権利をまるっきり無視したりって部分もあるようです。

　まあ、日本人の感覚で言えば海外なんか似たような部分はどこかしらあるのですが、ベネズエラとかコロンビアのそれはやや深刻な気もします。一つは、公正で建設的な社会になってこなかった、そうするための努力を怠ってきたし、そうあるべき機会を潰されたという面もあるでしょう。中心部にはハイテクビルが建ち並ぶ首都カラカスも、周囲の丘陵にはパリオと呼ばれるスラム街が広がっています。そこに住んでいるのは失業者などのホームレス寸前の人達だけではなく普通に働いている普通の人だったりします。つまり真面目に働いていてもスラムにしか住めないという現実があると。しかし、素朴に考えて、中東に並ぶ産油国でありながら、国民の８割が絶対的貧困層であるという現実はどう考えてもヘンですし、社会における所得の再配分機能が麻痺しているとしか思えない。あ、ここでベネズエラにおける「貧困層」というのは、日本においては「年収1500万円以下の普通の市民」くらいの位置づけになろうかと思います。僕も、これを読んでいる多くのあなたも、ベネズエラに生まれていたらスラムに住むしかないです。

　もともと中南米は征服者の国だから、人権無視のものすごい差別社会が出発点です。差別どころか殺戮と奴隷化の嵐だったんだから。19世紀初頭の独立といっても地元征服者の末裔が宗主国スペインから独立したに過ぎず、国内的には地主や資本階級が圧倒的な支配力をもっていました。そして軍部。ほとんど中世封建制度のようなところからはじまって、中南米諸国はこの200年の間、あれこれ試行錯誤したり努力してきました。20世紀初頭のウルグアイのバジェ政権のように、どっかで誰かが健全な社会の基礎を築いてくれたら、それがあとあと大きな財産になっていきます。しかしベネズエラは、ボリーバルの死後は延々利権争奪戦のようなクーデター＆独裁が続きます。1870年のブランコ独裁(18年）、1899年カストロ独裁（10年）、1908年”暴君”ゴメス独裁（27年）、1952年ヒネメス（6年）と続いた上で、やっと1959年からベネデモクラシアと呼ばれる民主化の動きと二大政党制になるのだけど、二大政党制といっても所詮は１割にも満たない富裕層での権力の持ち回りに過ぎません。それに加えて米ソ冷戦構造と目と鼻の先のキューバ革命の影響でアメリカの反共政策と左翼ゲリラがドンパチ紛争を起こします。70年代の（産油国には追い風になる）オイルショックで多少小康状態になったのも束の間、80年代以降の市場原理＆新自由経済の影響で、もともと激しかった貧富格差が一層激しくなります。それでもやってこれたのは、石油が出るからです。逆に言えばなまじ石油がでてしまったので、真剣な社会改革をしないで済んだし、石油利権に群がる西欧資本と相まって特権階級システムを作ってきたとも言えるでしょう。

　200年近くかけてじっくり熟成した社会構造の歪みは、そうそう一朝一夕に是正されるものではないでしょう。チャベスは軍人あがりですが、左翼ゲリラ殲滅戦に駆り出され、貧困層の軍隊が貧困層のゲリラを殺戮している現実の矛盾に気づき、92年にクーデータを起こして失敗します。しかしそのときの敗戦の責任をとるインタビューで逆に貧困層の味方であることを印象づけ、2年の服役のあと、６年後の選挙で大統領になります。チャベスという人はネットで調べても、ものすごい賛否両論分かれている人ですが、貧困層の圧倒的支持を受けていますし、無料病院など貧困対策もやっています。言語才能に恵まれているのか演説が上手く、カリスマ性もあります。情熱家なのかボリーバルやキューバのカストロを崇拝し、超人的な記憶力でボリーバルの演説は全部暗唱できるくらいだといいます。抜群の記憶力を誇り、庶民的カリスマがあることで田中角栄系の政治家なのかなって気もしますが、まあそれなりの人物であるのでしょう。

　チャベスはボリーバル革命を掲げてベネズエラ改革を断行しますが、強権的な政治手法を持ち、独裁者的傾向も多分にあります。また、99年政権樹立以降、2004年の信任投票勝利、2005年の再選あたりまでは良かったのですが、それ以降は2007年の授権法やマスコミ統制など独裁者的傾向が強くなってきているとも言われます。また言うほどには貧困救済の効果が上がってないという批判もあります。しかし、100年以上の歪みが数年かそこらで治癒するものでもないでしょうし、ある程度強権的にやらないと実効性が上がらないという面も確かにあるでしょう。

　それに、ここが一番大きいのですが、チャベス以上にアメリカのブッシュ政権＆ネオコン派の覇権主義を嫌う人が世界的に多く、そのアメリカに明確にNOを突きつけるチャベスの存在に喝采を送る人も多いのですね。チャベスもどうかと思うけどブッシュはもっとヒドイという。ただ、そのブッシュ政権もほぼ終わり、潮流が変わり、またここ最近の原油価格の暴落でチャベス政権は岐路に立たされているといっていいでしょう。貧困層の圧倒的支持を受け強権独裁手法を用いたこと、政権前半期は圧倒的な支持を集めつつも、後半になると自身の権力欲求と民衆との乖離が進んでいくあたり、ペルーのフジモリ政権によく似てますよね。

　しかし、写真を幾つか見ましたがベネズエラの自然というのは、カリブ海の長い海岸線といい、秘境のような高山地帯といい本当に綺麗で雄大です。これに石油をはじめとする天然資源の宝庫があるのだから、ベネズエラの潜在力は凄いものがあると思います。ああ、勿体ない。政局が安定し、治安が良くなれば、観光資源だけでも相当やっていけるでしょうに。なお、治安問題については次のコロンビアの所でいっしょに述べます。

コロンビア

　コロンビアは日本の3倍の広さをもち、人口は4600万人。国民の75％が混血であり、あとの20％がヨーロッパ系、アフリカ系4％、先住民1％と続きます。南米で最も混血率が高い国と言われます。コロンビアといえば麻薬と誘拐というくらい恐い連想が働きますが、それも大きなコロンビアの一部に過ぎないくらい、この国はカオスに満ちた「濃い」国だと思います。

　19世紀はじめにこの地でも独立戦争が始まります。上と重複しますが、ボリーバルはスペイン軍との20年近くの苦闘の末、コロンビア共和国の建国を正式に宣言し、1822年には現在のコロンビア、ベネスエラ、エクアドル、パナマの全て及びペルー、ガイアナ、ブラジルの一部を含む北部南米一帯を占める大国家となります。夢が叶ったボリーバルですが、あっという間に大共和国に亀裂が走り、1830年エクアドルやボリビアの故郷ベネスエラが離脱してしまいます。失意のボリーバルは、ヨーロッパに向かってマグダレーナ川を下る途中で病死します。翌年大コロンビア共和国は崩壊します。

　連盟国に去られたあと、残存部がヌエバ・グラナダ共和国として再編成を図ります。貴族、大地主、教会など支配層が保守党・中央集権派となり、新興ブルジョワジー（商人や職人、自営農）が自由党・連邦派になり、現在に至る二大政党制の基礎が出来ます。どちらも少数支配体制という点では同じですけど。両派のシーソーゲームで、1863年には自由主義的なコロンビア"合衆国”が出来、首都ボゴダは「南米のアテネ」と呼ばれるほど科学や文芸が発展しますが、1886年には保守派が政権を奪取し、中央集権的なコロンビア”共和国”が出来ます。いずれの時代も、金融や学校、鉄道などのインフラを整備し、コーヒー栽培などの基幹農業を育成します。

　 1899年に自由党の蜂起が起き、10万人の犠牲者を出した千日戦争が勃発します。ちなみに、当時パナマ運河を欲しがってたアメリカは、パナマに独立をそそのかし、独立させます（1903）。政権争奪戦はその後も続き、保守派のレイェス独裁時にアメリカ資本が流入し、1930年は自由党が政権奪回、第二次大戦後まで自由党支配になります。28年にガイタンという人が一般農民や労働者のカリスマになった時期がありましたが、基本的には自由党になったといっても一般大衆はツンボ桟敷に置かれ、少数支配体制は変わってません。なお、32年にペルーと戦争して南部のレティシアという領土を確保してます。

　第二次大戦後安定するかと思いきや、コロンビアの場合はラ・ビオレンシア（暴力の時代）と呼ばれる血なまぐさい時期を迎えます。政権再奪取に成功した保守党は、野党自由党に対する攻撃をおこない、当選確実と言われたガイタンを暗殺しちゃったから（48年）、国を挙げての大暴動になり（ボゴダ暴動）、50年代末まで20万人の国民が死にます。また、米ソ冷戦がはじまったので、アメリカの反共政策と相まって、50年に独裁政権を打ち立てたゴメス（ベネズエラのゴメスとは別人）が自由党への弾圧を強めます。しかしやりすぎたゴメスは保守党からも嫌われ、53年にはロハス将軍のクーデータが起きます。ロハスは民衆の怒りを解こうとしましたが、ビジャリカ戦争やら牛の首輪事件などのゴタゴタの発生などにより政局は混迷します。民衆に支持を求めたロハスは、民衆からはイマイチ親しまれず、逆に保守派から疑われ、結局失脚します（57年）。

　以後、一般大衆という”共通の敵”を知った自由党と保守党は、呉越同舟で連合し「国民体制戦線」とネーミングされた４年ごとの政権たらいまわし方式を開発しますが、これは農民層などの怒りを煽るだけで、ご近所のキューバ革命の影響もあり、反政府ゲリラ活動は活発化、66年にはコロンビア革命軍 (FARC) 発足、70年には学生を中心とする左翼ゲリラM-19 が生まれます。

　74年にたらい回しが終わり、78年の自由党のアヤラ大統領は、戒厳令を敷いた上で、反政府勢力に対して拉致・拷問の弾圧を加えます。82年の保守党クァルタス大統領はFRACなどのゲリラと手打ちをして、FRACの合法政党化を実現したのも束の間、ゲリラテロが止まず94年には政党資格剥奪で元の木阿弥です。85年ゲリラM-19によるコロンビア最高裁占拠事件が起きたと思ったら、泣きっ面に蜂のようにルイス火山の噴火で死者2万人以上という天災が起き、社会・経済非常事態宣言まで発令する騒ぎになります。また89年以降は、自由党のバルコ大統領により、麻薬組織メデジン・カルテルとの大規模な麻薬戦争が起きます。

　冷戦終結後、自由党のガビリア大統領は、国を立て直すべく野党と連合した挙国一致内閣のもとで憲法改正を行います（91年）。しかし、94年にはサンペール大統領と麻薬カルテルとの繋がりが発覚し（ナルコ・ゲート事件）します。98年のパストラーナ大統領は、対米関係重視、ゲリラFARCとの和平を模索しますが挫折。2002年以降、自由党系の新党「まずコロンビアを」からウリベ大統領が当選、安回復を重点課題とし、2006年に再選され現在に至っています。

　延々コロンビア史の概要を書いたわけですが、細かなことは覚えきれないものの、分かるのは年がら年中ドンパチやってるということであり、一貫して少数支配体制が続いており、一般大衆は左翼ゲリラにでもなるしか政治参加が出来ないという実情です。唯一、1928年以降大衆の支持を受けたガイタンが希望の星でしたが、彼も48年に選挙で暗殺されちゃいます。おそらくここが運命の転機だったのかもしれませんが、ここで彼が民衆の政治参加の基礎を作っておけばコロンビアの現状も多少はマシになったと思われます。しかし現実は十数年にわたる首都内戦であり、それに続く軍事独裁でした。

　コロンビアの政治の特徴は、意外と軍事クーデターが少なく、文民政治が徹底していて古くから保守VS自由の二大政党制度になってることです。それだけ見てると民主的で進んでいる国のように思えるのですが、二大政党制といいながらも結局は少数支配階級での政権闘争でしかなく、一般大衆は政治からはじき出されていることに変わりはありません。ここが南米のトリッキーなところですが、軍事政権だからダメで民政政府だから良いとは一概に言えない。実際、クーデター政権の方が貧困対策を真面目にやろうとするからだマシという面もあるのですね（貧困層あがりの青年将校が改革を目指して立ち上がるなど）。逆に言えば軍事クーデターすら許さないくらい、コロンビアの寡頭支配体制は強いということでもあります。上で概観したように、コロンビアにおいて特権階級と一般大衆の架け橋を志したガイタンは暗殺されちゃいますし、労働者保護をしようとしたロハス将軍のクーデター政権は支配層から追放されてしまいます。

　これだけ長期にわたって支配階級の天下が続くと、「淀んだ水は腐る」の法則どおり、コロンビアの政財官界は腐敗の温床と言われます。逆に”元気のある”一般庶民がこういう国で自己実現しようと思ったら道は二つ。一つは麻薬カルテルをはじめとする犯罪組織に入り頭角を現すこと、あるいは反政府ゲリラになって暴れ回ることです。そしてコントロールできないくらい麻薬組織の力が強くなったコロンビアでは、国会議員や裁判官、警察は麻薬組織のパシリ状態になっていたりするという指摘もあります。

　そうなると治安も悪くなります。コロンビアの90年代の殺人事件発生率は、なんと世界一という凄い記録を持ってます。60年代と比較すれば10倍も悪化しています。もっとも最近のウリベ政権で事態は改善され、世界一の座は南アフリカに譲っています。殺人発生率は、ボゴダなどの都市部もそうですが、むしろ反政府ゲリラとの戦闘が多い国境付近の地域の方が高いです（「犯罪」というよりは「戦争」に近い）。

　一方、誘拐は、もう”地場産業”といってもいいくらいで、92年から99年の8年間で実に5800件、世界の誘拐の3分の２がコロンビアで起きているというダントツの世界一です。前述の映画「Proof of Life」の設定舞台もコロンビアですし、危なすぎてコロンビアでは撮影できなかったそうです。しかし、これも近年急激に減ってきています。一説によると60年代以降の犯罪の増加は、あとで述べる麻薬組織の跳梁や政府の腐敗などもありますが、都市化近代化することで、かつてのような宗教信仰心が薄らぎ、カトリック的倫理規範が機能しにくくなったという点も上げられています。

　しかし、ここが国家というものの不思議さですが、コロンビアの経済は実は悪くないんですよね。20世紀以降、中南米で最も確実に経済成長をし、どの国もハイパーインフレで地獄をみた80年代や90年代も、インフレもなく、マイナス成長もないです。グーンと伸びる高度成長時期もない代わりに、着実に伸びている。その着実さは日本以上かもしれない。なぜ？一つは景気に左右されにくいコーヒー生産があり、世界第二位の生産国で外貨の稼ぎ頭です。あと天然資源も多く、原油、石炭、金、白金、そして世界の80％を算出するというエメラルド。

　考えてみれば支配階級が支配を続けているということは、そこに堅調な経済（搾取）システムがあるということでもあります。そして貧富格差がそのまま放置され、文句言うヤツは弾圧し、労働者の権利を考慮しなくてよいのであれば、そりゃ経済も調子いいでしょう。あと、豊かな自然があるので観光資源もあります。こんな治安の悪い内戦状態のような国に誰が観光に行くのかと思いきや、エコツアーなどもあり、2006年にはなんと150万人（前年比50％増）の観光客がコロンビアに行ってます。良く行くよなあ。それに加えて、表経済以上と言われるウラ経済の麻薬産業があります。

　人口ですが、これがメチャクチャ増えてます。1950年に1200万人だったのが現在では4300人というから凄い伸びです。これだけ紛争があるのに何でこんなに増えるのか？というと、やっぱり仕事があるんでしょうか。貧富格差は激しいけど、でも仕事はあるというのかしら。南米というのは地続きですし、アンデスの峻険を考えたらボーダーコントロールなんか出来ないでしょうしね。　しかし、これだけ増えたらマトモな政府が最良の政策を試みたとしても、よほど経済が成長しない限り、社会のインフラ整備なんか到底追いつかないんじゃないかな。

　このあたりをズバッと書いてある文献は見つからなかったのだけど、コロンビアというのは政治も社会もメチャクチャだし、治安も思いっきり悪いにもかかわらず、どこかしら人を引きつけるものがあるのでしょう。それはお綺麗で品行方正なものではなく、もっと何か混沌としたエネルギッシュなものです。よく治安の説明をしていて言うのですが、「面白いところはナチュラルに危ない」と。日本だって、東京の新宿、大阪ミナミ、九州博多など結構犯罪は普通に起きてますし、危ないちゃ危ないけど、でも皆さん普通に行きますよね。危ないから行くのは止めようとはあまり思わない。犯罪率の高さを補って余りある面白さがある。レベルは違うのかもしれないけど、コロンビアというところも現地の人達にはそう写っているのかもしれません。

　あと、封建的身分社会に近いくらいの貧富格差の激しさやシステムの腐敗も、そういうものだと思えばそれはそれで我慢できない事はないのかもしれないです。日本の江戸時代だって士農工商のバリバリ身分社会だし、理不尽なことは沢山あったと思うのですが、じゃあ当時の江戸の横町の熊さんや八っつあんなどが全員絶望に打ちひしがれていたかというと、そうでもなさそうでしょ。日本人の僕らがいきなりコロンビアに行ったら、そのギャップはツライものがあるかもしれないけど、最初からそこで生まれてそういうものだと思ってたら、案外流せてしまうのかもしれません。それにコロンビアの貧富格差は絶望的なようだけど、二極分化しているわけでもなく、中間層も結構多いといいます。

　最後にコロンビアといえば麻薬カルテルです。90年代アメリカ主導の麻薬撲滅戦争にコロンビアも協力はしているのですが、はかばかしい効果は上がってません。そもそも、なぜコロンビアが麻薬のメッカになったかですが、これはもうアメリカ合衆国という巨大な消費地が近くにあるからです。特に70年代のヒッピームーブメントで西欧人にマリファナが広まったのが麻薬大量消費時代の始まりでしょうか。最初はメキシコとか近場で生産輸入してたのですが、取り締まりが厳しくなってコロンビア方面まで下りてきて、そこからカリブ海経由で輸出入すると。また、初期においてはマリファナ（大麻）というシンプルな麻薬でしたので、麻薬生産は「農業」「農産物」だったのですが、コカの葉を化学生成するコカインに移ってくると、むしろ「工業製品」「薬品」になります。素朴に村で作って出荷という野菜的な感じから、都市部の工場で製造ということで流通も組織も複雑になります。これは組織の巨大化を促し、大きな麻薬組織の連合体である「カルテル」が形成されます。生産地のアンデス山中の都市メデジンとかカリという地名をくっつけてメデジン・カルテルとかカリ・カルテルとか呼びます。

　巨額の富を築いた麻薬カルテルは、その潤沢な資金でコロンビアの企業、マスコミ、官僚、政治家を買収。ここで麻薬腐敗の根がひろがっていきます。あまりにも巨大になり、半ば公的な存在になったので、貧困層への福祉事業から自前のスポーツチームまで作ってるという冗談みたいな状況もあるそうです。麻薬は生産者価格と末端価格が数十倍という利潤率極大なボロい商売ですが、実のところ利益の大部分をポッケに収めているのは消費地アメリカのマフィアであり、コロンビアのカルテルがいかに巨大とはいえ、本場アメリカからすれば所詮は田舎の農協程度の存在に過ぎないようです。そのためコロンビアも産地直送システムを考え、アメリカのフロリダあたりに殴り込みをかけ直売を図り、アメリカのマフィアとしのぎを削っていたこともあるとか。このあたりの論理は、イリーガルではありつつも、普通の経済ビジネス話と変わるところがないですね。

　麻薬問題はアメリカだけの問題に留まらず、冷戦終結後いきなり”自由化”してことで浮き足だったロシアや東欧圏、バルト三国の若者にも広がっているようで、国連でも世界的な課題として取り扱われるようになってます。国連では、麻薬栽培を止めるように農家を促し、代替農産物の提案や援助もやってるようです。知恵を絞って頑張ってるのですが、麻薬に勝る利潤率の高い作物は存在しないので苦戦しているようです。いつも言われるのですが、麻薬そのものを根絶することは難しいけど、麻薬組織を潰すのは簡単だと。何をするかというと完全合法化しちゃえばいいんです。イリーガルだから末端価格も途方もなく高く、したがって利潤率もハネ上がり、マフィアが暗躍する旨味があるわけです。これが普通のカボチャのような農産物や商品になったら、要するにマフィアも普通の中間流通業者でしかなくなるわけで、あまりの利潤の悪さに麻薬組織は一瞬で壊滅するか手を引くと。しかし、そこまで踏み込むのはためらいがあり、どこの国も頭を悩ませています。

エクアドル

　大分長くなって疲れたのですが、エクアドルまでやっちゃいましょう。
　エクアドルは、南米大陸の地図の左上、右にコロンビア、下にペルーを臨む海に面した比較的小さな国です。”エクアドル”というのは「赤道」という意味で、赤道直下の国です。が、国土は西から海岸部、アンデス山間部、アマゾン熱帯部の３つにわかれ、首都キトのある中間山間部は2000メートル以上の高山地帯で気候的には涼しく、しのぎやすいそうです。知らなかったのですが、変わった動物がいるので有名なガラパゴス諸島はエクアドルの領土（海上1000キロ）です。

　エクアドルの歴史は、コロンビアとかなり似てます。ボリーバルの労苦で大コロンビアが出来た思ったら空中分解、エクアドルは独立し、以後保守派と自由派が対立し、独裁政権が出来て、、というところまではまんま同じです。違ってくるのは1895年にアルファロ大統領が1912年に暗殺されるまで、自由主義体制を推し進め、一般国民の政治参加のキッカケを作った頃からです。1929年の世界恐慌でエクアドル経済が打撃を受けた後、1933年には労働者階級の支持を得てイバラ大統領が登場します。以後、現在に至るまで政権争奪戦が続くのですが、コロンビアのように支配階層内部での争奪戦ではなく、支配階層（保守派）と一般大衆という形で大衆の政治参加が恒常的になされている点が大きく違います。2007年から現在にかけてはコレア大統領が国民の圧倒的な支持を受けて政権を担当しています。エクアドルの政権の対立点は、保守派が大体親米政権で、自由・大衆派が反米政権だという点です。現在、ベネズエラがチャベス"筋金入り”反米政権、コロンビアが親米政権ですので、エクアドルはベネズエラと仲がよく、隣のコロンビアとは仲が悪いです。

　コロンビアとの関係ですが、これはもっぱらコロンビアでの内紛が国境を越えて飛び火している点が問題になってます。コロンビアの反政府勢力であるFARCなどがエクアドル領内まで逃げてきたり、国境付近でコロンビア政府軍と交戦したりで、国境付近が治安が悪いといわれるのはそのためです。なお、コロンビア政府がエクアドル領内でFARC征討作戦をやったことで、エクアドルはコロンビアに国交断絶を告げています。これは今年（2008年）の３月ですから、つい最近の話です。

　もう一つのお隣であるペルーとも仲が悪いです。特に42年のペルーとの戦争で、ペルーがエクアドルのアマゾン地方をゴッソリ（ほとんど国土の半分近く）持って行かれてからは、犬猿の仲になります。98年にようやく国交正常化しますが、「アマゾンを奪われた」というのはエクアドル人共通のトラウマになっているようです。

　エクアドルは農業国ですが、昔ながらの大土地所有制度の弊害がまだ残っています（１％の地主が農地の40％を所有）。ババナやカカオが特産品ですが、頑張って耕しても小作人は豊かになれず、そこが問題になってます。石油が出るので貴重なドル箱になってます。あと、エクアドル海岸線の沖合はフンボルト寒流が通過するのでよい漁場になっており、漁業も大きな柱になってます。もう一つの外貨獲得資源は観光。もちろんガラパゴス島観光ですね。寒流が通過するから赤道地帯なのにペンギンもいるという。ところでエクアドルは地震国ですが、「魚が美味しくて地震が多い」という点で、日本人の僕は親近感を抱いてしまいます(^_^)。エクアドルはバラの輸出でも有名です。

　ベネズエラのチャベスのような賛否分かれる強烈なカリスマ政治家がガンガン反米＆石油戦略を打ち出しているわけでもないし、コロンビアのように腐敗や犯罪が横行しながら経済は堅調というわけでもないエクアドルは、強力な特徴もないまま、そこそこ貧しく、かといって破滅的になるわけでもなく、南米の北西隅で地味にやってます、って感じの国です。ベネズエラやコロンビアという”濃い”国のあとに読むと、なんとなくほっとして好感を覚えてしまいます。

　ただ、経済はかなりピンチで、99年には自国通貨スークレが暴落し、2000年からドルを自国通貨にしています。南部の諸国のように2000年以降経済が持ち直すということもなく、累積債務もかなりたまっており、昨今の原油価格の下落により苦しんでいます。最新のニュースでは、先々週（2008年12月12日）に、国債の一部のデフォルトを発表しています。結構大変なのですが、コロンビアと逆で治安はそんなに悪くはないといいます。

　民族構成は、ベネズエラやコロンビアと同じく混血が大多数を占め、インディオや世界からきた移民がいます。と同時に多くのエクアドル人が海外に出稼ぎに出かけています。全部で200-250万人出て行ってるというから相当なものです。国民総数が1200万くらいだから、5人に一人は海外にいってる勘定になりますか。日本におきかえてみたら、2500万人くらい、東京神奈川千葉埼玉の首都圏のほぼ全員が海外に出稼ぎにいってるくらいの規模になります。すごいですね。日本にも結構来ているようです。彼らからの海外送金が、実は石油と並ぶ外貨獲得の大きな資源になっています。

　ああ、今回はかなり書いたけど、まだまだ終わらない。やっとカリブ諸国と中米にいけます。

文責：田村

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