義務教育は10年生(日本の高校1年生にあたる)までですが、大学進学を目指す学生はあと2年間高校で勉強します。オーストラリアの大学は1校(キャンベラにあるオーストラリア国立大学)と、1校の私立大学(ボンド大学)を除いて他はすべて州立大学。が、各大学ごとに入学試験を課す日本の大学受験制度とは異なり、受験制度については各州の教育省によって試験問題から評価方法まで統一・規格化されています。
詳細は各州によって異なりますので、ここではニューサウスウェールズ州のシステムを例にとって説明しましょう。大学進学を志す学生は、12年生の10〜11月にかけて卒業時にHSC(Higher School Certificate)という全州統一試験を受けなければなりません。このテストの結果と学業成績(11〜12年生の2学年間の学業成績に各学校のレベル差を考慮して修正を加えたもの)との総合で、TER(Tertiary Entrance Rank)という得点が算出されます。TERは偏差値のような計算方式によって算出され、100点満点。この得点が各大学・学部から提示された受入ボーダーライン(Cut-off−足切り点)を上回っていれば、めでたく入学できるという仕組です。
大学側は学部・学科毎に「入学を受け入れるTER最低点数(Cut-off)」を毎年提示します。たとえば、シドニー大学の法学部では98点以上、マックォーリー大学の文学部では75点以上といったように示されますが、日本の受験制度でいえば、大学別偏差値ボーダーラインのようなものを想像すれば分かりやすいと思います。但し、日本の偏差値・ボーダーラインは大手予備校が膨大な模擬試験のデータから算出して、それを目安に大学選びをしますが、オーストラリアの場合はこの基準点を算出するのも州政府教育省(Board of Studies)の仕事です。
さて、目指す大学・学部に向けて、基準点以上のTERを獲得できるように努力すればよいのですが、その個々の基準点はHSC(一斉テスト)と、11、12年生の学業成績から、学校のレベル差を考慮した上で修正をかけて算出されます。この学校ごとの修正係数を決めるのも州政府教育省Board of Studiesの仕事です。日本と同様、内申点というのは絶対評価ではありませんから、たとえば同じ50点でも有名受験校の学生が取った50点と、地元の普通高校の学生が取った50点ではレベルに差があります。この差異を是正するためにHSCの結果をもとに修正係数をかけて、再計算する仕組になっています。
HSCについても毎日の学習がそのまま反映されます。なぜなら、一斉試験といっても試験前の一夜漬けで一発逆転可能な日本のテストと異なり、その場限りの暗記でどうにかなるようなシロモノではないからです。試験問題のほとんどが「○○について考察せよ」「○○と◎◎の関係について説明せよ」といったエッセイ形式をとっているので、キーワードを暗記しているだけでは全く歯がたたないでしょう。それよりも毎日の学習の中で、問題意識をもって取り組み、自分なりに深く考えて理解しておくという習慣が好結果に結びつきます。
HSCの試験科目ですが、ある一定条件のもとに個人で選択できます。その選択条件とは英語、文科系・芸術科目、理数系科目といった3つのカテゴリーの中から最低1科目は選択し、合計で最低10単位(ユニット)受験しなければならない、というもの。最高で14ユニットまで受験できるので、ほとんどの学生はとりあえず14ユニット受験し、成績のよかった10ユニット分のみを加味して得点を算出してもらうという形をとっています。ユニットというのはいわゆる「単位」のことで、各科目ごとに難易度を加味して単位数が決められています。たとえば同じ英語でも、3単位のEnglishではシェイクスピアなど難解な古典英語も網羅する一方、比較的易しいGeneral Englishは2単位にしかならない等、単位数の多い科目ほど、学習内容が多く、難易度も高くなります。様々な選択科目の中から自分の得意科目を組み合わせて14ユニット分を受験するわけです。が、先ほどの選択条件が絡んできますので、たとえば、理数系科目が得意だからといって、「英語2ユニット+数学4ユニット+物理2ユニット+化学2ユニット+生物2ユニット+地学2ユニット=計14ユニット」という選択は不可。「英語3ユニット+数学4ユニット+歴史2ユニット+化学2ユニット+日本語3ユニット=計14ユニット」といったように、理数系、文科系の科目からバランスよく選択しなければなりません。
ニューサウスウェールズの教育を管轄するBoard of Studiesが定める基本選択科目と、HSC選択の際の条件についてさらに知りたい人はここをクリックして下さい。