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今週の1枚(09.12.07)
ESSAY 440 : 不思議な日本の不況 〜本当に不況なのか?なんで?
写真は、ベタすぎて説明の必要もないでしょう。先日撮ったものですが、意外とキレイに撮れたので。もうしばらくしたら、ニューイヤーの花火がここで行われますね。未だ見たことない人は、どうぞ。花火そのものは日本の方が進んでると思いますが、絶景ロケーションや、橋をフル活用した仕掛けは(アーチ型の橋梁から機関銃の一斉射撃のように連発されたり)まさにスペクタクルです。
ここのところ一週交替で世界史シリーズと性賢説シリーズをやってますが、ちょっと飽きたので、今回は違うトピックをやりましょう。経済景気ネタです。
今年は日本に帰省してないので、いまひとつ日本の景況感がピンと来ないのですが、先日まで出張帰国したカミさんの話や、ほかの人の話、さらにネットその他で縦覧していくと、かーなり雰囲気悪いみたいですね。11月には3年半ぶりにデフレ宣言をしたり。かくいう僕の方も日本の景気が悪いせいか、商売あがったりです。とある語学学校などに聞いてみても、直近の日本人生徒の比率がついに8%にまで下がるなど凄いことになってます。この学校、過去最高では日本人比率38%あたりまでいってたことがあり、日本人多過ぎと敬遠してた時期もあったくらいです。それが8%。おそらく開校以来の低比率でしょう。でも学校としては順調に成長しており、過去200名そこそこだった生徒数も、今では600名を超えています。つまり、日本以外の各国の生徒数は順調に増えているということであり、日本だけが突出して沈んでいるわけです。学校内では、25%前後を占める韓国人、同程度を占める南米人(ブラジルなど)、さらに時節柄多いヨーロピアンの3大集団がトップグループを形成し、以下ボチボチで、8%というのはトルコ人にもタイ人比率にも負けてます。どうした、日本!?てな感じなんですよ、ほんと。
だけどねー、なんで日本が景気が悪くなるのか、僕には不思議でしょうがないのですよ。そりゃ世界経済危機の影響はありますよ。でも、そんなの世界中何処でも同じだし、なんで日本だけが落ちなきゃいけないの?と。どっちかといえば、日本が一人勝ちしてても不思議ではないくらいの状況だと思うのだけど、日本の皆さんは頭を抱えて「もう終わりだあ」みたいな感じになってるという。これがもう、不思議で、不思議で。長期スパン、あと10年、20年、30年くらいのスパンでいえば、日本経済なんか伸びるに決まってるでしょうが、これからがバラ色でしょうがって思うのだけど、あんまりそんなこと考える雰囲気ではないみたいです。今回はそのあたりのことを書いてみます。
オーストラリアの場合と公定歩合
まずオーストラリアですが、オーストラリアの景気は回復しています。そりゃ病み上がりですから、経済危機前のように元気バリバリってことはないし、いつまたブリ返すか分からないところはあります。それでも、皆で頭を抱えているって感じではないです。
景気について様々な指標がありますが、よくあげられるのが公定歩合です。大まかにいって、景気が悪いときは公定歩合を下げます。安く借りられるようにして社会にお金が廻りやすくして景気を良くするわけですね。逆に景気が良くなって物価が上がりすぎるような時は、公定歩合を上げ、蛇口をしぼって金廻りを悪くします。まあ、本当はマネーサプライやら金融政策やら複雑な話になるのでしょうが、ここでは大雑把に。その公定歩合ですが、オーストラリアでは既に2009年10月7日に上げています。以後11月4日、12月2日と直近3回連続で上げてきています。
日本はバブルが弾けてからこっち(かれこれもう20年近くになりますが)、ずっと超低空飛行であり、直近10年は1%以下です。正確には1990年6.25%をピークに、93年には2%を、95年9月には1%を切り、以下01年の0.10%をボトムにして07年には0.75%まで上がったものの、去年の10月、12月と連続して下げ、現在は0.30%です。公定歩合が1%を切るなんて、先進国経済の常識では異常事態が起きたときの暫定処置なんですけど、それがもう常態化しているという。この20年間、銀行その他に預金・投資したところで、そのリターンは涙がチョチョ切れるほど少ないでしょ。今調べてみたら、日本の大手都銀の定期預金の利率は10年預けても0.5%という冗談みたいな低利率です。
日本だって公定歩合が高かった時代はあったのですね。例えば
日銀のサイトに表がありますが、これによれば、1973年と1980年に9%を記録しています。公定歩合は、通例3−7%あたりをいったりきたりするもので、
オーストラリアの公定歩合の過去20年の変動の経過によれば、オーストラリアの場合ここ15年ほど大体そのレンジに収まっているのが分かります。もっとも、日本のバブル時期(90年初頭)に、17.50%などというこれまた冗談みたいな数値に達しており、日本のバブルどころではない過熱騒ぎだったことが分かります(日本のバブル時期ですら最高6%ですから)。
さて、今回の経済危機直前のオーストラリアの公定歩合の水準は6−7%台でしたから、今回の不況においてもガンガンこれを下げて対処する余地があり、実際にやっています。2008年9月から、10月、11月、12月、2月、4月と短期間に立て続けに6回も下げ、しかも下げ幅合計4.25%(7.25→3%)ですから効果がデカいです。持ち家志向や投資が当たり前のオーストラリアの場合(てか西欧社会の場合)、月々の住宅ローン(モーゲージという)返済がダイレクトに可処分所得(自由に使えるお金)に反映するので、公定歩合のニュースが新聞に載る場合、「あなたの月々の返済額はこう変わる」という親切な表がセットになってます。借りている額にもよるけど、公定歩合が0.5%も下がれば、月々の可処分所得が数万円違ってきます。だから公定歩合(インタレスト・レイト)ニュースは、日々の生活にダイレクトに影響する切実なトピックなのです。
今回の経済危機において、オーストラリアは比較的ラッキーでした。
オーストラリアも非常にバブル的な状況だったのですが、それでもアメリカや欧州のように投機的なバブル面は少なく、中国への資源輸出という実体経済に裏打ちされていたので、アメリカのように「幻想が消えたらいきなり地獄」みたいな急転直下ではなかったです。第二に政府がお金持ちだったので、有効な経済対策をする余裕がありました。実際、ケビン・ラッド与党政府は、累積していた黒字を惜しげもなくドカーンと使って、日本の感覚からすれば途方もないような対策をやってます。税金の払い戻しが一人頭10万円近く、子供が一人いたらまた10万円程度、年金生活者にはまた10万円、、、そのくらいの単位でガンガンやり、子供が二人いるようなファミリーの場合、数十万円臨時収入が入ってきたはずです。しかも迅速。日本で麻生君が定額給付金を1万2000円を翌年春に配ったのに対し、こちらでは年内のクリスマス商戦やホリデーに間に合うように配ってます。これに加えて、前述の公定歩合が下がったことで住宅ローンの負担が軽くなり、可処分所得を増やします。でもって、オージーも馬鹿ではないので、「これは遣うべきお金だ。ヘタに貯金に回したら景気が悪くなる」とよく分かっていてバカバカ遣いまくってました。"Kevin saids, "spend, spend, spend!"(ケビン首相はいいました、遣え、遣え、遣え!)"なんて書いてある広告があって笑ってしまいました。
そんなこんなで景気はそれほど悪くならなかったです。政府が一番悲観的で、「皆、歯を食いしばるんだ、これから大波がくるぞ」と呼びかけ続け、失業率も5%台から8%台に跳ね上がるぞと言っていたのですが、フタをあけてみたら、失業率も5.4%が5.8%?そんなもんでした。殆ど差がなかったという。こういった経緯を受け、オーストラリアの中央銀行(Reserve Bank of Australia)は今年の10月7日を境に再び公定歩合を上げ始めたわけです。
対照的に日本の場合、公定歩合が最初からドン底だから金融政策をする余地がないです。もとが1%以下だから、2回しか下げられないし、やったところで微差でしかないから効果が乏しい。しかも国庫は黒字どころか破産してないのが不思議なくらいの大赤字ですから、バラマキ的景気対策なんかやれるわけがない。だから、今でも不況に喘いで、ついにデフレスパイラル、奈落の底にらせんを描いて落ちていく状況になっている、、、、のでしょうか??本当にそうか?というのが本稿のテーマです。んなわけないだろうという。
日本は不景気なのか?
たしかにネットやマスコミでみると、不景気なニュースが多いです。調べていたら、その名も
「不景気・com」という凄いニュースサイトがありました。そこでの最近のニュースのタイトルだけ上げていくと、
茨城空港がピンチ、定期便は国内ゼロでソウル線1往復のみ
学研が小学生向け雑誌「学習」「科学」を休刊、半世紀の歴史に幕
週刊ニュース11/29、穴吹工務店倒産など荒れた1週間
韓国最大のヒュンダイ自動車が日本市場から撤退
和菓子の老舗「菊水総本店」が閉店へ
週刊ニュース11/22、倒産企業が増加した1週間
夫婦の小遣い夫3.5万円・妻2.1万円へ大幅減
週刊ニュース11/15、子会社解散や海外リストラが加速
クリスマスプレゼントの予算は4割減、不況で財布のひも硬く
アコムが陸上部を廃部、本業の業績悪化受けて
ホテルニューオータニ神戸が12月26日で営業終了し閉館
週刊ニュース11/8、倒産や撤退・海外リストラが目立つ
東京モーターショーの入場者数は57%減の61万人止まり
トヨタが「F1」から撤退、未勝利も業績悪化でやむなく
09年上半期の法人税収が1兆3075億円の還付超
サッカーの三菱自動車水島がJFLから脱退、資金不足で
ブリヂストンがF1用タイヤの供給から撤退
週刊不景気ニュース11/1、倒産とリストラが増加した1週間
貨物車で13年半、車の平均寿命が延びる、不況で購入手控え
すごいですよね、これでもか!って感じですよね。
ほれみい、不況やないか、誰がなんといっても不景気じゃないかって言われるでしょうが、これだけ見てればそうですよね。はい。でも、なんで不況になってるの?根本的なところがわからない。
ハッキリ言い切って、今の日本の不景気は、たんなる「気のせい」ではないのか。メンタル不況ってやつです。皆が不況だと思って金を使わないから、本当に不況になっているということで、仮病のために寝込んでいたら本当に病気になってしまったみたいなものだと思います。もう、日本人の最大の弱点というか(強みでもあるが)、メンタル面での弱さ、楽天性や冒険心の乏しさ、ネガティブ大好き系の部分がモロに出ているのでしょう。もっともそれが危機感として高まり、あるポイントを越えると核融合並の爆発的なエネルギーを出すところが日本人の強みでもあるのですけど。
しかし、こうやってメンタルだの「気のせい」とかいってると、それこそ単なる気休めであり、根拠のない楽観論とか言われるでしょうね。でもさ、じゃあ悲観論にどれだけの根拠があるというのだ?
今回の世界経済危機のメカニズムや展望ついては、過去にも書いたし、別の箇所(
世界経済危機について)でも述べてます。簡単におさらいをすると、クレジット・デフォルト・スワップなどの技巧的な金融商品によるマネーゲームで過熱していた欧米経済が、サブプライローンの焦げ付きという蟻の一穴に始まってなしくずし的な大崩壊になり、今回の世界経済危機になったわけですよね。世界経済の覇者であるアメリカ、その中枢神経であった巨大金融機関が軒並み倒産、合併、吸収をされてるわけですから、世界に影響がないわけないです。一家の大黒柱のオヤジさんが突然脳卒中でぶっ倒れたようなものです。
これによる第一次的被害は、金融投資技術を駆使したマネーゲームをやって笑いが止まらないくらい儲かっていた金持ち連中です。爆心地にいたので瞬殺状態ですね。しかし、この第一次被害については米国や欧州が激しく、オーストラリアはいくらバブルであったとしてもアメリカほど馬鹿騒ぎはしてなかったので被害はそれほどでもない。確かに、オーストラリアの金持ち連中は凹みましたよ。投資してた金がパーになるわ、高いローンで無理矢理買ってた億単位の不動産の資産価値が下がるわ、年収数千万の勤め先を失うわ、踏んだり蹴ったりです。しかし、同じオーストラリアでも庶民層は、最初からそんなに高い不動産買ってないし、投資するほど貯金もないし、影響は乏しかったといいます。だから経済対策の一環として、「不動産を初めて買う人への大幅減税などの措置」によって、皆さん今がチャンスとばかりに不動産を買おうとし、それが景気を下支えしました。今回の不況は金持ち不況で、金持ちであればあるほど傷は深く、そうでなければ傷は浅い。日本の場合、そんな年収数千万円で、ガンガン投資しまくっていた層などごく一部であり、殆ど影響なんかない筈です。みずほと東京三菱が同時倒産くらいのメガトン級の出来事がアメリカでは起きていたことに比べてみれば、日本における第一次被害など殆ど何もなかったと言ってもいいくらいです。
第二次的被害は、もっぱら金持ちが買っていた高級品が売れなくなることです。高級車、大画面テレビ、高級インテリア、家具、その他です。ここで日本に波及します。レクサス売ってて儲けていたトヨタ、大画面テレビなどをブランド力で売ってたソニーなど、名だたる輸出企業が大打撃を受けます。だから、去年の派遣切りとか派遣村というのも、トヨタの工場閉鎖がどうしたとかそういう文脈だったでしょう。
そして第三次被害に波及します。このステージはドミノ倒しの全面展開です。トヨタやソニーなどの旗艦的企業がヘコんだことによるマイナスの連鎖は、下請け企業や取引先など膨大な裾野、周辺業種に波及します。さらにこれらの企業が利用していた取引先(オフィス機器リース、社員旅行先の旅館、接待利用)が影響を受け、さらにそこの社員の失業、減給(含む残業カット)による緊縮家計によって日本中の殆ど全てが影響を受けるようになります。これが今の段階ですね。
でも、世界経済が回復しつつあるのだから、以後はフィルムの逆廻しのように回復する筈です。峠は越えたんだから安心して良い。
オーストラリアを含め、欧米の連中は投資その他にアグレッシブだから、一旦底を打ったと見切ると、まだ底値のうちに投資しようとします。話はピョンと飛ぶけど、定期的にナイル川が洪水氾濫し、その氾濫によって土壌が豊かにリセットされたからエジプト文明が栄えたというけど、それと同じで、一旦経済クラッシュが起きて、それまでのバブル企業が一掃され、風通しがよくなり、潜在的購買層が消費を控えたその次は肥沃なマーケットになります。だから先に唾をつけた奴の勝ちになる。いくら世界経済危機が100年に一度でも、それで1億人が自殺したわけでも、金持ちが一人残らず乞食になったわけでもなく、サバイブした連中は幾らでもいる。日本のバブルと同時期に世界中がバブルになったわけだし、前述のようにオーストラリアでは17%台というアホみたいな公定歩合になってたわけで、破裂したのはどこも一緒。しかし、日本だけ「失われた10年」とかいってウジウジやってる間に、オーストラリアもどこも半年〜1年ですっかり立ち直っています。その理由の一端は、彼らがもってる攻撃的な投資性向や、ピンチのあとのチャンスを逃さないというビジネスマインドでしょう。
ということで、世界経済が徐々に回復していくにつれ、またトヨタ・レクサスやソニー製品は売れるようになる。今は円高不況だとかいってるけど、いつまでも円高が続くわけでもないし、現地工場や海外生産してるから言うほど絶望的なものでもないでしょ。これまでも何度も円高はあったんだし、過去最低の対米ドル80円を切るレベルまでいった86年のあとに大バブルがやってきてるわけだし。実際にどうなってるかといえば、先月の速報をみると、アメリカにおけるトヨタは10月、11月と2ヶ月連続で売り上げを伸ばしてます。2ヶ月連続というのは2007年以来です。トヨタの連結財務によれば、今年9月の半期で赤字幅は大幅に減っているし、来期の売り上げは上方修正しています。もちろんそれまでが馬鹿景気だっただけに、いきなりあの水準に戻るわけもないです。数年がかりで赤字調整をするだろうし、労組との交渉でも減額方向にいくでしょう。でも、長期的には売り上げ増加という新規需要がでてきているわけですから、先行きは明るいです。
このように根本的な部分、原理的な部分で光が見えてきたのだから、景気が良くなるのはもはや確定的でい、あとは単なる「時間の問題」だと言っていい。長くかかるか、すぐに良くなるかは、それぞれのポジションによるでしょうが、本質的な部分で先に希望が見えたのだから、本来だったら先取りしてもう景気が良くなっていてもいいはずです。今なら消費も冷えてるから価格も安いし、今が買い時であり、今が攻め時でもある。本格的に景気が良くなってから参戦したら遅すぎるわけですからね。
だから、日本も景気が良くなりつつあるんだろうなーって勝手に思ってたら、「悪くなってる」と聞いて、「え、なんで?」と思ってしまったわけです。本来なら、10月時点、明りが見えてきた時点で景気が良くなってなければ嘘です。実際、オーストラリアでは10月から公定歩合を上げてるくらいです。オーストラリアよりも第一次災害が少なかった日本は、実質的には第二次災害からはじまってるから、世界やオーストラリアよりも不況になる時期が遅かった。その分世界で一番傷が浅い国だったわけで、一番早く回復してもおかしくない国だった。日本が一人勝ちしていてもおかしくない筈というのはそういう意味です。
それなのに10月時期を境にデフレ不況になったのは何故なんだ?ってことですね。
いろいろな理由はありますけど、大きな理由としてはメンタルでしょう。不況が来るのは1年以上前から分かっていた筈なのに、実際にいよいよ身近に接近してきたら、ビビッて途端にお金を使わなくなるから、一気に冷え込む。だから、なんというのか、現在の不況は自ら招いた不況といってもいい。また、それを煽るようなお馬鹿なマスコミのお馬鹿な記事が紙面を覆い尽くすから、ますます悪くなるという。根拠のない不況でも、皆がそう思ってお金を使わなければ、本物の不況になる。
日本人のメンタル不況
日本人のメンタルの弱さはもの凄く根が深いと思いますし、いろいろ理由があるのだと思いますが、まずは本当にそんなにペシミスティックなのか?という点です。
面白い記事をみつけました。
「今後3か月に景気はどうなる?」日本は世界で3番目の悲観的な国というものです。「今後3か月にあなたの国の経済は良くなる・変わらない・悪くなる」という質問をしたところ、調査対象になった世界24カ国のうち、日本は下から数えて3番目という悲観的な国でした。表を見たら一発でよくわかるでしょう。ちなみに日本よりも悲観的な国ってどこか?と思ったら、アイスランドとルーマニアでした。金融力で繁栄したアイスランドは、被害もデカく、三大銀行が全部国有化され、事実上のデフォルトになり破産状態になってるので悲観的になるのも分かります。ルーマニアの場合、直近の経済成長率8.8%という中国並みの成長を謳歌していただけに、ドカーンと壁にぶつかったショックは大きく、悲観的になる気持ちも分からないでもないです。
この調査の元ネタは、
株式会社日本リサーチセンターというところですが、この会社が独自に調査を行ったわけではなく、この会社が加盟しているWIN(Worldwide Independent Network of Market Research)という機関が世界規模の調査(第4回・WIN 消費者信頼感指数調査)を行い、その結果を日本語訳して教えてくれているわけです。
レポートのPDFファイルもあります。
このレポートの結果は多岐にわたります。例えば、経済危機に対する政府、不動産市場、株式市場の信頼度などに諸項目では、日本はそんなに悪くないのです。良くはないけど真ん中くらいで、トップからの差もそれほど離れているわけではない。家計を切り詰めているかどうかでも、意外と平均程度でしかなく、日本だけが突出してお金をケチってるわけでもない。
経済危機によってストレスその他で健康被害がありましたかという問いについては、日本は平均よりも多少悪い程度でこれも突出してません。面白いのは健康被害の個別項目で日本とオーストラリアではストレス(日本43、オーストラリア39)、心配・不安(54、36)、睡眠不足(23、31)、鬱状態(10、19)ということで、日本はダントツに「心配不安」の数値が高い。オーストラリアは景気が良いくせに、日本よりも睡眠不足や鬱が多いのですね。別にオーストラリアが能天気で楽天的だってわけでもないのですよ。逆に言えば、日本人は不安だ、ストレスだとかいう割には夜も寝てるし、鬱にもなってないのですよ。このあたりは経済やメンタル以外に、健康に対する考え方や文化というも大きな要素になるでしょう(自分が鬱状態にあると素直に認められるかどうかとか)。過去3ヶ月でこれら4つの症状のうち一つ以上を経験したという数値は、日本は丁度真ん中くらいです。日本が56で、オーストラリアは47、アメリカなんか70%が何らかの症状を経験してます。だから、総じていえば、いうほど精神的な部分が弱いわけではないのよね。意外とタフなんです。
日本がドカーンと低いのは、先にあげた「今後3か月で経済が悪くなる」という点、そして記事には載ってなかったけど、ダントツ最下位なのが「今後一年のあなたの世帯収入は増えるか減るか」という問いで、「増える」という回答が世界平均25%なのに対し日本は僅か9%で最低、「減る」の平均が21%に対し日本は48%で、これは下から二番目。
この調査一つで全てがわかるってものでもないけど、なんとなくヒントらしきものは見えてきますよね。
第一に、日本人は、不況だ、もうダメだと口ではいってるけど、その割には自分の国の政治、経済システムを信じていること。勿論100点満点で信頼しきってるわけではないし、政治不信などはあるでしょうが、そんなもんどこの国、何処の国民でもそうです。世界的にみると、平均点程度には自分の国のシステムに自信を持ってます。
第二に、日本において特徴的なのは、国家社会のシステムには自信をもってる割には、自分自身の収入や展望には自信を持っていないことです。日本という国は、世界に出してもそこそこイケてる国だと思ってるけど、こと自分自身の収入や人生展望になると、そこまでの自信を持てない。つまり「イケてる日本の中のイケてない俺」という意識が、世界レベルで見ると強いんじゃないかと。世界の人はむしろ逆で、「ウチの国はダメダメなんだけど、でも俺の人生は大丈夫さ」という感じの人が多い。
第三に、日本人は、口ではダメダメいってるくせに、意外にタフである。あとで述べるように個人的な展望が世界レベルでかなり絶望レベルであるにも関わらず、鬱になるわけでもないし、夜も寝ている。景気が良くなりつつある他国の方が、むしろその意味ではメンタルが弱い。まあ、ここは「メンタルが弱い」という表現が正しいかどうかは微妙で、鬱などメンタル面での健康意識が高いかどうかという問題であるような気もします。だけど、少なくとも不況によって健康を損ねた考えている日本人はそれほど多くはない。
第四に、日本人の悲観的な姿勢というのは、実は「悲観的である」というよりは、
「楽観的ではない」「楽観的な人が少ない」という部分が強い。日本経済の未来予測でも、「悪くなる」と悲観的な人は34%であり、世界平均27に比べて極端に悪いわけではないです。50%台の国だってあるんだから。しかし、「良くなる」という楽観的な回答は僅か9%で、平均22%からガクンと低く、下から三番目です。そして、個人収入の展望については、上でみたように「増える」は僅か9%(平均25%)で、「減る」は48%(平均21%)で下から二番目。
以上を総合すると、日本人は、日本という国やシステムについては世界平均レベルに自信を持っているけど、日本経済の展望については悲観的ではないけど、楽観的な意見が極端に低い。そして最も身近な自分自身に関しては、楽観も低く、悲観も強い。しかしながら、そこまで暗い将来展望をしているわりには、たいして健康を損ねているわけでもなく、夜もしっかり寝ている。
面白いですね〜。でも、なんか分かるような気がしますね。
うがった見方をすれば、日本人の人格的二面性がかいま見えるような気がします。このエッセイでいつも書いてるけど、日本人の心の奥底は、意外にふてぶてしく図太い人格があるんじゃなかろか。日本経済がダメになろうが、破滅しようが、「それがどうした?」と開き直ってる部分。これは戦後ゼロから叩き上げてきた自信みたいなものかもしれません。はたまた、台風前夜のように、大地震かなにかカタストロフで日本なんか全部ぶっ壊れちゃえばいいんだという倒錯したワクワク感かもしれません。これがあるから平気で「もうダメだ」とか挨拶のように言いあってるんじゃなかろうか。
西欧人はダメだと思ったら死にものぐるいで何とかしろ、努力しなきゃって思うけど、日本人ってダメダメいうだけで何もせんでしょ。そんなに日本がダメだというなら、なんで日本に住み続けているのだ。僕のように海外に行けばいいのに。だからそれほど本気でダメだと思ってるわけじゃないんでしょ。そして、逆にダメになってもいいと思ってる、むしろ待ち望んでるような部分があるんじゃなかろか。だからこそ、あれだけ暗い国と将来像を描きながらも健康被害は意外と少ない。どっかしらアンビバレンツで、どっかしらふてぶてしい。
人格分裂のもう一つの極は、不安神経症的な部分です。この不安神経症があるから、何がどうなっても安心できない。「なんとかなるさ、ケセラセラ!」って吹っ切れた楽観性がない。だから楽観性の異様なまでの低値という現象が生じるのでしょう。だけど不安神経症の人の常で、結局は趣味として恐がってるだけだから、本格的なリスク管理は出来てない。社会やシステムに対する何とはなしの盲目的な信頼もあり、最後のところではなんとなるくらいにタカを括ってる。だから楽観が低いわりには、悲観が高くない。楽観してないけど、悲観もしてない。
これに微妙なツイストをかましているのが、日本人の個と全の関係です。日本人にとって本当に恐怖なのは、皆から取り残されることでしょう。日本経済が壊滅して、皆で仲良くホームレスやるんだったらまだ許せるけど、日本中が金持ちになって自分だけ貧乏のままというのは恐い。この一人沈みの恐怖感が、日本経済については楽観×悲観△なのに対し、自分自身については楽観×悲観×になってる原因ではないでしょうか。
まあ、意訳していえば、「すっごい不安なんだけど、でもタカをくくってる」+「こと自分自身については、やっぱりちょっとビビってる」てなところでしょうか。なあんてね、思いつきにすぎませんから、あまり真剣に受け取らないでくださいね。
しかし、もしこれがある程度本当だとしたら、ややこしい人達ですね〜。かくいう僕もそうなんだけど。
景気の話に戻りますが、この「楽観的になれない」、特に自分自身については悲観的に傾くという部分が、消費を抑制し、今日のデフレ不況を招いているんでしょうかね。
でもね、それでも辻褄が合わないのは、日本人の家計の切り詰め方というのは世界レベルでは平均的な切り詰めしかしてないのですよね。景気に関していえば、最終的にどれだけ個々人が消費を控えるかによって決まるのだから、日本だけ突出して不況になってる理由がないんですよ。というか不況になるはずがないんですよね。もっといえば、前回調査(7月)に比べて、今回(10月)は切り詰めているという数値が45から36に減ってます。明らかに事態は好転している。また「切り詰めていない」という回答が47%「切り詰めている(36)」を上回っている。これはいったいどうしたことか。そもそも客観的事実として不況になってるかどうかすら疑わしいです。
だから、まあ、一片のアンケート調査で全てが分かるものではないってことなんでしょう。
でも、考えるべきポイントはまだまだあります。家計の切り詰めについては、既にこれまでに散々切り詰めてきているので、これ以上切り詰めたくても切り詰められないってこともあるでしょう。また、消費の方向性も問題で、特に経済に悪影響を与えるような消費抑制をしているのかもしれません。例えばお受験関係は切り詰められないとか、医療費系はケチれないとか、献金とか寄付金とかややもすると不透明なものほど切り詰められないとか。
総じていえば、日本経済のあり方や消費構造、お金の廻り方というフレームが歪んでいるのかもしれません。つまり、経済は廻っているし、それなりに儲かっている人達もいるのに、それが全体に還元されないということです。
例えば、経済対策の美名のもと内需拡大をやるけど、その実質はバラマキ型公共工事であり、結局は利権の巣窟の所にお金に吸い上げられるだけで、天下り官僚の退職金に化けるだけ。また山奥に高速道路を通しても、誰も利用しないから経済波及効果がない。使いもしないダムを造る場合も同じ。それでも利権屋が儲かった金を使ってくれたら経済は廻るけど、そーゆー奴に限って後生大事に自宅の金庫に溜め込んで遣わないから金が廻らない。あるいはアホな投資をしてパーにしている。でもって公共工事費用をまかなうために赤字国債を発行し、国は借金まみれになり、借金の返済のために税金を集めるような状況になるから、税金分の公共サービスは期待できなくなり、さらには年金などもアテは出来なくなる。だから皆もケチる、さらに不況感が募ると。
あるいは、企業が従業員に利益を還元していないという部分もあります。去年の経済危機まで、上に述べたように微々たるレベルではありながらも公定歩合を上げてきたわけで、日本は好景気でした。いざなぎ景気を越えるというくらいの好景気で、企業は儲かっていた。だけど生活実感はあまり、というか全然無い。内需拡大やら経済政策やらやって企業が儲かっても、それを従業員に還元しないから一般に潤わないという構造があるとか。そのあたりに本当の問題があるのかもしれません。複雑ですね。
あー、一回で終わらそうと思ったのですが、長くなったので、次回に廻します。
次回は、いわゆる「日本はもう終わりだ」論、長期的に日本経済や日本がいかに衰退していくかという流行の議論について、つまみ食い的に茶々を入れてみたいと思います。いわく資源がないからダメ、いわく新興国、特に中国にしてやられ、いずれは中国の奴隷になってしまうからダメ、いわく内需拡大しないからダメ、いわく政府の経済対策がダメ、いわく民主党だからダメ、いわく日本人そのものが劣化してるからダメ、、なんてあたりです。本当にそうなの?嘘くさくない?ということです。
→次に進む(ESSAY 441/不思議な日本の不況(2)〜いわゆる「日本はもうダメだ」論の検証。ホントに?)
文責:田村