これもよく言われますね。この先日本は中国に飲み込まれて、植民地化し、中国の奴隷になって細々と生きていくしかないんだ〜って、M気の強いファンタジーを述べる人もいますが、本当にそうか。
新興工業国の追随が激しいのは、これも今に始まったことではないし先進国は何処もそうです。安穏と構えていたら転落するというのは、資本主義経済が競争原理をベースにしている以上、いつでもどこでも同じであり、特に日本だけが不利なわけでもない。この競争原理があるからこそ日本は経済大国になれたのであり、仮に将来転落しても、頑張れば再び這い上がれるということでもあります。アメリカも、イギリスも80年代のドン底から這い上がってきたわけですしね。
一方、新興国、特に中国、インド、ブラジル、そしてロシアなどBRICs諸国のパワーは凄いです。これまでの世界シリーズでも重点的に取り上げましたが。中国は、今回の経済危機でも上手に乗り切って経済成長率をそんなに鈍化させずに済んでいるし、今年にはGDPで日本を追い抜かし、既に年収5000万円以上、1000万円以上の富裕層の絶対数では日本を抜かしつつあるそうです。インドは国民の平均年齢がまだ20代というとんでもなく若い国で、且つどんなに国が乱れようと民主主義を守り通したという点、インテリ層では英語がデフォルト装備されている点、アメリカの大企業の多くにインド系重役がいるという印僑パワーという点、どれをとっても凄まじい潜在力を持ってます。シベリアを持つロシア、アマゾンを持つブラジルの資源保有力も見過ごせないし、特にブラジルはオリンピック開催も決まって日の出の勢いです。
あなたがシドニーにワーホリでくれば、このあたりの状況は肌身に感じるでしょう。スーパーに行けば、IT系の学生さんらしきインド系の若者がレジを打ってますし、語学学校ではブラジル比率が日本人を追い抜いているところもあります。中国人は沢山いるし、直近のオーストラリアの年間移民統計によると、2009年上半期には常連トップのイギリスとNZをさしおいて中国系が移民トップに躍り出ています。このあたりは、本を読んで頭で理解するのではなく、日々の生活における皮膚感覚で分かります。逆に日本の存在感など相対的に薄くなってるかもしれません。
じゃあ、それがイヤか?というと、別にイヤじゃないですよ。なぜってオーストラリアに来ている彼らは本国の中でも飛び抜けて頭が良いか、ビジネスが上手か、富裕層か、あるいはその全てかです(一人で全部該当するケースも多そう)。一般的に打てば響くような感じで、明朗快活で、気持ちのいい人が多い。新中間層から新上位層だから、それなりに洗練されているのですよ。これがシティあたりに巣くって親の金で豪遊している「小皇帝」みたいなドラ息子系チャイニーズだったら話は別ですけど、自分のスキルで技術移住している連中はやっぱりそれなりですよ。また頭がいいからオーストラリアの価値観や生活習慣を身につけて、そう無茶も言わないし、フレンドリーだしね。
だからオーストラリアに住んでる僕にとっては、彼らが進出してくるのは心情的には別にイヤではない。最終的には個人と個人の付き合いになるわけで、国籍なんか絶対的なものではない。個人の資質として誠実で愉快なAさんの方が、陰険でこすっからいBさんよりも好きですよ。そのAさんの国籍がインドだろうが日本だろうが話は同じです。そして、賢くて、思いやりが深くて、快活で、健康な野心をもってる若者が増えることは地球にとっても良いことだと思います。そうじゃないですか?いちいち日本がどうとか思わないし、思うのだったら日本も負けずにクレバーで、愉快で、優しくて、覇気のある人材を沢山輩出すればいい。そしてあなたがそうなればいい。それだけのことでしょ。
いい加減幻想から醒めたら良いと思うのですが、「中国人は○○」というのは、「関西人は○○」というくらい無内容であり、幻影です。酒のサカナのネタとしては面白いけど、その程度のものです。どんな国や民族にも、いい人、悪い人、賢い人、卑劣な人、ワンセット揃ってます。日本にだって揃ってるでしょう。中国人やインド人の友達もいない、会ったことも話したこともない、日常的に親しくつきあってるわけでもないのに、○○人がどーのとかいうのは、童貞男が「女というものはだな、、」とエラそうに講釈垂れてるようなものであり、童貞のまま女嫌いになってるようなものです。だからそんな心情的なアレルギーなど百害あって一利なしです。
さて、経済的な本題に映ると、彼ら新興国がもっともっと力をつけて追撃していけば、日本の立場はヤバイと言われますけど、でもね、彼らが本格的に経済発展をしてくれればくれるほど、日本のものを買ってくれるお客さんもまた増えるのだ。そっちの影響の方が大きいとは思いませんか。
戦後日本がなんで経済復興できたのかといえば、アメリカをはじめとする欧米先進国がジャンジャン買ってくれたからでしょう。粗悪品の代名詞と馬鹿にされ、訪欧した首相が「トランジスタのセールスマン」と嘲笑されながらも、皆さん買ってくれた。アメリカのような大国は、ともすればその圧倒的な国力を背景に、傲慢なジャイアン的ゴリ押しもするけど、トータルのプラス・マイナスでいえば経済を支えてくれたというプラス面の方が遙かにデカいです。だからこそ、日本はアメリカの属国だ、奴隷だとか幾ら言われようとも、アメリカとの関係を切るわけにはいかなかったのでしょ。それにアメリカからそれだけの恩恵を被っているわりには、日本からは大したことしてません。牛肉もオレンジも米も米国車もなんだかんだいってあんまり買ってあげないしね。80年代にアメリカがブチ切れて構造協議や非関税障壁とか喚き出すのもわかりますよ。
要するに、ジャンジャン買ってくれる国が出てきたら、それだけで日本はOKだということでしょう。中国が凄い勢いで伸びたとしても、トヨタをソニーを押しのけるくらい優秀な工業製品、それもブランド力のある工業製品で世界を席巻するまでまだまだ時間がかかります。ブランド力を確立するには、まず実力世界一位になって、それから名前が浸透するまで20年以上かかりますからね。でも、その間に日本製品を買ってくれる中国人の数は倍々ゲームで伸びていきます。美味しいじゃないですか。
それに、日本製品を感性の違う欧米人に売りつけるよりも、感性の似ている中国人やアジア人に売る方が楽ではないでしょうか。日本のアニメ文化や映画、音楽などエンタメ系は、欧米では殆ど売れないけど(ごく一部のメジャーアニメは売れてるけど)、アジアではずっと前からやたら売れている。のりピーだってアジアでは活躍していたけど、全米ヒットチャートにのるなんてことはまず無い。アジア市場は楽なんですよね。日本のものをそのまま右から左に持って行けばいいんだから。車だって、ホンダのアコードのように、アメリカ人のライフスタイルに合わせて=買物の量がハンパでないから広いハッチバック、週末の家族旅行のためのゆったり室内と大排気量=売れたわけだけど、アジア人の体格やライフスタイルは日本に似てるから、そのまま持って行けばいい。
加えて言うなら、アジア人は日本人と同じく、権威主義で、猫も杓子も付和雷同的で、ブランド志向が強い。どんなに安くて質のいい中国製品が出てきても、中国のニューリッチの連中は、「国産なんて」って馬鹿にするだろう。日本人が今だに、国産車=庶民、外車=ステイタスという下らないイメージを持ち続けているように。オーストラリアでは、道路交通上の安全性の見地から、外車だろうが絶対に左ハンドルを許さないから、フェラーリだって右ハンドルで売ってます。外車=左ハンドル=ステイタス意識が乏しいからです。実際、オーストラリアでは何が外車で何が国産車か分からんし。でも中国人のブランド志向は日本人と同じ。同質集団で、且つ人口密度が高いエリアに住んでいると、どうしても人間というのは何かと他人との差別化を図りたくなるものらしく、従って見てくれや見栄えという虚栄心が強くなるのかも知れません。資生堂なんか、中国人の大好きなブランドでしょうし、日本人以上にありがたがっているでしょう。中国はパチもんやニセブランドが多いというけど、そんなものを作ってまでブランドをありがたがるという意味ではブランド戦略をカマすには非常に美味しい市場なんですよね(対照的なのがオーストラリア)。金が無い人はニセブランドに行くけど、豊かになれば絶対本物が欲しくなるでしょうし、ニセモノを馬鹿にするようになるでしょう。
中国人口14億人で、車の普及はまだまだ1億台ちょっとくらいでしょう。これがゆくゆくは日本のように二人に一台買うようになれば、あと6億台くらい売れるわけです。6億台だよ、6億!全部日本車ってわけにはいかなくて、そのうち10%だけのシェアだとしても、6000万台。日本の全保有台数よりも多い。だから、ね、儲からないわけないじゃん。
家電でも、日本のソニーやパナソニックはまだまだ強いです。韓国のLGやサムソンが追い上げているし、オーストラリアではむしろ日本を抜いているくらいで、そこそこのブランドになりつつあるのだけど、それでも「ちょっと安めでお買い得」的だから売れているって部分を未だ引きずっている。ブランド力ならソニーの方が頭ひとつ抜きんでているし、液晶だったらシャープのブランド力は強い。既に追いつかれているし、横一線になってるけど、追い抜かれてはいないのだ。韓国勢が追い上げてきたから、日本勢は全部倒産するってものでもないです。別にブッチ切りで勝たなくなって、そこそこ横一線でやってれば(いくら技術力が衰えたといえその程度は出来るでしょう)、あとは市場のパイが大きくなるだけなんだから、イヤでも売り上げは上がるでしょう。
何となくの直感なんだけど、中国人は日本食や日本のものが好きだと思うし、その好きさ加減は韓国人のそれよりも強いと思う。シドニーの日本食レストランでも中国人比率は高い。結局のところ、彼らにとっては日本というのはブランドそのものの国なんだから、こっちにとっては美味しいです。それは日本人がフランスやイタリアをありがたがってる心理に似ています。彼女との勝負デートはフランス料理みたいな。なんでフランスなんだよ?という。なんかカッコいいんですよね。理由なんかありそうでない。思いこみなんだから。だから、日本がカッコいいって思いこんでくれていたら、これは楽です。だもんで、中国にはどんどん経済成長していただきたいです。人口10倍いるのだから10倍になって当たり前です。
しかし中国に目をつけているのは他の国も同様。先日、オバマ大統領が中国はじめアジア諸国を歴訪しましたが、自分をアメリカ初の太平洋系出身の大統領だといい、アメリカを環太平洋国家と位置づけるなど、明らかにこれまでと違ったアプローチをしています。
以上、キリがいいところで次回に廻します。
なんか一回で済むところを引き延ばしているみたいだけど、論点箇条書きみたいな書き方にしない方がいいと思います。なぜなら、「一見そう見えるけど、でもよーく考えてみようよ」ということが言いたいのだから、ちょっとじっくり書きたいのです。
そして、次に控えるのは、何かといえばすぐに出てくる「内需拡大」というコトバの意味です。南無阿弥陀仏の念仏のように、不況になると内需拡大、内需拡大って言うけど、"内需”って何よ?と。日本の10倍規模の外需市場、それも欧米市場よりもずっと美味しい巨大な外需市場が出現しつつあるときに、なんで内需ばっかり言うわけ?内需というのは結果であって、原因ではないのではないかというあたりの話。
さらに、なぜ、この千載一遇のような好機に、景況感が悪化するという真逆な方向を向いているのか。なんでそうなるの?という現在の日本の思考水路の偏り、それを促している原因。どっかが劣化しているのかもしれない。それは、技術力や学力さらには覇気や行動力、肝っ玉の太さという人間としての資質が劣化しているのかもしれないし、減給や人減らしという安易なコストカッティング経営手法によるのかもしれません。いずれにせよ後ろ向きの発想で、なんでここで後ろを向かねばならないのか、なんでもっと自分を信じないのかなと。いや、自分を信じるというのはちょっと違うか。1+1が2にならなくて、1.6くらいで留まってしまうんじゃないかという社会物理法則に対する不信感みたいなものがあるようにも思います。まあ、こんな書き方では分からないと思うけど。
世界の中でそれなりのポジションをキープし続けなければならないのは今も昔も変わりません。そして、世界の中で日本が成り立っていけるのは、性格と知能だと思います。これは常々書いてますが、世界中の人達に囲まれて暮してごらんなさいな。ゴリラみたいな体格の連中や、本国は内戦やらゲリラやらで修羅場慣れしてる連中の中にいてみなはれ。自分ら日本人の取り柄は何かと。パワーやら、ルックスやら、さっ引いていって最後に残るのは性格と頭の良さです。というか、19世紀の砲艦外交や20世紀の冷戦みたいな「結局は暴力」というパラダイムはブッシュで終わってしまっているので、日本人に限らず、誰でも性格と賢さの勝負になっていくのでしょう。
特に賢さに関しては大事なことだと思います。頭の良さ一発でのしあがってきたフィンランドの事例ではないけど、資源問題にせよ何にせよ、キーワードになるのはクレバーさでしょう。だから、日本も「お馬鹿」ブームとか言ってる場合じゃないんだろうけどね。でもって、話がクレバーさということになれば、並行して書いている性賢説も絡んできて、めでたく話がつながっていくのですね。そこまで目論んでいるのですが、さて書ききれるかどうか。
→次に進む(ESSAY 442/不思議な日本の不況(3)〜”内需と外需、雇用不安、グローバル化など)
文責:田村