今週の1枚(05.12.26)
ESSAY 239/2005年のオーストラリアの重大ニュース
写真は、さる12月18日に撮影したボンダイビーチ。暴動の一週間後で、不測の事態に備えて2000人の警察官が厳重に警戒し、且つなるべくビーチに行くのは避けるようにと言われていた日。この時期にしては人は少ないけど、拍子抜けするくらい平和でありました。
毎年、この時期になると、「今年の10大ニュース」というのが定番のマスコミネタになります。日本では皆さんTVや新聞で盛んに報道されているでしょうから、僕がここで上塗りに書くことも無いでしょうから、オーストラリアの10大ニュースを書き出してみます。といっても、あんまり日本ほど賑やかに報道されてなくて(まだ時期が早いのかもしれないけど)、かろうじてHerald Sun紙に”2005's top stories in Australia”ということで載ってました。とりあえずこれしかないので、抜き出してみます。
1.テロリズム/TERRORISM
世界各地で爆破テロが続いた。7月にロンドンでは死者52名、負傷者700名以上を数え(うちオーストラリア人8名)、10月にはインドネシアのバリでは3年前の爆破テロに続いて二度目の爆破テロが行われ、オーストラリア人4人を含む23日が死亡した。その1ヵ月後、ヨルダンがターゲットになり、57名の死者を出した。対テロ戦争も熾烈になり、イラクにおいてはアメリカ軍の死者2000名以上、一般民間人の死者は2万人を越える。オーストラリアでは、500名の警察官を動員して行われた最大規模の対テロ捜査で、18名の大量検挙者を出した。ハワード連邦政府は、厳しい対テロ法案を提出し、議論になっている。この件については、以前ここでも「ESSAY 230/オーストラリアの近況 〜労働法改正&反テロリズム法」、ESSAY 233/JIHAD(ジハド)その背景と浸透(フランスの暴動とオーストラリアのテロ容疑者大量逮捕)で解説しましたね。
2.労働法改正問題/The biggest shakeup of WORKPLACE LAWS
歴史上最も大規模な労働法の改正法案が提出され、数十万人の労働者が街頭に出て抗議行動を起こしている。これも同じく上記のエッセイで書いてますので割愛。
3.NGUYEN TUONG VAN'S EXECUTION in Singapore
グエンというのは人の名前。25歳のベトナム系オーストラリア人で、メルボルンのセールスマンだった青年。彼はシンガポールにヘロインの密輸を企て発覚、シンガポールの刑法で死刑が宣告され、絞首刑が執行された。死刑執行の日が刻々と迫るなか、オーストラリア国内でも「ちょっと厳しすぎるんじゃないか」と温情を望む声が高くなった。理由は多々あるが、一つにはグエンという青年のキャラクターでしょう。彼は職業的犯罪者ではなく、借金に苦しむ双子の兄弟を助けるためにお金になるからということでイチかバチが密輸の仕事をしたようです。悲嘆に暮れる彼の母親や家族、友人の姿と、ジタバタせずに従容と死刑を受けようとするグエン青年が切々と母親を気遣う書簡がマスコミに出て、「お涙頂戴」といってしまえばそれまでながらも、確かにオーストラリアの人々の胸を打った部分はある。法曹界、外務大臣、連邦政府までシンガポール政府に、「内政干渉であるのは百も承知であるがなんとかならないものだろうか」と打診を続けたが、シンガポール政府はこれを拒否。死刑は予定通り執行されたが、最後に母親が刑務所でグエン青年と面会し、手を握るところまでは許可した。
オーストラリアには死刑制度はない。オーストラリア人は、世界の趨勢にもれず治安維持のために刑罰の峻厳化には賛成する人が多いが、死刑が犯罪抑止に有効であるとは思っていないようだ。また、いかに残虐な犯人であろうとも死刑にしろという声は少ない。この点で、一般人の応報観念は日本人と違うように思われる。その理由を推測するに、一つには日本には無い終身刑や超長期自由刑が認められていること(日本は死刑はあるけど、超長期の懲役刑はない)、もう一つはキリスト教その他の宗教的世界観がベースにあること。つまり、本当の意味での罪と罰は、神との間でこのうえなく適正になされるであろうから(ちゃんと地獄に落ちるとか、心から改心するとか)、人間社会の刑罰で全てを済ませなくてもいいのかもしれない。そこへいくと無神論社会の日本では、刑罰以外に正義のバランスを取る場面がなく、死刑は最後の砦のようにキープされる。
このようなオーストラリア人の感覚でいえば、少量のヘロインをもってただけで問答無用の死刑になる(=mandatory death sentenceといって、ある特定の犯罪を犯した場合は裁判官は必ず死刑を宣告しなければならない)というのは、あまりにも厳しすぎる。しかし、そこは主権を有する外国政府のやることだから文句は言えない。それは誰しもわかってる。わかってるけど、なんとかならないか?と思ってしまうのもまた人情。死刑執行の当日は、新聞一面トップになった。同時に、アジア諸国の峻厳な刑罰を、オーストラリア人に改めて認識させることになった。
4. Schapelle Corby事件、Michelle Leslie事件
前者のシャペルコービーについても以前このエッセイ「ESSAY 210/シャペル・コービィ事件と陪審制」で紹介しました(こうしてみると僕も結構マメに紹介してますね、ネタ探しに苦労してのことだけど)。インドネシアのバリでドラッグ密輸の件で懲役20年を食らったオーストラリア人女性。しかし、本人は一貫して無実を強烈に主張。これは麻薬組織の息のかかった空港の係官が彼女の知らない間にカバンに麻薬を詰め込み、そして誤って抜き取るのに失敗したからではないかという疑惑が濃く、現在もなお係争中。一方、ミシェル・レスリーも、エクシタシー2錠を所持していたとのことで同じくインドネシアで逮捕されていたが、3ヵ月後に釈放。ただしこれは芸能ネタ的な尾ひれが山ほどついていて、まずモデルをしていて美形であるとともに、実はインドネシアの高官の息子(首相の息子だっけな)と密かにつきあっていたということが明らかになり狼狽したインドネシア政府が釈放したとか、インドネシア当局や国民の同情をさそうためにベールをかぶってイスラム教徒であるかのように成りすましていたとか、、、要するに、チャラチャラした遊び人の女がボーイフレンドの影の力を借りてちゃっかり釈放になりやがってという反感も強い。なんせ、かなり真剣に被害者と思われるシャペルコービーや、前述のグエン青年の死刑とほぼ同時期に起きているだけに、「なんだこいつ?」という対比が鮮烈過ぎる。ただ、まあ、芸能ネタではあると思う。
5. The LATHAM DIARIES
レイサムというのは、野党労働党の前党首、マーク・レイサムのこと。総選挙敗退を機に辞任。リタイアした政治家がバイオグラフィー(自伝)を出すのは西欧の伝統で、レイサムも自分の日記を出版した。が、その内容たるや読者が気分が悪くなるくらい他者への人格非難というか、罵倒に満ち満ちていたらしい(読んでないけど)。労働党内の内幕暴露本でもあるが、それ以上に、主要な政治家はほぼ全員中傷非難を浴びている。このパラノイア的な自伝日記の出版に、オーストラリアの政界はしばらく大騒ぎになったが、それ以上に、「マークレイサムというのは=野党の党首になるほどの人物だったハズなのに、実はこんな奴だったのか」というショックが大きい。日本でいえば、民主党党首を辞した、鳩山氏や菅氏が自伝を出し、「あのクソ馬鹿の菅が、低能なんだからよせばいいのに唖然とするほど愚劣な策を打ち出した」とか、「鳩山の変態趣味は学生時代から一向に改まらず」などと書いているようなもの。しかし、まあ、これも芸能ネタですね。サン・ヘラルド紙らしいチョイス。
6. DOUGLAS WOOD氏、無事帰還
ダグラス・ウッドさんは63歳のオーストラリア人で、エンジニア。イラクにおけるアメリカの建設プロジェクトで働いていたところ、人質にとられた。長い間、安否が気遣われていたところ、47日ぶりに無事生還を果した。これも一時期この話題で盛り上がってましたな。
7.Sea King 墜落
Sea King というのはオーストラリアの軍用ヘリコプターの名前。インドネシアに救援行動のために飛行中、墜落。9名の隊員が死亡。遺体は軍葬にふされるためオーストラリアに送られ、シドニー空港では遺族とともに、ジョンハワード首相、インドネシアのユドヨノ大統領も参列した。
8.VIVIAN ALVAREZ事件/CORNELIA RAU事件
いずれもオーストラリアの移民局の不祥事。どちらも人名、どちらも女性。前者のビビアンさんは、事故で重症を負って病院に担ぎ込まれた後、身元がわからず、調べているうちに結局不法入国者ということでフィリピンに送られてしまった。フィリピンで4年病院生活をしたのち、正真正銘のオーストラリア国民であることがわかり、再びオーストラリアへ。コーネリアさんは精神障害を負っていてところ、これまた不法移民として収容所に送られていた。いずれのケースも本人自らオーストラリア人であることを告げていない(記憶障害、精神障害)にせよ、普通に考えたらどっかで分かりそうなものじゃないか?と思われる。移民局のお役所仕事のいい加減さ、無能さ加減に批判が集中し、ハワード首相も正式に謝罪を表明し、さらに政府から数億円規模の慰謝の措置がなされるようである。
この事件は結構よく覚えてます。だから、移民局とかビザ関係とか恐いんだよなーと改めて思ったのがひとつ。もう一つは新聞の特集記事を読んだときですが、どうしてこんなミスが起きたのかをかなり克明に調べていることです。当時の役所内部の事務取り扱いの流れやら、具体的にどの部署のどの地位にある人間が担当したのかとか、誰がボケだったのかとか、そこまで調べるか?というか、そこまで調べられるものなんだということに軽い驚きを感じました。日本のお役所仕事のミスを調べようとしても、こうはいかないですよね。情報公開といってもそんなに気前良く開示してくれないし、責任の所在が曖昧だし。また、損害賠償が数億円規模というのもすごいなと思いますね。こっちでもミスはミス、ボケはボケとしてあるのですが、いざそれが明らかになったときの解明と決裁は、日本的な「なあなあ」にはしない。まあ、そんなに快刀乱麻のようにビシバシやってるわけでもないけど、いつのまにかウヤムヤにされ、スズメの涙金で幕というトホホ度は日本よりも低いように思います。
9. テレストラ(TELSTRA)民営化問題
テレストラというのはオーストラリアの国営通信会社で民営化の途上にあります。日本のNTTみたいなものですね。
テレストラが民営化するのはかなり昔から決まっていて、実際問題殆ど民営化されているといってもいいです。ただ、民営化の途上というのは、政府保有株をまだ全部市場に放出しているわけではないからです(半分残ってる)。前の総選挙で勝って、これまで難関だった上院もクリアして、全てを売却出来るダンドリは整ったわけで、やれやれこれで一気に政府財政はぐっと潤うぞと思った頃には、株価が急落して売るに売れない状態が続いてます。現在この巨大会社を仕切っている社長は誰かというと、Sol Trujilloというメキシコ系アメリカ人です。彼は、ここで一万二千人のリストラを発表するなど意気軒昂なのですが、株価は落ちつづけ、8年ぶりの最低値をつけています。この株価低迷に、パパママ投資家達とともに、連邦政府もガックリきてます。当初の予定であった売却予定5ドル25セントを4ドル13セントまで下方修正することを余儀なくされてます。
そういえば、NTT民営化のときも、みんな行列作って株買ってましたよね。今は、一株50−60万円くらいですけど、いっとき一株300万円とかいってましたもんね。調べてみたら87年の10月に300万円をつけてます。下がれば下がるもんですな。ちなみに、日本のNTTはまだ政府が株を保有してますから、資本関係でいえば完全民営化にはなってません。NTT法によれば3分の1の株式は政府が保有していないとイケナイそうです。
10. TONY ABBOTT 父子再会物語
こんなもんが10大ニュースかあ?という気もするのですが、書いてあるから一応説明しますね。僕もそんなに詳しく知らなかったのだけど。トニー・アボットという政治家がいます。シドニー選出で、現在厚生大臣です。彼は若かりし頃(19歳)、当時の恋人との間で子供をもうけたのですが、まだ養育できないとのことで里子に出しました。ところが今年になって、はるか昔に手放した子と再会しました。その子はなんとABC(日本のNHK)の録音技術者としてキャンベラの国会で働いていて、実の親子であるとは知らずにこれまで何度も顔を合わせてきていました。ところが、実は親子であったということで、感動の再会になったわけです。しかし、これにはさらにオチがついていて、実際に鑑定をしてみたところ、実はそもそもアボットの子ではなかった。その昔の恋人が「あなたの子供よ」と言ったのは間違いで、実は彼女の当時のハウスメイトとの間の子だったという。
それだけっちゃそれだけの話なのですが、話として出来すぎているというか、リアルタイムに次々に衝撃の新事実が明らかになるというメロドラマ的展開でいっとき新聞(もっぱら芸能系の)を賑わせたわけです。ちなみに、彼は敬虔なカトリックであり、妊娠中絶には強力に反対していますが、それも昔の子供を手放した個人的経験が大きく影響していると言われています。しかし、今になって実は自分の子供ではなかったというのが明らかになって、なんのこっちゃみたいな話になってるわけですね。オーストラリアの政治や社会の展開において知っておくべきニュースかというと、全くそんなことなないけど、ゴシップ好きなオージーのオバちゃんと雑談する場合に備えての基礎知識のひとつという程度でしょう。
11. MAKYBE DIVA
マッカイブ・ディーヴァ。今年のメルボルンカップの優勝馬。メルボルンカップは、オーストラリア人にとって最も重要な国民的行事の一つ。国民の祝日に制定されているわけでもない普通の平日なのだが、その日の午後は事実上誰も仕事しなくなるという、クリスマス級の重要イベント。確か3期連続で制覇した、オーストラリア競馬史上に輝く名馬。日本の40歳以上の人にとっての、ハイセイコーやトウショウボーイみたいなもの。
12.オーストラリア、サッカー・ワールドカップ初出場
オーストラリアのサッカーチームの名前をサッカルーズ/SOCCEROOSといいます。これは知っておいてもいいかも。また、一般知識として、親しみと郷土愛をこめて名称の最後に「ルー」がつくものが多いです。いうまでもなく、カンガルーの「ルー」。オーストラリアはスポーツ大国なのだけど、メインに人気があるのがラグビーとクリケットで、あんまりサッカーは流行ってません。優秀な人材もサッカーに乏しいこともあり、ワールドカップ出場はこれが32年目にして初。昨今のサッカーブームで風向きが変わってきて、強くなってきたというのは日本と同じ軌跡を辿っているのでしょう。ワールドカップでは、日本と同じグループになりましたが、オーストラリア人の興味関心は「げげ、ブラジルとやるのか?」というところでしょう。これも日本と同じでしょう。事実上後発ですから、まだ日本の方が強いんじゃないかと思われるのですが、いざその気になったらオーストラリアの平均運動能力は高いですから、将来が恐いです。なんせ人口比あたり日本の8倍以上もオリンピックでメダルを取ってる国です(前回のアテネで日本のメダル獲得数37、オーストラリアは49)。アテネのときも、野球で日本に勝ってしまっています。オーストラリアで野球なんかやってる人、僕はほとんど見たことないのですが。実は調べてみたらオーストラリアにもプロ野球リーグが一応あるらしいです(Australian Major League Baseball (AMLB))。しかし、どこでやってるんだ?
以上が、サン・ヘラルド紙が挙げるベスト10(12だけど)のニュースでした。
しかしさすがタブロイド新聞だけあって、偏ってますね。 どーでもいいようなニュースが多い。個人的に多少補足しましょう。
クロヌラ暴動とその後
これもちょっと前に紹介しましたが、その後日談を。事態を重く見た州政府当局は、報復の報復と事態が泥沼化するのを避けるために、「そこまでやるか」という徹底的な対抗措置を取りました。勃発後わずか数日で州刑法を改正し、暴動に関する犯罪の法定刑を最長15年まで延長するとともに、警職法も改正し暴動鎮圧に関して警察官に多大な権限を与えました。検問や捜索権限強化のうえ、場合によってはエリアでのアルコール販売を中止させる権限まで付与しました。わずか数日で法律を変えてしまうというのは、日本の感覚では信じられないくらい早いです。100倍以上早い。オーストラリアというのは普段はのんびりしてますけど、いざやる気になったときの動きは速いです。それは、ストリートパーティーの実行やら、路上でエンコしてる車を他のドライバー達がワラワラと駆け寄って助けるときとか、殆ど右往左往せずに、各自がサ、ピっと的確に動く。
余談ですが、日本の法務官僚も実は優秀で、神戸地震があったとき、わずか2−3日で日本で現在施行されている全ての法律をスキャンして臨時特別措置を立案してます。当時僕も弁護士会の被災者法律相談ボランティア研修に出席して、法務大臣や法務官僚がやってきて分厚い資料とともに国の臨時方針を説明するのを聞きましたが、「やるもんだな」と思いましたね。何をそんなに臨時に決めるかというと、大災害が起きて機能麻痺を起こしているエリアの場合、当たり前ですが通常の経済活動や行政、法律活動は出来ません。だから、「ちょっとタイム」というのを正式にかける必要があるわけです。何を言ってるかというと、地震当日に支払期日がくる手形は不渡りになるのか、支払期日をどれだけ延期するのか、消滅時効、公訴時効などについての進行はどうするのかとか、一定以内に提訴せよと期間制限が定められている法的手続きは無数にありますが(逮捕後48時間以内に勾留、2週間以内に控訴・上告、各仮処分や民事執行における異議申立期間などなど)それらをどうするのか。救援活動における私有財産の損壊(隣の家を壊して被災者を救出するとか)、不動産関係の権利関係の一時凍結とか。もうありとあらゆる事態を想定して数十万条にのぼるであろう日本の全法律・全条文をスキャンして整合性のある統一的な方針をたてるわけですね。それを数十時間以内にやってのけるわけです。弁護士会有志も独自に研究をし、問題となりそうな事例についての報告を刻々とFAXで流してくれました。思うに、法律に限らず、日本のいわゆるエリートと呼ばれる連中の実務遂行能力それ自体は、人間離れして優秀だし、諸外国にひけをとるものではないです。しかし、政治的決断や、省庁間の縄張り争いなど、頭でわかったことを身体で実行するまでに時間がかかるのが日本の悪いクセでもあります。実際、神戸震災のときの国の対応は右往左往しており、人々の怒りと失笑を買っていたのは記憶に新しいところです。オーストラリアの場合、頭で考えたことを実行するまでのラグが少ない。
クロヌラ事件に戻りますが、ベタベタに法的に重装備したあと、次の週末には州知事から「出来るだけ海辺にいかないように」というお触れが出されるとともに(強制力はもちろんないけど)、2000名の警官がビーチサイドをパトロールしました。その甲斐あってか、何事もなく推移しました。僕はたまたま所用があってボンダイビーチに行ってたのですが、平和そのものでありました(上の写真を参照)。そして次の週末である昨日・今日には、逆に州知事から「皆、ビーチに行こう」と促されております。
この件について気がついたことがあと2点あります。暴動のコアにあるのは、フーリガン的な社会の不穏分子であるということです。白人優生主義やアーリア人優越主義などのヒットラー張りのネオナチ君もそうですし、あんまり深く思想的に考えてなくただ単に乱暴事が好きだという連中が、一部ではあるけどそれなりにいるということです。実際、オーストラリアの極右勢力を専門に研究している教授の話を新聞で読みましたが、本気でバリバリにネオナチ思想に共鳴して行動しているオーストラリア人なんか20人かそこらしかいない筈だと。殆どがそこまで深く考えているわけではなく、単にファッションであったり、粗暴なだけであったりという。だから、極右とかイデオロギー的に分類したものかどうか。要するに単に乱暴者なだけではないかと。しかし、この一連の州政府・警察の過剰なばかりのリアクションをみていると、公安当局は以前から目星をつけてたんじゃないか、これを機会に一気にクラックダウンしようとしてるんじゃないかって気もします。実際、家宅捜索などをして火炎瓶(英語ではモトロフ・カクテルという)の材料を押収したり、野球のバットを押収したりしています。また、日頃は1日1本売れるかどうかという野球のバットが急に150本も売れてしまい、スポーツ用品店が警察に通報したりもしています。というわけで、この事件は、オーストラリア社会の見えないところに潜んでいた反社会分子の存在を浮かび上がらせたという側面があります。
もう一つは、政府当局ではなく、一般市民のボランティア的な対応です。暴動当日に参加してしまったサーファーや有名人などから続々と謝罪発表がなされ、オーストラリア出身のハリウッド女優ケイト・ブランシェットやロックシンガー出身の国会議員Peter Garrett がビーチで相互理解とレスペクトを訴えてみたり、クロヌラなど市町村28団体が緊急ミーティングを開き、レバノン系の指導者や子供たちを招いて相互理解と親善の集会を営んだり、ビーチの監視人であるライフセイバーのトレーニングにレバノン系を始めとするいろいろなエスニック系の人々を招き、多くのカルチャーを持つ若者をライフセーバーとして育てようとしたり、各人がそれぞれの立場でボランティア活動をしています。このあたりの自発的な動きの活発さ、迅速さは、オーストラリアらしいなと思います。
CCT(クロスシティトンネル)騒動
クロスシティトンネルについても以前述べました。その後日談です。
鳴り物入りで開幕したCCTでありますが、蓋をあけてみれば閑古鳥。”Empty Avenue"なんておちょっくった仇名がつけられるくらい、誰も利用しなかったりします。理由の一つは、とにかく高い。片道3ドル50以上するというのは、シドニー市民の感覚には高すぎたのでしょう。僕は学校めぐりなどでボンダイとシティを往復するのに便利なのでよく使いますが、営業ユースじゃないかったら使いませんよね。
それだけだったら良いのですが、問題が生じます。というのは、トンネル開通にあわせて付近の道路の交通規制を変えてしまい、トンネルを利用せずに一般道で進むことが難しくなっているということです。特に東部方面からキングスクロスを抜けてハーバーブリッジへ北進しようとする場合、トンネルを利用すると非常に簡単になったのですが、トンネルを利用しないと事実上いけなくなってます。今までのルートでいこうとすると、ハーバーブリッジに抜けられずシティに突っこむことになる。さらにそれを避けようとすると、かなり入り組んだ裏道を抜けて走らないとなりません。この裏道走りを英語で"rat run"といいます。ネズミのようにチョコマカ走るわけです。そのため、それまで静かだった周辺住宅の住民から、車が急に増えたという苦情が殺到しました。結局トンネルを使ったけど誰も利用せず、ドライバーは裏道走りを選び、そのとばっちりを住民が食らうという結果になっていると。
大体なんでそんな交通規制をするんだ、もとにもどせばいいじゃないかという議論をしている過程で、新聞が州政府とトンネル会社(このトンネル建設には政府は一銭もだしておらず、全て民間コンソーシアムが収益事業として行っている)との間で秘密の協定があることがスッパ抜いてしまいました。コンソーシアム側もやる以上は利益を確保したいから、事業契約を締結するにあたり、州政府に周辺の交通規制をすることを具体的に要求し、それが契約内容になっているわけです。例えば、トンネルと並行して走るウィリアムストリートの走行車線を減少させるとか、そこからハーバーブリッジに行けないようにするとかです。そして、もしそれを州政府が破った場合は、莫大な違約金を払うことになっているという。「税金を一銭も使わずにインフラ整備」という鳴り物入りのプロジェクトだったこのトンネルですが、「裏でそんなしょーもない契約を結んでいたのか」と市民の怒りを買ってしまっています。
そして、これはその他のプロジェクト、たとえばウチの近所で延々と工事中であるレインコウブ・トンネルにおいても似たような協定が結ばれており、開通の暁には平行して走るエッピングロードの車線を減らすなどの取り決めがあるとかないとかで、またモメ倒しています。そんな折に、このトンネル工事で落盤事故がおきたりして、なんだかんで議論を呼びました。
思うに、トンネル会社の言い分もわからんではないです。巨費を投下してプロジェクトをやり、その収益部分が通行料だけである以上、投下資本の回収をより確実にしたいと思うのは人情でしょう。それに、シドニー市民としても、税金は一銭も使わずにインフラ都市整備をやろうという虫のいい話に乗る以上、通行料がそれなりに高くなったり、並行する一般道路が走りにくくなるのはある種当然ともいえます。多少はトンネル会社にも儲けさせてやらねば。結局、増税してまで税金で一気に作って通行料の安いインフラを整備をするか、高額の受益者負担で回収するか。いずれにせよ第三者のコンソーシアムも損をしてまで州政府に協力する義理はないわけですから、通行料なり交通の不便などなんらかのカタチで負担せざるをえないとは思います。
トンネル会社も危機感を抱いて、一ヶ月ほど「どうぞ使ってみてください」と無料開放するなどセールスに努力しているようです。そして、これは先日に開通したM7(リバプールなど西部方面を結ぶ大きなリンク道路)も、開通にあたって一定の無料お試し期間を設けています。これはトンネル会社にとっても頭の痛い問題ですし、州政府にとっても難題です。特に、新たに州知事になったイェンマ知事としては、前任者のやったことで自分が対応を迫られ苦慮しています。今回のクロヌラ暴動は、州政府が市民の関心を逸らせるために意識的に大々的に取り上げたのだと皮肉な見方も出ています。
さて、とかなんとか書いているうちにいい分量になってしまいました。
他にもNSW州知事ボブ・カーの引退と新知事モーリス・イェンマの就任とか、NSW州野党自由党党首のスキャンダルと自殺未遂、その背景にある党内での醜い派閥争いとか、挙げるべき事件はあります。また、本当は、インターネットで探してきた「2005年の世界の移民動向」とか、日本の10大ニュースでも中央ではなく地方の10大ニュースとか面白いネタを書こうと思っていたのですが、また別の機会にします。
というわけで、皆さま、メリークリスマス、そして良いお年をお迎えください。
次回のエッセイは、げ、1月2日か。というと元旦にまたシコシコ書くわけか、、、。うーん、ちょっと考えさせてください(^_^)。
文責:田村
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