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今週の一枚(2018/08/06)



Essay 887:最新のオーストラリア事情

 〜家賃下落、建築クラッシュ、若年失業問題
 〜それでも大多数の若者が「私の未来は明るい」とポジティブであるわけ
 

 写真は、つい先日マンリーに行ったときに撮ったもの。このお兄さんが気持ちよさそうだった。

 「自由」という概念を絵にしたらこんな感じなんだろうなって思った。ぽつんと孤独で、心細くて。でも自由というのはそういうことだろ。「依存心がない=自立」というのも同じ。その淋しさと不安の見返りに得られるのが圧倒的な自由。
 そして孤高のクライマーがそうであるように、そのとき自然はとても身近な存在になる。空と語らい、風に耳を傾け、海や山と話しこむ。太陽に励まされ、月に慰められ、、、太古より人はそうやって生きてきたのだ、と思う。

 ドバイとスイス話が続きました。まだまだネタはありますし、説明系の写真が多く、綺麗系な写真はまだ沢山残っているのですが、それらはヒマをみてブログの方に載せることにして、エッセイではそろそろオーストラリア本家の話に戻ります。

 今週は、直近数週で「ほお」と思ってスクラップしておいたいくつかの新聞記事を紹介します。最近のオーストラリアとシドニーの身近な経済(家賃とか賃金とか)の話です。

 いずれもけっこう曲がり角に来てるなーって思わせるもので、知っておいて損はないなというものです。ブログ(とFB)用にと思ったんだけど、溜まってきたのでまとめてエッセイで書きます。

 先に目次を。

01.シドニーの家賃がようやく下がり始めた件〜2005年以来13年ぶりの空室率
僕の場合(ミクロなケーススタディ)
02.オーストラリアの建築ブームの終焉
03.職探しにあえぐ若者
03-1.現在の若者においては、「貯金して家を買う」なんてもはや「馬鹿げた考え」になっている〜
04.検証〜若年者を取り巻く就職難と搾取構造
04-1.オーストラリアの若者の3分の1が職に困っている
04-2.ワーホリだけではない、生花ファームにおける地元オージーへの搾取とイジメの構図
05.オーストラリアの今の若者の意識調査〜それでもポジティブさを失わない彼ら
06.私見〜世界的にそうなってるし、そういう時代だということ

シドニーの家賃がようやく下がり始めた件〜2005年以来13年ぶりの空室率

Rental vacancies in Sydney hit record high(2018年7月17日)

 その昔の日本では不動産(地価)はひたすら上るもので、上がりすぎて「狂乱」なんて凄い言葉が使われてました。「狂乱地価」とか。シドニーでも、ここ10年(いや20年か)、もう「狂乱」という言葉を使いたくなるくらい上がってます。

 何度も書いてますが、僕が今年、「目指せ、家賃半額!」で大リストラ断行をしたのも、馬鹿馬鹿しくなったからです。なんか家賃払うためにアクセク働いてるかのような本末転倒ぶりに「これではあかん!」と真剣に思った。バン!とテーブルを叩いて思った。人生なんか攻めてなんぼなのに、ここままでは現状維持という守りに四苦八苦するし、そうなったら予定調和のジリ貧負け犬コースに入っていくぞと。

 日本での弁護士時代に手がけた自己破産案件(個人と企業)で学んだ。裁判所に提出する破産申立書に「破綻に至る経緯」という経過説明を本人から聞き取って書き起こすのですが、これがまさに生きた教材。どんなビジネス本よりも役に立つ。どこに分岐点があるのか?ほんのちょっとでも将来の選択肢が減り始めたらもうヤバく、何らかの行動が求められるのだと。破綻は、見て見ぬふりをするところから、「我慢や忍耐という名の逃避」をするところから始まる。


 前のAPLaCの事務所の家賃は週470ドルだったんですけど、これを540ドルに値上げするとかいう通告があって、それ読んだ瞬間に「冗談じゃねえよ」と、もう出ることを決意しました。即決。で、今の週255ドルに移ったわけですが、狭くはなったものの快適度そのものはむしろ上がった。こうなってしまえば、むしろ「今まで何をやっていたのだ?」と思うくらいです。貯金取り崩しモードだったのも、反転攻勢して貯蓄モードに入ってます。

 「やってらんねーよ」と思うのは僕だけではない。ここ数年シドニーからエクソダス(大量人口脱出〜旧約聖書の出エジプト記の言葉から転用)が起きて、どんどん安いエリア(もっぱらQLD州)にゲルマン民族大移動的な状況になってます。

 と同時に、シドニーではここ数年の建築ラッシュで供給過剰。もう阿呆みたいにビル建ちまくりでしたもん(まだ建ててるけど)。林立するクレーンを見ながら、最初は僕も、「こんなビルばかり建ててどうするんだ、オーストラリアっぽい閑散としたのどかさがまた失われていく、ああ嘆かわしい」とか思ってました。でもこうやって供給を増やしていかないと家賃は上がる一方なのだと気づいてからは、現金なもので、建てろ〜、もっともっと建てまくれ〜と声援を送る側に廻ったのでした。

 その甲斐あってか、ようやく供給過剰になりつつあり、それに加えて人口脱出でシドニーの人口伸び率が鈍化したこともあってか(毎週1600人づつ増えてるとか言われた)、家(↑増える)、人(そんなに増えない)により需給バランスが適正化していった、だから価格も下がってきたという、まるで経済の教科書通りの展開です。

 さて、この記事に出てくるSQM Researchというリサーチ会社の報告によると、2018年06月期のシドニーの空き家率(vacancy rate)は、5月期の2.5%をさらに越えて2.8%にまでなった。これはSQMという会社が統計を取り始めた2005年以来、最高の数値らしいです。過去13年でもっとも空室率が高くなった=借り手側に有利になった。

 その理由は今述べたとおりです。その反射なのか、ブリスベンの空室率は去年の3.6%から3%に下がっている。つまり借り手が増えている(シドニーからの国内移民の増加によるのか)。

 ちなみにパースの空室率は4.1%、ダーウィンは3.5%。それでもパースの空室率は去年の5.4%からみれば改善されてます。パースの事情は書かれてませんが、パースは鉄鉱石バブルに踊って供給過剰になってたたのが、徐々に平均化されていってるのかもしれません。メルボルンとアデレードの空室率はシドニーよりも悲惨で2%以下。キャンベラとホバート(移住先として人気高し)が最悪で1%以下です。

 要は、人が集まる→重要が高まる→家賃上がる・建築ラッシュになる→うんざりして人が減る&建てすぎて値崩れ起こす、というとても分かりやすいプロセスなのでしょう。

僕の場合(ミクロなケーススタディ)

 以上は一般記事なんですけど、これの僕個人のミクロデーターを付加します。
 470ドルで借りてて、540ドルに値上げするから出ていった前の事務所ですが、5月前半に退去したにもかかわらず8月現在、まだ広告が出ています。全然借り手がつかない。しかも見てると、従来の不動産屋名義での広告では460ドルまで値下げしているんだけど、大家さんが不動産屋を変えたのか、見慣れない新興の不動産屋の広告も同時掲載されていて、これが強気に490ドルになってます。

 不動産広告サイトであるAllhomesDomainどちらにおいても、僕が使ってた旧APLaC事務所が掲載されており、しかも460ドルと490ドルの2つの記事が掲載されているという、摩訶不思議というか、いい加減な事態になってます。まあ、昔のエージェント(不動産屋)が消し忘れているのか、けっこうほったらかしなんですよねー。皆さんも家探しのときは気をつけてね。ぬか喜びすることあるから。


 
 一番上が従来の不動産屋の広告、それを新しい不動産屋が引き継ぎ、さらにかなり室内をきれいに仕立て直して490ドルに値上げして出しているってことでしょうかな。しかし、あの不動産用の写真って詐欺ですよね。ほとんど魚眼レンズのような広角レンズで撮るからめちゃ広く見える。現物みたら「え、あれ?」と絶句するという。

 いやあ大家さんもかなり手をいれましたねー。一番下の広告の写真って、僕の居室にしてた壁も天井の真紅!で(僕は「ベルサイユの間」と呼んでいた)、窓もろくすっぽ閉まらず、床もほとんどコンクリート打ちっぱなしだったのが、まあ小奇麗にペイントし直して、窓も直して。だから490なんだろうけど、でも、この広告、僕が日本から帰ってきた一ヶ月前からあったような気がする。つまりそれでもこの一ヶ月くらい借り手がついていないということ。

 さらにもっと凄いのは、
 

 これは不動産広告の検索結果のバーっと出てくる物件をキャプって、並べ直したものですが、左側は僕の前の家の広告です。全部315番というビルディング番号が同じ。つまりあの建物全体の他の空き部屋も示してます。これによると僕が借りてたUnit3(3号室)のほかに、2、4,7、9号室が空いたままであると。大家さん可哀想〜って思ってしまうわ(いい人だったから恨みは全然ないのですよ)。

 右側はまた別の物件ですが、6、7、10、11、13号室が同時に空いている。空室率2.6%とかいうレベルじゃないよね。50%とか70%くらいの空室率です。まあ、この不動産サイト、前述のようにリストから下げ忘れている可能性もあるから一概には言えないでしょうが、それを割り引いても厳しいものがあるとは思います。

 相場からみてちょい高いなって思われたら、もう全然埋まらない。1年前なら多少高くても「背に腹は代えられない」的に皆も借りたし、埋まった。でも今は待てば安い物件が出てくるか、あるいは値下げしてくるかもしれないから、そうそう飛びつかないってことでしょう。

 一昨年のLane Coveからの引越し準備から継続的にGlebe付近の物件は見ているので、いつものシェア探しのサポートと同じで、「いつも出てるな、ここ」「まだ決まらないのか」とか自然と覚えてしまいますね。もう決まらないのは数ヶ月くらい人が入らない。

建築ブームの終了クラッシュ

Construction set for its biggest fall since the global financial crisis
 シドニーにおける家賃の低下傾向が需給バランスによって生じているの出したら、その需給ギャップを生み出している大本である売買市場、さらにその上流である建築市場はどうか?といえば、自ずと推測がつきます。

 供給過剰(建て過ぎ)なんですから、これ以上建ててもビジネス的に旨味がない、儲からない、じゃあ建てるのをやめようかって話になるのは必定であり、案の定、建築ブームの終焉が予想されています。

 記事では BIS Oxford Economics(世界的な経済リサーチ会社みたい)のレポートを紹介しており、かなり大胆な予測をしています。なにが「大胆」かというと、オーストラリアの建築業界は、2008年のリーマン・ショック以来最大の下げ幅=2020年までに23%を予想している点です。

 これ凄くないですか?「あと1年半以内にほぼ4分の1減る」って、こんだけ短期間にこんだけ下がられたら普通の企業だったら潰れますよ。

 もう少し細かく見ていくと、特に減るのが、投資用の高層マンション物件らしいです。「high-density (高密度)dwelling(住宅) construction(建築)」であり、「 which is set to halve over the next two years」だから、この先2年間で半減すると。半減というのも凄いですけど、でも作ってもろくに儲からないなら、半分はまだ作り続けるって方がすごいかもしれない。

 とはいっても非居住物件(ビジネスビルなど)は現状の記録的高水準を維持するようです。しかし、圧倒的な住宅の下げに押されて、トータルでは下がる。

 そして波及効果が生じる。「"Along with its multiplier effects on industries such as construction, manufacturing and retailing, the Australian economy needs other investment drivers to support job growth and employment.」(これに伴う複層的な効果が関連業界に波及するだろう=例えば建築、製造、小売。オーストラリア経済は、現状の経済成長と雇用をキープするためには、他の投資先を探す必要がある)。

 この傾向は単に需給バランスだけではなく、ほかの要因もある。原文は「A key factor in the residential slowdown has been tougher regulation by the Australian Prudential Regulation Authority (APRA) to curb investor lending, while the Foreign Investment Review Board (FIRB) and tax office has been clamping down on overseas buyers.」になってて、当局による貸付基準の厳格化(最近オーストラリアで特に問題になってる件で、銀行などが儲けるために貸してはいけない人達に貸してる傾向=日本のバブル時やリーマンショックの引き金になったアメリカのサブプライムローンも同じ=の締め付け)。つまり家を買おうと思っても、今までのように銀行が貸せなくなったこと。もう一つは中国・インドの爆買いのように、海外からの不動産購入の規制強化、さらに税務署における海外投資家への締め付けなど。

 まあ、早い話が、これまでは作るそばからガンガン売れた。買うのは値上がり期待のオーストラリア人もいれば、海外からの投資家もいる。今は世界で金余りでどうしようもないから(景気がいいわけではなく、景気が悪いから日銀など中央銀行がガンガンお金を放出して、点滴のように維持している)、世界のファンド、銀行、保険会社など機関投資家は、鵜の目鷹の目で投資先を物色しまくってます。ちょっとでも良いとなると、それっとばかりに世界から資金が集中してアホみたいに値段が上がって現地住民がひどい目にあい、ちょっとでもダメになったらそれっとばかりに引き上げていくから巨大クラッシュが起きて、また現地住民がひどい目にあうという。97年のアジア経済危機や、マレーシアのマハティール首相が「国際山賊団」と叫んだ頃と構図は同じ。

 はっきり言えばこれまでが異常。それを復元機能が働いて徐々に正常化しているわけで本来は喜ばしい話だと思います。が、調整においては、ハードランディングして影響を受ける人も多い(てか、何らかの形で全員受ける)。

 この予想されている住宅着工件数の変化は、 New South Wales falling 26 per cent over the next two years, Victoria (-29 per cent), Queensland (-15 per cent) and the ACT (-27 per cent)ということで、一番ハードになりそうなのがVIC州(メルボルン)でこの先2年間で29%下落、次にACT(キャンベラ)の27%、シドニーのあるNSWの26%、QLD州はまだマシで15%(それでも下がる)。

 Australia's foreign real estate investment boom looks to be over. Here are five things we learnedという関連記事に出てくるグラフ(年間の住宅着工の許可件数)を示しますが、


 もう一目瞭然ですよね。2013-14年頃からイケイケが始まって、「笑いが止まりまへんな〜」って調子コイてたわけですけど、去年あたりからドボン!であると。


 じゃあこの先どうなのか?って、それはまだわかりません。経済は複雑ですからね。下がり始めたら、これまで諦めていた住宅購買層(ファーストホームバイヤー)が復活するかもしれないし、QLDやタスマニアに移住した人も、行った先でも同じことかと思ってまた帰ってくるかもしれないし、そのあたりは需給バランスであり、「神の見えざる手」(アダム・スミス)によるでしょう。

 身近なレベルでいえば、これで多少なりとも家賃が安くなるなら、ワーホリさんたちのシェアの値段も下がるかもしれないし(実際、ちょい下がってる感じはするな)、また人が減るなら交通渋滞や駐車場所競争も多少は緩和されるかもしれない。でも、もっと大きな波及効果で、経済全体が下がるなら、首になるかもしれないし、時給が下がるかもしれないし、労働関係のビザが出ないかもしれない。投資がうまくいかない反映として、自動車など保険の掛け金があがる(保険会社=機関投資家だから儲からないと穴埋めのために掛け金をあげる)。ものすごーく複雑だし、人によっても違うでしょう。

 

03.職探しにあえぐ若者

 

03-1.現在の若者においては、「貯金して家を買う」なんてもはや「馬鹿げた夢」になっている


 「お金を貯めて家を買う」なんて今の若い人には「気違いじみた考え(出来るわけないだろ!)」だという記事ですが、その根拠がいろいろ示されています。

 トリプルJというFM放送局の「What's Up in Your World survey」という調査によると、42%の若者が親元に住み、フルないしパートタイムで働き、大多数が5000ドル(45万くらい)以下の貯金しか持っていない、という傾向が出てます。

 それに加えて、28%の若者が5000ドル以上の借金を抱えている。この借金にはHECS(奨学金)を入れてないものである。もっとも41%は無借金ではあるのだが。

 「Centre for Future Work」という機関の Dr Jim Stanford (博士)は、「大多数の若者にとって、お金を貯めて家を買うなんて、馬鹿げた夢(ridiculous dream )でしかないのです。大まかにいえば、殆どの若者はお金を持っていませんし、そしてそれは驚くべきことではない。なぜなら、生活費の上昇、特に大都市の場合は「天文学的(astronomical)といいたくなるくらい上がっています。そして、住宅ローンを返済したり、貯蓄ができるような堅実な仕事(stable job)を得るための手立てが事実上存在しないのです」といいます。

   その他、アニカさんとかライアンくんなどの個々人のコメント(私のダッドは23歳でアパートを買ったとか言ってるけど、そんなの今ではありえないわ、とか)が挟まれ、スタンフォード博士はこうまとめてます。「今の若い人は、いくつもの仕事を掛け持ちで働いてます。彼らは、現在の不安定で無秩序になっている労働環境のモルモット(guinea pigs )のようなものです」。

 さらに続いて「gig economy, the casualisation of many jobs, as well as rampant wage theft, have created an impossible situation for young people」と言ってます。

 ここは、ちょい解説が要るけど、gig economyというのは日本語で言えば「非正規雇用」です。「ギグ」というのは、ロック音楽でよく使うけど、ライブ・コンサートのことで、要するに「やったりやらなかったり」で、日常的に継続してやるものではない。テンポラリーに必要があったらやるけど、必要がなかったらやらない。そういう経済ということで、必要があったら人手を雇い、そうでないからあっさりクビ(にするまでもなく呼び出さなければ良い)。

 rampant((不正なことが)横行する) wage(賃金) theft(泥棒)で、要するに「搾取」です。

 つまり非正規雇用と職の不安定、そして搾取によって、オーストラリアの若者たちの環境は「不可能状況(impossible situation )」なのだと。

 「彼らが親元にいるのだって、そうしたくてそうしているわけじゃないのです。過去に我々年長者がそうであったように、社会が若者の自立をサポートするような環境(賃金など)ではないからです。

 でもって、このスタンフォード先生、いいこと言ってるんですよ。
 Dr Stanford urged politicians and employers to make regulatory changes to give young people a chance at stability. "Young people in Australia are the best skilled generation in history... they've got ambition, they've got innovation, and creativity," he said. "If we gave them half the chance - decent jobs, decent wages, decent security - they'd be out there blazing a path."

 政治家や雇用主は、若い世代の不安定な状況を解消するべく施策を講じるべきだ。今のオーストラリアの若者というのは、歴史的にみても最もスキルが高い人達なんだし、彼らには野心もあるし、改革的でもあるし、創造力もあります。もし、彼らに半分でもチャンスをあげたら、それはより安定的な仕事、高い賃金、生活の保障などですが、そうすれば彼らは燃え盛る小径を抜け出してこれるのです。

04.検証〜若年者を取り巻く就職難と搾取構造

04-1.オーストラリアの若者の3分の1が職に困っている

 では、本当にそんなにオージーの若者が仕事に困っているのか?ですが、この種の記事は沢山あります。この記事は2017年03月だから1年前の記事なのですが、要旨を抜書しておきますね。

 オーストラリアの若者の失業率13.5%、就職難18%であり、過去40年で最悪の状況にある。
 全体の失業率が8.6%なのに比べれば突出して高い。

 若年(15-24歳)の失業率の高さはリーマンショックから一貫して高いままである。
 過去15年で彼らが望む労働時間と実際の労働時間のギャップは開く一方である(望むほど働けない)
 2014年段階で、学生ではない若者の39.3%がカジュアルワークであり、35.8%がパートタイムで働くことを余儀なくされている。

 これは日本でいう「非正規雇用の一般化」として語られる問題と同じ根っこがある。私見は最後にまとめて書くけど、世界的に「そういう経済モデル」になっている。そんなに人が要らない、要るとしてもテンポラリーにパッチワークのように補充すれば足りる。またそのくらいでないと経済環境の激しい変化に対応できないからこうなっているのだと思われます。

 この種の記事は沢山あります。
 いちいち紹介するまでもないので見出しだけ上げておきます。クリックしたら記事本文にいけます。


04-2. ワーホリだけではない、生花ファームにおける地元オージーへの搾取とイジメの構図

 これは今年(2018年)の5月の記事ですが、Lynch Groupというオーストラリアの生花の大手(南半球最大規模)卸問屋みたいな会社が、労働者に対してブラック過ぎるんじゃないかと問題になってる記事です。そして、(論点がずれるだけど)ここが日本と大違いだなと思うのは、大手スーパー三者(Coles,Woolworths, Aldi)がこれを問題にして、調査を開始していると。

 要は、ノルマが厳しいとか、「人して扱われていない」とかその種のことで、日本ではある意味ありふれた光景ではあります。でも、オーストラリアでそんなことやったら、まあ、許されるもんじゃないよ。また従順に我慢するような人達でもないし。

日本とは比較できない件

 あのー、日本との比較なんですけど、日本は今未曾有の売り手市場になって、どこも人手不足でってなってるけど、本当は日本と比べようがないです。日本の普通の労働環境をそのままこっちに持ってきたら、それだけでもう新聞沙汰になるでしょう。おそらく残業代をちゃんと払わないという時点でもう終わってるでしょう。

 また、こちらで職場における「いじめ」と言われているものも、日本においては割と普通の話で、人間関係になんらかの人格的な支配服従っぽいニュアンスが出てきた時点でもうアウトでしょう。僕がColesでバイトしてても、いくら新米で下手くそだろうが、いくら英語がダメだろうが、だからといって人格的に傷つけられるようなことを言われたことは一度もないです。常に対等であり、対等以外のあり方はないって感じ。ここは日本にいるとわかりにくいだろうけど、上司と部下も、野球におけるポジションの違いみたなものでしかない。でもって、先日、Coles内でイジメがあったらしく(僕らの感覚ではおそらく普通な感じの叱責や罵倒くらいか)、全社員向けに緊急SMSが送られ、緊急に作成された教育ビデオを見るように促されたという。過剰反応ってくらいの大騒ぎになってました。

 比べようがないというのはその点で、日本のような職場は、こちらではそもそも職場としてはカウントされないかもしれない。就職率などの雇用統計のなかに、暴力団や半グレ集団への加入数がカウントされないのと同じように。そんな職場でいくら就職がよくたって意味ないだろ?って話です。

 またカジュアルとかパートタイムが多いし、生活厳しいとかいうけど、時給でコンスタントに20-30ドルは出るし、スーパーという厚生年金(全額会社もち)はカジュアルであってもつくし、カジュアルはダメだけど(だから時給が25%高い)、パートタイムだったら有給休暇(消化率はほぼ100パー)も有給の病欠もつきます。もう全然違うんですよね。だから単に食っていくだけだったら、週3日くらい働けばけっこういけてしまう。カジュアルでがっちり1日8時間やれば200ドルくらいいきますし、週3稼働で600、4週で2400、月単位にしたら月給手取り(差っ引かれるものが日本とは比較にならないくらい少ないから、ほぼ全部手取りになる)で20万以上になる。週6だったらその倍(40万)、日曜などはペナルティ(ドンと割増賃金)になります。日本の感覚でいえば楽勝過ぎるって感じ。

 ただ、ちょっといい家を買おうとおもったらすぐに1億円レベルになってしまうこちらでは、そんな月収20万とか40万なんかではお話にもならないってレベルで議論されているわけですよ。だから絶対基準では比べようがないです。

 しかし、若い人たちが割りを食っているという変化のベクトルそのものは日本と同じであり、世界(先進国)共通なので(絶対水準が国によって違うだけで)、書いているわけです。そういえば、スイス旅行のときも、若い人達が、なんかケナゲっぽいというか、大変そうに見えましたねー。

05.オーストラリアの今の若者の意識調査〜それでもポジティブさを失わない彼ら

 なお、03のスタンフォード博士の記事の元ネタとなったトリプルJの調査がまた面白いです。こういう調査というのは、お役人の固いところでやるよりも、FMとか柔らかいところがやったほうが正確に、リアルにわかると思います。それに国の統計なんかアテにならないしねー。

 そこではセックスライフやLGBTのカミングアウト率とか、ドラッグ経験とか、違法ダウンロードとか、役人には出来なさそうな(上司の決裁おりなさそう)統計があって面白いです。

 ちょこっと紹介しますと、
 ↑これはオーストラリアの若者が「何考えているの?」ですが、最初の部分が凄い。

 自分の将来についてポジティブがネガティブかという問いかけに対して、こんだけ悲惨な環境に置かれていながらも、それでも「超ポジティブ」が29%もいるし、「普通にポジティブ」が43%もいる。合わせて72%、約4分の3の若者が、「私の未来は明るい!」と思ってるという点です。

 このあたりがオーストラリアの良さというか、明るさというか、滅多なことでは希望を捨てないというか、それが社会や雰囲気を良くしているんでしょうねー。


 中段は、結婚したいなーというのが、これも4分の3いるということです。ここでの結婚は、書いてないけど言うまでもなくLGBTも含むと思われます。

 そして興味深いのは、「今若者にとってもっとも重要な問題は?」で、一位がなんとメンタルヘルス(38%)、次に住宅(27)、三位に仕事(16)、地球環境(気候変化)が11%、ドラッグ5%、進学2%、犯罪にいたってはゼロです。

 面白いのは、将来は明るいと思ってるくせにメンタルヘルスをすごい気にしているということです。
 これはいったいどういうことか?
 矛盾なのでしょうか?いや、矛盾ではなく、常にポジティブであろうとするが故に、そのあたりの自分の精神状態については常に気になるのではないかな。もともと健康なスポーツマンが人一倍健康に気を使うような感じ?
 あるいは(仮説その2)、そんな4分3が脳天気にポジティブになれるような状況ではないんだけど、頑張ってポジティブにおもいつつも内心では不安があるのかもしれない。そして「将来が不安だ」と思うのではなく、「将来が不安に思えてしまう自分のメンタルが不安だ」ということになるのかな。

 あるいは(仮説その3)、最初の「明るい」の対象は「私の未来」であり、メンタルヘルスが問題だとされたのは「今の若者」一般であって対象が違います。ということは、「俺は大丈夫だけど、周囲を見てるとヤバい奴が結構いるよね」ってことかもしれません。

 さらにあるいはこうも言える(仮説その4)。客観状況がハードであるなら、主観でクリアするしかない。「住みなすものは心なりけり」的に、「足るを知る」的に、前の世代に比べればジョブ的には恵まれないんだけど、それでもハッピーでいられるためには、強靭でしなやかな感性と精神が必要であり、だからこそそのあたりが重大な問題として意識されているとか?いずれもアリでしょう。

 まあ、ぶっちゃけて言えば、上の世代に比べたら絶望的とはいいながら、前述のように日本の感覚からみれば、まだまだ余裕はあるのであって、絶対レベルが違うという点もあるでしょう。また、人生=仕事なんてのは日本の特殊な信仰(と思うよ)であって、仕事の存在意義がそれほど高くはない。仕事はしないかボチボチだろうが、ボランティアは懸命にやるとか、よき家庭人やよく趣味人であるという生き方が普通に許されている社会においては、はじめから人生の優先順位フォーマットが違う。そういった大きな背景要因もあるでしょう。

 実際、このアンケートでも、重要度では、仕事よりも住宅が前に来てますからね。まず人生の基盤となる柱(住まいや資産)が欲しいってことなんだろうけど、仕事はそれを得るための手段に過ぎないと割り切っていて、仕事それ自体が独自の価値を持つ(日本みたいに)のではない。仕事と地球環境とかいい勝負(16対11)なのも凄い。自分の就職を心配するのと同じくらいの強さで地球環境を心配してるわけで、そう思えば、気のいい奴らなわけです。

 でもって、進学にいたってはわずか2%も意外でしょう。上の世代が教育が大事で、資格が〜とか騒ぐほど、当の若者はそう思ってないことなのかな。その種の学歴などが実は役に立たない、そういう問題ではないってのは現場にいるから分かるのかもしれない。また大学進学率の上昇で、今の若者は(日本もそうだが)、歴史的に見れば最高水準にスキルが高いわけです。だから余計に幻想を持たないというのもあるのかもしれないですね。まあ、オーストラリア人の場合、彼らは望めば進学はできますから、プレッシャーにはなってないってことにもなるでしょう。ちなみに犯罪にはついては誰も筆頭にカウントはしてない。


 ↑次は、その地球環境についてですが、過去12ヶ月で環境のために何か良いことをしましたか?(何かを変えましたか?多分自動車よりも自転車を活用するようになったとか、ボランティアはじめたとかそんなことかな)?で、男56%、女78%がイエスと答えてます。かなりの率だと思いますよ、これ。

 そして、大多数の若者が、自分の未来についてはポジティブに明るいと思ってるくせに、地球の未来については大多数が暗いと思っている。

 さらに、政治に関して言えば、今の政治家が若者の利益のために働いているか?という問については、たった7%しかイエスと答えてないです。もう、ほんっと信じられてないのね、政治家。


私見

 もう長くなったし、あんまり書いても読んでもらえなさそうですな。
 でもちょびっとだけ書くならば、今回紹介した記事、家賃下落〜建築終了〜若年問題と意識、なんでそうなってるのか?というのは、わりと一元的に説明できるような気もします。

 キーワードは「流動化」というか、タバコの煙が拡散していく「ブラウン運動」ってあるけど、そんな感じかな。世界のありかた(テクノロジーや経済も含めて)が、緩んできている、よく言えば自由闊達というか、バラバラというか、そんなにおしくら饅頭のように集団で固まらなくても良くなってる。かなり少ない人数のユニットでやっていけるようになってるんじゃないか。

 それはちょうどコンピューターにおいて、昔はIBMのメインフレームのように小さなビルみたいな巨大な本体を作り上げてたのが、ネットワーク分散処理すれば足りる、さらに中古のパソコンを百万台ネットワークでつなげちゃえばいいじゃんってGoogleが出てきたように、「大きなまとまり」である必然性が薄らいできてるんだろうなーって思います。

 家賃下落も、その前には家賃高騰があったからこそです。じゃなんで高騰したのか?といえば、オーストラリアへ経済的に富裕な移民が殺到したというのが一つ。皆、バラバラに個人単位で動くようになってきている。中国でも頑張って成功したら、国家政府からむしられる前に逃げたいでしょう。それが海外投資になって、シドニーの不動産上昇になって、家賃の上昇になっている。

 逆に言えば、大きな集団に所属してそれで守ってもらおうとは思ってないってことです。まあ、中国の場合は古来から民衆は国家にいじめぬかれてきたから、日本人とは違ってそういう集団忠誠心はないでしょうけど、それにしても個々人の甲斐性で動けるような環境になってきている。

 企業だって、アップルのiPhoneがそうであるように、何もかも自分ところで作るわけではなく、単に設計図というかソフトを作り、あとは世界にアウトソーシングして組み立てる。大事なのは最初の発想とソフト技術、あとは全世界に売るための販売戦略であって、巨大な工場に大量の職人を雇い入れるような大帝国を作る必要はない。むしろそれをせずに真逆に分散化させていったから成功したのでしょう。

 これが若年失業問題にもかかわってきて、そんなに人がいらなくなった。この記事では大事なことにように言われているステイブル(stable 堅実で安定的な)な仕事が得難くなったのは、ステイブル=長期にわたって固定的な物事というものを企業そのものが嫌うようになってきている。そんなに図体でかくしたら身動き取れなくなる。カンバン方式のように、必要なものをジャストタイムで必要なだけ仕入れればいい、それは人材においても同じだと。そして、それが出来るだけのテクノロジー的な環境も整備されてきている。日進月歩するAIにしてもそうだし、ネットによる世界のフリーランサーに外注に出す環境もそうだし。

 だからここでいってる若者が苦労しているのは、まだまだ社会の大半が、長期的に固定して大きな集団で〜というオールドエコノミーのモデルによってるからでしょう。でも古い経済モデルがだんだん色あせて流行らなくなってるんだから、そういう人生設計モデルそのものがもう成立しにくくなってると思います。

 でね、オーストラリアの若者の大半が、俺の未来は明るいってポジティブなのは、確かに旧来の経済モデルには乗れなさそうだけど、それはもうしょうがないなって思ってる節もあるのでしょう。過渡期なんだからしょうがないよと。それに、いずれ消えていく旧型に頑張って乗っても、ズブズブ沈んでいくだけだったらそんなに意味もないよなって感じ。ただ、目先の生計においては、家賃が高いぞって不満はあるわけで、だから仕事よりも家の問題のほうが上位になるでしょう。資産形成もできないし。

 でもってメンタルが最上位にくるのも何となくわかるのですよ。なんで分かるって?僕自身がそういう発想だからです。仕事とか、集団とか、ステイタスとか、資産とかで自分のメンタルを安心させよう、充足させようとはサラサラ考えていない。なぜなら、そういった固定的なものはシガラミとか不自由とか牢獄的なものにすら思われるので、要らんわって。だけど、そういった物質的な裏付けが全然なく、それでメンタルを維持しようとするのは、拠り所がなにもないだけに難しい。

 ヒーリングとか、癒やしとか、メンタル的なものが過去20年で普遍化してきてますが、関係あるんだと思いますよ。自由になってきて嬉しい半面、不安でもありますからね。「大船に乗った気持ちで」っていうけど、もう「大船」なんか無いし、自分で頼りなげに波間に浮かぶしかないし。でも、大きな組織の歯車忠誠心で充足するやりかたではなく、神出鬼没な遊撃隊のような感じで自由に動き回り、その神出鬼没さのなかに生きがいややりがいを見出していくという。そこでは、軍艦マーチのような集団忠誠音楽ではなく、パーソナルな安定と平衡こそが大事になるという。

 オーストラリアの今の若い人(若くなくてもそうだが)の経験を、僕もたまたま追体験してるような感じですけど、複数のバイトやって、クリーニングを皮切りに、Coles(スーパー)でもやって、先週から第三のデリバリーのバイト(UBERみたいな感じだけど、ちょっと違う)やってます。そのあたりは又別の機会に書こうと思いますが、面白いですよ。もともとはサーバーやドメイン変更、SEO問題に端を発したのですが、それも時を経過するほどに復元してきてるから、別にそこまでしゃかりきになってバイトやらんでもいいんですけど、今の世界経済というのを自分で体験してみたいっていうフィールドワーク的な興味が大きいです。すごい見えてくるものもありますしね。やっぱこういうのって自分でやらなきゃ分からんですしね。

 本業は本業でライフワーク的にやる。だけど生計のための小遣い稼ぎ、日銭稼ぎはそれはそれとして用意しておく。企業が使い捨て的に人を使うなら、こっちも企業を使い捨てにできるように、いくつもいくつも用意しておく。フリーランスとかいっても全然儲からないし、一つだけだったらどうしても主従関係みたいなものも出来てくるし、そこから干されたら死ぬしかないなら、もうフリーでもなんでもないし。だからチャネルは複数持っておいたほうがいいし、常に仕入れておいたほうがいい。また、全然やったことない業界だろうがなんだろうが、"I'll try!!"でゴンゴン入っていくメンタルの強さとかも要るでしょう。

 一方では旧型経済の断末魔というか、変遷期というのは、結構エグいんだろうなーと思います。今の日本が典型的だと思うけど、なんでも大企業優先、既得権優先みたいになっていく。それも原発ムラみたいに一番将来性が無さそうなところほど、必死になって現状維持をはかろうとするから、どんな手を使ってでもやろうとするでしょう。その不正がどうのって問題はありますが、それ以上に、そこまで必死になってやるということは、ほっといたらヤバいってことの裏返しでしょう?政治的に優遇されている既得権、マスコミなんかも典型的だけど、もう絶滅危惧種でありカウントダウンが始まってるからこそ、権力に媚びて媚びてなんとかサバイバルをはかると。あそこまでやるということは、それだけヤバいということでしょう。

 このように過渡期においては、いずれ消えゆく勢力が火事場泥棒のように最後の私腹肥やしにせっせと精を出し、我が身を脅かすような新興勢力(それこそが新しい時代を導いてくれる大事な部分なのだが)をせっせと潰しまくり、未来の可能性を一つづつ壊し、将来の蓄えもどんどん持ち逃げし、ぐっちゃぐっちゃになっていくだろうし、現になっている。ビデオの早送りとかでビーッとやりたいくらいですね。

↓目を凝らしてみると、先程のお兄さんが真ん中あたりにぽつんといますよ
 

文責:田村


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