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今週の一枚(2018/02/26)



Essay 866:静かに進行していた日本人の「寅さん」化

 最新の外務省の「海外在留邦人統計」から

 写真は、Fishmarketから臨むANZAC Bridge

外務省の「海外在留邦人人数調査統計 平成29年要約版」

 永住権のページの改訂で資料探しをしているとき、外務省の最近のレポート「海外在留邦人人数調査統計 平成29年要約版」という資料をみつけました。外務省のサイトのこのページにいくとダウンロードできます。

 136ページもあって長いのですが、これが中々面白い。一人で「ほお」とか言ってないで、みんなでシェアしたいと思います。

 最初にコトバの説明として、
 「在留邦人」=在留届を出した人。3ヶ月未満の短期(観光など)はカウントしない
 「長期滞在者」と「永住者」とにわける

まず全体の動向と数 

 17ページに書かれてます。引用するよりも該当箇所を画像化して貼り付けておきます。



 これでわかるのは、日本から海外に出ていってる人は約134万人であり、増えているということ。
 実数でいえば、長期滞在者(留学や企業駐在)65%:永住者35%ですが、伸び率でいえば永住者の方が二倍以上の伸びで増えている(増加率1.2%に対して2.5%以上)。

 ちょっと意外だったのは、僕も含めて海外永住者という、寅さんみたいな「気まぐれ風来坊」なんかそんなに居ないだろうと思ってたんですけど、実は3−4割はそう(寅さん的な)であり、また留学や企業駐在よりも伸び率が高いということです。

 留学数は頭打ち(若い人の所得が減ってるし)だけど日本企業は海外市場に活路を見出すから増えるのはわかるのですが、海外永住というのがこんなに増えているとは思いませんでした。いつも「おいでー」とか呼びかけているのですが、本当に来てるのですね。実は皆さん脱出しているという。静かに進行している日本民族の寅さん化。

 なに騒いでるかといえば、どこの国であれ、永住権なんかおいそれと取れませんし、年々難しくなってると思います。留学はお金さえあれば実現できるのに対して(企業進出も同じ)、永住権だけは望んでもすぐに得られるとは限らない。てか普通ダメです。オーストラリアも大概難しいけど、アジア系諸国はもっと難しい。なのに結果出してる人がこんなにいる。高校ランキングの東大合格者数みたいなもんですよ。周囲を見回しても、一人永住者がいたら、その数倍以上の希望者がいると考えたほうがいいですもん。そういう現地のリアルな実感を重ね合わせて「(風来坊志向が)こんなに増えてるんだ」と思ったわけです。

 ちなみに過去5年での伸び率でいえば、在留邦人全体では7.1%の伸びです。

寅さん移住オーストラリアの突出ぶり

 地域別では、北米37%、アジア30%、西欧21%くらいです。

 国別は、また該当ページを貼り付けます。


 アメリカが依然として多く、次に中国。だけどオーストラリアが三位です。銅メダル。米中はビジネス的必要性があるのはわかりますが、オーストラリアなんかビジネス的には大した重要性はないです。それが三位ということはいかに僕のように趣味的・人生的に来ている人が多いか、です。

 他の国を見てると、例えばタイやイギリスはビジネス的必要性、ブラジルは資源ビジネスとこれまでの日系ゆかり、独仏は明治維新以来長い付き合いです。意外と韓国が少なく、またシンガポールは完全ビジネス系ですが、数で言えばオーストラリアの半分以下です。各国を見てると、趣味系のオーストラリアの多さが突出しているように思われます。日本人のこれまでの人格属性でいえば、こんな寅さん系なんかランキング外になってても不思議ではないのだけど、堂々3位なのだという。

 ちなみに実数は少ないけど、伸び率が激しい、最近赤丸急上昇を見てみますと、

 ミャンマー、カンボジア、ベトナムはわかります。次世代アジア市場として注目されてますからね。メキシコも、そういえばマルちゃんがメキシコ人の国民食になってるとか(ググってみると出てくるよ)ビジネス的には熱いのでしょう。でも、この時期、なんでサウジ?って思いますが、なんかあるのかな?ま、実数が少ないのでなんとも言えませんが。

オーストラリア、タイ、カナダの御三家

 次のグラフは永住権のページでも引用したものですが、
 一目瞭然とはこのことで、オーストラリア、カナダ、タイの伸び率が激しい。10年前に比べて、46%、48%、65%増です。なんでも右肩下がりのいまどきの日本で、こんな右肩上がりの現象というのは珍しい。

長期推移

 以下、グラフをばしばし貼っていきます。長過ぎるのはちょん切りました。

 ↓これは平成初期に比べて、どれだけ日本人が海外にでていっているか?です。ここんところ日本人の内向き志向とか、右傾化とか言われてますが、実際には企業も個人も果敢に打って出ています。


 平成元年の頃、つまりバブルの頃ですけど、それでもこの程度しか海外に出てなかった。その頃、盛んに「空洞化」とかが叫ばれていていました。それでもこんなもん。

 それが平成元年と28年を比べたら海外進出度228%です。単純にすごいことだよ。

企業主体→個人化

 さらにこの変化の内容を見てみます。
 平成元年から3年くらいまでの長期滞在者(企業駐在、留学)の前年度比の伸びが凄まじいです。前年度比12%増なんてのもあります。一方、永住者の伸び率はボチボチです。0.04%なんかほとんど変化ないくらいです。

 これが昔のバブルの頃の日本です。企業はガンガン外に出ていきます。個人の留学もこの頃にはお気楽なものだったと思います(今に比べれば)。

 それが平成4年度以降、企業も留学も一気にしょぼくなります。バブルが弾けたからでしょう。

 その代わり直近数年を見てみると、企業・留学系(長期滞在)はマチマチですが、総じて2-3%でコンスタントに増えているのが永住系です。

過去10年の人数の伸び

 図が小さくて申し訳ないが(クリックしたら大きくなります)、これは各エリアの長期滞在と永住者数の変化を示したものです。

 わがオーストラリアは「大洋州」になるので、図の左から二番目の水玉模様です。左が長期滞在(企業・留学)、右が永住者です。


 オーストラリアなどの大洋州に関していえば、(1)永住者の方が多い、(2)伸び率も永住者の方が多い(平成22年頃に逆転)。今や、日本人にとってオーストラリア(NZも)は、企業進出する国というよりは、住む(永住)ための国としての位置づけになりつつある。

 他のエリアを見ても面白いんだけど、アジアは完全に企業系、逆に南米は永住が多い。意外にも、北米に関しては企業系が微妙に落ちているのだけど、移住する人は着実に伸びている。

男女比で見えてくるもの

 これは各エリアの男女比です。右の全エリアトータルをみると、48:52で多少女性が多いくらいなんだけど、エリア別にするとかなり違う。

 総じて言えば、男性が多いエリアは企業駐在が多い場所だと思います。逆に女性が多いエリアは留学や結婚永住が多いのではないかと。そしてオーストラリアの大洋州は、もう完全に女性が男性の2倍近く多いという。西欧なんかもそうですね。

長期滞在社の内訳比率

 これは永住者ではなく、長期滞在者がなんで来ているのか?のエリア別分類ですが、これも興味深い。かなり露骨にわかりますよね。


 左端の民間企業の比率が多いのは企業駐在が多いエリアで多くのエリアがそうです。日本人の海外=企業駐在という構図が見えるんですけど、オーストラリアの大洋州だけは全然違う。留学研究が突出して多い。民間企業の2倍くらい多い。こんなエリア、ここだけです。ちなみに「その他」も多い。「その他」ってなんなの?とワーホリさんでしょう。

在留邦人海外ランキング

 資料では50位まで載ってるんだけど、長くなるのでちょん切りました。興味のある人は、冒頭に書いた外務省サイトからダウンロードしてください。5MBくらいの軽いPDFですし。


 アメリカ・中国・オーストラリアの金銀銅メダルは過去5年不動です。変わらなくて面白くないんだけど、目についたのが右(過去)から左(現在)に着実に順位を伸ばしているのがタイです。今、日本企業の海外ホットスポットは何と言ってもタイ。うちの卒業生のI君も駐在でタイ暮らしをしてましたが、これから入社される人も結構な確率で赴任するかもです。クーデターとか年中行事であるんだけど(I君も体験したと言っていた)、そんなリスクもなんのその、です。

永住者が多い国ランキング、


 これはなんといってもアメリカ強しです。なんだかんだ言ってアメリカ。テロがあっても、大統領がちょっとアレでも、それでもアメリカ。

 オーストラリアは一昨年から2位に浮上しました。ていうか、ブラジルが下がってきただけのことなんだけど。

 ブラジルやアメリカが何故多いのか?といえば、百年前の日系移民がベースになってると思います。ビジネスその他の理由もあるけど、やっぱり現地に日系社会があって、日本とのつながりがあるというのは大きいでしょう。アメリカの場合は、戦後の進駐軍で日本人女性と恋に落ちてってパターンもあるでしょう。オーストラリアもそうです。「戦争花嫁」ですね。国家百年の計といいますが、歴史の因果関係というのは百年規模で続いていくのでしょう。

 ふと気付いたのですが、ここ2−3年、韓国に永住する人が二桁の伸びを示しています。19.6%→9.6%→14.9%と他の上位国と比べて見ても顕著な伸び率です。どうしたんだ、みんな韓国が嫌いなんじゃなかったのか?(笑)ということで、「アテにならないよなー」ってことがわかります。実際に会ったらいい奴多いもんね。

 あと実は密かに人気なのがアルゼンチンです。あそこも永住権が取りやすいってことで、「知ってる人は知っている」ところですし。

 

企業活動

日系企業の進出拠点数〜インド赤丸付


 まず目につくのがインドの異常なまでの伸びです。ただ、絶対数でいえば中国絶対で3万規模であります。アメリカですら8500程度なのだから、いかに中国重視かです。これだけ見ても、中国と喧嘩するというのが、いかに経済的には自殺行為かですね。

 しかし数では4000ちょいでありながら、伸び率が凄いのがインド。10年で10倍近く伸びてます。めっちゃくちゃ増えてる。

 ここで、先程の滞在者数とのギャップに気づきます。あれ?人数ではタイが伸びてたのに、拠点数はそんなに伸びずにインドが伸びている。これはどういうことか?

 うーん、僕もわからんけど、一拠点にいる日本人社員の数が違うのでしょう。タイはもう安定的に拠点化してるから、伸び率は大したこと無くても、一つの拠点がどんどん人的物的に拡充していってるのかもしれない。一方インドは、10年前くらいからおっとり刀で乗り込んで、とにかくビジネス拠点を増やそう、もう「唾つけ」のように増やしていこうということで、拠点は多いけど、人数はそんなに多くないってことかもしれません。


海外進出の内容

 見てわかるように、日本企業の海外進出は一貫して増えています。過去10年で2倍です。国内市場が年々縮小していってるので、国内に留まるのは「座して死を待つ」に等しい以上、当然のことかと思います。

 ただ、推移を見てて思うのは、日本企業がそのまま来るよりも現地法人化が進んでる(平成24年だけ突出して高いのは何故なのかわかりませんが(企業買収ブームか))。

 もっと増えているのが「不明」で、これは外務省が調べてもわからなかったというだけの話で、実体がなにかはわかりません。だけど、これまでわかってたものがわからなくなることはないだろうから、新規参入する中小企業が増えたとか、現地企業との合弁形態とか、複雑な方式に移行しつつあるのかもしれません。

オーストラリア内部の数値

 長くなったので、最後にオーストラリア国内の統計を紹介します。

 世界各地にある外務省の統計を一気にまとめたもので迫力あるのですが、なんせ量が膨大。大洋州だけでいっても、ナウルとかニーカレドニアとか沢山ありますからね。そこで、オーストラリアとニュージーランドだけを抜粋してみました。


 これでも相当なものです。てか小さすぎて読めないでしょう(クリックすると大きくなりますけど)。

 幾つか僕の目に止まったことを書き出しておきます。
 ちなみに人数のカウントですが、これは外務省に在留届を出している人の数で、実際には出してない人も結構いるかもしれません。

 オーストラリアの在留邦人は9万2637人いるらしいです(平成28年10月現在=約1年半前)。ざっと10万人弱。ほー、結構いるもんだ。ちなみにニュージランドは18706人だそうです。

 うち、一位はダントツでシドニー33398人、二位がメルボルン23094人、僅差で三位がブリスベンの22439人、以下パース8511人、ケアンズ3915人、キャンベラ1280人です。

 もっともこれは在外公館別の集計なので、領事館のない都市(アデレードとかダーウィンとか)は他の都市の集計にされてしまうでしょうから、厳密な数値ではないです。別途オーストラリア政府のセンサスなどから突き合わせてみないとある程度の数は出せないと思いますね。

 次に各都市別に細かなことを見ていくと、男女はどこも大体1:2弱(1対1.7くらい)で男性よりも女性の方が多い。

 永住者数はシドニー19490人、メルボルン12337人、ブリスベン12612人、パース4785人などです。永住者になると男女比はより激しく女性が多くなりますね。

 長期滞在者(企業駐在と留学など)は、シドニー13908人、メルボルン10757人、ブリスベン9827人です。

 あといろいろな数値を見てて思うのは、留学数などはシドニーとメルボルンでそんなに変わらないけど、日系企業関係になると2591対1731でシドニーが多いです。留学したあと日系企業に入るにはシドニーの方がやりやすいのかな、どうかな、これだけではなんとも言えないかな。

 あと年齢差でみると、40代以上になるとシドニーの方がメルボルンよりもより多くなります。大体3対2くらいの比率だったのが、高齢になるほどシドニーの方が2対1に近くなってくる。これは往年の日本ビジネス最強時代に駐在されて、スピンアウトして永住された方々が、シドニーでは多いということでしょう。将来的な介護の問題になると、認知症などによって第二言語を忘れてしまう人もいるらしく、それだけに同民族内のケアが結構大事だと言われてます。気に留めておいてよい数字かと思って。

 なお、オーストラリアの在留邦人の数は、先程述べたように第三位ですけど、全体の比率でいば6.92%です。これは何を意味するかというと、海外にいる日本人100人のうち約7名弱はオーストラリアにいるということです。それが多いのか少ないのかわかりませんが、多いのかなーとは思います。単純に世界人口70億比率でいえばオーストラリアの人口なんか0.35%くらいなんだから、日本人が世界中の人が住んでるところに均等に散らばってたらそれと同じ比率(0.35)になるはず(=つまり100人に一人も居ないことになるはず)。またアメリカとオーストラリアの人口比は約14倍以上開いてますが、在豪日本人数(9.2万)と在米日本人数(42万)が14倍離れているかといえば、4.5倍差程度です。そう考えたら、オーストラリアというのは、かなり「日本人に好まれている」渡航先なのかと思います。

まとめ

 以上長々書きましたが、とりあえず覚えておくべき要点を幾つか上げてみましょう。

・海外在住日本人の数は134万人で、毎年最高記録を更新している
・平成元年から28年の30年弱で228%増加
・最近の伸び率では、オーストラリア、カナダ、タイが御三家
・長期滞在(企業・留学)と永住者の比率は約65:35であるが、永住者の伸び率が2倍ほど高いこと。
・当初は企業・留学系が多かったが、ここ最近は永住系が増えている
・在留邦人数ランキングでは、アメリカ・中国についでオーストラリアは3位で、全体に占める比率は約7%で、数は約9.2万人
永住者数ランキングで、オーストラリアは二位に浮上する
・オーストラリアは、長期(企業・留学)よりも永住者の方が多く、また長期でも企業1に対して留学など2であり、企業活動よりも個人的な志向で来る人が多い

・オーストラリア在留者数:シドニー3.3万、メルボルン2.3万、ブリスベン2.2万
・永住者数:シドニー1.9万、メルボルン1.2万、ブリスベン1.2万。

・企業活動でいえば、日本企業の海外拠点の数は、過去10年で2倍に増えている。
 数では中国が圧倒的に多いが、伸び率でいえば、在住日本人数ではタイ、拠点数ではインドの伸びが著しい。

私見

 時代の流れを見る場合、出来るだけロングスパンのトレンドを見るのと外さないと僕は思う。スパンが短いと、特殊な事情に左右されたりして大きく結論が変わったりしますが、引いてみていれば、結局収まるところに収まるというか、物事の自然な流れに収斂されていくように思えます。

 物事の道理からいけば、海外進出は当たり前だと思います。
 日本企業の海外進出は、バブルの頃の「爆買い」(元祖)はともかく、空洞化とか激しく叫ばれていた時期から、さらに2倍以上の伸びを示しています。国内市場が年々縮小するだから海外に積極的に打って出なければ枯死するのは火を見るより明らかなんだから、そりゃ出て行くでしょう。
 個人レベルでも、東北地震その他の要因もさることながら、これだけ海外のハードルが下がり、世界どこに行っても日本と繋がれるネット時代、また個人志向の高まりからいっても、増えないわけはないです。

 しかし、メディアで騒ぐのは比較的ショートスパンの「変化」であって、それが常態化して普通になってしまうともう報道されにくい。また、永住など個々人のレベルの動向というのは、こういう長期の統計を見ないと浮き上がってきません。

 と同時に、ときのメディアとか当局とかネットの「雰囲気」みたいなものって、往々にして事実と異なったり、むしろ真逆だったりする場合が多い。

 上でも指摘したように、最近の日本人は「内向き志向、右傾化」とか言われてますが、在外邦人数は一貫して増加してますし、永住者数の増加率は企業/留学の2倍です。どこが内向きなんだか。
 また、韓国や北朝鮮がヤバい、日本人の嫌韓化志向の高まりとか言ってるけど、韓国への永住者はここ数年二桁の増加率を示してます。これは一体どういうことか?

 大多数のマスと一部とは違うのかもしれないけど、人生かけて本気でやってる奴の動向と、やる気も興味もない人の感想とで、どっちが統計指標として意味あるかといえば前者(現実に動いている事実)だと思いますけど。それに134万人というのは、さいたま市(128万)以上、京都市(147万)以下になります。海外在住者をまとめて都道府県の一つにしたら(「海外県」みたいに)、47都道府県中、奈良県(136万)に次ぐ31位になります。ボリュームとして決して無視できるサイズではないでしょう。


文責:田村


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