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今週の一枚(2016/04/11)



Essay 769:パナマ文書についての雑感

 〜パンドラの箱と第三次世界(バトルロイヤル)大戦

 写真は、Drummoyneのフェリー乗り場

 先週はいわゆるパナマ文書がリークされて世界中で大騒ぎになってますが、いや、面白い時代になったもんです。前にもちょろっと書いたけど、やっぱ第三次世界大戦が絶賛進行中なのかなーとか思っちゃいました。何が何だかさっぱり分からん!って感じですけど、面白いから今週はこれを書きます。

 「パナマ文書」というのは、タックスヘイブンの暴露情報です。パナマにある法律事務所の機密書類がハッキングされて世界にネットで開示されたという。

 タックス・ヘイブン=Tax Haven=租税回避地ですが、昔、愚かな僕は「ヘイブン」というのを「天国」だと勘違いして「脱税天国」の意味だと思ってたのですが(それでも意味が通じてしまうし)、"Haven"であって"Heaven"ではないです。二文字目に"E"が入ると天国、入らない"Haven"は「避難所、安息所」って意味です。「税金を免れる(場所)」という意味。

おさらい

なぜみんな脱税するのか?

 以下、社会人の方には不要だと思うけど、このエッセイって高校生の方も読んでるようなのでおさらいをします。税金とはなにか。

 お金って稼ぐのが大変ですけど、稼いだら稼いだで今度は税金が最大の天敵になります。1億円稼いでも数千万円税金で持っていかれるとかなったら誰だって悔しいですもん。だから皆さんせっせと節税(合法)やら脱税(違法)やらするわけで、そのためのテクニックも昔から激しく進展してました。個人経営の人は「経費で落として〜」とかは常識だし、サラリーマンだって「領収書は”上様”でよろしかったでしょうか〜」「いや、空欄で」とか会話するし。皆さんも相続税などで生前贈与は〜とかいろいろ勉強するでしょう。

 普通に合法レベルでさえ、知ってるか知らないかで数百万円くらい軽く違ってきますから、そりゃ勉強のし甲斐もあるってもんです。さらに高度なテクになってきて、法人作って、さらに子会社作って、トンネル会社も作って、そこでお金をやりとりさせて、どっかペーパー上で倒産させて、貸し倒れの損金扱いにするとか。このあたりの合法・違法ってめちゃくちゃグレーです。「その目的でやったら違法だけど、仕方なしにそうなったら合法」なんて基準、「その時、その人がどう思っていたか」という主観次第になりますから、立証責任負わされた方はたまったもんじゃない。税務訴訟でも「周囲の外形的事実から合理的意思を推認して〜」とかいうけど、「推認」だって誰かの主観(一次的には税務官、最終的には裁判官)だから、結局は「思う」という曖昧な要素が入ってくるのですよ。

 なんでこんなに複雑なのか。そしてなんでこんなに皆、税金を避けるのか?日頃、他人を罵ったり手を上げたりすることが全くない温厚そのものの人だって脱税はやるもんなー(笑)。なぜか?話は簡単です。それは、そもそも税金自体に根拠が無いからだと思います。

 税金というのは一種の会費です。社会の一員として共益費に会費を払いましょうねという。ファンクラブの会費くらいだったら一律頭割りでいいけど、巨大な組織、複雑な機構になってくるとそうもいかない。ケースバイケースで細かく設定するようになります。新入社員の歓迎飲み会があったとして会費をどうする?を決めるのが税法です。一番給料をもらってる部長が会費1万円、課長が7000円、ヒラ男子は5000円、ヒラ女子は3000円で、新人さんは無料とかしますけど、「なぜそうなのか?」とか言われると根拠があるんだか無いんだか。租税には確たる根拠はないけど、でも一応「原理」はあります。「租税公平主義」とかいって実質的に公平を図ろうと。この場合、お金を払う「痛み」を公平にするために、沢山貰っている人は多く払うということですね。これを国税でいえば「累進課税」になりますし、負担力の無い人には安い出資で同じものが食べられるという意味では「所得の再配分」でもあります。

 このくらいだったら飲食の対価の負担割合って意味で明瞭にわかりますけど、社会が複雑になるつれてよく分からなくなります。自分の払った税金が何にどれだけ使われているのかブラックボックス化する。国や自治体というのはアレもコレもやらなきゃいけないので膨大に金がかかる。だから膨大に集金しなきゃいけない。それが主として税金ですけど、何故これをするとこれだけ税金がかかるのか?は、一応もっともらしい理由はあるものの、究極的には理由ナシでしょう。例えば車両税とか、なんでクルマ買ったら代金以外に国にお金を払わないといけないのか?なんで死んだら相続税払わないといけないのか?家持ってたら固定資産税払わないといけないのか?ようわかりません。その分の国家的な事務手数料がかかるんだって言われても、手数料は手数料で住民票謄本を取れば取られるし、不動産登記をすれば登録免許税を別途払わされているんですから理由にならんでしょ。ハッキリ言ってヤクザの「肩がふれた」という因縁に似てて、なんかしら「言いがかり」になりそうなモノがあったら税金を課す。カツアゲと同じで、「お、お前、いいクルマ乗ってんじゃん、ちょっと俺達にも廻してくれよ、金あんだろ?」という。

 税金の根拠が結構いい加減だということから、それにまつわる規制もゲームのルールのように複雑でテクニカルなものになっていきます。犯罪では自然犯と行政犯といって、殺人のように法律の有無を問わず「いけないこと」だとナチュラルにわかるようなものは自然犯。でも、全然ナチュラルにはわからないのが行政犯とか形式犯とかいうもので、非課税の限度額をどの程度にするかは、当局の「ご都合」によって決まる。自然の感性では絶対分からん。一応合理的な理由もあるようでいながら、よく考えるとなんで?というものも多い。でもそーゆーことになってると。それはゲームのルールと同じで、なんでポーカーで同じ数字を3枚集めると2枚より「強い」のか?といわれると本質的な根拠はどこにもないのと同じ。確率論的にレアだからという「合理的」な根拠もあるんだけど、じゃあなんでレアだとエライのか?というともうわからない。わからなくていいんですよね。究極的な理由は多分「そうすると面白いから」だと思うのだけど、そーゆーコトにしておかないとゲームが成り立ない。税金も似てます。

 だから皆さんけっこう気楽に脱税をする。なんか「悪いことをしてる」って気があまりしないからです。バレるかどうかのゲームやってる感覚であり、本質的には「かくれんぼ」みたいなものです。試験のカンニングほどの罪悪感すらない。さらにどこからが合法的節税で、どこからが違法な脱税なのかも良くわからない。合法節税だって、か〜なりセコくて、汚くて、いやらしい方法はありますよー。露骨に「嘘じゃん」ってのも大分混じってる。でも通じる。だから違法であっても違法感がない。そこでは、上手くやったか/下手を打ったかだけであり、人として〜という深刻な自己省察も悔悟もない。あるわけないすよ、もともとの税金が場当たり的でいい加減なんだから。トランプで負けても、悔しくはあるけど反省はしない。反省するとすれば「もっと上手くやればよかった」でしょう。それと同じ。以上、おさらいでした。

この世の仕組み 

 では次にこの世の仕組みをおさらいしましょう。今は、分業社会→交換経済・貨幣経済で、生きていく上で必要なものは大体お金があったらゲットできる。だからお金の稼ぎ方が次のポイントになり、大多数の善男善女はまっとーに働くということをします。まっとーでない人は犯罪によってお金をゲットする。

 でもこの仕組の中にはとっても美味しいスィートスポットがあります。国(集団)がらみ&金絡みの領域です。僕らがあれだけ稼ぐのに苦労しているお金を、しかし徴税権をもっている国家は「洗練されたカツアゲ」のようにいともたやすくゲットできます。国家権力強えーです。そして集めたお金を皆のために使うわけですが、お米が集まってる米蔵にコクゾウムシが発生するように、お金が膨大に集まってるところには悪い虫が(大量に)発生して、美味しいところをチューチュー吸います。さて、手っ取り早くお金をゲットしたかったら、自分がその「悪い虫」になっちゃえばいいんですよね。税金を使う=膨大なお金が動く場面に、なんとか割り込んで、ちょっとだけポッケにくすねたら大儲けが出来ます。国家プロジェクトを受注するとか、国有財産の払い下げを受けるとか。古来「政商」というのがおって、国有林やら国鉄の跡地を坪10円で払い下げてきて、造成して坪1000円で売れば100倍錬金術です。こんなに美味しい商売はない。コスパ良すぎます。

 当然そこでは虫同士の熾烈な争いが起きたりするわけですが、あまりにもやり過ぎると負けた側が腹いせに内部告発とかして全部パーになるから、皆仲間じゃないか、うまくやろうぜってことで、(そこだけ)Win-Winの構造が築かれる。これを「利権構造」と呼ぶのはご承知のとおり。公共投資であれ、バラマキであれ、新機構の立ち上げであれ、天下り、選挙での見返り、マスコミも含めてガッチガチの体制が作られます。どこの国でもそう。日本も相当病んでますが、もっとひどい国はいくらでもある。その「虫」くんになるためには、政治家ルート、民間(財界)ルート、官界ルートなど色いろあるわけで、選挙という一発博打ではなく、コツコツ積み上げていくのがお好きなあなたは、エリート官僚やビジネスマンになるといいですね。だから皆さん良い就職をしたい、そのためにはいい学校を出なきゃ、だから今勉強しているんだよということで、ここで小学校時代からの長年の疑問=「なんでこんな詰まらない勉強をしなきゃいけないんだ?」=に回答が与えられます。それは「虫になるため」「悪い人になるため」だったのでした(笑)。まあ、冗談ですよ、笑っててください。でもその笑いは苦かったりもしますわね。

 ということで、この虫君(シロアリともいう)達がおいしいところをガシガシと旺盛な食欲で食べてしまうから、どんな法律、どんな理念も骨抜きになって、結局庶民は汗流して働きつつも、じっと手を見るという日々が続くわけです。租・庸・調の万葉集の昔からそう。山上憶良に「貧窮問答歌」ってあるけど、その頃からそう。この利権構造を壊さないと本当の意味での経済発展や構造改革はできっこないのですが、それをやろうとするとよってたかって潰される。メディアを使ってあることないこと書かれて、叩かれて、落とされる。個々人レベルでは密かに殺されたりもする。日本国内の話だったら、どんな問題、どんな事件でもいいから、しっかりしたルポや書籍を3冊くらい読めば、最後にはココに行き着くはずです。「モトから断たなきゃダメ」ってやつです。

 しかし日本国内なんてまだ可愛いもので、これが世界レベルで利権構造があって、それがアメリカを支配しているネオコンとかの連中で、さらにその裏に、、、というあたりで、いわゆる陰謀論的な世界にはいっていきます。陰謀論というのは舞台裏を詳細を決めつけたりする部分が「見たんか?」的に微妙に疑問だったり、憶測たくまし過ぎる部分でネガ扱いされるのですが、ただし大きなフレームワークは事実としてあります。それは戦後の冷戦時代にアメリカが南米や第三世界にやってきた(ソ連もだけど)ことを見れば、史実としてトレースできます。

 それはさておき、もう一つ美味しいエリアがあります。儲けたお金をキープする方法論です。それが不正で得たお金だったら表に出せないのは勿論ですが、仮に正規に得たお金であったとしても税金でがっぽりとられる。悔しい。なんとかならんもんか?で、そこはお金も権力もありますから、最高のスタッフで芸術品レベルの節税システムを作り上げ、さらに当局に鼻薬なんぞを嗅がせて追求を止めてもらったり。

 タックスヘイブンというのはその一環としてあります。普通は、船の税金が安いからパナマ船籍にしたりって誰もがやってるような話です。さらに、最近話題のグローバル企業が本社だけアイルランド(法人税が安い)にもっていって、世界中で稼働しているんだけどどこの国にも殆ど税金を払わないという仕掛けが批判を浴びてます(オーストラリアでもそう)。さらに進んで、個々人の富豪や企業、あるいは政府の高官(てか首相や大統領や王族すら)も個人資産を守るためにそれをやっているという。そんなもん、やらないわけないでしょー、やらなかったらアホじゃん、てか、やらないような(ドン臭い)奴だったら最初からそんなにお金がゲットできるわけないじゃんって話で、そのあたりは地球の常識でありました。

画期的な点

 違うのはココからで、そんなもん誰にとっても常識でも、でもその証拠なんか間違っても世に出てくるわけがなかった。あったとしてもメディアに流される前に握りつぶされ、発刊しても理由をつけて発禁処分にされたりしていた。それが全世界に今では絶賛公開中になっていて、アイスランドの首相はもう辞任している。

 これは世界史的には画期的な出来事で、最高権力者達の事細かな内情が直接的な証拠とともにゲットされ、しかも瞬時に全世界同時に暴露されるなんてのは、今までありえなかった。まさにネット時代ならではですけど、ネットだって陰に陽に支配されているわけで、それがまたどうしてこんな時期にこんなものが?という点が面白いわけです。このあたりで「第三次世界大戦」なのかもね〜と思ったりもします。

 タックス・ヘイブンを利用するというのは、かなり基本的な節税対策で、だから直ちに違法だとか、だから鬼畜行為だとかいうわけでもないです。でも、世間ではそうは思われない。まず第一に、なんでこんなに巨額の富を得られるのか?です。プロスポーツ選手やスターが数億円とか数十億円稼いでいても、僕らはまだ納得します。ビートルズやマイケル・ジャクソンがお金を稼ごうとも、あれだけの仕事をしたんだからねーって。でも、なんでこの人が数十億、数百億も持ってるの?という部分で納得出来ない場合もあります。企業、そのトップ、政治家など、本来の給与からしたらこんなに稼げるわけないじゃん?って額をゲットしている。だから、なんか悪いことしてるんだろ?という。

 もう一つは、特に政治家の場合、国民に税金払わせておきながら、なんでお前だけズルいことしてるんだよって感情があります。仮にそれが形式的には合法だとしても、関係ないです。実質的に違法なニュアンスにある。ここに至って、自然法は形式法に優越し、カタチの上で合法でも、「ズルい」という自然な感情が優越する。第三に、本当に違法な場合です。なにがどう違法なのかは分からんけど、そういうセコい画策をしている時点で、なんか後ろめたいことしてるんだろ?それが収入レベルの違法(不正献金や賄賂とか)なのか、納税レベルでの違法(脱税)なのかはわからんけど、「まっとーではない」ということで、人々の怒りをかきたてます。

 もっといえば、この世界は1%の人が99%の〜という「いつもの話」があるわけですが、ここまで露骨&詳細に1%がやってるセコい画策が表に出ることはなかった。ここまできたら単なる「お話」ではないです。漠然とした1%ではなく、「こいつだ」という具体的な攻撃目標にもなります。

怒っている世界の皆さん
 かくして世界(の一般ピープル)は怒ってます。日本ではなんとなくスルーされているかしらんけど、地球人平均の情報感度を持っていたら、まあ怒りますよね。そのあたりは世界のニュース(日本語メディアは話にならんからスルーして)みたら分かると思います。

 アイスランドでは大規模なデモが起きて首相が辞任せざるをえなくなってるし、イギリスのキャメロン首相も風前の灯火っぽいし、フランスでもデモがある、インドでもやってる。

 一方、日本では相変わらず「海外では〜」という「対岸の火事」扱いだし、「一部のマニアや好事家の話題」的な感じだし緊迫感があんまりないです。なんせ菅官房長官の自ら「日本政府として文書を調査する考えはない」と早々に言ってるし。これスゴイことだと思うんだけどな〜。いろいろな意味で。

問題点

事実の確認

 既に話がごちゃごちゃになってるようですが、整理すると、この文書はパナマにある「モサック・フォンセカ」という名前の法律事務所の機密文書がハッキングされて流出したとなっています。2.5テラバイトの巨大な情報で、機密文書数なんと1150万件、関連するオフショア法人数が21.5万社!こんなもん、読んでるだけで一生が終ってしまいそうな膨大な文書群です。それがそのまま流出するわけもなく(したところで意味不明でしょう)、今ネットに現れていることからみると、2015年08月だから今から1年近く前に南ドイツ新聞と、ワシントンに本部のあるICIJ(国際調査報道ジャーナリスト連合)に送られたらしい。後者のICIJは、調査を進めた結果、先週の日曜日(16年4月3日)に第一弾として世界に公表し、これが「パナマ文書」と呼ばれるものです。まだまだ続きがあるそうです。

 よくWiki Leaksと勘違いされるかしらんけど、今回はWiki Leaksは関係してないです。というか、Wiki Leaksはむしろ疑問視してます。

 世界中の要人や企業が名指しで公開されているのですが、現時点で日本企業で出てくるのはセコムの創立者くらいでしょう。ここで電通やJALなどが入ってるとか、400人くらいいるとかネットで出まわってますが、これは間違いだと思われます。多分、3年前の2013年にオフショア・リークスというよく似たリークがあり、そのデーターの中に出てきたものだと思われます。Offshore Leaksのダウンロードのページにいけば今でもダウンロードできます。

 オフショア・リークスというのは、Wikiでも日本語版が無いのですが、今回と同じICIJが発表したデーターベースです。チームリーダーになったジェラレルド・ライル氏はオーストラリア人のジャーナリストですが、普通の調査報道であって、ハッキングした「リーク」ものとは違うようです。また、膨大な情報データーがあるのですが、これらは(形の上では)合法な金融活動であって、犯罪を告発するとかいう意図ではないと注意深く記されています。つまり、合法であろうが、この時点でこんなに世界の連中はタックス・ヘイブンを活用しまくっているぞという重要な調査報道です。本来なら、この時点で大騒ぎにならなければならなかったはずですけど、世界はスルーします。そして、この時点で、今回話題になってるような日本各企業もでてたのではないかと。このあたりは、このブログが冷静に書いていてくれて助かりました。

 ちなみに2013年のオフショアリークスですが、僕もダウンロードして見たのですが、無味乾燥な文字列が続くのでしんどいです(笑)。でも電通ありましたね〜。もっとキレイに整理してくれているのが、 BERNDPULCHという組織が出しているThe Secret List of Off-Shore-Companies, Persons and Adresses, Part 80, Japanで、日本関係をまとめて列挙してくれています。個人名(アルファベットだけだが)から口座から住所まで全部出てます。

 しかし、そんなのあったとは知らんかった。くそお情弱だな、自分も。本当は今騒ぐならこの時に騒ぐべきでもあった。んでも電通がからんでたらか、あまりにも差し障りがあったからか、メディアはオール沈黙。その頃=2013年の日本といえば、アベノミクス祭りやってて、「おもてなし」とか「じぇじぇじぇ」とか言ってた頃でしょう。なんとまあ、天下泰平な。

 今回のパナマ文書は、もともとがハッキングデーターというもので出自が全然違う。それを受け取ったICIJが解析した上で発表したものです。だから、そもそも誰がハッキングしたのかは分からない。本当にその文書が正しいかどうかも、実は検証のしようはないです(だから本人に聞いたり、調査すべきなんだけど)。また、その全てが違法というものでもないでしょう。タックス・ヘイブンを活用するというのは、一定以上の資産を持っていたら誰でも思いつく常套策です。また、それをやってる富豪本人がせっせと調べて自分で手続やって、、なんてことはまずないでしょう。金庫番の番頭さんに任せていたり、その種の「有利に運用しますよ」「安全な節税対策」などのコンサルティング会社とかそのあたりに発注しているでしょうしね〜。

 ということで、これらの行為は金持ちだったら皆がやってるようなことであり、だからこそ、この種の法律事務所も繁盛しているわけでしょ。今回の書類だったら遡って1970年頃からあるわけで、そんな昔からやっている老舗のビジネス。だからこそ「タックス・ヘイブン」って言葉は昔っからあるわけですよ。ケイマン諸島がどうしたとか、日本のテレビドラマにも出てくるでしょ。ということは、よく考えてみたら、今回の報道だって「それがどうした?」という部分もなきしもあらずなんです。しかし、より個人名が詳細にでている2013年にはスルーされつつも、今回それが世界的スキャンダルというカタチになって騒がれているところに二重三重にツイストがかかってるんだろうなーと思うわけです。

なんでアメリカが登場しないの?

 最大の疑問は、なんで日本はともかく、アメリカの企業・人物が登場しないの?です。

 一番最初に”犠牲者”になったのがアイスランド(アイルランドじゃないよ)の首相です。殆どの国でこの種の話はあると思うからアイスランドにもそれがあったって不思議ではないけど、アイスランドって結構まともな国ですよ。リーマン・ショック直後はガタガタになったけど、それも乗り切って順調にきてるし、世界幸福度ランキングでも二位だし、軍隊持ってないし、発電は原発はおろか火力もなくて水力と地熱だけだし、小さいけど独立独歩でやっていけるだけの賢さと強さをもってるし、だからこそ民意も高く、今回のことで真っ先に激しい抗議デモになったのでしょう。

 これをもって、アメリカの背後にいる連中の意に染まらないアイスランドを潰しにかかったんだという説も流れていますが、その当否はよくわかりません。んでも、なんでアメリカがないの?というのは端的に不思議です。だって、こういうこと(金融テクの粋を尽くしてあれこれ金儲けに走る)のは、アメリカこそが本家本元でしょうに。やってないわけないんですよね。それこそオリンピックのメダルみたいに一番数をとっていても不思議ではない。

 まあこれからの続報にでてくるかもしれないし、単なる偶然かもしれません。でもね、確率的にいってちょっとは出てきても良さそうなものなんだけど、でも不思議と少ない(完全ゼロかどうかは未確認です。少なくとも大々的に報道されてはいない)。

憶測と仮説

 そこで色々と憶測が飛び交っているわけです。
 思わせぶりにロシアのプーチンの家族(本人ではない)の口座が見つかったと西側メディアが喧伝している(当のイギリスのキャメロン首相に関するものよりも多いくらい)ことから、ロシアに対する攻撃、ないし牽制ではないかという説。

 これは今回のパナマ文書が、アメリカ、あるいはその背後にある勢力の意図によってなされたものだという視点を前提にします。その傍証として、公開したICIJの母体組織(CPI)はアメリカのジョージ・ソロスの多額の寄付を受けています。これは公知の事実であり、別にソロスから寄付を受けたら直ちに悪いというわけではないけど、ソロスともあろうお方がこの種の租税回避をやってないわけはなく、そのあたりはどうなんだ?って素朴に疑問になります。

 それにパナマ文書は、ほんの一部づつチラ見せしていくスタイルになっているのだけど、一部のジャーナリストが(その真意が良きものであったとはいえ)、誰を公開して誰も伏せるのかという判断権を持てるのか?という原理的な疑問もあります。つまり、なんらかの意図をもって「使おう」と思えば使えると。この点、本家本元のWiki Leaksは、なんで全部公開しないのだと問うているようです(例えばここのブログの意見)。

 この種の「意図」論議が一概にシカトしにくいのは、この種の世界中の人々の秘密の口座の情報なんか、アメリカの国力をもってすればとっくにある程度知っているでしょう。少なくとも、お膝元のワシントンで数ヶ月もICIJが調査解析をしていることくらいは当然知っていただろうし、もし本当にアメリカ(の誰か)にとってヤバい情報であれば、何らかの手は打つでしょうね。

 さらに一歩進んで、最初から自分らにとってヤバそうな情報だけ抜いておいた2.5TBのデーターを南ドイツとICIJに送っていたという考え方もあるし、あるいは情報は真実であるが、最初からヤバくない(自分らが顧客になってない)法律事務所のデーターをハッキングしたのだ、とも考えられます。こんなのなんとでも考えられる。少なくとも、第一報においては、アイスランドやイギリスほど政権直撃レベルの重大リークがアメリカに関してはなされなかったという点は、いろいろ憶測させる余地を残します。

 それに繰り返しになりますが、2013年のオフショア・リークの方が内容的には豊富なのに、あのときは大して騒がず、今回大騒ぎしているメディアもどうなんだ?って気もしますね。

 さらにあれこれ語られるわけですが、タックス・ヘイブンといえば、パナマやケイマン諸島だけではなく、アメリカ自体もそうです。だからあれは、パナマはもう危ないからアメリカにいらっしゃいという世界の富豪に対する宣伝行為なんだという説も見かけました。そうなんかな〜。

パンドラの箱と第三次世界大戦

なぜこんなに下手なのか

 いずれにせよ、これが誰かの意図によるものであるとしたら、両刃の剣というか、ブーメランというか、パンドラの箱を開けてしまった気もします。相手を攻撃しようとするんだけど、結果的に自分の被害のほうがデカくなってしまうというパターンです。だから初期の目的を達成できずに副産物ばかりが大きい。なんでこんな馬鹿なことをやってるんだ?という。

 なんかここ数年こういうブーメランなパターンが多いのですよ。だから読み切れないという。

 思えば911はうまくできてました。あれの一切合財が茶番なのか、部分的に茶番なのか、そうではないのか諸説ありますが、それは確かにショック効果を与えたし、そこから通称「テロへの戦い」へのつながりは割りとスムーズだったし、アメリカ国内が戦前の日本化していく(愛国者法とかできたもんね)プロセスもできていた。人道的に良し悪しは別として(てか露骨に悪いんだけど)、”仕事”としては上手だった。ほんでも、強引にイラクに侵攻して、フセイン殺したあたりから微妙な風向きになっていって、大量破壊兵器は実はありませんでしたってことになってもバックレようとするから、「あれ?」という話になっていったと思います。

 ベトナム戦争のときでも、ケネディ殺して戦争続行させるあたりはかなり無茶苦茶なんだけど、その後、反戦運動は高まったし、しまいには厭戦気分になっていったのに対応して、それなりにちゃんと反省したりして(少なくともポーズやムードは)ガス抜きはしていた。復元力はあったし、そのあたり騙すにしても深追いしないバランス感覚はあったと思うのです。が、今は、そのバランス感覚がなくなっている。イラクだって、大量破壊兵器がないという時点で、間違ってたのかもね〜、悪いことしちゃったかなって部分がちゃんと表に出てきて、何らかのコメントや対応をすれば、まだ信頼は保てたと思うのだけど、もうスルーだもんね。でもって、今度はなぜかアフガニスタンに行くという。このあたり、お前ら何やってるの?感が強くなってきた。「仕事」としては雑になってきている。

 以後、ウクライナで内戦状態になったのも、最初は冷静に、心配そうに傍観してればいいのに、起きたとなったら、すわロシアが悪いとかいきない言い出すから、逆に不審感を抱かれる。もうタイム感悪すぎ。もっと間を持たせてタメなきゃダメなのに。マレーシア航空機がなぜか消息不明になりました。だから何?だし、またマレーシア航空機がウクライナで撃墜されましたとなったときも、すわロシアだ!と勇み足的に言い過ぎるから、お前じゃないのか?と逆に不審に思われている。で、反対証拠とか出来てきても、むにゃむにゃいってバックレようとするから、さらに疑われる。結局ウクライナはロシアに取られるわ、アメリカの評判落ちるわ、やらなきゃ良かったレベルでしょ。また、イスラム国もなんであんなのが突如として登場するのか意味不明だもん。もうちょい丁寧に時間かけて育ててやらないと。でもって戦いだーとか言う割には腰の引けた空爆ばっか何万回もやって、結局大した効果はないという、お前ら実は弱いんじゃない?本気でやる気あんの?という不審感を抱かせている。今度はシリアがやばくなっても、やっぱり及び腰だし、そんなこんなでロシアが本気で制圧したらガラッと変わっちゃって。今度は大量の難民をヨーロッパに送り出して、同胞欧州に迷惑かけて。だから何がしたいの?

 約2年前にエッセイ(676:GPIS〜嘘をつくなら自腹でやって〜何がしたいの?統失なの?で書いたように、日本国内の迷走も、まるで統合失調症みたいに一貫してなくて、そのあまりの下手さ加減に呆れてましたが、親玉のアメリカもそれに輪をかけた統失というか、ボケ老人に近いかな。瞬発的に思いついたことを、後先考えずに瞬発的にやってるから、辻褄が合わないわ、本来の効果も出ないわ、逆に自分が炎上してしまうという劣化ぶりで、個々のあれこれよりも、「だ、大丈夫か?」とそっちの方が心配です。

 今回のパナマ文書も同じで、もしかして同胞欧州が傷つくのも構わず、肉を切らせて骨を断つ的にロシアのプーチンを攻撃したいんかもしれないけど、全然効果を上げていない。なぜなら、本気で「肉を切らせて」という信憑性を出すなら、アメリカの有名企業や有力政治家の幾つかを犠牲にするくらいのことをしないと信憑性は出ない。でもそれはやらないで、この際、独立していうこと聞かないアイスランドもやっちゃいましょうみたいな、変な小欲を出すからよくわからないものになってしまってる。

 それよりも、もっとヤバイのは、世界の格差構造、支配構造というのを目に見えた形で出してしまうという逆効果です。誰だって、金持ちが裏でイロイロやってるのは知ってますよ。でも、具体的な事実として改めて出されると、やっぱり怒りは新たになる。そしてその怒りは、そういうことをした個々人ではなく、そういう構造になっているという全体の歪みに向かうだろうし、現にそうなっている。そして、それで一番割を食うのは、そういう支配構造を続けていきたいアメリカ本人ではないか。隣の家に放火しようとして境の塀を燃やしたら、自分の家も燃えちゃいましたという、馬鹿丸出しというかなんというか。

 何を画策しても、結局一番傷ついたのは自分でした的な、この愚かさはどう解釈したらいいんだろう?そこが分からないのですね。子分の日本に対する指示や実行レベルでも、いちいち波風立てる無理筋なやり方をしてるから、結果的には「僕達こんなに悪いことをしてますよ」という逆宣伝効果の方が強い。マスメディアの統制も、あそこまで露骨にやったら、メディアそのものの信頼性が地に落ちてしまうから意味ないです。

私見

 見てると、その昔の少年ジャンプの長期連載マンガみたいな感じがします。あそこで止めておけばよかったのに、、というところで終わらさないで、まだ稼げるからといって、無理やりどんどん話を続けさせていくという感じ。

 僕の雑感としては、軍事系のフォーマットはキューバ危機で燃え尽きてしまったし、資本主義は金融資本主義に移行して、無制限に信用を創造してバブルを膨らませて儲けるという方法論もリーマン・ショックで一応終わったと思ってます。だから軍事も金融バブルも基本的にはオワコンであって、あとそれでも儲けたいなら、ドサ回りで地方の単館で細々とリバイバル上映をするか、地方のTV局の夕方5時半の再放送にするか程度であって、次の企画を打ち出すべきでしょう。でも、それが思いつかないから延々新シリーズを出している。僕の中では、ウルトラマンはセブンで基本終わりで、後の「帰ってきた〜」以降は蛇足だと思ってるんですけど(異論あるだろうが)、それに似ている。段々、水戸黄門的にマンネリ化し、マンネリ化することで伝統芸能化するという、それを狙っているのか?

 しかし、冷静に考えて何でこんなことやってるのか?です。100円儲けるために200円損するみたいな馬鹿なことをやってると、どんどん延焼していってしまうではないか。羊のような一般大衆(シープルと呼ぶらしいのだが=シープ(羊)とピープルを掛けあわせた造語)、日本語でいえば「愚民」ですけど、彼らだっていつまでもシープでもないし、愚かでもないでしょう。現にここ数年で、それまでそういうことに全然関心を持たなかった人も少しづつ関心を持つようになっている。それじゃダメでしょう。民衆を家畜だと思ってるんだったら、ちゃんと餌をあげて、かわいがってやらなきゃ。それをやたら収奪するし、自分らはのうのうと脱税してますだったらマズイでしょうが。

 今回のパナマ文書でも、世界の富裕層に対する恐喝にはなりますよ。お前の名前を公開されたくなかったら言うことを聞けってね。でもね、そんな意図が全くの部外者である僕など、世界中の凡人に見透かされるようではダメっしょ。結局疑問は疑問として永遠に残る。日本だってそうです。猪瀬都知事が5000万円で辞職したけど、あれってほかに数十人以上の献金リストがあったんでしょ?猪瀬知事はその一人にすぎない。そのクビを切って、結局ほかはシカトだったら、すごい不自然なんですよね。ああ、あのリストで恐喝されてるのかもねーって、まあ思うよ。そしてその種の発想というのは、一旦頭に入ってしまったら広がりますから。

 例えば、そういえばスイス銀行は絶対安全とかいうけど、あれも裏を返せば強烈な恐喝のネタになるよなー、もしかしてやってるのかも?とか。そうやって一部の連中が全部仕切るなら、あれもこれもそうじゃない?と疑問視される。ダイヤだって金だって、一握りの連中が採掘量とか調整して価格を高止まりさせているわけだけど、もしかしたらとっくの昔に大金鉱やダイヤ鉱が発見されてて、それが表にでたら一気に無価値になって、世界中の資産がパーになるのかもねとか。大体石油もそうだったじゃないか、枯渇するぞ、なくなるぞと散々言ってて、今は皆で生産調整をしようとするけど、足並みが揃わなくて価格は暴落したままだし。あれが他の金やダイアにおいても生じないという保証はどこにもないぞとかさー。もう考えだしたらきりがないわけです。健全なシープルさん達に、そういうことを考えてもらったらダメでしょう?

仮説その1〜3

 で、いくつか仮説が出てくるわけです。その1は、彼らは真性のアホなのだという説。これまではネットも無かったし、情報統制が上手く出来たので、うまくいってただけの話で、もともとこの程度の実力しかないのだと。遠くの舞台で見る分には鮮やかな手品のように見えても、カメラで中継されて手元がクッキリ見えるようになったら、実は下手クソだったという説ですね。

 その2は、その逆で、めっちゃ賢い連中が、彼らを焚付けて、増長させて、下手を打たせて、トータルで影響力を減殺させて、世界の多極化を進めているのだという説。これは大企業の派閥争いや官僚の勢力争いでよく使われる手らしいですが、反対派のプロジェクトを潰すのではなく、逆にやらせる。どんどん協力して、支援して、思いっきり勇み足をさせておいて、結果的に大失敗に終わらせて、反対派の力を削ぐ方法です。じゃあ、その賢い連中って誰よ?って話にもなりますけど。

 その3は、「彼ら」も「連中」も最初っからいないのだという説。それらしき一群はいるけど、それほど強烈に統率が取れているわけではない。誰も彼もが、自分の利益の極大化をめぐってあれこれ動くんだけど、バブルの時に全員走って全員傷ついたのと同じく、「合成の誤謬」(個々的な利害判断は正しいけど、それが集団になると真逆に大損する)的な状態になってるだけだという説。

 僕が思うのは、この1〜3全部のミックスジュース状態じゃないかなーと。無数にあるベクトルがてんでバラバラに動いている。ある勢力は比較的大きいけど、全部を支配するには到底足りない。かたや一人でシコシコ動いている奴も大量にいる。影で逆に画策している集団も個人もいる。プラスマイナス、前・後・ナナメ、あらゆるベクトルがせめぎあっているので、結果的に出てくるものは、「え?」みたいなヘンテコなことになると。アクセルとブレーキを同時に踏んで、エンジン全開にするとクルマは前でも後ろでもなく、ぐるりと回転したりするけど、そんな感じ。第三次世界大戦というのは、このめっちゃくちゃなバトルロイヤルみたいな、ボールが3個あるラグビーみたいな状況を指していってます。もう第二次までのように「国別対抗戦」なんて牧歌的な時代ではなくて、誰と誰が争っているのかすらよくわからない、一体どこからどこまでが戦場なのかもわからないという。

 しかし、結果としていえば、これまで数十年、絶対漏出することはないと言われていた世界のトップシークレットがいともたやすく出てきてしまったというスゴイ現実があるわけです。なんで?って思いますよね。面白いというか、難解というか、とりあえず刺激的ではあります。
















 文責:田村




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