今週の1枚(08.04.21)
ESSAY 358 : 日本とオーストラリアの通信簿〜世界経済フォーラムより
写真は、Pyrmont parkから対岸のBalmain/Rozelleを望む。シティに滅茶苦茶近いわりには、エアポケットのように知られていないエリア。ここは貨物船のバースがあり、輸入(輸出)車がいつもズララと並んでいます。写真の車はトヨタ車ですよね。トヨタはオーストラリアでも生産工場持ってるから、これは輸出でしょうか、それとも他国製造のものを輸入してるのでしょうか。
今週はまた西欧史シリーズをお休みして、別の話題を。
題して「日本とオーストラリアの通信簿」です。いろいろな世界機関が各国の経済競争力や生活環境などをランキングしています。よくマスコミ誌上を賑わせているので、皆さんもよくごらんになるでしょう。しかし、その多くは個別トピックについてであり、総合的横断的なレポートは少ないです。
そこでよく引き合いに出される世界経済フォーラムのランキングを、本家のサイトにいって見てきました。これが非常に細かいんですね。詳しくは、World Economic Formu/世界経済フォーラムのサイトをごらん下さい。
その前に、世界経済フォーラムとはなにか?
どこかの国が主宰しているわけではなく、独立の非営利財団だそうです。本部はスイスのジュネーブ。1971年の創設以来、毎年、スイスのダボスというところで、世界中の経済界のVIP=約1000社の世界の大企業のトップ、各国のリーダー(首相、大統領)、学者、ジャーナリストなど合計3000人を招いて開催されるそうです。ダボスでやるので、通称ダボス会議ともいうそうです。
早い話が、世界経済のキープレイヤー達が一同に会して、ざっくばらんに意見交換をする場です。別に今回紹介する各国ランキングの作成だけをシコシコやってるわけではなく、様々なテーマでのシンポジウムが開かれています。また、刊行されているのも今回の競争力ランキングだけではなく、国別の女性差別度のレポート(ジェンダー・ギャップ・レポート)、世界ITレポート、観光産業競争力、アフリカ競争力など多種あります。そのなかでも最もゼネラルで横断的なのが、世界競争力レポートです。
さて、このレポートにおける2007-2008年の日本の総合ランキングは世界第8位。オーストラリアは世界19位です。対象国総数131国という数を考えれば、どちらも好成績と言っていいでしょう。あなたが学年131人中8位とか19位だったら結構鼻が高いでしょ。
しかし、これはあくまで総合点であり、90項目ある個別分野を細かくみると、もう暴力的といっていいくらいバラバラです。日本の場合も世界1位!をバシバシとってる分野があると思えば、世界120位という内戦渦巻くアフリカ諸国レベル並の分野もあります。また、日本とオーストラリアとでは点の取り方がかなり違う。非常に面白いです。
さて、お時間のある方は、The Global Competitiveness Report(世界競争力レポート)のページを見てみてください。左上のコラム、Country Analysis(国別分析)をクリックし、プルダウンメニューでJAPANとかAUSTRALIAなどを探すと、各国の個別詳細ランキングが表示されます。「通信簿」ですね。採点対象になる項目は以下の通り。かなり横断的にその国の底力を点検しようというものです。ページ上のタブ「Country performance」では、これら大きな項目における集計点だけ表示されます。
Subindex A: Basic requirements(ベーシックな事項) 22 12
1st pillar: Institutions(制度的環境) 24 13
2nd pillar: Infrastructure(インフラ) 9 18
3rd pillar: Macroeconomic stability(マクロ経済安定性) 97 34
4th pillar: Health and primary education(保健衛生と初等教育) 23 17
Subindex B: Efficiency enhancers(効率性) 13 10
5th pillar: Higher education and training(高等教育)22 14
6th pillar: Goods market efficiency(市場効率性) 19 11
7th pillar: Labor market efficiency(労働市場の効率性) 10 13
8th pillar: Financial market sophistication(金融市場の洗練度) 36 07
9th pillar: Technological readiness(新技術受け入れ体制) 20 17
10th pillar: Market size(市場規模) 4 20
Subindex C: Innovation and sophistication factors(革新度・洗練度) 2 23
11th pillar: Business sophistication(ビジネス洗練度) 3 28
12th pillar: Innovation(新規開発力) 4 22
上記の各項目のうしろに書いてある数字が日本の世界順位です。その後に青字で書いてあるのがオーストラリアの順位。これが世界8位の日本と、世界19位のオーストラリアの内訳です。
これだけでもある程度のところは分かります。オーストラリアの場合、各項目において最高12位〜最低36位で、平均的に10位代、20位代であり、飛び抜けて素晴らしいものはないかわりに概ね満遍なく点が取れており、安定した国であることが窺われます。世界一流とは言わないまでも、1.3流くらいかなと。ところが日本の場合はかなりバラツキがあります。さすが技術の日本で経済・技術開発力は世界ベスト5に楽々入っているのに対し、マクロ経済安定性が世界97位というとんでもないポジションにいるのを筆頭に結構バラけています。また、A項目(ベーシック)とB項目(効率性)だけを取り出して日本VSオーストラリアで比較すると、10項目中7項目オーストラリアの方が勝ってたりします。日本がオーストラリアよりも勝っているのは、インフラ整備、労働市場、市場規模の三点です。まあ、日本の電車網は正確で、人々はよく働くということですね。市場規模は人口が6-7倍違うんだから日本が勝って当たり前ですけど。
しかし、これだけではまだよく分かりません。もっと細かく見てみないと。それに、これだけでは安定しているはずの日本経済が、なにゆえ項目によっては世界97位なんて屈辱に甘んじているのかという理由もよく見えてきません。そこで、もっともっと細かく見ていきましょう。
タブの右端のバランスシートをクリックすると、「良い点」「悪い点」がさらに細かく表示されます。これをカット&ペーストしてみました。量が結構あるのでこのページに載せると大変なので、別ページにしました。日本の通信簿(細目)とオーストラリアの通信簿(細目)を作りましたので、それぞれクリックしてみてください。別ウィンドウが開きます。
この日豪両方の表をよーく見比べてみてください。左側のコラムが「良い点」、右側のコラムが「悪い点」です。
まず最初に気付くのが、オーストラリアの場合、左の良い点と右の悪い点の指摘項目がほぼトントンですが、日本の場合、悪いと指摘された項目が、良い項目の倍くらい多い、ということです。しかも「良い」と計上されている33項目のほぼ全てベスト10にランクインし、うち相当数がベスト5以内という好成績ぶりです。オーストラリアの場合、良いとされた52項目のうちベスト10と10位代がほぼトントンです。つまり、日本の場合、良いとされる項目は少ないけれど、ズバ抜けて良い、オーストラリアはそれほど傑出した成績ではないけど良いとされている項目が多いということです。学校で言えば、数学と化学だけは抜群に良いけど、古文と物理と世界史と体育などダメな科目もその倍くらいあるというタイプが日本。数学、地理、国語、物理などそこそこ多くの科目で好成績を上げているけど、飛び抜けて良いわけでもないというタイプがオーストラリアです。
一言でいうと、日本の方が偏っているということです。
では、どこがどう偏っているか?もうちょっと詳しく見ていきましょう。
なお、予めお断りしておきますが、ここで紹介する数値は上記フォーラムのサイトに掲載されているものですが、その各項目がどういう基準で採点されたのか、その意味は何かという内容面の説明は載っていませんでした。それを知るには、全520頁ほどある分厚いこのレポートを買って、読みこなさないとなりません。僕はそこまでやっていません(買ってもいいなとは思うけど、読むのが大変そうですね)。ですので以下各項目の解説は、項目タイトルだけ見て、僕個人が「こういう意味じゃないか?」と勝手に推測しているだけの話です。もしかしたら全く間違っているかもしれませんので、そのあたりは批判的に読んでください。
特に順位の意味が真逆になる可能性もあります。例えば、インフレ率の順位が高いというのは、「インフレ問題が少ないかどうか」という基準、インフレ率が低ければ低いほど順位が高いという意味だろうと僕は解釈しましたが、正しいかどうかの保証はありません。また、「マラリアの影響」というよく分からん基準もあったりします。まあ、分からんものは「分からん」と書いておきました。
第1分野 Institutions(政府企業などの制度的環境)
まずこの第1分野が顕著に対照的だったりします。
日本の場合、第1分野で「良い」とピックアップされたものゼロ。一つもありません。そのかわり「ダメ」とピックアップされているものが18項目もあります。オーストラリアの場合、第一分野の「良い」は14項目もあるのに対し、ダメは4項目に過ぎません。
もっとも日本の方が総合順位が高いので相対的に点数が辛目なのか、オーストラリアでは「政治家に対する信頼度」が第16位で「良い」に計上されていますが、日本では14-16位の4項目が「ダメ」に計上されています。その国の全体からすればここが良くてここがダメってことなんでしょうね。だから14位でも日本ではダメにされるけど、オーストラリアは良しにされるという。そのあたりは注意しなければならないでしょう。
ただ、それにしてもやっぱりかなり違いますね。オーストラリアの第一分野の良い点を列挙すると、「Efficacy of corporate boards(会社の役員会の効率性)」 3 位、「Strength of auditing and reporting standards(監視機関の監視能力)」 4位、「Judicial independence(司法の独立性)」 6位、「Property rights(不動産の権利)」 8位、「Protection of minority shareholders’ interests(少数株主の権利保護)」 8位、「Intellectual property protection(知的所有権の保護)」 10位、「Diversion of public funds(公的資産の分散性)」 10位、「Wastefulness of government spending(政府機関の無駄遣い)」 10位、「Efficiency of legal framework(司法構造の合理性)」 11位、 「Ethical behavior of firms(企業の倫理性)」 12位、「Reliability of police services(警察への信頼度)」 12位、「Transparency of government policymaking(政策決定の透明度)」 12位、「Favoritism in decisions of government officials(政府決定のエコヒイキの無さ度) 13位、 「Public trust of politicians(政治家への信頼)」 16位となってます。
オーストラリアのベスト10をみると、会社の取締役会が効率的に運営されている(3位)というのは、「ほう、そうなんか」と思うけど、まあ、日本の儀式みたいな会議のやり方に比べたら合理的だと思います。西欧圏って大体そうだと思ってたけど、そのなかでもオーストラリアの会社の重役は効率的にやってるらしいです。あと、監視機構の権限の強さ4位というのは、これは分かります。以前エッセイで(ESSAY54/ICACとサラサラ社会でも取り上げましたが、ICACという汚職防止委員会がよく働いてます。政治家の汚職を警察が捜査するのではなく、専門機関がやり、しかも警察以上の捜査権力を持ってます。必要があれば盗聴も、メールの傍受も可能であるという。「司法の独立性」6位というのは、ま、確かに政府与党や他の権力を屁とも思ってない部分はありますね。
逆にオーストラリアのダメポイントを見ます。しかし第一分野では案外少なく、先ほどの「テロ対策コスト」79位、「Burden of government regulation(政府規制の厳しさ)」 68位、「Business costs of crime and violence(犯罪暴力に関するビジネスコスト)」 26位、組織暴力24位になります。
一方日本ですが、「良しポイント」はなく、ダメポイントだけですが、ダメ順に並べると筆頭に「Business costs of terrorism 104位」ってのが 来ます。「テロに対するビジネス経費」って項目の意味がよく分からないのですが(政府がテロ対策をあんまりやってくれないので自腹を切って対策しなければいけないのでコストがかかるって意味なんでしょうか)、まあ、それはパスして、次に「Wastefulness of government spending (政府が税金を無駄遣いしてる度)」94位というのは、「うんうん」という気がしますね。しかし、政府の無駄遣いなん、どこの国でも似たようなもんだろうと思ってたのだけど、94位というのは凄いですね。131カ国中。確かに日本は無駄遣いが多いなと思っていたけど、そこまでヒドイとは思わなかったです。
次に、ダメ項目の3番目にあがっているのが「Organized crime(犯罪組織)」で、要するにヤクザですね。アンダーグラウンドの闇社会(の悪影響の少なさ)ですが、これが世界65位です。131国中だから丁度半分くらいです。日本にいるとつい慣れてしまうか、気付かないけど、オーストラリアにいると日本ってやっぱり暴力団多いと思います。オーストラリアだって組織犯罪はワースト項目に挙げられているけどそれでも24位です。日本の総合が世界8位だとするならば、65位というのは相当の欠点として挙げられるでしょうし、大きな特色でもあります。まあ、考えてみれば、日本には任侠映画とかTVドラマとか、犯罪組織を扱ったものは沢山ありますもんね。
ダメ項目4番目は「監視機構の権限」で、先ほどオーストラリアでは世界4位だった分野ですが、これが日本は42位です。汚職など権力に対するチェック機構が甘い。これも頷けます。以下、「少数株主の保護」33位、政治家に対する信頼度33位、犯罪や暴力に対する企業のコスト(総会屋対策やミカジメ料などでしょうか)32位、公的資産の分散度31位ときて、企業の取締役会の効率性が31位にきます。オーストラリアでは世界3位だった分野です。
さらに見ていくと、司法の独立性21位、企業の倫理度20位、警察への信頼19位、行政のエコヒイキ度18位、知的所有権の保護17位、政府規制の重荷16位、司法構造の効率性15位、不動産の権利14位、政策決定の透明度14位と続きます。10位代だったら、「ダメ」カウントよりも「良し」カウントしてもいいと思いますけど、「政策決定の透明度14位」というのはちょっと意外ですね。もっと不透明な永田町の論理でやってるような気がしますが、よそはもっとヒドイんですかねえ?
以上が、第1分野「組織」面における採点です。ここで何となく透けて見えるのは、日本というのはとかく組織面がダメなんじゃないかって点です。アリ型社会の日本では世界最強の組織を作っている筈なのですが、、、、おそらく、それはヒラから中間管理職のレベルの人達の頑張りが凄いだけのことで、組織自体のマネジメントに関しては、むしろ日本の足を引っ張っているといっていいでしょう。上記の各ダメポイントを総合すれば、日本というのは、「とにかく政府が無駄遣いをしまくっていて、暴力団がはびこっていて、それに対するチェックも甘い国」と描写することが出来るでしょう。
これに対してオーストラリアの場合、企業の取締役会の効率性、監視機関の強さ、司法の独立、政府の無駄使いの少なさ、企業の倫理性などが軒並み高得点です。特に権力に対する監視やチェック機構が厳しく、必然的に政府や企業もキチンとやらざるを得ないという状況が見えてきます。暴力団など犯罪にむしばまれて、政府が経費の垂れ流しをして、それをろくにチェックすることもできない日本とは鮮明なコントラストをなしています。
これを一言でいうと、日本の場合は、政府官僚や企業の首脳陣、つまり「エラい人」がダメだということになるのでしょうか。日本をダメにしているのは、エリートと呼ばれる社会の指導層であると。何がダメかといえば、個々人の能力というよりも、癒着その他組織のあり方やマネジメントがダメだということです。後でも触れますが、せっかく世界最強レベルの技術力や開発力を持ちながら、政治家や企業首脳陣がその足を引っ張っているという構造です。
逆に言えば、日本というのは政治や経営の風通しを良くしていけば、とんでもなく良い国になりうる可能性を持っているわけです。
でも、ここを変えない限り、低賃金と介護疲れで過労死するほど働こうとも日本は浮上しない。受験対策でも良く言いますよね、弱点科目こそ得点増の宝庫だって。90点の科目を95点にするのは大変だけどトータルで5点しか伸びない。しかし40点のものを60点にするのは比較的簡単でもある反面、20点も伸びる。だから最弱点部分、日本の組織の癒着性と自浄能力の無さを徹底的に改善すれば、日本という国は飛躍的に良くなるポテンシャルを秘めていると言えます。
ただ、モンダイは、それが出来るかどうかです。だから選挙に行けって思うんですよね。「チェック機能」「自浄能力」の最たるものは投票ですもん。政治家なんか落選したらただの人だし、いい加減なことをするとボコボコ落選するとなると、癒着しようもない(癒着した相手が落ちるから)しね。もっともコストがかからず、簡単に出来る日本改善策です。でも、それが分からず、それをせずであれば、「この程度の国民にこの程度の政府」ということになっちゃうんでしょう。ちなみにオーストラリアは義務投票だから投票率ほぼ100%です。
第2分野 インフラストラクチャー
次に第二分野インフラを見ます。この分野は、さすが日本、非常に強い。
良い点に挙げられているのは「Quality of railroad infrastructure(鉄道網のクオリティ)」が世界第2位。「Available seal kilometers (hard data)(舗装道路全長)」も世界4位。「Quality of electricity supply(電気のクオリティ)」も世界 4 位です。
逆に第二分野で日本がダメなのは、「Quality of air transport infrastructure(航空設備)」が32位、「Telephone lines (hard data)(電話線)」 24位、「Quality of port infrastructure(港湾設備)」 17 位、「Quality of overall infrastructure(インフラ総合)」 15位、「Quality of roads(道路のクオリティ)」 13位です。まあ、ダメといってもこの程度です。航空設備で点が低いのは、空港の発着料が高いとか、関空ですらやっと(2007年)第二滑走路ができたとか(シドニー空港ですら第三滑走路まである)、そのあたりでしょうか。
一方、オーストラリアの第二分野は、良い点が「Available seat kilometers (hard data)(舗装道路全長)」で8位、「Quality of air transport infrastructure(交通機関のインフラ) 14位、「Telephone lines (hard data)」 16位です。逆にダメなのが、港湾29位、道路25位、電気23位、鉄道22位、総合21位です。
ということで、第一分野・組織に惨状に比べれば、日本の第二分野・インフラは大したものだと胸を張っていいでしょう。
ただし、穿った見方をすれば、これって過剰な公共投資=「政府の税金無駄遣い」と表裏一体って部分もあると思います。例えば舗装道路のキロ数ですが、これは(hard data)で単純に統計を比較してのランキングなのでしょうが、日本が世界4位、オーストラリアが世界8位です。「あれ?」と思いませんか。だって、オーストラリアって日本の国土面積の22倍くらいあるのですよ。22倍デカいんだから、舗装道路全キロでいえばオーストラリアの方が長くなって当たり前なのに、そうなっていない。国土面積22分の1の小さな日本の舗装道路の全長の方が、あの巨大なオーストラリア全体の舗装道路よりも長いという。まあ、日本の方が人口が6倍以上いるから当然なのかもしれないけど、過剰舗装じゃないの?という気もちょっとしますね。
あと電話線に関しては日本の方がずっと進んでると思うのですが、日本24位、オーストラリア16位でこれも逆転しています。これもハードデーターだから単純に電話線の長さだけだとするなら、デカい国の方が長くなるというのは分かります。でも、だとすれば道路だって同じことじゃないかって気もしますね。ふむ?
第3分野 Macroeconomic stability(マクロ経済の安定性)
この分野について、日本は天国と地獄とを同時に見ています。まず「良い」点でいえば、「Inflation (hard data)(インフレ=の少なさ)」が世界1位! 「Interest rate spread (hard data)(貸出金利と借入金利の差)」が世界2位です。金メダルと銀メダルを取ってます。
ただ、これもあんまり素直に喜べないのは、インフレが低いというのは物価が安定してていいのですけど、それだけ経済が成長してないってことでもあります。普通の成長してたら年2−3%はインフレになって当たり前だと言われますから。金利スプレッドも、貸出金利と借入金利差が少ないということで、一見銀行がそれだけ良心的に運営されているという気もしますが、しかし元々の金利が0.2%とかその位だったら、そりゃ貸出金利との差も短縮されるでしょうって気もします。これらの数字はいずれも単純なハードデータで評価を含むものではありません。つまりなぜインフレ率が低いのかの理由も含めて評価しているものではなく、単純にインフレやスプレッドの数値だけの比較です。経済が長期停滞して、インフレどころかデフレが起きてるような国の場合、インフレ率マイナス○%ということでむしろ上位にランクインされてしまうわけで、このあたりの評価は微妙だと思います。
ともあれ、インフレが少なく、貸出金利も相対的に低いということで、今の日本の「賢い利用法」としては、お金を使うだけの立場であれば物価が安定しているので住みやすいし、お金を借りるんだったら金利が安いから有利ってことでしょう。だから円キャリートレードなんてのが起きるのでしょう。今、お金を借りるなら日本ですよ。逆に、モノを売ったりするにはインフレ率が低いからなかなか値上げできない。材料が上がっても価格に転嫁しづらいというシンドイ側面はあります。
一方、日本の「悪い」とされている第三分野はどうなっているかというと、これが「目を覆わんばかり」といっても過言ではないくらいの惨状です。つまり、「Government debt (hard data)(政府の借金)」がなんと世界120位。「Government surplus/deficit (hard data)(政府の収支)」も111位です。 言わずとしれた、日本の財政の火だるま状態です。赤字国債など積もり積もって800兆円。年収の16倍の借金ということで、普通の企業や個人ならとっくの昔に倒産している破綻状態なのは、皆さんもご存知でしょう。もっとも、これもハードデータですから、為替レートなどの関係で日本よりももっと破綻しているのにランキング的には日本よりも良いという国も沢山あると思います。また、「National savings rate (貯蓄率)」も、世界一の貯蓄国家と思いきや、最近は貯金を食いつぶしているのか、35位になってます。
一方オーストラリアはどうかというと、良い面は日本と対照的に「Government debt (政府の借金)」で16位です。 国家財政はかなり健全。というか、十数年続いた景気のおかげで国家財政はかなりの黒字、だから減税減税の大盤振る舞い、しまいには昨年の総選挙対策で現政権がバラ撒き予算を組んだけどもうインパクトないから負けちゃったくらいです。しかし、今のオーストラリアよりも政府の借金が少ない国が15国もあるのか。「悪い」点では、貯蓄率が73位、 金利スプレッド66位、インフレ率53位、政府の収支38位です。呑気なオージーの貯蓄率が73位どまりというのはちょっと意外ですね。スプレッドとインフレ率は景気がいいからそうなって当然でしょう。特にインフレはすごいですね。バスの料金なんか年に3回くらい上がってるんじゃないかと思われるくらい(もっと少ないんだろうけど、そう感じるくらい)です。家賃もガンガン上がるし。だから中央銀行は何度も何度も金利を上げてインフレの火消しに躍起になっているという。
政府収支が38位で悪いのは意外ですね。あれだけ税収があるんだからもう少し収支バランス良くなっても良さそうなんだけど。尤も、世界は広いですから、国内に石油が山ほど出るから税収なんかどうでもいいもんって裕福な国もありますからねー。ちなみに、この第三分野の世界一位はクェートです。以下、アルジェリア、サウジアラビア、リビア、香港、ノルウェイ、中国、韓国、フィンランド、デンマーク、オマーン、チリ、と続き、産油国が上位を占めてます。北欧諸国は何をとっても優等生です。香港、中国、韓国が良いのは、結局ガンガン経済成長して景気がいいから政府財政も潤ってるってことでしょう。オーストラリアはインフレ率や貯蓄率が響いて世界34位、日本はトホホの97位です。財政赤字はアメリカもかなりヤバいのですが、それでも75位です。
総じて言えば、日本の国家財政のヤバさというのは、アフリカなどの第三世界を含む世界レベルで見ても、相当なものだということが改めて分かります。120位ですもんね。インフレが低いからかろうじて第三総合97位に留まってるけど、総合120位っていえば、ザンビア、チャド、モザンビーク、マダガスカルあたりにも負け、あとはもうジンバブエとかエチオピアになるというレベルです。もっともエジプト124位、ブラジル126位だけど。
救いを言えば、日本政府の借金というのはその大半が赤字国債であり、いわば自己借金であるという点です。日本人が日本人に借りている借金ですから、いざとなればチャラに出来ないこともないです。まあ、これがチャラになるということは、民間部門に800兆円の資産空洞が出来るということで、日本経済は一気に内臓を抜かれてしまうから、そうそう出来はしないまでも、他国からの借金でない分まだマシです。
いずれにせよ、短期から中期において将来を観測するに、日本政府にお金ちょーだいと期待することは難しいということです。破産している友達からお金を貸してと頼むようなものです。「ない袖は振れない」。これ、しかし、改めて考えると慄然としますね。少子化とセットになってる高齢化が進行し、これから先、日本は幾らお金があっても足りないという「物入り」の時代が続きます。頭でっかちの人口構成ピラミッドが是正されるのにあと50年くらいは掛かるでしょうから、これからの半世紀、国民は政府からなんだかんだでやたらお金をむしり取られるけど、年金などの貰う分については、あれこれ理屈をくっつけて払ってもらえないという状況が続くでしょう。年金なんか「原簿を紛失した」という反則レベルの凄い理屈(とも言えない)が出てきてますしね。
しかしねー、年間歳入の16倍もの借金があるという状況で、僕が財務省や厚生労働省の役人だったら馬鹿馬鹿しくてやってられませんよ。「無理、無理、絶対無理!うぎゃー!」ってブチ切れ、発狂して「高齢者3000万人くらい皆殺しにしろ、原発をぶっこわして1000万人くらい殺せ!裏から北朝鮮にミサイル渡して東京に打ち込ませろ!」と喚きながら霞ヶ関の道路を歩いているかも知れません。それか金融庁を焚きつけて、超インフレを誘導して、インフレ率1500%くらいにして借金チャラにしたくなるでしょう。
なんでこうなったの?というと、だからさっきの「政府の税金無駄遣い度世界94位」「チェック機能42位」でしょう。世界94位レベルに政府が税金を垂れ流していたら、そりゃ世界120位の借金大国になっても不思議ではないだろうってことです。
日本の問題は教育とか労働環境とか色々ありますが、突出して問題なのがこの財政です。とにかく、トコトン金が無い、ってことです。
第4分野 Health and primary education(保健衛生と初等教育)
これはさすがに日本、ダントツに強いです。「Primary enrollment (hard data)(小学校入学)」 1位、「Life expectancy (平均寿命)」 1位、「HIV prevalence (HIV予防)」1位、「Malaria incidence(マラリア感染)」1位と金メダルラッシュです。さらに、「Infant mortality (新生児死亡)」も3位の銅メダル。つまり、赤ん坊も死なない、老人も死なない、エイズやマラリアも少ない(まあ気候的にそうだけど)、みんな小学校には入ってるということで、日本人的な感覚ではすごく当たり前なんだけど、世界的に見たらこれが金メダルなんです。だから、ほんといい国ですよ。生まれた国が違ったら、とかく赤ちゃんはすぐ死ぬもので、小学校に入る余裕すらなく、エイズやマラリアにかかって死んだりするわけです。寿命だって60歳以下って国も結構あります。
が、いいことばかりではなく、ダメな点としては、 「Education expenditure(教育費)」 86位、「Quality of primary education(初等教育のクオリティ)」 24位という点が挙げられています。教育費がえらく掛かるのと同時に、小学校教育は別にダメってほどではないけど格別素晴らしくもないということです。皆が小学校に行ってるのはいいのだけど、お金もかかるし、質もイマイチってことでしょう。 あと、「Business impact of malaria 58位」「Business impact of tuberculosis 50 位」「Business impact of HIV/AIDS 50位」「Tuberculosis incidence (hard data) 46位」あたりはよく分からないです。マラリアによるビジネスの影響度?誰がそんなにマラリアに罹ってるの?という。まあ、色んな国に行く駐在員さんとかの話なのかもしれませんが。
さて、オーストラリアの場合、良い点は、「Malaria incidence (hard data)」でまたよく分からないマラリアですが、これが世界1位です。平均寿命は世界3位。日本の一位には及ばないものの、オーストラリアも堂々たる長寿国です。結核(の予防)9位。あと、「初等教育の質」12位が来ます。これは日本では24位だった分野であり、初等教育はオーストラリアの方がやや良いのでしょう。「ダメ」ポイントですが、「教育費の支出」が45位で、日本の86位ほどではないけど、結構費用が嵩んでいることが分かります。その他、「新生児死亡率」が意外に悪くて22位です。日本は3位ですから。が小学校教育の内容というのは、悪い数字ですね。なんで?って思ったのですが、もしかしたらこのあたりの数値の低さは、アボリジニの問題とリンクしているのかもしれません(奥地にいるので教育を受ける機会に乏しいとか)。あと、よく分からない「Business impact of malaria」48位、「Business impact of HIV/AIDS」 37位、「HIV prevalence (hard data)」 25位、「Business impact of tuberculosis」22位です。
第5分野 Higher education and training(高等教育と職業訓練)
日本の「良い」は、「Extent of staff training (社内教育程度)」で、これは世界に誇れる第4位。「Local availability of specialized research and training services(地元における専門化された研究と訓練)」というのは分かりにくい概念ですが これが第6位。わざわざ外国に出て行かなくても日本国内で大抵のことは学べるということでしょう。これは確かにそうだと思いますね。よほどの専門性やレベルの特殊性がない限り、一般的なものは殆ど日本で学べます。
逆にダメポイントは、「Quality of management schools(経営学校のクオリティ)」で 68位、「Tertiary enrollment (hard data)(大学、短大の入学)」が32位。これは入試の難しさなどを反映しているのでしょう。「Quality of math and science education(理数系教育の質)」が意外に悪くて29位、「Quality of the educational system(教育システムの質)も28位、「Internet access in schools(学校におけるインターネット普及率)」26位、「Secondary enrollment (hard data)(中学高校の入学)」22位は、これも中学高校入試を反映しているのでしょう。
一方、オーストラリアは、「Secondary enrollment (hard data)(中高入学)」が世界1位。「教育システムの質」が8位、「大学以上の入学」13位、「学校でのインターネット」15位、「ビジネス学校の質」16位、「地元における専門研究・訓練」が16位です。ダメな点は、「理数教育」 24位、「社内教育」20位です。
総じて言えば、日本は会社内部での社員教育は非常に強いのだけど、中高大学は入りにくいわりには質が低いと言えます。一方オーストラリアの場合、コンスタントに教育の質が良いですね。日本人の数学能力は世界一だった筈ですが、理数教育なんかオーストラリア24位で日本29位ですから、結構負けてたりします。
日本の社内教育は良いと思いますよ。西欧流は使えなければ即クビですけど、日本は基本的なところから使えるように叩き込んでいきます。敬語の使い方とか、お辞儀の仕方とか、別に会社が教えるようなことではない礼儀作法や社会常識まで丁寧に教えてくれますからね。最近は安直に派遣を利用して、このあたりの社内教育がおろそかになってるやに聞きますが、およそ日本の教育機関でもっとも内容のある教育をやってるのは職場だと思います。海外のビジネス学校に行くくらいなら、日本のしっかりした職場で丁稚奉公やった方がよっぽどタメになると思いますね。
第6分野 Goods market efficiency (物販市場の効率性)
これは日本の場合、良いのと悪いのが激しく入り乱れています。「良い」点は、「Degree of customer orientation (顧客志向)」ですがこれが世界第2位。顧客志向って、要するに「お客様は神様」 ってことだと思います。これはさすがに日本は強く2位。1位じゃないのが不思議なくらいです。「Extent of market dominance(市場独占の程度)」第2位、「Intensity of local competition(地方競争の激しさ)」3位、「Buyer sophistication(顧客の洗練度)」3位です。このあたりマーケティング専門概念なので今一つよく分からないのですが、顧客志向で顧客の洗練度が高いというのは、違いの分かる消費者に痒いところに手が届く商品を出すと売れるという日本市場の特徴を捉えているのだと思います。市場独占が2位、地方競争が3位というのは、あまり独占が進んでおらず、適度な競争状態にあるのでマーケットとしては優良であるということなのでしょうか。洗練されて、新規参入も十分可能な美味しい市場ということかな。
一方、この分野に関する日本の悪い点は、これも結構あって、「Agricultural policy costs(農業政策コスト)」でこれが何と122位です。農業政策にお金がかかるということでしょうか。日本の農業を守るためにあれこれコストもかかるし、また日本の農業市場に参入するにもコストがかかるということで、かなり一般の市場とは趣を異にしているのでしょう。「Prevalence of foreign ownership(外国人所有を防ぐ)」という鎖国的な部分は 90位、「Total tax rate (hard data)(総合税率)」 87位、「Business impact of rules on FDI(外国人直接投資規制によってビジネスが被る影響度) 80位、「Extent and effect of taxation(税制の程度と効果)」 66位、「Prevalence of trade barriers(貿易障壁)」 59位、「Trade-weighted tariff rate(加重関税率)」 46位、「Burden of customs procedures(関税手続の負担) 40位、「Time required to start a business (開業までの所要時間) 38位、「Number of procedures required to start a business (hard data)(開業までの手続の数)」 37位、 「Effectiveness of anti-monopoly policy(独禁法の有効性)17位ということになっています。
日本の市場に関していえば、市場そのものは優良で面白いけど、なんだかんだ規制やバリアが多くて参入しにくいという日本市場の閉鎖性という特徴を著しているように思われます。
オーストラリアの方はどうかというと、「開業までの手続数」が第1位、「開業までの所用時間」第1位と、世界で最も開業が容易なのですね。また、「独禁法効果」も5位、「農政コスト」も10位、「地方競争」15位ということで、規制や手続面でビジネスを始めやすい環境にあることが分かります。但し、ダメなポイントも多く、「総合税率」 83位、「税制の程度と効果」75位、「加重関税」67位、「外国人直接投資」54位、「外国人所有」25位、「関税手続負担」25位、「貿易障壁」24位、「顧客洗練度」20位、「市場独占」20位、「顧客志向」19位になってます。日本に比べてそれほど美味しい市場ではないけど、日本よりも外国からの参入は容易であるが、かといって優秀でもない、しかしビジネスを開始するのは非常に簡単であるというのがオーストラリア市場の特徴なのでしょう。
以上を総合すると、日本の場合は、市場は優秀なんだけど、政府のあれこれの規制がとても鬱陶しいと思われているのでしょう。何というか、顧客や顧客志向に徹する企業、企業間競争などは非常に高水準で優秀なのだけど、政府があれこれ動くからやりにくいという、これも民間レベルでは優れているが、政府レベルではダメだという評価がなされているのがわかります。但し、政府規制が鬱陶しいということは、それだけ国内産業(特に農業)を保護していることの裏返しでもあり、ダメ評価を受けている方がかえって国内的には「頑張ってる」ことにもなるのでしょうね。
第7分野 Labor market efficiency (労働市場の効率性)
さて、労働市場についてですが、日本の場合、良い点としては、「Cooperation in labor-employer relations(労使協調関係)」 6位、「Brain drain(頭脳流出)」9位が挙げられています。しかし、良いのはそれだけ。日本株式会社の労使協調は有名ですが、これも1位でないのが不思議で、日本以上に労使が協調している国があと5つもあるというのが凄いです。頭脳流出が9位というのは、そんなに少ないかな?って気もしますが、言語バリアとかいろいろなファクターがあるのかもしれません。
逆にダメポイントは数が多く、「Hiring and firing practices(雇用・解雇の実務)」 85位、「Female participation in labor force (女性の職場参加)」75位、「Non-wage labor costs (給与外雇用コスト) 48位、「Rigidity of employment (雇用の硬直性)」 38位、「Reliance on professional management(専門経営者への信頼)」 16位、「Flexibility of wage determination(給与決定の柔軟性)」 14位、「Pay and productivity(給与と生産性)」 13位、「Firing costs(解雇コスト)」 11位となっています。
オーストラリアの場合、良い点は、「雇用硬直性」 4位、「専門経営への信頼度」5位、「解雇コスト」6位 。逆に悪い点は多く、「給与柔軟性」87位、「給与外コスト」83位、「雇用解雇実務」63位、「労使協調」47位、「女性参加」42位、「給与生産性」40位、「頭脳流出」36位となっています。
総じてみると、オーストラリアは労働法が強く、また労働者の権利意識も非常に強いので、日本で顕著にみられる労使協調性や給与柔軟性が低いです。しかし、これはそれだけ労働者の権利保護が厚いということでもあり(特に最低賃金など規制は強い)、経営的にみるとオーストラリアは人を雇いにくいところというイメージどおりの結果だと思います。しかしながら、簡単に皆さん辞めていくし、またクビにするのもかなり簡単だということでもあります。労働者の権利保護は非常に厚いのだけど、労働流動性は高いってことですね。
日本はこれと対照的で、労使協調路線が強く、また頭脳流出も少なく、生産性も高く、給与も柔軟ということで、人を雇うなら日本ですね。逆に言えば、それだけ日本の労働者はおとなしいとも言えます。頭脳流出でオーストラリアが多いのは、これは同じ英語圏ですから、気楽にアメリカとかイギリスや転職していくということでしょう。
女性参加率に関して言えば、日豪どちらもダメですね。日本の75位はかなり低いですが、オーストラリアの42位も結構ダメです。
ちなみに、世界経済フォーラムでの「性差別レポート」によれば、日本の総合ランクは世界91位です。これは結構恥ずかしい数字だと思いますね。オーストラリアだって17位で、大きな顔をできる順位じゃあないです。1位はスウェーデン、2位ノルウェー、3位フィンランド、4位アイスランドと、このあたりになると北欧系が圧倒的に強いです。意外なところではフィリピンやスリランカが上位にランクインしています。
第8分野 Financial market sophistication(金融市場の効率性)
だんだん疲れてきましたね、はしょっていきましょうか(^_^)。
金融ですが、日本のグッドポイントはたった一つ、「Financing through local equity market(地元市場による自己資本調達)」の8位で、ダメポイントは数多く「Soundness of banks(銀行の安定性)」 84位、「Restriction on capital flows(資本流動規制)」 58位、「Ease of access to loans(借金の容易さ)」 53位、「Regulation of securities exchanges(証券交換の規制)」 38位、「Venture capital availability(ベンチャーキャピタルの可能性) 37位、「Financial market sophistication(金融市場の洗練性) 34位、「Legal rights index(法的権利指数) 27位、「Strength of investor protection (投資家保護の強さ)」 12位 となっています。
オーストラリアの場合、 「証券交換規制」2位、「法的権利指数」3位、「地元市場による自己資本調達」6位、「金融市場の洗練度」8位、「銀行の安定性」9位、「ベンチャーキャピタル」13位、「借金容易性」13位です。意外とオーストラリアというのは金融面が優秀なのですね。欠点となっているのは二つだけで、「資本流動」50位、「投資家保護規制」35位です。
日本の「良い」点は、日本の株式市場で自己資本を調達できるというただ一点だけで、これは日本企業&市場の閉鎖性、会社相互の株式持合、メインバンク制などを考えれば、日本の株式市場こそがメインの資本調達場所でしょう。自分の市場はダメダメだからわざわざ外国市場までいって株式や社債を発行しなければならないという面倒くささはないです。それは素晴らしいのですが、それ以外の点、総じて日本の金融は評価が低いです。物販市場における顧客の洗練度なんか世界3位であるくせに、日本の金融市場の洗練度は34位です。また特筆すべきは、日本の銀行が安定性に欠けると評価されている点です。先進国でありながら自分の所の銀行の安定度が84位というのはかなりヤバイとも言えます。
第9分野 Technological readiness(技術の受け入れ体制)
"readiness"の適訳が思いつかないのですが、新しい科学技術が登場した場合、国全体でどれだけそれを受け入れる体制が整っているかってことだと思います。新しいインターネットの技術が開発されても、国民誰もコンピューターを持っていなかったらで受け入れられないわけですから。
日本の場合、「Firm-level technology absorption(企業レベルでの技術消化力)」 3位、「Availability of latest technologies(最先端技術の利用可能性)」 10位が良い点としてあげられています。ダメな点としては 「FDI and technology transfer(外国直接投資と技術移転)」 58位、「Mobile telephone subscribers(携帯電話契約者)」45位、「Laws relating to ICT(情報通信技術に関する法整備)」 29位、「Personal computers(個人所有のコンピューター)」18位、「Internet users (インターネットユーザー)」17位、「Broadband Internet subscribers(ブロードバンド契約者)」15位となってます。
オーストラリアの場合、「インターネットユーザー」 4位、「パソコン」6位、「企業レベルでの技術消化力」18位、「ブロードバンド契約者」 30位、「携帯契約者」 29位、「外国人直接投資と技術移転」 19位、「 情報通信技術に関する法整備」19位、「最新技術」19位。
この分野に関しては日豪双方とも先進国的な順位に付けていて、極端に悪いものは見あたらないです。日本の閉鎖性による外国人投資の難しさくらいでしょか。しかし、この分野については疑問が多いです。オーストラリアがインターネットユーザー数で4位、パソコン6位というのは、「ほんとか?」って思いますよね。生活実感で言えば、インターネットに関しては日本の方が全然進んでますけどね。まあ80歳のおばあちゃんまで含めて国民全体の数値なのかもしれないけど。それに携帯オタクの日本の契約者数が45位というのは腑に落ちないです。うーむ、どういう基準なんだろう。やっぱり本を買って調べてみるしかないのかなあ。
第10分野 Market size (市場規模)
市場規模については日本は強いです。国内(Domestic market size index)で第4位、海外市場(Foreign market size)で第5位。この分野で日本のダメポイントはありません。
オーストラリアの場合、国内市場で17位、海外で36位です。人口2000万人しかいないわりには17位というのは健闘かもしれないけど、海外市場が痩せてますね。日本の場合は、国内1億人市場があるほか、ソニーやトヨタなど海外で売れまくってる企業が沢山抱えているので強いでしょう。この分野はもう日本の圧勝といっていいでしょう。痩せても枯れても経済大国。
第11分野 Business sophistication (ビジネスの洗練度)
日本ですが、GOODポイントが多く、「Local supplier quantity(地元供給者の量)」 2位、 「Production process sophistication(生産工程洗練度)」 2位、「Value chain breadth (価値連鎖幅=付加価値)3位、 「Local supplier quality(地元供給者の質)」 4位、「Nature of competitive advantage(競争優位性)」 4位、「Control of international distribution(世界流通支配度) 9位と良い点が沢山計上されています。また、悪い点といっても「Extent of marketing (マーケティングの程度)」15位、「Willingness to delegate authority(当局への権限委譲意思?今ひとつ意味がわからない)」 15位、「State of cluster development(集団開発度)」 12位 となっており、それほど低い評価でもないです。
オーストラリアの場合、「マーケティングの程度」12位、「Willingness to delegate authority」14位、「地元供給者の質」16位 が「良い」とされているくらいで、「悪い」点は非常に多いです。「付加価値」86位、「集団開発状況」49位、「競争優位性」43位、「世界流通支配度」34位、「地元供給者の量」33位、「生産工程洗練度」23位です。
この分野も日本の圧勝ですね。トヨタのカンバン方式を世界中から見学に来るように、物作り、付加価値については日本はさすがに強力です。生産工程は洗練されているわ、一つの企業が単独に頑張っているのではなく、部品下請け、原材料などサプライヤーも日本国内に沢山あり、その質も高い。一方、オーストラリアの場合、鉱物や農水産物の輸出や観光、教育くらいが看板産業であり、日本のように優秀な工業製品をガンガン作り続ける企業も、また全体の態勢にもなっていません。まあ、オーストラリアにおけるモノ作りで付加価値が高くて、そこそこ世界的に売れているものって、サーフボードとオーストラリアワインくらいかなあ。
しかし、日本の経済というのは、本当にモノ作り系、製造業が強いのですね。逆に金融なんかは評価が低いし、政府や政策に関する評価はもっと低い。日本経済が強いといっても製造業の一部が強いだけで、その他の経済領域(金融とか)は大して強くも良くもないです。結局、トヨタや松下などの製造業の一部が
日本を引っ張ってくれているという構図がよくわかります。
第12分野 Innovation (新規開発)
やれやれ、やっと最後の分野だ。
新規開発、イノベーション分野ですが、日本はどうなっているかというと、「Availability of scientists and engineers(科学者や技術者の豊富さ) 2位、 「Utility patents(実用特許)」 2位、「Company spending on R&D(企業の研究開発費)」 3位、「Capacity for innovation(新規開発の受容力)」 3位ということで、
優秀な技術者がいくらでも存在し、企業も研究開発に励み、特許の数も多いということですね。ダメと言われる分野においても、「Government procurement of advanced technology products(先進技術製品の政府の調達度) 16位、「University-industry research collaboration(大学=企業間の研究協力体制) 14位、「Quality of scientific research institutions(科学研究機関の質) 12位ということで、それほど低いわけではないです。
一方オーストラリアは、「科学研究機関の質」 15位、「実用特許」 17位くらいが特筆されるくらいで、「科学者技術者の豊富さ」は34位、「新規開発受容能力」は30位、「政府調達度」28位、「企業開発費」25位、「大学企業協力体制」22位で、格別悪くはないものの、別に良くもないという。特に、優秀な人材が少ないという点は、頭脳流出とリンクしますが、同じ英語圏だからちょっと優秀だったらすぐにアメリカとかに行っちゃうんでしょうねー。
うわあ、長くなってしまいました。お疲れさまです。
全部を通観するに、日本の強みは製造業などの経済分野です。何を今さらって当たり前の結論ですが、でも改めてそう確認したということですね。日本がダメな点は、政府の税金無駄遣い&莫大な財政赤字です。最悪の122位の農業規制は、まあ食糧自給や文化保持という国策もあるから直ちにネガティブ評価はできないまでも、無駄遣い度94位、国家破産度120位というのはかなりヤバイ。そして、この惨状と側面からリンクするのは、政府規制の煩雑さとチェック機能の低さでしょう。社内教育とか、労使協調とか、平均寿命とか新生児死亡率とか、民間経済の競争とかが良いというのは、民間部門、要するに日本人が個々人として頑張ってる分野は強いということです。一個の人間としての日本人の誠実なガンバリズムが浮かび上がってきます。それなのに「エライ人」が絡んでくればくるほどダメになる。日本独特特の閉鎖慣行やら、システムやら、硬直性やらで、国民全員小学校にはいってる優良教育国でありつつ教育費が高いとか、学校システムや質の低さとか、金融関係の変な規制や銀行の不安定さとか。
ひっくるめて言えば、今日本をよくしようと思えば、個々人が個々人レベルで日々頑張ることよりも(それも大事ですけど)、もっとトータルマネジメントの改善を図ることであり、ひらたく言えば、政治意識を持てってことでしょう。日本人はもっと怒るべきなんでしょう。これだけ働いてこれだけのリターンしか受けてなかったら、普通の国だったら暴動が起きても不思議じゃないです。まあ、暴動を起こせとは言わないまでも、デモ隊が国会を取り巻くくらいいってもいいです。また、マスコミもおちゃらけ政治ショーの低レベル情報を振りまくのではなく、もっとシリアスに報道するとかね。国民も含めて「もっと真面目に政治をやれ」ということでしょう。チェック機能が低いというのは、そういうことだと思います。極論すれば、頑張って働いてるヒマがあったらデモをやれと(^_^)。でないと、ザルで水汲んでるようなものだと思いますです。
なーんてエラそうな書き方してますけど、僕だってダメダメですよね。政治っつっても在外投票するくらいですが、ただ、まあ、こうやって「ふむ」と考えてみるのも第一歩になると思います。しかし、何度も言いますけど、弱点科目の克服は、最も簡単な飛躍の道ですからね。
ところで、言うまでもないですが、上記の各成績は、あくまで世界フォーラムに参加した世界VIPと呼ばれる人達が勝手にそう思ってるだけのことです。真実そのものではない。「彼らはそう考えている」というだけのことしか意味しません。本当にそうかどうかは別問題です。そこは峻別しましょう。
実際、世界経済フォーラムは、しょせん世界経済の勝ち組の談合の場であるとか、西欧流の価値観の押しつけであるとか、手前勝手なモノサシで判断してるだけって批判は根強いです。そのあたりは十分に割り引いて考えてみるべきでしょう。しかし、なんだかんだ言って、勝ち組だろうがなんだろうが、彼らが世界経済を動かしているのは現実であり、その彼らが「そう思った」ということは、「そういう現実になりうる」ということでもあります。現実がこうだから彼らがこう思ったのではなく、影響力の強い彼らがそう思ったから、現実もそれに合わせて動いていくということでもあります。そのあたりは恐い現実でもあります。
文責:田村
★→APLaCのトップに戻る
バックナンバーはここ