VISAについて

インディペンデントクラス永住権/田村の場合


    僕が永住権を取得したのが1995年(平成7年)5月のことです。申請からざっと7ヶ月掛かりました。同じ時期に同じクラス(カテゴリー)で申請した相棒福島の場合は6ヶ月弱で交付され、一人取り残された間は、「なんでやねん」「もしかしたらアカンのかな」と複雑な気分でおりました。

    自分も申請する前は、「永住権なんか滅多やたらと取れるもんじゃない」と考慮の外にあったのですが、学生ビザ以外に(当時シドニー大学の英語コースに留学していた)オーストラリアに居残れるビザを検討していくと、永住権が一番融通がきくということが分かり、また取得要件を見ても、射程距離内にあるようにも思えたので、選んだわけです。

      一般に、オーストラリアに居るためのビザとしては、学生ビザ、労働ビザあたりがメジャーなところです。僕も最初は、大学の法学部大学院あたりに潜り込んで学生ビザでも取ろうかと考えていましたが、止めました。なぜなら、@こちらの大学は勉強がハードで殆どそれに忙殺されてしまう、A学生ビザの場合、当然学費納入が前提条件ですが、これが高い。年間100万程度する。Bさらに就労が週20時間と制限されている。これでは、学業指向の人は良いでしょうが、僕のように、良く言えば「見知らぬ社会で目に映るもの全てに好奇心を向けたい」という一般雑学指向の人間、悪く言えば「ちゃらんぽらんな勉強嫌い/学校嫌い」にとっては、好きでもない勉強に時間と金をふんだくられるような気がして、「やだなあ、それ」と思ってしまったわけです。そういう意味では、目的を持ってこちらの大学に進学してガンガン勉強している人をみると尊敬してしまいます(いや、マジに)。

      では、労働ビザはどうかというと、まずこれはスポンサーになってくれる雇主を探さなければなりません。一生懸命探せばなってくれる企業や社長もいるでしょうし、現に多くの方がそうして滞在しています。ところが、生来喧嘩早い性格のこと、他人に使われているとまた衝突するやもしれず、「馬鹿野郎、辞めたらあ!」と啖呵切った瞬間にビザが消滅するという羽目に陥るリスクが頭に浮かびます。勿論、他にスポンサーになってくれる勤務先を探せば退職できますし、皆さんそうやって頑張っているわけですが(この点でも頭が下がります)。

      その他、「75万ドルを投資して」とか「過去3年の年商が億単位で」などの事業移住は資金的に論外。現地の人と結婚して家族移住という方法もありますが、そこまでしたくもなかった。意外と「居にくい」んですね、オーストラリアという国は。で、消去法で考えていくと、「なんだ結局、永住権を取ってしまえば問題ないじゃないか」という話の流れでもう少し真剣に検討することにしました。


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    さて、「永住権だ」ということで、シドニーにある移住コンサルタントに出向き、話を聞き、可能性があるということで、手続代行を依頼しました(全部で4000ドルだったかな)。「可能性」というのは、ポイントテストというのがあり、そこで合格点以上のポイントを取得出来るかという話です。

    ではどのようなポイントがあるのかというと、@年齢、A英語力、Bキャリアです。キャリアは弁護士ということで70点程度いけるのではないかと、英語力は別途IELTS試験を受験してその点数(全科目6.0以上で20点)、年齢は25〜29才(30点)が最も高く以下5年刻みで点数が落ちてゆく。申請当時(94年)の合格ラインは100点でしたので、キャリア評価は現場の裁量で何とも言えないのですが(最高80点だが実際は70点が上限)、まあお釣がくるんじゃないかという点数を見込めたし、1年遅らせると年齢的に点数が下がるというカド番的立場にいましたので、「じゃ、それ行ってみよう」で申請しました。

      申請といっても、まずは英語試験を受けねばならず、その受験申込をして、付け焼き刃で勉強して、シドニー市内のシドニー工科大学(UTS)に受験に行きました。半年足らず現地にいただけじゃ6.0は無理だろなあと思ってたら、ライティングは5.0、スピーキングは7.0という、いかに大学受験で勉強しなかったかが如実にバレてしまう内容で、運良く総合6.0には達しました。なまじ知識がない方がベラベラ喋れるといういい見本です。その他、健康診断を受けるため市内の病院に行って、エイズ検査まで受けさせられるわ(結果に関する誓約書にサインさせられたのを覚えてます)、無犯罪証明を取るために警察の地下室に連れてかれて指紋取られるわ(現地に居ながら申請する場合、現地の警察から日本の警察庁に照会するという手続を取るらしい=これが2〜3ヵ月掛かる) 。他にも、履歴書、戸籍その他は勿論、前の職場でのリファレンス(人物&勤務態度に関する証言のようなもの)、大学の卒業証明、成績証明、司法試験合格証明、研修所卒業証明、弁護士登録証明などなど(全部英訳する必要あり)。結構手間暇が掛かります。

      日本に一時帰国して結果を待ってたら、オーストラリア領事館から、補完書類としてNSW州の弁護士会に照会して、「日本の弁護士がオーストラリアの法曹界でどの程度に相当するのかについて弁護士会の委員会の判断書類を貰ってこい」というお達しが来て、また一から書類揃えて代理業者を通じて、NSW州の弁護士会に提出して貰い、決定を貰って、ようやく一件落着となったわけです。疲れました。


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    さて、「永住権」というと、「永住」=「終生その地で暮らす」という語感がありますが、これは誤訳とまではいかないまでも、ニュアンスがちょっと違うと思います。英語では「レジデンス・ビザ」で、単に包括的な「居ていいよ」という居住許可に過ぎず、市民権(シチズンシップ、国籍)とは違います。だから永住権を取っても3年なり5年に一回更新手続がありますし、更新を怠ったり、なにか不祥事をしでかしたり、法律が改正されれば剥奪される可能性もあります(一方、国籍については、どんな悪事を働いても、死刑になりこそすれ剥奪されることはないでしょ?)。

    僕自身オーストラリアに「永住」する気は特にないし、「そんな先のことはわからない」というのが正直なところです。ただ学業や就労など特定の目的に縛られずにマイペースに居住していられるビザを探したら永住権になったというのが実感です。それほど大仰なものではないでしょう。事実、日本人には少ないですが、「永住権は3つ、国籍は2つあるよ」という人もいますし、「一生を決定する」というほどご大層なものでもなかろうと思います。

    市民権と永住権の違いは、「国民」と「住民」、「本籍」と「住民票」の違いのようなものと一応は言えると思います。一般に、国籍・国民資格は地球上の何処にいても失われませんし、住んでない住所でも本籍登録ができるわけで、観念的な「メンバー登録」のようなものですが、住民は現実に居住している事実によって生じる「現場参加」のようなものなのでしょう(だから住民票はその地に住んでないと職権抹消される)。

    しかし、観念的には何となく分かっても、現実問題どこが違うのかというと意外とわからない。例えば「国民」には選挙権が与えられるが、ただの「住民」には選挙権が与えられないのが大きな違いと言われますが、日本の場合、選挙は住民基本台帳をもとに行われますので、海外居住者には選挙権が与えられていません。理屈からいけば、これも妙な話です(地方区はともかく全国区や比例代表についてまでダメにして良い理由は?)。一方では「国民じゃないから」ダメといい、他方で「住民じゃないから」ダメという。ところで、「国民」ではない単なる「住民」にも納税義務は課せられます。また、オーストラリアの場合、市民権を持っていなくても、永住権があれば失業保険も年金も受け取れます。違いが明瞭なようで、よく考えると結構いい加減なような、理念的な理由と現場の事務レベルの理由とが混在しているのでしょう。

      こうして考えていくと、このボーダーレスの時代における「国民」「国籍」というものの観念的な曖昧さに思い至ります。例えば、憲法上よく論議されるところですが、在日外国人の人々に地方選挙権は与えるべきか?という問題があります。他にも「外国人は公務員になれるか」という論点で、昨今、高知県や川崎市などの地方自治体が問題提起したのは記憶に新しいところです。ここオーストラリアでも、96年3月の連邦選挙で当選した候補のニュージーランド国籍などが問題になって裁判所で当選無効判決が下され(それだけが理由の全てではないが)物議を醸しています(注:この候補はこの10月に行われた補欠選挙で当選して返り咲きました)。

      「現実にその国の選挙民が「この人が適任」と多数で決めたならば、その候補者が仮に外国人であったとしても当選させれば良いではないか」「会社でも社長は株主である必要はないし、そもそも皆で集めた金で社外から優秀な人材を引っ張ってくるのが株式会社の本義であるから、それと同じではないか」という見方もありましょうし、「他国の人間に統治を委ねるのは、最も基本的な「自治」「国家主権」に反する。これを認めると植民地と同じになってしまう」という原則論もありましょう。この原則論に対しては、「マードック氏の日テレ株取得のように、ドンドン外国人株主が増え日本経済を支配し、経済を通じて事実上その国の進路を握る道はいくらでもあるのだから、選挙権云々の原則論に固執していても無意味」という実務論もありましょうし、「だからこそ、一定の歯止めは必要なのだ」という意見もありましょう。こんなことを議論しだすとキリがないですね。

    ところで、永住権を取ったと言うと、決まって「オーストラリアに永住するの?」「そんなん、わかれへんわ」「え、なんで?永住権取ったんちゃうの?」というお決まりの会話のパターンになるのですが、そこでいつもこう答えるようにしています。「ほんなら、自分は、日本に永住すんのん?」。なんと言いますか、「生涯最後の住所」がどこであるかなど、今から決められる筈もないし、それを数十年前から決めておくことにさほど意味があるとも思えない−−−−と、子供の頃から数えて引越し経験20回以上を数える僕は思うのでした。住んで嫌だったところなど一つもなかったですし。


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