新緑と朱色







どこか外国の砂漠の写真を見る
どこか外国の海の写真を見る
どこか外国の高い山の写真を見る

行った事もない筈の風景なのに。
なぜか懐かしい、と思う。
なぜ?


ふと、ときどき、
本当は、ものすごく沢山のことを知っているような気がする。
そんな気が、あなたはしないか?

めちゃくちゃに膨大な記憶があって
そのほんの一部しか気づいていない。使っていない。


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新緑色
目もさめるような鮮やかな。
若竹の瑞々しい生気が漂う
そぼ降る雨すらもなまめかしい季節

赤みが勝った朱色
新緑に朱色はよく映える

それは、あなたの着物の色
女の色


雨はまだ続く
濡れることが不愉快でない雨も、この世にはあるのだ。
知らなかった
いや、知っていたかも。



朱色の帯をしめたあなたは
雅びに疎らな竹林を縫って歩いてくる


あなたを一度見たことがある
あなたを一度抱いたことがある

あれは、爛漫の古都
長い石段が続く

桜が風のなかを泳ぐゆく
石段の上と下
真ん中で落ちあい
あなたは、ゆったりと身をまかせて
そして、
そして、
そのまま消えた
俺の腕のなかで


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今、また
新緑の中の朱色
目に焼き付く朱色
新緑に見え隠れしながら、近づいてくる


知っているよ
知っていたさ


この朱色を見たときに
俺はこの世から消えるのだと
それは俺が死ぬときなのだと
迎えを告げる色なのだと



最後の瞬間に見る風景
それを見たとき初めて気づく
自分はこのことを知っていた、と。
昔からこうなることを知っていた、と


やさしく、透き通った雨に抱かれながら
俺は、広がる。
ふんわりと広がる
そして、また、
あの、よく知っているところに還る。



ゆっくりと弧を描き
そして、いま、閉じた。
円環-------




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