シドニー雑記帳【StudioZERO】



◆ニュージーランド便り






059/074 GEG00343 福島麻紀子 ◆ニュージーランド便り
(13)92/08/03 01:05




      赤道を越えて冬の南半球にやってきた
      涼しげな雲の上の金色の陽光が
      機中のどんよりと中途半端な、それでいて貪欲なまでの不快な眠りから
      透明な朝に引き戻してくれた

      オークランドの空港に降り立つ
      ピーーーンと張り詰めた冷たい空気が
      北半球の日常の中で溜まりに溜まった心の垢を
      残酷なまでにゴシゴシと削ぎ落としてくれる

      落とされた垢はどこに捨てたらいいのだろう??
      ここの土は美しすぎて汚すなんてできやしない
      空中分解させて地球の肥やしにしたらいいかな
      そしたらその肥やしがまた
      心の垢を削ぎ落としてくれる美しいものを
      育てるだろう

      心地よい透き通った冬
      透き通ったガラスの空気の向こうに
      緑が映えてるニュージーランドの冬
      小春日和のやさしい陽がやけに眩しい
      南半球の冬

        オークランドからクライストチャーチに飛ぶ
        空から眺める南アルプスの山々
        パウダーシュガーをたっぷりふりかけた
        パウンドケーキの山並みが
        南北に連なる連なる
        とろけそうに甘そうなパウダーシュガー
        くすり指の先にちょっとだけつけて
        そのままペロリトなめてみようか

        脈々と連なる山々の向こう
        遠くに青い海がキラキラと光って
        その存在をアピールしている
        ここは自然が息づく国

      夕刻のクライストチャーチ
      空気が澄み渡った空には雲ひとつなく
      冷やされた広いストリートには車一台なく
      だけど、生気の息づかいが手にとるように伝わってくる

        小高い丘に登る
        TwinkleTwinkleTwinkle.......
        ああ、綺麗.....

      透き通った空気なんの障害もない空気を突き抜けて
      手にとらんばかりにこちらに押し寄せてくる光、光、光

        TwinkleTwinkleTwinkle.......
        光がまたたく
        TwinkleTwinkleTwinkle.......
        街の灯の数々
        TwinkleTwinkleTwinkle.......
        灯って本当にまばたきするんだね
        TwinkleTwinkleTwinkle.......
        まるで生き物みたい
        TwinkleTwinkleTwinkle.......

      金と銀、たった2色の灯たちが
      人の息づかいを
      家庭のあたたかさを
      運んでくれたやさしい人たちが憩う国

        小春日和の港のテラスでランチ
        何十羽というカモメたちが
        ランチメニューを狙っている
        クェーーーーッキッキッキッ
        ちょっと油断したスキに私のサラダは皿から飛び散り
        見る影のなくなってしまった
        呆れるほどにたくましく図々しく姑息なやつら
        私は気に入った
        「食えるもんなら食ってみろ!!」

        カモメと格闘しながらのランチは
        本当に「私、生きてる」って感じられた

      冬の海をクルージング
      デッキの上ではさすがに風が冷たい
      入りくんだ湾を航行し外海へと向かう

      うみへびの頭のようにちょこんと顔を出した海鳥のような動物の群れ
      「あ、あれはペンギンです」
      キャプテンが教えてくれた
      泳いでいるペンギンを見るのも
      天然のペンギンを見るのも初めてだった
      時折、魚を見つけては顔から水中に潜っていく
      立って歩いてるペンギンとは違って
      海に住むの動物なんだな、と改めて認識させられた

      切り立った岸壁の下の大きな岩の上に
      寝そべっている茶色の動物
      「あれは?」「あれは、アザラシ」
      日光浴しながらお昼寝してる
      プップップーーーッ
      あらあらキャプテンったら、アザラシ君、起きちゃうじゃないの
      「なんだよー、眠いのにー、邪魔しないでくれよー」
      ちょっとだけ頭を起こして眩しそうなつぶらな瞳を
      こちらに向けたアザラシは本当に今にも英語を喋りそうだった

      岸壁の中腹にいくつかの小さな穴が開いてる
      側に近づくと、その小さな洞窟では
      仲のよいウミネコの夫婦がなにやらいちゃついていた
      くちばしをつつき合ってる姿は舌を貪るキスのように激しく
      羽を合わせる姿は愛撫のようにやさしく
      ちょっと目のやり場に困ってしまった

        外海に出る頃遠くで何かが円を描いて跳ねた
        イルカだ!
        『グランブルー』という映画で見たイルカ....
        ジャックみたいにイルカと一緒に泳いで遊ぶことが出来たら
        どんなにいいだろう....って思ってた
        今、目の前でイルカがジャンプしたんだ
        海に住む自然に住むイルカがジャンプしたんだ
        感動の鳥肌が体を通り過ぎていった

        しばらくすると、イルカたちは船と遊びたがって
        こちらに近づいてきて
        船の舳先で競争するかのように
        嬉しそうに飛んで跳ねて....
        そんな素直な姿がとっても可愛い
        ねえ、私たちの喜びがわかる?
        君たちに会えてとっても嬉しいこの気持ち、伝わってる?
        「うん、わかるってば。だから、こんなに跳ねてるんだよ」

          ペニンスラの海は冷たく澄んだ海
          塩加減は薄く、冬なのに明るいエメラルドグリーン翡翠の色
          岸壁は冬なのにグリーンが目に染みる草原

          ・・・どうして羊や山羊たちは
          急な斜面から落ちずに歩けるのだろう??
          そんな素朴な疑問を
          何の衒いもなくつぶやける国

      ギズボーンのブロッコリー畑は
      どこまでもどこまでも
      地平線まで遠く続いてる
      肥えた大地に育った野菜たち
      だから、こんなにおいしい
      ここは大地がおいしい国

      空気があんまりきれいなので
      煙草で汚してから肺に入れます
      じゃないと肺がびっくりしちゃう
      このきれいすぎる空気に少しづつ慣らしていかないと

      私はここの純真な美しさに戸惑いを感じ
      自分の汚さに恥じらいを感じ
      それをも包みこんでしまう自然の大きさに
      尊敬の念を感じながら
      ニュージーランドが好きになっていくのです

        遠く空を越えて伝えたい
        こんな素敵な地球があること
        ここでこんなに感動してる私がいること
        この感動を伝えたがってる私がいること
        心を裸にして感じてる今、この瞬間
        はだかのままの私を抱いて.....



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初出:97/11/22(福島)



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