シドニー雑記帳【Studio ＺＥＲＯ】
| あさぎは嘘つき |
えみこちゃんは とってもおとなしい子
誰とも口をきかない 声も出さない
話かけても答えてくれない
だから ともだちがいない
だから みんなえみこちゃんを無視してる
だけどね、えみこちゃん、
ときどき あさぎの方を見て
ちょっとだけ 笑った目をすること あるの
気のせいかもしれないけど
どうしてだろう？
えみこちゃん、あさぎのこと 好きなのかもしれないわよ
おかあさんはね、えみこちゃん、いい子だと思うのよ
しゃべらないから みんな 避けてるんだろうけどね
あの子はきっと やさしい子だと思うのよ
みんなが気づかない えみこちゃんのやさしさを
あさぎが感じてあげたら？
あさぎなら きっとそれができるわよ
席がえの前の日
先生はあさぎをこっそり職員室に呼び出した
あさぎ、えみこちゃんのこと どう思う？
『やさしい子だと思います』 −−−あさぎは嘘をついた
そうかもしれないね
だけど、えみこちゃんは みんなとお話できないね
あさぎ、えみこちゃんのとなりの席にすわってみるかい？
あさぎがえみこちゃんを みんなの仲間にしてあげるんだよ
できるかい？
あさぎは ちょっと自信がなかった
だって えみこちゃんのこと、
あさぎ、好きかどうか わからないんだもの
おかあさんが言うように
やさいい子なのかどうかも わからない
でも、がんばってみよう
えみこちゃん、ときどき、あさぎの方見てるもん
きっと うまくいくよ
そして次の日から あさぎのとなりには えみこちゃんがいた
えみこちゃんは あいかわらず おとなしくて
あさぎがいくら 話かけても 答えはなかった
でも あさぎは できるだけ えみこちゃんのそばにいるようにした
みんなのように 遊びに出られなくなったけど
でも あさぎは えみこちゃんのそばにいようとした
ある日、みんながドッジボールしてる昼休み、
えみこちゃんのとなりにすわって だまって 本を読んでた
ねえ、えみこちゃん、
この本、おもしろいよ
チョコレート戦争の話、
読んでみる？
そうやって 話かけると
えみこちゃんは だまったまま あさぎの手から本を取り上げる
しばらく黙って読んで そして 顔をあげて
えみこちゃんは にっこりと笑った
あさぎは とびあがるほど えみこちゃんの笑顔がうれしかった
おかあさん、おかあさん、
今日ね、今日ね、
えみこちゃんが あさぎの方見て、笑ったの。
ねえ、おかあさん、えみこちゃん、本当に笑ったの。
おかあさんは あさぎをいきなり抱き上げて、
まるで胴上げのように 空中をふりまわした
よかったね、あさぎ
よかったね．．．．
そして、えみこちゃんの笑顔を見られる日が
一日一日と増えていった
だけど、あさぎは 贅沢になってた
ねえ、えみこちゃん、お話してほしいよ
えみこちゃんの声、聞きたいよ
そういうと、えみこちゃんは すごく悲しそうな目をして
あさぎを見た
それから えみこちゃんは あさぎに 笑いかけなくなった
前みたいに いつも暗い目をして 黙ったままの子になった
あさぎは 前みたいに えみこちゃんの側にいられなかった
みんなと遊びにいきたくなった
えみこちゃんのこと 見捨てるようで
すごくあさぎは 自分がいやだった
ごめんね、えみこちゃん
でも もう 側にいたくなかった
次の席がえの日がやってきた
先生はあさぎに黙って
えみこちゃんとあさぎを 離した
あさぎは その時、
先生に嫌われたと思った
そして きっと
おかあさんにも嫌われるだろうと思った
おかあさん、今日ね、席がえがあったの
えみこちゃんと 違う席になったの
あさぎね、えみこちゃんのこと
わからないままだった
やさしい子かどうかも
わかんなかったよ
あさぎ、ほんとのこと言うと、
えみこちゃんのとなりの席にすわるの、
いやだったのかもしれない
だって、つまんないんだもん
えみこちゃん、なんにも言わないし、
遊びにもいけないから、つまんないんだもん
だけど、
おかあさんが えみこちゃんはやさしい子だって言うから
だから、がんばってみようって思ってたの
だけど、だめだったみたい
えみこちゃん、笑ってくれたけど、
あさぎがわがまま言っちゃったから
もう笑ってくれなくなっちゃった
あさぎは 嘘つきだよ
先生に聞かれた時、
えみこちゃんはやさしい子だなんて答えて
ちっともわかってなんか いなかったのに
おかあさんが 言ってただけなのに
ちっともえみこちゃんのこと わかってなんかいない
だけど、おかあさんに 嫌われたくなかったんだもん
先生にも 嫌われたくなかったんだもん
だから、嘘ついた
嫌われたくなくて 嘘ついた
だけど、嘘ついて、
結局 おかあさんにも 先生にも
嫌われちゃったみたい
あさぎは嘘つき
嘘つきは どろぼうのはじまり
嘘つきは 大好きなひとに嫌われるのはじまり
嘘つきのかなしさが ようやくわかったの
ORIGINAL:92/9/6
REWRITE:97/11/21
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