シドニー雑記帳【Studio ZERO】
あさぎのうちの裏には畑があって
いろんな野菜や果物や花が植えられてるの
幼稚園に入った時、
おとうさんが『あさぎのにわ』を作ってくれた
あさぎは大好きなスウィートピーと、
それからクロッカスとすずらんを植えることにしたの
春になると、まずクロッカスが土の中から紫色の芽を出して、
それから、スウィートピーがピンクの小さな蕾を膨らませて、
そして5月になる頃、すずらんが小さな白い鈴を首から下げはじめるの
おかあさんは『あさぎのにわ』に咲いた花を、
毎週月曜日の朝に、少しづつ花束にしてくれます
おとうさんはその花ひとつ、ひとつに花の名前のプレートをつけてくれます
『あさぎのにわ』に咲いた花を抱えて歩く、
学校への50分の長い道のりは、いつもと違ってうきうきするの
夏になると おとうさんと2人で
裏の畑でじゃがいも堀りをするの
大きなぼこぼこのじゃがいもに、小さくてすべすべの赤ちゃんいも
とれたてのじゃがいもをおかあさんが台所でゆでてる
ほくほく とれたての ゆでたてのじゃがいもを
バター塗って食べるのが、あさぎは大好き
おとうさんは15個、
おかあさんは8個、
あさぎは5個、
全部で28個のじゃがいもが、おなかの中に入りました
じゃがいもを堀ったあとに
おとうさんは大きな穴を掘りはじめるの
おとうさんのシャベルが
土を堀りかえしていくのをながめるのが、あさぎは大好き
堀りかえされた大きな穴に、ビニールシートをはると
『あさぎのプール』の出来上がり
土の香りの中のビニールシートのプール
おとうさんが畑の手入れをしてる側で
ミンミン蝉の声を聞きながら
ぴちゃぴちゃ 水浴びするのが、あさぎは大好き
東京のおねえちゃんがやってくると、
2人でプールで水泳ごっこをして遊ぶの
おとうさんはプールの側でクロールのかき方を教えてくれる
おねえちゃんはすぐ上手になって、水泳の選手みたいに泳げるようになった
あさぎはいつまでたっても いぬかきしか出来なくて
だから、おとうさんはおねえちゃんにクロール教えるのに夢中になってて
だから、あさぎはちょっぴり寂しかった
夏休み、伊豆の温泉に行った時もそうだった
旅館の卓球で遊んでる時も
おとうさんはおねえちゃんにスマッシュの仕方を熱心に教えてて
あさぎはとろくてなんにも出来なくって
だから、あさぎはちょっぴり寂しかった
寂しいからあさぎは、ちょっとだけ
おとうさんに意地悪をしたの
もうあさぎは大人だから、
おとうさんと一緒のお風呂には入らないよ。
おとうさんは一人で男風呂に行った
おかあさんはこう言うの
あーあ、おとうさん、かわいそうに。
あさぎにふられちゃって。
おとうさん、あさぎと一緒にお風呂入るの、
楽しみにして旅行に来てるのに。
そんなこと言ったって、やだよ。
あさぎは女の子なんだよ、男風呂に入るのなんか、恥ずかしいよ。
いつまでもおとうさんと一緒にお風呂はいりたくなんかない。
そうね。いつかはそういう時が来るってことは、
おとうさんだってわかってるはずよね。
でも、それが今日だったなんて。
おとうさん、ちょっとかわいそうね。
だって、おとうさん、おねえちゃんばっかりなんだもん。
おとうさんとお風呂入ったっていいんもん。
だけど、おねえちゃんばっかりだったから...。
それで...ひっく、ひっく...
じゃあ、おとうさんのとこに、行ってあげなさい。
いまからでも遅くないでしょう。
おとうさんだって あさぎと一緒にいたいんだから。
ほら、タオル。これもって、お風呂行ってらっしゃい。
涙でぐしゅぐしゅになったタオルを握りしめて
急いで男風呂に行ったけど、
ちょうどおとうさんはお風呂から出てきたところだった
どうしたんだ、あさぎ。
...ううん、なんでもない。なんでもないよ。
くるりと後ろ向きに駆けだして、
旅館の廊下を走って走って、
気がついたらあさぎは卓球のある部屋にいて、
知らないおじさんたちがやってる卓球を眺めてた
しばらくぼーっと眺めてたら
おじさんたちがあさぎに声をかけてくれた
おじょうちゃん、ピンポンするかい?
あさぎはコクリとうなずいて
知らないおじさんからラケットを借りて
知らないおじさんとピンポンをした
知らないおじさんはとてもやさしくて
あさぎに合わせてピンポンしてくれたけど
ちっとも楽しくなかった
おとうさんがあさぎを探しにきてくれた
おとうさんは知らないおじさんたちとピンポンしてるあさぎを見つけて
おとうさんは知らないおじさんたちにあいさつして
そして、あさぎと知らないおじさんのピンポンの様子を見ていた
ピンポンしてるあさぎの目は、またなんだか熱くなってきて
ピンポン玉がよく見えなくて
ピンポン玉はあさぎの後ろへと転がっていった
ピンポン玉を拾おうとしてしゃがんだまんま、
あさぎはうずくまったまんまで、動けなくなっちゃった
え〜ん、え〜ん、おとうさ〜ん、おとうさ〜ん
おとうさん、ごめんなさい
あさぎ、おとうさんのこと 大好きなの
大好きなのに 意地悪しちゃったの
おとうさ〜ん おとうさ〜ん
あさぎは泣き虫
いつも泣いてばっかり
何言ってるのか おとうさんにはわからないよ
ほら お部屋に帰ろう
おじさんたちにあいさつしなさい
遊んでもらってありがとうって
おとうさんの大きな手
あったかい大きな手にひかれて
お部屋に帰ったの
夏は 土の香りと 手のぬくもり
泣き虫あさぎを ひっぱってくれた大きな手
おとうさん、
今年も じゃがいも掘って 一緒に食べようね
今年も あさぎのプール作ってね
今年も 温泉に一緒に入ろうね
ORIGINAL:92/8/30
REWRITE:97/11/21
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