★★弁護団会議/21時の光景★★



初出:92/11/27 01:48





 ★★業務日誌/21時の打合せのコラージュ
  =内容なんて判らなくていいから、他人の仕事場を覗き見してるよな感じで、読み流して下さいませ。弁護士の現場ってこんな感じです。=



 【11月25日の場合/院内感染による医療過誤訴訟の打合せ】



『それで、消毒液について病院側の指示や説明ってあったんですか?』

『消毒液については、患者の家族が買わされたんですか?病院側で用意してくれなかったわけですか?』

『本件の場合、日和見感染の可能性なんですけど、発病までに第三世代のセフメタ系の抗生物質がどれだけ投薬されていたかっていう点が一つのポイントになるかと思うんですよね。』

『感染経路の特定なんですけど、一般によく言われているICU(集中治療室)は本件の場合入ってないので。一般雑居病棟でしょう?これは特に内科病棟とか眼科病棟とかあったんですか?』

『訴訟戦略で考えた場合、あまり当初からキメウチはしない方がいい。キメウチは先にした方が後で苦しくなりますから。
 ただ、あんまり漠然としてたら、何言ってるのか判らないし、全然迫力なくなってしまうし、裁判官に対するインパクトってのもありますから。そこらへんの兼ね合いとさじ加減が難しいところです。』

『マスコミですか?沢山きてますよ。MRSAはいまブームですから。
 今までに新聞に載っただけでも、読売、毎日、日日新聞..ですか?
 他にもこないだ読売TVの申入れがあって、その前にNHKも来てたけど..ああこれってこの間特集でやってたヤツの制作段階だったのかもしれないですね。もう、いやがおうでも記者会見しないと、記者さん達も納得しないみたいだし。』

『だけど、これ死亡当日のレントゲン写真って、素人目にも肺が真っ白ですよね。前日のレントゲンと比べても全然違う。これ見ても、医者の方は死因が判らないって言ってたんですか?』
『そうです。病理解剖しないと判らないと。だから、じゃ解剖して下さいと言って、そんで初めて胸に2リットルの水が溜まっていたことが判って、それで死亡診断書を書き直したわけです。』
『しかし、判らんもんかね?ちょっと、いま、色々医者とか専門家に照会かけてるんですけど、素人考えでいうと、レントゲンが真っ白で、胸に一升以上水が溜まっていながら、死んだ後でもそれが判らないというのは、ちょっと考えられないんだけど、違うのかなあ。』

『過失論の立て方としては、複合過失の順列組合みたいに、かなり複雑な構造をもってくるので、それらをどうスッキリ纏めていくか。しかも、立証を睨んでどういう順番で並べておくかがポイントですよね。』

『しょーもないことなんだけど、過失時期に関連して遅延損害金の発生時期も変わってくるという..』
『うう、ほんとしょーもな...しかし、その計算ってやたら面倒なんだよな。一部請求にしちゃうか?訴状送達の翌日から..ってやつ。』
『そんなんやったら過大請求で一部勝訴したほうがスッキリするんじゃないの?付帯請求に印紙貼る必要ないんだから。』
『しかし、敢えてソレするのって、なんかアタマ悪い代理人みたいでさ(笑)。
 裁判所って、そこらへんの訴訟事務って結構気にするんじゃない?しょぱなからそんな所でミソつけるのって、戦略的にマズくないか?』
『あー、裁判官って、人によるけど、弁護士がキレるかキレないかで何となく決めてそうな人っているわ。こいつアタマ悪いと思ったら全然、訴訟進行なんかでも、代理人の言うこと聞こうとしないという。』
『証人採用決定かなんかの微妙なところで差が出たりするもんね。』
『やっぱ、メンド臭くてもやらな仕方ないなー。理屈のうえでは殆ど意味ないんだけど、そーゆーしょーもない所で無視出来ないわ。』



 【11月26日の場合/脱税刑事事件の弁護団会議】

『でもね、良く見てみると、昭和54年段階のこの株は、年頭に800円台だったのが、秋には1800円になってるわけでしょ?』
『うんうん』
『だから、皆、春から夏にかけて買ってる。最終的には27万株まで買い溜めてるわけじゃん。数億規模の買いだよ。そんな折にね、同時に、信用で売りから立てるもんかい?』
『ヘッジかけたんちゃう?』
『ここで、ヘッジはないんちゃうの?』
『でもさ、この『現渡』って記載がひっかかるんだよなー』
『そうそう、この人、「信用は絶対買いから入る」という相場哲学持ってるわけなんでしょ?なんか、ヘンなんだよな、これ。』
『これ、本当に正しいの?この表?』
『国税庁が作ったやつなんだけど、マルサがさ。』
『マルサってアテになんねーじゃん。こないだの尋問でもさ、表が結構誤ってたりしてさ。』

『そこらへん推測だから、あんまり体重乗せたら転ぶぜ。
 大体、ここらへんの表のもととなった顧客勘定元帳がないってのが問題なんだよな。』
『検事の方の証拠開示は、ほんとサミダレだしさー。』
『どうして、ああ、検察庁って証拠見せるの嫌がるのかね。教条主義的にさ。こんなん、おもわせぶりにイカニモ「尻尾は握ってるぞ」的に尋問されてもさ、結局その尻尾をどっかで出さないと全然説得力ないわけじゃん。それじゃ有罪とれっこないしね。』
『だから、前回の検察官の尋問ってのは、大体そういう「思わせぶり尋問」が主体だったと思うのよね。』

『しかし、それに対して、「記憶にない」って答え方はあんまり良くなかったよな。』
『そうそう。実際、10年以上前の株取引をいきなり聞かれたって記憶にないのが当たり前なんだから、理屈としてはいいんだけど、印象ってのがある。
それも度重なると、なんかロッキードの「記憶にございません」的になっていっちゃうじゃん。
ほんとに覚えてないし、覚えてるわけないんだけど、「記憶にない」という答えを延々繰り返させることによって、胡散臭さをかもし出そうという。』

『結構、コソクな反対尋問戦略なんかもしれないけど、それって二時間三時間とぶっとーしでやられると、案外とボディブローとなって効いてくんだよな、裁判官には。』
『そうそう、二時間尋問やって、結局何のラチもあかないわけだけど、それによって、『彼に何を聞いても覚えてないから意味ないですよ』というニュアンスを直接印象として植えつけて、そんで俺らの尋問の効果を消そうという戦法とも言えるよな。』
『それ判ってても、だからといって、今から次の尋問までに全ての取引を再度受験勉強みたいに覚えるってのも無理だし...』
『うん、愚策。だから、『覚えてるわけもない不毛な質問ばかりされていても意味ないでしょう?質問を変えて下さい』というという異議を現場で言っていく方がいいかもしんないよ。出端挫くという意味もあるしね。』

『全ての取引が有機的に関連しているなら、たった一つでもいいから、絶対にこの取引はシロ!という典型的なやつを一つプッシュする。』
『ふむふむ』
『これをぶつける事によって、全体を無罪に導く。
 だってそうだろ?全体に1000個の取引がある。しかし、そのうちの1つは無罪だとしても、この一つが独立単体で存在していないのだという構造の下においては、1は無罪、999は有罪という具合に分離判断出来ないんだから、結局1000を無罪とせざるを得ないことになる。』
『要するに、蟻の一穴というか、オセロの論理みたいなモンですな。』
『そう。だって、何をどんなに考えてもこれだけは絶対に無罪というのが1000なら1000のうちに一つ位は指摘できる筈だ。もともと本当に全部無罪なんだから、ティピカルに分かりやすく無罪というのがある筈。それをプッシュするんだよ。』
『問題はそれが何なんのか、だ。』
『そう、何をもって「絶対無罪」と判断出来るかですな。』
『資金の流れ、当時の情勢、銘柄選定のパターンと癖、窓口となった証券会社.....』
『他に何かないか....?俺達はもっと何か見落としてはいないか。』

・・・・・・・・・・・・

時計は23時を大きく廻っていた。





★studio ZEROのトップに戻る
★→「今週の一枚ESSAY」バックナンバー
★→APLaCのトップに戻る