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Essay 972:雪の下のふきのとう
〜オーストラリア留学の現状と展望
2021年01月16日
写真は、Fivedock、商店街裏の駐車場から抜ける小道。
コロナ下の国境ですが、進展とかいうより「膠着」してるかのような状態で、こんなの永遠に続けていたらどこの国も干上がってしまう。かといって全面開放は当分無理だとしたら、展望分析はよりミクロ的になります。どのくらい何をしたらどのくらい限定開放できるかという実務論です。
学生寮で検疫プラン
あまりの膠着状況で、最近ではニュースネタにすらならない感じですが、こういう記事を見つけたので紹介します。International student accommodation almost empty as sector battles with COVID-19 quarantine and border restrictions
要旨は、今年の1月10日の時点で、オーストラリアの学生ビザ保持者総数54万2106人の30%が、オーストラリア国外に出ていってしまっている(戻ってこれない)。そのため学校はもとより、留学生のための宿泊施設も大打撃を受けている。業界は頑張って政府にロビー活動を続けている。
最初に出てくる例は、メルボルンのスワンソンStにある、The Scape Carltonという100億円をかけた留学生宿泊施設(750名収容)。めちゃゴージャスで、シネマもあり、屋上からは摩天楼が望めるとかで、一番高い部屋で週600ドル(ってどんだけリッチなんだ)。
それがほぼ空っぽ(入居率が80-90%減)なのだから、毎日いくらの損になるのかと思うと身の毛もよだつところで、当然のことながら、当事者(マネージャーの Jenna Weberさん)も必死。ビクトリア州政府にロビー活動をしているのだが、その内容が「なるほど」で、「このアコモを14日検疫施設にすれば良い」というものです。部屋はほとんどがシングルルーム(studio, ワンルーム)だし、やろうと思えば可能なはずだ。
これに対するビクトリアの Daniel Andrews知事は、”"bespoke"(カスタムメイドみたいな意味) quarantine facilities were an option his government would consider.”(そういうのも確かに一つのプランだと思って考慮しています)。
"It would have to be run to [COVID-19 quarantine Victoria] standards," he said."It's very important we have that done properly, and that would apply no matter who the group was coming in. "We can't have every hotel room in the city being guarded by Victoria Police."と続くのですが、「そういった施設は勿論のこと州のコロナ対策水準を満たしてなければならず、その点は非常に重要です。どんなグループが宿泊しようが基準は変わらない。全てのホテルの部屋を市警によってガードしなければならない、というのは現実問題不可能ですからね」当たり障りのないことを言ってるようで、それでもその可能性はアリというニュアンスを出してます。
54万人の3分の1が消えたまま〜13万人の雇用
一方海外に流出した(戻ってこれない)留学生54万の30%=16万人強のうち、NSW(6万0394), VIC(5万6824)、QLD(2万3753)で、やっぱりNSWとVICが圧倒的に高いシェアをもちます。国別では、中国が圧倒的に多くほぼ10万人、次にインド1.2万、次にベトナム0.4万です。メルボルンの名門RMIT大学に留学中、21歳のAkshana Nagasundaramさんは、去年の3月、ほんの数週間だけの帰省のつもりでマレーシアに帰ったきり、未だに戻ってこれない。オーストラリアには、家財道具からなにか全部置きっぱなしだし、いつになったら戻れるやら、、という状況。こういう留学生が15万人くらいいる。
Victoria大学のDr Peter Hurleyさんは、「この状況は今後さらに悪化すると思われます。オーストラリアの留学生によって経済的には22ビリオンドル(約2兆円)の創出をしています。(それらが全て失われたら途方もない損害になるが、しかし)仮に、帰ってこれない留学生のうち3分の1でも帰ってきてくれたら、それは大きなインパクトがあります。この業界で13万人の雇用がなされているのです」
green shoots of renewal〜緑の息吹
また、However, Dr Hurley said there were also "green shoots of renewal" for the sector, with more than 7,800 new international student visas approved in November.ということで、「新しい再生の芽生え」もあるのです。去年の11月には、オーストラリアの移民局は、新たに7800もの学生ビザを発行しているのです。ここがちょっと注目なのですが、国境閉鎖はしているけど、学生ビザの受付と交付はやってるわけね。入れもしないのにだれが申請するのだ?という気がしますが、それでもやってみようという人が結構たくさんいるんですよね。また、移民局(政府)も保留とか却下とかしないで受け付けているというのは、近い将来受け入れ可能になるということを暗示してるのではないか?と。ま、これも希望的観測で、先々は全く保障できないけど、とりあえずビザだけだしてお客さんを確保しておこうというだけのことかもしれないんだけど。
いずれにせよ、留学?あーもう全然ダメダメ!って感じではないのですね。表面的には厳冬状態なんだけど、雪の下でふきのとうが芽吹いているように、なんとかならんか?で関係者があれこれやってるのは確かです。
政界もボケッとしてるわけではなく、連邦政府は各州に今後どうやって留学生を受け入れるかというプランを示してほしいと要請しています。もっとも最終案がどうなるかは全然未定。
"Larger numbers of international student arrivals will only be considered when Australians wishing to come back to Australia have returned in substantial numbers," the spokesman said.「帰国を望みながらも海外で待機せざるを得ないオーストラリア国民がある程度帰還を果たしてからでないと、まとまった数の留学生の入国は考えられない」
というのが公式見解なのだが、じゃあその海外で彷徨えるオーストラリア人の帰国はいつになるのか?というと、これがまた心もとない話で。
しかし、そんな悠長なことも言ってられない。
イギリスとカナダにトンビに油揚げ
という記事の小見出しに書かれているように、オーストラリアがもたもたしている間、カナダもイギリスも留学生の国境は開けている。それどころかアジアの留学生を勧誘すべくガシガシ攻めてきている。このままでは、オーストラリアはカナダとイギリスに持っていかれてしまう。
NSW州の留学生毎週1000人プランもお蔵入り
NSW州知事は、毎週の入国上限の3000人のうち1000人を留学生(ならびに重要な労働者)に割り当てようとしたのだけど、その矢先にノーザンビーチで感染が起き、変異体がどうのという話になって、お蔵入りになってます。”Shelve"というのは本棚 (book shelf)の「棚」という意味で、それが動詞(棚をする)になると、「棚上げにする」(保留凍結)という意味です。「お蔵入り」って訳しましたけど。
ブチ切れる業界〜なんでスポーツ選手や軍人はいいのに学生がダメなんだ?
ブチ切れているのはInternational Education Association of Australiaという組織のCEOの Phil Honeywood 氏で、International student spent up to $100,000 a year in the Australian economy and stayed for three to four years, but state and federal governments were "rolling out the red carpet" to other short-term visitors.(留学生はひとり年間1万ドル使うから、そのくらいオーストラリアの経済に寄与してくれているんだ。しかも4年間だぞ。なんで州や連邦政府は、短期滞在者に「赤絨毯を敷いたの賓客待遇」をするんだ?
"Our political community is relaxed about bringing tennis and cricket players and their entourages into Australia for a short time," he said. "They are similarly relaxed with hundreds of foreign military personnel about to arrive here for short-term training exercises. 「政府の連中は、テニスやクリケットの選手が短期滞在するような場合には、非常にゆるい入国規制をで済ませている。同じことは、軍関係者が短期の訓練のために入国する場合もそうだ」
"However, unlike Canada and the UK, they continue to put barriers up against international full fee paying overseas students who are here for the long-term rather than a few weeks."
「しかし、彼ら(政治家の連中)は、イギリスやカナダとは違って、留学生の入国バリアを高くしたままだ。留学生は、たった数週間ではなくてもっと長いこと居てくれる、しかも学費全額支払いなのに(※注:国民は補助金などで授業料が安いが、留学生は全額支配なので大学にとっては大きなドル箱になってる。つまり「大事なお客さん」を遠ざけて何やってるんじゃ?という怒りがにじみ出ているわけですね)。
そうなのよねー。オーストラリア人帰国が優先とかいいながら、スポーツ選手は入ってくるのよね。コロナ感染的にいえば、数週間だから感染危険は低いってことはないから、そのあたり大学など教育関係がブチ切れるのもわかります。いや、ほんと、何やってんだろうねって感じ。
ところで、冒頭のメルボルンの学生寮に話に戻ると、Andrews知事は、この申し出(学生寮で検疫をする)について検討中であり、"I can't give you a date when we'll finalise all of that work but it's what's dominating a fair amount of our time at the moment," he said.「いつまでに結論を出すという刻限は切れないけど、かなりの労力を割いてこの問題を検討している」と答えています。まあ、そうなんだろうなとは思います。結構現実味のある話なので。
といいつつ、1月に行われた閣議では、イギリスの変異体に考慮して、さらに国境は狭くなり、受け入れ数を半分(NSW州は3000から1500、全体で6000から3000)にする、機内マスクの義務化、搭乗前後のテスト必須化。この内容は1月8日から開始され、2月15日まで継続されることになりました。
早い留学生情報
留学生国境情報でいろいろ見てると、この見た目インド系のお兄ちゃんのYouTubeの放送(Overseas Students Australiaというチャンネル)が早くて正確だと思います。字幕も自動生成されるし(COVIDがKovidになるのはご愛嬌やね)、きれいでわかりやすい英語なので勉強方々どうぞ。
ちょい私見
もっと検疫できるでしょ?
以上、長くなるのでこれまでにしますが、しかし、なんでシドニー空港週3000人上限だったのか?といえば、ホテル検疫のキャパがそうだということでしょう。週3000人で2週間滞在なら6000部屋用意ってことになります。だけどシドニーの観光客は430万人(2018年)、365日で割れば1日1.17万人。全員が宿に泊まるわけではないにしても、日々1万部屋くらいは稼働するはず。だとすれば週7万人、7万部屋のキャパはあるでしょう。実際にはもっとあるでしょう。なぜならこの計算は観光客が一泊しかしないという前提での計算であり、本当はもっと泊まるでしょうから、この数倍、十数倍になってもおかしくないです。もちろん全てが検疫に対応できるわけではないにせよ、70000キャパを3000にするのは23分の1しか使ってないことであり、あとの23分の22の部屋は使っていない(推定される実数で言えばさらにギャップは開く)。もったいなくない?またそれだけホテル業界が傷つくことでもある。2500ドルってボッタクリじゃないの
そのあたりの上限を上げるためには、ホテル検疫のノウハウを浸透させればいいんだろうけど、そういう話は出てこないね。マスコミでもそういう視点で言われない。不思議。それに、一律14泊15日で2500ドルというのは高いよ。部屋によって格差を設けてもいいけど、そういうツッコミも無い。これも不思議なんですよね。個人レベルで皆と話すと、高いよ〜、ボッタクリだよ〜とか言うんだけど、メディアではあまり出てこない。緊急事態だから多少ガタピシあっても仕方がないって、大人な態度で皆いるけど、もうかれこれ1年ですからねー。「緊急」つったって十分時間はあっただろうにって思います。マイクロ・ロックダウンの努力
状況に応じて対応を変えるのは、まあ仕方ないかって気もするし、かなり気を使って必要最小限にしようとはしてます。努力は窺われます。ロックダウンでも全面一律は極力避けようとしているし、クラスター単位、そして接触可能性のある個人単位までしぼってるから、以前だったら520万人シドニー全員ダメってのが、今ではノーザンビーチの十数万人をはじめ、かなり限られた数になっている。9割型はOKとか。全市的にロックダウンしたブリスベンも、3日だけとか、一週間だけとか小刻みにやりますよね。その努力のせいもあってか、車はどんどん混んできてるし、カフェなんかも盛況になってきましたよね。NSWでは、客はマスクしなくてもいいことになってるし、義務化のところでは大体してる反面、義務ではないところではマチマチです。マスクをしてる人もいれば、してない人もいる。だけど、それでお互い監視し合うという感じでもないですけどね。
マスクで刺される事件〜面白くならないこちらの三面記事
あ、でも、そういえばショッピングセンターでマスクをするしないで口論になり誰かが刺されてたなー。
一応判明してる限度で書いておきますと、場所はウィンザーだからかなり都心から離れたのんびりエリア。女性が子供二人をつれて地元のショッピングセンターに入ろうとしたら(平日の夜の8時20分ころ)、警備員さんにマスクをしてくださいと注意をされた。その直後、Mr Creswellって人が、いきなり警備員(59歳男性)にパンチを数回見舞ったと。それを見ていた53歳の男性が仲裁に駆け寄ったところ、その旦那らしき人がナイフを出して、仲裁に入った人の足を刺した。で、駆けつけた警察に逮捕された。
記事原文は、
Police allege Dylan Lewis Creswell, 25, a woman and two children were at the centre in Windsor when a security guard asked the woman to put a mask on about 8.20pm yesterday.
A short time later, Mr Creswell allegedly approached the security guard - a 59-year-old man - and punched him several times.
Police allege a member of the public - a 53-year-old man - intervened.
They allege Mr Creswell pulled out a knife and stabbed the older man in the leg.
There was a short struggle when police from Hawkesbury Area Command arrived.
Police then arrested the 25-year-old and took him to Windsor Police Station where he was charged with several offences.
The case has been adjourned until January 25 after the man did not appear at Penrith Local Court today and did not apply for bail.
それだけしか書いてないです。
てか、そもそもわかりにくい英文で、"Dylan Lewis Creswell, 25, a woman and two children..."で、この女の人がDylan Lewis Creswellかと思ったら、全体の文意からすると、どうもそうではないような気がする。Mr Creswellが殴ったというから、姓が同じで旦那かなと思ったんだけど、「25歳を逮捕した」とあって、あれ女性と同じ年なのかな?あ、違うか、25歳ってのは殴ったMr Creswellのことか、じゃ最初の一文は男性のことなのか、でも、そうだとしたら文章が完成してないぞ。いずれにせよ、女性とこの25歳の容疑者の関係は書かれてません。最後の一文も意味不明で、ペンリス地方裁判所に被疑者が現れなかったので1月25日まで法廷は延期され、保釈申請もなされていないってことだけど、逮捕されていながらなんで出廷しなかったのか(本人の意思に関わりなく警察が連れてこれるんだから)、そのあたりの事情もよくわからない。
しかし、いきなり殴るってのも凄いし、ナイフで刺すのも凄いけど、どういう人なの?組(そんなのないけど)関係の人なの?とか、そもそもそういう話だったのか?もっと別の事情があったんじゃないのか?もしかして全然違うストーリーがあるんじゃないの?なんで収監されている筈の人間が出廷しないのか?謎だらけです。
いろいろ興味を惹かれるところはあるのだけど、しかし面白そうな話をわざと詰まらなく書いてるような感じで、それ以上何もわかりません。こちらの三面記事ってこんな感じ。これが日本のワイドショーや週刊誌になると、そこからあれこれドラマを作って(実は不倫関係だったとか、刺された男性とは実は三角関係で理由はマスクではなかったとか、子供を虐待していたとか)、あることないこと面白がって「消費」するという下らないカルチャーが花開いているのですが、オーストラリアではあんまり無いです。そもそもワイドショーなんかないし。だからこの事件も、続報をまってても何もないでしょう。「ふーん、変なの」で終わりです。
今回は以上。
前回は内容的にどうにも短くなりにくかったのですが(短く切ったらその10くらいまでになりそうで)、今回はそこそこ短めに終わらせられてよかったです。
文責:田村
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