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Essay 953:オーストラリアのビザの近況
 

〜「決められない政治」「やってる感政治」に振り回されるビザの現場と、そのまま垂れ流している忖度メジャーメディア


2020年09月21日
写真は、ManlyのNorth Head


 オーストラリアのメディアでは、最近みるみるABC(国営放送)が忖度クソメディア化してきたので、いろいろ探すのですが、Independent Australiaというメディアをみつけました。これ、面白いです。

オーストラリアの学生ビザの前代未聞な状況

 その中で、オーストラリアのビザの現状について書かれている記事があり、これが良く出来ているので、まずこれを皆とシェアしたいと思います。



 上の画像をクリックすると記事原文が読めるようにリンクしてありますが、将来的に記事が削除整理される場合もあるので、魚拓 も取っておきました。


記事全文の日本語訳

 以下、記事全文を日本語訳しておきます。

 2019年に移民局(てかそれをを管轄する国家安全保障局=Department of Home Affairs)にインドやネパールなどからの学生ビザ取得について厳しくする改正をした(国のリスク査定を上げて、より自己資金保障や英語力証明、さらに留学先の学校のレベルなどを求める)。インドとネパールはオーストラリアの学生ビザの第二位と第三位を占めている。第一位の中国は、既に他の理由で数が減っている。

 この結果として、2020年2月までの8ヶ月の間のオフショア(オーストラリア国外)からの学生ビザの申請するは、前年同期よりも1万8500件減少している。3月から6月までの4ヶ月については(コロナ騒ぎによって)前年同期よりも7万7000件も減っている。

 総じていえば、2019-20年のオフショア学生ビザ申請は前年の28万9691件に対して19万2723件になり、33%の減少。この減少の多くは、中国(20%減)、インド(46.7%)、ネパール(60.7%)、ブラジル(34.2%)である。


 対照的に、オンショア(既にオーストラリア国内にいる人が行う)学生ビザの申請数は2018-19年に18万3724件だったのが20万2423件に増えている(年間上昇率10%)。国内申請の内訳は、中国6.8%減少、インド39.3%増加、ネパール36.4%増加、ブラジル変化なし、コロンビア26.8%増加である。

 しかし最も変化が激しいのはグラントレート(申請に対して承認・交付される率)である。オンショアの場合、2020年の1月〜3月の交付率は93.5%、さらに4月〜6月になると、なんと100%にもなっている。この変化は、推測するに、移民局(DHA)が申請を却下したがらなかったからではないか。却下した場合、この役所は、申請者が国外に退去するまで責任持ってモニターするの義務を負うのだが、パンデミックの時期に行うのが困難だからかもしれない。

 しかしこの種の国外退去事務の問題はオフショア申請については生じない。それでも2020年1-3月のオフショアの交付率は89%、4-6月で96.2%になっている。インド人学生の場合は、81.3%から97%へ上昇、ネパールは81.5%から100%になっている。

 実際問題、オフシェア申請おいては、香港、インドネシア、パキスタン、サウジアラビア、マレーシア、ナイジェリア、ブラジル、ケニア、シンガポール、イギリス、そしてアメリカ、これらの国からオフショア申請をした場合の承認率は、なんと全て100%である。

 これは前代未聞の現象である。これは一体どうしたことか?
 考えられるとしたら、一つには、この期間に申請者の質と有能さがありえないくらい劇的に向上したのか、あるいは政府の上の方から出来るだけ多くの学生を取るようにという指示があったり、非常に迅速に審査するように強い圧力があったのか、などの事情が考えられる。

 これは、(学生数を減らされただけではなく)JobKeeperの対象から外され、そのために多くのスタッフをリストラせざるを得なくなり、怒り心頭に発しているオーストラリアの大学をなだめるために政府が意図してやってるのだろうか?

 奇妙なことはまだある。
 上で見たように承認交付率は劇的に上昇しているのだが、学生ビザの審査期間が前例のないレベルで延びているのである。オフショア・オンショアいずにおいてもそうである、例えば、ここ数年のオフショア申請の審査期間の中間値は15日くらいのなのだが、2020年の4-6月になると、これがなんと107日まで増えている。

 これがインド人学生の場合、オフショアの申請期間の中間値は21日から121日に延びており、中では500日も待たされている申請者も多数いる。同じようにネパールの場合も21日から300日に延びている。

 ここにいたって、また別の解説が必要になる。
 つまり移民局(DHA)は、ある一定の期間、ビザの審査をストップするように指示し、そしておそらく6月の後半くらい、つまり大学から強烈な要請を受けたあとくらいに非常に速やかに審査するように指示を変えたのではないか。だから(ほとんどザル審査だから)こんなにも(100%)交付率が高くなったのではなかろうか。

 もしそうだとしたら、これは行政事務の無能さを示すものである。それだけではない、長期間審査事務を放置していた結果、国外には学生ビザを取得した人々が山積することになって、彼らがオーストラリアに実際に入国出来るチャンスは小さくなっている。


 オフショア申請が急激に減少しているのと対照的に、オーストラリア国内での学生ビザ申請は増えている。結果として、学生ビザのトータル数では、55万3139件(18-19年)から55万5310数(19-20年)とほとんど変わらない(むしろ微増)。

 この間で変化で注目すべきは、中国が学生ビザの第一位ではなくなったことである。2020年6月末時点で、インドは10万8203人(前年よりも14.3%増加)、中国10万8155人(12.2%減少)。

 さてオフショアの学生ビザ数も徐々に増えてきつつあるのだが、しかし、実際に留学生がオーストラリアにやってきたのは、2020年4-7月の間にわずか170人でしかない。一方では3万4950人の留学生が帰国してしまっている(7月だけでも1万2130人)。
 海外からオーストラリアにやって来る場合の人数制限があり、これは2020年いっぱい続きそうである。学生ビザの数そのものは、国内申請者の増加によって持ちこたえているものの、この増加分も、帰国者数によって結局は相殺されてしまうことになるだろう。留学生の入国は、現在の入国制限がかなり改善されない限り、増えないだろう。

 ところで、19-20年度において、学生ビザ保持者が(学生ビザ終了後 or その途中で)別のビザに移行した者の数は、15万1526人であり、これは前年の16万7385人よりも減っている。
 内訳は、5万7923人が卒業生ビザ、3万1853人が観光ビザ、1万0846人が永住権ないし地域技能ビザ、7383人が永住ないし地方家族ビザ、3054人が労働ビザ(前年よりも50% 減少)、2518人がworking holiday visa(なんで国内で取れるのかようわからんのだが、一回外に出たのか)。

 卒業ビザ保持者の総数は10万0239人であり、前年の9万1776よりも多少増えている。
 卒業ビザ保持者で、さらに別のビザに移行した者の内訳は、1万6459人が永住ないし地方技能ビザ、(18.1%上昇)、1万4661人が再度学生ビザに(36.3%上昇)、1988人が観光ビザ、1712人が労働ビザ、1552人が地方ないし永住家族ビザ。
 20-21年度の予想は、卒業生ビザが増えるか減るかによるだろう。オーストラリアの55万人の学生ビザ保持者が将来的に卒業生ビザになりうる可能性があることを考えると、卒業生ビザはあと数年は増えるのではないかと思われる。

私見

 というわけで、一般のメジャーメディアの通り一遍の報道に比べて、非常に痒いところに手が届くというか、本質をえぐり出すようないい記事だと思います。とても詳しいんですけど、それもその筈で、書いているAbul Rizvi氏は、長年移民局に勤務しており、また移民政策学において受賞歴もあります。要するに現場をよく知ってる人が書いているという。

 上の記載は、前々からHPやエッセイで、オーストラリアの移民局にさしたる権限はなく、移民政策やビザの具体的な発行数や審査期間は、もっと上の政治レベルで決まるのではないか、ということを改めて裏付ける形になってると思います。

 つまりコロナ関係で新規入国数をなるべく抑えたいという上の意向があれば、審査自体をサボタージュして審査日数が非常に遅延することになるし、のちにオーストラリアの大学から怒りの圧力がかかると、一転してザル審査で成功率100%になるという。要するに、学生ビザが本来求めてる実質的な審査とかプロセスはほぼ無視され、ちゃんと仕事をしていないとすら言えます。さらに悪いことに「上の政治レベル」というのが、ここ最近劣化しまくってるので、それがまた問題だという(例えば出口戦略もろくすっぽ考えていないコロナ政策とか、大学への補助もせず、学生ともどもJobKepeerの対象外にするという愚策など)。

 逆に言えばこんな移民局の動向に右往左往する方が虚しいのであって、自分のビザがどうなるかを知るためには、移民局の動向ではなく、もっと上の国内政治の動向を見たほうが早いし、確実だということでもあります。GTE(「オーストラリアに不法滞在するつもりはなく、終わったら帰りますよ」旨の説明と宣誓みたいな文章、学生ビザの申請に添付させられる)なんか頑張って書いたところで、ザルのときは読みもせずに通すだろうし、ストップがかかってるときはどんなに名文を書こうが読んでもくれずに積み残しにされるだけだという。まあ、GTEはだいたい僕も添削しますから、ビザ申請のためというよりは、英語の勉強のためという側面が強いですけどね。

永住権の近況

 今年はコロナの影響で予算編成が10月にズレ込んでますが、予算発表の際に、次年度の移民計画が発表されることになってます。でも、今の時点でどういう状況になっているか?について見てみるのは無益ではないでしょう。

 ここでその点について書かれた記事を。

 魚拓はここです。
 以下、日本語訳を書きますが、前よりも多少私見を交えて意訳気味に書きます。逐語訳は面倒な上に、かえってわかりにくい部分もあるので(説明を補充した方が良い場合も多いし)。

 まず永住権全体でいえば、ビザ交付数の減少。2019-20年度の永住ビザ交付数は、2004-05年度以来最低であり、16万という上限を設定しながら、それをはるかに下回る14万0366でしかない。内訳は3分の2が技術移民系(9万5483)で、3分の1が家族系(4万1961)と子供系(2481)。

 かといって、それだけオーストラリアに新しい人々が到来したわけではない。技術永住の70%、家族永住の56%は既にオーストラリアに住んでいる人であり、彼らは最初に(別のビザでオーストラリアに)到来した時点で既にカウントされているから、実際にはそれほど新たに増えているわけではない。

膨大な積み残しのある家族(パートナー)ビザ

 家族(パートナービザ)の状況ですが、膨大な積み残し数と移民法は家族ビザについて政府が年間受け入れ数の制限をすることを違法としているにも関わらず、家族ビザは減少しています(3万7118人(2019-20 )、3万9918(18-19))

 
 この表は記事原文にあったものですが(もともとは政府のレポート)、各年度左端の青がパートナービザの発行数、右の灰色が新規申請数で、真ん中のオレンジ色はバックログ(審査の積み残し数)です。コロナの影響もあるのか、国内申請が増えて国外申請(オフショア)が減っているのは学生ビザと同様。

 新規申請数は、前年(18-19)の6万1884人から19-20年度で5万2479人と減っているのだが、これが審査時間の遅延や年々上がる申請料金などに嫌気がさして、オーストラリア以外の国に住むことにした人が増えているのかどうかは分からないが、もしそうだとするなら問題である。

 審査積み残しのバックログ数は9万6361人であり、前年度からさらに5500人も増えている。これらはビザ却下の結果が不満でAdministrative Appeals Tribunalへ異議申し立てを行っている人が増えているということだが、年間約5万人強の受け入れ数に対して10万人弱が異議申し立てなど審査の積み残しになっているとするなら、その制度は法的にも、道徳的にも、もはや破綻していると言って良いのではないか。

鳴り物入り目玉ビザの挫折〜GTI

 技術移住については、モリソン政府の看板製作としてのGlobal Talent Independent (GTI) がある。最求められるエリアにおいて非常に優秀な人材(オーストラリアで年収1300万以上稼げる)を、簡略化した手続きで優先的に受け入れようとしうビザカテゴリー。初年度である今年の設定数は5000名であるが、4109人がこのビザの交付を受けている。

 このビザは鳴り物入りで(with much fanfare)導入されたもので、新たに世界各地(ロンドン、上海、シンガポール、ベルリン、ワシントン)に審査官を配置した。しかしながら、実際問題必要とされたのは、シドニーとメルボルンであり、 4109人のビザ交付のうち、3344人は既にオーストラリアで暮らしている人である。

 2019年にこのビザが発表されて以来、おそらくビザの現場には相当な圧力がかかったのではないかと思われる。ビザ代行士業界の指摘によれば、Employer Sponsored, Skilled Independent or State Nominatedなどの既定のカテゴリーで永住申請するのを、このGTIで申請するように移民局から「強く勧められた」らしい。GTIは無限に柔軟であり、申請期間も異様に短く、申請料も格安で、技能査定も、英語力審査も、年齢も、雇用者の義務も何も無い。そして申請に対するGTIの成功率(交付率)は99.5%である。

 しかし、このビザの交付数が2020年1月時点でわずか227人出典)だったことを考えれば、あまりの不人気さ焦った政府が移民局のお尻を叩いて、年度最後の6月末時点に一気に2448件の交付をするなど、他のカテゴリーの申請者をこちらに引っ張ってきて、必死になって帳尻を合わせているのではないかと思われる。

 以下は訳ではなく個人の私見だが、このビザは、条件が非常に厳しい(優秀な人材で、年収約147K以上、求められるエリア(ITや量子力学など技術系)で、業界で優秀な会社のお墨付き)わりには、実際の審査はほとんど求められない(実際にその年収がある必要もないし、それだけ払って雇いたいという会社の存在すら不要だし、技能審査もないし、年齢や英語点もなにもない)という不思議なビザであり、ビザ全体の整合性を狂わせるものという指摘もある。「厳しい条件を課しながらもそのチェックをしない」というアンバランスさは、実用面においては、悪用しようと思えば幾らでも悪用できることを意味するし、当局が厳しくしようとすれば無制限に厳しく出来ることを意味する。

 このことを申請者から見れば、ほとんど何の保障もないギャンブルと同義である。換言すれば、あらゆる法律に本質的に必要な「法的安定性」を著しく欠いている。法律というのは「こうすればこうなる」という安定的な将来予測のためにあるのであり、「やってみなければわからない」というのは法律ではない。結局は、無能な政権がやってる感を出すために、思いつきで出したビザとしか(僕には)思えないし、この記事もそういう批判的なニュアンスはある。

鳴り物入り目玉ビザ(その2)〜地方ビザ

 これは2019年の都会での混雑解消(congestion busting)という政府の「人口プラン」の一環、地方創生ということで鳴り物入りで導入されているが、その効果の程は疑問である。

 2019年11月の導入以来、地方ビザのカテゴリーで2万3372件のビザ交付があったとされているが、残念ながら(あるいは意図しているのか(原文:Unfortunately (or perhaps deliberately) )、この数字のうちどのくらいが旧来の地方ビザにより、どのくらいが新しいカテゴリーによるものかについての内訳は記載されていないのである。

 多くの証拠の示すところによると、新しいSkilled Employer Sponsored Regional visa(長いこと行われていたRSMSに代わるもの)の 8372件は、旧来の申請の積み残しによるものである。2018-19年に8897の RSMSビザが発行されているが、2019年の6月末時点でまだ9932のRSMS申請の積み残しがあった。そして2020年6月末時点での新規ビザ数はわずか2693件であり、来年度以降、急激な減少が予想される。

 1万5000件にのぼる地方永住ビザが交付されているが、これまた内訳が不明で、どのくらいが旧来のビザの積み残し解消分であり、どのくらいが新規ビザによるものかは明らかにされていない。

 このビザの本当の問題は、ビザ申請者におけるリスクである。いったいどれだけの人が、この不況経済の雇用情勢において、3年以上も地方に住みつつ、決められた最低年収以上の仕事を3年以上も得られ続けるというのだろうか。そして5年の期間を経た後、結局その条件を満たせなかった者がどうなってしまうのかについては、政策の発表の際に何も触れられていないのである。

 これでは政府が、現在の問題を5年後の誰かに引き受けさせるように、単に引き伸ばしているだけとも受け取れる。

 一方、州政府ノミネートによる地方永住交付数は、2019-20年度は2万1495件であり、これは前年の1万6672件よりも格段に増加している。(私見では、これだけが希望の星なのだが、しかし、州政府ノミネートの基準やら審査プロセスの透明性やら全てがブラックボックスであり、その意味ではもっとも「ギャンブル」に近いとも言える)。

その他の永住権につながるビザの状況

 ところが、雇用者指名地方ビザ交付数は2万9261件であり、3万3025から減少している。将来において課題になるのは、申請件数における減少(34966→25096)と手持ちの審査案件数の減少(30975→13023)にいかに対応するかであろう。

 このカテゴリーのビザは、予算編成においてポジティブな予測をする際のベースとして活用されているのだが、これらが減少するということは、予算編成もやりにくくなるということである。これは労働市場の弱体化を反映するだけではなく、18-19年に行ったピーターダットン担当相の政策の不手際が露呈することでもある。さらに、このビザの人材供給元であったテンポラリーの労働ビザ数も減っている。2014年9月には19万6934人もいたのに、2020年6月には12万8145人に減少しているのであり、この人材バンク的な存在の痩せ細りが、将来の永住権数の減少に拍車をかけるであろう。

 独立技術移住であるが、これもまた減少している。
 3万9137(2017-18)→3万4247(18-19)→1万2986(2019-20)。なお明記されるべきは、17-18年度から新たにNZ人の申請も加算されるようになったことである。それまではNZ人の申請は別計算になっていたのでる(意味するところは、NZ合算という姑息な統計詐欺まがいの底上げカウントをしてもなお減少しているのであって、実際の減少率はもっと激しいことが推定される)。

 最後に、ビジネス新規発明投資ビザ(Business Innovation and Investment Program (BIIP))であるが、これも7261人(2018-19)から4420(19-20)に減っている。計画では19-20年度も7000名であったのにも関わらずである。しかし、これは申請者が減ったことを意味しない。なぜなら、申請積み残し数がどんどん増えているからである。1万8897(18年度)→2万3233(19年度)→3万1661(20年度)。これは人口担当大臣(Population Minister)のAlan Tudge氏による「Global Business and Talent Attraction Taskforce 」の存在を一層奇妙なものとして浮き上がらせる結果になっている(世界中のビジネスと人材を惹きつけるとか言いながら、全然仕事してないじゃないか=積み残しが増えてる)。

 さて、来月10月に発表される新しい移民計画はどうなるのであろうか。

私見

 ということで学生ビザのみならず永住権方面もグチャグチャです。

 だいたいここ10年くらいのビザ政策は、見た目の華やかさだけで、実質を伴わないものが多いように感じますね。どんどん悪くなっている。昔の独立移住と雇用者指名だけで、合否もポイントテストオンリーだった頃の方が順調だったように思います。なぜならシンプルでわかりやすいし、ポイントさえ稼げば確実に取得できたからです。法的安定性が高かった。

 それを歴代内閣が、やってる感を出したいがゆえに、思いつきのような制度改正を重ねて、どんどん複雑になり、使いにくくなり、それだけ安定性は欠けるわ、でも当局のフリーハンド(胸先三寸)部分が増えるわで、年々安定性が欠けてきてます。今となっては、ほんとギャンブルと大差ないですね。

 この鳴り物入りのGTIの無理矢理の数字合わせにせよ、地方創生ビザにせよ、ほとんど意味ないです。てかより悪化してるとすら言えます。発表の段階で僕が危惧したのは、地方創生系のビザの条件の厳しさです。3年以上住んで、3年以上一定(ハードルの高い)年収を上げるなんてことが出来るのか?既に地方にいる人だったら出来るかもしれないけど、それでは地方の人口は結局増えない。増やそうと思えば、その地方における新参者が増えないといけないけど、そんな新参者、英語も不十分な人達に、地元民でもやや難しい就職と年収が3年以上も継続出来るかどうか、ちょっと考えたらわかりそうなものです。

 そしてその失敗を隠すように、従来のザルと言われたRSMS積み残し分と新規分の内訳割合を敢えて書かないという姑息さ。多分ほとんどがRSMSだと思いますね、言わないところをみると。RSMSは不正の温床と言われてましたけど、不正だろうがなんだろうが、それで地方の人口は増えたから、役には立っていたとも言えます。

 もっといえば、独立技術移住で移民した人間が、その職で仕事をするとは限らない。僕だってこちらで弁護士はやってないし、そういう人は多い。もともと先進国からオーストラリアに来る技術レベルの高い人というのは、バリバリビジネスライフにうんざりして、リラックスしたスローライフ指向なわけで、本来の仕事をするかどうかもわからんのですよ。その意味でいえば、永住における職業点なんかほとんど無意味です。

 単純に地方の人口や経済を活性化したかったら、すごい低いハードルで受け入れればいいわけですよ。労働者に来てもらうよりも、消費者に来てもらえばいいわけだしね。それに仕事がなくて失業していても、消費者には着いたその日からなるわけで、就職ライバルが増えるよりも単純に客が増えた方が地方にとっては良いでしょう。でもそこまでぶっちゃけると政策としてカッコ悪いのか、「優秀な人材を」とかカッコ良く言いたいのか、そこで妙な制限をかけるから、結局使い物にならなくしている。ほんとアホとしか言いようがないんですけど。

 ではこれから永住権を目指す人はどうすればよいか?ですけど、僕の意見は、王道でいいと思います。政府が言ってる新規ビザとか、大体がお化粧したもの、祇園祭の山鉾巡行みたいなもので、その空疎な内容がバレた頃には政権も変わっているという感じじゃないですかね?だからそんなものに惑わされずに、実質的にこっちで根を下ろして生活出来ているという実績を積み上げていき、労働ビザや雇用者指名にランクアップしていくのが手堅いと思います。パートナービザも膨大な積み残しと、異議申立による再審査において移民局の敗訴率が50%を超えるというメチャクチャな判断というハードルはありますが、結果が出るまで好きな人と一緒に暮らせるということは出来るわけだし(だからオンショアで申請したほうがいいよね)。また結果が出るまでに3年かかるかもしれないが、同時にその3年の間に離婚するかも知れないのですよね。

 ビザの項目で最初に書きましたけど、これはあなたが幸せになりましょうゲームであって、永住権を取りましょうゲームではないです。オーストラリアの永住権が取れなかったら幸せになれないんだったら、地球上の人類の99.9%以上は不幸のどん底にいることになります。人生いたる所に青山ありですし、要は今目の前の現実を精一杯やるだけでしょ。永住権が取れても実質が伴わなかったら、オーストラリアで砂を噛むような日々になるわけで意味ないし、実質が伴うならば、永住権という形に結実しなかったとしても、その人生スキルはこれから死ぬまでの長い期間に物凄く役に立つ筈です。だもんで、こんな政府の言うことに一喜一憂してるだけ馬鹿馬鹿しいと思います。

政治とメディアの劣化

政治の問題

 この政治や行政の劣化は、オーストラリアに限らず、日本でも世界でも見られるところだと思いますが、なぜそうなるか?といえば、僕が思うに(常に書いていることだが)、現実の今の世界は、たかだか一国の政府がマネージ出来るレベルを越えてきているのが根本的な理由なのではないか。つまり国家という制度自体が時代遅れになりつつある。例えばテレワークが活発になり、多くの仕事がオンラインで出来るならば、仕事を行う国に定住する必要すらなくなるということを意味します。そして労働のカジュアル化、さらにギグ・エコノミーが広くホワイトカラーにも広がっていくと予想されるところ、ますますこの傾向は強まる。そんな中で、国境を前提にした国家というのものが、現在から将来の労働市場に対して、どういう存在になるのか?といえば、段々意味がなくなっていくでしょう。なんせ国境を越えなくても仕事が出来るようになる、優秀な人、知的・抽象的な仕事ほどそうなるのだから。デジタル化できるし。しかし、そういう仕事こそ、AIによって取って代わられる可能性が高く、いずれは無くなるかもしれない。

 そうなると国境や土地性を前提にした物事はなにかというと、住んでて気持ちいいかであり、仕事レベルではオンライン化が出来ない現場系でしょう。国家もそれに照準を変えたほうがいい。なんでもかんでも、政治でも労働でも経済でも国家単位で支配できるなんて旧態依然たる発想は捨てて、国家がやれることは限定的なんだから、それに照準を絞ったほうがいい。

 では国力やビザはどうなるのかいえば、例えば、優秀な消費者・住人に来てもらうように、生活環境を整備したほうがいい。緑豊かな環境、公正で差別のない社会、フレンドリーな人達、たっぷりした余暇時間などなど、人々がうらやむ社会をまず作り、それを売りにして、ビザや永住権も、労働者を輸入するのではなく、居住者、よき隣人、よい顧客を輸入するように変えたらいい。要するに国民を幸せにするように頑張れば、それがひいては国外者を惹きつけることになり、それに魅力を感じる(性質的に同類で問題の少ない)人口も増え、経済も強くなっていくという。

 てか、今現在のオーストラリアがまさにそうなんだけど、政府だけが「優秀な経済によって優秀な人材を」とか、一昔前の田舎の秀才君のような価値観に未だに囚われている。そこが根本的にミスマッチなんだと思います。もーね、オーストラリアの永住権攻略法は、こういった馬鹿な政府の知的レベルに合わせていかないといけないので、そこが難しいですね。

 労働ビザにしても、学生ビザから地続きにしたほうがいいかもしれないですね。つまり学生ビザ○年やっって、英語力もそこそこ行くに連れて、現地の労働時間も20時間から増やしていく。労働ビザのカテゴリーも、労働市場が求めるからこそ就職できるのであり、そういう実質に任せればいい。だからビザで職種のカテゴリーを分類しても意味ないので、一切やめると。それでトータル○年くらい住んで、働いて、実績もつけてきたら、もうオーストラリアの労働市場には組み込まれているし、無害な居住者としての実績もあるんだから、その時点で永住権上げたらいいと思うのですよね。だって現状に変更ないんだから。それだけ長期間オーストラリアで就職できて、暮らせていたら、もう資格は十分でしょうに。適合しない人は、その過程でふるい落とされていくでしょうしね。

 そういうフレキシブルで、実は一番確実な方法があるのに、それをやらないで、グローバルタレントなんたらとかいう、80年代の電通みたいな、今となっては恥ずかしくて痛いネーミングにまだこだわってる、ダサい田舎者みたいなセンスがいただけませんね。

メディアの問題

 こういった当たり前の事実をメジャーメディアは書かない傾向にあります。特にコロナ以降はひどいもので、ABCでも毎年のようにイヤガラセで予算を削減されているからか、最近ではツッコミが薄くなって、忖度メディアに堕ちてます。

 そのあたりをドンピシャと書いてくれたのが、このIndependent Australiaの記事で、”it has become increasingly frustrating to follow the news.”(最近ニュースを読むのがフラストレーションになってたまらない)というのは、まさに同意です。ほんとアホなニュース(知的なツッコミをしない)を読むくらいイライラするものはない。


 プレス・リリース・ジャーナリズム って書かれてますが、意味するところは、日本でいう記者クラブ制度に似たようなもので、政府の発表をただ右から左に垂れ流しているだけのクソメディアということです。大本営発表と似たりよったりな。本来ならば、プレスリリースの際にも、なぜそうなのか、アレはどうなったのか、おかしいじゃないかとその場で厳しい突っ込みを行い、さらに掘り下げて政府にぶつけ、より立体的に実像を明らかにし、それを問題提起という形で国民に伝える、それこそがジャーナリズムの本領でしょう。それをやらないジャーナリズムは存在価値がない(垂れ流すだけなら政府広報の原文をネットで読んだ方が正確だし、早い)。

 以下、原文では個別事例について詳しく検証していますが、長くなるので割愛します。興味がある方はどうぞ。いかに政府が前言を翻して知らんぷりをするか、いかに事実や根拠に基づかずに気分だけで言っているか、いかに矛盾する事実や指摘をシカトするか、そしてそれをそのままメジャーメディアがグロテスクなまでにカーボンコピーで伝えているか。それでもGood Newsは、にも関わらず、こういう大勢とは別に、きちんと鋭く指摘している人達が多数いるということですけどね。

コロナと経済と予算 

 来月、延期されていた予算案がでますが、今頃油汗流して鉛筆なめていることでしょう。

 もうすぐJobKeeperとJonSeekerが切れます。ある程度延長されるのだけど、切られる人は切られる。同時に、半年期限にしていた、住宅ローン返済のモラトリムも切れる、また不動産賃貸の立ち退き請求禁止も切れる。半年前に、あらゆるものが「タイム!」をかけて、現状維持保存という形でやってきたのだけど、そのタイムが解けてくる。どうするの?

 9月に切れるんだったら、7月には経済再開に向かってかなり力強く進みはじめてないといけない、だから国境閉鎖も7月くらいに開くか、9月に本格的に開くだろうと思ってました。そのくらいのペースでいかないと間に合わないからです。

 だけど、モリソン政府、この半年間、ものの見事に動きませんでしたねー。完全に日和見の風見鶏というか、コロナの感染者数の各州の状況を一喜一憂して見守っているだけだという。それでも各州の感染者=自分の政治生命みたいになってる近視眼的状況からは、モリソン首相が一番離れて大局的には見ていたとは思いますよ。でも州境をどうするとかいう問題ではなく、より本質的な経済再開をどうするかでしょう。

 経済対策としては、同じIA紙のこの記事が面白いです。


 まずこの漫画が秀逸で、前々からリセッション(不況)があるよと標識が立ってるのに、真っすぐ進んで案の定コケているという。そのまんまじゃん。

 内容ですけど、ここがダメという羅列をしていて面白いのですが、まずはスピード。リーマンショックのときのラッド政権の対応の速さはすごかったです。おかけでオーストラリアは先進国のなかで唯一不況にならなかった国でした。それに比べてみると、モリソンちゃんのやってないこと。

 確かにJobKeeperなど初動の一連の対応は良かったと思います。よくぞ思い切ったなと思うけど、あとがダメ。てか、それすら遅いと言われていた。ラッド政権の場合、リーマンショックがあった時点で、ほぼ即座に全員に900ドルを配りました。だけどJobSeeker、Keeperにせよ、実際には1ヶ月くらい遅れたのであり、なんでここで1ヶ月も待つのか、当時も不思議でしたけどね。

 経済対策は、同時に国のインフラを整備するチャンスです。フランスでは、国中の建物の防音、防寒、窓やドアなどの補修をやり、何十万人もの雇用を生み、かつ建物の持ち主の負担分はわずか1ユーロ。国をあげてインフラ整備をすることによる静音な住環境保全、建物所有者の節約(無駄な暖房代がいらなくなる)、これらの効果は百年単位で後に残る。

 リーマンのときのラッド政権は、低所得者用の居住施設を増設し、道路や線路、港湾、学校、公民館など多くのインフラ整備に予算を使い、雇用を増やし、結果として国力の増大に寄与した。今回、モリソン政府が何をやったかというと、ほとんど何もやっていない。

 経済のための環境としては、まずマジョリティの消費力を底上げすることが大事であり、低所得〜中間層の可処分所得を増やすことが、彼らの生活を守ることだけではなく、国全体の経済を良くしていく(お客さんが増えるから商売もやりやすい)。しかし、コロナ前からコーリション(連立与党)は世界の趨勢通りに、高所得者優遇のような税制改革をはじめ逆行するようなことが多い。今回も、インダストリアルリーレーション改革とかいって、労働法によって保護されている労働者の権利を薄くすることで、企業が雇用しやすくするということを言いかけて、バックラッシュにあってひっこめているくらいです。言わんとする意味はわかるけど、もうそんなレベルじゃなくなってきているし、いかにもタイミングが悪いというか、事柄の本質がわかってないのではないか?という疑問もあります。

 コロナとかいっても資源会社の利益はかなりよい(石炭はダメだが鉄鉱石は良い)。だけど多くの場合は外資系の会社で、儲けはそのまま海外にもっていかれてオーストラリアはなんにも潤わない。そう言う状況を改善するかのような動きはない。

 景気回復のためにやったのは、homebuilder schemeってやつで、前にも書きましたが、しょーもないやつ。家の増改築を支援して景気を良くしようとするのだけど、条件がめちゃくちゃ。工費1500万以上の増改築をこの時期やるか?という根本的な疑問に加え、金持ちだったらやるだろうなと思うけど、金持ちはダメなんですよね(年収上限があって余裕でやれる層はダメになってる)、そして支援も250万程度。だいたい、1500万以上の増改築を、250万貰えるからといってやるか?という。

 結果としては、ほとんど誰もやらないという低調なことになってます。
 

 “most effective stimulus in decades”(数十年に一度レベルの効果的な景気刺激策)などと鳴り物入り(この政権は鳴り物入りばっかだよね、さすが"ScoMo from Marketing”)で宣伝されながら、全国で250件というのはトホホレベルでしょう。

 この報道が最初にあったとき、嫌な予感がしたのですよね。え、こんな愚案しか思いつかないのか?と。もっとやるべきことは幾らでもあるでしょうが。だいたい、老人ホームとかに被害が集中するのが見えてるんだかから、老人ホームなどの物的、人的、システム的整備をすればいいじゃんって。だもんで、日本もそうだけど、そういうケア業界についてどのような画期的な進歩や、アイデイア、予算が注ぎ込まれるか、それを注目してたんだけど、今日にいたるまで肩透かしです。なんもしてないんじゃないの?

 また医療健康予算だってこの機会にもっと拡大して使いやすくすればいいし。そもそもビクトリアで防疫がダメとか言われるのも、ここ十数年の「新自由主義」の積み重ねと言われてます。毎年のように行われていた予算削減、そしてアウトソーシングばっかでパッチワークのようにシステムがぐだぐだになっていたからだと言われてます。能力の問題というよりも、歴年の場当たり的政策のツケだと。

 だからねー、ちょっとびっくりするくらい何にもやらないなーって思ってます。まさかここまで何もやらないとは思わんかったし、普通に考えれば7月に国境開放でしょう、それが出来るような体制づくり(掘っ立て小屋でもプレハブでもいいから、膨大な敷地に14日隔離施設を作るとか、ピストン輸送体制を作り上げて雇用救済にも使うとか)を4月くらいから着手しておけばいいんじゃないかと。

 このままいけば、9月末の支援停止によって阿鼻叫喚的な状況になるから、日に日に高まる延長要請に応じて、また延長するじゃないかと思われます。だけど、こんな調子で、「決められない政治」をダラダラやってるだけだったら、いくら引き伸ばしても意味ないです。日本のバブル崩壊の後に、真正面から取り組んで根本的に対処するのを嫌って、ダラダラと引き伸ばして、失われた30年(おそらく100年になるかも)になるのとデジャビュですね。




文責:田村


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