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今週の一枚(2018/07/02)



Essay 882:ドバイ/スイス旅行で思ったこと〜危機感と国家戦略

 

 写真は、ドバイ〜アブダビを結ぶ高速道路にて。距離が150キロくらいあるんだけど、2泊で2往復したので(自分で運転したわけではないが)なんとなく道を覚えてしまった。
 しかし、制限速度140キロ!みなさんブイブイ飛ばしてましたねー。

 2週間ブランクがありました。その間、ドバイ/アビダビ〜スイス旅行に行ってきました。
 もう、そこで仕入れたネタは山程あるので、エッセイとブログで吐き出していきます。

 小ネタはブログで書くとして、エッセイではある程度まとまったこと、抽象的なことを書きます。海外旅行とかそのエリアに興味のない人が読んでも楽しめるような。

危機感と国家戦略

 今回、ドバイ(アブダビ2泊)とスイス(7泊=ジュネーブ1+モントルー1+ツェルマット(マッターホルン山麓)2+グリンデンワルド(アイガー山麓)2泊+チューリッヒ1泊)と行ってきたわけですが、別に最初からそうするつもりではなく、カミさんのマイレージが期限切れになるからどっか行こう+エミレーツ航空には一回乗ってみたいというのが原点で、どうせドバイ経由ならストップオーバーしようよとか展開していったものです。スイス国内の行程も、ゼロからスイス地図をGoogle Mapで見ながら「こんなもんか」で決めていきました。

 練りに練った旅程ではなく、本来練るべき時期に、僕は引っ越しだ日本ツアーだで超多忙であり、カミさんは日本巡業でぶっ倒れそうになってるわで、深夜の端切れ時間にちょこっとやってはお互いに情報交換して、DpopBox共有して、、とかやってましたので全くもって準備不足。明日の細かな部分は、前の夜のホテルでネット調べるという泥縄でもありました。

 だから、ドバイ(UAE=アラブ首長国連邦)がどんな国だとか、スイスがどのような成り立ちをしてるかとか、もう全然わからず、いきなり行ったという感じです。また、観光以外の知識になるとネットにそんなに載ってないし。

 ほとんど予備知識もないまま「いきなり現物」って感じで現地に降り立ったわけなんですけど、それだけに先入観ゼロのままナマに感じられて良かったというのはあります。やっぱ見ると聞くとは大違いというか、行けばわかる、行かないとわからない、ネットではあんまり書かれてないこと、なんでこれを書かないのか?ってことも結構ありました。

 その中で一番感じたのは、UAEにせよ、スイスにせよ、その国が生きのびることを超真剣に考えていて、かなり徹底的に戦略的にやっているということであり、その先見の明というか、システムづくりの凄さというか、それを実現するための努力というか、そこらへんは目を見張るものがあります。

危機感と不安感

 まず前提として、すごい危機感がある。

 脱線するけど、危機感と不安感というのは似て非なるものだと思うし、危機感は適宜持つべきだけど、不安感なんか百害あって一利なしだからシカトすべき感情だ、というのが僕の意見です。

 危機感というのは、予想される害悪がかなりハッキリ認識されており、それがゆえにその対応策も真剣に考えようとするし、またその方策をガンガン実行していくわけで、非常に能動的で明日につながる感情です。これに比べて不安感は予想される害悪がよくわからなかったり、対応策も曖昧だし、真剣に考えようともしてないし、ましてや実行もろくにしていない場合が多い。危機感は真剣な思考や行動を促すのに対して、不安感は思考や行動を鈍らせる。

 受験でも、受かるか落ちるか「不安」とかいうレベルだったら、「不安で勉強が手に付かない」という間抜けな事態になったりするわけです。これが危機感=ヤバい!このままいったら落ちるぞ、もう後がないぞ!ってなったら、受かるためには何をすべきか、単に「勉強を頑張る」なんて抽象的で自己満足に陥らないで、自分の得意科目と不得意科目を分析し、何で最低何点を取らない駄目だから、遡ってどの時点までに何をどれだけやっておくか?という行動指針も出てくるはずです。

 危機感というのはリアリズムだから、自分がどう感じるかではなく、客観的にそれでいけるのか?本当にそうか?ああなったらどうする?こうなったらどうしたらいい?とあらゆる展開を予想し、分析し、可能な限り的確な方策を講じ、さらに限られた資源(金や時間)を考えて優先順位をつけて、切り捨てるべきものはバサバサ切り捨てることをします。そうしないと死ぬから。ところが不安感は、恐いよ〜って泣いてるだけで、じゃあ何をしてるの?というと何もしてない場合が多い。何が恐いのかもわかってないから、何をすればいいのかもわからない。わからないから、さらに二次災害的に下らない騙しにひっかっかったりもする。

 危機感はあくまで客観的に生き延びるためのクールでホットな作業なんだけど、不安感は「心の波だち」そのものが問題であり、解決は「心が平穏になること」だから、神でもカリスマでもすがりついて安心を得ようとして、本来客観的に求められる対策は何もしないし、むしろ真逆の自殺行為をしたりもする。要するに、不安感は人を愚鈍にする。愚かになってるから、愚かなことをやってしまい、往々にしてそれが致命傷になったりもする。

 弁護士でも医者でもビジネスマンでも、単に「不安」なんてことは言わない。思うのは、本当にこれでいけるのか?という緻密な検証です。それでも不確定要素が山ほどあるから、想定されるシナリオをAからZまで可能な限り考え、最大限打てる手は打つ、それが出来ているかどうかを考える。「不安」などという「感情的」になってる余裕なんかないです。それでも不安を感じることは多々あるんだけど、そのときは不安という曖昧な感情の実体は何か?を考える。

 大体、不安を感じるのは、自分でもやるべきことを知ってるんだけど、それを忘れたり、面倒臭いとかビビるから無意識にシカトしてるときに、それが罪悪感のように残って、それが不安というカタチになってる場合が多いように思います。僕も「なんか見落としている気がする」夜中にがばっと起きて考え込んだりしました。これでいけるはずなんだけど、なんだろう、なんかザワザワするぞ、何か重大なミスや見落としがあるんじゃないか、無意識でそれを知ってるからそれが不安という感情を呼んでるんじゃないか、不安とは、僕の感覚でいえば「怠け者の罪悪感」みたいなものだと思います。

 実務家というのは24時間それをやってるから、だんだん鍛えられてきますよね。熟練するに従ってでてくる特徴は、例えば、切り捨てたり、諦めたりするのが上手くなります。複雑な現実世界で百点満点なんか取れるわけがない。死ぬほど考え抜いたとしても、実際にはその50%も実現したら御の字というのがリアルだというのがわかる。株取引や博打の上手な人って、このメンタルが凄いですよね。平気でバンバン損切していく。駄目だと思ったら、未練がましくひきずらないで傷の浅いうちにどんどん切っていける。戦局が見えているというか、そこで頑張っても仕方がない、そういうこともあるさでサラッと流す。そして大きく勝っていくという大局観がある。

 だもんで、危機感は真剣に生きるということを促すから良いと思うけど、不安感は人を愚かにする毒性が強いから百害あって一利なしだと思うのです。不安を感じるなら、それを出来る限り明瞭にして、さて、それは自分にとって本当に害悪なのかどうか、最後には人生哲学みたいなレベルにまでなるけど、そこをとことん考え抜いて、そして行動方針をたて、ガンガン実行してくべきでしょう。どう考えてもそれが一番成功率が高いじゃないですか。

 「老後の不安」でも、具体的に何が不安なの?お金が足りないっていくらあったらいいの?○千万必要とか世間的に言われてるbullshitなんかどうでもよくて、自分にとってどれを切り捨てられて、何が大事なものなのか?です。裕福な生活、健康、家族や友達、趣味、全部は無理だから一つだけ選べと言われたら何を選ぶ?全部欲しいだろうけど、老後というのは、「もうちょっとしたら死ぬ」くらいにヘタれてる状態なんだから無傷で済むわけないじゃん。そこはリアルにいこうぜ。

 で、話が横道にそれっぱなしなので本道に戻すと、ドバイ(UAE)にせよ、スイスにせよ、今から述べるようにすごい国家戦略があるように感じたし、これだけのことを成し遂げたということは、ものすごい危機感があったんだと思います。ちょうど幕末の志士が、このままでは日本は植民地奴隷にされてしまうという強烈な危機感を抱いたかのように。

 それらについて感じたことを延べますね。

 手始めに、今住んでるオーストラリアについて言えば、オーストラリアも凄いです。それまで白豪主義とかいって調子コイてたわけですが、このままではジリ貧だ、"White trash in Asia"(アジアのなかの白いゴミ)になるしかない、勃興する広大で強大なアジアエリアでぽつんとある白人国、クソみたいな白人プライドだけに寄りかかっても、いずれ飲み込まれて消えてしまうぞって危機感がものすごいあったと言われます。兄弟国でもある南アフリカ(あそこも英国植民地系)のようになってはならないと。だから、180度国家方針を変え、白豪主義からマルチカルチャリズムに転向し、それもタテマエだけではなく、国歌すらも国民投票で変え(国旗はなかなか変わらんが)、十数カ国語の無料通訳サービスを全行政において24時間実施するとか、めちゃくちゃお金も労力もかけてきた。移民国家であることを弱点ではなく、最大の武器にするくらい研ぎ澄ませてきているわけです。僕もオーストラリアに来る前後にその徹底ぶりを見聞して鳥肌たつ思いをしました。すげーもんだなと。ひとつの国において、政治や意志の力だけでこれだけのことが出来るものか?と。

 そして今回、ドバイとスイスを見たら、あいつらオーストラリア以上に努力してるなーと感じました。すげーな、ハンパねーなと。そして、これが国際競争ということか、グローバル時代のメガコンペティションとはこういうことかと。

UAE(アラブ首長国連邦)の国家戦略

 まずドバイ(UAE)ですが、行ってぶったまげたのが、シェイク・ザイード絶対主義というか、シェイク・ザイードという人(国王であり大統領でもあった)が没後においても、絶対的なカリスマ支配を行っている。もう地名から、橋の名前から、モスクの名前から、なにからなにまでシェイク・ザイードばっかで、かつての北朝鮮における金日成みたいな感じです。

 なんでそんなに凄いの?って後追いで調べたところ、今日の繁栄を作ったのはこの人らしい。もともとアラブ首長国の王家の一つの血筋だけど、そんな主流ではなかった。そこをクーデターでお兄ちゃんを追い出して、自分が王様になった。なぜそうしたか?ですが、それを考えるためには、UAEってなんなの?を知らないとならない。

 てか、そもそもUAEってどこにあるの?がわからない。なんとなく「あのへん」くらいは分かるけど、正確な地政学的な情報としては知らない。行くまで良くわからなかったし、行ったところで地域的な実感はないままですけど。

 場所ですけど、下の画像は、ドバイ空港からスイスのジュネーブ空港に向かう機中で撮ったものですが、ドバイの位置がわかります。英語でも表記がなされますが、このアラビア文字の表記がエキゾチックです(けっこう見慣れた)。アラビア半島の先っぽの方で、広大なサウジアラビアのオマケのようなエリアです。ちなみに中東上空を飛ぶとき、よく見てると非常に小刻みに進路を変えてました。下はイラクだ、シリアだ、イスラム国だで、かーなり神経使うんだろうなとは思います。一歩間違ったら撃ち落とされそうだし。


 で、でっかいサウジアラビアと、その右上に切れ込んでいる内海=ガルフ(湾岸)、その対岸にあるイランとイラクの間に、ちっこい首長国がたくさんあります。昔の豪族がそのまま国家になったみたいな。その昔は貧しく、真珠とったり、マニア相手の切手とか出して細々とやってたのですが、石油がでたのが1950年代で、そこから一気にオイルダラーでリッチになります。

 問題はリッチになったあとの国の方針ですね。ザイードがクーデターを起こしたのも、兄貴(国王)の無策に近い国家戦略に不満を持ったからであり、単に石油が出て金持ちになりました〜で終わってはいけない、これを資本にして更に発展する戦略が必要であり、世界の一流経済国のシステムに追いつくどころか、これを超えて世界の最先端にするんだってことでしょう。

 ザイードは湾岸エリアの弱小国をとりまとめ、それまで英国の庇護(というか支配)の下にいたのが、イギリスが撤退するのを機に独立し、周辺弱小国を連合してアラブ首長国を作ります。思うにこのあたりの政治力は、ものすごいものがあったのではないか。一国一城の主、というか小なりと言えども全員が本物の王様である各国をとりまとめるだけでも相当な人間力がいるだろうし、皆を導くだけのビジョンを持たねばならない。さらに老獪なイギリス、なんでも力任せに狙ってくるアメリカなどを相手に、石油利権をちらつかせたり、優遇したりして宥めたりもしたのだろうなーと思います。外交手腕も相当なものでしょう。

 アラブ首長国は、7首長国の連邦ですが、主役を張るのがザイードのいるアブダビ国です。お隣のドバイ国は有名だけど、メインではないです。連邦には入らないけど兄弟国のように周囲にあるのが、カタールとか、オマーンとか、バーレーンなどです。

 改めて地図を見てると、こりゃ危機感も持つわなと思います。だって中東ってヤンキー戦国時代みたいなもんだと思うところ、背後に広大なサウジがあって、サウジ=アメリカみたいなもんだし、小さな内海の向う正面には、イラン高校とイラク高校という物騒な隣人がいるし、イスラエルという問題児はいる。でもって、アブダビにせよドバイにせよ小さな国で、石油でやたら金は持ってる。これって、ヤンキー高校に、金持ちの息子で貧弱な生徒が通ってるようなもので、たちまち猛獣のような周囲に食われてしまいそうです。さらにその背後に、ケツモチのヤクザみたいなのがいて、アメリカ、イギリス組と、ソ連(当時)連合やらが糸を引いている。

 こんなヤバい環境で、押しも押されもしない、一本どっこの独立国をやっていこうというのだから、相当ハードル高かったと思いますよ。まあ、このあたりの歴史はあんまり知らないので、勝手に想像で書いてるだけです。あんまり信じちゃ駄目です(笑)。

ドバイとアブダビ

 今回、毎日のようにドバイとアブダビを行ったり来たり(150キロ、東京から富士くらい)したのですが、ドバイとアブダビの違いのようなものがなんとなくわかった気がしました。アブダビの方が落ち着いていて品がいいというか、おっとりしてる。ドバイは、なんかギラギラしてて、よく言えばエッジが効いてるんだけど、まさに「経済特区」という感じ。ドバイはもういいかなって気がするが(高いビルに一回登ればいいかって感じ)、アブダビはまた行きたいですねー。カミさんもそう言ってた。

 別の言葉でいえば、アブダビの方が首都なんだけど田舎っぽくて、経済特区的に突出しようとはしていない。びっくりしたのが、アブダビのタクシーって、クレジットの支払がきかないことです。乗って初めて知ったぞ。ドバイはOK(来るときに乗ったし)なのに。今どきクレジットで乗れないタクシーなんかあるのかよ、しかもドバイの隣のアブダビで?って。

 これがドツボ話の発端で、乗ってから気づいて、タクシーの運ちゃんに頼んで、深夜の街をATM探し廻って、いつもガソリン入れるというガソリンスタンドに入って、コンビニみたいな営業所(そのあたりはオーストラリアとそっくり)の3台並んでるATMをチェックしたら、2台が故障中!もう一台はどうも普通にATMではなく住民用の特殊なやつ。仕方ないので、また別の銀行の支店にいってもらってトライしたら、あれ?ボタンが、、とか正常に作動しないで終わってしまって、しかもカードが飲み込まれたまま出てこないという事態になるという。その後、ホテルに戻ってスカイプでカードを停めてもらおうと日本に電話したら、なぜかこのときに限って作動しない。何が悪かったのか今でもわからんのだが。このように想定外3連発で、クソ高いホテルの国際電話でカードを停めてもらったのでした。わずか10分程度の通話だったのに7000円くらいぶっ飛んだ。

 これがアブダビのガソリンスタンド。オーストラリアとそっくり。なんだかんだ言って写真撮るくらいの余裕はあったのよね。

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 カードが飲み込まれたATMから出てきた紙片の裏面。エラーの内容が書いてるかと思ったら、「わかるか、こんなもん!」って目の前暗くなったね。
 しかし、これが厄落としというか、伏線というか、いつもいう良いこと悪いことは波のように波動するじゃないですけど、以後、信じられないくらい幸運に恵まれ続けました。マッターホルンは3日連続快晴、アイガーも最初は駄目だったけど最後はド快晴。ガイドさんによれば、5回来て5回駄目(雲で見えない)だった人もいるくらいで、こんな快晴が続くのは超レアだったそうです。そう思えば、カードや電話代なんか惜しくないわ。


 ということで、何の話かと言えば、アブダビの方が経済的に遅れているという話でした。だからといってしょぼいわけじゃないのですよ。高層ビルもボンボン立ってるし。ただ、ドバイのように「これ見よがし」に建ててなくて、じっくりやってる感はあるのです。

 ↓下の写真は、ホテルの部屋の窓(54階)から撮ったもので、手前にあるのが観光名所でもあるエミレーツパレスホテル(めちゃ高い)、向こうにある白亜の宮殿が大統領府。


 エミレーツパレスも観光名所的に行きましたが、キラギラしてなくて、おっとり上品。また門にガードはいるものの、中は気さくな感じだったし、前庭とか観光客が自由に出入りできて皆で記念写真を撮っているというフリーな感じでした。あんまりいかめしくないのですね。


 上の写真を撮ったところでクルリと廻って撮ったものが↓下の写真。この筍みたいにニョキニョキ生えてる一本(ジュメイラタワー)に泊まりました。ここだけ早く取ったから安いかったんよ。二人で二泊で3.5万(一人あたり一泊9000円くらい)。アブダビのホテルはドバイに比べるとかなり安いです(だからアブダビ泊にしたってのもある)。


UAEの国家戦略(1)内政の充実


 あとで調べると、ドバイはアブダビほど資源が豊かではないこともなり、アブダビ以上に最先端の経済戦略を取る必要があったのでしょう。アブダビは潤沢な資金力でそれを支援すると。トータルで絵を描いているのは、多分アブダビのザイードでしょう。かなり壮大な絵を描いていたと思います。

 国家戦略にはいくつかあって、一つは内政の充実で、単に王家が独り占めするのではなく国民全員を豊かにする。だいたい王家支配なんて民主主義に逆行するようなことをしていく以上、民を納得させねばならず、これは絶対的に必要だろうと思う。アラブ首長国の国民は、教育は無料、所得税なし、結婚したら祝い金が出て、社会福祉もかなり手厚い。公務員など優先的に採用される。

 UAEの全住民における国民の比率はわずか13%で、圧倒的大多数がビジネスや労働のために来ている外国人です。日本に外国人が多くなったとかいってるけど、UAEでは国民の7-8倍くらい外国人がひしめきあってる。日本でいえば、外国人が8億人くらいいる勘定になります。

 でも、UAEの国籍を取るためには最低でも30年間住まないと駄目とかビシッと線を引いている。今回初めて知りましたが、「エミレーツ」というのはアラブ首長国連邦の「国民」という意味らしいです。つまり国民であることは、それだけでもう特権階級なのですね。准王族みたいな感じ。そこまで国民を手厚く遇して不満を封じる。だから不満もでにくいし、シェイクザイード絶対!って感じになるのでしょう。

経済特区と世界一のイメージ戦略

 もう一つの戦略は、マレー半島の先端の漁村をシンガポールという世界の金融センターにしたてあげたリー・クアン・ユーのような発想で、石油で得た潤沢な資本を、単に投資して儲けるとかではなく、世界に抜きん出たビジネスのし易い経済特区的な環境をつくること。それに加えて「世界一のなんとか」という、とにかく話題性のある建物を作ったりして、マーケティング的に際立ったことをして注目を浴び、世界中の優良ビジネスと金持ちを集めること。

 つまりは「富が富を生む」というシステムを作ったことです。ココが凄いなーと思う。

 かつての日本の明治維新もすごかったけど、あれも西欧システムを「超える」までは目標にしてなかったし、キャッチアップでした。ましてや昨今の、せいぜいカジノ利権が関の山なような「なんちゃって経済特区」ではなく、どこをとっても世界一でなければ気が済まない(話題性がない)という腹の据わりようです。

 今回、ドバイの高い建物(ブルジ・ハリーファ)に登って下を見ましたが、まずこの建物が桁外れに高い。写真はドバイ空港から離陸する飛行機から撮ったものですが、これだけアホみたいに高い。


 その周辺にある高層ビルでも、新宿の高層ビルくらいはあるわけで相当高いんだけど、その二倍くらい高い。手前の民家のように低層のビルがありますが、あれが普通の東京の高さだと思います。

 上から見たらこんな感じで、なんかもうスター・ウォーズとかSF特撮の世界ですね。
 

 でも、よく見たら、周辺は空き地がいっくらでもあるのであって、シンガポールや香港がそうであるように、必死になって上に建てなきゃならないほど土地が足りないわけでもない。でもやってる。それはやっぱり宣伝効果というものもあるんでしょう。ビジュアル的に凄いですから。金はいくらでもあるわけだし。

 ともあれ世界一が大好きで、下のショッピングセンターも世界一だそうな。ガイドツアー(僕らだけだったが)の待ち合わせのバスの停まってるところに行くまでに迷った迷った。


外国人の使い方

 今回UAEに行って、ほとんど現地のアラブ人と話してません。モスクの中とかは、それっぽい人たちだったけど、丁度ラマダン明けのパーティタイムだったこともあり、どこまでが純正ローカルなのかわからんかった。

 そのかわり、出稼ぎにきている外国人労働者にはたくさん会いました。てかそればっか。キルギスタン、インド、フィリピン、エチオピア、ウズベキスタン、スリランカ、バングラディッシュだったかな。しかもその質が高い。なかには、この人、仮に日本で生まれてたら、日本の中でもかなり高級エリートになれただろうなって感じ。

 なかでも、アブダビからのドバイ一日ツアーのドライバーガイド(客は僕らだけ)をやってくれたシャナカ君は、スリランカ出身だけど、将来社長になって成功するだろうなーって。ホテルのロビーで待ってて、登場したときのオーラがまず全然違って、成功者の条件である人柄の明るさと誠実さがぱーっと出てて。最初、なんか韓国ヤクザみたいなおっちゃんがロビーをうろついてて、あの人かな?だったらヤダなとかカミさんと話してたんだけど、一流のジュメイラ経由のガイドがあのレベルであるはずないよとか思ってたら、やっぱりもう全然違う。見ただけでわかるという。

 実際一日同行して、行動や説明の的確さとか相当なレベルでした。ツアー手配のベルトラ記載の内容と違う点についても(昼食コミではなかったとか)、本社に連絡とってこうすべきとか細かく教えてくれたり、英語もかなり正確で達者だったし、ネィティブでもあんまり聞かないような礼儀正しい英語を絶対崩さなかったり。加えていうなら長身イケメンで、モデルでも俳優でもやれるくらいでした。

 1日あって色々聞いてたんだけど、スリランカだから母国語はシンハラ語。以前APLaCに外大でシンハラ語やってスリランカに駐在してた人がいたのでシンハラ語というのがあるというのは知ってたけど、それが思わぬところで役に立ったです。で、タミル語。隣のインドのヒンディ語が喋れて、あと当然ながら英語。それに現地のアラビア語。まだ30歳そこそこくらいに見えたけど、すでに5言語いける。しかし、5言語くらいザラにいる。8言語というのがいたなー。英語ひとつで四苦八苦してるなんて論外って感じ。

 舌を巻くくらい英語が上手かったのが、最後にジュメイラホテルをチェックアウトしたときに対応してくれたお兄さんで、見た目28歳くらいかな、もう完璧って感じ。僕の二倍は英語が上手い。第二言語で英語をやる身としてわかるんだけど、言葉探し、言いよどみが一切なく、自分の言葉としてつるつる出てくるし、当意即妙のユーモラスで上品な切り返しやら、ああは喋れないですよ。久しぶりに「英語うまいとカッコいいなー」って素朴な感情を抱いた。キルギスタン出身。

 ランチメニュー選びのときに一生懸命考えて説明してくれた、大学のサークルの後輩のような爽やか青年はフィリピンだったし、チェックインするときに対応してくれたお姉さんは出身聞き忘れたけど、カミさんが「いやあ、カッコよかったわー」というくらいの佇まいだったし、エミレーツのシャトルバスを一生懸命電話かけて聞いてくれたコンセルジュのおじさんはウズベキスタンだったかな。あと、深夜にATM探して放浪するのを付き合ってくれたタクシー運ちゃんは、刑事コロンボみたいに、ちょっと目が哀しげで疲れた感じがおじさんフェチの女子にはキュンとしそうな人でバングラディシュ出身。

 つまり世界から出稼ぎ労働者を国民数の数倍招いているわけなんだけど、実力相応に金が稼げるようにしている。スポンサーをみつけたら2年の労働ビザがもらえるんだけど、それを更新していけばいいと。かなり自由な労働市場ができている感じです。

 で、アラブ人らしき人は、最後の出国審査のときに座ってた男性(30くらい?)なんだけど、こいつがまたムカつくやつで、全然仕事しない。何もしてないから、空いてるかなと思ってトコトコいったら、線まで戻って順番待てとか言いやがって、てめえ何もしてないじゃん、仕事しろよってムカついた。みたら、一番年の若い女性が一人で頑張ってやってて、あとは知らんぷり。あー、そういうことかと思った。男尊女卑がきついのもあるけど、国民は特権階級でほとんどが公務員ってのはそういうことねと。

 要するにこの国は、資本を使って、世界中の資本が集まるような環境を整備し、実際に廻しているのは、これまた世界中から集ってきた優秀な労働力なのですね。国家はそのプロデュースをしているわけで、その成功の恩恵で、寄生虫のように養ってもらっているのが国民なのかと。自分の資本を使うのは環境整備だけで、それで外国資本を呼び寄せ投資させ、大量の仕事を産み出させ、世界中の優秀な労働力を吸引し、またその数が膨大だから、外国人労働者自体が巨大な消費者(国民の7−8倍)になり、それがまた経済を活性化させていくという。なるほどねー。

 でも、石油が出ました、金持ちになりましたって時点で、ここまでのシステムを思いついて実現する先見の明と、実行力はハンパないですよ。あの時代によくそんなこと思いついたなー。まあ最初からそこまで見えてたかどうかはわからないけど、単に模倣キャッチアップだけだったらここまでは出来ないでしょう。たしかにシェイク・ザイード絶対主義になるのもわかるわ。

 よく発展途上国で大統領が在位30年とかあって、いかにも非民主的な独裁政権で悪のように思えるけど、そういうパターンも多々あるけど、でも一国において飛び抜けて傑出した人材なんか100年に一人出るか出ないかくらいだと思うのですよ。そういう人材が舵取りをしたら、在位が長くなるのもわからんでもない。なんせ凄すぎちゃって、取って代われる人材がいないのでしょう。

世界市民と労働市場

 同時に明日(今日)の世界が垣間見えた気がしたのは、これまでも、そしてこれからはもっと、海外にいい仕事を求めて出ていく労働者が多くなるだろうし、そこでは本国よりも自由で報われる労働市場が出来つつあるんだろうなって思います。彼らにとってみたら、ある特定の国がどうこうというよりも、求めるのはチャンスであり、ちゃんと機能している労働市場です。国なんか彼からしたら一個の会社みたいなものかもしれない。Aが駄目なら、Bに行くとかいう感じで、広く世界全体を見て、チャンスがあれば出ていき、スキルとキャリアを身につけていく、そういう流れです。

 そういうモデルが世界的に広まっていくのかな。アブダビ歩いてて、ああ、ここなら暮らせるかもって思ったのは、どこにいってもほぼ例外なく絶対に英語表記があるのですよ。もともとイギリスの保護下にあったということもあるけど、英語ができたら大体不自由しない。ドローカルにいったら別なんだろうけど、国際的な労働者としてやる分には、英語だけで暮らせる環境がまずあって、それが世界の優秀な連中を惹きつける。互換性がある。

 また近代的な設備はほとんどが海外からの借り物のようなものだから、違和感がない。ショッピングセンターだって、歩いてたら「ここは、シドニーのWestfieldか?」って錯覚するくらいのものです。

 その意味で、オーストラリアに暮らしてて、また日系環境から絶縁されたColesなんぞでネパール人とかに囲まれてバイトしたりして良かったなとか思った。オーストラリアも世界中から人が集まっていて、そこで一緒に働いて、生活している。出身国なんかエピソードみたいなもので、東京で仕事してて出身は長崎県ですくらいの感じ。それに慣れてるから、アブダビでも各国出身の皆と話してて全然違和感がなかったのですよ。どの国からどの国に行ってとか、そんな重大に思ってなくて、場所なんかただの「チャンス」でしかない。地球で生まれて地球で仕事してまーすってだけの世界市民っぽいノリがあるわけですな。それはほんとに居心地のいいもので、今はもう世界で一つの国家というくらい均質化もしてるし、互換性も出てきてるから、どんどんそうなっていくと思います。

 逆にいえば、そういう労働環境を作った国の勝ちでしょうね。なにも自前の国民だけで全部やらなくてもいんだもん。やたら搾取するとか、やたら自前の文化を押し付けるとか、現地語を覚えないと何も出来ないとか、窮屈な思いをさせるとか、住んでて楽しくない国は、優秀な人から順に来なくなるから、人材的に没落していくしかない。

スイスの場合

 スイス、特に観光名所である山岳地帯は、どこをとっても美しく、ピクチャレスクで、被写体が良すぎるから、どんな人が撮ってもきれいな写真が撮れるくらいです。

 最初はわーって感動したたんだけど、これ維持するのってめちゃくちゃ大変じゃないか?と。ガイドについてくれた多田さん(カミさんが口コミで教えてもらった人)の説明でもありましたが、これだけ綺麗な風景を維持するためには、ハンパではない労力と金をかけていると。

 美しい緑の斜面もせっせと草刈りをしつづけてこそだし、雰囲気ぶち壊しの鉄筋コンクリートなんか建てさせないし、古民家をせっせと保存する。農家には多額の補助金をあげて、単に農業だけではなく、風景美観を守る。また、ツェルマットがすごかったけど、都市においてもいたるところに色とりどりの花の鉢がアレンジされてて、あれだって造花じゃないんだから、毎日の水やりやらも必要。花も永遠に咲いてるわけじゃないから、定期的に差し替えも必要。すごい金と手間がかかるんだけど、でもやっている。

 そんなこんなの膨大な努力の集積があの美しい風景になるわけね。もう観光が大きな国家収入になるんだと腹を括ってやってる感じがしました。これはこれで凄いなーと。スイスの産業の第一は金融(クレディ・スイスやスイス銀行など)、第二に精密機械(スイス時計)、そして観光。資源もない小さな国が行きていくために必死に考えて実行している。

 以下はツェルマットの街の風景。全体に白川郷みたいに保存されてて、ガソリン車は全面排除で小さな電気自動車だけだし(工事車両もそう)。

 とにかく、これでもかってくらい花がアレンジされてます。

 以下はグリンデンワルドからちょっといった小さな村の風景。
 きれいに刈られている牧草地。

 ちょっと凝り過ぎではないかって思われるくらいハート型の薪置き場。これも普通の民家だそうです。きれいにしてないと周囲から白い目で見られるというか、かなりプレッシャーあるみたい。


 これはジュネーブ駅のホームから。


 スイスとUAEとでぜーんぜん違うんだけど、でも共通する感じがあって、それは「弱者連合」ということです。

 と、ここまで書いたところで、以下次週にしましょう。だいぶ長くなっちゃったし。






文責:田村


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