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今週の一枚(2017/06/12)



Essay 829:不思議な「テロ」記事


 写真は、Barangaroo Reserve
 シティの西北、ダーリングハーバーの北に大規模は再開発をしてますが、その北端(ロックスの裏手)に自然保護の公園も作られてます。まだあんまり知られてないし、人気もなさそうなので、広々したまんまなので良いです。ロックス側から行くと意外と近いんだけどね。


 イギリスで「テロ」が頻発しているわりには、対テロ強硬派だったメイ政権が選挙でボロ負けしてます。一説によると、テロを餌にして選挙に利用しようという「あざとさ」が鼻についたとか(緊急事態なので24時間選挙活動停止という与野党合意を自分で破って、煽ってたとか)、そもそもテロ防止の現場で働く警察官を2万人(だっけ)リストラした張本人が何を言うかという反発もあったとかなかったとか。まあ、そのあたりはよくわかりません。

 また、先週は、イスラム国が、eBayやGum Treeの広告を利用してテロをやるように呼びかけているという報道がありました。これねー、なんか「変だろ?」と思ったのと、遡ってテロって本当にどれだけ恐いの?という値踏みをしてみたいので、今回はそれを書きます。

テロ関係の記事の胡散臭さ


 eBayなんたらの記事は、
 Islamic State encourages ‘lone wolf’ terrorists to lure victims via Gumtree and eBay

 ISIS terror guide urges lone wolves to lure victims via Gumtree and eBay

 Islamic State targets Gumtree, eBay and Craigslist users for its followers to kill
 などなど、各メディアで報道されています。

「雑誌(記事)がある」ことがニュースなのか?

 でも中身を読んでみるとですね、まず素朴に思ったのは、これって「ニュース」なのか?という点です。

 客観的事実としては、「”Rumiyah”という過激な雑誌にその種の記事が載っていた」です。
 わかります?「とある雑誌に○○という記事が載っていた」がニュースの内容なんですけど、それってニュースなのか?

 それは例えば、某女性ファッション誌に「彼ママ受けのいい好感度コーデ」という記事が載っていたとか、某おっちゃん雑誌で「「○○ふ〜ぞく」で本誌ビンビン記者が突撃取材!」という記事が載っていたとかいうのと同じことでしょう。そんなさ、その気になれば誰もが手に入れられる「雑誌」にどんな記事が特集されようが、それっていちいちニュースになる(する)ことなのかどうか、そこが今ひとつ解せないわけです。

 これが、某カウンターテロリスト特殊班が、某都市にある彼らの秘密指令基地を急襲し、進行中のテロ計画書や秘密指令書を押収したとか、その司令書にはこう書かれていたので注意すべしとかいうならわかりますよ。滅多にわからないことが判明したわけだからニュース価値あると思うけど。

 じゃあ、この「Rumiyah」って雑誌はどんな位置づけにあるのか?です。ゴリゴリのイスラム原理主義者で且つ破壊活動命の筋金入りのテロリストじゃないと購読できないとかいうならわかります。厳しい資格審査を受けて、合格して初めて、雑誌が送られてくるとか、秘密のURLとパスワードが教えられるとか。

 で、「雑誌に載ってる」という記事であるなら、そのあたりの雑誌の位置づけを正確に書いて欲しいわけですよ。発行部数は推定どのくらいで、世界のどのあたりでどういう人がどのくらい購読してるとか、読んでるとか。でもそういう情報は一切書かれてないのよね。変じゃん。雑誌そのものが記事になるなら、まずその雑誌の特質を正確に記述すべきでしょう?

誰でも読める世界広報誌

 しゃーないから自分で調べたら、ググり一発でいくらでも分かる。てか、バックナンバーまで普通にダウンロードできるじゃん。例えば、Rumiyah 6th Editionなんかダウンロードしてみたけど、普通に全44ページ、オールカラー版、読めましたよ。今回のやつはIssue 9で、ここで全文ダウンロードできます

 これってアラビックですらなく英語版ですよ。さらにフランス語、ドイツ語、ロシア語、インドネシア語などにも翻訳されて刊行されている。要するに「秘密の指令」どころか、「世界の皆さん読んでや〜」という「広報誌」でしょう?各国とも政府のプロパガンダ・メディアを持ってて、昔のソ連はタス通信、中共は新華社、ネット時代の今はもっとソフトにスプートニクとか、レコチャ(レコードチャイナ)とかになってるけど、日本はNHKと読売ですかね?まあ、創価学会の聖教新聞とかさ、共産党の赤旗とか、どこでもある普通の話でしょ。

 で、イスラム国のプロパガンダメディアだったら聖戦(ジハド)をやれ、どんどんやれ〜と煽るよね。そのために国やってるんだから、それを言わないでどうする?という。だから珍しい話でもなんでもないだろうと。

 だもんだから、それがなぜ記事になるのか?そこが分からん。少なくともそういう雑誌があるのは誰でも簡単にわかることだからニュース価値ないでしょ。またその内容も普通にネットで読めるんだから(読めなきゃ世界広報の意味ないし)、それも大したニュース価値ないでしょ。そして内容も「テロやろうぜ」ということで、彼らからしたら当たり前の話で、いわばファッション雑誌がファッション記事載せてるようなものだし。

テロ記事内容のしょーもなさ

 では次に、書いてある内容がヤバイんだ!すぐも犯罪・テロを起こしやすいノウハウが書かれているからヤバイんだという点について検討します。

 広告サイトのeBayやGum Treeのニセの広告を載せ、釣られたやってきた人を人質にとったり、殺害するといいよと書かれているわけなんだが、これも突っ込みどころが超満載ですよね。

 まず、この記事そのものをダウンロードしてざっと目を通して見ました。正直言って、噴飯物といってもいいくらいのしょーもなさだと思います。全然実戦的ではない。そして記事もボケなら、これを「テロだ」といってまた記事にする西側メディアの引用の仕方もおかしいですよ。いくつか並べみますね。

・まずこの種の「テロ講座」をやってるのはどうも今回が初めてではなく、目次を見ると「Part4」になっているので過去にもやっているのだろう。てか、広報誌なんだから、毎回似たようなことを書いてはいるでしょう。「テロ」というのは西側の発想であり、彼らにとっては「聖戦」「いいこと」なんだから、いいことは常に奨励されるだろうし、奨励するためのプロパガンダ誌なんだし、何を今更驚いたように騒ぐのかがわからん。

・今回は「人質戦術」であり、テロ行為をする場合、あらかじめ人質を取っておくと、警察の初動攻撃がゆるくなるのでテロ(大量殺害)がたやすくなるのでオススメだよ!って内容です。
・しかし、そんなの別に教えてもらわんでも知ってるだろうし、大体全編にわたって、「何を今更」みたいなピンボケな「戦術」が載っている。例えば、銃火器があるとテロも簡単だから買うといいよ!とか書いてるんだけど、それがそんなに簡単に買えたら世話いらんのだけど(金もかかるし)、そこはスルー。

・問題のeBayやGumTreeだけど、こんなの全6ページの記事のうちのほんの数行でしかないです。てかねー、全部読んでるのが苦痛になるくらい、誰でも普通考えるようなことを延々書かれてて(繁華街で殺戮しろとか、武器を盗むにはショップが閉店したあとに侵入すると良いとか)、人質戦略の部分も、最初に不動産広告が出てるんだけど、これも新聞記事、壁広告、電柱広告などが並列的に書かれ、中古品の売ります買いますの場合も「Second-Hand Buy and Sell Groups: Online sales by way of buy and sell websites such as Craigslist, Gumtree, eBay, the Loot, and others are an alternative means to luring one’s victims. 」並べて書かれているだけのことです。

 で、人質に取るにしても、ナイフやバットがあるといいよとか、手錠があるといいよと、騒がれるときはテレビのボリュームを大きくして誤魔化せばいいよとか、「本当かよ?」というくらい安直なアドバイスが満載です。そもそも人質に取ったあと、何をどうするのかという具体的なところが書かれていない。
、 

 ダウンロードしてきた該当部分を掲載しておきますが、左端は目次のページで「Part 4]って書いてあります。
 真ん中は銃火器を買おう!の項目で、こんな写真みたいな感じで買えるんかね?なんかスポーツ用品店のノリなんだけど。こんなんで買えるんだったら苦労いらんやん。実際に買うときには、まず身分証明はいるし、携帯許可証だっていると思うぞ。ましてや狩猟や護身用のライフルとかピストルではなく、こんな写真のように思いっきり戦争仕様のやつなんか、普通人が買えるのか?買った途端に当局の監視の目に置かれるでしょう。

 右端がくだんの箇所で、左欄下の方にちょろろって書いてあります。この部分が西側メディアのスクープの部分なんだけど、どうしてそこだけ抜き出すのかが分からんのよね。てか、全編引用してたら、アホらしくて危機感がなくなるのからかなー(多分そんな気もするな)。

ローンウルフってド素人でしょ?

 こんなボケ記事、誰が真に受けるのでしょうか?僕は心底疑問です。

 内容面でさらに突っ込んでみると、第一に目的が殺人や拉致だったら、自分のホームタウンと関係ない出先で、出会い頭で、偶然にやるのが一番いいですよ。警察の捜査でいえば、土地勘も人鑑もないところ。犯人(自分)の手がかりを出来るだけ残さないようにすること。できれば仲間なんか作らないで、事前に打ち合わせも何もしないで、10分前に思いついて、そのへんの人を後ろからナイフで刺すようなやり方が一番バレにくいし、準備も簡単。

 それをですね、eBayだろうがGumTreeだろうが、広告載せるまでにあれこれ審査もあるようなところに手がかり残すのってどうなのよ?と思いますね。それらは全部ニセのIDで誤魔化せばいいのかもしれないけど、日本だったら闇ルートに手配したら、すぐにも第三者の戸籍やら銀行口座、住所、携帯電話なんでも買えますよ。外国でもあるとは思うのだが、しかしそれ自体が手がかりにもなるでしょう。

 これは一種の「後方撹乱」戦術だと思います。敵国の背後で民衆の不満を焚き付けたりするやつ。戦国時代だったら、相手国の農民を焚き付けて一揆を起こさせたり、日露戦争のときに明石大佐がレーニンに金を渡してロシア革命やらせたりってやつ。それの可愛い、お手軽番。でも、あまりにもお手軽過ぎる!

 これらの記事は「ローンウルフ(一匹狼)」に呼びかけているんだけど、「ローンウルフ」っちゃ聞こえはいいけど、要するに「ド素人」でしょう?組織にスカウトされて、テロリストとしての厳しい軍事教練を受けているわけでもない(相当厳しいらしいよ)。要するに、日々楽しくなくて、ルサンチマンのカタマリみたいな人に、通り魔をやらせようとってことでしょう。まあ「通り魔のススメ」くらいの感じ?

 だとしたら、闇ルートでニセIDをっつっても、ド素人にそんなルートはわからんでしょう。だから馬鹿みたいに自分の証拠をベタベタ沢山載せて、しかも問い合わせの電話とかも出て、銀行口座やら、待ち合わせやら、自宅の場所やらどんどん手がかりを与えて、、、それで何をするかというと、殺害とか拉致でしょう?そんな大汗かいてやるなら、そこらへん歩いてる弱そうなの刺せばいいし、一番簡単なのは繁華街に車で突っ込んだりすることですよ。結果は同じなんだから。

 だもんで雑誌記事に「よいタクティクス(戦術)」とか自画自賛されているけど、どこが「良い」のよ、こんなボケ計画。

誰が真に受けるのか?

 しかしリアルに考えてみて、この記事読んで「そうかー eBayかー、よーしいいこと聞いたぞ」って思って、本当に実行する人なんかいるんだろうか?

 ジハド系のテロというのは、やった人間もほぼその場で死ぬような自殺テロが多いです。やったら最後、自爆か死刑か射殺ですから、まずは自殺確実な行為であると。そして自殺しても良いって思うのは、殉教者的精神バリバリの人か、反対に自暴自棄系の自殺志願者。前者は正規の兵隊なり、本部から(こんな雑誌一冊なんてもんじゃなくて)綿密なサポートを受けているでしょうから、もっぱら後者でしょう。自殺志願だけど、どうせなら他人も道連れにしてやる的な感じの人。

 しかし、実際問題、それってどれだけいるのか?
 現状に不満を持ってる人は沢山いますよ。ある意味、僕ら全員そうかもしれない。しかし、今の生活を全て失っても良いと思う人、今から数分後に死にたいと思う人はそれほど多くないでしょう。それがハードルその1。人間、そんな簡単に死ねません。
 さらに他人を殺すのは別のハードル2を超えるのが必要です。日本にも自殺者が年間3万人ほどいるけど、心中などの事例を別として、無関係な他人を巻き添えにすることを主目的にして自殺する人(秋葉原の通り魔事件のような)はそれほど多くない。あったら大事件でニュースになるだろうから、おそらくは1年に一人もいないと思われます。つまり自殺者数万人に一人いるかいないかであり、自殺とは別に他人を殺めるというのはそれだけ強い心理ハードルその2がある。

 アメリカでもちょくちょく学校のいじめられっ子の逆襲のようにマシンガン持って大量殺戮事件が起きたりしてますが、あれらは自殺志願というよりは、とにかく世間が憎らしいのでしょう。社会に対する憎悪感情があって、誰彼構わずぶち殺したいと。そういう事件はちょくちょくあります。日本でも大昔に一村丸々皆殺しって事件がありましたし。ただ、犯罪心理学的に考えてみると、そういう狂ったモチベーションというのは、きわめてパーソナルな理由が大きく、外部的なジハドみたいなものとは馴染みにくい気がする。

 この種のいたましい事件は定期的に起きるのだろうけど、一種の精神病の発生確率論、それに大量殺人を可能ならしめる武器(銃火器)の入手がキーポイントだと思います。わけても武器の制限がもっとも効果的でしょう。今書いたように、独特の世界観で行われるから、ジハド的なものがそれに影響を与える余地はそんなに多くないような気もします。もっとも、僕が広報担当として仕事するなら、イスラム色を払拭して、「物質文明に毒された人類の覚醒を促す」というより普遍的なもので煽るけどなー。勿論当時は大悪人として世間の非難を浴びるだろうが、それはキリストだって同じこと。ときが立てばキミがいかに偉大な貢献を行ったか皆気づくはずだよとかなんとか言ってさ。でも、そこでイスラム色を薄めると、彼らにとっては意味ないんかしらんけど。

 しかし、自暴自棄で半分気が狂ってるような人が、「そうだeBayを使おう、いい事教えてもらったぞ」とか思ってやるか?というと疑問だし、また「出来るのか?」というとそれも疑問ですよね(そもそもあんな記事読んでも曖昧すぎて使えないと思うのだが)。また、仮に計画的なことを粛々と実行できるくらいの能力があるなら、そもそも死ぬまで追い詰められることもないとは思いますよ。一方、すぐに他人を道連れに〜なんて無茶なことを本気で実行するような人格だったら、それまでの人生であれこれ犯罪やら破綻やらを起こしているとも思います。だもんで、素人ながらプロファイリングしていくと、こういう記事を読んで「そうだ、やるべ!」と思う奴ってどんな奴なのかがリアルにはよくわからんし、実際居るのか?という首をかしげます。

 ま、そのあたりのメカニズム分析はさておき、現実的なリスク査定をしてみましょう。数字で均すと、日本の場合、人口1.2億人のうち年間自殺者は3万人、うち通り魔的自殺は年間一人いるかいないかだとすれば、歩合1億人対1以下でしょう。もし日本でコンスタントに年間一件そういう通り魔が発生するなら(してないと思うけど)、人口比率からしてオーストラリアは4〜5年に一回の割合になります。でもって、その記念すべき一回の現場に「たまたま」自分が居合わせる確率は?日本の37万平方キロの国土で、さらにその22倍の広さをもつオーストラリアの国土で、偶然その場にドンピシャで居合わせる、そして自分が犠牲になる確率。これは、もう天文学的数字でしょうね。実際問題、限りなくゼロといっていい。

 ちなみに実際のテロ事件をみると、詳しく知るものではないけど、もっと「真面目に」やってると思いますよ。つまりもっと組織性があり、準備も綿密に行っているという。だからこそ、当局も事前に察知してて未然防いだりしているケースもあるし(今回のイギリステロも事前にある程度わかってたらしい、でも人員が足りなく防止まではいかなかったとか)。

何がテロなのか

 だとしたら、なぜこんな記事が掲載されているのか?は、皆がよく知ってるメディア、安心して利用しているものを、安心できないぞ、恐いぞという恐怖の伝播が主たる目的だと思われます。これはテロの本質(物理効果よりも心理的な恐怖感を与えることがメイン)に合致する。

 つまり、イスラム国広報部も、こんなことを本気で真に受けてやる奴がいるとは思ってなくて(いたらラッキーくらい)、「こういうことも出来ますよ」「ほら、あなたが日常信じてるもの、それも本当は危ないんですよ」「もっとビビってくださいね」という部分に本質があると思います。だからこそ誰にでも読めるように各国語版で書いているのでしょう。

 だとしたら、テロ(恐怖の伝染)防止を本来の役目とする当局やメディアはどうすべきか?といえば、ガン無視すればいいわけです。「なんか又しょーもないこと言ってるわ」と(実際、しょーもないし)。しかし、イスラム国のお先棒担ぐように、テロをさらに煽るように「警戒が必要!」とか言ってる。お前、どっちの味方やねん?という疑問があって、それが一番「変」なところです。おっかしーぞと。

 もっといえば、テロ=他人をビビらせることと定義するなら、一番激しく「テロ」をやってるのは、他ならぬ当局(西側先進国政府)とそのメディアではないかと、皮肉なことに彼らこそが一番よく働いている「テロリスト」なのではないかとすら思えますよ。だって、実際そうじゃん。こんなことを記事にして煽るから、関係ない僕までも知ることになってるわけだし、シカトしてりゃ世界で数億人単位の人が知らないままで終わったと思いますよ。だからかなり効果的な「広報」をしてやってるようにしか見えないんですよね。


テロ詐欺

 これが満更冗談でもなさげな背景もあります。
 まず「テロで儲かる(得をする)」というビジネスモデルがあると思います。戦争で儲かるのと同じ構造です。以前、ソ連が崩壊して東西融和していた時期に、アメリカのCIAやら軍隊やら「もう要らんでしょ?」とばかりに予算をガーンと削減され(そりゃそうだよね)、どーんとリストラされた時期があったそうな。「狡兎死して走狗烹らる」の故事ではないが、戦争やら緊張が無くなったら用済みになってクビになるのですよね。当たり前だけど切ない話で。だとしたら、いやそれでも俺達は必要だ、必要な仕事をしてるんだってアピールしますよね。全員がそうするとは言えないけど、頑張る人もいるでしょう。その中には、狂言強盗みたいに自ら危機を作り上げて必要性を分からしめる場合もあるでしょう。

 それが荒唐無稽ではないのは、冷戦時代が長かったし、その間米ソ(中も)、入り乱れて世界中でそんなことばっかやってたから、その種の「工作」は得意中の得意だからです。陰謀でも秘密でもなんでもなく、中南米の戦後史なんかそればっか。冷たい戦争ではなく「汚い戦争」とまでこき下ろされている米ソの陰湿なやり方は、普通に歴史に載ってます。以前世界史シリーズやってて中南米の部分調べてて、ほんとうんざりしたもんなー。あっちが政府を掌握したら、こっちは政府ゲリラを育成してってやつ。

 大体ですね、アルカイダもイスラム国もアメリカが作ったと言われてますよね。少なくともアルカイダは事実としてそう。映画のランボー三作目の怒りのアフガンの背景でもあるけど、ソ連が侵攻してきたから、それに対抗するために地元勢力をアメリカが応援したと。敵の敵は味方だというよくあるアレですけど。もっとも、これも世界史シリーズで調べた所によれば、ソ連は本当はアフガン侵攻なんかやりたくなかったそうですな。金ないし。それをアフガン政府(王様)がしつこく求めたので、しがらみと義理で軍隊派遣したら泥沼の10年になって、国家財政がやっぱ破綻して、ソ連が潰れたという。

 ま、現在のイスラム国がどういう政治的なメカニズムで出来てるのかわかりませんけど、なんかいきなりあんなもんが出来て、変な感じです。ネーミングも変だし。それは中国とミャンマーとラオスの境あたりにいきなり「仏教国」とかが出来て、なんかかんかテロ活動を始めたような唐突感があります。ま、それはともかく、戦争やらテロやらがあると、それなりに当局も得をする、得をする人もいると。それが主目的でやってるのかどうかは分からんけど、結果的にそうなる構図があると。「管理された緊張」というのは、一定の経済需要を生み出すし、また政治的にも有効利用できる(話を逸らすとか、棚上げにできるとか)。

 このあたりは陰謀論とすれすれのところで僕にもよく分からないのですが、今回の西側メディアの「eBAYやGumTreeがあぶない」的な記事の不自然さを注意深く検討してみると、やっぱそういうことってあるのかもねーという見方がより強まりました。

 「管理された緊張」を作りだすのは、戦争や武力衝突でもいいんだけど、あれはマジにお金がかかるし、またコントロールも難しい(相手国と微妙な八百長もいるし、話が食い違うとドツボにハマるし)。その点、テロは簡単ですよね。軍事行動に比べれば予算は数百分の1で済むし、突発的で政治的な後始末もそんなにいらないし。市民や有権者の身近で起きるから、選挙活動その他でも有効だし。大体、日本の共謀罪も「テロ防止のため」とか言ってるし。

 んでも、今回のイギリス総選挙では、その目論見が思いっきり空振り三振になってるわけで、だんだん筋書きがバレているんか、多用しすぎて新鮮味が失せたのかわからんけど、もう皆もうんざりしてるんじゃないかと思います。もう使えない方法だといって、やめてくれたらいいんですけどねー。

リスク論として

趣味論と確率論

 いつものリスク論になりますが、リスク論って、趣味論系とドライな数学確率論系があると思います。多くは趣味論でしょう。テロとか、飛行機が落ちるとか、水子の祟りがあるとか、なんたらとかいう流行の病原体とか、要は話題性。これは趣味できゃーきゃー怖がってればいいんだから、一種の「レジャー」だと思います。うれし楽しく怖がってりゃいいんでしょう。

 でも、ちょいマジになって真剣に確率論で考えていくなら、まず、新聞に載ってるような事柄などは一切排除してかまわないと思います。なぜって、あれは珍しいから記事になるのであって、あまりにもありふれている事柄は記事になりませんからね。もし、実際に生じた事件の量的比率で新聞を作るとしたら、新聞の90%以上は、交通事故と自殺と病死で埋め尽くされると思います。そしてそれがリアルなリスク値だと。あまりにもありふれていて、何を今更話題にもならんわってことは、それだけ頻繁に発生するということであり、自分がその犠牲になる確率も桁外れに高いってことでしょう。

 その他、全然知らないけど結構な人数で罹患している指定難病なんかもあります。難病情報センターをみると、

「ベーチェット病、多発性硬化症、重症筋無力症、全身性エリテマトーデス、スモン、再生不良性貧血、サルコイドーシス、筋萎縮性側索硬化症、強皮症、皮膚筋炎及び多発性筋炎、特発性血小板減少性紫斑病、結節性動脈周囲炎、潰瘍性大腸炎、大動脈炎症候群、ビュルガー病、天疱瘡、脊髄小脳変性症、クローン病、難治性の肝炎のうちの劇症肝炎、悪性関節リウマチ、 パーキンソン病関連疾患(進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症、パーキンソン病)、アミロイドーシス、後縦靭帯骨化症、ハンチントン病、モヤモヤ病(ウィリス動脈輪閉塞症)、ウェゲナー肉芽腫症、特発性拡張型(うっ血型)心筋症、多系統萎縮症(線条体黒質変性症、オリーブ橋小脳萎縮症、シャイ・ドレーガー症候群)、表皮水疱症(接合部型及び栄養障害型)、膿疱性乾癬、広範脊柱管狭窄症、原発性胆汁性肝硬変、重症急性膵炎、特発性大腿骨頭壊死症、混合性結合組織病、原発性免疫不全症候群、特発性間質性肺炎、網膜色素変性症、プリオン病、肺動脈性肺高血圧症、、、」

 あー、疲れた、これでも全体のちょっと(330病あるらしい)で、その一部合計だけでも平成26年度に92万人も患者さんがおられるそうです。これらにかかったら即死ぬってもんじゃないでしょうけど、それでもかなり人生のあり方に修正がかかるでしょう。それが日本で百万人ほどいる。単に僕らは知らないだけで、客観的なリスクとしてはこういう病気も存在する。もちろん、糖尿病などありふれた成人病はもっともっと多い。

 もちろん人生の障害は疾患とか健康に尽きるものではないし、経済的な問題もあれば、家族や人間関係もあるでしょう。さらにもっともっと他愛のないこと=自分自身のドジ=もあります。やれ財布無くした、携帯忘れた、階段からコケた、、、。そういえば、僕の友人の先輩は(直接面識はないが)、デパートのエスカレーターでコケて頭を打って、そのときはどってことなかったけど、翌朝自宅でクモ膜下出血で亡くなったそうです。

 いちいち意識はしないけど、僕らの平穏な日々を破壊するリスクというのは、地味〜なところがメインにあって、話題性の高い派手なエリアなんか殆どないです。だから対策も、小学生の頃から耳にタコである地味〜なもので、やれ忘れ物に気をつけろとか、やれ道路では左右を確認せよとか、早く寝ろとか、野菜食えとか、足元に気をつけろとか、嘘はつくなとか、そんなことでおそらく人生の95%くらいの不幸は未然に防げるんじゃないかなー。それらに比べれば、テロだの犯罪だのいうのは、確率論的にはやっぱ話題一発の趣味の域を出ないと思うのですな。

個人的なリスク論 

 最後に余談ですが、自分自身のことを述べると、ちょっと他人と変わってると思います。というのは前職時代、職業柄のリスクというのがありましたから。弁護士というのは、他人のトラブルに入ってなんだかんだやるわけですから、面と向かって罵倒されたり、脅されたりというのは日常茶飯事であります。でも、ま、それは別に大したことではない。ただ、面と向かわないで、恨みに思って後ろから刺されるというリスクはあります。

 僕なんかペーペーでしたから大して敵も作ってなかったですけど、これでもっと長くやってたら、それなりに大きな喧嘩の頭目になったりもするわけです。大弁護団のリーダーとかスポークスマンとか。そうなると敵が増えますから、なんだかんだイヤガラセは普通の話です。無言電話やイヤガラセFAX、メールは普通だし、事務所や自宅の前に動物の死骸(猫の生首とか)置かれていたりとか、すごいのになると地下鉄の吊革広告で「殺人弁護士○○」とか自分の名前を書かれたりとか、それもまあ一種の職業病みたいなもので「まあ、すぐ慣れるよ」という世界です。

 それらは組織的、ビジネスライクにやられているので、あんまり怖くはない。どうせ対立する暴力団とかその種の連中の下世話な行為でしょうからね。ただし、もっとリスク値があがるのが、一つは突発的孤立的な犯罪行為。オウム事件の坂本弁護士殺害事件のようなものですが、坂本さん直に面識はないけど、僕より一期先輩なだけだから、わりと身近な事件ではあります。あー、いつか自分もそうなるかもねーといううっすら覚悟みたいなものもある。あと、もっと普通に恐いのは、離婚事件や家事事件で、トチ狂った相手方から刺されるという。これは日本でもありましたし(神戸家裁だったかな)、偶然知ったのですが、シドニーの家裁でも同じことがあったらしい。他人の家に首をつっこむのはそれなりにリスクがありますよね。

 あとは、スキャンダルやら陥れ系で、電車で痴漢扱いにされることやら、なんだかんだでよからぬ方向に引きずり込まれるリスクですね。暴力団と一緒にいるところを写真に取られるとかその種のやつ。あと国相手に喧嘩してると、税務署にイヤガラセされたり、警察にイヤガラセされたりという。

 テロは純粋に巻き添えだから確率論でしかないけど、これらは直接自分がターゲットになりますから、その恐怖感やリスク感は比較にならないですよー。んでも、そこでビビってるようでは仕事できませんしね。てか、その恐怖感がガソリンになって闘争本能に火がつくタイプでないと。「おもしれー、やってみやがれ」って燃えるタイプです。てか、そこまでイヤらしいことしてくるというのは、相手もそこまで追い込まれているわけですから、勝利目前ですもん。

 そんなんで仕事やってけるのか?というと、意外と普通に出来ます。日弁連って日本最大の闘争組織で、僕らの頃は1万2000人くらい、今はもっと数が多いですけど、うち一人でも暴力団とか警察とかに攻撃されたら、他の数万人全員が一致団結して反撃する組織なんですよね。つまり一人の弁護士を不当に敵にしたら(訴訟とか交渉で正々堂々とやるなら別ですよ)、日本中の弁護士全員を敵に廻すことになる。全員が一匹狼的で、ほぼ全員が資質として喧嘩大好き系だからそれが万単位でいるのは手強いですよ。全員が損得抜きで一斉にかかってくるし、弁護士出身の国会議員は常に数十人単位でいるから国会も動かすし、地方の警察にもそれなりに要求します。坂本さんのときも、行方不明時期が長かったんだけど、皆でビラ配りとかやったし、警察への捜査交渉は上の連中がやってたそうだし。なんせ30年の冤罪事件でもやるから、ときが経っても絶対に諦めない連中なんだわね。ただし、皆のサポートを受けられるためには、自分自身がやましい事件とかやってたらダメです。また弁護士会は、日本で多分唯一だと思うけど、公的な補助金を一切受けていない自立団体なのでだから国にも遠慮なく喧嘩ができる(その代わり会費が高いね。会館施設とかいったら数十万円の負担金を払わないとならない)。

 で、そんな経験でテロやリスク管理で役に立つコツをいえば、とりあえず電車が恐いですね。ホームで突き落とされたり、痴漢冤罪されたり、リスクの宝庫ですから。ホームでは絶対最前列には立たない。これは鉄則。それとさりげに後ろを見る癖をつけること。これはすぐ癖として定着します。ピッチャーのセットポジションみたいに思うとすぐ身につくよ。背後を把握するのはリスク管理では基本ですし。後ろをみるだけで、油断してませんよポーズになるし。あと、満員電車で吊革につかまるときは両手で。このあたりは多分検事さんもやってると思いますけど。

 あとは、そうだなー、通り魔やテロ対策で言えば、身動き取れないような混雑する場は出来るだけ避けることですかね。常に逃げ道が開いてるかどうかです。あとは、野球で言えばセンター守ってるくらいの感じで、気楽にブラブラしてるけど、カーンと打球が飛んだら一気にだーっと走れるくらいの準備状態、心持ちとしてです。ドカンと爆破系はどうしようもないけど、車や人が突っ込むくらいだったら、大体10歩くらい移動できたら難は避けられるはずですから。んでもって、ジンクスとして、そう思って注意してるときは絶対何も起きません(笑)。だからお守りやオマジナイとしてそう注意するといいです。

 あとネットの炎上なんか、野球場の野次みたいなものでリスクのうちにも入らんと思うけど、ただ気をつけているのは、常に実名、実住所でバーンとやるとこと。逃げも隠れもしないことですかね。匿名って、匿名でやってること自体が一つの弱みになるわけで、それが弱点になったりするのですよ。また匿名であるのを良いことに、ついつい筆が滑ったり油断するので、それであとで突かれたりするのはよくないですよね。だから最初から全部実名。実名でやれば、言動にも自ずと注意するし、一貫性もでてくるし、実像との差もあんまりないし、死角が減るでしょ。それがコツでしょうかね。以上は余談でした。



 さて、先週お休みしてた漫画紹介です。

★アンダーグラウンド系

[真鍋昌平] 闇金ウシジマくん
 これも有名な作品で、まだ連載してると思います。TV番組にもなったのかな。最新刊が39巻とか、結構長いですねー。

 この漫画はですね、読むと誰もが鬱になるという(笑)。
 それは作品としては褒め言葉なんだろうけど、そのくらいインパクトがある。エグくて残酷なシーンもあるんだけど、よく見るとそんなのはほんのちょっとしかなく、多くの鬱性インパクトは「人のありよう」です。

 人間の醜悪さというか、世間の人々の愚かさがこれでもかと描かれています。それも「ああ、いるいる、こういう人」というリアリティがありつつ、そのリアリティを導入部として、どんどん知らない世界まで進んでいって「え、こんなひどい奴っているの?」というところまで底なし沼のように続いていく恐さ。

 主人公であるウシジマ君がメインで出てくるのは、最初の巻と、あと終末に近づいている最近巻くらいで、あとの大部分は、日本で生きているあらゆる人々の(転落していく)人生がきめ細かく描かれています。パチンコ中毒になって借金まみれになっている主婦たち、地元のヤンキー、風俗嬢、フリーターやニート、サラリーマン、イベサーやってるギャル汚くん、生活保護者、それらを飼って儲けているヤクザ、ホスト、パーティージャンキーのOL、ネズミ講のカリスマ指導者、、、しばしば多用される異様にリアルな街の風景=それが「目に映る冷たい現実」をとあいまって、「こうやって人は終わっていく」というプロセスが緻密に描かれています。

 例えば地元のヤンキーの王様で君臨してた愛沢君の場合、腕力にまかせて行き当たりばったりで生きていて、ついには行き詰まる。上には上がいるから、もっと強くて恐いヤクザに取り込まれ、なんだかんだ金をむしり取られ、しまいには追い込まれて強盗まで計画するけど上手くいかず、最後の最後は、ヤクザに保険金かけて車に飛び込まさせられる。

 あるいは、お父さんはリストラされ、お母さんは家計を支える意識が強すぎて株に手を出して、悪い連中にひっかかって、信用取引→追証→家屋敷全部取られ、息子はニート手前のフリーターで自分のブログに世の中への恨み言を書くしかないという一家が、落ちる所まで落ちる話。

 借金まみれの人間一人、わずか百万円で売買され、コンテナに入れられ、生きたまま中国か東南アジアまで売り飛ばされるとか救いのない結末もあるのだけど、逆に、救いのある話もあります。上の一家離散パターンは、落ちるだけ落ちて、逆に家族の絆が復活し、息子もやる気になって立ち直っていくという。意外と、そういう明るい終わり方をしているのも結構あります。

 ウシジマ君も決して「いい人」になってしまわないように、冷酷な金貸しスタイルを徹底してるんだけど、でも社員や仲間は絶対に大事にしてて、裏切られてもなおも許すところがあったり、自宅ではウサギを沢山飼ってて、死んだらペットのお墓まで作ってお参りしてたりという(笑)。

 思うのですが、作者が描いているウシジマ像というのは鏡みたいなもの、世界の人が愚かで汚かったら、それに応じてウシジマ君も恐くて冷酷になるけど、本人に意欲と行動があるならばそれに応じてちょっと優しくなる。闇金というのは、本当にどうしようもない人、誰にも相手にされなくなった人が最後の最後に頼みにくる、この世界の極北の地みたいなところであり、そこでは非常に歪(いびつ)な形ではありながらも、なおも人間関係がある。



 ちなみにこの漫画の中にも出てきますが、一番汚いのは誰か?というと、実は国や銀行だという見解もあるわけです。今、日本には「サラ金」が無くなりました。サラ金規制法で金利上限を制約され、そして過払い金請求訴訟がどんどん起こされ、アコムも武富士も全部潰れた。そして潰れたサラ金を吸収したのが大手銀行です。
 その背景事情として語られるのは、銀行はなかなか儲からないので四苦八苦してて、サラ金の領域をぶんどるために、国と結託して法律を変えて、訴訟を起こさせてサラ金を潰して乗っ取った。そこまで計算してやったかどうかわからんけど、結果的にはそう。

 でも、それが日本の貧困レベルを地獄化させたことは否めない。今まで、借金する場合、優良な順に、銀行など表の業者があり、次にサラ金という業界があり、さらに恐い街金があり、最後に闇の世界の闇金がある。これまではサラ金という領域があって、アコギではあってもそれなりのノウハウでやっていたし、サラ金段階だったらなんとかして自己破産して更生することも出来た。それだけサラ金には白とも黒ともつかぬグレーゾーンで商売やって儲けていく回収技術がありました。でも、大手サラリーマンの銀行員にそこまでリアルな回収技術はないから、今までよりもかなり手前で融資お断りになる。危ない橋は渡らなくなる。そうなると、借り手としては、もう一気に闇金まで転落するしかなくなる。闇金の恐いのは、存在自体がわからないのと、姿が見えないから法律に従うかどうかもわからんことです。サラ金だったら自己破産したら、もうそこで追求は終わった。でも闇金は、ヤクザ以下の恐い連中もいたりするから、自己破産しますから返せませんとか言っても、「ふーん、でも俺ら関係ないから。あんたの家族殺してでも回収するよ」とか脅されてしまう(実際、そうなったら即警察行くべし、表に出て恐いのは相手の方だから)。

 結局、大掛かりなしくみをつくって、これまでのサラ金の美味しい部分は大手銀行がかっさらっていって、サラ金の苦い部分や社会的機能=自己破産してチャラリセットは放棄した。だからそれまで救えていた日本の貧困近辺層が、より救いのない地獄に落とされるケースが増えたんじゃないかという点です。ウシジマ君は、闇金のなかでもまだ良心的な方で、対面して人間関係作ってますから、闇金というよりも高利貸や街金に近い。でも実際にはもっとダークで鬼畜なところもあり、この漫画にも出てくるけど、ホームレス拾ってきて豚小屋みたいなところに住まわせて、生活保護費や障害年金をぶんどって、強制労働させてそれもピンはねという、人間を家畜として扱ってるところもあります。障害年金取るために手足ちょん切るとか(この話も出てくる)。

 
[岩城宏士] スモーキング

 アンダーグランド世界のプロフェッショナル4人の男達の話で、アンドーグランド社会からの依頼を受けて殺し屋をやってる集団。ヤクザを相手にするプロなだけに、やってることはウシジマ君なんかよりも数段エグいです。まあ、フィクションだし。

 しかし、と〜っても心温まるお話だったりするのですねー、これが。読むと心が洗われるというか(笑)。

 一騎当千のプロ達なんだけど、昔気質の勧善懲悪的で、非道なことして弱いものを泣かせている連中には凄まじい怒りの制裁を食らわすんだけど、普通の人達、特に公園で遊んでるような子供や、いきつけの弁当屋の女の子とかには純情なばかりに優しいという。

 特に、一人だけ若いヒフミンという青年に対するおっちゃん3人の眼差しは温かい。ヒフミンは、薬学とか毒薬作りには天才的な技能をもってるけど、精神年齢はまだ五歳児のままという人で、それだけに大人たちが親のように、兄貴のように大切に接しているという。

 一話読み切りで、すぐ話が終わるので、昔のお気楽だった勧善懲悪のテレビ番組、必殺仕掛人とか水戸黄門とか、そのあたりの感覚で読めるので良いです。ウシジマ君は、相当トラウマになったり、胃もたれすると思うけど、この作品はファンタジーなので、そういう部分は無いです。救いがないまま終わるということがないので安心。




→予定タイトル一覧

前方正面がNorth Sydneyのビル群



後ろを振り返るとCityのビル群

Balmainの方角






 文責:田村



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