今週の一枚(2016/12/26)
Essay 805:悶々無重力地帯の歩き方(1)
永住権就活のグッドニュースとコツ
写真、センテニアル・パークで撮ったもの。白鳥ではなくガチョウだと思いますが。
ふかふかの羽毛が気持ちよさそう。自前の羽毛布団だもんね。
ふかふかの羽毛が気持ちよさそう。自前の羽毛布団だもんね。
今回は、前々回(803)の永住権のためのコネ就職の話を敷衍しつつ、且つその原理や効用と普遍性について述べます。要旨だけ先に書けば、
(1)就職 (and/or)スポンサードに重要な役割を果たす「よい人」に出会うまでが難しく、出会ってしまえばあとは簡単。特に日本人の場合、世界基準でいえばかなり真面目に働くので雇用主が重宝がって手放さず、ゆえにスポンサードされる確率が高い。
(2)したがって、勝負は「出会うまで」という曖昧な無重力地帯をいかに切り抜けるかという一点にほぼ集中する。そこでは技術・知識というよりもメンタル要素が大半を占め、それは精神力やストレス耐性を超えて、殆ど人生哲学のような世界になる。
(3)出会うまで=何らかのブレイクポイントに達するまで=のシンドイ期間の攻略法は、一見相反する2つの行動によって成り立っている。一つはブレずにコツコツ積み上げていく持久性であり、その持久力を支える価値観の強靭さ。もう一つは「下手な鉄砲も数打ちゃ当たる」「犬も歩けば棒に当たる」式のランダムで数をこなす作業。このコツは、永住権に限らず多くの局面において普遍化できると思う。
以下、分説します。
ライトパーソンに出会うまでが勝負
Essay803で、就職するための二大条件(永住権と現地での職務経験)という悪魔のニワトリタマゴ(×2)について触れました。その際、長くなったので割愛したのですが、その先があります。ニワトリタマゴだけみてたらバッドニュースの極致のような話ですが、グッドニュースもあります。正しいとっかかりさえ見つけてしまえば、あとは比較的楽だということです。RPGのように、だんだん難しくなっていくのではなく、比較的早い時期にラスボスが出てくる。いきなりそこで手こずって、半死半生のメに遭わされるのだけど、そこをクリアしたら、あとはぐっと楽になると。平均的な日本人の場合は特にそうだろうと。
シャイで押しが弱い部分を克服
なぜ平均的な日本人〜というと、日本から一歩外に出てワールドカップに出場した場合、あなたのライバルは、権利主張について押しの強いヨーロピアンであったり、押しの強い中国人であったり、押しの強いインド人であったり、したたかに押しの強いユダヤ人であったり、陽気に押しの強い南米ラテン系の人達であったり、、、、とにかく大体みんな自分よりも押しが強いのですな。就職の面接(ジョブ・インタビューといいます)の際、「○○が出来ますか?」と聞かれて、日本の模範解答は「お恥ずかしい話ですが、まあ、たしなむ程度には」とあくまで謙虚に答えるべしです。が、世界ではそこをガンガン売り込まないといけない。これが辛い。自分の結婚式(披露宴)を体験された方はわかると思いますが、お仲人さんが新郎新婦の紹介をする際に、「顔から火が出る」くらい面映い気持ちがしますよね。「新郎は幼少期より成績優秀、明朗快活で誰からも好かれ、○○に打ち込み、県大会で○という輝かしい経歴を持ち、仕事においては決して手を抜かない堅実な仕事ぶりで上司同僚から厚い信頼を、、、」という調子で、どんなスーパーマンやねん?あ、俺か?という。女性は絶対にお美しく、おしとやかで、奥ゆかしく、しかし活発な一面も持ち、知性的で、思いやり満ちた温かい心で、、、と。「それはギャグで言っているのか?」という世界です。他人に言われてすらこっ恥ずかしいのに、それを自分でやらねばならない。
あけっぴろげに自分を褒めるということを、これまで厳に謹んできた人達に、いきなり「さあ、自分褒めをしましょう」っつても無理ですわ。かといって、それを日本で練習しようものなら、周囲から「お前が言うな」バッシングを受けるでしょう。その気持を切り替えるまでが難しい。そこはもう、「商品(労働力)の宣伝」なのだと割り切って、広告の宣伝文句のように自分を言う。「世界初の画期的な○○メカを搭載、○○から○○への流れるような○○が貴方を全く新しい次元の○○体験へと誘う、、」とかなんとか。
恋人募集の「釣り書」では、かなり大胆に自分を褒めたり、インスタグラムで奇跡の一枚を載せたり頑張るわけですが、それでも、僕がこちらに来た当初、英語の勉強かたがた無料のコミュニティペーパーのその箇所をみてひっくり返ったものです。attractive, good-looking, honest,intelligent, passionate, spontaneous, caring,supportive,adventurous, loyal,trustworthy,down to earth, fun loving, responsible, open-minded, fit, artistic, sweet yet intriguing and smart...."という感じで、ボキャブラリーを増やしたいならこれだ、という世界です。よくまあ臆面もなくそこまで自分を褒められるよなと。
これを日本人の我々は「押しが強い」と感じる。てか、「いけしゃあしゃあと」ってくらいに感じる。でもそれをやらねばならない。
ワーホリさんの上級編であるローカルジョブのバイト探しでも、ココがネックになります。カジュアルバイト程度で、応接室の椅子に座って粛々と問答が続く場合よりも、喧騒うず巻く店頭での立ち話って場合も多いでしょう。その際、見上げるような白人の大男大女に囲まれながら、「私はこれができます」と主張する(しかも、わずか数秒間で)のは難しい。
日本人はスピーキングが苦手だとされますけど、本当の問題は、なんで苦手なのか、なぜそう思うのか?です。僕が思うに、2つの要素があって、ひとつは、日本語でもスピーキングが苦手な人です。半分はそれでしょう。英語が苦手なんじゃなくて、スピーキング、対人口頭技術が未発達。もう一つはメンタル。引っ込み思案、シャイ、人見知りで、初対面の人でもぶわっと心をオープンにして、大きくハグするような心の練り方が足りない、場数が足りない。だから激しい営業やらされてきた人(毎日数百件の飛び込み営業とか)は、そこは強い筈です。
練習方法
英語面の練習で言えば、レジュメ(履歴書)やら、カバーレターを書くのも練習になります。原型は他人のものをパクってもいいけど、そこから先、自分なりにカスタマイズします。その際に、頭をうんうんヒネるし、改良につぐ改良をします。ここで英語力が伸びますし、自分の売り込み方も上手になるはずです。その過程を怠ると伸びない。レジュメを定期券みたいに誤解してて、一枚完全なのを作っておけばあとは使い回しで〜とか安易に考えてたらダメっす。カジュアルバイトくらいだったら別にいいけど(レジュメなんか名刺代わり、連絡先を書いた紙程度の扱い)。これらの作業によって、自分の訴求ポイントを過去の経歴から抽出していく技術が上がります。単に「一般事務やってました」だけでは何にもわからない。そして、「単なる一般事務」なんてことはリアルにはありえない筈です。そこを立体的に考えて、「これは使える」って部分を抜き出してくる視点、発想。
例えば、それが建築業界の一般事務だったら、少なくとも建築業界のあれこれについては素人よりはよく知っている筈です。施主の意向がコロコロ変わって「だー!」となることがあるとか、お役所への申請がキモで、そこをミスるとダメ出しされたり、発注するにも信頼できる下請さんを見極めるのが難しいとか、、自分が直接責任を追わなくても、その場にいたら何となくわかるはずで(営業の連中がカリカリしてるのを見てるし)、「小規模工務店における一般的な業務内容、実務慣行、業界の現状とノウハウについては準プロフェッショナルに知っている」と抜き出せる筈。
あるいは、チーム作業が多かった場合、リーダーシップなり、協調性なり。単調な入力作業であったとしても、複雑な事務処理についての正確性、耐久性などは言える。"I am patient, endurant, accurate and reliable for complicated administrative tasks"とかね。そこで意味を調べて、シソーラス(類語辞典)で同意語を広げて、意味がすっとつながるように並べなおしたりするなかで、ボキャは増えるし、やがては口頭現場ですらすら口をついて出てくるようになる。
また、この種の抽出作業は、直に関係する職歴がない場合に重宝します。そのものズバリの体験はないけど、しかし、過去の経験によって接客能力は磨いてきたので、必ずやお役に立てるでしょうと。
「押しが強い」とか一口に書きましたけど、細かく見てれば、彼らの強さは、単に同じことを連呼しているからではないです。そんな選挙カーみたいなことやっててもウザがられて終わり。注目すべきは「技の多彩さ」です。自分の能力について横にずらっと並べて守備範囲の広さを言うのか、それともタテにぐっと掘り下げて理解の深さをアピールするのか、ある面では業界仕事的な能力を、ある面では人間的な側面を、そして立ち技だけではなく寝技もしかけるとか。単に厚顔無恥だからグイグイやってるだけ、、、ではないですよ。それなりに鍛えられてきたわけですから。
もうちょっと噛み砕いていえば、カジュアルバイトだったらシフトの変更なんかでもかなり対応できますよーとかさ、早朝深夜は得意っすよーとか。ある程度の上級になると、日本の○業界には精通しているので将来的にご紹介できると思いますよとか、要するにその仕事が出来るかどうかだけではなく、使いやすいですよー、いろいろと特典やオマケもありますよーという、今なら半年契約で洗剤と巨人戦のチケットさしあげますよー的なことです。
これは匂わせるだけ、ニュアンスだけですからね。別に正式に雇用契約に書くわけでもないし、ネタによっては書けるわけがないし、だからそう言ったからといって守らなくても良い(笑)。駆け引きだもん。てか、百戦錬磨の雇用主にしてみれば、そんなもん織り込み済みですよね。だから「騙す」とかそんな大袈裟な話ではなく(騙すだけの能力すらないでしょ)、注意喚起程度の効能です。もし、そこが本気に焦点になるのだったら、きちんと契約書に特約条項入れますよ。入れななかったら、入れないほうが悪いです。そういうルールでしょ。
とっかかりが難しい
とにかく最初のとっかかりが一番難しいのですな。なんせなんの現地キャリアもないわけですから。よく例に出すのが、「セロテープやサランラップの切り口がわからなくなった状態」です。とっかかりがわからん。爪でひっかいても、ひっかいても違う、違う、あれ、おっかーしなーでわからんという。現地での仕事探しの難しさは、ここですね。そのかわり、そのとっかかりさえわかれば、あとは慎重に引っ張っていけばいいだけだから楽であると。最初の一軒が大変で、だから永住権とったあとの最初の仕事(正社員仕事)に難産するわけです。もう半年や1年無職続きでも不思議ではないね、千連敗単位でもよく聞く話ね、てな世界です。特に落下傘部隊(日本のキャリアのみで、現地生活を経ずに永住権が取れてしまった人)の場合、ここで苦労する。叩き上げ、成り上がりの矢沢永吉的なワーホリ上がりの場合ハ、ココが強い。さんざん打たれて打たれて、地べた這いずり廻ってのし上がってくるから、永住権取れたときには、もう一人前の戦士になってる。
ラスボスが比較的早い段階で出てくるというのはこれです。最難関がいきなり出てくるという。「比較的早い」と書いて、「最初に」と書かないのは、最初の時点ではリングにも登れませんから。まず現地で一人で行動し、情報収集し、誰彼構わず人と会い、、って作業が出来るようになるまでの揺籃期、さらに一定レベルで勝負できるだけの英語力ですね。ゴルフでいえば「コースを廻れる」くらい、テニスでいえば「ラリーが続く」くらいです。だいたいそこまでいくの早くて数ヶ月、平均で1〜3年くらいかかるんじゃないですかね。IELTS6レベルでとりあえずリングには上がらせてもらいますけど、そこでデビュー戦の相手になるのが、こともあろうにチャンピオンだという(笑)。なお、キャリア10年レベルの手に職があるなら、英語はダメダメでも脈はあります。現場でモノを言うのは腕ですから(ただし、後がしんどい=雇用主とスポンサードの条件について複雑な駆け引き交渉するとか、IELTSの点数が足りないとか)。
見つけてしまえばこっちのもの〜世界最強のヒラ
やっとこさ見つけても、今度はとっかえ引っかえ勤務先を変えねばなりません。そんなに最初からラッキーストライク!ってことは確率的にないでしょうしね。そうこうしているうちにライトパーソンに出会うのですが、その中盤戦は中盤戦で難しい。が、その難しさは(話が複雑になるので)後述します。ライトパーソンに出会えて、ある程度安定的に仕事をするようになったら、あとは楽だと思います。あくまで「比較的」という条件付きですけど。
初対面のフリーワールド、そこでの緒戦能力については、シャイ、経験不足で辛い日本人でも、目の前の仕事を遂行する実務レベルになったら、おそらく世界最強だと思いますよ。特にヒラは世界最強のヒラだと思う。上になるほどにダメになっていくんだけど。だから、あなたが大手企業の幹部クラスとか高級官僚とかだったら、日本での既得権を目指した方がコスパいいいです。世界レベルでかなり無能でもいい思いできるから。でも、あなたがヒラだったら、そんな日本みたいなところにいたら損です。まるで北斗の拳に出てくる「修羅の国」みたいなところですからねー、全員強い(仕事を真面目に高水準でこなす)。強くなければ生存すら許されない。だからちょっとばかり強くても全く評価されない。しかし、世界に出たら、この点においては、拍子抜けするくらい皆さんヘナチョコですから。
以前、現地のクリーニング(清掃)のバイトをした人が言ってましたけど、大した仕事ではないそうです。日本のバイトに比べたら屁みたいな労働なんだけど、他の連中はブーイングしまくりで、過酷な肉体労働だ、搾取されてるんだとか文句ばっかり言ってて全然働かず。全くクリーニングしてないところでも「やったこと」にして平然と嘘をつくとか。いやいやそれはさすがに不味いでしょうで、日本の基準からしたら「ここやったの誰だ?」と後で文句を言われるくらいのレベルでざっとやったとしても、それを不思議がられる。お前は、なんでそんなにシリアスになってるんだ?と。いや、だから仕事ってそういうもんでしょ?って思うんだけど、「そういうもん」ではないのだわ。
彼らにしてみれば、仕事なんてのは、できるだけ手を抜いて給料をゲットしましょうゲームなんだよ、「経済活動」って本来そういうもんだろ、安いものを高く売りつけてなんぼだろ、え?君はなにか人格修行とか世間に奉仕とかそんなことを考えてるのかい?それだったらボランティアとか宗教とかやればいいじゃないか、何カンチガイしてるんだよってな感じ。誇張してますけど、複数の人の話を総合するとそうだし、また自分が消費者として煮え湯を飲まされ経験としてもそうです。デリバリーでも、配達してないものを「配達したけど不在だった」という通知一本で済ませるとか。
だもんで、雇用主は大変なんですよー。僕も人を雇うようなビジネスは金輪際したくないなって思ったもん。金をドブに捨てるようなもんだな、こりゃと。というわけで、くだんの彼の場合、かーなり手を抜いてやってても、ボスからは激賞の嵐で、"You're a Good Boy!"と、それがもう口癖で。
僕らはヒラであっても、仕事全体の段取りを考え、ひいては会社の方針すらをも考える。そんなのは上級職や社長の役割なんだけど、なんの権限も無いんだけど、それでも考える。そして細かなところから、「こうすればいいじゃん」と改良ポイントをみつけるし、全体の時間配分をみて「これでは間に合わない」とやりかたを考える。そんな部課長クラスの水準をデフォルトで目指してしまう人間がヒラですからね。
というわけで、ハマってしまえば、あとは雇用主が重宝がって手放さない。そりゃそうですよ、こんなに手がかからないエンプロイーは滅多にいないもん。車でいえばアクセルとブレーキがしっかりして、あまつさえ自動航行システムさえ搭載している。他の連中は、ブレーキかけても「たまには止まる場合もある」程度だから怖くてしょうがないでしょう。でもって口だけは上手いから、「もう二度とこんなことは〜」「プロミス!」と真摯な表情で言う。そして何度も何度も同じことをする。やってらんないでしょう。
そんなこんなで雇用主から「スポンサーしてやるから」「ビザ出してやるから」と言われるようになり、あるいはワーホリさんの次のステップだったら「ビザ取り学校の学費や手続き費用は出してやるから」とか言われて、頼むから続けてくれいって話になる(場合が結構ある)。
なお、これはヒラの場合の話ですよ。
話が管理職とか上級プロフェッショナルと呼ばれるレベルになってきたら、そのハードさは日本以上でしょう。そんな使えない連中を部下にして、短期間で「結果」を出さないと即クビですから、実務に関する有能度はかなり求められると思います。その代わり、日本の中間管理職の悲哀〜組織と派閥の板挟み的な苦労〜極端な例だと不祥事があった場合責任を一身に背負って自殺するように因果を含められるとか〜、それは無いでしょうけどね。
無重力地帯の歩き方
さて、どうしようかなー、これまでが序盤で、ここから本論なんだけど、もう量的に結構いっちゃったから、今回はこのくらいにしておこうかな。多分やり始めたらこの2−3倍の量になりそうだし。続きは次回(来年)ね。ということで、良いお年を。
センテニアル・パークの中心にはバード・サンクチュアリ(野鳥の聖域)がありますが、こんな感じで雰囲気も樹木もちょい違う。
日曜の午後とかいくと、いかにものどかな家族連れがいて。最初見た時、なんか「天国」みたいって思った。ビジュアル的に。
内周の馬場トラックがあって、かっぽかっぽ馬が歩いていきます。
文責:田村