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今週の一枚(2015/09/21)



Essay 740:「不老不死」トンデモ問答

悪魔くんとの消費者保護的な契約交渉録

 写真は、桜の花と藤の花が同時存在しているもの。
 撮影場所は、きわめてウチの近所(30メートルくらい)。

 こちらは春がきたら「一気!」という感じで、ジャスミンもツツジも桜も藤もアヤメもどわっと一斉に咲きます。桜と藤は、日本では1か月くらいズレるんですけどね(桜は入学式、藤はGWくらいの)。

 そもそも(日本的な)桜自体が非常に珍しいのですが。(日本的じゃない、というのも変だが)桜、つまりサクランボ果実栽培用なら、タスマニアのチェリーピッキング(=ワーホリ的ゴールドラッシュな)はじめイロイロあるんですけど。

 ちなみに写真撮ってたら、この家のオーナーさんと偶然出くわして、「もっと撮って!」「いや、このウェステリア(藤)が大変なのよ、落ち葉掃いて、掃いて〜、掃かないとつるっと足が滑って、だから掃いて〜掃いて〜、大変なのよ。"sweep! sweep! sweep!otherwise slipped down! very painful!"」と話好きなおばさまでした。見た目アフリカ系?って感じの人で、ちゃきちゃきにビジネスやってそうな。

そこに悪魔が現れて、「不老不死」をもちかけられた

 先日微熱にうなされながらベッドで輾転反側(てんてんはんそく、と読む)していると、しょーもないことが頭に浮かびました。「転んでもタダでは起きない」的に、今回はそれをネタにしちゃいます。超長いですけど、罪もないスカスカな与太話ですので、すぐ読めちゃうと思いますよ。シルバーウィークのどまんなか、お気楽にお楽しみを。

 不老不死です。あれはどういう意味だろう?

 目の前に悪魔だかがドロロンと現れて、お前を「不老不死」にしてやろうと持ちかけられます。
 そんなことがあるのか無いのかわからんけど(無いだろうけど)、不老不死契約を締結する場合の注意点などを、消費者保護の観点からあれこれ問い出してみると--------

「不死」の定義


「本日は唐突に、たいへん魅力的なオファーをいただいたわけなんですけど、やはりですね、いきなりおっしゃられても面食らうというか、直ちにバシッと飛びついていいのかどうか、そのあたりの不安もあるわけですね。」
「わかるよ。」

「そこで契約を締結するにあたって、幾つか先にお聞きしたい点があるのですが、、」
「OK!なんでも聞いて!」

「まず不老不死の、「不老」の方からですけど、ここでいう「老」とはなにか?です。人間の身体に生じる経年性の変化すべてを「老」というのでしょうか?時がたつにつれて変わっていくような変化、それが生じなくなる、と」
「うん、ま、そういうことかな」

「では、不老不死を授けられる人が赤ちゃんであった場合、その人は赤ちゃんのまま永遠に成長しないということでしょうか?」
「や、それは成長するよ、赤ちゃんが成長するのは老化ではないからね」

「では、ただの「経年性の変化」と「老化」とは違うということですね。では「老化」とは何ですか?」
「それは、つまり、年とっていろいろ身体がやばくなったりすることでさ、まあ、わかるっしょ?」

「経年性の身体の変化のうち、機能が低下するなど好ましからざる領域、つまり「劣化」する場合と考えてよろしいでしょうか?」
「そうそう「劣化」ね、劣化!」

「では、髪の毛や爪が伸びるなどの変化は「劣化」ではないのですね」
「そうね、別に悪くなるわけじゃないもん。それに伸びないとヘアスタイルに失敗した時に困るじゃん?」

「了解です。
 では次に、「劣化」といっても程度概念・評価概念なので、人によって判断が違う場合もあると思うのですが。つまりAさんにとっては劣化でも、Bさんにとっては劣化ではないとか、、、」
「え、どゆ意味?劣化は誰が見ても劣化でしょう?老眼とかいやでしょ?」

「もちろん老眼を喜ぶ人は少ないでしょう。しかし人によって評価が分かれる場合もあるかと。」
「え、例えば?」

「例えば容貌です。まだティーンエイジャーの若い盛りの顔形がベストだとしてそこで固定され、それから変わらないのか?です。
 年とともに落ち着いた叡智のようなものが顔に刻まれていきますよね。「童顔」ではなく「大人」な感じです。「男盛り」とか「大人の女」というイメージです。そりゃあ多少シワが増えたりするかもしれませんが、必ずしも老化や劣化とも言いがたいのでは?ここは個人によって意見や好みが分かれるところだと思います。」
「うん、分かれるだろうねえ」

「その場合、「不老」というのはどういう影響をあたえるのでしょうか?人生を通じて最高に健康ピークを基準にしてそこで固定するのか?「好ましい変化」があるなら尚も変化を続けるのか?」
「や、好ましかったら、変化はするでしょうね」

「じゃ、人によって違うんですか?あくまでも若々しい童顔のままでいたいと思うAさんにおいては童顔固定で、いや渋い大人の魅力を求めたいというBさんの場合は固定せずにある程度まで変化していくと。要は本人が「いい」と思う段階で止まると」
「ま、そういうことね。これはあくまでも皆のためによかれと思ってやってるわけでー」

「これ、途中で気が変わったらどうなるのですか?」
「え?」
「つまり童顔がいいと思ってたAさんも、300歳も童顔やってたらさすがに飽きてきて、もうちょい渋い大人の世界に行きたいわと思ったら、思った時点から変化が始まるのですか?つまり不老の定義は、事後においても変更可能なのか?と」
「いや、その、、、そこはですね、そこはアレですよ、私どもとしては、皆さんのニーズを最大限汲みとってやろうと思ってますよ、そう最大限ね、はい」

「失礼ながら、それでは質問に対するお答えになってないのですが
「は?」

「私どものニーズを最大限汲み取ろうとご努力いただいているとのこと、誠にありがとうございます。
 しかしですね、最大限汲みとった、努力もした、にも関わらずダメなものはダメだったってことはあるわけですよね?
 今聞いているのは、どういう場合がダメでどういう場合が可能なのかの限界線を明らかにすることです。その限界をどう定めるかについてそちら様の対応に誠意があるかどうかではないのです。おわかりになりますか?」
「はあ、まあ、、」
「さて、そこで最大限努力していただいて、その結果、事後においても本人の気分ひとつで「不老」の内容が変わるのか?変わらないのか?どちらですか?」

「で、ですから、消費者の皆様にご納得いただけるような形で、、、」
「ほお、なるほど。消費者の一人としては、事後においても気分一つで変わってくれた方が都合がいいし、納得できます。そして、その納得を得られるような形にすると、こういうことですか?」
「いや、まあ、そ、そういうことですね」
「了解しました。ありがとうございます。では、この点に関しては、「事後においても私の意向一つで変わること」「それを確約保証していただいた」と理解させていただいてよろしいでしょうか?」
「う、、ま、、、まあ、いいでしょう」

「ありがとうございます。事後においても不老の内容は私の一存で変更可能である、と」
「ふう、、、」


遡行性

「では次に、遡行性についてお尋ねします」
「え、なに、それ?てか、まだあるの?」

「たくさんありますよー。なにぶん難しい問題を孕みますので、いたし方ございません
 遡行性とは、過去に遡ることですが、童顔→大人の渋みへの変更はわかります。では、その逆の場合、最初にちょっと渋めにアダルトな顔形を決めておいたのだけど、これも300年もやってると飽きてきた。そろそろキャピキャピなのもやってみたいな〜と思った場合、キャピ顔に戻るのですか?という質問です。いかがですか?」
「や、それは、ダメっしょ〜、それは不老というよりも、若返りじゃないですか」

「年齢遡行は出来ないと」
「それは無理ですね」

「すると、、、ちょっと困ったことになりますね」
「え、なんで?」

「なぜって一方向にしか進まないならですね、キャピ顔を先にやるしかないってことですよね。その逆はないんですから。すると、キャピ顔を1000年やっていい加減うんざりしても、それでもまだキャピってなきゃいけないわけですよ」
「えー、なんで?飽きたら渋顔にいけばいいじゃないですか、先ほどいったようにそれは出来るのですから」

はっはっは、ご冗談を!たかが1000年かそこらで。だって不死でしょう?その「不死」の定義もあとで聞きますけど、理論的に言えばこの宇宙の終焉まで、或いはずっと地球にとどまるとしても太陽が赤色巨星化して住めなくなるのが100億年後とかいいますから、100億年は生きるわけですよ。だとしたら、キャピ50、渋50のイーブンレシピーでやるとしても、キャピ顔を50億年はやらないとペース的にダメなわけでしょう?しかし、童顔ティーンエイジャーを50億年もやってたら、なんぼなんでも飽きますよ。でもそれをしないといけないわけでしょ?」
「いや、ま、、その50億年というのは、ちょっと極端かと、、、」

「いやいやいや「永遠」にくらべたら100億年ごとき一瞬でしょうが?
 ですので、事柄が永遠ベースである以上、区間を区切ってものごとをすすめるというのは、本質的に矛盾するのですよ。だから気分しだいで行ったり来たり〜って方が良いわけですよ。
 人生春秋っていいますけど、若い時、年取った時、それぞれに良さがありますから、随時その良さを味わえるようになってないと間が持たないといいますか、実用性に重大な欠陥を抱えることになると思うのですが、さて、それでも遡行はダメですかね?」
「ちょ、ちょっとそれは、今この場では責任あるご回答はいたしかねるのですが、、、」

本庁照会

「ほお!ではどのような段取りを踏めばご回答いただけるのですか?」
「そ、それは、やはり、その、魔界の本庁の方に問い合わせてみないと、、、」

本社の決裁や確認が必要なのですね、わかります」
「は、はあ、ご理解いただいて恐縮です、、、」

「では、それはそちら様の方で、可及的速やかに本庁へご照会の上ご回答をいただけるということで、さて、次回交渉期日はいつにしましょうか?」
「え、今、契約するのではないのですか?」

はっはっは、ご冗談を。だって本庁照会しないとご回答いただけないんでしょ?契約締結のための基礎資料がないなら、決断なんかできるわけないじゃないじゃないですか。」
「いや、でも、普通、皆さま即断されて、気持よくご契約いただいているのですけどね」
「ほお?」
「ええ、皆さんそうしてらっしゃいますよ!

「ほお、いろいろな方がいるものですね。いや、結構結構!
 様々な個性が百花繚乱のごとく咲き乱れ、多種多様の考え方や個性があるからこそ、我々のこの世界は豊かな奥行きを獲得するわけですな。はっはっは、では百花のハシクレとして私もいささか頑張って個性的にならせていただくとしましょう。これも世のため人のため。いやあ、励まされるような気分ですよ!」
「は、はあ、、、」

「で、次回期日はいつがよろしいですか?」
「あ、その照会してみないと、、、、」

「照会回答の日数が今この場ではわからないと?よろしゅうございます。
 それでは、一応仮ぎめとして2週間後の今日の午後1時にしましょう。なに、仮ぎめです。そちら様の方で照会に時間がかかるとか、急遽予定が入ったとかいう場合はすみやかにご連絡ください。改めて日程調整しましょう。それでよろしいですね?」
「は、はあ、、、」

「あ、あと、ご照会いただけるなら、今のこの場でこの先の質問事項を簡単に申し上げておきますね。まとめて照会しておいて貰えると手間が省けて、そちらも好都合でしょう?」
「は、はあ、そうしていただけると、、、」

進化アップデート

「では、申し上げますが、そのほかの質問事項としては、まず「進化」との関係がございます」
「え、進化?サルから人になるとかいう、あの進化ですか?」
「さようでございます。重大な関係があるかに思料されますので」
「え、ど、どんな関係があるのですか?」

「このまま私が不老不死を頂戴いたしまして、そうですね2億年ほどゴキゲンに生きているとします。しかし、1000年や1万年ならともかく、2億年もあったら人類もどんどん進化していくかと思われます。絶滅してる可能性もありますけど。まあ、運良く生き延びたとして、その経過で新しい環境に適応した個体がどんどん人類の形態を変化させていくでしょう。
 例えば、めちゃくちゃ前頭葉が発達して現代のIQ500くらいが平均になるとか、テレパシーが使えるようになるとか、天使のように翼が生えるとか、、、、まあ、どうなるかわかりませんけど、サルが人間になる程度の落差はあるでしょう。違いますか?」
「そ、そうですよね」

「さて、その場合、私は不老不死によって2億年前の「旧型モデル」のままずっと生きていかないとならないのか?です。これ、結構みじめだと思うのですよ、未来の人類からはサルを見るように扱われるわけですからね」
「いや、まあ、そ、それは不老不死なんですから、、、」

「しょうがない、と?それも悲しい結論ですよねえ。
 いかがでございましょう?そのような顕著な進化が生じた場合は、適宜新しくDNAセットに交換できるというのは、条項に付け加えるわけにはいかないのでしょうか?」
「いや、そ、それは、、、」

「いや、簡単な話だと思うのですけどねえ。ソフトウェアのアップデートみたいなものですよ。アフターケアとしては当然かと思われるのですけどね。どっかにアクセスして新型DNAセットをダウンロードしてくればいいとか、自動でアップグレードしてくれるとか。それにですね、進化は歩みが遅いですよ。せいぜいが10万年に一回くらいやっておけば十分かと思われます。そちら様にとっても、さほど手間のかかる話ではないかと、、、
「あうう、、こ、これも魔界の、、、」

「本庁照会ですね!はい、お手数ですが、よろしくお願いいたします」
「は、はあ、やっときます」
ご無理いいます。恐縮です!
「・・・」

「では、次に、、」
「ま、まだあるんですか?」
「まだ「不老」ですからねえ。このあと「不死」もありますから、、、」
「不死は、どんな点が問題なので、、、?」



不死編 

「「不死」の疑問点ですが、これもたくさんあるのですが、一番大きな問題は、死にたくなったら死ねるのか?ですね。」
「いや、不死なんだから、それは無理かと、、」

「はい、それが無理なら、残念ながらこの話はなかったことにしましょう」
「え!?いいんですか?不老不死ですよ、皆が欲しがる」

「でも死ねないんだったら、too muchですよ。なにしろ「永遠」ですよ、永遠。1億年だろうが、1000兆年だろうが、ずーっと生きてなきゃいけないわけでしょう?そんなに生きててやることはないですよ。でも死ねない、、、というのは苦痛以外の何ものでもないですから」

「で、では、どのような条件だったらご納得いただけるので?」
「簡単ですよ!「死なない」の前に「意に反して」とたった五文字を挿入していただければいいだけです」
「え、それだけ?」

「はい、それだけです。簡単でしょう?
 大体なんで死ぬのがイヤかというと、死にたくないのに死ななきゃいけないこと、つまりエッセンスを抽出したら「自分の意思に反する部分」がイヤなわけですよ。死に限らずなんでもそうでしょう。食べたくないのに食べなきゃいけない給食とか。だから、死ぬか死なないかも完全自分の意思によると。もういいや、十分だってなったらいつでも死ねると」

「うう、、そ、それは、、、」
「即答が難しいのは予想しております。今お答えにならなくても結構ですよ。
 それにね、そうしないとおかしな話になっちゃいますよ〜?

「え、何がおかしいのですか?」
「だってね、仮に絶対に死ねないとなると、1兆年くらいたったときどうなっているか?です。その頃には地球はおろか太陽系も、この宇宙すらも終焉を迎えているかと思います。いろいろな宇宙論がありますが、いずれどんどん縮小して全宇宙がブラックホール化して、やがて極小の点になって、そしてまた新たなビッグバンがあって、、、というモデルの場合、そんなブラックホールやビッグバンをやってる最中にも私は「生きてる」わけですよね?それってどういう状態で「生きてる」んですか?」

「えと、それは、、、」
「そもそも「死なない」というのは、何がどう死なないのですか?完全健康体状態のDNAをそっくりそのまま再現した肉体条件で永続するという意味ですか?」
「まあ、そうですけど、、、」

「要するに普通の人間の状態でいるってことですけど、ブラックホールになっちゃったらそんなの物理的に無理じゃないですか?それともブラックホールに入っても縮まない、酸素がゼロでもなぜか生きてる、大気温度が一億度になっても生きてるってことですか?それは無理があるでしょう?それは、DNAの健康状態なんて生易しい改変では無理で、もう人間以外のスーパー生物になるくらいでないと無理でしょう?」
「はあ、、」

「これは「不死のメカニズム」にもかかわります。どういう段取りで死ななくなるのか?
 一般の不老不死なら私にも推測がつきます。遺伝子複写の完全性をなんらかの方法で確保すればいいわけですよね?具体的には一回DNAコピーするとちょっとずつすり減っていくテロメアをすり減らないようにするとか、そのあたりでしょう?」
「いや、それは、、ちょっとお答えするわけには、、」
企業秘密ですからね〜、わかります。いいですよ、お答えにならなくても」
「はあ、ご理解いただいて、、、」

遺伝子複写と遺伝子再生

「でもね、遺伝子コピーを完全に確保しても、それだけではダメですよ」
「なんでですか?」
「だって複写の原本が壊れちゃったらダメでしょ?遺伝子の「ゼロから再生」が出来ないとダメですよ」
「どういう意味ですか?」

「人間の腕は一旦切断したらもう生えてきませんよね。ヒトデやトカゲのようにはいかない。それは再生できないからです。それが人間の現状の健康なDNAの状態でしょう。ケガをした皮膚がまた再生するのは、多分、再生のもとになる原本情報がどっかにあるからでしょう?それをつかって複写すればいいけど、原本ごと壊れちゃった、なくなっちゃったらもう終わりだと。
 例えば、不老不死になったとしても、マグナム弾みたいなもので頭を撃ち抜かれて、首から上が完全に消滅したら、首から上を再生することは不可能ですよね。だから、その状態で「死なない」とかいっても、無理でしょう?そういう場合にはどうなるんですか?」

「あ、いや、その場合は再生しますよ!」
「え、出来るんですか?再生?」

「出来ますよ!悪魔を舐めないでください!そうでないと、いくら不老不死といっても事故ったらそれまでって話になっちゃいますからね。」
「なんで再生できるんですか、原本もないじゃないですか?」

「原本情報はあるのですよ。困ったな、あんまりこのあたりの話をすると上司に叱られるのですけど、なにぶんご内密に
「もちろんです、口は固いほうなのでご安心を。で、どこに原本情報があるんですか?」

「それは、身体のどっかとしか申し上げられないのですが、一式完全セットを人間はもってるんですよ」
「一式セットを持っている、、、あ、わかった!生殖細胞ですね!うーむ、なるほど、確かに。一式セットを持ってなくてどうして人間まるごと再生(生殖)が出来るのか?ってことですよね。」

「まあ、どことは言いませんが、とにかく身体のどっかにある一式情報を取ってきて、それを使って消失した部分を再生することは可能です。ただし、ややこしい手続きをやるので、多少お時間はみていただかないとならりませんが」
「なるほど時間はかかるでしょうねえ。その時間というのは、例えば指先をケガしたのが段々治っていくくらいの時間で、消失した頭部が戻るって理解でいいですかね?1年か2年はかかりそうですけど」
「もうちょっと早いですけど、でも、そんな10秒かそこらで戻るってことはないですけど」

痛覚神経

「あー、そうするとまた新しい疑問が、、、」
「はい?」

「再生している間って、痛かったり苦しかったりするんですか?つまり痛覚神経は生きてるんですか?
 完全体に再生するということは、痛覚神経も再生されるということで、どんどん再生されるにしたがって痛くなるとか、ずっと痛いままとか、それはイヤだなあ」
「はあ、痛覚神経などですか、、うーむ」

「これ大事な問題なんですよ。いくら死なない、再生しまっせとかいっても、死んで当然くらいの大ケガの状態における痛みや苦しみがかなり長い間続くわけでしょう?めちゃくちゃしんどいじゃないですか?」
「うーん」

「これはまた全然別の事例なんですけど、例えばマファイアの抗争に巻き込まれて、コンクリートのドラム缶で東京湾に沈められたらどうなるんですか?不老不死でも別に怪力になるわけではないので、コンクリートを叩き割ることは出来ないわけですから、コンクリが自然に崩壊したりするまで、数十年から数百年以上かかると思いますが、ずっと海の中で呼吸ができないわけですよ。そこで「死なない」ってどういうこと?です」
「あー、ですから、窒息死の場合は脳に酸素がいかないので脳細胞が死滅して、それで全身が死んでいくわけですよね。だから死滅した脳細胞も、どんどん復活再生するということです」
「でも復活しても、相変わらず酸素がないからまた死にますよね。で、死んだらまた再生し、再生したらまた死ぬ、この繰り返しを延々数百年やってるってことですか?」
「あれ、そうなるかな、、、」

「しっかりしてくださいよ、メチャクチャ大事ですよ、ここ。で、その場合も痛覚神経などが生きてたら、私は数百年間ずーっと絶え間なく溺れ死ぬ苦痛を味わい続けるってことになっちゃいますよ?それこそ死んだ方がよっぽどマシですよ。」
「うーん」

「それにですね、ゴハンはどうするんですか、ゴハン。DNA再生とか複写といってもエネルギーがいるでしょう?ずっと海の底でゴハン食べられないと、窒息は復活するとしても餓死しますよ。餓死したとしてもまた復活して、でもまた餓死してって、これもエンドレスに繰り返すんですか?てか、エネルギーがないのにどうやって複写とかできるんですか?」
「うーん、おかしいな、、、、」

「ねえ、おかしいでしょう?「不死」の定義とか具体的内容って、実はかなり難しいんですよ。そのあたりキチッとしたご説明をいただかないと、私としても決めるに決められないわけですよ」
「そ、そうですね、これもまた本庁に、、、」

「はい、ご照会ください。えーと、これで照会事項が何件になりましたか?」
「え、えーと、、、け、けっこう増えてきて、、」

「そうですよね〜、大変ですよね」

逆オファー

「いかがなもんでしょう?細かい論点についてイチイチ照会を掛けていただくよりは、こちらの方で「こうなんだったらいいな〜」という一つの理想を、逆オファーとしてお伝えしますから、それを上にあげてお諮りいただくというのは?」
「ぎゃ、逆オファーですか?そういうことの前例が、、、、」

「はっはっは、悪魔さまともあろうお方が、なにをおっしゃいますやら。「前例」などとと、まるで人間界の萎びた官僚みたいなことを、あっはははは、お戯れを
「いや、しかし、、、」

まあまあまあ、聞いてくださいよ。消費者サイドから分かりやすくニーズをまとめ上げるのですから、マーケティング・リサーチでもこんな親切なことをしてくれる消費者なんかいませんよ!聞いて損はないですよ。」
「はあ、じゃあ、まあ、聞くだけなら、、、、」

「ありがとうございます!当方の要求は非常にシンプルです。大きく2点、煎じ詰めればたった1点だけですよ。
 ”人間の自律的意思を強化すること”です。
 たったこれだけです。ねえ、簡単でしょう?」

「ちょっ、ちょっと意味がわからないのですけど、意思の強い人になりたいってことですか?」

「あっははは、ナイスな大ボケですね〜、さすが魔界のセンスが光ってますね。
 で、冗談はさておき、自律的意思の強化というのはこういうことです。

 (1)遺伝子の完全複写や再生の有無、タイミング、そしてどの程度やるかについても完全に自由意思によってコントロールできるようにする
 (2)痛覚神経のオンオフ、さらには自意識のオンオフについても完全自由意思によってできるようにする
 たったこの2点ですよ。」

「えーと、(1)は先ほどおっしゃられた点と関わるわけですね、キャピ顔に戻りたいとか、その種の、、、」
「さすがでございますね〜、いやあ、そちら様のように聡明な方は話が早いから楽ですよ、はっはっは。

「要は自分の思うがままに老化したり、若返ったりしたいということですよ。だって自由意思で老化を進めることはお約束いただいたでしょう?あとは逆行遡行する点ですが、これは照会待ちだと。そうですよね?
 もし遡行もお認めいただけるならばですね、要するに行ったり来たりが自由に出来るってことですよね?これは大事なことですよ。」

「若いだけだったらダメなんですか?」
「一般論としてはそれでいいですよ。でも、途方も無く長い人生になりそうですからねー、おそらく結婚だって数百回くらいはあるでしょう。その場合、相手だけ年取っていって、自分はいつまでもキャピのまんまというのは、やっぱまずいですよ。ともに老化していかないと話も通じませんしね。第一キモいじゃないですか?50歳くらいで十代の容貌くらいはまだ美魔女的に許されるかもしれないけど、90代でまだキャピキャピしてたらブキミでしょう?人格疑われますし、社会生活営みにくいですよ。」
「なるほど」

「ですから、ある時点においては自然状態で老けていくままにして、潮時を見計らって、遺伝子再生をオンにして若返っていって、またどっかで別の人生をやると。そうでもしないと、周囲の皆はあっという間に死んじゃうんだからつまらんですよ。バケモノ呼ばわりされそうだし。」
「うーん」

「それを別の表現でいえば、遺伝子再生のタイミングや程度については完全自由意思によってコントロール可能にすると、それだけでいいわけです」

「で、(2)の痛覚神経と自意識は、先ほどのコンクリ事例などを念頭においているわけですね?」
「いかにも。自然再生するといっても、時間がかかり、その間絶え間なく苦痛が襲ってくるのではたまりませんからね。それに再生条件が整わなかったら、いくら待っても再生しないわけですよ。幸い時間は沢山ありますから、まあ1万年も待ってたら、なんか事情の変化も生じるとは思いますし、再生条件も整うでしょう。でもそれまでヒマですし痛いのもイヤですしね。だったら、ある程度再生が整うまで、痛みをカットオフでき、且つ意識もなくなってしまえば、ちょっと気を失ってる間に1万年経ちました、もとに戻りましたってことにもなるわけですよ。」
「なるほど、ああ、だから自律的意思、、、」

「そうです、自律的意思の強化していただきたいと。ああ、あと遺伝子新型ダウンロードですけど、これもお願いしますね〜。でも、まあ、これは副次的なことで、メインには自律的意思による身体機能の完全管理です。」

「わかりました、、、さっそく本庁に照会をかけてみたいと思います」
「お願いしますね。でも、多分OKが出ると思いますよ」

「え、なんでわかるんですか?」
「だって、これ悪魔くんとかいってるけど、”悪魔”がなんでこんなことやるんですか?まあ悪魔というのは単なる通称でしょうし、どこぞのラボ的なプロジェクトとしてなにかを意図しておられるのでしょう。もちろんその概要は私がごとき人間風情に理解できるわけもありません。でもね・・・・」

「でも、なんですか?」
「なんか知らないけど、このプロジェクトには人間の「意思」というのが大きなポイントをなしているように思うのですよ」

「なんでそう思うのですか?」
「だってそうでしょう?そうでなければ、なぜ最初に私に「話をもちかける」という形になるのですか?どうして私の承諾が欲しいのですか?ラボの実験だったら、ラットのような私の意向なんぞお構いなしに勝手にやるでしょう。それをわざわざ聞いているというのは、何故か?ですよ。私の「自由意思」というものが、この実験なりプロジェクトなりに何やら決定的な因子を構成するんだってことでしょう?
 もともと自由意思に力点をおいたプロジェクトだとしたら、その自由意思をさらに強化する私の逆オファーだって認めやすいんじゃないですかね?まあ、これは勝手な推測ですけどね」
「いや、そ、そのへんは私のような末端には知らされていないわけで、、、、」

「いやあ、現場はえてしてそういうものですよ。本社はいつも一方通行、しわ寄せは常に現場。そんなもんですよ。辛いお立場、お察し申し上げます。
「はあ、ありがとうございます、てか、人間から慰められたのは初めてですね」

諸事項

「では、今回はこのくらいにして、また二週間後に。まあ他にもイロイロあるのですけど、細かな事務事項ですから、後日でいいでしょう。」
「ま、まだあるんですか?」

「いやなに、ルーチンみたいな些末なことですよ。例えば、そうですね本件に関する特殊なトピックでいえば、クーリングオフですね。とりあえず10年とか30年ほど「試用期間」を定めていただいて、本当に合意内容が機能するかどうかを確かめたいですね。まあ、腕でもチョン切って生えてくるか見ればいいんですけど、痛いのはイヤですから、まあ永住脱毛して生えてくるかどうか見るとか、やり方はなんぼでも。年齢遡行も10−30年ほどお時間をいただければ、あらかたのところはわかるでしょう。それがクーリングオフの一点目で、、、」
「に、二点目は?」
「もういいやって死んじゃったあと、「やっぱ死ぬのヤメ!」って撤回はできるのか?です。14日以内だったら出来るとか、火葬されちゃった後からでも灰やお骨のなかの遺伝子の残骸から再生できるのか、、とか」
「はあ、そ、それは、、、」

「あとはほんとルーチンで、、、天変地異条項とか、まあ人間界の戦争とか地震とかは些細なことだからいいとして、天上界や魔界にかかわる騒動が起きた場合、堕天使ルシファーが捲土重来で神の軍団とリターンマッチをやるような場合、この契約はどうなってしまうのか?とか、魔界に大きな業界変動が起きた場合、契約上の地位の譲渡などはどうなるのか?とか、後日トラブルがあった場合の連絡先とか、テクサポートとか、なんらかの補修が必要な場合の保証期間であるとか、あ、あと合意管轄によって裁判所も決めないといけませんけど、東京地裁なんかじゃダメですよね?人間界の法律システムでは事件性も争訟性も否定されるでしょうし、第一強制執行力がないですからね、そのあたりのこととか、、、、、」
「はあ、、、」

「ま、ささいなことですよ、大したことありません」
「そ、そうですか?」
「このあたりはね、そう本質的なことではありませんから、どうでもいいです」

「はあ、と、ところで、あなたは不老不死になったらどうやって生きていくのですか?」

「私ですか?勉強しますね」
「べ、勉強ですか?」

「はい、とりあえず医師になって、その他遺伝子工学とか、生物学、物理学、化学、、、、そのへん全部。」
「な、なぜですか?もうご自身は不老不死なんですから、必要ないでしょう?」

「私個人はね。でも、知り合いに一人いるんですよ。出生時の事故で脳性麻痺になってしまって、生まれてから今まで首から下が一切動かせない子が。」
「はあ?」
「その子に自由になってもらいたいなあ。いや、お話していて、不老不死が魔界のミラクルパワーでどかーんってもんじゃなくて、今現存する生物学的なメカニズムをベースにして、それをちょっと変更するだけだってのは当たりがつきましたから。ということは、そちら様のお力にすがらなくても、自分らで努力すればある程度は出来るのではないか、特に遺伝子情報のゼロから再生が出来るなら、不治の病も不治ではなくなる、眼の見えない人でも見えるようになったり、認知症でも海馬細胞の再生をできるなら、記憶再生は無理でも機能再生はできそうですからね」
「ほお、、、」
「幸い、私、時間だけは腐るほどありますから。一人の人間が300年、1000年と勉強を続けたら、いったいどこまでいけるのか?それも興味あります。それだけやってりゃノーベル賞の10個やそこら、パテントの100個くらい取れるでしょうから、食うには困らんでしょうしね。」


「それにね、本庁は、そういうことをしたいんじゃないですか?これは当て推量なんですけど」
「え、どういうことですか?」

「”魔界”というのは何を意味するのかわかりませんけど、この世界の生物界のメカニズム、寿命とか進化とかそこらへんをやっておられるのでしょう?」
「いや、私の口からはなんとも」

「いやいやそれが現場ですよ、それはいいですよ。
ただ、生物のコンセプトしては2つありますよね?一つは個体の寿命を思いっきり長くする方法と、個体の寿命を短くしてどんどん生殖による遺伝子改良をはかるやりかた。100年売れるロングライフの商品を作るか、毎年ちゃっちゃと変更ヴァージョンを出すか?どっちかですよ。
で、これまでの人類は、その中間というか、ちゃっちゃ変更ヴァージョンにより近いのかな?なんせ自然状態では寿命20年くらいがデフォルトですからね。問題は、なぜそうしたか?です。
やっぱヒヨワだからだと思うのですよ、ホモ・サピエンスという種が。環境変わるとすぐ死んじゃう。ちょっと氷河期がぶり返したくらいでもう絶滅の危機になる。だからチャッチャと早いサイクルで「新製品」を出すという戦略になったと思うのです。

ところが知恵がついてきて、環境を改変できるようになって寿命も伸びました。80年くらい生きるようになってきた。そうなると話も違ってくる。個体の寿命を短くしてチャッチャ新製品戦略から、個体の寿命を伸ばしてロングライフ商品を作るって方が向いているんではないか。知識も集積して習うだけで30年くらいかかるようになってきたし、死んだらまたゼロからやりなおしの方がロスが大きくなってきた。だから、個体のロングライフ化も試験的に模索してみようか?と。
その場合、肉体的に何がどう強くなったわけではないですよ。むしろ原始時代よりもヒヨワになってる。圧倒的に伸びているのは知的領域です。つまりは自意識とか記憶体系とか意思部分です。

ということで自由意思を基軸としたロングライフ商品開発の一環として、そちら様が当方までご足労頂いているのではないか?その上でわざわざ私の自由意思による承諾をとりつけようとしているのではないか?ということです。

あっははは、まあ、夢物語ですよ!私のような人類風情に、そちら様の遠大なお志がわかるわけありませんよ!燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや、ですよ。まあ、哀れな人間の燕雀的なたわごととして、ご笑殺くださいな。。

で、次回期日ですが、二週間後の今日、時刻は、今日と同じくらいでよろしいですか?
おそらくは夢のなかでお会いするかと思いますが、よいお返事を期待しています。」






文責:田村



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