今週の1枚(05.06.13)
写真は、Chatswood駅の全面リニューアル工事現場。ホームは従来の位置にありますが、これまでの駅ビルが完全に取り壊されています。
先週に引き続いて現地の新聞ネタです。最近この種のネタが多いですな。まあ、本道でもあるのですが。
現地の新聞シドニーモーニングヘラルドでは、この2週間かなり力を入れてキャンペーンをやっています。内容は、「どうする?どうなる?シドニー」みたいなもので、あらゆる点で飽和+危機的状態になっているシドニーのインフラを、百年の計で徹底的にオーバーホールするべきだという論旨です。もう警鐘を鳴らすというか、警鐘を乱打するばかりの勢いで、「このままじゃダメだ!」「危機だ」と騒いでいるわけですね。
何でそんなに大騒ぎしなきゃいけないかというと、要するに、シドニーに人が増えているわけです。それも「週に1000人」というくらい、とんでもない勢いで増えつづけています。正確には週に7−800人くらいだろうけど、キャッチフレーズ的に週に1000人と言われています。日本の場合は、殆ど人口の急増は止まり、これから(2025年でしたっけ)徐々に人口が減っていくということ、下り坂になりかかっているわけですが、オーストラリア、特にシドニーは日の出の勢いで人が増えてます。
人が減ったら減ったら過疎問題とか少子化問題などがありますが、人が増えたら増えたで、あらゆる点で問題が生じてきます。殆ど全てのインフラが問題を生じると言っていいでしょう。空気、土地、水、交通、食糧、エネルギー。人が増えれば住む場所が足りなくなります。不動産の高騰を招きますし、新たに宅地造成しなくてはなりません。さらに、もともとしょぼかった公共交通機関が益々足りなくなります。自動車が増えます。道路渋滞が起きます。排気ガスによるスモッグが増えます。水が足りなくなります。これらの基本的な社会インフラは、一朝一夕に整えるわけにはいきません。とんでもなく巨額の費用もかかるし、また時間も掛かります。ハーバーブリッジの下の海底トンネルをもう一本増やそうという話もありますが、こんなの今月言い出して来月できるって話ではありません。最終的に竣工するのは10年、20年後になります。だからこそ皆さん騒いでいるわけで、今やらなければ間に合わなくなる、これまでのような調子でやってたらダメだと。
"Sydney groans under the weight of its rapidly growing population; public transport is chaotic, unreliable and sometimes unsafe; roads are congested; impossible demands cause energy, land, housing and water shortages."
急速に増加する人口の重みで、シドニーは今うめき声を上げている。公共交通機関は迷走を続けており、信頼できないばかりか、時として安全ですらない。道路渋滞はあちこちに広がり、電気エネルギーや不動産需要の増大はこれを満たすのが不可能なほどである。水不足も深刻さを増す一方である。
今回、適宜翻訳して紹介する記事は、2005年5月30日の”Crowded, polluted and a mess ? the fix list for Sydney”という総論的な記事です。以下各論的なアーティクルが十数あるのですが、全部を紹介している余裕はないので、ざっと概観できる総論部分を訳しておきます。なお、この記事ですけど、重複個所が多いので、適宜編集してまとめておきました。
このエッセイでも、日々雑感として、どんどん道路渋滞が増えているとか、取水制限が続いているとか、人が際限なく増えつづけているとか、生活実感として書いてきました。鉄道網についてはESSAY 143/Sydney Rail Chaos で取り上げもしました。しかし、これだけ網羅的にリストアップしたものはなかったので、いい参考になると思って載せておきます。
なお、はじめに日本と比較しやすいように言っておくと、一般に「シドニー」あるいはGreater Sydney(シドニー周辺エリア、シドニー都市圏)と呼ばれるエリアは日本人がなんとなく考えるよりも広いです。シドニーシティからブルーマウンテンの麓であるペンリスまで直線距離で約50キロ。この長さを半径として分度器のような半円形(残り半分は海)を描けばシドニーエリアです。正確に言えば北方面はちょっと短くセントラルコースと呼ばれるエリアまで含んでしまいますが、南西エリアはキャンベルタウンやキャムデンよりもさらに広がろうとしてます。
50キロというのは、東京駅から八王子をこえ青梅あたり、あるいは東京から横浜を越えて湘南エリアにまで達します。中京圏では名古屋駅を起点にすれば岡崎と豊橋の間、東へは津の手前、北には岐阜市も関市をも越えます。関西圏では大阪駅から京都の北山くらいで50キロ、吉野山の麓にまで達し、西には明石を超えます。九州エリアだったら福岡から久留米を通り越して佐賀市、柳川市くらいです。
まあ、地形も状況も違うので直線距離で単純比較は出来ませんが、首都圏全域とは言わないまでも、関西圏がすっぽり入るくらいの広がりがあります。シドニーは広いのです。距離だけで言えば、日本の首都圏の通勤よりももっと遠距離から通勤している人も沢山います。ニューカッスルやウーロンゴンから通ってる人もいる。ニューカッスルなんて東京=静岡くらいあります。
余談ですが、シドニーに留学される方とか、「学校から歩いていけるところに住みたい」とか皆さんおっしゃいますが、首都圏をすら優に超える通勤圏をもつシドニーでそれを求めるのは、東京都心部で「会社から歩いていけるところに住みたい」というくらいの「世迷いごと」レベルだったりします。もっとも、住宅事情や都市構造が違うシドニーではそれも又可能だったりするのですが、それでも地元民の距離感覚から異様にかけ離れた感覚だということは知っておいていいでしょう。
さて、これだけの広さのエリアに、人口はざっと400万人。正確には410万人だったか。これはどのくらいの人口規模かというと、日本の市町村でいえば東京23区の840万人に継ぐ第二位の多さになります。日本の場合、二位は横浜市355万、以下大阪市263万、名古屋市220万、札幌市187万、神戸市152万、京都市147万、福岡市139万です。ただ広さが全然違うのでそのまま単純比較は出来ないのですが、そうですね、横浜市の人口だけが、首都圏にばーっと散らばってると考えたら、大体のシドニーの規模が分かると思います(わからんか?)。
日本の首都圏人口は大雑把に3000万人とか言われます。シドニーは首都圏ほど広くはないですが、それに400万くらいだったら、日本の感覚でいえばかなりスカスカです。人口密度10分の1とは言わないまでも、5分の1以下でしょう。オーストラリア全体でいえば、日本の人口密度比率は100対1といわれるくらい超スカスカですから、オーストラリアの基準でいえば、いかにシドニーが超過密都市なのか分かると思います。しかし、それでも日本の感覚でいえば、かなりスカスカ。東京や横浜を歩いて、行き交う人の数を80%減らしてみたら(5人が1人になるように)したら、シドニーでしょうか。
じゃあ、問題ないじゃんと思うでしょう?こんなにゆったりした都市空間で何が問題なのか?と。
一つは、それが問題なんです。人口400万人くらいの都市は世界に掃いて捨てるほどありますが、たった400万ぽっちの人口でありながら、これだけ広範囲にスプロールして(広がって)いる都市は世界でも珍しいそうです。400万程度だったら、キュッと凝縮すればもっと狭いエリアに住めるし、実際他の都市は(日本も含めて)そうしている。際限なく都市圏が広がっていく、この「スプロール」こそが、シドニーの問題でもあると思います。
いいじゃん、広がって何が悪いの?と思うでしょう。そう、広がってるから、スカスカであり、都心からわずか車で10分というエリアで平屋や二階屋の庭付き低層住宅が立ち並び、緑豊かな街路や公園が広がっています。ボンダイジャンクションという東エリアの中心商業地のすぐ隣には、ボンダイジャンクションがすっぽり10個くらい収まるくらいのセンテニアルパークやクィーンズパークがあります。ノースエリアなどは、高いところから見ると「森の中に町がある」ような佇まいです。素晴らしいじゃん!って思うでしょう?素晴らしいけど、素晴らしくないこともあるです。
これだけ人々が散らばって住んでいると、それだけインフラ整備をする範囲が広くなるわけです。横浜市の税収だけで、首都圏全域の水道、電気、道路網、鉄道網、、、全てを整備しなきゃいかんのですよ。刑務所や軍隊のように一箇所にグシャってまとまっていてくれたら、水道の配管も、道路整備も、送電も楽ですよ。でも散らばっているのです。遠方地の庭付き住宅から延々車を飛ばして通勤や買い物をするから、年がら年中道路には車が存在することになります。
そして、第二の問題として、一貫して伸びつづける人口。日本の戦後の成長は、オイルショックあたりでとりあえず止まりましたけど、あれが止まらずに現在に至るまでガンガン進行しつづけ、将来も進行しつづけるってことです。これは恐怖ですよ。歴代政府の無策を詰る声が高いですけど、政府の弁明をするわけじゃないけど、これだけ人口が伸びつづけたら、どんな計画も破綻しますよ。道路拡幅がやっと済んだと思ったら、もう渋滞が始まっているという。いたちごっこです。
もともと200歳程度の若い国、若い町です。シドニーのロックスにキャプテンクックが上陸した年には、一冬で人口のかなりの部分が死んだといわれるような苦難の開拓民の末裔です。日本の北海道に事情は似てますが、違うのは本国まで船で1−2年かかるということです。辺境の宇宙開発みたいもんです。都市計画もへったくれもない生きるか死ぬかのサバイバルから街づくりが始まってますし、日本のように戦争で焦土になって都市計画がやりやすくなったということもないです。もう一貫してツギハギに継ぐツギハギのパッチワークでこれまでしのいできたのだと思いますが、「もう、あかん」というわけでしょう。ここらで一発、根本的にやり直さないとならんのとちゃうか?と、そういう話になっているわけですね。
以上、前提的な前フリでした。
以下、記事の編集&翻訳です。
シドニーの水源のワラガンバダムの貯水量はついに40%を切った。3年越しの旱魃で水資源が不足し、市民が1年以上取水制限を受けているというのに、水道施設は老朽化が激しく、全水量の11%は水道パイプから無駄に漏出している。
ろくすっぽ時間どおり来ない公共交通機関への信頼は日増しに低下し、その利用者数は激減といっていいくらいである。昨年だけでシドニーの鉄道網はのべ600万人の利用客を失った。50年前、市民の半数は通勤の足として公共交通機関を利用していたが、それが今ではわずか10.6%にまで低下している。ロンドンにおいては、10年前に28.4%だった利用客を34%までに増加させることに成功している。要はやり方なのだ、政策なのだ。
この10年、シドニーの人口は54万人も増えているのに、ウィークデーにおける公共交通機関利用客はわずか6万9000人しか増えていない。市民の電車・バス離れに呼応するように、先日発表された州予算も、公共交通機関予算は前年度比3%減になっている。しかし、これでは悪循環である。
市民が電車・バス離れは、同時に自動車の増加を意味する。去年一年だけで、NSW州では、31万3654台の新車が登録され(1997年比でも14.5%の増加)、そのうちの3分の2はシドニーである。この傾向はさらに激しくなり、2020年までに自動車数は、今の3分の1増になる見込みである。
シドニー410万人の市民は、週日において平均して3.78トリップする。そして、車利用者は毎年15%づつ増加している。不動産価格の高額化と供給の少なさにより、人々はより遠隔地に住まざるを得なくなるからであり、また人々は家から離れた学校を選ぶ傾向にあるからである。
これは単純に車の数が増えるだけを意味しない。車を利用している時間の増加、つまり純粋に道路上に存在する車の数と時間の増大を意味する。遠隔地まで車で行けば、それだけ長く車に乗ることになり、道路には車が溢れかえることになる。そして、これは排気ガスの増大と空気汚染を意味する。
専門家が提唱する鉄道システム充実施策を、政府はその5%しか予算を割り振っていない。結果、金曜の晩になれば、セントラル駅からサーキュラーキーまでバスで行こうとしたら、歩いた方が早いことになる。ある専門家の主張によれば、鉄道は1時間に5万人の輸送能力があり、これは道路の20倍にあたる。ゆえに世界の大都市はいずれも鉄道ネットワークを都市計画のベースに据える。仮に20万の通勤客を鉄道輸送に振り替えることが出来たとするならば、それは高速道路の65車線分、782ヘクタールの駐車場を節約することが出来る。
新しい輸送システムとして期待されていた、ライトレール(チンチン電車みたいなもの)の延長プランは、ほとんどそのまま放置されているし、実際、利用客の低下に苦しんでいる。
政府がやってることもチグハグだ。昨年、ニューカッスル方面の路線を廃止したと思ったら、同エリアは将来的に人口増加エリアになると言う。バス、電車、フェリーの共通チケット(トラベルパスではなく)は長く論じられながらも未だに実現していない。昨年、電車の本数はむしろ削減された(運転者数の減少により)。最大の人口増加エリア=北西部のベッドタウンでは、今後25年にわたって7万軒の新築が見込まれているが、未だに新しい路線の発表はない。チャッツウッド=パラマッタ路線は、予想を越える費用の増加によって頓挫している。マンリー以北の北部海岸は、相変わらず公共交通機関不毛の土地だ。比較的住民の車の保有率が低いイースタンサバーブにおいても、ボンダイジャンクション駅からの路線延長計画は、どっかにいってしまったようだ。
こんな議論をしている間にも、シドニーでは毎日40件の家が新築され、新たに110人がシドニーの住人となっている。状況は日増しに悪化しているのである。
人口
毎週ざっと100-110人が新たにシドニーの住人になっている。この傾向はこれから25年は変わらないだろうという。
高齢化の問題もある。2012年には、65歳人口が15歳以下人口を上回ることになる。家のデザインを、より高齢者に住みやすいエルダリー・フレンドリーな方向に進むだろう。
政府は、新住人のうち70%は従来の家屋に住むだろうと試算しているが、一世帯あたりの人口はむしろ減少している。過去25年で、世帯あたり2.9人平均から2.7人平均になっている。
新興住宅地/New Land
不動産の払底、値上がり期待、人口増加という要因は、一般市民からマイホームを奪い去る結果になっている。シドニー西部の平均的住宅価格は37万ドルである。この価格の住宅を購入しようと思えば、世帯年収は8-9万ドルなければならないことになるが、これは市民の年収のメディアン値(中央値、平均ではなく、データを横に並べてちょうど真ん中に来る値)よりも70%も高額である。高騰する不動産価格が、廻りまわって熟練労働者の不足につながっている。警官でいえば巡査部長のサラリーは6万7000ドルから始まり、年季のはいった教師の年収は6万5000ドル程度である。
年間1万区画分の新住宅用地が求められているのに、放出されたのは4500区画に過ぎず、これがまた住宅価格を押し上げる結果になっている。遅まきながら政府も新住宅用地プランを提示した。Rouse Hill付近の北西エリアとBringelly付近の南西エリアに、新たに16万世帯分の新区画を計画している。これらの新ベッドタウンは、古い様式の町並みをモデルにし、商店街が並ぶ目抜き通りを予定し、マンションも高層ではなく、せいぜい中層どまりにし、またエリアによって二階家までの高さ制限をする。また、省エネのために、新しい建築基準を設定する。これらのベッドタウンが完成するまでに、公共交通機関を始めとする各種インフラを整備する予定だ。
旧来の住宅地/OLD LAND
現在あるサバーブにも、2030年までには新たに50万人の人口を居住させる必要がある。マンションなどの開発は、駅や幹線道路周辺に限定される。少しでも道路渋滞を緩和するためだ。幹線道路を再整備することは、人口増加分の7割を吸収しなければならない従来のサバーブにとっては必要不可欠なことである。
商業地域をそのエリアの中心部分に限定することも必要だろうし、旧来からのサバーブを一新させる必要もあろう。パラマッタロード、カンタベリーロード、そしてヒュームハイウェイの一部を、今の万年渋滞幹線道路から、住宅地と商業地がほどよくミックスするようにアレンジし直すべきだろう。
空港とシティの間のエリアも、上手に再開発すれば、シティ人口の増大にうまく対応する受け皿になるだろう。ノースシドニーからノースライドというハイテク企業が比較的集まっているエリアにも、適切な公共交通機関が必要だろう。
職場と中心商業エリア/Jobs and main centres
シドニーの職場は広範囲にわたっている。これがスプロール現象と交通機関の麻痺の一要因となっている。パラマッタ、ノースシドニー、そしてシティには、全職の4分の1程度しか集まっていない。これらのエリアは人口減少地帯であり、それがまた問題なのだ。職場が広範囲にわたって散在し、その散在する職場にあらゆるエリアから通勤しようとするため、交通の流れにメリハリというものがなく、なにをどう整備すればいいのか分からなくなっている。
2030年までに新たに60万人の新規雇用が見込まれているが、これらは効率的なインフラと公共交通機関の接続の良い、各エリアの中心地に存在することが期待される。これから6年の間に、シティにおいてはさらに200万平米のオフィスフロア=これは現在のパラマッタの市街地のものと同規模である=が求められている。専門家は、シドニーには大きなショッピングセンターがあと17箇所必要であると指摘している。
公共交通機関/Public transport
シドニーの鉄道網にはこれまで10億ドル以上の予算が注ぎ込まれているが、それらは主として車両の向上、ダイヤどおりの運行を目指して使われている。ダイヤ通りの運行=去年のある日などはダイヤ通りにきた電車は一本もなかった。予定運行率ゼロである。それは極端な例にしても、平均しても滅多に予定運行率60%を超えないのだ。
これまでの政府の施策は、古典的なゴールの位置を動かすような見せ掛けの解決だった(classic goal-shifting exercise)。昨年9月に実施された新しい時刻表においては、オンタイムかどうかの査定基準をゆるくしているし、また結果的に移動のための所用時間は増大している。
鉄道関係のエキスパート達は、あと15年もすれば現在の鉄道網の完全に破綻状態に陥るのは必至であるとし、そのために種々の施策を提言している。しかし、政府はそれらの提言予算のうちわずか5%しか割り当てていない。あるエリアでは、毎年1%づつ人口が増えているにもかからず、5%も鉄道利用者数が減ったりもしている。現在新しい路線工事は何もないし、チャッツウッド=エッピング間の新線も、本来ならチャッツウッドからパラマッタまで開通するはずの計画が竜頭蛇尾に終わったものでしかない。
バス専用レーンや、トランジットレーン(2人や3人以上乗ってる車しか走ってはいけないレーン)を拡大するという計画も、実行に手間取っているし、実際それに違反して走っているドライバーにこれといった厳しい取り締まりも行われていないのが現状だ。
道路渋滞/Road congestion
この10年で、道路を通行する車両数は25%も増えた。直近12ヶ月だけでも15%も増えているのである。これは次々に完成する新しい高速道路によって拍車がかかっている。高速道路ができるたび新たに導入される通行料をものともしないドライバーがそれだけいるのだ。RTA(陸運局と交通警察みたいな存在)によれば、この5年でトラベルタイムは若干改善されているらしい。しかし、朝夕の渋滞ラッシュ時間帯は着実に広がっている。
こういった道路渋滞が社会全体においてどれだけの社会的ロス(時間の無駄、燃料、大気汚染、人々のストレスなど)を招いているか、そのコストを計算してみると、2015年までに88億ドルにも達するという。
物流/Freight
現在の計画が完全に実施され、鉄道が全貨物輸送の40%を引き受けるようになったとしても、今後15年でトラックの台数は3倍になるものと見込まれている。このことは、輸送幹線道路になっているポート・ボタニー周辺の住人を不安にさせるのに十分であろう。しかし、鉄道網がいまいち信用できない以上、運送会社に鉄道利用を強制することも出来ない。
大気汚染/Air pollution
シドニーの大気は、国の基準の6つのうち4つまでをクリアし、多少なりとも良くなっているとはいいながらも、フォトケミカル・スモッグ(光化学スモッグ)やオゾンについては、コンスタントの国の基準をクリアできていない。オゾンは、自動車の排気ガスが太陽光に反応してできるものだが、人間の眼や呼吸器に有害な影響を及ぼす。しかし、前述のように、車の利用は、2020年までに今の3分の1ほど増えることが予想されている。
政府は予算引き締めのために、 これら大気中有害物質のモニタリングを中止しているし、大気の観測所の予算を4分の1縮減している。昨年、ガス燃料のバス計画を政府は廃止したし、車の排気ガスの二酸化炭素の量は、これから15年の間に72%も増加すると言われている。
水資源/Water
先日、シドニーの水ガメの水位は初めて40%を下回った。18ヶ月にも及ぶ取水制限に市民が協力したことで、水使用量は10%、630億リットルも節約されたにもかかわらず、である。
一人あたりの水使用量は近年になって減少傾向にあるものの、全体の消費量は1950年の3倍にも達する。この間の人口増加は二倍に過ぎないのである。
そして、老朽化した水道管からは、年間11%も無駄に漏水しているのだ。
政府は、淡水化計画にはやたら熱心だが、それ以外の方法についてはそれほど熱心ではない。他の手法というのは、水道料金の値上げ、取水制限のレベルの上昇、新ダムの建設、雨水などの再利用などである。新規に着工される建造物は、水の利用を40%以上省エネにしなければならなくなっている。しかし、既に現存する家屋にこの基準を適用するかどうかは議論が分かれている。
エネルギー/Energy
毎年毎年、シドニーの電力使用量は前年度比2.2%の上昇率をキープしている。
エアコンの普及により、ピークアワーの消費電力は2.9%の上昇が予測されている。政府は、従来の火力発電所のアップグレードや新発電所の着工などを計画しているが、政府所有の建物の消費電力のうちニューエネルギーによるものはわずか6%しかない。新築建物に対する省エネ建築基準では25%の電力節約基準を打ち出しているが、逆に言えば省エネに通じる政策はその程度しかない。
オープンスペースと農業/Open space and agriculture
西部エリアにおける公園やオープンスペースの比率は、その他のエリアに比べると少ない。計画されている約5500ヘクタールのWestern Sydney Parklandsを計算にいれてもなお少ない。都市周辺の人口密度が高まるにつれ、公園や保護自然林などはさらに議論の対象になっていくだろう。
新規開発予定の住宅地には、現在農場になっているエリアもある。専門家達は、このように農地を潰していくことが、膨張するシドニーの住民の食の供給に不安を投げかけるのではないと指摘する。政府は、シドニーエリアの農業についてはきちんと保護すると約束しているのであるが。
統治機構と予算/Governance and money
38のカウンシル(市町村のような地方自治体)と、州政府、さらに連邦政府が統治するシドニーは、世界的にももっとも多重統治地域である。それだけではない、Redfern-Waterloo Authority, the Sydney Harbour Foreshore Authority, the Growth Centres Commission for new suburbsという機関もまた存在する。
州政府機関は、自治体の上に立ち、自治体に対しあれをしろこれをしろと指示を出す。が、本当にそれを実行できるだけの予算と能力があるのか、過去のPyrmont開発における失敗前例の汚名をそそげるかどうかはまだ分からない。シドニーのような大都市の場合、連邦政府の影は薄くなり、その分州政府と自治体に責任がかぶさってくる。
州政府の民営化推進政策は、高速道路、トンネル、学校、そして刑務所に至るまで民間企業の参入機会を与えた。しかし、電車をはじめとする他のインフラについて、このような民営化政策がうまくいくかどうか、それはまだ実証されていない。
空港/Airport
都市計画の制約から免れている空港は、巨大な開発計画を抱えている。駐車場に12階建てのショッピングセンターを新築し、ホテルを作り、オフィスビルを作ろうとしている。これらは、しかし、道路渋滞をいっそう悪化させるであろうことは容易に予想される。
空港の利用者数は、2001年に年間2400万人だったものが、2023年には年間7000万人にも達する見込みである。2001年に25万4000便だった年間離発着数は、2023年には41万2000便に達すると予測されている。これらの飛躍的な増加は、当然のことながら、空港周囲の道路渋滞を招き、騒音を招く。
---というわけで難問山積みという感じですな。
こういった状況に対する解決案や個人的な感想は、長くなるので次回に廻します。
文責:田村
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