HSC試験を運営・監督しているNSW州教育省ボード・オブ・スタディは、HSCの試験結果(TERランク)の学校ごとの平均値や成績優秀校ベストランキングなどを公表している。この学校ごとのTERランキングが学校選びの際の指標にまでなることは想像に難くないだろう。日本で言えば、東大合格者数とかセンター試験の平均得点や偏差値で高校選びをするのと同じこと。卒業生のTER得点が「学校マーケティング」の強い武器、そして弱みにもなると睨んだ私立校では、成績の悪い学生にはHSC試験そのものを受けさせない、なんてこともある。
しかし、最近になって議論されているのは、「果たしてTER得点だけで学校の教育の質が測れるのだろうか?」ということ。そもそもTER得点の高い優秀校ベストに名前をつらねている学校のほとんどが、7年生(中学1年にあたる)入学時に入学試験を課した学校なのだ。つまり、もともと学業成績のよい学生をとってるんだから、卒業時にいい結果出すのも当然でしょ、というわけだ。「いい学校かどうかは使用後だけ見たってわからない。使用前と使用後との差異(つまり学生の伸び加減)で判断すべき」という議論が持ち上がってきた。単純に卒業時の成績で判断するのではなく、「その学生がその学校に入学して以来、どれくらい学業レベルが伸びたか」という教育効果度を指標化しようというアイデアである。
こういったニーズに対応する形でこのほど、文部大臣にあたるアキリーナ氏は来年の年鑑報告書から「Value-added measure(効果指標)」を掲載すると発表した。この指標の導入に当たって、同氏はシンガポールにおける成功を例にあげている。というのもシンガポールは先月、数学と科学の学業レベルを世界トップのレベルにまで押し上げたと発表されたのだ。この成功の一因に1984年から導入された「学校の成果レポート」が功奏したのではないかというわけだ。
この新効果指標の導入には、自分たちの実力で明らかにすることで給料アップ交渉に結び付けたい教師陣は喜んで合意したというが、一番喜んでいるのは、有名校に学生をとられて学生集めに苦戦している学校経営者たちではないだろうか。
・・・と思ったのも束の間、上記の記事が掲載されてから1週間後(12/2)には「新しく導入されたValue-Added measureなんかで、学校の価値が分かるもんか!」という大反発の声が掲載されていた。 反発の声をあげたのは、The Parents and Community Federation(保護者・地域連合)を筆頭に、Primary and Sencondary Principals' Councils(初中等教育学校長会議)、教育学者。1週間前の州文部大臣による「効果を上げた学校ベストランキング25」に名前を連ねた学校の校長ですら、この評価指標に批判的であるという。(一体先日の記事は何だったんだ?)
反発の理由は以下のようなことである。
ある保護者は学校の評価について、いみじくもこう言っている。
「子供が学校に行きたがってて、帰ってきて学校のことを話しているうちは、ウチの子にとって学校教育は身になってるってことが分かります」と。
今週のシドニーモーニングヘラルド紙はこのように締めている。
「学校教育は我々の子供たちに社会的、感情的、政治的、経済的な大志を映し出すものである。学校教育の効果指標は、それらの目標と同じくらい包括的なものでなければならない。」と。
では他の3分の2にあたる「普通じゃない家族」がみんな歪んでいるかといえば、そんなことはない。愛のない形だけの両親の間に育つより、離婚して生き生きとしている片親に育てられた子供の方が、精神的に健全であるということもある。しかし、一方では「普通じゃない家族の歪み」から生じた子供たちの心の病が、次第に社会問題となりつつあるのも事実である。
エラ(14才)は9才頃両親が別居し、それから母親と一緒に南アメリカへ移住。ほどなくして、オーストラリアに戻り、今度はアメリカへ、そして再度オーストラリアと、世界中を転々とした。「いつだって私はイライラしてて、両親に対してものすごく頭に来てた。世界中あっちこっち引きずり回されるのは大っきらいだったし、海外生活なんてちっとも楽しめなかったわ。友達に会いたかった。みんなに会いたかった。パパに会いたかったわ。」
そんな彼女も今では現実とうまくやっていくことを学びとった。彼女はオーストラリアに導入されたばかりのテストプログラムに参加したのだ。これは、子供たちが死や別居、離婚によって引き起こされた悲嘆を乗り越えることを援助するために導入されたプログラムである。サザンクロス大学の教育学科(Faculty of education, work and training)の講師であるアン・グラハム氏によってデザインされ、シドニーのメアリー・マッキロップ財団によって実現された。
昨年オーストラリアでは49,700件の離婚があったが、この件数は1985に比べると25%増である。1993年では離婚件数の53%のケースが、18才以下の子供を巻き込んでいるという。こういった災難に対する子供の反応は性格により様々で、完璧主義の優等生になる子もいれば、癇癪を起こしたり、不正行為をあらわす子供もいる。
そういう子供たちを単なる”問題児”とレッテルを貼ることなしに、先生が彼らの気持ちを共感し、根気よくカウンセリングしていくことで、現実の悲嘆を乗り越えることを手助けしようというプログラムなのである。
10才の時に父親をガンで亡くしたチャーメインは、よくモノを投げつけたりメチャメチャにしていた。が、そういう行為を通しては決して埋めることができなかった心の隙間を、このプログラムを通して見つめ直し、現実を受け入れられるようになってきた。
また、両親が離婚したというアーロンは、今までずっと自分の感情に蓋をして、誰にも気付かれないように振る舞ってきた。しかし、心の奥底では父親に対する強い怒りがみなぎっていた。プログラムに参加するようになって、父親に対する怒りがようやく落ち着いてきた。「以前は自分の怒りをどうやって表現すればよいのか分からなかったんです」と彼は言う。
このプログラムをデザインしたグラハムはこう言う。「嘆き悲しむという作業を通して作用していきます。子供たちは悲嘆とは何かを学び、悲嘆を解決するためにはしかるべきことがなされる必要があることを学びます。オーストラリアと海外の研究によれば、特に子供と思春期における主な成功要因は、社会的な支援があること、話せる相手がいること、そして彼らが抱えている問題を理解してくれる人々のネットワークがあることです。子供たちは自分と同じように両親が分かれたり死んだりした人がいるってことが分かってよかったと言います。自分だけが特別なのではなく”普通なのだ”と感じさせることも大切なのです。
実際のプログラムでは、季節を人生における転換にたとえたり、子供たち自身が今まで経験したことを話したり、物語や絵などを通して感情を表現したりする。そして、子供たちの心の中にある感情を吐露させるよう努力する。たとえば誰かを蹴飛ばしたくなったら、その蹴飛ばしたい気持ちを表現する他の方法を提案するなど。また、男女別教育における常識(男は泣いたりするもんじゃない、女の子は怒ってはいけないとか)が感情表現の障害になっていることも一つの大きな問題である。
・・・といった試みが始まったというニュースが新聞で紹介され、興味のある学校は問い合わせるようにと下記の連絡先が掲載されていました。(ご要望に応じてAPLaCでも調査可能です。)
連絡先:
Vanda O'Donnell TEL: (02) 9569-6111 or
The National Office TEL: (02) 9929-7001