|
エンゼルセットと聞いて、看護婦・士ならピンと来る人がいるはず。すべての病院がこう呼んでいるとは限らないが、死後の処置をするための器具が入ったセットだ。病院で死者が出ると、体をきれいに拭いて、最期の水を取り、脱脂綿を鼻の穴や肛門に詰めていく。
だからエンゼルセットの中には、多量の脱脂綿と割り箸などが入っている。日本で患者さんの死に何度か出会いエンゼルセットのお世話になったが、この脱脂綿を詰める処置はどうしても好きになれなかった。
ところでオーストラリアでは「死後の処置セット」というものは存在しない。ナースは死後の処置をしなくていいのだ。他の州のことは知らないが、少なくてもMattieの働くサウス・オーストラリア州ではしていない。
昔は何らかの形でされていて、病棟マニュアルにやり方が書かれていたが、1990年代中ごろより、一切しなくていいという事になった。看護婦が体に装着された異物、つまり点滴の針や尿カテーテル、心電図のモニターなどをすべてはずし、汚物をふき取り、病院のガウンをかぶせてシーツを掛けておくだけでいい。死後の処置はすべて葬儀屋さんで行われるのだ。
大学でPalliative Care (緩和ケア、死に行く患者さんへのケアのこと)を学んでいた時、プロジェクト発表があり、クラスの一人が葬儀屋さんを訪問しそれをビデオに撮ってきて発表した。
ストレッチャ−に乗せられた遺体は7、8畳位の大きなシャワー場へ連れて行かれ、裸にされ水のシャワーでよく洗浄される。その後、生前の写真を見ながら死化粧がされ、家族が持ってきた衣類をつけられるということだった。家族や親族は、死の瞬間に付き添っている事は少なく、死亡連絡をしても病院まで会いに来る家族はほとんどいない。
(「最期は一人」参照)
家族はこの死化粧の終わった遺体にあいに葬儀屋さんへ行く。だから患者さんの状態が思わしくない時、家族が何かあったらこの葬儀屋へ連絡してくださいと言っていったり、看護婦のほうからどこの葬儀屋に連絡したらいいですか?と聞いておいたりする。
文化にあわせて看護も変わってくるという一つの例といえるだろう。