シドニー雑記帳
切手の話
切手の話をします。
思いますに、切手というのは「うまい商売だな」と。切手というのは、料金前払いの「商品券」「サービス券」あるいは電車の切符のようなものですが、あまりそう意識させないところがまず巧い。
あなたの家にも、誰の家にも、死蔵されている切手があると思います。なんの気なしに死蔵しているのでしょうが、これがデパートの商品券等だったら、「あ、勿体無い」と思ってさっさと使うでしょう。電車の切符の場合は、そもそも死蔵という状態が起こりにくいでしょう。でも、切手の場合は死蔵しているからといって、「勿体ないからせっせと使ってしまおう」とはあまり思いません。人によって様々でしょうが、一般的に切手の方が死蔵率が高いように思います。
なんでかというと、まあ額が小さいということもあるのでしょう。商品券と違って、切手を使うためにはその前に手紙を書いて宛先書いて、、という面倒臭い作業があるからなのかもしれません。でも、他の商品券等と違って、「これはもう料金を前払いしているノダ。カネがかかっているノダ。使わないと損ナノダ」という気があんまりしないという独特の性格がその根底にあるのではなかろうか。
じゃなんでそんな感じがしないのか?というと、これはよく分からないのですが、ひとつには、絵がバラエティに富み且つ奇麗で、小さくて可愛いサイズのため、単なるシールのような印象を与えるからでしょう。どうも、イメージ的に「金」を意識させませんね。持ってるだけで何となく嬉しいような気にさせたり、記念切手など「使ってしまうのが勿体無い」とかいう倒錯した心理すら起こさせます。また使用される場面が、「手紙」という心をなごませるものであるというのも一因なのかもしれません。
片や、同じような役目を持ってる収入印紙の場合、デザイン的には無味乾燥でいかめしく、お世辞にも可愛らしいとはいえない。使われる場面も契約書とか手形とかハードな局面ですから、どうしても機能第一的になる。「印紙を持ってるだけでちょっと嬉しい」とか「使ってしまうのが勿体ない」とか、あまり思いませんよね。後で述べますが切手を集める人は沢山いても、印紙を集めてる人は聞いたことがない。
日本で郵便制度を立ち上げたのは、1円切手で有名な前島密(ひそか)という人らしいですが、初期の切手が「竜百文切手」とか印紙のような無骨なデザインであったことを考えると、あまり「切手のラブリー化戦略」というのは意識してなかったのかもしれません。
でも、この「切手のラブリー化戦略」は日本だけでなく世界共通に認められるように思います。なんでそれが「戦略」なのかというと、切手を可愛く美しくデザインするこによって、持ってるだけでそれなりの満足を与え、「使わないと損損」という意識を薄らがせている点です。
言うまでもなく、切手というのは料金前払いです。商売一般を考えた場合、「料金前払い」というのは料金の取りっぱぐれがなくて売る側としてはいい商法ですので皆やりたいのですが、そうそう出来るものでもない。どっちかというと後払いが多いでしょうし、商取引等の場合は後払いも「来月払い」「三ヶ月後払い」とか支払日まで長かったりします。このため、代金回収が出来ずに焦げ付いたり、不良(未収)債権が発生したりします。しかし、郵便の場合は(受取人払い等の例外を除けば)、切手によって完全前払いですから、焦げ付きというのが殆どない。切手制度を広めて当たり前にすることによって、買手にとっては不利な前払い制度を抵抗なく浸透させています。まずここが頭いいですね。
そして切手には単なる前払いを超えたメリットがあります。それがすなわち「死蔵」で、皆が切手を買うだけ買って使わないでいてくれたら、その分、政府(郵政省)丸儲けなわけです。
使わないでいてくれればくれるほど、政府としては不労所得のような収入が入るわけで、僕が政府の担当者だったら、さらに死蔵率を高めようとするでしょう。で、なにをやるかというと「記念切手」ですね。マーケティングでいうところの「限定生産/限定発売」戦略です。これによってプレミアをつけさせ、物好きに買わせ、売り上げを伸ばす。単に売り上げを伸ばすだけではなく、買った人は使わないで死蔵する率が非常に高くなりますから、そのまま丸っぽ収入になる。一粒で二度美味しいわけです。
そうでもなければ何で記念切手なんか出すのよ。よく考えてみれば、「記念切手」って何なんだかよくわからない。またその「記念」も、「日本の鳥シリーズ」「国宝シリーズ」とか、どう考えても「記念」ではないようなものもあるし、なかには「切手趣味週間」「国際文通週間」とか、自分でイベント作って自分で記念してるようなものもある。
パプアニューギニアは、オーストラリアの隣国であり、歴史的に関係の深い国ですので(その昔は統治のサポートもしていたとか)、PNG(パプアニューギニア)と聞けば、それなりにリアリティある国として感じるようになります。しかし、こちらに来る前は、「切手で有名な国」のひとつという認識がメインだったりしました。もしかしたらPNGでなかったかもしれないけど、太平洋に浮かぶ国々(に限らないけど)の中には、世界中の切手コレクターを対象に奇抜な切手を発行し続けている国々があり、それが結構馬鹿にならない収入になっていると聞いたことがあります。
例えば、世界最大の切手とか、確か日本の葉書よりも大きかったのではなかろうか。あるいは、切手の表面がレコードになっていて、針を下ろすとほんとに音が鳴る切手とか。
およそ実用性や機能性を無視したような奇抜な切手が沢山あるわけですが、これなんか切手ラブリー化戦略の極致をいってますね。おそらくそんな切手を買う人は海外のコレクター(ないし切手商)であろう、彼らは
1998年 月 日:
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