シドニー雑記帳

APLaC最高幹部会議

1/100分必殺仕事人的観光部

    これは、APLaC最高幹部が今後の指針について、クールに見つめ、熱く語り、激論を闘わせた記録である。なんと言っても最高幹部会議である。メンバー全員(3名)参加であるから「人民最高会議」と言っても良いし、あなたのお好みで「末端現場ヒラ会議」と言い換えてもいい。



    「やっぱり、生活体験プログラムとは別に、「宿の紹介」も独自にプッシュした方がいいと思うけど」

    「わたしも最初来たとき、宿には本当に困った。パックツアーで来てるわけでもないから宿は自分で取らなければならないうえに、長いこと暮らすための足がかりだったから、そんなに高いホテルなんか泊ってる余裕ないし。」

    「結局、どこでしたっけ、マルコポーロとかいうライカードトのちょっと先のモーテルに泊られたとかおっしゃてましたよね?」

    「そうそう、そのときはね。なんでも創業以来「はじめての日本人のお客だ」って。「安いからケチなドイツ人とオランダ人くらいしか泊らないんだよ」ってオーナーの方が笑いながらおっしゃってて。全然豪華じゃないけど、簡素にまとまってて、いいモーテルでしたよ。市内からちょっとあるから、バスに乗りなれてないとキツイかなとは思うけど。一週間以上泊ったので、「おまけだ」と言ってチェエクアウトのとき一泊分割り引いてくれた」



    「日本に帰ったとき、日本の旅行代理店がどれだけ宿をとってくれるか、直接カウンターに行って確認してみたんだけど、全然駄目みたい。「一泊二人で100ドルくらいで、アットホームな感じで」って言ったら「B&Bをご希望ですね」とか一応わかっておられるんだけど、現地で予約して下さいって断られた。」

    「「現地で予約」って、そーゆーの「予約」って言わないんじゃないの(笑)」

    「うん、「日本からは予約できないんですか」って聞いたけど扱ってないということで。で、まあ、パックツアーというか日航ホテルとかそこらへんを予約して現地に行って、そこで探して見つかったら変更できるかどうかも聞いたら、それも駄目で。」

    「ダメって?」

    「あ、つまり、現地のB&B探して泊ってもいけど、それとは関係なく本来のツアーのホテルの分の料金は払わないとならないことになるわけ。チェンジとかそういうのは出来ないということ」

    「まあ、そうやってバラせたら「パック」にならないもんねえ。」

    「どこの代理店行ったの、そのとき」

    「えっと、JTBだったかな」

    「そこだけ特別ってことは、、、」

    「ないでしょうね。どこも似たようなものでしょうね」


    「だから、やっぱり皆さんお困りになると思うのよ。宿探しは。だからAPLaCでももっと宿紹介に力を入れたらどうかな、と。」
    「事実、友達でも誰でも、「宿とっといて」という依頼は常にあるわね」
    「海外の知人に依頼する場合、それは定番みたい」



    「で、こないだ、宿紹介をメインにしたチラシを作ったけど、途中で挫折しちゃった。」

    「どうして?」

    「いや、前半部分はスラスラ出来たのよ。日本にいたら信じられないくらい宿の選択肢って豊富でしょ?はっきり言って、5つ星のホテルなんか、泊るにあたって一番詰まらない選択、、まあこれは個人の価値観の問題だけど、「ほかにも色々ありますよ」とプッシュするのは、まあ、簡単なんです。でもね、、」

    「でも?」

    「申込用紙作ってたらハタと困った。選択肢がありすぎるのよ。」

    「適当に5コースくらいに収斂してまとめちゃえば?」

    「いや、こっちも最初はそう思ったの。でも、全然5コースにおさまらない。」

    「そんなにあるかな?」

    「あるよ〜。だって、都心部がいいか、郊外がいいか、郊外でも山荘やファームステイがいいかというロケーションの問題があるでしょ?で、「のんびりしたカントリー」としても、海辺がいいか山がいいか牧場がいいかで全然違うじゃない?」

    「どこも車で1時間あったらいけるもんね、シドニーの場合」

    「シドニーに限らずオーストラリアは大体そうだろうけど。ま、それが大きな強みでもあるのよね、摩天楼から牛がモ〜と鳴いてる牧場まで1時間。だいたいシドニーのオージーなんか、5時に会社終わってから家帰って着替えて、それから家族で海水浴いくもんね。ほんと、なんでもあるもん。」

    「それが逆に問題なのね」

    「そそ。「それしかない」ってロケーションの方が逆に説明はしやすい。「あれもある、これもある」じゃインパクトに乏しいし、全部中途半端みたいな間違った印象も与えかねないし、全部説明してたらチラシにおさまらないし。なにより、申込用紙に書ききれない。」
    「なるほど」

    「立地ひとつとってもこれでしょ?そのうえに、予算という重要な関門があるし。さらに、アパートメントがいいか、コテージがいいか、ゲストハウスやB&Bがいいかというタイプの選択が重なるでしょ」
    「う〜ん。もう強引に都心周辺の一泊50〜150ドルと限定しちゃったら?」

    「そうやって割り切れば簡単なんだけどね、でも、それって何のメリットがある?わざわざ選択の多様性をプッシュしときながら、「そこそこお値打ち都心のホテル」だけっつーのは、貧弱すぎないか?前半でワイドな選択肢を打ち出しておきながら、後半では「便利な立地で安く寝れたら、そんでいいでしょ」と言わんばかりの選択肢しか提案しないというのでは、何にもなんないでしょ。それは「多様な選択肢」を言ってるんじゃなくて、「大ハズレではないという程度の品質保証」と「英語で国際電話して予約する鬱陶しさの解放」くらいしかベネフィットを提供してないことになる。」

    「う〜ん」



    「で、よく考えてみたんだけど、「どこに泊るか」という宿選択は、単なる宿の問題だけではなく、それで殆どその旅行の性格が決定されてしまうくらい重大なポイントなんだわ。だって、マンリーのリゾート風のアパートメントに泊るのと、ブルーマウンテンのコテージに泊るのとでは、同じシドニーっつっても 全然違うもん。で、コテージに泊ってたら、「ショッピング」なんか出来ないわね。フィッシュマーケット行って新鮮な魚を楽しもうなんて選択肢も、レンタカーで爆走するというなら別だけど、そうじゃなければ無理。もう基本的にその旅を決定付けちゃうんだわ、宿というのは」

    「だとしたら、最初にそのことを分かってて貰わないといけない」

    「そう、全部の選択肢を理解してもらって、「う〜ん、ビーチでのんびりも捨て難いけど、あとでゴールコーストもいくから海辺はいいや」とか「オージーの普通の暮らしをしてみたいから、都会のナイトライフはこの際犠牲にする」とか。」

    「そんなん、行ったこともない土地で選択なんか出来る筈ないよ、普通。もちろんこっちからも、せっせと情報発信しなきゃいけないし、これからもガンガンやるけど。でも、やっぱり個別的に色々説明して、リクエストをお聞きして、またリクエストが出やすいように「こんなのもあります」とさらに説明してという地道なインタラクティブな作業をするしかないよね」

    「でも、それ、どうやってやるのかという問題があるのよ。真面目にやってたら、不動産のアパート探しと同じくらい考えることあるもんね。一軒紹介+予約代行して25ドルにしてるけど、これに日本への国際電話やFAXやってたらすぐ赤字なんだわ。25ドルはカツカツの実費設定だけど、やればやるほど持ち出しが増えるというのは、しんど過ぎる。Eメールでやり取りできるならば、いいのよ。でも、そんな全員が全員インターネットや通信やってるわけじゃないし、正味の話、絶対数でいえば「一握りの人々」でしょ。」

    「うちも、両親インターネットなんかやってないし、この先もやらないだろうなあ」

    「うちも」

    「大体全員やってたら、誰も「ブーム」なんて言わんわ。洗濯機がブームになりえないようにさ。」



    「まあ、割り切っちゃえば簡単なんだろうけどね。もう対象の宿を限定して、「これがいいです」ってプッシュして定型パターンにはまらせればね、A定食、B定食みたいにね。そうすれば、まあ赤字にはならないでしょ。」

    「それ簡単なんだけどね、割り切れたら。他の観光会社とかは、ビジネスだからそうせざるを得ない面はあるのは分かる。でもなあ、キチンと打ち合わせすれば、もっともっといい旅に出来るのが分かっていながら、他にもいい宿屋や可能性があることを知りつつ、「これが最高です」なんて、よう言えんわ。端的に言ってウソじゃないですか、そんなの。そりゃ、遊びに来る人にとっては、他にいい所知らなければ、そしてこっちが「最高です」って言ってあげれば、そう思われるでしょう。幸福な気分にも浸れるでしょう。それを敢えてかき乱すのも大人げないというのも分からない話ではないです。そんでも、それは、したくない。」

    「もともと、APLaCは中高生留学と生活体験ガイドから始まってるから、別に観光でそんなにムキにならなくてもいいとは思うんだけど。」

    「そう、別に観光は観光会社に任せてもいいんだけどね。でもねえ、やっぱり、皆高い航空運賃払ってくるわけでしょ。往復14万円で滞在一週間だったら1日2万円でしょ。そこに存在してるだけで、ものすごいコストが掛かってるわけ。こっちみたいに半分永住だったら、一週間やそこら棒に振ってもどってことないけど、1週間しかいないともなると、もう真剣勝負じゃないかな。可能な限り、「素晴らしい時間」を過ごして貰いたいというか。だって14万円稼ぐの大変よ、実際。子供の教育費やらローン返済やらでやりくりして、1週間休暇とるのでも職場の雰囲気察して骨身を削るように気をつかって、やっと来たオーストラリア、シドニーじゃないかと。そんなことまで考えてしまうとですね、、、、まあ、そんなこと赤の他人が考えなくてもいいのかもしんないけど。」

    「あはは」

    「なんで、こんなムキになっちゃんだろう。留学にしても「余計なお世話」だもんね、言ってみりゃ。」
    「結局、あれでしょ。水戸黄門というか必殺仕事人というか」

    「なにそれ?」

    「いや、だから、番組で前半、罪もない真面目なおとっつあんがハメられて自殺したりして、その娘が亡骸にとりすがって泣いてたりして、一方では、越後屋あたりが悪代官とつるんでたりするわけでしょ。まず、そーゆー「現実」というか「事実」を見せられるわけですね、あの手のドラマは。」

    「それで?」

    「それを見せられた視聴者としては、「ああ良くある話だ」とか、one of those storiesとか、「そんなもんよ、世間は/that's life」とか達観できないわけでしょ?皆それで達観できたら、水戸黄門は30分番組で済むのよ。仕事人も暇してればいいのよ。それを、45分くらいになると、チャララ〜ってトランペットが鳴って、シルエットも渋い藤田まことが出てくるのはなぜなのか?やっぱ、「昔、可哀相な娘がいました。おわり」じゃ納まらないのよ、誰だって。」

    「ふむ」

    「別に、業者が越後屋で、こっちが仕事人じゃないよ。事態はそこまで深刻じゃないし、一生懸命やってる良心的な業者さんも沢山いるし、なによりこっちは仕事人ほど万能ではないし正しいわけでもない。だけど、パッションというか動機部分は、水戸黄門的なメンタリティがあるんじゃないかと言いたいだけ。あの濃度を100分の1くらいに薄めたらそうなるかな、と。」

    「言ってる意味はわかるけどね。でも、仕事を遂行しうるだけの能力というか筋書きあっての仕事人であって、こっちが仕事人であるという保証はどこにもないよね。ほら、よく仕事人が登場する前に、その娘が「おのれ、おっとっつあんの仇」とか一人で行動に出て、「ちょこざいな」とか言われて、バッサリ返り討ちにあったりするけど、ウチも単にそのパターンだったりして」

    「意欲はあっても、客観的にはドンキホーテみたいにハズしてるってことね」

    「やだなあ、それ」

    「そうならないように、もうちょっと詰めよう」



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