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今回はシドニーとは全く関係ないことを書きます。
新聞によると、自己破産の件数が過去最高になったとか。それでも年間5万。そんなもん?と思います。本来なら100万の大台に乗っても不思議ではないし、またそうなるべきだとも思います。
シドニーに来る前、既にバブル崩壊状態にありましたので、僕も破産関係には駆けずり回る羽目になってました。債務者側として破産申請をしたり、あるいは裁判所から選任されて破産管財人をやってたり。破産管財人は、大阪の場合、弁護士経験満5年以上でないと選任されないのが通例でしたが、僕の下の世代になると、破産が多すぎ人手不足の為、そうも言ってられなくなってました。当時、多いときで僕も7件ほど管財人を同時に引き受けてました。
あれから数年、事態はちっとも改善されないどころか、益々悪化しているようです。その昔は事業に失敗したり、バクチに溺れたりするのが破産の定番でしたが、そのうち「カード浪費型」が登場し、さらには「ごくまっとうに生活していても破産する」パターンが、数年前からぼつぼつと登場していました。破産の申立をするとき、「破算に至る経緯」としてその方の半生記を詳細にお聞きするのですが、どう考えても、この人何かを失敗したわけでもない、僕なんか頭が下がるほど実直にやっておられる方が破産のやむなきに至ったりしていました。
元凶は、住宅ローンや教育ローンだったりします。ボーナス一括、「ゆとり返済」などという最初は利率が低いけど後で返済額が増えるパターンなど、全ては右肩上がりを前提にしたローンになっていましたので、予想通り右肩上がりにならなかったら、困る。当初は親戚知人から一時借用して廻していても、もともとの設計図自体が狂ってきてますので、破綻するのは時間の問題となります。あとはこの時間が長いか短いかの個人差があるだけです。
例えば、ある中小企業の役員だった50代の方は、酒も煙草もバクチもやらない嘘はつかないという謹厳実直な方でした。ところが不況のため、ボーナス支給が思うようにいかなくなったあたりから暗雲が漂いはじめ、これに加えて奥さんの病気(心臓病)という厄介な出来事が発生しました。通例ならその医療費など保険もありますしクリアできるレベルなのですが、全体にやりくりが苦しくなっているときには、通院のためのタクシー代、病気のためのパート断念などによる収入減少がボディブローのように効いてきます。そのかたは懸命に返済し、50代でありながらも毎日新聞配達のバイトまでしてましたが、遂に刀折れ矢が尽きました。
ローンがいけないわけではありません。問題は、数年前まで日本全土が右肩上がり構造でやってて、そのときの名残が大量に残っていることでしょう。しかも30年ローンなどスパンの長いものを組み立ててしまったから、これが一掃されるのは、破産その他でドカドカ破綻して終止符を打つか、30年待つかということになる。「3年後のボーナスは今年よりも多い」ことを大前提にして組み立てられた計画/状況は、「向こう3年間で半年くらいは無収入の期間があるかもしれない」という現在の状況に対応できる筈がありませんし、それどころかちょっとした蹉跌が後々大きなギャップを生みます。これを無理に対応しようとするなら過去の貯金を食いつぶすか、あるいはクレジットやサラ金などから返済資金を借りるという「自殺行為」に向うことになります。
サラ金関係がなぜ自殺行為というかというと、何か画期的に状況が好転でもしない限り、「今日返せないものは明日も返せない」からです。むしろ高金利で借り替えることにより、明日の借金額は今日よりも確実に多くなります。
そして、クレジットやサラ金その他で返済の自転車操業を続けると、意外とこれで1〜3年は廻ったりします。貸してくれるところが結構多いからですし、「むじんくん」その他で気楽に借りれます。また自転車操業であろうがなんであろうが、表面上は返済遅滞がないから借り続けられるということにもなります。で、最初20万程度の欠損も、2〜3年廻せば積もり積もって2000万ほどに膨れ上がります。どうしてこんなに膨れ上がるって?別にトリックがあるわけではありません。例えばローン返済は月々1万2876円とか半端な額です。今日中に1万2876円入金する必要があった場合、ATMで借りようとするとき、人は余分に1万5000円借りたりします。無駄に2000円以上借金を増やすわけです。そしてその2000円などは、ちょっと飯食って本を買ったら消えます。多い人は20〜30社から借りてますから、ほぼ平均して毎日なんかかんかで返済に追われる計算になります。そんなこんなで驚くほど増えていくわけです。
金利も高いです。さすがにトイチ(10日で1割)などという暴利は少なくなりましたが、それでも高い。しんどくなると「金利だけでも」という返済をしますが、その金利返済の為にさらに借り入れをすれば、結局のところ、毎回、金利が複利で増殖することをも意味します。もし、最初に100万借りて、月に10%づつ金利がついてしかも複利だった場合、借金額は1年で300万に増え、2年で1000万円、3年で3400万になります。嘘のようですが本当です。「月に10%金利」でも単利なら年に120%ですが、複利では年に300%になったりするわけです。恐ろしい加速度ですが、金利返済のための借り入れはこの暴挙をやってしまってることに等しいです。
もうこうなってしまえば逃れる術は、宝籤でも当たらない限り、ないです。その場しのぎを続けていって、ストレスと迷惑の最高点でドカンと破綻するだけです。会社でも個人でも、破綻した後に冷静に検証すれば、破綻軌道にハマって、ポイント・オブ・ノーリターン(この地点を過ぎたら絶対に元にもどれなくなる地点)を過ぎたのは、だいたい2〜3年前の時点です。あとは、うっすら無駄と分かりながらも、総借金額を増やしながら、絶望的な資金繰りを続けることになります。激突するべき壁に向ってひたすらアクセルを踏み続けるようなものです。会社が倒産するにしても、一般の従業員がそれを知るのは、不渡手形をでた当日のことです。ある朝出社したら会社が無かったというのはありふれたパターンですし、実際倒産一週間前に何も知らされずに結婚していたという実例もありました。
なんでもっと早く、、、と、はたから見てたら思います。愚かな行為に映るかもしれませんが、僕にはそれを笑うことは出来ません。それが人の弱さだろうし、僕がそうでも同じことをしたでしょう。
だからこそ、第三者が「もう、やめ」と止めてあげることも必要なのでしょう。無理じいは出来ませんが、「破産することがそれほど恐ろしいものではないこと」「傷を深くしないうちにきっぱりと精算することが最も誠実なやり方なのだということ」などの情報を提供すること、その認識が広まっていくことはいいことだと思います。
破産を回避するため、さらにサラ金に行き、もっと恐いマチ金に行き、さらに「いいとこ紹介してあげる」と言われ飛んでもない高利のところに連れて行かれ、挙句には「俺が整理してやる」といって整理資金を持ち逃げする奴もいます。最近ではそんな不届きな弁護士もいるやに聞きます。ザンキ(慙愧)に堪えない。「腎臓(移植)一個300万」とか「生命保険入って死ね」と脅される前に、幾らでもリカバーの道はあります。あるんですって。蛇の道はヘビではありませんが、普通に市民事件を手掛ける弁護士であれば、その程度の事件の対処法など常識として知ってます。家族の身柄の保護のために「夜逃げ」ではありませんが新居への移転をすること、それにあたって住民票は移さないこと、土地カンのある町にはいかないこと、子供の学校に関しては市や教育委員会に言えば住民票移さず転入できること等など、それなりのテクニックは身につけてる筈です。身につけてなくても「現場」がそれを求めます。
もとより、これは単なるバブル崩壊の後遺症ではなく、もっと巨大な「右肩上がりの時代の精算」を国民的規模でやってるわけですから、影響を免れる人など殆どいない筈です。それを国民的コンセンサスにして、総合整理をするためにも、年間5万程度の破産件数はまだまだ少ないと思うわけです。多ければメデタイと言ってるのではありません。少ない分だけ、地下に潜って絶望的なことをしている人々が多いということです。自殺なんかするくらいなら、壊れてはならない人間関係や家族の絆が壊れてしまうくらいなら、「所詮ゼニカネ」なんかなんぼのもんじゃい!と思います。
生きてりゃいいことあります。気安めで言ってるのではありません。僕が破産申立てをした人たち、皆、半年から1年もたてば人が変わったように、まるで憑き物が落ちたかのように快活になっておられます。別に金なんか無くても、世間体なんかブっ壊れても、人間いくらでも幸せになれます。そんなにヤワな生き物ではないし、そんなものにこだわってるから幸せになれないんだとも思います。
そのことを、破産関連事件をやっていくなかで、多くの方々から現場で教えて貰ったように思います。
僕が、何のツテも見通しもなく、ポンとオーストラリアにやってこれたのも、そういう修羅場を通じて教えて戴いた「人間の可能性への信頼」があるからでしょう。そして、「多元生活=人生の可能性の素晴らしい多様性」という概念を最初に抱いたのも、破産事件や離婚事件など、「人生の未知の領域に船出していく」場面に立ち会うなかで出てきたものです。破産法や離婚の法律相談/事務をすることも、知らない異国のこと、そこでの生活の実態や可能性をお伝えすることも、僕のなかでは全く同じ作業だったりします。
なお抽象論ばかり述べましたが、個別的に「俺の場合はどうなるんだ」という疑問がありましたらメール下さい。実は、今朝、旧友から2年ぶりにメールを貰いました。その文面は、彼本人の破産の相談でした。そんなこんなで、この項は一気書きした次第です。
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1997年2月2日:田村