- Home>
- シドニー雑記帳INDEX
>
自己破産のススメ(その2)
−破産手続きとはなにか?−
前回より続きます。
「自己破産」とはなにか?ですが、まず破産制度は何のためにあるかというと、債権者においては「平等」の確保、債務者(破産者)においては「人生のリセット」のためのものです。と、これだけでは何のこっちゃか分からんでしょうから、もう少し砕いて説明します。
ここにAさんという人がいます。Aさんは、 B1さんから100万円借り、さらにB2さんからも100万、B3さんからも、、、とB10さんまで10人から100万円づつ、合計1000万円借りてたとします。ところがAさんの全財産は100万円しかない。つまり900万円も足りない。この先幾ら頑張っても返せそうにない。その場合どうしたらいいか?です。
普通に考えたら、全財産100万円を分割して、B1さんからB10さんの10人に各10万円づつ返済すればいいことになります。「いい」といっても90万円は踏み倒されるので当然Bさん達からは文句は出るでしょうが、かといって、B1さんだけが100万円全額回収して、あとの9人はゼロというやり方よりは「公平」だということになるでしょう。「破産」というのは、裁判所という国家権力を使ってこの分配(配当)を(強制的に)行う手続をいいます。別に難しい話ではありません。「国家権力」なんて大袈裟なと思うかもしれませんが、ある程度の権力(強制力)をもって仕切らないと、現場では債権者が押しかけ、早い者勝ちのバトルロイヤルになります。マゴマゴしてると他の債権者に全部財産をもっていかれてしまう、連鎖でこっちも倒産するかどうかの瀬戸際とかいう切羽詰まった状況では、「ケンカせんと、仲良く分けよ」なんてのんびりしたこと言ってられる雰囲気ではなく、壮絶な争奪戦が繰り広げられることになるわけです。で、結果として力の強い者が一人占めするということになる。
余談ですが、この無法状態は暴力団にとって格好な資金源になってます。B1さんが知人のヤクザに債権回収を依頼したりして、恐いお兄さん達が押し寄せ、他の債権者を蹴散らし、債務者を締め上げて全財産を持っていこうとするわけです。B1さんがそう来たら、他の債権者も黙ってはおらず、B2さんが別のヤクザに頼む。そうすると現場では別系統のヤクザ同志がカチ合うことになるわけですが、そこでの調整は、所属している組の力関係や人間関係で処理されるようです。「オジキ、わしらにも少し廻してくださいや」みたいな世界なのでしょう。
さらに手がこんでくると、単なる債権回収(キリトリという)だけでなく、この破産全体を仕切ってもっと大きく儲けようとします。「整理屋」ですね、例えば、潰れかけた会社の社長から「整理」を依頼された某組は、会社総資産3000万(潰れかけてもそこそこの会社ならかき集めればそのくらいいく。その代わり負債は数億あるけど)を受け取り、うち300万くらいを社長に渡し「この金で温泉でもいってきなはれ、当分大阪には戻ってこんように」としたうえで、全債権者を集めます。やり方はいろいろあるのですが、例えば社長の判子つかって架空の巨額な債権をつくっておきます。債権者集会になると、最大口債権者が自然と仕切るような雰囲気になりますので(ワシが一番の被害者じゃと言える)、全員の同意を得て会社の残資産を整理回収してして皆に分配すると。勿論きちんと分配するわけもなく、涙金程度を渡し、あとは力で黙らせる、と。他にも賃借権を振りかざし法外な立退料を請求する「占有屋」など、暴力団の活動領域は色々あります。不良債権の処理が進まないのも、ひとつにはこの百鬼夜行の現場の実態があるからでしょう。
このような無法状態を避ける為にはどうしたらいいか?というと、暴力団以上に強大な「力」をもった者=すなわち「国]が仕切ることになり、この強制的な仕切りを「破産(ないし和議、会社更正などの倒産処理法)」というわけです。公正・公平なルールで処理精算をすることから、破産はまず「債権者の平等」のための制度と言われるわけです。したがって原則的には破産は、「いい加減な処理せんと、国にきちんと決めてもらおうじゃないか」という債権者の申立てで行われるもので、「債権者破産」といいます。逆に債務者の方から「もう手に余るから仕切ってください」と申し立てるパターンを「自己(申請による)破産」と言います。
これを債務者の立場からいえば、返しきれない借金を背負った人間は、必ずしも一生「債務奴隷」として生きていかなくても良いという「救済」手続きとしての意味を持ちます。ここは、「借りた以上は一生かかっても払うべき」とか色々な価値観があるでしょうが、現行の法律は「場合によってはそれはあんまりだ」という価値判断に立ってます。つまりそれなりに頑張った人(詐欺破産などではない場合)の場合は、破産処理が終わった段階で「免責決定」というものを出し、全ての借金をチャラにし、ゼロからのスタートが出来るようにするわけです。
ここらへんで「それはズルい」と感じる人が多いのですが、資本主義社会、ビジネスの社会は、半分バクチのようなもので、運不運がつきまといます。これは誰しも同じ。勝つときもあれば負けるときもある。負けた場合、その時点の全ての資産をペナルティとして没収するのと引き換えに、その限度で再スタートを切れるような社会の方がよくはないかと。一旦失敗したらもうそこでその人(並びにその家族)の人生は完全に終わってしまっていいのか?と。僕としては、ビジネスだなんだ言っても、しょせんゼニカネのゲームであり、人ひとりの人生というものはそれ以上に重いものだと思うので、これでいいと思います。ゲームである以上、最初からそういうルール(貸した相手が破産したら金は回収できないというルール)だということでやれば足りるではないかと。
よく不誠実な浪費型クレジット破産ばかりが面白おかしく取り沙汰され、単純に「けしからん」と思う人もおられますが、失礼ながら単純過ぎます。確かにそういう不誠実な者もいますが、不誠実が過ぎる場合にはそもそも免責が下りませんし、それは誠実な場合と不誠実な場合とを吟味して取り扱えば足りることで、不誠実な場合があるから100%何がなんでも救済するなというのは論理的におかしい。第二に破産原因をよくみると、他人の保証人になったとか、取引先の倒産による連鎖倒産など、本人が一次責任を負わない場合もかなりあります。その場合でも一生アウトにしていいのか。さらに、神戸の地震によって住宅ローンの二重支払い(あるいは旧ローン支払いと現在の借家の家賃との二重払い)を余儀なくされている人は、耐え切れず破産となっても許されず一生払い続けろと言うのか?
第三に、社会自体のグランドデザインとして、「破産したら全て終わり」の社会にしたら、人々は極端にミスを恐れるようになり、結果としてドーンと大勝負に出る奴もいなくなり、安全策ばかり取るチマチマした覇気のない社会になってしまいかねないけど、そんな社会に暮していて楽しいか?と。第四に、破産すれば逃げられてズルイと言うならば、じゃあ貴方も金を借りまくって破産したらいいじゃないですか?なんでしないの?というと、やっぱり破産するというのは相当の痛みが伴うからでしょう。それに若干の差押禁止財産を除いて、全ての財産、家屋敷はおろか、車や家財道具、電話加入権、生命保険の中途解約返戻金に至るまで返済に分配されます。そこまで丸裸になりたいですか?これはペナルティとして十分じゃないですか。
それでも納得出来ない人は、オレンジ共済みたいな悪どい場合(って真実そうなのかは知らないが)を頭に思い描いて正義に反するというひっかかりをお持ちなのかもしれません。しかし、「ものすごく悪どい場合」は前述のとおり免責がおりませんし、別途「偽計破産罪」「詐欺破産罪」などという刑罰もあります。これはもう殺人や窃盗と同じくレッキとした刑法犯になります。もうひとつ言うと、ものすごく悪どいことした破産者であれば、借金チャラにならなくたって関係ないです。「取れるもんなら取ってみなはれ」と開き直られるのがオチでしょう。その位のワルに対して単なる「免責不許可」とかその程度のペナルティで何とかなるわけないじゃないですか。結局、不誠実な人間は開き直り、誠実な人ほど無意味に一生苦しむだけという結論になりはしないか?ということです。
さて破産申し立てを受けた裁判所はどうするかというと、破産すべき状況にあるかどうか資料をチェックし、申し立て本人から事情を聞き(審尋という)、そのうえで「破産宣告」決定を出します。破産宣告が出ると、その日が決定的な基準日となり、その日に存在した債権(利息計算もその日まで)、その日に存在した債務者の総資産をベースにして全ての計算が行われるようになります。つまり破産宣告日以降には金利もつかないし、宣告日以降に債務者が新たに働いて得た収入は債務者個人のものとなります。どこかで基準日を設定しないと永遠に計算が流動的になって処理が不可能だからです。
さて、宣告日以降の具体的な処理は誰がやるかというと、裁判所ではキャパ的に無理ですので、「外注」に出します。大体弁護士に依頼がいくわけです(裁判所にリストがあり、裁判所から個々の弁護士に受任打診の電話がいく)。受任した管財人には、二つの重要な任務があります。一つは総債権額の調査。全債権者に債権届出を提出するよう督促の手紙を出し、それを集計する。これも鵜呑みにするのではなく、前述のヤクザの架空債権のようなものが出てきた場合にはさらに調査をし、疑わしいとなれば債権として認めませんし、多くの場合その債権者との間で裁判を提起して争うことになります。
もう一つの任務は、総資産の回収(破産財団の形成)です。家屋敷を売却したり、家財道具や電話を売り払ったり、売掛未収金を回収したり、払わない相手にはこれまた別途裁判をかけたりします。また破産申立前に一部の債権者が勝手に財産を持っていってしまった場合には、その債権者相手に取り戻してきます(これも否認権その他の裁判をかけたりします)。一銭でも多くかきあつめ、一銭でも多く債権者に配当するように勤めることが管財人の使命であり腕の見せ所でもあります。
ただし、全ての破算に管財人がつくわけではありません。管財人をつけるまでもない程、資産が限りなくゼロであることが明瞭な場合には、事実上「管財」業務をすることは無意味だし、税金の無駄づかいでもあるので、管財人をつけません。どうするのかというと、破産宣告と同時に破産手続を終了(破産廃止という)させてしまうわけです。これを「同時廃止」といい、現場では「ドーハイ」などと略称されています。事業を営んでおらず、また不動産も所有していないような個人自己破産の場合、このケースが多いです。実際無理して管財人をつけたところで、資産らしい資産もありませんし、家財道具など売ったところで二束三文ですし、分配していけば、債権者に対する郵便代にもならないし、管財人の費用だけで完全に赤字になったりします。
★→自己破産のススメ(その3)に続く