賃貸不動産の探し方
99.10.26初出
2010年03月30日改訂
賃貸不動産の探し方− その3 −
インスペクションの結果「これだ!」と気に入った物件が見つかりました。さて、それからどうしたらいいでしょうか? 今回はここからです。
賃貸借の法的規制
まず、ガイドブックを紹介します。これは政府機関(Department of Fair Trading=公正取引、消費者保護のための官庁)が発行している賃貸ガイドブックです。
賃貸契約を結ぶと不動産屋からこれを渡される筈ですが、欲しい場合はネットでダウンロードできます。
お役所サイトのなかのダウンロードURLを書いておいたのですが、こちらのWEBは年中変わりますので僕自身ダウンロードしておいておきました。ココをクリックしたらダウンロードが始まります。
ただし、このブックレットは2002年版なので、より最新の細かい情報は、Fair Tradingのサイトに行った方が良いでしょう。
別にこんなの読まなくても賃貸借契約は出来ます。僕も今回初めてざっと目を通したくらいですから。ただ、@日本よりもかなり詳細に法律で定められていること、Aトラブルになったとき借手側に有利で便利なサービスがいろいろ設置されていることは、いざというときの為に頭に入れておいたらいいと思います。日本でも賃貸借のモメ事は結構見てきましたが、このくらい法律で整備しておいてくれるといいと思います。日本よりずっと進んでると思います。
言い出すと長くなりますが、日本の賃貸契約は当事者の自由意思で決まる範囲が広いので、礼敷・保証金やらその返還やらが慣行に委ねられ過ぎてるところがあります。そのため更新料などという何ら法的根拠のない制度が罷り通っていたりします(時々、無効判決が出ますが)。一方オーストラリアでは保証金の上限、斡旋手数料の上限など、いちいちピシッと決められ、保証金も家主ではなく政府が預かり、家主といえども店子のサインなしには保証金で修繕費を補填することが出来ないなど定められてます。まあ、200民族以上ひしめきあってますので「慣行」とか「常識」とかいっても無意味という背景事情もあるのでしょうけど。
モメたときの為に一つだけアドバイスを。
賃貸トラブルを含むこちらの消費者系のトラブルを解決する役所は、Fair Tradingから分家した、Consumer, Trader and Tenancy Tribunal です。この役所の仲裁権限は強いので、なんかあったら「シィーティーティーティーに言うぞ」というと、結構キキます。不動産屋に修繕を依頼しても何にもやってくれないようなときは、「CTTT」です。この言葉を知っているというだけで舐められませんから。
申し込みから契約
さて、物件が気にいったら、早速申込をします。申込用紙(Application Form)に記入し手付/デポジット(1週間分)を払います。簡単なところだったら、いきなり本契約に進む場合もありますが、大体は不動産屋から家主に照会して承諾を取り、本契約に移行するという段取になります。
家主がOKと言わない場合もあります。例えば、ロングターム(1〜2年以上の長期契約)を望むから、という場合などです。ただし、人種国籍を理由に拒絶することは当然のことながらNGです。この種の差別が実際どの程度行なわれているのかよう分からんのですが、差別に対する不服申立制度がかなり気軽に利用されてる現状からして、貸す側にしても妙なことして勘ぐられたら面倒なことに巻き込まれるでしょう(申し開きに出頭しなきゃいけないとか、それで差別が立証されたらビジネスとしてかなりのダメージを食らうとか)。ましてや「ウチは外人さんお断わりなんだよ」などと言おうものなら、どえらい騒ぎになるでしょう。
土曜日などのオープン・インスペクションの場合は多くの人が見にきますから、当然複数以上の申込者が競合することもあります。申込した人のうち、どの店子を選ぶかは家主次第です。厳しいところだと、リファレンスを求められたり(以前借りてた家主や不動産屋から「この人は家賃不払もなくマジメな人です」と証した一筆)、レフリー(人物保証の証言をしてくれる人)の連絡先提示を求められたりします。僕らの今のウチも、レフリー4人立てさせられましたし、マジメな不動産屋なのでレフリーにいちいち電話して「どんな人か?」とかチェックしていたようです。
不動産屋が異様に無能な件
あとこれは特記しておいた方がいいかと思うのは、こちらの不動産屋(の賃貸部門)はかなり無能です(笑)。もちろん優秀で誠実な人もいるんだけど、そうでない人もかなりいます。これは理由があると睨んでます。こちらは不動産が上がりっぱなし(海外から投資が入ってくるし)、だから皆もマネーゲーム的に不動産をやるから売買部門がダントツに花形です。特に「高く売ることに成功した」エージェントは個人レベルでヒーローになり、高収入にもなります。優秀な連中はそっちに行っちゃう。一方賃貸部門は、手数料も数千円に法定されてますし、旨味は全く無いです。不動産を買い求めた客へのアフターケア(レント収入はこのくらい行きますよと言って買わせた手前、やらないといけない)でやってるようなオマケ業務だったりするのでしょう。
本当かどうか確認はしてませんが、そうでも考えないと腑に落ちないくらい無能です。インスペクションの問い合わせをしても無視されたり、アプリケーション(申込書)を出しても梨の礫だし、何度も問い合わせてもシカトされたりすることも珍しくないです。見てたらあの程度の人員で廻すのが無理ってくらいです。申込書を出して一両日たっても何の連絡もなかったら諦めたほうがいいです。まとまりそうなやつだけちゃちゃっとやって、面倒くさいことやらないから。
そしてその無能&やる気の無さは、住み始めてあれこれ修理が出てきたら(新築でも必ず出てくるので覚悟してください)、問い合わせるのですが、これがまたほったらかしにされたりして。特に微妙な修理(電気がショートして全然つかないので一刻を争うとかではなく、LEDライトの電力が合ってないのがチカチカするとか、ブラインドの紐が切れたけど特注品なので直せないとか)は、面倒なのか放置されがち。
世間知としては、どこでも見かける大手チェーンはダメダメな社員が多いです。逆に、全然知らない、そのローカルでしかやってない独立系は良質なものが多いというのが、僕の経験です。多分、ローカル系は、地元の家主さん(住人)の支持を得てないと仕事になりませんし、不動産管理収入も結構大きいでしょう。だからちゃんと仕事をするし、それがゆえに信頼を得るという、商売の基本構造が生きているのでしょう。ところが大手は、売買案件をどんどんやればいいし、賃貸部門にカネかける気はなさそうだし(収益性が低い)、従業員もサラリーマン根性丸出しで、できれば仕事をしたくない(早く花形の売買に行きたい)とか思ってるのではないかな。僕はこれまで長いことローカル系の不動産屋だったので、対応はほんと早かったです。が、今のは大手(地元不動産のフランチャイズだと思うが)で、もうぜーんぜんダメね。ま、大家さんが年がら年中家の修理をしてて、顔なじみだから不動産屋いらないんだけど。
以上、不動産屋のダメダメ度にびっくりされないために、先に予防注射を打っておきます。これだけ思ってたら、まあ大抵の場合は、案ずるより産むが易しになるでしょう。常に100%ダメってわけじゃなくて、ちゃんとしてるときは、ちゃんとしてますから。
契約
OKとなれば本契約です。契約書も定められた定型のものが使用されます。内容的には、日本の常識的なところとそう大きく違いません。ただ、最後の方に「特約事項」がタイプあるいは添付されてる場合がありますので、そこだけは注意しておいてください。もっとも特約であっても、細々と定められた法律(契約書本文に書かれている)に違反するものは効力がないのですが。
契約書の内容についてそれほどナーバスになることはないと思います。それよりも実際的なところでは、大家さんが話が分かる人であるかどうかとか、大家さんといい関係を築くかの方が遥かに大事です。前に住んでた家の大家さんもいい人で、2週間に一度家賃を持っていく度にいろいろ御馳走になったり雑談したりしてました。猫を飼ってたわけですが、「キミらの所のグレーの猫はすばしこいねえ。いつもウチの犬のエサをかすめとってるんだよ。ところで契約書によるとペットは飼ってはいけないことになってるんだけど、知ってた?あははは」てな感じで全然OKでありました。
上の左二つが契約書の一部です。中央にあるのは、「問題がおきたらテナンシーサービスへどうぞ」という広報ですが、各国語に訳されてます。英語のほか、アラビア語、中国語、クロアチア語、ギリシア語、イタリア語、クメール語、韓国語、ラオス語、マケドニア語、マルタ語、ペルシャ語、ポーランド語、ポルトガル語、セルビア語、スペイン語、トルコ語、ベトナム語で、最初これを見たときはマルチカルチャルだなあと実感したもんです。韓国語があって日本語がない、ポルトガル語があってフランス語がない等、在住移民の人口構成によっているのでしょう。
Tenancy Agreementは正式にいえば、Part1のThe terms of the agreement とPart2のa premises condition reportに分かれます。ココをクリックすればダウンロードできます。
後者のコンディションレポートとは、右に実物を例示しましたが、要するに入居時点における家や備品の状態のチェックをするものです。「天井にシールをはがした痕が二ヶ所あり」など相当細かいので全部チェックするのに1時間以上かかるでしょう。異議があるときは「N」マークをして、備考欄に状況を書いておきます。作動しない/doesn't work、ひっかき傷/scratch、ヒビ/crackなど、辞書をひきひき覚えましょう。1週間以内にチェック済のシートを提出します。
話が前後しますが、通例、本契約のときに払うのは、保証金4週間分です。これは最高4週間と法定されています。家具付物件で週250ドル以下
の場合は6週間、250ドル以上の場合は制限なしです。
家賃は前払いですが、週300ドルを境にそれ以下の場合は2週間分までしか前払いを強制されず、300ドルを越えたら1ヵ月分まで求められます(cannot be requiredですから、自ら進んでそれ以上払う分にはいいのでしょう)。ちなみに2週間のことを fortnight といいます。これもこちらに来て最初の1週間で覚えた単語。不動産屋さんへの仲介手数料(契約書作成手数料の半額負担)は15ドル。15ドルまで店子に請求できると法定されてます。1000円ちょいですから、日本の感覚でいうとメチャ安ですわね。
契約期間は6ヶ月ないし12ヶ月というのが多いようです。期間内に出るとなったら、話がややこしくなりますので(残期間分の支払い義務はどうなるかとか)、一般には最初の契約期間は短めの方がいいと思います。
契約書にサインして、契約書のコピーを貰って、それから鍵を貰います。どの鍵をいくつ渡したかを明らかにするために、全ての鍵を複写機でコピーしてサインする場合が多いです。
あと、電話、電気、ガスなどの取り付けのための連絡先電話番号などを書いた紙を渡される場合も多いでしょう。
その他聞いておくべきことは、洗濯機や物干しの場所とか、近くのバス停とバス系統番号などですが、これはインスペクション段階で聞いておくべきこととも思われます。あとは、ゴミ出し。エリアによって(カウンシルによって)、曜日も分別基準も全然違いますので、よく聞いておくように。
あと、電気のメインスイッチボードなんかも確認しておくと良いでしょう。1年暮せば1度は見る羽目になると思います。なお、フラットの場合、メインボードが地下にある場合が多いです。居住者といえども立入禁止になってたりもしますが、確認しておくと良いでしょう。中古の冷蔵庫を使用していた場合など、サーモスタットの関係でブレーカーが下りてしまい、地下のメインボードまでいかないと電気が回復しない場合もあります。あらかじめ位置を確認しておくと、いざというときの為に良いでしょう。
なお、風呂好きの日本人としては、インスペクション段階で確認した方がいいのが、深夜電力の給湯タンクの大きさです。水を倹約し、シャワー短めのオーストラリアでは、30〜60リットルサイズが多いのですが(タンクに容量が書いてある)、これは大体冬場に5分シャワーを浴びたら終わってしまう程度の量です。あと再度沸くのに30分とか。出来れば大きい方がいいです。ちなみにウチの場合は200リットル以上ありますので、お湯切れという事態はまずないです。お風呂好きのあなたは、まずバスタブがあるかどうか(シャワーのみというのも多い)、そのうえで屋内のどこか、あるいは地下の給湯タンクを探して、「うわっ大きいぞ!よぉっしっ!」と確認してください。
あ、前回ひとつ言い忘れましたが、不動産物件広告は土曜日版がメインですが、週日でも数はぐっと少ないけど広告はあります。良い物件を探したかったら、週日もチェックされることをおススメします。いい物件は火曜日に出て土曜日を待たずに木曜日くらいに決まってしまうこともありますから。僕らの今の家も水曜日の広告で見て、インスペクションを手配し、翌日中には手付け打ちました。
上記2枚はフラット。左はいわゆる「海が見える物件」。これは本当にモロに見えました。そのかわり部屋一つ分くらい値段は上がります。右はごく普通の部屋ですが、日当たりがよくていい感じです。
バラエティの豊富さではフラットの比ではないハウスです。
左は、たしかグリーブにあるトラディショナルな洋館。天井高いわ、雰囲気あります。
真ん中は、床下倉庫。床下が倉庫になってたり、ワインセラーになってたりする家は結構あります。
右はピカピカのキッチン。ここまでピカピカだと使うのにビビりそう。
左は、これメチャクチャ気にいったのですが、庭に面したデッキです。ここにテーブル置いて風に吹かれてワイン飲んだら良さそう。
真ん中は、いわゆる屋根裏。使えるんだか使えないんだかよう分からんのですが、妙にカッコよかった。
右は最近よくある新築物件のタウンハウス。「こんなの日本でもあるじゃん」と僕と相棒との間では不評なのですが、好きな人は好きみたい(だから新築されてるのでしょうが)。
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